1 / 22
0章 龍眠境プロジェクト
『足りない』-1-
しおりを挟む
キミの為の、はじめに
さて……君に一つだけ大切な事を教えよう。
何よりも大事な事だ、何があっても忘れないで居て欲しい。
それは、どんな事になっても自らで死ぬ事を選んではいけないと云う事。
生きる努力を怠ってはいけない、そう云う事。
何故かという『理屈』はややこしいが、『理由』はごくごく簡単だ。
だから簡潔に伝える事が出来るし、理解して貰えると思うので教えておく。
自ら死を望んで命を絶った者は物語を、閉じる事が許されない。
終わりが失われてしまうんだ。
この世界では、死ぬ事が君の『終わり』にはならない。
君が死んでも世界は続くし、世界ある限り物語は続く。
君が勝手に命を閉じたとしても残念ながら、世界が閉じる事はない。
世界は、君の為にあるのでは無いのだからね。
君が本当に『終わり』を手に入れたいのであれば、君は自らで物語を終わらせる為に精一杯に『生きる』事だ。
生きる事を諦めて途中で投げ出してはいけない。それでは物語は終わらない。
もし中途半端に投げ出したり、未練を残したまま実質君の物語が終わってしまったらどうなるのか?
次の終わりを手に入れる為に、君は新しい始まりを得るだろう。
つまり、君の人生はもう一度違う形で繰り返される事になるだろう。
もし、それでも良いと思うならその崖を飛び降りてみると良い。
君の物語は果てしなく続くだろう。
ただそれは、とてつもない悲劇だと言う事を忘れないでいてくれ。
*** *** ***
久しぶりにパソコンを立ち上げて見る。
動作が重い、パッチやシステムスキャンが勝手に動いていてどうにも使い物にならず、私は再びその世界に触れるのを諦めた。
電源を落とすのも面倒で放置しておいて、不貞寝する。
この所よく眠れない、見る夢が悪い気がする。
ふっと、心地よい夢を見る方法を思いついたが……その甘言を必死に頭の中から追い払った。
あんなに酷い目にあったのにまだ、私はあの世界の事を考えている。
まだ、あの夢の記憶が私の中にある。
きっと足りていないのだ。あの世界の私を、まだ、殺し足りていない。
きっとどこかにまだ残っている。だから私はまだあの世界の事を考えてしまう。もう一度あそこ行くという事は、私は私を殺しに行くという事。決して甘い夢を見に行くのではない。
私は、あの世界と決別する為にあの世界の私を殺す。
さほど難しい事ではなかったはずなのに、どうにも上手くいっていない。
……方法を変えてみようか?それよりも何が悪いのか原因を突き止める方が先か?
……自分で自分を殺すからいけないのか。
では誰か、私を殺してはくれないだろうか?
酷い夢を繰り返し見ては寝返りを打って、浅い眠りの岸を移ろう。
聞き慣れない電子音が幾つか鳴るのに、私の意識は現実に戻ってくる。
放っておいたパソコンのアップデートが完了して、何度目かの再起動が終わったようだった。
そして大量のメールが届いていますよと告げている。どうせ殆どスパムとゴミだ、分かっているというのに……一縷の希望を抱いたように私は起きあがり、眩しく光るディスプレイに向かってしまう。
予想通りだ。
一気に気持ちが萎える。
こんな時、生きていくのが少しだけ辛いと感じる。
フォルダに振り分けられたメールの件名を適当に眺める。大したものはないと分かっているのに。私は何を期待しているのか。
と、受けているサービスからの広報メールの一つに目が止まった。重要度が高いというアナウンスマークに自然と、私の眼は釘づけにされている。
そのメールの件名に……私の名前が入っている。
スパムではない、これは……私向けに充てられたメールだ。私にだけ向けられている手紙だ。
驚いてダブルクリック、開いてみるとそれは……新しいサービスが開始されるという連絡と案内だった。そのサービスの名前は『龍眠境』……ドランリープとルビが振られてあった。
このサービスは完全招待制です。貴方はこの新サービスのテストプレイヤーに選ばれましたという文句に、騙されて成るものかと思いつつも……完全に心が鷲掴みにされてしまっている、私。
嘘か、本当か。
それは、ログインしてみれば分かる事。
丁度良い。
丁度、足りないと思っていた所だった。
正直新しいサービスなんてどうでもいいけれど、丁度まだ足りていないのだと悟り、不足を補うためにそこへ行く所だった。
腹いせに投げつけて行方不明になっていた端末をベッドの下から探し出し、同じく押し倒してあった本体に繋げて電源を入れる。
壊れていたらそれまでと思っていたけど、最近の家電は結構頑丈だ。問題なく機動した。
これは数年前に発売され、以後爆発的な支持を受けている家庭用ゲーム機。
支持を受けすぎて、一種社会現象にもなっていると云う。私も多分に漏れず周りの勢いに押されて手に入れた。確かに前例のない、実に不思議なゲームだ。
ゲームとは言うけど実は勝敗もステージクリアも存在しない。
これは……異世界にいけるゲーム。このゲームで出来る事は多分、ただそれだけ。
夢の中で全く見知らぬ異世界の住人に成る事が出来る。
そこで何をするのかはプレイヤーの自由。
そう、自由だ。
だから私はあの気にくわない異世界の『私』を殺しに行く。
誰も咎め無い、誰も止められない。誰も、止めてくれない。
私は『私』を殺す、現実では問題があってもあの異世界でなら自由。
自分を作っては殺す、作っては壊す。
足りない、足りない。まだまだ足りない。
永久に『私』が居なくなるまで……そんなの、私がここにいる限りずっと終わらない事はうっすらと分かっているのに。うっすらと、分かりつつあるというのに。
多分、私は死にたいのだと思う。
きっと、生きていくのが少しだけ辛いと感じているのだろう。
自分の事なのにぼんやりとそんな事を知ってしまった。
ぼやけているのは、それを知ったのが夢の中だからだ。
行こう、私はその世界に招かれている。
龍眠境、ドランリープとやらに。
さて……君に一つだけ大切な事を教えよう。
何よりも大事な事だ、何があっても忘れないで居て欲しい。
それは、どんな事になっても自らで死ぬ事を選んではいけないと云う事。
生きる努力を怠ってはいけない、そう云う事。
何故かという『理屈』はややこしいが、『理由』はごくごく簡単だ。
だから簡潔に伝える事が出来るし、理解して貰えると思うので教えておく。
自ら死を望んで命を絶った者は物語を、閉じる事が許されない。
終わりが失われてしまうんだ。
この世界では、死ぬ事が君の『終わり』にはならない。
君が死んでも世界は続くし、世界ある限り物語は続く。
君が勝手に命を閉じたとしても残念ながら、世界が閉じる事はない。
世界は、君の為にあるのでは無いのだからね。
君が本当に『終わり』を手に入れたいのであれば、君は自らで物語を終わらせる為に精一杯に『生きる』事だ。
生きる事を諦めて途中で投げ出してはいけない。それでは物語は終わらない。
もし中途半端に投げ出したり、未練を残したまま実質君の物語が終わってしまったらどうなるのか?
次の終わりを手に入れる為に、君は新しい始まりを得るだろう。
つまり、君の人生はもう一度違う形で繰り返される事になるだろう。
もし、それでも良いと思うならその崖を飛び降りてみると良い。
君の物語は果てしなく続くだろう。
ただそれは、とてつもない悲劇だと言う事を忘れないでいてくれ。
*** *** ***
久しぶりにパソコンを立ち上げて見る。
動作が重い、パッチやシステムスキャンが勝手に動いていてどうにも使い物にならず、私は再びその世界に触れるのを諦めた。
電源を落とすのも面倒で放置しておいて、不貞寝する。
この所よく眠れない、見る夢が悪い気がする。
ふっと、心地よい夢を見る方法を思いついたが……その甘言を必死に頭の中から追い払った。
あんなに酷い目にあったのにまだ、私はあの世界の事を考えている。
まだ、あの夢の記憶が私の中にある。
きっと足りていないのだ。あの世界の私を、まだ、殺し足りていない。
きっとどこかにまだ残っている。だから私はまだあの世界の事を考えてしまう。もう一度あそこ行くという事は、私は私を殺しに行くという事。決して甘い夢を見に行くのではない。
私は、あの世界と決別する為にあの世界の私を殺す。
さほど難しい事ではなかったはずなのに、どうにも上手くいっていない。
……方法を変えてみようか?それよりも何が悪いのか原因を突き止める方が先か?
……自分で自分を殺すからいけないのか。
では誰か、私を殺してはくれないだろうか?
酷い夢を繰り返し見ては寝返りを打って、浅い眠りの岸を移ろう。
聞き慣れない電子音が幾つか鳴るのに、私の意識は現実に戻ってくる。
放っておいたパソコンのアップデートが完了して、何度目かの再起動が終わったようだった。
そして大量のメールが届いていますよと告げている。どうせ殆どスパムとゴミだ、分かっているというのに……一縷の希望を抱いたように私は起きあがり、眩しく光るディスプレイに向かってしまう。
予想通りだ。
一気に気持ちが萎える。
こんな時、生きていくのが少しだけ辛いと感じる。
フォルダに振り分けられたメールの件名を適当に眺める。大したものはないと分かっているのに。私は何を期待しているのか。
と、受けているサービスからの広報メールの一つに目が止まった。重要度が高いというアナウンスマークに自然と、私の眼は釘づけにされている。
そのメールの件名に……私の名前が入っている。
スパムではない、これは……私向けに充てられたメールだ。私にだけ向けられている手紙だ。
驚いてダブルクリック、開いてみるとそれは……新しいサービスが開始されるという連絡と案内だった。そのサービスの名前は『龍眠境』……ドランリープとルビが振られてあった。
このサービスは完全招待制です。貴方はこの新サービスのテストプレイヤーに選ばれましたという文句に、騙されて成るものかと思いつつも……完全に心が鷲掴みにされてしまっている、私。
嘘か、本当か。
それは、ログインしてみれば分かる事。
丁度良い。
丁度、足りないと思っていた所だった。
正直新しいサービスなんてどうでもいいけれど、丁度まだ足りていないのだと悟り、不足を補うためにそこへ行く所だった。
腹いせに投げつけて行方不明になっていた端末をベッドの下から探し出し、同じく押し倒してあった本体に繋げて電源を入れる。
壊れていたらそれまでと思っていたけど、最近の家電は結構頑丈だ。問題なく機動した。
これは数年前に発売され、以後爆発的な支持を受けている家庭用ゲーム機。
支持を受けすぎて、一種社会現象にもなっていると云う。私も多分に漏れず周りの勢いに押されて手に入れた。確かに前例のない、実に不思議なゲームだ。
ゲームとは言うけど実は勝敗もステージクリアも存在しない。
これは……異世界にいけるゲーム。このゲームで出来る事は多分、ただそれだけ。
夢の中で全く見知らぬ異世界の住人に成る事が出来る。
そこで何をするのかはプレイヤーの自由。
そう、自由だ。
だから私はあの気にくわない異世界の『私』を殺しに行く。
誰も咎め無い、誰も止められない。誰も、止めてくれない。
私は『私』を殺す、現実では問題があってもあの異世界でなら自由。
自分を作っては殺す、作っては壊す。
足りない、足りない。まだまだ足りない。
永久に『私』が居なくなるまで……そんなの、私がここにいる限りずっと終わらない事はうっすらと分かっているのに。うっすらと、分かりつつあるというのに。
多分、私は死にたいのだと思う。
きっと、生きていくのが少しだけ辛いと感じているのだろう。
自分の事なのにぼんやりとそんな事を知ってしまった。
ぼやけているのは、それを知ったのが夢の中だからだ。
行こう、私はその世界に招かれている。
龍眠境、ドランリープとやらに。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる