異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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3章  トビラの夢   『ゲームオーバーにはまだ早い』

書の5後半 平和&武勲 『お前らに愛は無いのか!?』

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■書の5後半■ 平和&武勲 peace & order

 その後、俺達はなんとか『ふくろうの店』を発見したのだが、残念ながら扉は硬く閉まっていた。
 すっかり空には星が瞬いている時刻だったし……とりあえず場所だけ確認して、明日予定を組んでまた皆で来る事にしよう。
 さすが時代は中世。
 夜になればネオン瞬く不夜城のごとくに町がライトアップされるはずもなく、ふくろうの店があった裏通りなんか真っ暗で、あの夕暮れ時の活気は幻かと思えるほど静かだ。暗視とかいう特技も無い俺は、その薄暗さに正直ちょっと困っている。
 周りの様子が見えないとなるとさっぱり帰り道が分からないのだ。いかん、これではこの方向音痴二人組みと大差ないぞ俺!
「すっかり遅くなったわねー」
 しかしアベルは空に瞬く星をうっとりと眺めながら気楽に言う。おいおい、お前ら状況分かってるのか?俺達夜の町で迷子確定カウントダウン中なんだぞッ?
「テリーは宿に帰ったかな?」
「そんなに夜遅くまでふらついたりはしないと思うわよ」
「じゃぁ、帰りましょうか」
 アインはそう言って俺の胸の中で首を伸ばして鼻を鳴らす。
「……何してらっしゃいますか?」
 彼女の謎の行動に、俺の訝しんだ疑問符。
「何って、テリーの匂いを探って帰るのよ」
「ッはァーッ?」
 俺は驚くよりも呆れた声を上げてしまった。
「いつも肩に乗ってたから自信あるわ。大丈夫、ちゃんとそのうちヤトの匂いも覚えておくわ」
 ちょっと待てアイン。それってドラゴンの特技じゃなくてどっちかって言うと、ドッグとかの特技かと思われるんですがどうよ?
「微妙よね」
 アベルが素っ気無く言った。ああ、俺も微妙だと思う。


 鼻が利くというアインの主張はマジらしい。ふくろう看板探してあっちこっちこっちにフラフラと港町をさまよっていた俺達だったが、拠点とした宿屋の場所からは案外離れていなかった。
 二十分程歩くと見慣れた大通りに出ている。ここまでくれば俺でも分かる、ほら、もうあそこに俺達が泊まるべき宿屋が見えるぜ。
 ガスか魔法か、よく分からない灯火が照らす宿屋の前にある広場には、馬や馬車などが泊められている。もともとそういう家畜を休ませる場所らしい。アインが鼻を鳴らし首を伸ばした。
「テリー?」
「よぅ、」
 と、なぜか宿屋の外にテリーがいる。大きな木に寄り掛っている所、ひょいと顔を出して来た。アインから呼びかけられて顔を覗かせた通り、こっちからは見えない場所にいたのだが……アイン、本当に匂いで人の居場所がわかるんだな。
「まだナッツとか戻って無いのか?」
「いや、戻ってるぜ」
 そう言って、テリーはなぜか視線を逸らして宿屋の方を顎でしゃくる。
「あたし達で最後か、ほら、中に入ろうよ」
 なぜか木に寄り掛ってそこを動こうとしないテリー。おいおい、どうしたってんだ?
「まずい展開だぜ全く……おいヤト、お前アドミニボーナス背景についてのルールは読んだか?」
「何だそれ?」
「読んでねぇのかよ……」
「だって、こいつ説明書読まないもの」
 うっせぇアベル。お前だって似たようなもんだろうが、この攻略本音痴が!
「レベルが高くなればなる程、こっちの世界の事情に深くかかわる事になって、特殊背景が増える……って奴でしょ?」
 アインの言葉にソレだとテリーは指を軽く鳴らす。
「それが、どうかしたのかよ」
 するとテリーは額に手をやって自嘲気味に口を笑わせた。
「名前聞いててどうも怪しいなぁとは思ってたが、案の定だ。しかもまさか同じ宿屋に泊まる羽目になるとは、酷ぇ偶然もあったもんだぜ……。ワイズが居やがるぞ」
「何?」
 つまりそれって、この宿屋に例の推定ライバルのパーティー、ランドールご一行が居るって奴か!俺はテリーの事なんかそっちのけで、宿屋の入り口に足を向けていた。


 宿屋の1階部分は飲食店兼飲み屋経営、というのは多い作りなのだが……そこが大変な事になっていた。
「うわッ」
 入るなり立ちはだかる人の壁。異様な雰囲気に俺は気圧された。
「何これ?」
「ああ、戻りましたね」
 入り口のすぐ傍にある階段の所で、レッドが座って待っていた様だ。
「何の騒ぎだこりゃ?」
「テリーさんから聞いたでしょう?ランドールパーティご一行様歓迎万歳祝賀会、とでも言った所ですかね」
 冷ややかな視線でレッドは黒山の向こうを見やる。
「何だこの異様な人気っぷりは」
 ここからでは奴らの顔が拝めないどころか、何を話しているのかもよくわからん。だが、集まっている人達は一様にどよめいたり、うなずいたり、笑ったり歓声を上げたりしている。

 後から入ってきた地方の勇者には見向きもしない。

 オーラか、オーラが足りないのか?勇者オーラはどうやったら発する事が出来るだろう、等とちょっと本気で考えてしまった俺ですが何か。
「先日近辺の町フェリアが魔王軍に襲われたらしいですね。ヘルトでも派兵したそうですが特に、前線に出る必要は無かったそうですよ……彼らが」
 レッドは、遠く見えない勇者ご一行を指差す。ちなみにフェリアとはファマメント国を守護する三都市と呼ばれる街の一つだ。俺でも知ってる。詳しい場所は分からんがな。
「フェリアを攻めて来た魔王八星とその魔物軍団を、瞬く間に蹴散らしたそうです」
 ほほぅ、そりゃぁすげぇ。俺は正直に関心し、奴らの面を拝もうと背を伸ばしたが……一向にドレなのかよくわからん。レッドはそんな俺達に手招きする。ああなる程、階段をちょっと上がると一階の様子が一望できるわけな。そこにも登って座り込んでる客が居るが、下にいるよりは見渡せる。
 すると奥にあるカウンター席に、見覚えのある緑髪の巨人を真っ先に見つけちまった。ちなみに巨人とは言われてるらしいが、進撃してくるようなサイズではない。バスケットボール選手並みに背が高い、位だ。
 ワイズは俺達に目ざとく気が付いたらしく、俺達にだけ分かる程度に会釈する。
「どうやら、あの中央の黒髪の青年がランドールですね」
 ああ、明らかに生意気そうな良い鎧を来た戦士が、何やら饒舌に語っているのが見えるぞ。その脇にテリーみたいな金髪碧眼の戦士と、黄緑色の美しい長い髪を肩に流した森貴族種の美人。それから……竜面かあれ?恰好からすると魔導師か?何やら、確かにあまり見かけない様な種の奴らが腰掛けている。
「それっておかしくない?」
 アベルが眉をひそめる。……何がおかしいのか俺にはわからんが、と、レッドは俺とアベルの手を引いて階段の上へ誘った。
「こんな所で立ち話も何です、大体彼らの観察は終わりましたから……部屋に戻りましょう。ふくろうの店はどうでした?」
「ああ、何とか見つけてきたぜ。入れなかったけど」


 部屋は2階の表通りに面した部屋だ。
 いつも通り二部屋確保して、今は片方に集まっている。
 アインが窓際に飛んでいくと、コツコツとガラス戸を叩いた。
「開けるのかい?」
 マツナギがカーテンを開けて止め具を外し、少し軋む窓を開ける。アインが何を言いたかったのか察したようにこっちに振り返った。
「ここからテリーを入れたら、怒られるかな?」
「いいんじゃね?入れるなら」
 2階相当なら奴の実力上簡単に手が届くだろう。見た感じ、そういう外からの進入に無防備な作りの建物だったのは否めない。平和なんだろうなぁ、この町。

 どうも、奴はあのご一行と顔を合わせたくないらしい。

 冷たい空気の入り込む窓からアインが飛び立った。それから暫くしてそのアインを肩に乗せたテリーが2階の窓に手を掛け登ってくる。
「助かったぜ、さすがに寒くなって来てどうしようかと思ってた所だ」
「何だってんだよ、どうせ中から入っても黒山で、こっちの様子には気がついて無いっぽかったぜ?」
「分かんねぇだろ?ワイズの奴は速攻に気が付きやがったし。むしろ、奴が俺の事ばらして無いかの方が気掛りだ……言わねぇよな?そこまで性格悪くねぇよなあの祭祀?」
「ワイズなら、事情を察してるだろうから大丈夫だと思うよ」
 ナッツが苦笑して開けた窓を再び閉める。
「だから、何だって?」
「ランドールってあれ、フレイムトライブじゃないの」
 アベルが手に腰を当て不機嫌に言った。フレイムトライブ……思い出さなくてもこれは説明できる。南国人ってのと同義語だ。レッドがまさしくそのフレイムトライブだな、南国に住んでた貴族種と人間の混血から生まれた種族の事を言う。
 って待て、そうか。じゃぁランドールは南国人って事だよな?西方公族認定の魔王討伐隊って話だと、リーダーはやっぱり西方人じゃなきゃいけない所だろ?ファマメント国は実の所魔種嫌いらしいもんな。
 所が、フレイムトライブはれっきとした魔種だ。
「ウィン家の人間は、南国人なのかい?」
 マツナギが首をかしげる。そう、問題はソレだ。
「……あのな、俺の背景語っていいか?」
 テリーが深いため息を漏らす。……ぬ、何か嫌な予感。
「俺ぁいろいろあってだな、実家を飛び出してきている設定なわけでよ」
 うん、こいつが家出格闘バカっていう背景は、俺も知ってるんだが……。
「その実家が実は『ウィン』だったりするんだ」
 来たッ、やっぱりエラい所の坊っちゃん設定!そんな気配はしてたもんなぁ、お前。レッドが天に視線を向けて眉を潜めた。
「という事は、あの純西方人は……」
「俺の兄設定だな、どうやら」
 思い出している知識なので、やっぱりどこか他人事の様にテリーは愚痴った。と言う事は、ウィン家のエラい人はランドールの事じゃなかった的な話か?
「それがコソコソ逃げる理由になるのか?何かよっぽど因縁があるとか」
「あるに決まってんだろう、十年近く音信不通にしてんだよ俺は!いくら設定とはいえ、何喋っていいか分からねぇよ!大体、なんでウィン家が魔王討伐なんか行かなきゃいけねぇんだと思ってたら……案の定裏があるじゃねぇか」
「裏?」
 レッドは俺の疑問の声に頷いて、まずは集めてきた情報を整理しましょうと、どこから買ってきたのか地図を広げた。


 どうも現在進行形で魔王軍はファマメント国を侵攻しているらしいな。
 軍ってのが厄介な度合いを示してる。今やそれは軍隊として、統率が取れた一群をなしている、って事だろ?それ程にまで先方は急成長を遂げているって訳だ。

 レッドは買って来た西方地図に遠慮なく、赤インクのペンでなにやら書き込んでいく。
 地図の下の方にディアス国とカルケード国の領土も一部書いてあるのだが、その三国、ファマメント、カルケード、ディアスの境界付近にあるディアスの町タトラメルツをレッドは丸く囲んだ。
「ここが現在判明している西方においての魔王軍拠点」
 そこからさらに北へ、レッドは線を引いていく。
「ここからルドランに向けた穀倉地帯をじわじわと制圧し、近年ファマメント国がお膝元リューストにまで魔手が伸びつつあります。これにより、現在魔王軍の目的はファマメント政府制圧であろうという見方が濃厚です」
「拠点分かってんならさっさとぶっ潰しに行けばいいじゃねぇか」
 俺の率直な意見に、レッドは分かっていませんねぇと言う風に首を振る。トントンと、ペン先でタトラメルツ近辺を叩きながら言った。
「場所が悪い、元々昔からこの三国は仲が良くないのです。戦争だって何度かやっている。ましてやタトラメルツは元々ディアス国ではなくコウリーリス国の町ですよ?知りませんかね、数百年前にディアスが制圧した地域なのですが、カルケード、ファマメントの領地に接するために治安が良くない所です」
 うーむ、悪いが知らん。おかしいな、俺コウリーリス出身なのになぜかそんな話は聞いた事が無い。
 というか思い出してみるとコウリーリスってのは連環国で、衆郡国よりも町同士の連帯が希薄なんだった。ある意味どこの国にも属さない独立地域の塊がコウリーリスだ。
 更に思い出してみると、タトラメルツっていうのは元々古い系統の国家なんだが、色々古い因習から西国に属せない背景があり、コウリーリス側に撤退した町だよな。
 それを比較的近年、ディアス国が強引に傘下に加えたんだ。
「タトラメルツって、魔王の本拠地とはいえ今はディアス国領土だからね。ファマメントはディアスにケンカ売るわけにも行かないから不用意に手出しは出来ない。ディアスもディアスで、自国に被害が出ないからあえて放置」
「そこにファマメント国とカルケード国の戦争の噂です。明らかにこの背後には魔王の手が見え見えですね。魔王軍からも攻撃を受けているのに、今カルケードから攻め入られたらファマメントは一溜まりも無いでしょう。全てに置いてタイミングが良すぎる」
「誰が得すんだよ?」
「現時点、損をするのは圧倒的にファマメントです。カルケードが得をするか、それとも最初に領土を魔王に開け渡したディアスが黒幕か……全く、暗黒時代の幕開けですねぇ」
 何かお前、他人事みたいに言うよなぁ。まぁ確かに傭兵紛いである冒険者なんてモンは、そういう闘争時こそ掻き入れ時だったりするものの。 でも俺達イシュタル国認定魔王討伐隊すなわち、勇者ご一行だぜ?
 戦争だなんだって、そんなのに構ってる場合じゃねぇだろ?
「参りましたね、このままだと間違いなく戦争の流れに巻き込まれてしまいます」
 ……何でだよ。いいじゃん、そのまま魔王軍本拠地とか言うタトラメルツに切り込みに行ってみりゃ?
 俺のそんな意見は口に出さずとも、顔に書いてあるとでも言うのか。
 レッドは俺に向けて盛大なため息を漏らした。
「僕らの目的地は南国カルケードですよ?キリュウさんからの情報を信じれば、すでにカルケードは魔王の手に落ちているとも考えられます。そして単純に考えてディアス国の領土であるタトラメルツも魔王に占拠されているとなれば、当然ディアスも怪しいでしょう。シーミリオンだって国の中心はすでに魔王ギルから抑えられている、もしこれでシェイディも魔王の手に落ちているなら、ファマメントは西国唯一の良心。ここを失えば国の大半が魔王の手中にあるといっても過言ではない。魔王というオブジェクトは大きく、広く世界に分布しすぎています。個人である僕らに出来る事はすでに限られている」
 俺はレッドを一瞥する。……奴は冗談で言ってるんではない、本気で現状を述べたのだろう。
「だから何だ?魔王討伐はもう手に負えない、諦めるってのか?」
「……そういう訳ではありません」
 いつもの無い眼鏡を押し上げる仕草でレッドは顔を隠す。
「ただ魔王八星めがけて突進しようにも、その間に国同士の諍いがあります。僕らは嫌でも戦争に荷担して動かざるを得なくなるでしょう。もう、個人で動ける範囲を越えている……ランドールパーティがその良い例です。恐らく今回初めて彼らは舞台の表に立った。今までは魔王討伐隊という事は伏せて動いて来た筈ですが、ついに民衆の前に立ちその力を見せたのです」
「どういう意味だ」
「今彼らは魔王討伐という肩書きを持つ英雄になった、混乱に乗じてファマメント国へ食い込む事が真の目的でしょう。魔王が現れて得している者の一人ですね」
 そう言ってレッドはテリーに目を向けた。向けられた方は深いため息を漏らしている。
「いまいち要領を得ないわ、結局あの下の奴らは何なの?魔王討伐隊じゃないの?」
「いずれ討伐する気にはなるだろうがな、しばらくは無理だ。とりあえずタトラメルツの件は奴らに任せておけるだろうがな」
 と、答えたのはテリーである所、どうにも奴は何やら知ってるっぽいな。
 何だろう、ランドールご一行が想像通りに『嫌な奴ら』だというのは当ってるんだろうが、それでいて何が問題なのだろうかと考えて俺は、気が付いて顔を上げた。
「奴ら、魔王を食い物にしてやがるな?」
「そうですね、そうとも言えます」
 つまりランドールご一行ってのは、魔王が現れた混乱に乗じ強い仲間をそろえて颯爽と現れては、国に恩義を売って国の政治に食い込もうとしている……典型的な英雄を目指したご一行って事か!
「フェリア初登場?今まで散々町が蹂躙されているのに?」
 レッドとナッツはその通りだとゆっくり頷く。
「リューストが攻められ、やや壊滅的なダメージをファマメント国が受けた所、勢い付いた魔王軍の進行をフェリアで徹底的に叩きのめして反撃に転じる。……実に、宣伝効果の高い登場の仕方だと思いませんか?」
「悪徳だ、」
「戦略的ですよ」
 レッドは澄ました顔で言うが、俺は素直に嫌な顔をした。
 平和の為に武勲を立てる、でもそんなやり方じゃ愛がねぇ。愛が無いのに、目の前の事実に民衆は、救世主に愛という救いを求めるってか?奴ら、ファマメント国以外を救おうとは考えてねぇってわけだろ?そんな泥臭い英雄でいいのか民衆? しかし、それになんでファマメント国の公族に数えられてるウィン家の人間がいて、高位神官のワイズも付き合ってるんだよ。
「魔王というのは、もうすでに広範囲に広がっている勢力なんだ。個人で制圧できるものじゃない、国を挙げて対立すべき勢力になっているんだろう」
 ナッツは冷静に地図を眺める。
「仕方が無い事なんだよ。多分ランドールの様な英雄が必要で、魔王退治には長期的な視野が必要だと……ワイズは考えたんだろうね。ウィン家が居るのもそういった所だろうし、その背景にあるファマメント国でも考えは一致しているのかもしれない。ひいては、その更に背後にある『ファマメント』の手引きもあると思うな……」
 英雄爆誕の黒幕はファマメント国そのものだ、って云うのか。
「そうですね、そして魔王側もそのように徹底した対立姿勢を打ち出してきたファマメント国に対し、早くも揺さぶりを掛けている。カルケードが出兵するという噂はその様にして生まれた動きに違いありません。ランドール率いる部隊に応じた策として、南国が利用されている。ヤト、どうやら僕らは彼らの裏方仕事に回らないといけないようです」
 ああ、なんとなく役どころが分かってきたぜ。つまりあいつらが表で派手に魔王相手に立ち回る裏で、真に俺達が魔王に近づき手を打つってんだろう?
 いいじゃねぇか、それこそ真打ち登場って感じだぜ。

 ……歴史的には目立たない訳だけどな。

 でも俺は、武勲は正直言って欲しいけどその為に愛を捨てたりはしない。勇者に必要なのは、第一に愛、第二に勇気、そして最後に根性だ。
 待ってろよ!いずれ表舞台で、真の勇者がどちらなのか思い知らせてやるからな!

「カルケードに急ぎましょう、キリュウさんの手紙を早急に渡し、何らかのイベントを起こす必要があります」
 グリーンフラグのついている手紙をレッドは机に置く。
 緑色はイベント開始プログラムだ。進行中のガイドであるイエローフラグとは権限が違う。グリーンフラグが立つという事は、それだけ重要な役割をこのアイテムが担っているという事である。
 実際、何が起こるのかは分からないけど。


 さて、それで。早速明日はミンジャンの店に寄って、さっさと南国カルケードを進路に取る予定な訳だが……。


 だからって奴らと顔を合わせずに出発するなんて、同じ宿屋に泊まってるんだもんなぁ。
 土台無理な話な訳でして。



 唐突に目が覚めたのは、多分奴が話し掛けてきたからだろう。
「君、」
 俺の意識がそこでスキップを抜ける。
 慌てて状況を思い出す。間違いなく今さっきまでスキップ中で、俺の意識は夢うつつだった。
 顔を上げたそこに、黒目黒髪という顔の良い戦士が俺を見下ろしていた。何だろうな、南国人ってのは美形が多いという特徴でもあるのか?……って、そういえばフレイムトライブは美形の代名詞である貴族種との混血種だった。
 俺の手元には正真正銘のコーヒー。
 こいつをまったりと味わっていた、朝飯後だ。
「何か?」
 アベル曰く、フレイムトライブの戦士。遠目にしか見てなかったがこいつが例のランドールだろう。英雄に仕立て上げられて行こうとする南方人……まぁ、それなりに強い戦士なんだろうな、きっと。
 ランドールは口元に笑みを湛えたまま俺の前の席に座る。一見すると人懐っこそうな顔だが、俺はもう奴らの本性を知っている。狡猾な顔にしか見えなかった。
 奴の横にテリーに良く似た金髪碧眼の男と、黄緑色の髪の毛をした森貴族種のおねいちゃんが控えている。
「見かけに寄らず、素晴らしい鎧を着ているな」
「ああ、これか」
 キリュウから貰った特殊金属のショルダーアーマーと鎖帷子。それから槍にもなる篭手な。メシ食ったらすぐ出かけるからすでにフル装備だったんだ。そんで、宿の隣にあった喫茶店みたいなトコでコーヒーキメてた所だ。
 しかし見かけに寄らずとはどういう意味だよコイツ。うわ、むかつく。
「君もこれから『我々の軍』に参加してくれるのかい?」
 色々とむかついたのではぁ?などと惚けてやりたかった所だが、無闇に敵対するのも何だ、その、大人気ないからな。俺は慎重に言葉を選ぶ。
 この英雄ご一向がこの町にやって来たのは、魔王軍に対抗する新組織を奴らが発足するにあたり、人材を集めるべく巡行って所だろうとレッドが言っていた。なる程、積極的にスカウトって奴か。ふふん、なかなか見る目があるじゃねぇか。誉めて使わすぜ?
「俺は事情があってこれから行く所があるんだ」
 俺はレッドの営業スマイルを真似て見た。どうだろう、イケてるか?
「何言ってるんだ君」
 すると、ずずいっとランドールの奴がテーブルに手を付き迫って来る。
「この国の現状を知らないのか?魔王軍がもうすぐそこにまで来ているんだ!今はまず、この進行を食い止めるのが大事、その他に優先すべき物事など何があるというんだ!」
 ばんともう一度強くランドールは机を叩いた。うっせぇ、都合英雄に言われたくはねぇ。……という言葉をなんとかぐっと飲み込んだ。だってこいつの目、真剣じゃねぇもん。
 口で言う程、こいつに『愛』が無いのは良く分かる。なんつーか、ヘタな芝居打ってる様に見えるんだ。どうしてこんな三文芝居に民衆は騙されてしまうのかねぇ……。
「大丈夫だろ、お前ら位強い魔王討伐隊が居れば八星の一匹や二匹返り討ちだろうが。それとも何か?そんなに俺様の援助が必要だって言うのか?」
 気が付いたら、そんな挑発じみた事を口に出してしまった。見る見るうちにランドールが不機嫌に顔を顰めるのが分かる。黒い瞳に、さっと青みがかった色が差している。
「……テメェ、」
 途端ドスの効いた汚い言葉を呟いたのを、俺はちゃんと聞きました。聞きましたからね~。
「ラン様、抑えて」
「なりませんぼっちゃん!」
 付き人の二人は慌てて立ち上がったランドールを抑える。とたんランドールは俺を見下して笑い、肩を竦めた。
「東方の雑種が、金儲けの事しか考えていない連中の手助けなどこちらから願い下げだ」
 おいおい、何で俺が金の亡者だって決め付けるんだよ!東方人の雑種ってのは認めてもいいけどよ。
 怒りを通り越して呆れた俺をその場に残し、肩を怒らせてランドールは去っていったが……その途中、アベルとすれ違う。
「あ、君」
 ころりと表情を変えて声を掛けて、さらに彼女の肩を叩いたランドールであったが無残。それらは全て無視された。アベルは、見事に奴の肩に置こうとした手を躱している。振り返りもしない、見事なまでの無視っぷりですねアベルさん。アウトオブガンチュウって奴だな!哀れだなランドール、うははははは。
「ヤト、何まったりしてんのよ。さっさと行くわよ?」
「お、悪ィ」
 俺はにやけそうになる顔をなんとか抑えつつ、釣りはいらねぇとばかりにカウンターにマイクログラム硬貨を弾いて渡す。呆気に取られてる連中を置き去りに、店を出てやったぜ。
「全く、変な啖呵切るんじゃないわよ」
「悪い、なんかすげぇムカついたもんで」
「そうね、アンタより頭悪そうだったもんね」
「どーせ俺ぁ頭悪いッスよ!」
 喚く俺の頭にどこからともなく、アインが乗っかる。
「こら、ケンカしないのーッ」
 へいへい、分ってますって。俺はアインの頭を軽く撫でながら活気ある朝のヘルトの町を見回した。すぐに宿の勘定を済ませたレッド達も出てきたが案の定、テリーが居ない。
「奴は?」
「やはり、顔を合わせたくないという事で」
 あいつ、まだ宿のどっかで姿を隠してるって事だな?俺の頭上でアインが頷いて、空に飛び上がる。
「じゃぁ、あとで合流しましょ。あたしヤトの匂いを覚えたから、テリーと一緒に追いかけるわ」

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沢野 りお
ファンタジー
なんということもない普通の家族が「勇者召喚」で異世界に召喚されてしまった。 兄、橘葵二十八歳。一流商社のバリバリエリートのちメンタルに負担を受け退職後、一家の主夫として家事に精を出す独身。 姉、橘桜二十五歳。出版社に勤める美女。儚げで庇護欲をそそる美女。芸能人並みの美貌を持つオタク。あと家事が苦手で手料理は食べたら危険なレベル。 私、橘菊華二十一歳。どこにでいもいる普通の女子大生。趣味は手芸。 そして……最近、橘一家に加わった男の子、右近小次郎七歳。両親が事故に亡くなったあと、親戚をたらい回しにされ虐げられていた不憫な子。 我が家の末っ子として引き取った血の繋がらないこの子が、「勇者」らしい。 逃げました。 姉が「これはダメな勇者召喚」と断じたため、俗物丸出しのおっさん(国王)と吊り上がった細目のおばさん(王妃)の手から逃げ……られないよねぇ? お城の中で武器を持った騎士に追い詰められて万事休すの橘一家を助けたのは、この世界の神さまだった! 神さまは自分の落ち度で異世界召喚が行われたことは謝ってくれたけど、チート能力はくれなかった。ケチ。 兄には「生活魔法」が、姉には「治癒魔法」が、小次郎は「勇者」としてのチート能力が備わっているけど子どもだから鍛えないと使えない。 私には……「手芸創作」って、なにこれ? ダ神さまにもわからない能力をもらい、安住の地を求めて異世界を旅することになった橘一家。 兄の料理の腕におばさん軍団から優しくしてもらったり、姉の外見でおっさんたちから優遇してもらったり、小次郎がうっかりワイバーン討伐しちゃったり。 え? 私の「手芸創作」ってそんなことができちゃうの? そんな橘一家のドタバタ異世界道中記です。 ※更新は不定期です ※「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています ※ゆるい設定でなんちゃって世界観で書いております。

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