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第二十七筆 まるぐりっとの涙!
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企業の倒産。
この市場経済を生きる限りは、避けて通ることが出来ないイベントである。
たった一通のメールで、レーベルの倒産と塩令嬢の書籍化とコミカライズの爆死を知らされた鬼丸まりあ。
暫く放心状態であったのは言うまでもないだろう。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
龍はとりあえず声をかけてみた。
心と魂の安否確認である。
「ああ……うう……あぁ……ぁぁ……ぁ……」
鬼丸は顔を下に向かせ、キーボードを凝視していた。
めちゃんこ怨霊のような顔となっているが、長い髪で見えないのが幸いしてます。
この顔を龍が見ちゃったら心臓停止は間違いなく、この小説が未完の完になっていたことだろう。
「え、えっと……」
慰めの言葉もかけられない龍は案山子のように立ち尽くすしかなかった。
そして、数秒ほど静寂の時が流れると――。
「ちくしょうめエエエエエエエエエエッ!」
突如、鬼丸は鬼の咆哮をあげた。
「はうわっ!」
龍の心臓は一瞬止まりかけるが何とか堪える。
「UDAGAWA系列の子会社だから大丈夫! 新規レーベルだからこそフットワークが軽い! 個性あふれる作品を世に出す! そう言ったよな『クソ編集さん』よオオオオオッ!」
バン!
バン! バン!
バン! バン! バン!
バン! バン! バン! バン!
バン! バン! バン! バン! バン!
擬音だ、擬音の音色が弾む。
鬼丸は机とキーボードを叩き始めた。
一糸乱れぬ叩きのリズム、それはさながら一流のドラマー。
いや、キーボードクラッシャーと呼べる。
「何が『時代を切り裂くでござる!』だよ! 切り裂かれてるのは私の心と作品だよ! ボケエエエエエエエエエエッ!」
般若の形相を浮かべる鬼丸ちゃん。
龍はとりあえず、夜叉と化す女子に慰めの言葉をかける。
「お、落ち着いて下さい。つ、次がありますよ!」
「…………っ」
鬼丸の動きが静止した。
髪で顔を半分隠したまま、鬼丸は龍の顔を死んだ魚のような目で見つめる。
「次っていつ?」
「え?」
「次って、いつだって聞いてるのよ」
「ほ、ほら……まるぐりっと様は電脳小説大賞に三作品一次通過してるじゃないですか」
龍は震えながら言葉を述べる。
そう、鬼丸の応募した作品は電脳小説大賞の一次選考を三作品も通過しているのだ。
大丈夫だ、問題――。
「全部落ちたらどうするの?」
あった。
「ぜ、全部って……」
「私の作品が例え入賞しても、商業化するまでどれくらい時間がかかると思ってるの? 最短でも一年くらいはかかるのよ?」
「ダ、ダメなんですか?」
「あんたらネット民、特にワナビどもはなんか勘違いしてるけどさ。私のような専業作家は『繋ぎの仕事』がないと食っていけないの」
繋ぎの仕事がないと食っていけない。
だから『アレ』だ。アレとは『印税』だ。
印税という素晴らしいシステムがある。
そう思った龍は、
「か、過去作の印税収入がありますよ!」
と述べる。
「古い作品が売れ続けると思ってるの? 毎年のようにライバル達が有象無象の作品出してんのよ? てか、私の作品がメガヒット出してないこと知ってて言ってる?」
「そ、そんなことは……」
「コンテストの賞金が最高でも大賞が三百万……優秀賞などが十万から五十万……書籍化初版で最低三十万くらいしか貰えない……」
グイグイと自分の顔を龍に近付ける鬼丸。
龍は恐ろしくなりタジタジだ。
鬼丸の気迫と恐怖に押され、すり足気味に後方へと下がり始めている。
これが相撲なら押し出しで負けているだろう。
龍も負けじと必死らこいて言葉を吐き出す。
「ぞ、続刊が出れば大丈夫です!」
「わざと言ってるのか? デビュー作以外は打ち切りだよ」
「だ、大人気のコミカライズをすれば!」
「あのな……コミカライズなんか、漫画家さんと利益を分けなきゃなんないから旨味ないよ」
専業ラノベ作家の悲哀を伝えられる龍。
そこには煌びやか世界の裏にある厳しい現実があった。
「お前らネット民は『夢の印税生活』を書籍化作家全員してると錯覚してるだろ? ちげーよ!」
「ひじょーにきびしーいっ!」
「……ネタが古すぎるんだよ」
夢の印税生活、そんなものは夢のまた夢。
ある著名な作家はこう言った。「十万部のベストセラーでも千五百万円、一万部で百五十万円である」と。
一般サラリーマンの平均年収は約四百六十万円だとすると、専業作家だけで生活するのは難しい。
例えメガヒットを飛ばして稼いだとしても、前年度の収入で取られる税金の額は決まる。
従って、ヒットを飛ばし続けないと生活が困窮してしまうのである。
それがこのラノベ業界、煌びやかなプロの世界のリアルであった。
「これでわかった? これが専業作家の現実さ」
「う、うう……!」
「ねえ……あんたにこの辛さわかる? 夢だったラノベ作家の生活がこれなんだよ? いい加減な編集に当たったら最悪だし……レビューではアンチに作品を酷評されるし……信者に弱いところは見せられない…… 毎日がプレッシャーとの戦いだ!」
般若顔の鬼丸に恐怖し固まる龍。
追い詰められたワナビストは、
「は、はた……」
「はた?」
「働けっ!」
遂に禁句を解き放った。
「そんなに生活が苦しいなら働かんかいっ!」
「わ、私……コミュ障だし……」
「人と会話出来るヤツがコミュ障なわけないだろ! 甘えるな!」
龍は熱いマシンガントークを浴びせる。
「ラノベ作家だけが苦労してると思うな! 会社員だってブラックな上司と当たる! ラーメン屋のオヤジだって料理をレビューされる! 中小企業の社長さんも社員に弱いところは見せられない! プロ野球選手なんか毎試合結果を残さないといけないんだぞ!」
「そ、そんなこと言われても……」
「自分達だけ特別な存在と思うな! 『生きるのは戦い』なんじゃ! マスターカラテ迅でも言ってたわいっ!」
「マ、マスター……あんたのセンス……昭和……」
「そんなことはどうでもいい! とりあえず明日からハロワへ行け! 就職が難しいなら『求職者支援訓練』を受けろ!」
「……何それ?」
「それは自分で調べなさいっ!」(俺は昨日流れたポストで知った)
鬼丸へ、ハロワという神殿へ行くことを薦める龍。
意外と知られていないものだが『求職者支援訓練』というものがある。
これは無料の職業訓練に加え、月十万円の給付金を受けながら、再就職、転職、スキルアップを目指せる。
その要件は『世帯全体の収入が月三十万円以下』。
訓練対象者も『直ちに転職せずに働きながらスキルアップ者も対象』となっている。
ただし、制度や内容は変わっている可能性もあるので気になる人は調べてみよう。
「ラノベ作家だけが仕事では――」
ない!
とドヤ顔で指摘しようとしたときだった。
――龍は気付いてしまった。
「……ぅ……ひっ……ぅ……ひうっ……」
鬼丸がポロポロと涙を流していた。
鬼の目にも涙、鬼丸の目にも涙だ。
「あ、あのう……」
気まずくなった龍。
「……」
次の行動は?
「し、失礼しましたーっ!」
ドラゴン・ダッシュを強行。
ヒットエンドランの奇策である。
「は、早く帰らないと古田島に叱られるからね!」
こうして、龍はラノベの鬼が住む部屋から脱出したのであった。
――生存。
この市場経済を生きる限りは、避けて通ることが出来ないイベントである。
たった一通のメールで、レーベルの倒産と塩令嬢の書籍化とコミカライズの爆死を知らされた鬼丸まりあ。
暫く放心状態であったのは言うまでもないだろう。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
龍はとりあえず声をかけてみた。
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「ああ……うう……あぁ……ぁぁ……ぁ……」
鬼丸は顔を下に向かせ、キーボードを凝視していた。
めちゃんこ怨霊のような顔となっているが、長い髪で見えないのが幸いしてます。
この顔を龍が見ちゃったら心臓停止は間違いなく、この小説が未完の完になっていたことだろう。
「え、えっと……」
慰めの言葉もかけられない龍は案山子のように立ち尽くすしかなかった。
そして、数秒ほど静寂の時が流れると――。
「ちくしょうめエエエエエエエエエエッ!」
突如、鬼丸は鬼の咆哮をあげた。
「はうわっ!」
龍の心臓は一瞬止まりかけるが何とか堪える。
「UDAGAWA系列の子会社だから大丈夫! 新規レーベルだからこそフットワークが軽い! 個性あふれる作品を世に出す! そう言ったよな『クソ編集さん』よオオオオオッ!」
バン!
バン! バン!
バン! バン! バン!
バン! バン! バン! バン!
バン! バン! バン! バン! バン!
擬音だ、擬音の音色が弾む。
鬼丸は机とキーボードを叩き始めた。
一糸乱れぬ叩きのリズム、それはさながら一流のドラマー。
いや、キーボードクラッシャーと呼べる。
「何が『時代を切り裂くでござる!』だよ! 切り裂かれてるのは私の心と作品だよ! ボケエエエエエエエエエエッ!」
般若の形相を浮かべる鬼丸ちゃん。
龍はとりあえず、夜叉と化す女子に慰めの言葉をかける。
「お、落ち着いて下さい。つ、次がありますよ!」
「…………っ」
鬼丸の動きが静止した。
髪で顔を半分隠したまま、鬼丸は龍の顔を死んだ魚のような目で見つめる。
「次っていつ?」
「え?」
「次って、いつだって聞いてるのよ」
「ほ、ほら……まるぐりっと様は電脳小説大賞に三作品一次通過してるじゃないですか」
龍は震えながら言葉を述べる。
そう、鬼丸の応募した作品は電脳小説大賞の一次選考を三作品も通過しているのだ。
大丈夫だ、問題――。
「全部落ちたらどうするの?」
あった。
「ぜ、全部って……」
「私の作品が例え入賞しても、商業化するまでどれくらい時間がかかると思ってるの? 最短でも一年くらいはかかるのよ?」
「ダ、ダメなんですか?」
「あんたらネット民、特にワナビどもはなんか勘違いしてるけどさ。私のような専業作家は『繋ぎの仕事』がないと食っていけないの」
繋ぎの仕事がないと食っていけない。
だから『アレ』だ。アレとは『印税』だ。
印税という素晴らしいシステムがある。
そう思った龍は、
「か、過去作の印税収入がありますよ!」
と述べる。
「古い作品が売れ続けると思ってるの? 毎年のようにライバル達が有象無象の作品出してんのよ? てか、私の作品がメガヒット出してないこと知ってて言ってる?」
「そ、そんなことは……」
「コンテストの賞金が最高でも大賞が三百万……優秀賞などが十万から五十万……書籍化初版で最低三十万くらいしか貰えない……」
グイグイと自分の顔を龍に近付ける鬼丸。
龍は恐ろしくなりタジタジだ。
鬼丸の気迫と恐怖に押され、すり足気味に後方へと下がり始めている。
これが相撲なら押し出しで負けているだろう。
龍も負けじと必死らこいて言葉を吐き出す。
「ぞ、続刊が出れば大丈夫です!」
「わざと言ってるのか? デビュー作以外は打ち切りだよ」
「だ、大人気のコミカライズをすれば!」
「あのな……コミカライズなんか、漫画家さんと利益を分けなきゃなんないから旨味ないよ」
専業ラノベ作家の悲哀を伝えられる龍。
そこには煌びやか世界の裏にある厳しい現実があった。
「お前らネット民は『夢の印税生活』を書籍化作家全員してると錯覚してるだろ? ちげーよ!」
「ひじょーにきびしーいっ!」
「……ネタが古すぎるんだよ」
夢の印税生活、そんなものは夢のまた夢。
ある著名な作家はこう言った。「十万部のベストセラーでも千五百万円、一万部で百五十万円である」と。
一般サラリーマンの平均年収は約四百六十万円だとすると、専業作家だけで生活するのは難しい。
例えメガヒットを飛ばして稼いだとしても、前年度の収入で取られる税金の額は決まる。
従って、ヒットを飛ばし続けないと生活が困窮してしまうのである。
それがこのラノベ業界、煌びやかなプロの世界のリアルであった。
「これでわかった? これが専業作家の現実さ」
「う、うう……!」
「ねえ……あんたにこの辛さわかる? 夢だったラノベ作家の生活がこれなんだよ? いい加減な編集に当たったら最悪だし……レビューではアンチに作品を酷評されるし……信者に弱いところは見せられない…… 毎日がプレッシャーとの戦いだ!」
般若顔の鬼丸に恐怖し固まる龍。
追い詰められたワナビストは、
「は、はた……」
「はた?」
「働けっ!」
遂に禁句を解き放った。
「そんなに生活が苦しいなら働かんかいっ!」
「わ、私……コミュ障だし……」
「人と会話出来るヤツがコミュ障なわけないだろ! 甘えるな!」
龍は熱いマシンガントークを浴びせる。
「ラノベ作家だけが苦労してると思うな! 会社員だってブラックな上司と当たる! ラーメン屋のオヤジだって料理をレビューされる! 中小企業の社長さんも社員に弱いところは見せられない! プロ野球選手なんか毎試合結果を残さないといけないんだぞ!」
「そ、そんなこと言われても……」
「自分達だけ特別な存在と思うな! 『生きるのは戦い』なんじゃ! マスターカラテ迅でも言ってたわいっ!」
「マ、マスター……あんたのセンス……昭和……」
「そんなことはどうでもいい! とりあえず明日からハロワへ行け! 就職が難しいなら『求職者支援訓練』を受けろ!」
「……何それ?」
「それは自分で調べなさいっ!」(俺は昨日流れたポストで知った)
鬼丸へ、ハロワという神殿へ行くことを薦める龍。
意外と知られていないものだが『求職者支援訓練』というものがある。
これは無料の職業訓練に加え、月十万円の給付金を受けながら、再就職、転職、スキルアップを目指せる。
その要件は『世帯全体の収入が月三十万円以下』。
訓練対象者も『直ちに転職せずに働きながらスキルアップ者も対象』となっている。
ただし、制度や内容は変わっている可能性もあるので気になる人は調べてみよう。
「ラノベ作家だけが仕事では――」
ない!
とドヤ顔で指摘しようとしたときだった。
――龍は気付いてしまった。
「……ぅ……ひっ……ぅ……ひうっ……」
鬼丸がポロポロと涙を流していた。
鬼の目にも涙、鬼丸の目にも涙だ。
「あ、あのう……」
気まずくなった龍。
「……」
次の行動は?
「し、失礼しましたーっ!」
ドラゴン・ダッシュを強行。
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