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第六十六筆 黒鳥響士郎がくる!
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いよいよ龍は黒鳥の講演会へと潜入した。
時刻は定刻のより五分前となっている。
(や、やはり緊張する)
会議室の席は既に埋まっている状態。
龍の左右隣にはメガネをかけた痩せっぽっちな男 (以下ガリメガネ)と、髪を後ろに結んだ鷹のように目つきが鋭い女 (以下鷹の目の女)が座っている。
「ブツブツ……ブツブツブツブツ……うひっうひひっ! 書籍化! 書籍化ァ!」
ガリメガネは聞き取りづらい声で何かを呟き。
「ちっ……ちちっ……今度こそ書籍化させてやるわ……ちちっ! ちっ!」
鷹の目の女は意味もなく舌打ちしながら腕組みをして座していた。
(エラい席に座っちゃったなあ)
龍は黒鳥を見るため前の席に座っているが激しく後悔していた。
前には真異世界令嬢教のグラトニーズ。
そして、左右には個性的なモブキャラがいる。
しかし、それだけではないのが龍のバッドな状況である。
「ラ……ランキングに……ランキングに入りたーい! ああーん! あはーん! シュポシュポ!」
「ボクの異世界転生追放ものを絶対に書籍化させてやるのだ! ボ、ボク! はぶたえもち!」
「働きたくないでござる! 書籍化からのアニメ化でござる! 夢の印税生活の極意が今日でわかるでござるのだ!」
後ろから聞こえてくるのは、龍と同じくワナビスト達の声。
それぞれが持つ夢という名の叫び声がカエルの合唱のように聞こえてくる。
――ここは地獄であり魔界。
書籍化出来ずに燻り続けた結果、精神がダークとなりそうなWeb小説家達が殆どを締めている。
(いや……この部屋だ! この部屋全体が暗黒に満ちているんだ!)
龍は周囲を警戒しながら、気持ちを強く持った。
油断すると、このダークワナビスト達の放つ暗黒臭に心を蝕まれるからだ。
(レッドドラゴン! レッツ電源オフ!)
龍は覚悟を持ち、己が手にする赤いスマホの電源を切った。
時刻は14時ピッタシ。
いよいよ、講演開始の時間になったのである。
「ご来場の皆様、長らくお待たせ致しました」
部屋の壇上には、派手な花柄模様のマスクをつけた中年の男がいた。
その男はフォックス型のメガネをかけ、頭は短く刈り込んでいる。
声は甲高く、耳につき、まるで青鷺のようだった。
この男がラノベ作家、黒鳥響士郎であろうか。
「これより、黒鳥響士郎先生の講演会『Webからプロデビューする方法』を始めます」
否、黒鳥ではないらしい。
(この人が黒鳥ではないのか)
龍は少し緊張の糸が切れる。
しかし、男は独特の雰囲気をしている。
何より服装が普通なようでいて、どうにも違和感を感じさせた。
一応スーツは着ているのだが、中のYシャツはクリーム色でネクタイはトランプの柄。
会社員というより、夜のお店の店員のような雰囲気。
失礼ではあるが、あまり堅気のようには見えなかった。
「その前にご紹介が遅れちゃったマゼラン☆ オイラは星ケ丘墨染! プロの編集者なんだぜィ☆」(指パッチンしながら)
(こ、こいつが星ケ丘墨染!)
な、なんと!
この男が、この男が星ケ丘墨染!
元ムラマサ文庫の編集者で、まるぐりっとこと鬼丸まりあに非常識なメールを送り!
Web小説家達に不正を持ちかけ、紅蓮まうざりっとを書籍化させた寝業師である!
つまり、悪の編集者なのである!
「ここにいるヤツの殆どがワナビだって? みーんな書籍化したいのかい☆」(指パッチンしながら)
(う、うぜえ!)
「だったら、そのコツを今日知っちゃおうぜ☆ そしたら☆ みんながハッピーハッピーなんだぜ☆」(指パッチンしながら)
(マ、マジでうざい!)
「お前らを書籍化に導いてやるぜ☆ 黒鳥先生のありがたいお話を聞きやがれ☆」(指パッチンしながら)
龍の中で殺意が湧いた。
星ヶ丘という編集者は、なんとうざい男なのであろう。
指をいちいち弾きながら会話するので、相手に自然とイラつきを覚えさせる男だった。
だが、この部屋にいるダークワナビストはそうではない。
「ウキャキャ! 聞きたい聞きたい! 黒鳥先生の説法をお聞きしたい!」
「今のトレンドや! 出版社がどんな作品を求めているのか知りたいわァ!」
「俺達がゼニを支払って来た理由は一つ!」
――書籍化や!コミカライズや!アニメ化や!
――書籍化や!コミカライズや!アニメ化や!
――書籍化や!コミカライズや!アニメ化や!
ダークワナビスト達の大合唱が始まった。
――書籍化や!コミカライズや!アニメ化や!
それが彼ら彼女らの合言葉であった。
異様、奇怪、熱狂。
黒鳥が登場するより前に、異常なまでの盛り上がりを見せていた。
「それでは黒鳥響士郎先生の入場だぜ!」(ダブル指パッチン☆)
ダンダンダンダンダン!
ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン!
ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン!
「な、なんだこれは!」
龍は驚く!
地鳴らしだ!
地鳴らしが鳴り響く!
その足音はダークワナビスト達による無言の合唱音!
神だ!ラノベの神様がご光臨する前の儀式!
これなるは儀式なのである!
――書籍化や!コミカライズや!アニメ化や!
――書籍化や!コミカライズや!アニメ化や!
――書籍化や!コミカライズや!アニメ化や!
声が、龍が住むH市!この小さな街に木霊する!
それは読書を愛する『図書館』という聖地で!
公なる人々の憩いの地が声により荒らされた!
ダークワナビスト達のあまりにも不躾な行動!
受付のお団子頭のお姉さんは注意する! 彼女は市役所の職員だった!
「ちょ、ちょっと図書館ではお静かに……」
「やかましい!これは神が降臨されるための儀式! 邪魔をするでなアアアアアい!」
「ひ、ひいっ!」
お団子頭のお姉さんは、圧倒的な数の暴力で黙らされる。
この部屋だけは世紀末、ディストピアになっていた。
神も仏もいないのか。
この静かな聖地図書館はダークワナビスト達に蹂躙されてしまうのか。
――ああ、救世主はいないのか!
「迷えるワナビ達よ、落ち着きなさい」
イケボだ。
優しいイケボが部屋を包んだ。
それと同時に先程までやかましかったダークワナビストは沈黙した。
その光景はよく訓練された兵士のようだった。
「アイムソーリー、マドモアゼル。私の弟子達の非礼を詫びよう」
後ろから、ダークワナビスト達の暴走を詫びる声が聞こえる。
「あ、あの……その……」
「ふふっ! これで君は私にメロメロだね!」
「は、はあ……」(何言ってんだコイツ)
なんか都合のいい解釈だ。
助けたから女性に惚れられるのは、空想の世界だけにして欲しい。
まあ、それは置いておこう。
「こ、この声はどこかで……」
龍はこのイケボに聞き覚えがあった。
いつかのサイバーラウンジで聞いたこの声。
間違いない。
「キャー! 黒鳥! 黒鳥響士郎様よ!」
「ご尊顔を! ご尊顔を見せて下さいませ!」
前列のグラトニーズがやかましい。
もう説明は不要だろう。
黒鳥だ。
現代ラノベ業界の最高峰、黒鳥響士郎の声である。
「フハハハハハッ!」
黒鳥は高笑いしながら走ってきた。
ドタドタと足音を鳴らしながら龍達を横切る。
それはさながら黒い旋風といったところだろう。
ギクシャクした動きは、黒鳥の運動神経のレベルを雄弁に語っている。
「フゥフゥ……わ、私が黒鳥! 黒鳥響士郎で……ゼェゼェ……ある! フハハ……ヒィ……ハハッ! フヒィ!」
壇上に立ったのは黒い塊。
息を弾ませながら自己紹介をする。
その名はご存知『黒鳥響士郎』。
そのベールがついに脱がれたのである。
(え、ええーっ!?)
龍は黒鳥を二度見した。
(む、むっちゃ! イカスミ! イカスミまんじゃねーか!)
現れたのは、黒い燕尾服を着こんだ小太りメガネ。
龍の目には、黒鳥はコンビニに売っているイカスミまんにしか見えなかった。
時刻は定刻のより五分前となっている。
(や、やはり緊張する)
会議室の席は既に埋まっている状態。
龍の左右隣にはメガネをかけた痩せっぽっちな男 (以下ガリメガネ)と、髪を後ろに結んだ鷹のように目つきが鋭い女 (以下鷹の目の女)が座っている。
「ブツブツ……ブツブツブツブツ……うひっうひひっ! 書籍化! 書籍化ァ!」
ガリメガネは聞き取りづらい声で何かを呟き。
「ちっ……ちちっ……今度こそ書籍化させてやるわ……ちちっ! ちっ!」
鷹の目の女は意味もなく舌打ちしながら腕組みをして座していた。
(エラい席に座っちゃったなあ)
龍は黒鳥を見るため前の席に座っているが激しく後悔していた。
前には真異世界令嬢教のグラトニーズ。
そして、左右には個性的なモブキャラがいる。
しかし、それだけではないのが龍のバッドな状況である。
「ラ……ランキングに……ランキングに入りたーい! ああーん! あはーん! シュポシュポ!」
「ボクの異世界転生追放ものを絶対に書籍化させてやるのだ! ボ、ボク! はぶたえもち!」
「働きたくないでござる! 書籍化からのアニメ化でござる! 夢の印税生活の極意が今日でわかるでござるのだ!」
後ろから聞こえてくるのは、龍と同じくワナビスト達の声。
それぞれが持つ夢という名の叫び声がカエルの合唱のように聞こえてくる。
――ここは地獄であり魔界。
書籍化出来ずに燻り続けた結果、精神がダークとなりそうなWeb小説家達が殆どを締めている。
(いや……この部屋だ! この部屋全体が暗黒に満ちているんだ!)
龍は周囲を警戒しながら、気持ちを強く持った。
油断すると、このダークワナビスト達の放つ暗黒臭に心を蝕まれるからだ。
(レッドドラゴン! レッツ電源オフ!)
龍は覚悟を持ち、己が手にする赤いスマホの電源を切った。
時刻は14時ピッタシ。
いよいよ、講演開始の時間になったのである。
「ご来場の皆様、長らくお待たせ致しました」
部屋の壇上には、派手な花柄模様のマスクをつけた中年の男がいた。
その男はフォックス型のメガネをかけ、頭は短く刈り込んでいる。
声は甲高く、耳につき、まるで青鷺のようだった。
この男がラノベ作家、黒鳥響士郎であろうか。
「これより、黒鳥響士郎先生の講演会『Webからプロデビューする方法』を始めます」
否、黒鳥ではないらしい。
(この人が黒鳥ではないのか)
龍は少し緊張の糸が切れる。
しかし、男は独特の雰囲気をしている。
何より服装が普通なようでいて、どうにも違和感を感じさせた。
一応スーツは着ているのだが、中のYシャツはクリーム色でネクタイはトランプの柄。
会社員というより、夜のお店の店員のような雰囲気。
失礼ではあるが、あまり堅気のようには見えなかった。
「その前にご紹介が遅れちゃったマゼラン☆ オイラは星ケ丘墨染! プロの編集者なんだぜィ☆」(指パッチンしながら)
(こ、こいつが星ケ丘墨染!)
な、なんと!
この男が、この男が星ケ丘墨染!
元ムラマサ文庫の編集者で、まるぐりっとこと鬼丸まりあに非常識なメールを送り!
Web小説家達に不正を持ちかけ、紅蓮まうざりっとを書籍化させた寝業師である!
つまり、悪の編集者なのである!
「ここにいるヤツの殆どがワナビだって? みーんな書籍化したいのかい☆」(指パッチンしながら)
(う、うぜえ!)
「だったら、そのコツを今日知っちゃおうぜ☆ そしたら☆ みんながハッピーハッピーなんだぜ☆」(指パッチンしながら)
(マ、マジでうざい!)
「お前らを書籍化に導いてやるぜ☆ 黒鳥先生のありがたいお話を聞きやがれ☆」(指パッチンしながら)
龍の中で殺意が湧いた。
星ヶ丘という編集者は、なんとうざい男なのであろう。
指をいちいち弾きながら会話するので、相手に自然とイラつきを覚えさせる男だった。
だが、この部屋にいるダークワナビストはそうではない。
「ウキャキャ! 聞きたい聞きたい! 黒鳥先生の説法をお聞きしたい!」
「今のトレンドや! 出版社がどんな作品を求めているのか知りたいわァ!」
「俺達がゼニを支払って来た理由は一つ!」
――書籍化や!コミカライズや!アニメ化や!
――書籍化や!コミカライズや!アニメ化や!
――書籍化や!コミカライズや!アニメ化や!
ダークワナビスト達の大合唱が始まった。
――書籍化や!コミカライズや!アニメ化や!
それが彼ら彼女らの合言葉であった。
異様、奇怪、熱狂。
黒鳥が登場するより前に、異常なまでの盛り上がりを見せていた。
「それでは黒鳥響士郎先生の入場だぜ!」(ダブル指パッチン☆)
ダンダンダンダンダン!
ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン!
ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン!
「な、なんだこれは!」
龍は驚く!
地鳴らしだ!
地鳴らしが鳴り響く!
その足音はダークワナビスト達による無言の合唱音!
神だ!ラノベの神様がご光臨する前の儀式!
これなるは儀式なのである!
――書籍化や!コミカライズや!アニメ化や!
――書籍化や!コミカライズや!アニメ化や!
――書籍化や!コミカライズや!アニメ化や!
声が、龍が住むH市!この小さな街に木霊する!
それは読書を愛する『図書館』という聖地で!
公なる人々の憩いの地が声により荒らされた!
ダークワナビスト達のあまりにも不躾な行動!
受付のお団子頭のお姉さんは注意する! 彼女は市役所の職員だった!
「ちょ、ちょっと図書館ではお静かに……」
「やかましい!これは神が降臨されるための儀式! 邪魔をするでなアアアアアい!」
「ひ、ひいっ!」
お団子頭のお姉さんは、圧倒的な数の暴力で黙らされる。
この部屋だけは世紀末、ディストピアになっていた。
神も仏もいないのか。
この静かな聖地図書館はダークワナビスト達に蹂躙されてしまうのか。
――ああ、救世主はいないのか!
「迷えるワナビ達よ、落ち着きなさい」
イケボだ。
優しいイケボが部屋を包んだ。
それと同時に先程までやかましかったダークワナビストは沈黙した。
その光景はよく訓練された兵士のようだった。
「アイムソーリー、マドモアゼル。私の弟子達の非礼を詫びよう」
後ろから、ダークワナビスト達の暴走を詫びる声が聞こえる。
「あ、あの……その……」
「ふふっ! これで君は私にメロメロだね!」
「は、はあ……」(何言ってんだコイツ)
なんか都合のいい解釈だ。
助けたから女性に惚れられるのは、空想の世界だけにして欲しい。
まあ、それは置いておこう。
「こ、この声はどこかで……」
龍はこのイケボに聞き覚えがあった。
いつかのサイバーラウンジで聞いたこの声。
間違いない。
「キャー! 黒鳥! 黒鳥響士郎様よ!」
「ご尊顔を! ご尊顔を見せて下さいませ!」
前列のグラトニーズがやかましい。
もう説明は不要だろう。
黒鳥だ。
現代ラノベ業界の最高峰、黒鳥響士郎の声である。
「フハハハハハッ!」
黒鳥は高笑いしながら走ってきた。
ドタドタと足音を鳴らしながら龍達を横切る。
それはさながら黒い旋風といったところだろう。
ギクシャクした動きは、黒鳥の運動神経のレベルを雄弁に語っている。
「フゥフゥ……わ、私が黒鳥! 黒鳥響士郎で……ゼェゼェ……ある! フハハ……ヒィ……ハハッ! フヒィ!」
壇上に立ったのは黒い塊。
息を弾ませながら自己紹介をする。
その名はご存知『黒鳥響士郎』。
そのベールがついに脱がれたのである。
(え、ええーっ!?)
龍は黒鳥を二度見した。
(む、むっちゃ! イカスミ! イカスミまんじゃねーか!)
現れたのは、黒い燕尾服を着こんだ小太りメガネ。
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