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第九章 楓と直樹の穏やかな日々
47. 独占欲 後編(※) side. 楓
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改めて、お泊まりすることが決まったあと、直樹さんが必要なものを買いに行ってくれた。
流石にサニタリー用品は恥ずかしい上に申し訳なさすぎて、かなり強めに断ったのだけど、私の体の方が大事だからと諭され、私は車の中で待つことになった。
やっぱり直樹さんは過保護すぎる……!
少し経ったあと、直樹さんが戻って来たのが見えた。
直樹さんの姿を見て嬉しくて、思わず顔が綻んだ次の瞬間、顔が引き攣るのを感じた。
女性が、直樹さんに話しかけたのだ。
小さくて、可愛くて、胸が、……とても大きな子。
直樹さんと2人並ぶと、すごくお似合いの2人だった。
何故だか息苦しくなって、涙が出そうになった。
直樹さんが女性から話しかけられるのなんて、いつものことなのに。
ああ、そうか。
生理中だから、感情が昂ってるんだ。
ーーー直樹さんは、私にとって、奇跡みたいな人だ。
優しくて、聞き上手で、ちょっと過保護で。
艶のある端正な顔立ちで、背が高くて、程よく筋肉がついた引き締まった体で。
料理上手で、美味しいコーヒーを淹れることができて、マッサージも上手。
以前、悠斗さんに感じたスペックの高さは、同じ職場で働く直樹さんにもそのまま当てはまった。
何でそんな奇跡みたいな彼が、奇跡みたいなタイミングで私の前に現れたんだろう?
何で今も、私と一緒にいてくれるんだろう?
その答えは、わかっている。
私と直樹さんが同じ傷を持っていたから。
そして、私には他にもたくさんの傷があったから。
優しくて世話焼きの直樹さんは、私の傷を癒やしたいと思ってしまったのだろう。
その傷が癒えてしまってら?
傷を持つ別の女性のところに、行ってしまうようのかもしれない。
だって、直樹さんは優しいから。
直樹さんが美形じゃなければ良かったのに。
人の目を引くほどの長身でも、何でもできる人でも、優しい人でもなければよかったのに。
そうしたら、直樹さんのこと、私がずっと独り占めできたかもしれないのに。
ああ、でも。
こんなドロドロした気持ち、直樹さんには知られたくない。
知られたら……直樹さんが私から離れて行ってしまうような気がした。
◇
女性に話しかけられた直樹さんは歩調を緩めることなく、『急いでいる』といったような仕草をすると、女性は残念そうな表情を浮かべ、店内の方へと去って行った。
たぶん直樹さんは優しいから、私を待たせないように、そんな対応になったんだと思う。
私がいなかったら、直樹さんとあの女性はどうしていたのだろうか?
自分が邪魔者のようにしか思えず、暗い想像ばかりしてしまう。
そんなことを考えているうちに直樹さんの家に着き、直樹さんによって私はベッドの上に寝かされた。
「……楓、どうしたの?」
「……何でもないです」
「何か溜め込んでる時の顔してる」
直樹さんは鋭すぎる……。
「……生理中って、悪い事ばかり、考えちゃうんです……」
「……そっか。どんな悪い事、考えたの?」
直樹さんの何でも見透かしてしまう真っ直ぐな瞳に見つめられて、私は悟った。
たぶん、誤魔化しても無駄だ。
私は早々に、諦めた。
「……。直樹さんがカッコ良くなかったらよかったのに、って」
直樹さんは少し可笑しそうに吹き出した。
そして、物凄く嬉しそうに言った。
「楓。俺のこと、カッコ良いって、……思ってくれてるの?」
私はこんなに悪い事を考えているのに、直樹さんは幸せそうだ。
何だか拗ねた気持ちになって、目線を下げながら言った。
「……はい。だって、私が今まで会った男性の中で、……一番カッコ良いですもん」
「……そっか」
直樹さんは心底嬉しそうに言ったあと、私の隣で横になると、私をぎゅうぎゅうと抱きしめた。
「それで、何で、俺がカッコ良くない方がいいって思ったの?」
「……直樹さんが美形でも、人の目を引くほどの長身でも、何でもできる人でも、優しい人でもなければ、他の女性に言い寄られないかもって。そうしたら、……私が独り占めできたのにって、思って」
「……そっかぁ」
直樹さんは再び、心底嬉しそうに言ったあと、私を抱きしめる腕の力をさらに強めた。
「俺は楓のだよ。どんな俺でも、楓が独り占めしていいよ」
「……でも、小さくて可愛くて胸の大きな子が直樹さんを好きになるかもしれませんよ?」
「……もしそうなっても、俺は楓しか好きにならないよ?」
「直樹さんみたいに優しくて察しの良い子が、直樹さんのこと好きになるかも」
「楓はとびっきり優しいし、鋭い直感力があるよ。でも、もしそうじゃなかったとしても、俺は楓しか好きじゃない」
「直樹さんみたいに料理上手でコーヒー淹れるのが上手で、直樹さんを専業主夫として養えるぐらい甲斐性のある子が直樹さんのこと好きになるかも」
「楓も料理上手だし、コーヒーはわからないけど、楓は器用だから上手に淹れられるんじゃないかな? 楓はとっても頼もしいから甲斐性もあると思う。……でも、そうじゃなくても、俺は楓だけが好きだ」
「……」
まるで子供と大人のテニスのラリーみたいだ。
私がどんな悪い球を打っても、優しい球を打ち返してくれる。
なのに私は、ますます拗ねた気持ちが膨らんで、素直にその球を打ち返せない。
「……直樹さんは優しすぎます。私の嫉妬ですら受け入れちゃうなんて」
「……優しいからじゃないよ。受け入れようとしてる訳じゃなくて、楓が俺を独り占めしたいと思ってくれてるのが、単に嬉しいだけなんだ」
「……嬉しいんですか?」
「うん、すっごく嬉しい」
そう言って、直樹さんは私にキスをした。
唇が触れるだけのキス。
でも、私の中の拗ねた気持ちは続いていて、直樹さんの唇に自分の唇をぎゅうっと押し付けた。
直樹さんがキスをしたまま、ふっと笑ったのがわかって、私はますます拗ねた気持ちになって、ぐりぐり唇を押し付けた。
すると、直樹さんは唇を離して、言った。
「今日は、優しいキスだけのつもりだったけど、楓がそんな可愛いことするなら、……やめた」
「……え」
そう言って口を開いた私の唇に直樹さんは舌を差し込む。
いつもと同じはずなのに、いつもと少し違う。
直樹さんの舌がゆっくりと丁寧に私の唇をなぞり、歯列をなぞり、上顎をなぞっていく。
ふわふわゾクゾクとした気持ちが、いつもよりねっとりと熱を持って、激しく私を襲う。
下腹部は熱を持っていて、秘部は蕩けていて、 私の秘芽は膨らんでしまっているのがわかる。
下腹部が熱を持っているのは生理中だからで、秘部が蕩けているのは経血によるもので、生理中だからこれ以上先に進めないのに。
直樹さんへの欲情がコントロールできない。
あまりの切なさに、視界が涙で滲む。
すると、私の状況を察したらしい直樹さんが唇を離して言った。
「……楓、気持ち良くなりたい?」
そんなことまでわかってしまうなんて。
今日は直樹さんの鋭さが恨めしく感じてしまう。
「直樹さん、今日はできないのに。……意地悪、言わないで」
「意地悪で言ったんじゃないよ。大丈夫。ちゃんと気持ち良くしてあげるから」
「……え?」
直樹さんはベッドの上で壁を背に座り、脚の間に私を同じ向きで座らせた。
そして後ろからまわした手で、私のスカートをたくし上げ、下着に指を這わせ、耳元で囁いた。
「楓、触れるよ」
「ダメですっ! 汚いですっ」
「汚くないよ」
「汚いですよ! 直樹さんの手が汚れちゃうし、ニオイも……」
「汚くなんかないよ。赤ちゃんのベッドなんだから」
「……」
確かに。妊娠した場合は、この血は胎内でベッドの役割を担うんだっけ。
そんな風に考えたことなんてなかった。
初潮からずっと『汚いもの』というイメージでいたし、男性なら尚更そうなのかと思っていた。
目からウロコが落ちる思いでいると、直樹さんが下着の中に手を差し入れた。
「ぁっ、……ダメぇ」
「楓、こんななのに我慢しようとしてたの? 辛かったでしょ」
すっかり膨らんでしまった私の秘芽を、直樹さんの指が花びらの上からふにふにと押した。
「や、やだぁ……なおきさん、言わないでぇ」
「我慢しないって、約束したでしょ?」
「でも、……生理中なのに、こんな、私、おかしい」
「おかしくなんてないよ。だから、我慢しちゃダメ」
花びら越しに秘芽をくるくると刺激された。
「ん、ふ、ぁああっ」
秘芽と、その下部分に、強い快感が走った。
そういえば陰核って、秘芽以外の大部分は隠れているけど、本当は大きいんだっけ。
快感に夢中なはずなのに、なぜか冷静に、昔いろいろ調べた時のことを思い出す自分もいる。
「今日はここが良さそうだね」
生理中なのに。
こんなの、自分が変になってしまった気持ちになる。
「やだぁ、わたし、変なの、やだぁっ」
「楓、ぜんぜん変じゃないよ。……大丈夫だから」
直樹さんは優しく私の耳元で囁いて、花びらを優しくくるくると撫でる。
隠された陰核の広い範囲に甘く切ない刺激が走る。
「やあ、ぁん、ぁああんっ」
涙が溢れ、高まっていくのがわかる。
はぁはぁと息が上がり、そのまま意識が朦朧としてきた。
「ねぇ、楓。楓は俺のこと、独り占めしていいから。俺も、楓を……」
私の耳に、直樹さんの切なそうな声が聞こえたような気がした。
だけど、私はそのまま、眠ってしまったようだった。
◇
目が覚めると、私はベッドの上で寝かされていて、直樹さんに抱き込まれていた。
顔を上げると、申し訳無さそうな表情の直樹さんと目が合った。
「……楓、さっきは無理矢理してごめん」
「いっ、いえ、私こそ、意味不明な嫉妬しちゃった上に、あんな……っ!」
先ほどの自分の醜態が一気に蘇り、私は恥ずかしくて直樹さんの胸に顔を埋めた。
直樹さんはそんな私の頭を優しく撫でながら言った。
「ううん。……あのね、楓が寝てる間に調べたんだけど、生理中にオーガズムに達すると痛みに繋がったり、最悪、病気の原因になることもあるみたいで。俺、楓が達するまで続けるつもりでいたから、すごく危ないことしちゃったなって、……物凄く反省した」
「えっ! そうなんですね! ……調べてくださって、ありがとうございますっ」
そんなこと、知らなかった。
私の体のために、調べてくれたなんて。
嬉しくなって直樹さんの方を見ると、なぜか直樹さんは眉を下げて、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「……実はさ、……俺も、嫉妬してて。それで、あんなことしちゃったんだ」
「え?!」
私は驚いて、再び直樹さんの方に顔を向けた。
「……直樹さん、嫉妬してたんですか?」
「……うん。楓、今日、葵ちゃんみたいなふわふわ系の女の子と話してたでしょ?」
「……そう、……ですね」
確かに、買い物中にふわふわ系の女の子に話しかけられたことを思い出す。
「それで、連休中うちに閉じ込めて、楓を独り占めしたくなって」
「そうだったんですかっ?」
「……うん」
私は眉を下げてしゅんとする直樹さんにらぎゅうっと抱きついた。
「……直樹さん、さっきの直樹さんの気持ち、私もわかりました」
「……さっきの俺の気持ち?」
「直樹さんが私を独り占めしたいと思ってくれてるの、……とっても嬉しいですっ」
「……嬉しいの?」
「はいっ」
「そっかぁ」
直樹さんは嬉しそうな声音でそう言うと、私をぎゅうぎゅうと抱き締め返してくれた。
「……でもさ、楓、帰ろうとするし。無理にお願いして来てもらったら、我慢しようとするし……」
「だって……あんなの、変じゃないですか。生理中なのに……」
「変じゃないよ。むしろ、体が反応しやすい時期なんじゃないかな? 達しなければ問題はないみたいだから、今度からゆっくり気持ち良くしてあげるね」
「……!」
『体が反応しやすい』ということに、そういえば、心当たりがあった。
最近は直樹さんにいつもドキドキしてばかりいて、すっかり忘れていたけど、以前悩まされていた『恋愛感情の誤作動』のことを思い出した。
「直樹さん。私、以前、『私の恋愛感情がポンコツで、誤作動を起こす』って話、しましたよね」
「……してたね」
「誤作動を起こすのって、だいたい排卵日前後と、生理前や生理期間中のことが多かったんです。もしかしたら私の性欲が高まりやすい時期なのかもしれません。……だから、反応しやすいのかも……!」
「……ふぅん?」
私がスッキリ納得して、直樹さんの方を見ると。
直樹さんが、直樹さんらしからぬ、物凄く黒いオーラを放っていた。
「あれ? 直樹さん? どうしました?」
「……楓。……その2つの期間中は、うちに泊まろうか? 会社には送り迎えしてあげるから」
「……え? ……でも、そんなことしたら直樹さんが大変じゃ……?」
「ううん、大変じゃないよ。それよりも、そんな危険な状態の楓を外に出したくない」
「えっ、『危険』?! あっ、誤作動が起きるかもしれないから危ないってことですか?!」
「うん、そう。全部、俺に作動するように、独り占めさせて?」
「えっと、あの、でも! 実は、直樹さんと出会ってからは一度も誤作動、起きてないんですっ! 直樹さんにドキドキしてるのを自覚してからは、そういう周期は関係なく、いつも直樹さんにドキドキしてますし……」
「……そうなの? ……そっかぁ」
直樹さんが放っていた黒いオーラは消え去り、直樹さんは心底嬉しそうにそう言って、ぎゅうぎゅうと私を抱き締めた。
「……でも、来れそうな日は連絡してもいいですか?」
「うんっ! 迎えに行くっ」
「はいっ」
心底嬉しそうな直樹さんを見て、私はますます嬉しくなって、直樹さんをぎゅうっと抱き締め返した。
◇◇◇
その後、私は平日も直樹さんの家にお泊まりすることが増えた。
排卵日前後と、生理前から生理期間中、ずっと直樹さんの家にいることはなかったけど、一番高まりやすい日は直樹さんに誘われることが多かった。
そんなことまでわかってしまう直樹さんはすごいなぁと思うと同時に、直樹さんに独り占めされているのがわかると、私の頬はつい緩んでしまうのだった。
流石にサニタリー用品は恥ずかしい上に申し訳なさすぎて、かなり強めに断ったのだけど、私の体の方が大事だからと諭され、私は車の中で待つことになった。
やっぱり直樹さんは過保護すぎる……!
少し経ったあと、直樹さんが戻って来たのが見えた。
直樹さんの姿を見て嬉しくて、思わず顔が綻んだ次の瞬間、顔が引き攣るのを感じた。
女性が、直樹さんに話しかけたのだ。
小さくて、可愛くて、胸が、……とても大きな子。
直樹さんと2人並ぶと、すごくお似合いの2人だった。
何故だか息苦しくなって、涙が出そうになった。
直樹さんが女性から話しかけられるのなんて、いつものことなのに。
ああ、そうか。
生理中だから、感情が昂ってるんだ。
ーーー直樹さんは、私にとって、奇跡みたいな人だ。
優しくて、聞き上手で、ちょっと過保護で。
艶のある端正な顔立ちで、背が高くて、程よく筋肉がついた引き締まった体で。
料理上手で、美味しいコーヒーを淹れることができて、マッサージも上手。
以前、悠斗さんに感じたスペックの高さは、同じ職場で働く直樹さんにもそのまま当てはまった。
何でそんな奇跡みたいな彼が、奇跡みたいなタイミングで私の前に現れたんだろう?
何で今も、私と一緒にいてくれるんだろう?
その答えは、わかっている。
私と直樹さんが同じ傷を持っていたから。
そして、私には他にもたくさんの傷があったから。
優しくて世話焼きの直樹さんは、私の傷を癒やしたいと思ってしまったのだろう。
その傷が癒えてしまってら?
傷を持つ別の女性のところに、行ってしまうようのかもしれない。
だって、直樹さんは優しいから。
直樹さんが美形じゃなければ良かったのに。
人の目を引くほどの長身でも、何でもできる人でも、優しい人でもなければよかったのに。
そうしたら、直樹さんのこと、私がずっと独り占めできたかもしれないのに。
ああ、でも。
こんなドロドロした気持ち、直樹さんには知られたくない。
知られたら……直樹さんが私から離れて行ってしまうような気がした。
◇
女性に話しかけられた直樹さんは歩調を緩めることなく、『急いでいる』といったような仕草をすると、女性は残念そうな表情を浮かべ、店内の方へと去って行った。
たぶん直樹さんは優しいから、私を待たせないように、そんな対応になったんだと思う。
私がいなかったら、直樹さんとあの女性はどうしていたのだろうか?
自分が邪魔者のようにしか思えず、暗い想像ばかりしてしまう。
そんなことを考えているうちに直樹さんの家に着き、直樹さんによって私はベッドの上に寝かされた。
「……楓、どうしたの?」
「……何でもないです」
「何か溜め込んでる時の顔してる」
直樹さんは鋭すぎる……。
「……生理中って、悪い事ばかり、考えちゃうんです……」
「……そっか。どんな悪い事、考えたの?」
直樹さんの何でも見透かしてしまう真っ直ぐな瞳に見つめられて、私は悟った。
たぶん、誤魔化しても無駄だ。
私は早々に、諦めた。
「……。直樹さんがカッコ良くなかったらよかったのに、って」
直樹さんは少し可笑しそうに吹き出した。
そして、物凄く嬉しそうに言った。
「楓。俺のこと、カッコ良いって、……思ってくれてるの?」
私はこんなに悪い事を考えているのに、直樹さんは幸せそうだ。
何だか拗ねた気持ちになって、目線を下げながら言った。
「……はい。だって、私が今まで会った男性の中で、……一番カッコ良いですもん」
「……そっか」
直樹さんは心底嬉しそうに言ったあと、私の隣で横になると、私をぎゅうぎゅうと抱きしめた。
「それで、何で、俺がカッコ良くない方がいいって思ったの?」
「……直樹さんが美形でも、人の目を引くほどの長身でも、何でもできる人でも、優しい人でもなければ、他の女性に言い寄られないかもって。そうしたら、……私が独り占めできたのにって、思って」
「……そっかぁ」
直樹さんは再び、心底嬉しそうに言ったあと、私を抱きしめる腕の力をさらに強めた。
「俺は楓のだよ。どんな俺でも、楓が独り占めしていいよ」
「……でも、小さくて可愛くて胸の大きな子が直樹さんを好きになるかもしれませんよ?」
「……もしそうなっても、俺は楓しか好きにならないよ?」
「直樹さんみたいに優しくて察しの良い子が、直樹さんのこと好きになるかも」
「楓はとびっきり優しいし、鋭い直感力があるよ。でも、もしそうじゃなかったとしても、俺は楓しか好きじゃない」
「直樹さんみたいに料理上手でコーヒー淹れるのが上手で、直樹さんを専業主夫として養えるぐらい甲斐性のある子が直樹さんのこと好きになるかも」
「楓も料理上手だし、コーヒーはわからないけど、楓は器用だから上手に淹れられるんじゃないかな? 楓はとっても頼もしいから甲斐性もあると思う。……でも、そうじゃなくても、俺は楓だけが好きだ」
「……」
まるで子供と大人のテニスのラリーみたいだ。
私がどんな悪い球を打っても、優しい球を打ち返してくれる。
なのに私は、ますます拗ねた気持ちが膨らんで、素直にその球を打ち返せない。
「……直樹さんは優しすぎます。私の嫉妬ですら受け入れちゃうなんて」
「……優しいからじゃないよ。受け入れようとしてる訳じゃなくて、楓が俺を独り占めしたいと思ってくれてるのが、単に嬉しいだけなんだ」
「……嬉しいんですか?」
「うん、すっごく嬉しい」
そう言って、直樹さんは私にキスをした。
唇が触れるだけのキス。
でも、私の中の拗ねた気持ちは続いていて、直樹さんの唇に自分の唇をぎゅうっと押し付けた。
直樹さんがキスをしたまま、ふっと笑ったのがわかって、私はますます拗ねた気持ちになって、ぐりぐり唇を押し付けた。
すると、直樹さんは唇を離して、言った。
「今日は、優しいキスだけのつもりだったけど、楓がそんな可愛いことするなら、……やめた」
「……え」
そう言って口を開いた私の唇に直樹さんは舌を差し込む。
いつもと同じはずなのに、いつもと少し違う。
直樹さんの舌がゆっくりと丁寧に私の唇をなぞり、歯列をなぞり、上顎をなぞっていく。
ふわふわゾクゾクとした気持ちが、いつもよりねっとりと熱を持って、激しく私を襲う。
下腹部は熱を持っていて、秘部は蕩けていて、 私の秘芽は膨らんでしまっているのがわかる。
下腹部が熱を持っているのは生理中だからで、秘部が蕩けているのは経血によるもので、生理中だからこれ以上先に進めないのに。
直樹さんへの欲情がコントロールできない。
あまりの切なさに、視界が涙で滲む。
すると、私の状況を察したらしい直樹さんが唇を離して言った。
「……楓、気持ち良くなりたい?」
そんなことまでわかってしまうなんて。
今日は直樹さんの鋭さが恨めしく感じてしまう。
「直樹さん、今日はできないのに。……意地悪、言わないで」
「意地悪で言ったんじゃないよ。大丈夫。ちゃんと気持ち良くしてあげるから」
「……え?」
直樹さんはベッドの上で壁を背に座り、脚の間に私を同じ向きで座らせた。
そして後ろからまわした手で、私のスカートをたくし上げ、下着に指を這わせ、耳元で囁いた。
「楓、触れるよ」
「ダメですっ! 汚いですっ」
「汚くないよ」
「汚いですよ! 直樹さんの手が汚れちゃうし、ニオイも……」
「汚くなんかないよ。赤ちゃんのベッドなんだから」
「……」
確かに。妊娠した場合は、この血は胎内でベッドの役割を担うんだっけ。
そんな風に考えたことなんてなかった。
初潮からずっと『汚いもの』というイメージでいたし、男性なら尚更そうなのかと思っていた。
目からウロコが落ちる思いでいると、直樹さんが下着の中に手を差し入れた。
「ぁっ、……ダメぇ」
「楓、こんななのに我慢しようとしてたの? 辛かったでしょ」
すっかり膨らんでしまった私の秘芽を、直樹さんの指が花びらの上からふにふにと押した。
「や、やだぁ……なおきさん、言わないでぇ」
「我慢しないって、約束したでしょ?」
「でも、……生理中なのに、こんな、私、おかしい」
「おかしくなんてないよ。だから、我慢しちゃダメ」
花びら越しに秘芽をくるくると刺激された。
「ん、ふ、ぁああっ」
秘芽と、その下部分に、強い快感が走った。
そういえば陰核って、秘芽以外の大部分は隠れているけど、本当は大きいんだっけ。
快感に夢中なはずなのに、なぜか冷静に、昔いろいろ調べた時のことを思い出す自分もいる。
「今日はここが良さそうだね」
生理中なのに。
こんなの、自分が変になってしまった気持ちになる。
「やだぁ、わたし、変なの、やだぁっ」
「楓、ぜんぜん変じゃないよ。……大丈夫だから」
直樹さんは優しく私の耳元で囁いて、花びらを優しくくるくると撫でる。
隠された陰核の広い範囲に甘く切ない刺激が走る。
「やあ、ぁん、ぁああんっ」
涙が溢れ、高まっていくのがわかる。
はぁはぁと息が上がり、そのまま意識が朦朧としてきた。
「ねぇ、楓。楓は俺のこと、独り占めしていいから。俺も、楓を……」
私の耳に、直樹さんの切なそうな声が聞こえたような気がした。
だけど、私はそのまま、眠ってしまったようだった。
◇
目が覚めると、私はベッドの上で寝かされていて、直樹さんに抱き込まれていた。
顔を上げると、申し訳無さそうな表情の直樹さんと目が合った。
「……楓、さっきは無理矢理してごめん」
「いっ、いえ、私こそ、意味不明な嫉妬しちゃった上に、あんな……っ!」
先ほどの自分の醜態が一気に蘇り、私は恥ずかしくて直樹さんの胸に顔を埋めた。
直樹さんはそんな私の頭を優しく撫でながら言った。
「ううん。……あのね、楓が寝てる間に調べたんだけど、生理中にオーガズムに達すると痛みに繋がったり、最悪、病気の原因になることもあるみたいで。俺、楓が達するまで続けるつもりでいたから、すごく危ないことしちゃったなって、……物凄く反省した」
「えっ! そうなんですね! ……調べてくださって、ありがとうございますっ」
そんなこと、知らなかった。
私の体のために、調べてくれたなんて。
嬉しくなって直樹さんの方を見ると、なぜか直樹さんは眉を下げて、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「……実はさ、……俺も、嫉妬してて。それで、あんなことしちゃったんだ」
「え?!」
私は驚いて、再び直樹さんの方に顔を向けた。
「……直樹さん、嫉妬してたんですか?」
「……うん。楓、今日、葵ちゃんみたいなふわふわ系の女の子と話してたでしょ?」
「……そう、……ですね」
確かに、買い物中にふわふわ系の女の子に話しかけられたことを思い出す。
「それで、連休中うちに閉じ込めて、楓を独り占めしたくなって」
「そうだったんですかっ?」
「……うん」
私は眉を下げてしゅんとする直樹さんにらぎゅうっと抱きついた。
「……直樹さん、さっきの直樹さんの気持ち、私もわかりました」
「……さっきの俺の気持ち?」
「直樹さんが私を独り占めしたいと思ってくれてるの、……とっても嬉しいですっ」
「……嬉しいの?」
「はいっ」
「そっかぁ」
直樹さんは嬉しそうな声音でそう言うと、私をぎゅうぎゅうと抱き締め返してくれた。
「……でもさ、楓、帰ろうとするし。無理にお願いして来てもらったら、我慢しようとするし……」
「だって……あんなの、変じゃないですか。生理中なのに……」
「変じゃないよ。むしろ、体が反応しやすい時期なんじゃないかな? 達しなければ問題はないみたいだから、今度からゆっくり気持ち良くしてあげるね」
「……!」
『体が反応しやすい』ということに、そういえば、心当たりがあった。
最近は直樹さんにいつもドキドキしてばかりいて、すっかり忘れていたけど、以前悩まされていた『恋愛感情の誤作動』のことを思い出した。
「直樹さん。私、以前、『私の恋愛感情がポンコツで、誤作動を起こす』って話、しましたよね」
「……してたね」
「誤作動を起こすのって、だいたい排卵日前後と、生理前や生理期間中のことが多かったんです。もしかしたら私の性欲が高まりやすい時期なのかもしれません。……だから、反応しやすいのかも……!」
「……ふぅん?」
私がスッキリ納得して、直樹さんの方を見ると。
直樹さんが、直樹さんらしからぬ、物凄く黒いオーラを放っていた。
「あれ? 直樹さん? どうしました?」
「……楓。……その2つの期間中は、うちに泊まろうか? 会社には送り迎えしてあげるから」
「……え? ……でも、そんなことしたら直樹さんが大変じゃ……?」
「ううん、大変じゃないよ。それよりも、そんな危険な状態の楓を外に出したくない」
「えっ、『危険』?! あっ、誤作動が起きるかもしれないから危ないってことですか?!」
「うん、そう。全部、俺に作動するように、独り占めさせて?」
「えっと、あの、でも! 実は、直樹さんと出会ってからは一度も誤作動、起きてないんですっ! 直樹さんにドキドキしてるのを自覚してからは、そういう周期は関係なく、いつも直樹さんにドキドキしてますし……」
「……そうなの? ……そっかぁ」
直樹さんが放っていた黒いオーラは消え去り、直樹さんは心底嬉しそうにそう言って、ぎゅうぎゅうと私を抱き締めた。
「……でも、来れそうな日は連絡してもいいですか?」
「うんっ! 迎えに行くっ」
「はいっ」
心底嬉しそうな直樹さんを見て、私はますます嬉しくなって、直樹さんをぎゅうっと抱き締め返した。
◇◇◇
その後、私は平日も直樹さんの家にお泊まりすることが増えた。
排卵日前後と、生理前から生理期間中、ずっと直樹さんの家にいることはなかったけど、一番高まりやすい日は直樹さんに誘われることが多かった。
そんなことまでわかってしまう直樹さんはすごいなぁと思うと同時に、直樹さんに独り占めされているのがわかると、私の頬はつい緩んでしまうのだった。
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