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51~60話
56b、人を見る目
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曰く、兄は自分を見下して、心の中で馬鹿にし続けていたのだと。
代々騎士を輩出しているジェルム家において、兄弟は当然のように父親からの厳しい稽古を受けて育った。
十以上も歳の離れた兄に敵わないからといって、ユベルに剣術の才がないなどと考える者はいない。ただ一人、ユベル本人を除いては。
ユベルはもがき苦しみ、けれど諦めなかった。鍛練に鍛練を重ね徐々に力を付けて、ある日とうとう隙を突き、ダリオから一本取ってみせたのだ。
———しかしユベルが達成感を得ることはなかった。
あのまま行けば今頃は俺より強くなっていただろう、とダリオが嬉しそうに語ったそれは、ユベルの中で『情けをかけて勝ちを譲られひどい辱しめを受けた』という記憶になっていたのだ。
次第にユベルは剣術を避けるかのように、読書や勉学にのめり込むようになった。
しかしジェルムは騎士の家系。無理矢理にでも剣の稽古に引っ張り出そうとする頑固な父親へダリオは、「剣の道は自分がすべて受け継ぐ。だからユベルには好きな道を行かせてやってほしい」と、必死に抗議したのだという。
それもまた、『私に見切りをつけるよう父を唆した』という思い出として、ユベルの中に刻まれた。
称賛も、思いやりも、本人の努力の成果さえ、すべてが上滑りしていった。
とかく最初から、父の期待を一身に受ける兄ダリオに強い憧憬と劣等感を抱き、歪んだ憎しみを募らせていたのだ。
代々騎士を輩出しているジェルム家において、兄弟は当然のように父親からの厳しい稽古を受けて育った。
十以上も歳の離れた兄に敵わないからといって、ユベルに剣術の才がないなどと考える者はいない。ただ一人、ユベル本人を除いては。
ユベルはもがき苦しみ、けれど諦めなかった。鍛練に鍛練を重ね徐々に力を付けて、ある日とうとう隙を突き、ダリオから一本取ってみせたのだ。
———しかしユベルが達成感を得ることはなかった。
あのまま行けば今頃は俺より強くなっていただろう、とダリオが嬉しそうに語ったそれは、ユベルの中で『情けをかけて勝ちを譲られひどい辱しめを受けた』という記憶になっていたのだ。
次第にユベルは剣術を避けるかのように、読書や勉学にのめり込むようになった。
しかしジェルムは騎士の家系。無理矢理にでも剣の稽古に引っ張り出そうとする頑固な父親へダリオは、「剣の道は自分がすべて受け継ぐ。だからユベルには好きな道を行かせてやってほしい」と、必死に抗議したのだという。
それもまた、『私に見切りをつけるよう父を唆した』という思い出として、ユベルの中に刻まれた。
称賛も、思いやりも、本人の努力の成果さえ、すべてが上滑りしていった。
とかく最初から、父の期待を一身に受ける兄ダリオに強い憧憬と劣等感を抱き、歪んだ憎しみを募らせていたのだ。
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