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51~60話

59e、グレニスの面影

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「そう言っていただけて嬉しいです……。あの、私を迎え入れてくださって、ありがとうございます」

 夫人は『気にしないで』というように軽く首を振った。

「感謝しているの。あの子はいつも難しい顔をしていて厳しいことを言うから、冷たい人間だと誤解されやすいけど……本当は情に厚くて優しい子なのよ」

「……わかります。いつも、優しくしてもらってます」

 街の人たちにだって、グレニスの優しさは伝わっているだろう。
 グレニスと関わったことのある人なら、みんな口を揃えて『優しい人だ』と言うはずだ。

 そう考えて、ふとある記憶に違和感を覚えた。


 庭でスターシュと出会ったとき、彼はグレニスのことをなんと言った?
 たしか……『堅物で気難しい』と、そう評していたはずだ。
 表面的な部分しか知らなかった当時はなんとも思わなかったけれど、今ならその違和感に気付く。

 グレニスは生真面目だけれど、決して融通の利かない人ではない。
 気難しそうに見えて、自分の機嫌で何かを判断することはないし、怒っていてもちゃんと人の話を聞いてくれる人だ。

 グレニスをよく見ていれば、すぐにわかることなのに……。
 スターシュは本当に、グレニスの内面なんて何一つ見ようとはしていなかったらしい。



「…………」

「…………」

風が枝葉を揺らす音が聞こえる。

再び訪れた沈黙は、もう苦しくない。
夫人の言葉を信じるなら、夫人は今この時間をとても楽しんでくれているはずだから。

私も好物ばかりが並ぶ菓子の中から大好きなクレームブリュレを選ぶと、焼けた砂糖をパリパリとスプーンで突ついた。
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