異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

文字の大きさ
37 / 366
3章  トビラの夢   『ゲームオーバーにはまだ早い』

書の5前半 平和&武勲 『お前らに愛は無いのか!?』

しおりを挟む
■書の5前半■ 平和&武勲 peace & order

 不思議な奴だった。

 過去形なのは、いや何。ありがとうと一言せめて朝食でもおごってあげようと思ったのに、その朝食の席に現れなかったからどうしたんだろうと女将さんに聞いたら……。

 急ぎの用事があるとかで、さっさと町を出たって話じゃねぇか。まったく、ゆっくり湯舟に浸かっていたくせに何が急ぎの用事だよ。

 すっかり全員体調が元に戻った様だ。元気に朝飯のテーブルを囲む。塩味の効いたパンは噛むほどに甘く、野菜をチキンベースで煮込んだスープはすきっ腹に効く。シーチキンかと思ったがレッド曰く、鶏ササミのフレークだろうと突っ込まれた、ブラッドペッパーの効いたチキンペーストにパンやタンポポに似た葉をヨーグルトと思われるもので和えたサラダは口当たりも良く、食が進んだ。
「ヒーラーじゃなくて、シーラーだよ」
「何だそりゃぁ?」
 テリーは口に含んでいたものを飲み込んでから俺の言葉に聞き返してきた。ペーストや野菜をパンに挟み込みながら、マツナギも不思議そうに首をかしげる。
「医者じゃぁ無かったって事?シーラーって?てっきり医者の事なのかと思ったけど」
 なんだこいつら、ヒーラーの意味さえわかってなかったのか……。格ゲーと音ゲー専攻なお二人ですから、RPG的な知識は皆無ってわけか。
「それはぜひお会いしたかったですね、起こしてくれればよかったのに」
 と、レッド。
「まさか、すぐどっかに行っちまうとは思わなかったし……しかし何だ?シーラーってのは封印師って事だろ?」
「ええ、自らシーラーを名乗るというのは珍しいですよ。それくらい封印に特化しているという事です、興味がありますね」
「封印師かぁ……知り合いに一人いるみたいだよ」
 と、ナッツがスープを啜りながら言った。他人事みたいに言ったのは多分『思い出した』知識だからだ。
「ん、もしかしてあの封印師の事か?」
 と、テリーは手にスプーンをもったまま指差そうとして、慌ててそれを引っ込めた。……テリー本人は『がさつ』そうだが、どうも奴の背負ってるキャラクター上『がさつ行為』ができないらしい。
 見てるとそんな片鱗がうかがえて面白いぞ。スープ皿を持ち上げて啜ろうとして慌てて止めてみたりな。……もしかして、奴ぁ西国ファマメントの首都レズミオ出身ってだけあって、実は相当に育ちが良いとかいう背景を持ってるのかも知れねぇ。
 ナッツはテリーから言われて笑いながら返した。
「そう、天使教の支天祭祀の一人で緑の巨人……」
 俺は危うくスープを吹き出す所です。うおっと、ちょーと待てぇいッ!
「まさかそれ、グランソール・ワイズとか言うなよな……」
 わずかに口から漏れたスープをナプキンで抑えて俺が静かに呻くと、ナッツは一瞬驚いて目を瞬たかせてから……何時もの様にのほほんと笑った。
「あーなんだ、ワイズだったんだ」
「ワイズだったんだー、じゃねぇだろうッ!何なんだその世界の狭さは!」
「いやいや、いろいろ事情があってね、ほら。昨日話しただろ?ウチの宗教改革」
 ナッツは苦笑してスプーンを置き、ご馳走様でしたと手を合わせた。……手を合わせるのは天使教とやらの作法かと後でテリーに聞いたら、そんな作法は無いとの事。奴が食後手を合わせるのは、じゃぁリアルでの癖を持ち込んでるって事だな。……ナッツんちの実家は農家だ。
「僕が左官されたようにワイズも色々と部署移動があってね。……ミンジャンに聞いたじゃないか」
「ミンジャン?」
 突然エイオール船の船長の名前が出てきた事に、アベルが不審そうに眉を潜める。
「西で結成された魔王討伐隊」
 あー……思い出して見た所、推定俺達のライバルとなるだろう奴らだと出た。確か、リーダーが公族のぼっちゃんでランドールって名前だとか。
「ウィン家はレズミオ首都に古くから続く政治家の名門なんだ。公族って言い方は近年するようになったものだね。ファマメント国は国王制じゃなくて民主主義の国だから。それでも血統ってものが今じゃ幅を利かせてて、すっかり昔否定した国のあり方に前習えだよ」
「らしいですね」
 と、レッドが同意しているが……。辛うじてわかるのは民主主義って奴がどんな仕組みかって事くらいだな。
 ……国王制、リアル英国やウチの天皇陛下みたいな象徴じゃぁなくって、正真正銘政治の実権を握ってるのが国王って奴か?要するに偉い人間が王という血筋か、それとも庶民からなる人民かって所だろう。……割と適当で悪い、俺はゲーム以外には全く無関心なダメ人間である。頭も、はっきり言ってあんまりよくは無いから成績も良くない。社会科なんてあくびをしながら意味も無く世界地図を眺めていた記憶ばかりがある。
「それなのに公族なの?その、ランドルだったっけ?」
 アベルは俺達の推定ライバルになるだろう、相手の名前さえ良く覚えていないようだ。人間、無関心な物事には気を割かないもんである。奴の事には無関心だったか……ちょっとランドールに同情してしまいそうになった。やっぱ、無関心ってのが一番おっかないよな。
「あの時は特に思い出す事もないだろうと判定してなかったんだ。間違いなく西方で……」
 と、ナッツがふいと黙り込み、少し驚いた様に顔を上げる。
「いや、よく考えたらミンジャンから聞かされた時、関連性を考えなかったのは当然かも」
「どうしてよ」
「ウィン殿下が外遊されるという話は聞いたけど、それがまさか魔王討伐だとは僕も聞いてない。だけど……今唐突に関連付けて考えてしまったのはそういう事だね。魔王討伐だったんだな……」
「それにまさか、ついてったってんじゃぁあるまいな、あの緑の某、」
 テリーはどこか呆れた風に言った。
「ええ、身軽になったからちょっと旅に出てくるとか言って……」
「あの祭祀なら言いそうなこった」
「お前、知ってるならなんであいつを医者だなんて言ったんだよ」
「あんな適当な格好している祭祀見た事ねぇし、話し込んだ事があるわけじゃねぇみてぇだからな……まさかワイズ祭祀だと気が付かなかったんだよ。奴の事は色々噂で知ってるだけだ」
 確かにそういう唐突な事を言いそうな、軽そうな奴だった。ついでに、同じく天使教関連者であるナッツを見て俺は密かなため息を漏らした。軽いお気楽人間ばっかじゃねぇの?天使教とやらのエラい人。そんなんだから宗教改革食らっちまうんだぜ?全く……。
 小竜アインはマグの縁をその小さな手で抑え、鼻先を突っ込んでスープを啜っていた顔を上げる。小さな前足は獣の理屈でついているらしく肩より上には上がらんらしい。とどのつまりスプーンやらは使えない構造だって事だ。
「じゃぁ、ワイズさんはランドールの所に戻ったって事じゃないの?」
「ん、という事はもしかしたら近いウチに遭遇しちまう可能性アリか。近くにいるかも知れねぇって奴?」
 ついに俺達の推定ライバルパーティーとご対面か……。
「いい人だといいんですがね」
 あ、レッド。俺と同じ事を考えましたね。まぁな、普通に考えればそのランドールってののパーティーは志を共にする『魔王討伐隊』仲間だ。がしかし、きっと仲間というのは違う意味になる。

 十中八九『好敵手』って奴になると思うんだな、多分。

 そのランドールって奴は偉い家柄の公子様ってわけだろ?偉い、金持ち、パーティーリーダー。
 見事に、傲慢知己なにおいがぷんぷんする三拍子が揃ってるぜ。

「ワイズさん、どこに帰ったんだろうね?」
「意外とヘルトあたりだったらどうしようか」
 だったら鉢合わせ間違いないぞ?
「じゃ、無視しちゃえば?」
 食後のお茶に柑橘類の輪切り……見たところレモンっぽいがレモンとは違う……を入れてかき混ぜてからアベルが軽く言う。しかしコイツは相変わらずシナリオの流れって奴を考えない奴だな!彼女はRPG向けな性格してない、推定合理主義者だから余計な事はしないんだよ。

 攻略に必要な近道があったら何の迷いも無くそっちを選択する。それで躓いたら躓いたで気にしない。
 選択に失敗した事に落ち込まないのな、非常にさばさばしている。彼女が得意なのがリアルタイムで進行するアクションゲームである事もその度合いを高めている。迷ってるヒマがあるなら敵を切り捨てるタイプなのだ。前向きに言えば立ち直りが早い。悪い意味にとれば、執着心が無いって感じか。……プライドは高いのにな。

 あー、そんなんだからお前、剣を放り投げて来ちまったんだな?剣士なら自らの剣にもうちょっと愛着もったらどうだよ?
 しかし、レッドはアベルの言葉に首を振って言った。
「一応同じ魔王討伐を志す者として、交流は持つべきでしょう。何か、僕らの知らない事実を漏ら……教えてくれるかも知れません」
 無視を批判したかと思ったら、お前のランドールに向けた認識もやっぱりその程度か。
「そこらへんはなー、多分微妙だぜ?」
 俺は運ばれてきたコーヒーをブラックで啜りながら言った。と待て……いや、これコーヒーか?見た目と苦味は確かにコーヒーっぽいがなんかコクが無い。何だろう、……カフェイン中毒気味の俺にはこの飲み物の中に嗜好性カフェインを感じ取れない。
 そんな風に微妙な顔でコーヒーを飲んでいると、レッドも運ばれてきたコーヒーに目をやり、手に取る。
「確かに、もし僕が相手の立場であれば情報交換はギブアンドテイク……それ相応の情報をもたらしてこそでしょうね」
 そして、やはりレッドもコーヒーを口に含んで微妙な顔をした。
「無闇にこちらの情報をあちらに漏らすつもりは在りません……それは、相手も同じですか。シーミリオンの女王の件もあります。あまり詳しい話はできないかもしれませんね……」
「レッド、何だこの飲み物?」
 俺は仕方なく砂糖を少し入れて飲みつづけている、黒い液体を指差した。
「菊苦菜茶です」
 キクニガナチャ。レッドはあっさり答えを告げた。流石はレッド、百科事典の渾名はダテじゃねぇ。しかし、一瞬どっかの方言かと思った通り、ぶっちゃけ何の事かさっぱり。
「何だそれ?」
「わかり易く言えばチコリ茶……ええと、もしくはタンポポコーヒーとも言います。ほら、あそこにも生えてる」
 指で示された窓際に……見慣れない青い花が咲いていてた。タンポポという俺の、日本人的な感覚を見事に裏切る造形をしているな……花の色も青だし。
「聞いた事ねぇぞ?こっち特有の植物か?」
「いえ、リアルでも飲まれていますよ。ノンカフェインなのが特徴ですし、ブレンド茶なんかにも配合されているじゃないですか。確かにどこにでも生えている様な雑草ですが立派な薬草でもありますからね」
 その後レッドからこっちの世界のコーヒー豆の産地についての講釈から、それらの物資の流れひいては各国でのレートの話になり、様々な事を畳み掛けられた後に……このような飲み物が開発された事をガッテンさせられた。

 あーもう、魔導師って奴ぁこれだから!


 とにかく、もしそのランドールって奴がリーダーの魔王討伐隊に会っちまったら、だな。
 とりあえずお互いの身の上は隠して、ワイズに顔を合わせたら世話になった事から話を切り出してみようって事になった。

 何しろナッツの話だと、ランドールが魔王討伐隊としてパーティ組んだって話はどうやら公になってないっぽいからな。奴らは極秘で動いてる可能性もある。
 そんな裏情報を把握していたエイオール情報網はすげぇな!そうそう、俺達の無事をミンジャンに伝えなきゃいけねぇ。ミンの方でも何かわかったら教えるって約束してくれたしな。

 俺達は昼前には温泉の町スウィートを後にした。客がいなくて手持ち無沙汰なのか、宿屋の女将さんはお弁当まで包んでくれた。
 ありがたく頂戴して、すぐ近くの国境ヘルトを目指す。そんな遠くないらしい。ゆっくり歩いて、途中お弁当を広げてピクニック気分でも夕方までに町に入れるそうだ。
 実際距離は30キロ強だってよ。それって近いのか?遠いのか?
 なんだか聞きなれた距離の単位で聞いちまうと、いまいち距離感が計れない。そんな事を道中ぼやいたら、大体東京から横浜までの直進距離くらいですとレッドが教えてくれた。それでも実感沸きません。だって電車に乗ってしか移動した事ねぇし。それを徒歩だもんなぁ、うーむ……俺はエラく遠くに感じるんだがレッド曰く、とんでもなく近所だと力説された。そんなもんか?

 長閑な平原が、北側に続いている。

 その奥は断崖絶壁で海になってるが、吹く潮風は穏やかだ。南側は森になっているが、抜けた所に内海があるんだとか。しばらく杜や、農家が点在する草の生えた石畳の道を進んでいくとぼんやりと海際に町が見えてきた。

 そこはずいぶんと大きな町だ。スウィートや、レイダーカ城下町なんか目じゃねぇよ。
 あれで主要都市ってわけじゃねぇってんだから、今まで俺達は本当、辺境を旅して来たんだなぁってのを実感する。

「灰海境がありますからきっと『ふくろうの店』があるはずです」
 ハイカイキョウ、は世界に八つ数える海の一つで、地図で見た感じイメージとしては地中海とか、紅海みたいな大陸と大陸の間にある感じの海だな。

 町がすぐそこに見えるもんで、女将さん特製弁当を食べた後ペースアップしちまったみたいだ。夕暮れに町が赤く染まる頃には、俺達はヘルトの町外れまでやって来ていた。町が大きければそれを維持する農民の村落もだだっ広くなる訳だ。宿は、例の灰海境っていう内海の近くの都市部まで行ってから探そう。ミンジャンの情報屋もきっと海の近くにあるだろうしな。
 その情報屋『ふくろうの店』ってのはエイオール船の各町での拠点の事だと聞いている。
「拠点を決めたら、ちょっと情報収集にみんなで動いてみようか」
 と、ナッツが提案して来る。
「あ、あたしはいいわ……また迷うと迷惑かけるもの」
「迷わない奴と一緒に行けばいいだろ?なんだよ、宿屋から一歩も町に出ないつもりか?」
 俺はヘルトが大きな町である事にワクワクドキドキだぜ?新しい街に着いたら基本くまなく探索するだろうが、タンス類は開けるし壺や樽は割ってみるべきである。
「あまり悠長にやっているヒマはありませんからね、僕も何手かに分かれてそれぞれに情報を収集した方が良いと思います」
 アベルは困った顔をしながらも、レッドの言葉にその通りだと認めた様だ。
「何を調べればいいの?」
「そうですね、まずはふくろうの店の場所。それから僅かでも西国の魔王の情報と、南国についても抑えたい所ですね。この三つを同時に早急に解決し、僕らはすぐにも南国を目指さなければいけない」
 ユーステル女王を救い出すために。ゲームだと、次のイベントを進めるまで悠長にレベルアップなんかしたりするがな。リアルタイムだからのんびり下準備やってる場合じゃねぇ。
「っても、ふくろうの店にしたってどうやって探せばいいんだよ。人に聞いて回るってのか?」
 テリーが腕を組んだまま肩をすくめる。その背中に相変わらずしがみついているアインがテリーの頭を小突いた。
「情報収集なら酒場よねぇ。ね、レッド」
「そうですね……確かに少々漠然とした目的というのも否めません。ましてや情報収集に長けたスキルを全員が持っているわけでもないのでしょうし……」
「とりあえず僕は何とかなるだろう。レッドも大丈夫だよね?」
 ナッツの言葉にレッドは頷いた。うむ、最低でも二手って所だな。
「他に探索系の技能を持ってるのは?」
 と、ナッツが振り返った所、さっと手が挙がったのは……赤いドラゴンの翼。
「はいはい~、あたし鼻が利きます」
「……この前、アベルと一緒に迷子になりかけたのはどこのどいつだ?」
『いえ、確かにアインさんの感覚意識は人のそれとは格段に能力が違います。前回もアインさんが昼食の匂いを嗅ぎ取って無事に戻って来れたんですよ』
 おお、なんか懐かしいな。メージンのフォローに俺達は頷いた。
「よし、じゃぁテリーとお前らでミンの店探しとけ」
「ちょっと待て、なんで俺とコイツがペアで決まりなんだよ」
「いいじゃん、今だって頭の上に乗っけてる訳だし」
「ううん、あたしはテリーとは別で行くわ。多分その方がテリーは動き易い筈よ?」
 え?何でだよ?そんな疑問の顔を浮かべた俺とテリー。すると、メージンがアインの意図を教えてくれる。
『ここは西方国ファマメントのお膝元です。西方人のテリーさんが魔物を引き連れていると、少々余計な詮索を受ける羽目になるかもしれません』
 ふぅん、そんなもんか。テリーもメージンからのコメントにそれもそうだと頭を掻きつつ納得した。
「……じゃぁ、どうするよ?」


 宿屋を決めて、早速俺達は三手に分かれ夕暮れ時の町へ繰り出した。

 レッドは南方の事情を探りに、ヘルトを守る兵隊達が詰めている区画へ向かい、その近辺の酒場を回ってくると言う。兵士相手なら外交的な話題は多いだろうとレッドが踏んだのだ。よって、これには用心棒も兼ねてテリーとマツナギが着いて行った。酒場っていうと荒くれ者が多いってイメージだからな。テリー位ごっついキャラクターが傍に居た方が違和感は無いだろう。だがバランスという意味ではちょっとよくない。テリーだと、ヘタにケンカを買っちまいそうで怖い。レッドが付いているにしろ、奴は奴で差し支えが無い部分まではそれを容認しちまいそうだ。そこで北方の傭兵戦士でもあるマツナギもついて行く事になったのだ。
 ついでに、酒に強いかどうかも確認してくるとの事。
 おおいマツナギ。お前、リアル未成年なんだったら無茶すんじゃねぇぞーと、心の中でちょっと心配してしまう俺。何はともあれ頼むぞマツナギ、ちゃんとテリーとレッドの暴走を止めるんだぞ!

 では、僕は自国の様子でも見てきますとナッツは顔の利くらしい天使教の礼拝場などを主に周ってみるという事だ。
 これには……よく考えたら、同行者が選べない状況だ。天使教は魔種が聖堂に入る事を嫌うらしいからな。俺がついていってもいいけど、そうするとこの前の迷子ペアが残っちまう。
 有翼族はいーのかよ?と言いたい所だが、奴の背景的な事情特別扱いなのは目に見えてる。これはしかたなくナッツだけで行く事になった。

 というわけで、俺は今胸にドラゴンをだき抱えつつ、アベルを隣に港に向けて歩いている訳だ。
 よりにもよってこの面子。案の定ナッツが何か言いたそうにしてるから先手を打って、ケンカなんかしないと安心させるべく笑って言ったら……。奴が更にちょっと心配そうに苦笑したのが忘れられない。そんなに俺は信用が無いんですかぃ。
 あたしがケンカさせないようにする、心配しないで。と、アベルに聞こえないようにアインがナッツにウインクして囁いた。ドラゴンでも、ウインクするもんなんだな。
 しかし、それで納得するってのもひどい話じゃねぇか?ナッツ。

 夕暮れ時だってのに、町は未だに活気を失っていない。
 店を畳む所も多いが、逆に明かりを灯し始める店もあった。道には船着き場から歩いてくる、船乗りと思しき者たちが溢れている。これから開店する店は大体夜の飲み屋って感じだな。
 俺達が探すのはふくろうの店だ。船乗りミンジャンの各町での拠点で、会員制の情報屋。レッドの話ではあまり公の場には無いので、探すのに苦労するかもしれないとこの事だ。唯一目印になるのがふくろうの看板なんだと。
 だからエイオール情報屋は『ふくろうの店』と呼ばれるって訳だよ。逆にいうとヘタすりゃそのふくろう看板しか目印が無い、とも言える。
 人に聞けばああそれはあそこだよと教えてもらえる程、表立って構えている店じゃないらしい。看板の大きさは国によるらしいがどうも……ファマメント国北方では、エイオール船はあんまり大手を振って仕事を出来ない状況らしいな。
 このヘルトの町一帯はトライアン地方とも呼ばれたりするんだが、そのトライアンというのがまだ北西に『国』として機能していた頃にだな、エイオール船はこの国から海賊指定を受け、散々追いまわされた歴史があるらしいのだ。


「ふくろうって、あの目がまん丸でお面みたいな顔の鳥でいいのよね?」
 と、アベル。俺は小首をかしげた。
「何言ってんのそれ?」
「あー、多分こっちの世界のふくろうと、あたしたちの知ってるリアル知識のふくろうは同じだよね?って事を聞いたのよね」
 ねぇアベちゃんと、アインがすかさずフォロー……だろうな。うん、彼女がフォローしてなかったら俺はアベルの言葉の意味を計り損ねてやっぱり……ケンカになってた所だろう。

 どーもコイツとの意思疎通が苦手なんだよな。苦手なのにどーして俺はこいつと腐れ縁をやってるんだ?

「ふくろうって、アレだろ?額に印を持った魔法使いが使い魔として飼っている事で有名な白……」
「ヤト、それ以上はいろいろとアレだから止めといて。オッケー、ふくろうはアレでいいのよね」
「ああ、こっちの世界でもアレがふくろうだ」
 田舎オブ田舎、コウリーリス国は森の国であるからして。コウリーリスじゃぁフクロウは夜のご近所さんだぜ。と、戦士ヤトの記憶が申しております。
「暗くてよくわかんねぇぞ?」
「あたしは夜目も利くのよ、アイもそうでしょ?」
「うん、人間よりは」
 と、胸の中の小竜に言われて、人間の俺はちょっとだけ精神面にダメージを受けるんですが……。ああ、やっぱ人間なんてありきたりなキャラを選ぶんじゃなかった。いまさら後悔してもしょーが無い、何しろ作り直す事はできない。
 リュステルの話がマジで、後天的に魔種になる為の何らかの特別イベントでもこなさないと俺は、死ぬまで人間キャラなんだ。
 メージンから釘打ちされてる、一度立てたキャラクターはそれが死ぬまで変更は出来ない。というか、死んだら別のキャラを立て直さなきゃいけないというのが実際の話。
 当然、経験値を引き継いだりするような継承システムは無い。屍を超えて行く様な小細工もなければアイテムの転用も出来ない。
 システムはシビアだ。だから当然キャラクタは死なない様に作らなきゃいけないわけですよ。それなのに、基本設定が低い人間種族を選ぶってのはある意味、ただの物好きになるんだよな……実際。
 この魔種圧倒的有利の中で、むしろ魔種でキャラを作れといわんばかりの世界設定の中で、俺はきっと人間キャラは誰も選ばないだろと思ってこれにしちゃったんだよね。……そういう、よく人からアホと言われる選択肢が大好きなのよ俺。
「あんたはダメ元でそこら辺の人にあたってみてよ」
「ダメ元言うな」
 と、俺は喚きつつあたりを伺う。港へまっすぐに続く大通りに出た様だ。大きな馬が引く荷馬車が車の往来のように中央を走っている。人々の流れは通り沿いに並ぶ宿屋や商店、それらから路地に逸れた所にある飲み屋やパブなんかを手繰る様に、端に沿って流れていた。
 晧々と部屋の中から漏れる光がショーウィンドゥから漏れ出て、暗闇に目が慣れて来るとそれ程暗い町じゃないのに気が付く。ガス灯なのかそれとも魔法系の光なのかよくわからないが、明かりを齎す照明器具も大通りなら所々見受けられた。
 ネオンみたいな点滅する看板なんかもある。ネオンみたいなだけで、実際にはちょっと仕組みが違う様だ……うーむ、どういう理屈であんなにカラフルに点滅してるんだろう?やっぱり魔法だろうか?
 俺は、すっかりフクロウ看板を探さずに町観察をやってます。……いや、多分アベルもアインも実際は俺と同じような事してるに違いない。
「あ、」
「どうしたの?」
 俺がやっぱり関係の無い事で足を止めると、アベルは俺が目を留めた飾り窓を覗き込む。
「あら、」
 ほら。こいつらもフツーにこの町の観光してるし。俺が余計なものに目を奪われたのを、特に咎めないってのがまさしくその証拠だ。その流れを悟りつつ、ガラスの向こうに指を差す。
「……ちょっと寄ってもいいか?」
 さすがに怒るかなぁと思って振り返ったら、何か珍しいものでも見るような顔でアベルは苦笑した。
「ええ、ちょっとだけならいいんじゃない?」
 うーん。奴の行動が未だ、上手く読めない。さすがに余計な寄り道はダメだと怒られるかと思ったのに。すんなりオッケーが出ちゃいましたよ?でも戦略が無いわけでもない。買い物をして、上手くこの辺りの地理を聞くってのも作戦的にはイケてると思うんだよね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛

タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。 しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。 前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。 魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。

あざとしの副軍師オデット 〜脳筋2メートル義姉に溺愛され、婚外子から逆転成り上がる〜

水戸直樹
ファンタジー
母が伯爵の後妻になったその日から、 私は“伯爵家の次女”になった。 貴族の愛人の娘として育った私、オデットはずっと準備してきた。 義姉を陥れ、この家でのし上がるために。 ――その計画は、初日で狂った。 義姉ジャイアナが、想定の百倍、規格外だったからだ。 ◆ 身長二メートル超 ◆ 全身が岩のような筋肉 ◆ 天真爛漫で甘えん坊 ◆ しかも前世で“筋肉を極めた転生者” 圧倒的に強いのに、驚くほど無防備。 気づけば私は、この“脳筋大型犬”を 陥れるどころか、守りたくなっていた。 しかも当の本人は―― 「オデットは私が守るのだ!」 と、全力で溺愛してくる始末。 あざとい悪知恵 × 脳筋パワー。 正反対の義姉妹が、互いを守るために手を組む。 婚外子から始まる成り上がりファンタジー。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...