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21~30話

28d、あ、この色……

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 刺繍も終わり綺麗にラッピングされたハンカチを受け取ると、その場でお互いの包みを交換する。

「ありがとうございます。大切にしますね」

「ああ。俺もありがたく使わせてもらう」

 受け取った包みをグレニスは懐に、私は大切にポシェットにしまって、弾む足取りで店を出た。




 ファッション関連のおしゃれな店が建ち並ぶ通りを歩く。

「ん……? なんだかいい香りがします」

 花や果物、スパイスにハーブ。
 ほのかに漂う香りに鼻を向け、すんすんと香りの元を探す。

「香り? ……ああ、そういえばこの近くに人気のポマンダー匂い袋屋があったな」

「それなら聞いたことがあります! まだ出来て一年ちょっとの新しいお店ですよね」

 方々ほうぼうの国から集めた膨大な種類の香りを取り揃え、若い女性を中心に人気で、女性への贈り物として買い求める男性客も多いのだとか。

 香りものは身につけないのでわざわざ行ったことはなかったけれど、せっかく近くにあるのなら一度くらいは覗いてみたい。

「寄ってみるか?」

「はいっ!」

 グレニスの言葉に元気よく頷いて、案内も待たず香りのする方向へと足を向けた。





 一歩店に踏み入れば、香り。香り。香り。

 一つ一つはいい香りのはずなのに、膨大な種類のそれが複雑に混ざりあうとむせ返るほどの芳烈ほうれつとなって全身を飲み込む。

 うーん、残念ながらあまり長居はできそうにない。すでに鼻が痛い。
 グレニスも他の客たちも平然としているから、以前グレニスに言われたように私の嗅覚が人より敏感なのかもしれない。

 壁にしつらえられた棚板には様々な意匠の小さな金属製容器が並び、広いフロアスペースには胸の高さほどのチェストが等間隔に据えられている。
 チェストにはラベルの貼られた小振りな引き出しがたくさん付いていて、その一つ一つに香りの元となるドライフラワーやドライハーブなどが入っているようだ。

 選んだ香りの元を、好きな容器———すっぽりと手のひらに収まるサイズの、放香口の空いた金属製容器———に入れれば、ポマンダーの完成。
 紐やチェーンで腰から下げて使用する。
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