不能だと噂の騎士隊長が『可能』なことを私だけが知っている(※のぞきは犯罪です)

南田 此仁

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41~50話

究極の選択【上】

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「お邪魔しまーす……」

 いつも見ていたお向かいのドアをくぐる。

 まだ前住人のおばあさんが住んでいた頃、何度かお茶に招いてもらったことがある。
 棚などの大型家具はおばあさんが残していったものをそのまま使っているようで、記憶通りのどこか懐かしさを感じる室内に、しかし今は見慣れぬ甲冑のパーツや手入れ道具などが雑然と置かれていた。

「散らかっていてすまない……。何もないが、好きにくつろいでほしい」

「ありがとうございます」

 ここはもう、手作りのキルトとハーブティーの香りに包まれたかつてのご近所さんの家ではない。
 ヨルグの家――つまりは『恋人の家』なのだ!

 きゃあきゃあと騒ぎだしたくなる衝動を抑え、視線だけで室内を見渡す。

 おじいちゃんには、ヨルグが自宅から取ってきてくれた紙とペンを借りて『無事に戻りました。鍵を持ち忘れたので今夜はヨルグさんの家に泊まります』と書き置きを残してきた。
 ドアの隙間から差し込んでおいたので、明朝居間に下りれば気付くだろう。

「あーっと……何か飲むか? と言っても、酒か水くらいしかないが……」

「いえ、夕食のときに十分いただいたのでお気遣いなく!」

 使われている気配のないキッチンで、ガラガラの食料庫を覗いたヨルグが項垂れている。
 手前に置かれた小振りなテーブルセットには椅子が一脚。もう一脚は、部屋の角に斜めに立てかけられているのが見えた。

「ああ、その椅子は脚が折れてしまって……。そのうち直そうと思い、それきりになっていた」

 私の視線を追ったヨルグが、ばつが悪そうに首の後ろをかきつつ教えてくれる。
 仕事ができて、優しくて、大人で――。自分とはまるで違ってなんだってできそうに見えるヨルグが、完璧な人でなくてよかった。
 壊れて放置された椅子といい、サイズの合わない家具をそのまま使っていることといい、どうやら自分のことに関しては無頓着なようだ。

「ふふっ、この椅子だとヨルグさんには小さそうですもんね。……っふわぁ~ぁ」

 押し殺しきれずに大きなあくびが出てしまう。
 初めてのお宅訪問に緊張していても、睡魔はやって来るものらしい。いつもであればもうベッドに入っている時間なのだ。

「そこのソファに座っていてくれ。すぐに風呂の準備をしてくる」

「あの、何かお手伝いできることはありませんか?」

「俺一人で問題ない。リズはゆっくりしていてほしい」

 ひと様の家であれこれ手を出すのもよくないかと思い直し、言われた通り居間の奥の一人がけソファに腰を下ろす。

 私が二人並んでも座れそうなほどゆったりとしたベルベット地のソファは、おそらくヨルグが買い足したものだろう。ヨルグの姿が浴室に消えたこともあり、眠気も忘れてふっかふっかと弾む座面を楽しんだ。
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