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51~60話

59d、グレニスの面影

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 …………

 あれっ?
 えーと……夫人は今、夢が叶って嬉しいと言った?

「ふじ———マ、ママ……? 私のこと、グレニスの結婚相手として認めてくださるんですか……?」

 私の問いかけに、夫人はすっと目を細めて言い放つ。

「認めるも何もないわ」

 あ……、やっぱり先ほどの言葉は私の聞き間違いだったのか。受け入れてもらいたいと願うあまり、都合のいい幻聴を生み出してしまったようだ。

「そう、ですか……」

「あの子が選んだ子だもの。はじめから家族の一員だわ」

 えっ? んん? あれっ??

「えっと……私が『娘』でもいいんでしょうか?」

 間違いのないよう、しっかりと目を見て問いかける。
 先ほどから、何かが噛み合っていないような気がするのだ。

「あの子はもっと、割り切った相手を選ぶと思っていたの」

「はい」

 家柄も条件も申し分なく、グレニスと対等にお互いを尊重し合えるような、大人の女性を思い描く。
 自分とは、何もかもが違う。

「それが、あなたみたいな子でしょう?」

「……はい」

「こんなに素直そうな可愛い子が娘になるなんて、私……とっても嬉しいわ」

 うん?

 そう話す夫人の眉間にはまたきゅっとシワが寄って、表情だけを見たならきっと、大層不快にさせてしまったのだと思ったはずだ。

 けれど夫人は、私が娘になることが嬉しいと言った。
 よくよく思い返してみれば、夫人の言葉は最初からずっと好意的なものばかりではないだろうか。———そう受け取るには、圧倒的に言葉が足りていない気もするけれど。

 夫人はきっと、元々口数の多い人ではないのだろう。前侯爵様も言っていたように、性格でいえば夫人の方がグレニスに似ているのかもしれない。
 それにこうして眉をひそめ険しい表情をしていると、あまり似ていないと思っていた夫人の顔にもどこかグレニスの面影がある。

 そう思えた途端、縛り付けられていた縄が解けるかのように、強張っていた身体からするりと緊張が抜けていった。
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