ワナビスト龍

理乃碧王

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第六十八筆 ドラゴンズQ!

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 黒鳥の講演が始まった。
 これは独演会というよりも対談式のイベントという形となる。
 つまり、黒鳥響士郎と紅蓮まうざりっとの二人が話を始めるというものだ。
 司会進行役は星ヶ丘墨染、調子よく指を鳴らしながら話を進めた。

「それでは☆ 業界でもイケイケなお二人の対談が始まっちゃうぞ☆」(指パッチンを左右で二回)

 壇上に座るのは黒鳥とまうざりっと。
 簡易なパイプ椅子に座りながら二人は相対している。

「先生、本日はよろしくお願いします」
「ウェイ! まうざりっと君、先生だなんて止めて欲しいな。君ももうすぐ書籍化作家になるんだ『先生』の仲間入りをするんだよ」
「は、ははっ……そうでしたね」

 会場はほっこりとした空気となる。
 ただし、そのほっこりはどこか異質で気味の悪いものがある。
 だが、そう感じるの龍と騎士田など一部のものに限られるだろう。

「まうざりっと様って……カワイイ!」
「そこに痺れる、憧れますわ」
「物書きってアレな人が多いけど」
「我らが教祖、外見も実に尊いですわよ」

 カーミラとサクリンのグラトニーズは、じっとまうざりっとを見ている。
 何を二人が惹きつけるかはわからない。
 わかることは『真異世界令嬢教の教祖としてのビジュアルは申し分がない』という感じなのだろう。

(別に普通だろ。こいつら、これまでどんな世界にいたんだよ)

 龍は心の中でグラトニーズに突っ込みを入れる。
 まうざりっとの見た目は『フツメン』だ。泰ちゃんと比べると地味な青年である。
 だが、この二人は長らく『あっちの世界』に居続けたせいか『普通』が『高級』になっているのだ。
 身近な男性がアレでは、このような過大評価になってしまっては致し方あるまい。
 インスタント食品ばかり食べると、ファミレスの料理が旨く感じる、それと同じなのだろう。
 なお、アレのことは具体的に説明はしない。読者諸君の脳内で勝手に補完して頂きたい。

「まうざりっと君との出会いは『最強黒鳥塾』での師と弟子の間から始まったね」
「そうですね……」

 最強黒鳥塾。
 黒鳥が主宰し、オンラインで行われるラノベの書き方講座のことである。
 月二回行われ、月額五千円程度支払えば受講可能となっている。

「その生徒が『三日で書籍化を決める』なんて偉業を達成するなんて本当に凄いことだよ!」
「い、いえ……それもこれも黒鳥先生の指導のお陰です」

 まうざりっとの言葉に、

「ワッツ? ソーリー! もう一度言ってくれないかい」
「……黒鳥先生の指導のお陰です」
「あ、あひーっ! もっかい! もっかい言ってちょんまげ!」
「く、黒鳥先生のお陰です……」
「あーん! もう最高だしーんッ! 黒ちゃん気持ちイイんだしんよ!」

 椅子で身をよじらせる黒鳥。
 その動きはまるで芋虫のモンスターだ。
 参加者のほぼ半数が「本当にこいつが黒鳥先生なのか」と疑いを持ち始めているが、その理性を必死でかき消す。
 何故ならば、この講演内容に商業化のヒントが隠されているはずだと思っていた。
 黒鳥への無礼な想いのノイズは不純物、迷ってはいけないと殆どの参加者達は自分を押し殺していた。

(く、黒鳥響士郎……ここまでのモンスターか!)

 龍は拳を握る。
 リアルな承認欲求モンスターをここまで拗らせているのか。
 普通の実社会では見ることのできない、痛さと怪物っぷりに龍は戸惑っていた。

「へいっ☆ 黒鳥先生☆ 一人で盛り上がり過ぎなんだぜ☆ 大事なお話を頼むんだぜ☆」(指パッチンの連打)
「す、すまん!」

 星ヶ丘の注意に黒鳥はメガネをかけ直す。

「さて――まうざりっと君は『三日で書籍化を果たした異例の作家』として『希望の星』となっているわけだが聞こう。君はその結果をどうやって掴んだのかね?」

 黒鳥の問いにまうざりっとは答える。

「はい、僕はまず投稿サイトの攻略を徹底的に考えました」
「ほほう、それは具体的に何をどう考えたのかね?」
「黒鳥先生が講義で仰られてたことです。『読者が何を求めているのか』を調べたんです」

 まうざりっとの言葉を聞いた黒鳥。
 わざとらしく耳当てポーズをしながら尋ねた。

「ん? すまないが少し言葉を聞きとれなかった。ワンモアにもう一度! さんはい!」
「黒鳥先生が講義で仰られてたこと――『読者が何を求めているのか』です」
「デュフフフフフ!」

 その笑みは実にキモかった。
 黒鳥は『読者が何を求めているか』よりも『黒鳥先生が講義』のところにエクスタシーを感じているようだった。
 龍は「アイコンと声のイメージとまるで逆だ!」と心の中で叫んだ。
 参加者の殆どはリアルの黒鳥に奇異の目を向けながらも、この黒鳥の言葉に耳を澄ませていた。
 この講演は『Webからプロデビューする方法』というテーマで開催されている。
 ここにいるダークワナビスト達はプロ志望、故に己の血肉にしようと必死だった。

「皆が求めている内容は『転生』『追放』『ざまぁ』『令嬢』といったキーワードでした。僕はそれを軸に自分なりのアイデアを加える形で作品を書き始めました」
「グレイト! 読者が安心して手に取れる『テンプレ』をベースに、斬新なアイデアを加えるという戦略だね」
「はい。これも黒鳥先生の講義で教えてくれた通りです」

 メガネを光らせ黒鳥は満足げに頷いていた。
 彼の視線はまうざりっとに向けられているが、時折徴収を見渡して「ドヤ!」と言わんばかり。
 一人で勝手に自信に満ちた笑みを浮かべている。

「エクセレント! その調子でどんどんサクセスしてほしい。それではここで皆さんに『小説投稿サイト攻略法』をお教えしよう。これはストギルだけでなく、ウダヨミなどの他のサイトにも使える手法だぞ。そうだろ? まうざりっと君」
「はい……黒鳥先生……」

 黒鳥がニヤリとしながら右手でタクトを振る。
 星ヶ丘がどこからともなくホワイトボードを持ってきた。
 ホワイトボードの前に立つ黒鳥は意気揚々とペンを握り、勢いよく走らせた。

「クックククククッ!」

 部屋にはペンが擦れる音だけが響き渡る。
 そして、ボードには次のように書かれていた。

 ――目を引くタイトルで釣る!

 黒鳥は自信満々の笑みを浮かべて振り返る。

「小説投稿サイト攻略の真髄。それは目を引くタイトルで釣ること――私がここで例文を書いてあげよう」

 ダークワナビスト達の注目が一身に集まる。
 黒鳥はサラサラと大喜利を書き上げていく。

 ――追放された騎士、鍛えた筋肉で異世界のスイーツチャンピオンになる!
 ――引きこもりの俺が『ダンジョン経営』に挑んだら、美少女ダンジョン配信者が通い詰めてきた。
 ――婚約破棄されたけど、逆に魔王を口説いてみたら溺愛されました。

「先に必要なのは斬新なタイトルだ。ただのテンプレでは読者を惹きつけることはできない」

 黒鳥はペン先でトントンとホワイトボードを叩いた。

「私が記したこれらは、現在ストギルで流行している『追放もの』『ダンジョン配信』『令嬢もの』だ。ただし、追放ものは最近では飽きられつつあるがね」

 シャカシャカ。
 紙にペンをこすり音が一斉に響いた。
 ダークワナビスト達はメモを取っている。
 全員のメモ帳あるいはノートには、黒鳥がボードに書いたことが記されているのだろう。

「それではタイトルで惹きつけた後のことだ。ここから起承転結伴った『プロット作り』が重要で――」

 そこから黒鳥の講演という名の講義が始まった。
 以前レイヴンクラブで述べていた通り、プロット作りのコツを述べていたが内容は基本的なもので終わった。
 それよりも文字数はどれくらいだの、地の文は少なくしろだの、投稿の更新時間はどうたら、テンプレにも工夫をなどなど。
 それは黒鳥自身の創作論『書籍化を呼ぶ雄鶏』や、まうざりっと達とのサイバーラウンジで語った内容と被ることを長々と話していた。
 
(メモをとるほどの内容か。よくよく聞くと焼き回しじゃないか)

 龍は隣にいるガリメガネと鷹の目の女を見る。
 その顔は鬼気迫る表情で、黒鳥の語っている言葉をメモにとっていた。
 それは二人だけではない。
 書籍化という偉業を成し遂げたはずのカーミラとサクリンもそうであった。
 いや、ここにいるダークワナビスト達は死に物狂いで書いていたのだ。
 全員が鬼や悪魔に憑依されたかのような表情となっている。

(く、狂っている)

 書籍化がしたい。
 コミカライズ化をしたい。
 アニメ化をしたい。

 彼ら彼女らはそれを目標にしてメモをとっているのだ。
 何故そこまで参加者達は必死になるのか。
 これは想像だが『全員が人生を変えたいのだ』。
 自分の作品を商業化すれば、今の生活を一変させることが出来るという強い念だ。
 商業化に成功すれば、自分の元にはお金や人が集まる。
 そうすればつまらない日常生活は潤い、孤独な自分の承認欲求が満たされる――。
 そんな砂糖菓子のような甘い夢を見ているのだろう。

(何故そんな創作をしているんだ!)

 送られるのは『ドラゴンズQ』。
 これは龍が全員に向けた心の質問状である。
 そして、この質問状は講演に参加している者達だけではない。
 過去の龍自身に向けたメッセージでもあった。

(まうざりっと……君にまずは訊きたい)

 龍は壇上で座るまうざりっとを見ていた。
 黒鳥のつまらない講義が始まってからずっと、その瞳は虚空を見つめたままだったからである。
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