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31~40話
36b、楽しげに微笑んでくれるのなら
しおりを挟む広々とした室内。
深い森を思わせるモスグリーンの壁に、どっしりと重厚なマホガニーの調度品。
すべてのものにグレニスの香りが染み込んでいるかのような、そこにいるだけで心地のいい空間。
奥の書き物机には無造作に置かれた紙の束が見える。
きっと屋敷にいる間も、時間を惜しんで仕事にあたるのだろう。
「お忙しいところすみません……」
「いいや、ちょうど気分転換に湯浴みでもしようと思っていたところだ。なんなら一緒に入るか?」
とんでもない提案にぶんぶんと首を振る。
その目元にはうっすらと隈を浮かべ連日の疲れを窺わせるものの、こんな冗談を言ってみせる程度には機嫌がいいらしい。
急な訪問を迷惑がられてはいないようで、ひとまずほっと胸を撫でおろす。
グレニスに誘われ、ローテーブルを挟んで向かい合わせに置かれたソファの一方に腰かける。対面に座るかと思ったグレニスは、そのまま私の隣に腰を下ろした。
四人掛けのソファには十分なゆとりがあるにも関わらず、当然のように回った腕がぐっと私を引き寄せる。
ふわりと、香りが漂った。
何よりも強く欲した香り。
密着した部分からはじわじわと高い体温が伝わってきて、跳ねる鼓動を抑え込むようにガウンの胸元を握りしめる。
ちらとグレニスを盗み見れば、凪いだ海のように穏やかな群青の瞳に捕まった。
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