8 / 10
7. 私と結ばれた幼馴染が、この期に及んで「両想いじゃない」と言い始めたんですが?!
しおりを挟む
気付いたら、私と徹は見渡す限り白に包まれた空間の中にいた。
直前まで、あんな快感と痛みの渦の中にいたのに、その感情は消え去っていて、服もちゃんと着ていた。
『徹! 那奈!』
「あっ神様!」
『お前達、よくやった! トールとナンナは無事に体から切り離され……!?』
その瞬間、徹が神様の胸ぐらを掴んだ。
「おいお前! さっきはよくも俺らに尻拭いを押し付けて逃げやがったな~~~~~」
『おいおい、徹! 那奈と結ばれたんじゃろ? むしろワシに感謝してほしいぞ』
「それとこれとは全く別の問題だ!」
『え~~~でも、徹。ワシ、頑張ったんじゃぞ! お前らのアレコレをトールとナンナに見られるのは気まずいじゃろうと気を利かせて、2人を先にここまで連れて来てやったんじゃ! 感謝せい☆』
「え……」
神様が指を差した方を向くと、ナンナさんとトールさんがいた。
「ナンナさん! トールさん!」
「那奈ちゃん、徹くん、よかったな。ちゃんと両想いになって……。徹くんの告白、感動したぞ」
ナンナさんが朗らかに笑って言う。
ナンナさんには色々お見通しだったらしい。
「それにな、徹くんがわたしとトールの後悔を聞いて、告白したと言っていただろう? わたしの惨い前世の最期が、2人の両想いによって報われたような気持ちになったんだ」
「ああ、そうだな。確かにオレもそんな気分だ」
ナンナさんとトールさんは言葉通り、先程よりも清々しい表情をしていた。
「ナンナさん……! トールさん……!」
2人の悲劇の前世が報われた気持ちになるなんて、本当によかった!
それが私たちの恋の成就がきっかけだなんて、すごく嬉しい!
溢れ出る感動を分かち合いたくて、徹の方を見ると。
……なぜか徹は、この世の終わりのような顔をしていた。
え?何で??
徹は悲壮感を漂わせながら、口を開いた。
「……両想いには、なっていない」
「「「『え?』」」」
その場が一瞬で凍りついた。
そして、神様、トールさん、ナンナさんが動揺しながら口を開いた。
『いやいやいや! 徹、流石のワシでも、それはないと思うぞ!』
「……徹、お前、今更何を言っているんだ?」
「徹くん……まさかとは思うが、あの告白の後、何かあったのか?」
その時、私はというと、天国のような幸福感から地獄のような絶望感に突き落とされ、暗い暗い気持ちに囚われていた。
ーーー私のこと好きって言ってくれたのに?私と結ばれたいって言ってくれたのに?あんなに優しく抱いてくれたのに?
全部、嘘だったの?
それとも、幻滅しちゃった?
もう、私のことなんて好きじゃなくなっちゃったの?
私の瞳から涙がポロポロ落ちる。
「何で? 徹……どうして?」
「ちょっ……えっ那奈?!」
「やっと私のこと見てくれたと思ったのに、やっぱりダメだなんて……」
「何で那奈が泣くんだ?!」
「私、もうこれ以上どうしたらいいかわからないよ……!」
今度こそ諦めなきゃいけないの?
でも……徹と結ばれる幸せを知ってしまったのに、諦めるなんて私にできるの?
胸が張り裂けそうになった。
すると、徹が口を開いた。
「……どうしたらいいかわからないのは俺の方だよ!」
「「「『え?』」」」
その時、その場の徹以外の全員の頭に?が浮かんだ。
「俺は那奈が好きだけど……でも、那奈は違うだろ?」
「「「『え?』」」」
私はあまりの驚きに、暗い気持ちも涙も引っ込んでしまった。
徹はかなり混乱している様子で続けた。
「那奈と結ばれてこんなに幸せなのに、俺の片想いだなんて……今後、那奈を見る度に、絶対さっきのこと思い出して意識してしまうに違いないのに、そんな状態で那奈に俺のことを好きになってもらえるようアプローチすることなんて、俺には絶対に無理だ。そして俺が那奈と上手く接することができないうちに、トールみたいな良い男が颯爽と現れて、那奈のことを攫っていくんだ……あああああそんなことになったら、俺は絶対耐えられねえええええ」
……まさか! 徹は『両想い』じゃなくて、『徹の片想い』だと思ってる?!
思考停止状態から戻った私は、慌てて言った。
「待って! 徹!」
「え?」
「私、徹のこと大好きだよ! 私も徹と付き合いたいと思ってるよ! なんなら今すぐ結婚したいとも思ってるよ!」
徹は、目を見開き、固まったあと……、
「えええええ!!!」
なぜかめちゃくちゃ驚いた。
そんな徹を見て、ナンナさん、トールさん、神様が驚いて口を開く。
「徹くん、まさか知らなかったのか?! わたし、那奈ちゃんの気持ちには会ってすぐ気付いたから、てっきり徹くんにも伝わってるものだと思っていたよ」
「確かに。那奈の方はすぐわかったな」
『そういうのに疎いと言われるワシでも気付いたぞ☆』
徹は叫んだ。
「はああああ?! まさか俺だけ知らなかったのか?! ……俺、さっき那奈と結ばれた時、これが最初で最後かと思ってめちゃくちゃ切なかったのに」
えええええ! さっきの今生の別れのような表情に、まさかそんな理由があったとは!
でも何で、徹はこの期に及んでこんな勘違いをしちゃったんだろう?
すると、徹がその答えを口にした。
「俺が告白した時、那奈は俺を好きかどうかについては何も言わなかったから……。てっきり、俺は那奈に好かれてないと思ったんだよ。なんだ、よかったーーー」
「……え?」
いやいやいや、そんな!
徹から告白されるのをずっと夢見ていた私が、何も言わないなんて、まさかそんなことがある訳……。
私は徹から告白された時のことを思い出す。
ーーー確かに、私、言 っ て な い 。
そうだ、私、徹が告白してくれた時、言葉に詰まってしまって。
徹が「那奈と結ばれたい」って言ってくれたから、このまま、初めては徹と私で結ばれるんだと、舞い上がってしまって。
なのに徹がトールさんに交代しようとして焦ってしまって。
交代しちゃう前に、私が徹と結ばれるにはどうしたら良いかばかり考えてしまって。
……徹に「好き」と伝えるのを忘れてしまったのだ。
私が徹と結ばれたいだなんて、自分勝手なことばかり考えていたせいで、徹にあんな切なそうな顔をさせてしまったのだ。
私の顔から血の気がサーッと引いていく。
「徹、ごめん……私、言ってなかった」
「那奈?! 違うぞ! 気付かなかった俺が悪いんだ」
こんな時でも優しい徹に、涙が溢れる。
「私……実はあの時、私は徹と結ばれたかったのに徹はそうじゃなくて焦っちゃって、好きって言い忘れちゃったの!」
「ええっ?!」
「ちなみに、ナンナさんに私の体を使っていいって言ったのも、徹と体だけでも結ばれたかったからなの! 私ずっと徹に片想いしてたのに、徹は私に全然見向きもしてくれなかったから……。徹の心が手に入らないなら、体だけでも徹と結ばれたいなんて自分勝手で重いこと考えてたの!」
「えええええっ?!」
徹は驚いた声を上げたあと、固まった。
やっぱりこんな自分勝手で重い女、嫌だよね。
どうしよう……徹に引かれちゃったかもしれない。
すると、徹は口を開いた。
「……那奈、今のって冗談とかじゃなく、本気で言ってるのか?」
「……うん、本気だよ」
徹は私の答えを聞いて、少し考えたあと、質問を続けた。
「……もしかしてさ、那奈が今まで俺に言ってた『徹になら何されたっていい』とか、ああいうのも冗談とかじゃなくて……全部本気だったのか?」
「えええ!!! 冗談なんかじゃないよ! もちろん全部本気だよ?」
私が言い終えた瞬間、徹はまるで雷に打たれたかのような表情になった。
そうか! 徹は私の本音を冗談だと思っていたのか。
確かに……ただの幼馴染としか思ってない相手から、あんな重いことばっかり言われたら普通は困るよね。
きっと徹は、幼馴染として普通に接するために、私の言うことを全部冗談だと思うようにしてたのかもしれない。
でも、全部本気だったと知られた今……、今度こそ徹に拒絶されるのかもしれない。
「那奈、ごめん……俺」
ーーー徹、やだ! 謝らないで!
拒絶の言葉なんか、聞きたくないよ!
咄嗟にそう思ってギュッと目を瞑った私に、徹からかけられたのは思ってもみない言葉だった。
「俺、今までずっと、那奈にそういうこと言われる度に、『那奈は俺が好き』だと勘違いしそうになって! その度に、『那奈は冗談で言ってるんだから勘違いするな』って自分に言い聞かせてたんだ!」
私は目を見開き、徹を見た。
「え!!! ……何で?」
「いや、だってさ……。那奈みたいな……美人で可愛くてまっすぐな子が、俺なんかのこと好きになる訳ないと思ってて……」
「え……?! 徹、私のこと、そんな風に思ってたの?!」
そんなこと言われたら……照れてしまう!!!
私は頬に熱が集まっていくのを感じた。
徹も同じように顔を赤くしている。
「……うん。だからさ、那奈が俺を好きだなんて、そんな俺に都合の良いことが起こる訳ないと思って。全部那奈の冗談だって、自分に言い聞かせてた……」
「そう、だったんだ……」
……道理で距離が縮まらない訳だ!
私のことをそんな風に思っててくれて嬉しい気持ちと、そんな風に思ってくれてたのに全部冗談だと思われていたという悲しい気持ちで、私の頭の中は大混乱だった。
「……でもさ、よく考えたら、いつもまっすぐな那奈が、俺を弄ぶような冗談、言う訳がないんだよな……。何で今まで気付かなかったんだろう。俺、本当バカだな……」
徹は自嘲気味に言ったあと、私の方を真剣な表情で見て言った。
「……那奈、俺、那奈が好きだ。だから、那奈、……俺と付き合ってくれないか?」
「……う、嬉しい。嬉しいけど……徹は、こんなに自分勝手で重い私、嫌じゃないの?」
徹は少しキョトンとした後、すぐに嬉しそうに笑って言った。
「ううん、全然嫌じゃない。むしろ、那奈にそこまで想ってもらえてたなんて、めちゃくちゃ嬉しいよ」
「……本当?」
私は安堵で涙が溢れてしまう。
「うん。……だからさ、俺と付き合ってよ。那奈」
「……うん!私、徹と付き合いたい!」
私は徹の胸に飛び込んだ。
「徹! 私、徹が大好きだよ! あの時ちゃんと言わなくて、切ない想いをさせてごめんね」
すると、徹は眉を下げながら、優しい笑みを浮かべて言った。
「……いいんだ、那奈。気にするな。気付かなかった俺が悪いんだから。本当にごめんな」
「……ううん、徹……!」
徹は少し申し訳なさそうな笑顔のまま、私の涙を拭ってくれた。
すると、ナンナさんが眉を下げて言った。
「徹くん、わたしも徹くんが告白した時のことを思い出してみたんだが。恐らく私たちのことがあって、那奈ちゃんは伝えるタイミングを逃してしまったように思う。本当に申し訳ない」
「いえいえいえ! ナンナさんは全然悪くないですよ! 悪いのは、そもそも、うっかり魂を落とした……」
徹がそう言って、神様を睨むと……神様は慌てて話題を変えた。
『おっ! そうじゃった、忘れておった! さっき言おうとしたんじゃが、徹と那奈が結ばれたことで、ナンナとトールが無事、徹と那奈の体から切り離されたぞ!』
「は? ……お前、『トールとナンナが徹と那奈の体で結ばれれば』って言ってたじゃねーか!」
『すまんすまん! ワシもこんなケースは初めてじゃったから、わからんことも多くてな! まー結果オーライというやつじゃな☆』
「だ~か~ら~! お前が言うなああああああああああ」
徹がまた神様に詰め寄った。
それを見て笑っているナンナさんとトールさんに、私は向き合って言った。
「ナンナさん! トールさん! 無事に私たちの体から切り離されたんですね! これで……生まれ変わることができるんですね!」
すると、トールさんとナンナさんは笑顔で口を開いた。
「ああ。徹と那奈のおかげだ。」
「那奈ちゃん、ありがとう」
私は、そのまま2人に頭を下げる。
「さっき徹に言ったことなんですが……、私、お二人の状況を自分の気持ちのために利用したんです! ……本当にごめんなさい」
ナンナさんとトールさんは目を見開いたあと、優しい笑みを浮かべて言った。
「那奈ちゃん、いいんだよ。那奈ちゃんの中では、わたし達のことも考えた上での最善策だったんだろう? 那奈ちゃんが言い出してくれなければ、わたしは覚悟が決まらなかったし、徹くんの告白もなかったと思うよ。結果、2人のおかげでわたしたちの魂は救われて、本当に感謝しているんだ。神様の言うとおり、結果オーライだよ」
「ああ、そうだな。オレもそう思う」
「ナンナさん、トールさん……!」
2人の優しい言葉に、涙がまた溢れてしまった。
しかし、感動している私に、トールさんの口から思ってもみない言葉が出てきた。
「それにな、那奈。実は、オレも那奈と徹に謝らなければならないことがある」
「「え?」」
私と徹は同時に目を見開いた。
「オレは那奈の恋心を利用し、徹を焚き付けた」
「は? ……たきつけ……?」
「ああ。徹、悪かったな。俺は俺以外の男の体でナンナを抱くのも、お前達にナンナの可愛い姿を見せるのも、できれば避けたくてな。那奈の恋心は察していて、徹も那奈を意識していることはわかっていた。神が信用に値しなかったことから、もしかしたら徹と那奈が結ばれることで、俺たちが解放される可能性もあると踏んだ。だから、徹を焚き付けて、徹と那奈が先に結ばれるよう仕向けたんだ」
「「「え……」」」
ナンナさんまで呆気に取られながらトールさんを見ている。
徹が口を開いた。
「……だからあの時、トールは俺に『いいのか?』って言ったのか?」
「ああ、そうだ。なのに徹は告白した後、なぜか俺たちに体を戻そうとするから、……俺もあの時は本当に焦った。徹を思いとどまらせてくれたことに対しても、那奈には感謝だな」
「いや、だって、あの時は那奈が俺を好きだなんて思わなくて……まさかあんな展開になるとは……」
徹がしどろもどろになって弁解する。
私はイタズラっぽく笑ってトールさんに向かって言った。
「……私も、あの時は本当に焦りました」
「おい、那奈まで!」
私は徹にえへへ、と笑ってから、トールさんに向かって言った。
「トールさん、私たちが結ばれる機会を作ってくれて、本当にありがとうございました!」
徹も照れたように口を開く。
「俺も……。ありがとな、トール。」
トールさんは私たちに向かって柔らかく笑った後、徹を見ながらニヤリと笑って口を開いた。
「……まあ、徹はあのままじゃ、ナンナのように死ぬ間際まで自覚しなかった可能性もあっただろうからな」
「「おい! トール!」」
徹とナンナさんが同時に言った。
「えへへ、確かにそうですね」
「おい! 那奈まで!」
眉を下げながら笑うナンナさん、そんなナンナさんを優しく見つめるトールさん、拗ねた顔をする徹を見て、私はまたえへへ、と笑った。
そして徹は、
「もーお前は……」
と言って、優しい笑みを浮かべ、私の髪をくしゃっと撫でた。
ーーーこの騒がしい1日の最後に相応しい、とっても穏やかな時間だった。
だからこの後、私と徹がまさかあんな事態に陥るなんて、この時は思ってもみなかったのだ。
直前まで、あんな快感と痛みの渦の中にいたのに、その感情は消え去っていて、服もちゃんと着ていた。
『徹! 那奈!』
「あっ神様!」
『お前達、よくやった! トールとナンナは無事に体から切り離され……!?』
その瞬間、徹が神様の胸ぐらを掴んだ。
「おいお前! さっきはよくも俺らに尻拭いを押し付けて逃げやがったな~~~~~」
『おいおい、徹! 那奈と結ばれたんじゃろ? むしろワシに感謝してほしいぞ』
「それとこれとは全く別の問題だ!」
『え~~~でも、徹。ワシ、頑張ったんじゃぞ! お前らのアレコレをトールとナンナに見られるのは気まずいじゃろうと気を利かせて、2人を先にここまで連れて来てやったんじゃ! 感謝せい☆』
「え……」
神様が指を差した方を向くと、ナンナさんとトールさんがいた。
「ナンナさん! トールさん!」
「那奈ちゃん、徹くん、よかったな。ちゃんと両想いになって……。徹くんの告白、感動したぞ」
ナンナさんが朗らかに笑って言う。
ナンナさんには色々お見通しだったらしい。
「それにな、徹くんがわたしとトールの後悔を聞いて、告白したと言っていただろう? わたしの惨い前世の最期が、2人の両想いによって報われたような気持ちになったんだ」
「ああ、そうだな。確かにオレもそんな気分だ」
ナンナさんとトールさんは言葉通り、先程よりも清々しい表情をしていた。
「ナンナさん……! トールさん……!」
2人の悲劇の前世が報われた気持ちになるなんて、本当によかった!
それが私たちの恋の成就がきっかけだなんて、すごく嬉しい!
溢れ出る感動を分かち合いたくて、徹の方を見ると。
……なぜか徹は、この世の終わりのような顔をしていた。
え?何で??
徹は悲壮感を漂わせながら、口を開いた。
「……両想いには、なっていない」
「「「『え?』」」」
その場が一瞬で凍りついた。
そして、神様、トールさん、ナンナさんが動揺しながら口を開いた。
『いやいやいや! 徹、流石のワシでも、それはないと思うぞ!』
「……徹、お前、今更何を言っているんだ?」
「徹くん……まさかとは思うが、あの告白の後、何かあったのか?」
その時、私はというと、天国のような幸福感から地獄のような絶望感に突き落とされ、暗い暗い気持ちに囚われていた。
ーーー私のこと好きって言ってくれたのに?私と結ばれたいって言ってくれたのに?あんなに優しく抱いてくれたのに?
全部、嘘だったの?
それとも、幻滅しちゃった?
もう、私のことなんて好きじゃなくなっちゃったの?
私の瞳から涙がポロポロ落ちる。
「何で? 徹……どうして?」
「ちょっ……えっ那奈?!」
「やっと私のこと見てくれたと思ったのに、やっぱりダメだなんて……」
「何で那奈が泣くんだ?!」
「私、もうこれ以上どうしたらいいかわからないよ……!」
今度こそ諦めなきゃいけないの?
でも……徹と結ばれる幸せを知ってしまったのに、諦めるなんて私にできるの?
胸が張り裂けそうになった。
すると、徹が口を開いた。
「……どうしたらいいかわからないのは俺の方だよ!」
「「「『え?』」」」
その時、その場の徹以外の全員の頭に?が浮かんだ。
「俺は那奈が好きだけど……でも、那奈は違うだろ?」
「「「『え?』」」」
私はあまりの驚きに、暗い気持ちも涙も引っ込んでしまった。
徹はかなり混乱している様子で続けた。
「那奈と結ばれてこんなに幸せなのに、俺の片想いだなんて……今後、那奈を見る度に、絶対さっきのこと思い出して意識してしまうに違いないのに、そんな状態で那奈に俺のことを好きになってもらえるようアプローチすることなんて、俺には絶対に無理だ。そして俺が那奈と上手く接することができないうちに、トールみたいな良い男が颯爽と現れて、那奈のことを攫っていくんだ……あああああそんなことになったら、俺は絶対耐えられねえええええ」
……まさか! 徹は『両想い』じゃなくて、『徹の片想い』だと思ってる?!
思考停止状態から戻った私は、慌てて言った。
「待って! 徹!」
「え?」
「私、徹のこと大好きだよ! 私も徹と付き合いたいと思ってるよ! なんなら今すぐ結婚したいとも思ってるよ!」
徹は、目を見開き、固まったあと……、
「えええええ!!!」
なぜかめちゃくちゃ驚いた。
そんな徹を見て、ナンナさん、トールさん、神様が驚いて口を開く。
「徹くん、まさか知らなかったのか?! わたし、那奈ちゃんの気持ちには会ってすぐ気付いたから、てっきり徹くんにも伝わってるものだと思っていたよ」
「確かに。那奈の方はすぐわかったな」
『そういうのに疎いと言われるワシでも気付いたぞ☆』
徹は叫んだ。
「はああああ?! まさか俺だけ知らなかったのか?! ……俺、さっき那奈と結ばれた時、これが最初で最後かと思ってめちゃくちゃ切なかったのに」
えええええ! さっきの今生の別れのような表情に、まさかそんな理由があったとは!
でも何で、徹はこの期に及んでこんな勘違いをしちゃったんだろう?
すると、徹がその答えを口にした。
「俺が告白した時、那奈は俺を好きかどうかについては何も言わなかったから……。てっきり、俺は那奈に好かれてないと思ったんだよ。なんだ、よかったーーー」
「……え?」
いやいやいや、そんな!
徹から告白されるのをずっと夢見ていた私が、何も言わないなんて、まさかそんなことがある訳……。
私は徹から告白された時のことを思い出す。
ーーー確かに、私、言 っ て な い 。
そうだ、私、徹が告白してくれた時、言葉に詰まってしまって。
徹が「那奈と結ばれたい」って言ってくれたから、このまま、初めては徹と私で結ばれるんだと、舞い上がってしまって。
なのに徹がトールさんに交代しようとして焦ってしまって。
交代しちゃう前に、私が徹と結ばれるにはどうしたら良いかばかり考えてしまって。
……徹に「好き」と伝えるのを忘れてしまったのだ。
私が徹と結ばれたいだなんて、自分勝手なことばかり考えていたせいで、徹にあんな切なそうな顔をさせてしまったのだ。
私の顔から血の気がサーッと引いていく。
「徹、ごめん……私、言ってなかった」
「那奈?! 違うぞ! 気付かなかった俺が悪いんだ」
こんな時でも優しい徹に、涙が溢れる。
「私……実はあの時、私は徹と結ばれたかったのに徹はそうじゃなくて焦っちゃって、好きって言い忘れちゃったの!」
「ええっ?!」
「ちなみに、ナンナさんに私の体を使っていいって言ったのも、徹と体だけでも結ばれたかったからなの! 私ずっと徹に片想いしてたのに、徹は私に全然見向きもしてくれなかったから……。徹の心が手に入らないなら、体だけでも徹と結ばれたいなんて自分勝手で重いこと考えてたの!」
「えええええっ?!」
徹は驚いた声を上げたあと、固まった。
やっぱりこんな自分勝手で重い女、嫌だよね。
どうしよう……徹に引かれちゃったかもしれない。
すると、徹は口を開いた。
「……那奈、今のって冗談とかじゃなく、本気で言ってるのか?」
「……うん、本気だよ」
徹は私の答えを聞いて、少し考えたあと、質問を続けた。
「……もしかしてさ、那奈が今まで俺に言ってた『徹になら何されたっていい』とか、ああいうのも冗談とかじゃなくて……全部本気だったのか?」
「えええ!!! 冗談なんかじゃないよ! もちろん全部本気だよ?」
私が言い終えた瞬間、徹はまるで雷に打たれたかのような表情になった。
そうか! 徹は私の本音を冗談だと思っていたのか。
確かに……ただの幼馴染としか思ってない相手から、あんな重いことばっかり言われたら普通は困るよね。
きっと徹は、幼馴染として普通に接するために、私の言うことを全部冗談だと思うようにしてたのかもしれない。
でも、全部本気だったと知られた今……、今度こそ徹に拒絶されるのかもしれない。
「那奈、ごめん……俺」
ーーー徹、やだ! 謝らないで!
拒絶の言葉なんか、聞きたくないよ!
咄嗟にそう思ってギュッと目を瞑った私に、徹からかけられたのは思ってもみない言葉だった。
「俺、今までずっと、那奈にそういうこと言われる度に、『那奈は俺が好き』だと勘違いしそうになって! その度に、『那奈は冗談で言ってるんだから勘違いするな』って自分に言い聞かせてたんだ!」
私は目を見開き、徹を見た。
「え!!! ……何で?」
「いや、だってさ……。那奈みたいな……美人で可愛くてまっすぐな子が、俺なんかのこと好きになる訳ないと思ってて……」
「え……?! 徹、私のこと、そんな風に思ってたの?!」
そんなこと言われたら……照れてしまう!!!
私は頬に熱が集まっていくのを感じた。
徹も同じように顔を赤くしている。
「……うん。だからさ、那奈が俺を好きだなんて、そんな俺に都合の良いことが起こる訳ないと思って。全部那奈の冗談だって、自分に言い聞かせてた……」
「そう、だったんだ……」
……道理で距離が縮まらない訳だ!
私のことをそんな風に思っててくれて嬉しい気持ちと、そんな風に思ってくれてたのに全部冗談だと思われていたという悲しい気持ちで、私の頭の中は大混乱だった。
「……でもさ、よく考えたら、いつもまっすぐな那奈が、俺を弄ぶような冗談、言う訳がないんだよな……。何で今まで気付かなかったんだろう。俺、本当バカだな……」
徹は自嘲気味に言ったあと、私の方を真剣な表情で見て言った。
「……那奈、俺、那奈が好きだ。だから、那奈、……俺と付き合ってくれないか?」
「……う、嬉しい。嬉しいけど……徹は、こんなに自分勝手で重い私、嫌じゃないの?」
徹は少しキョトンとした後、すぐに嬉しそうに笑って言った。
「ううん、全然嫌じゃない。むしろ、那奈にそこまで想ってもらえてたなんて、めちゃくちゃ嬉しいよ」
「……本当?」
私は安堵で涙が溢れてしまう。
「うん。……だからさ、俺と付き合ってよ。那奈」
「……うん!私、徹と付き合いたい!」
私は徹の胸に飛び込んだ。
「徹! 私、徹が大好きだよ! あの時ちゃんと言わなくて、切ない想いをさせてごめんね」
すると、徹は眉を下げながら、優しい笑みを浮かべて言った。
「……いいんだ、那奈。気にするな。気付かなかった俺が悪いんだから。本当にごめんな」
「……ううん、徹……!」
徹は少し申し訳なさそうな笑顔のまま、私の涙を拭ってくれた。
すると、ナンナさんが眉を下げて言った。
「徹くん、わたしも徹くんが告白した時のことを思い出してみたんだが。恐らく私たちのことがあって、那奈ちゃんは伝えるタイミングを逃してしまったように思う。本当に申し訳ない」
「いえいえいえ! ナンナさんは全然悪くないですよ! 悪いのは、そもそも、うっかり魂を落とした……」
徹がそう言って、神様を睨むと……神様は慌てて話題を変えた。
『おっ! そうじゃった、忘れておった! さっき言おうとしたんじゃが、徹と那奈が結ばれたことで、ナンナとトールが無事、徹と那奈の体から切り離されたぞ!』
「は? ……お前、『トールとナンナが徹と那奈の体で結ばれれば』って言ってたじゃねーか!」
『すまんすまん! ワシもこんなケースは初めてじゃったから、わからんことも多くてな! まー結果オーライというやつじゃな☆』
「だ~か~ら~! お前が言うなああああああああああ」
徹がまた神様に詰め寄った。
それを見て笑っているナンナさんとトールさんに、私は向き合って言った。
「ナンナさん! トールさん! 無事に私たちの体から切り離されたんですね! これで……生まれ変わることができるんですね!」
すると、トールさんとナンナさんは笑顔で口を開いた。
「ああ。徹と那奈のおかげだ。」
「那奈ちゃん、ありがとう」
私は、そのまま2人に頭を下げる。
「さっき徹に言ったことなんですが……、私、お二人の状況を自分の気持ちのために利用したんです! ……本当にごめんなさい」
ナンナさんとトールさんは目を見開いたあと、優しい笑みを浮かべて言った。
「那奈ちゃん、いいんだよ。那奈ちゃんの中では、わたし達のことも考えた上での最善策だったんだろう? 那奈ちゃんが言い出してくれなければ、わたしは覚悟が決まらなかったし、徹くんの告白もなかったと思うよ。結果、2人のおかげでわたしたちの魂は救われて、本当に感謝しているんだ。神様の言うとおり、結果オーライだよ」
「ああ、そうだな。オレもそう思う」
「ナンナさん、トールさん……!」
2人の優しい言葉に、涙がまた溢れてしまった。
しかし、感動している私に、トールさんの口から思ってもみない言葉が出てきた。
「それにな、那奈。実は、オレも那奈と徹に謝らなければならないことがある」
「「え?」」
私と徹は同時に目を見開いた。
「オレは那奈の恋心を利用し、徹を焚き付けた」
「は? ……たきつけ……?」
「ああ。徹、悪かったな。俺は俺以外の男の体でナンナを抱くのも、お前達にナンナの可愛い姿を見せるのも、できれば避けたくてな。那奈の恋心は察していて、徹も那奈を意識していることはわかっていた。神が信用に値しなかったことから、もしかしたら徹と那奈が結ばれることで、俺たちが解放される可能性もあると踏んだ。だから、徹を焚き付けて、徹と那奈が先に結ばれるよう仕向けたんだ」
「「「え……」」」
ナンナさんまで呆気に取られながらトールさんを見ている。
徹が口を開いた。
「……だからあの時、トールは俺に『いいのか?』って言ったのか?」
「ああ、そうだ。なのに徹は告白した後、なぜか俺たちに体を戻そうとするから、……俺もあの時は本当に焦った。徹を思いとどまらせてくれたことに対しても、那奈には感謝だな」
「いや、だって、あの時は那奈が俺を好きだなんて思わなくて……まさかあんな展開になるとは……」
徹がしどろもどろになって弁解する。
私はイタズラっぽく笑ってトールさんに向かって言った。
「……私も、あの時は本当に焦りました」
「おい、那奈まで!」
私は徹にえへへ、と笑ってから、トールさんに向かって言った。
「トールさん、私たちが結ばれる機会を作ってくれて、本当にありがとうございました!」
徹も照れたように口を開く。
「俺も……。ありがとな、トール。」
トールさんは私たちに向かって柔らかく笑った後、徹を見ながらニヤリと笑って口を開いた。
「……まあ、徹はあのままじゃ、ナンナのように死ぬ間際まで自覚しなかった可能性もあっただろうからな」
「「おい! トール!」」
徹とナンナさんが同時に言った。
「えへへ、確かにそうですね」
「おい! 那奈まで!」
眉を下げながら笑うナンナさん、そんなナンナさんを優しく見つめるトールさん、拗ねた顔をする徹を見て、私はまたえへへ、と笑った。
そして徹は、
「もーお前は……」
と言って、優しい笑みを浮かべ、私の髪をくしゃっと撫でた。
ーーーこの騒がしい1日の最後に相応しい、とっても穏やかな時間だった。
だからこの後、私と徹がまさかあんな事態に陥るなんて、この時は思ってもみなかったのだ。
1
あなたにおすすめの小説
【短編完結】元聖女は聖騎士の執着から逃げられない 聖女を辞めた夜、幼馴染の聖騎士に初めてを奪われました
えびのおすし
恋愛
瘴気を祓う任務を終え、聖女の務めから解放されたミヤ。
同じく役目を終えた聖女たちと最後の女子会を開くことに。
聖女セレフィーナが王子との婚約を決めたと知り、彼女たちはお互いの新たな門出を祝い合う。
ミヤには、ずっと心に秘めていた想いがあった。
相手は、幼馴染であり専属聖騎士だったカイル。
けれど、その気持ちを告げるつもりはなかった。
女子会を終え、自室へ戻ったミヤを待っていたのはカイルだった。
いつも通り無邪気に振る舞うミヤに、彼は思いがけない熱を向けてくる。
――きっとこれが、カイルと過ごす最後の夜になる。
彼の真意が分からないまま、ミヤはカイルを受け入れた。
元聖女と幼馴染聖騎士の、鈍感すれ違いラブ。
数年振りに再会した幼馴染のお兄ちゃんが、お兄ちゃんじゃなくなった日
プリオネ
恋愛
田舎町から上京したこの春、5歳年上の近所の幼馴染「さわ兄」と再会した新社会人の伊織。同じく昔一緒に遊んだ友達の家に遊びに行くため東京から千葉へ2人で移動する事になるが、その道中で今まで意識した事の無かったさわ兄の言動に初めて違和感を覚える。そしてその夜、ハプニングが起きて………。
春にぴったりの、さらっと読める短編ラブストーリー。※Rシーンは無いに等しいです※スマホがまだない時代設定です。
冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません
【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました
雨宮羽那
恋愛
結婚して5年。リディアは悩んでいた。
夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。
ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。
どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。
そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。
すると、あら不思議。
いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。
「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」
(誰ですかあなた)
◇◇◇◇
※全3話。
※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜
※AI不使用です。
冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い
森本イチカ
恋愛
妹じゃなくて、女として見て欲しい。
14歳年下の凛子は幼馴染の優にずっと片想いしていた。
やっと社会人になり、社長である優と少しでも近づけたと思っていた矢先、優がお見合いをしている事を知る凛子。
女としてみて欲しくて迫るが拒まれてーー
★短編ですが長編に変更可能です。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
たとえ夜が姿を変えても ―過保護な兄の親友は、私を逃がさない―
佐竹りふれ
恋愛
重なる吐息、耳元を掠める熱、そして——兄の親友の、隠しきれない独占欲。
19歳のジャスミンにとって、過保護な兄の親友・セバスチャンは、自分を子供扱いする「第二の兄」のような存在だった。
しかし、初めてのパーティーの夜、その関係は一変する。
突然降ってきた、深く、すべてを奪うような口づけ。
「焦らず、お前のペースで進もう」
そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。
けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。
学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。
外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。
「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」
余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。
理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。
「ゆっくり」なんて、ただの建前。
一度火がついた熱は、誰にも止められない。
兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる