67 / 115
21~30話
騎士、開眼ス。【中】
しおりを挟む――第一印象は最悪だった。
真剣に作った魔法薬を毒物扱いされ、挑発的な視線を向けられて。
それから月日が経ち、ディノが仕事にひたむきなことも、私への悪意がないこともわかったけれど、最悪だった印象を払拭するほどの出来事はなかった。
私がどれほど第六部隊の無事を願いながら調薬しているかも知らず、顔を合わせるたびに害獣の名を口にされる。
きっと屈強な男性の集まるコミュニティでは、私のような小娘なんて一人前と認めるに値しないのだろうと。自分がもっと年嵩の男性だったなら、しっかりと対等な信頼関係を築けたのだろうかと。――そう考えることもあった。
けれどディノは、初めからちゃんと私を認めてくれていたのだ。
魔法薬師としての腕を認め、命を預けるほどに信頼し、一人の女性としても愛していると言う。
――初めて『ヤマリス』と言われたのは、いつのことだっただろう。出逢って間もない頃だったように思う。
『ヤマリス』が本当に愛の言葉なのだとすれば、そんなに以前から私のことを……?
閉じられた目の、感情を隔てるまぶたを見つめる。
……ディノの目が見たい。
ディノの目は、一体どんな色で私を映していただろう。どんな感情を込めて私を呼んでいただろう。
目を見たなら、自分のこの感情にもきっと名前が――
「なあ、チェリア。忠実な騎士に一つ褒美をくれねぇか?」
「褒美? もちろん構わないけど……何か欲しいものがあるの?」
ディノのことだからお金や宝石の類いではないだろう。自分に用意できそうな薬品を思い浮かべながら問い返す。
命を救ってもらったのだ。多少難しい注文であっても、可能な限り報いたいところだけれど。
「目を開けたい」
「っ!」
ディノの言葉に、ピシリと凍りついた。
今、私たちは一糸まとわぬ姿で浴室にいるのだ。ディノは目を閉じて風呂椅子に座り、私はディノの身体を洗うため、向かい合わせにディノの脚のあいだに立っていて。
今、この状況で目を開けるということは――。
「そんなの――」
咄嗟に断ろうとすると、ディノの左肩に添えていた手をすくい取られた。
指を絡めながら口元に運ばれ、甲にちゅっと口づけられる。
「レディ、あなたを見つめる許可を」
「〰〰っ」
触れられた手の甲がじわじわと熱を持つ。
騎士らしい振る舞いにドキッとさせられた自分が悔しい。
どんなに格好よく言ったところで、要は裸が見たいと言っているだけだ。
冗談も大概にしなさいと、いつものように怒って一蹴してしまえば済むことなのに。
本当に、馬鹿みたい!
こんな大怪我まで負って命を懸けた働きの見返りが、ただ私を見ることだなんて……。
「………………絶対に笑わない?」
「笑わねぇよ。んな余裕ねぇ」
「……ん。それなら……いいわ。目を開けても」
ゴクリと、ディノの喉が鳴った。
応援ありがとうございます!
20
お気に入りに追加
332
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる