異世界創造NOSYUYO トビラ

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4章   禍 つ 者    『魔王様と愉快な?八逆星』

書の3前半 声に出す決心 『躊躇は、しないのですか?』

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■書の3前半■ 声に出す決心 read resolution aloud

 石の扉に静かに手を掛けた。俺とヒュンス、テリーとマツナギでスライド式の二つの重い引扉を引っ張った訳だが……。
 そしたら突然、青白い煙が床を伝って流れ出て来る。
 何だろうと口を出す前に……千鳥足の兵士が中からこっちの空間に倒れ込んで来た。
「!」
 慌てて駆け寄ろうとしたヒュンスを俺は、無意識に止めていた。
「何を、」
「待て、様子がおかしい……!」
 俺はヒュンスの腕を掴んだまま、左手で荷物の中から石を取り出した。取り出した石、魔王関連に対して警告するナーイアストの石が発光しているのを見てヒュンスは息を呑む。ナッツとアベルが慎重に床を這う煙を吸わない様に口を押さえつつ、兵士に近づいた。
「どうしたんだ?」
「……頼む、」
 倒れた兵士から、じわりと染み出す黒い影。
 アベルが起き上がらせると……短剣が腹に刺さってる!しかし戦士ヤトの見解から言わせるとフツーの刺さり方ではない。位置や角度から鑑みるに……これは、切腹?自分で刺したっぽいぞこれ。
「…… ……」
 何かを呟いて、くたりと兵士が崩れ落ちた。ナッツとアベルが厳しい顔をしている。
「どうした、何だって?」
「……殺してくれ、だって」
 なに?それは、介錯してくれ……って意味で取っていいのか?そう言い残しつつ、この兵士は事切れてしまったみたいだな。
「この煙……」
 レッドは青白い煙が這う床を撫でるようにして、険しい顔で何かをぶつぶつ呟くとヒュンスを振り返る。
「この煙を吸ってはいけません、扉はすぐに閉じるように。僕らが良いと言うまでここは開けてはいけません。いえ、ここからの侵入は取り止め、封鎖するのが良いでしょう。ヤト、場合によっては急いでこの煙を止めなければいけません、正午の突入までです!」
「っておい、王妃は?」
「王妃も危険です、とにかく一刻を争う。皆さん、中に入って扉を閉めましょう」
 どうもレッドの説明、嘘っぽい感じがするな。どうやら俺達の都合で何か話をしたいようだ、大体分かって来たかな、貴様の嘘の付き方。大急ぎで僅かに開いた隙間から俺達は中に入ると、重い石扉を再び閉める。
「何だってんだ?」
「神経に作用する一種のダウン系の麻薬です、」
「げ、マジで」
 勘が外れた、マジでヤバい煙の様だ。それが……この部屋に、ヘタすれば神殿中に充満しているのかも知れないんだな?
「今はとりあえず忌避の魔法を行使しました、僕の傍から余り離れないようにしてください」
 俺達はなるべく固まって石の階段を駆け上がり、僅かに開いた石扉を蹴破って地下牢に出た。すると思わず吐き気を催す匂いが鼻につく。
 俺でこのありさまじゃぁ、感覚系が鋭い奴らは更にキツそうだな。
 漂う腐敗臭がハンパ無い。レッドの空気遮断魔法があるからこの程度で済んでいるのかもしれない、南国の気候は地下でも結構暖かいからな……こりゃ、壮絶かも。
 思わず顔を顰めながら見回すとあっちこっちで兵士がうずくまり、ゴミみたいに堆く積み上げられていたり……ほんと、散々なありさまだ。
 人が死んで死臭を放ってるってのに、割と精神的に何もダメージ受けないのは何でだろう。サトウハヤト的には即刻精神的ダメージ被弾でトラウマになりそうなもんだが……戦士ヤト的には割と、こういうのは日常茶飯事なのか?
 他の連中はどうなんだろうな……少なくとも、リアル的に言えばすげぇ遭遇したく無い様な経験なんだけど。
 通路に点々と転がる兵士達は、皆血を流しておかしな格好で倒れているな。
「どういう状況だよ、」
 まさか、すでにこんな酷い状況になっているとは……。多少の流血沙汰にはなってるかなーとか思ってたけど、完全に大量殺戮があったっぽい気配じゃないか。それで、辛うじて意識がある者は死ぬだの殺されるだの、ネガティブな事ばかりを上の空で呟きつづけている。レッドの言ってた麻薬とやらの所為か。
 それで、果てに自殺?
 おいおい、何を狙ってこんな危険なガスを撒いてるんだよ!
「これです、」
 部屋の片隅に何個も置かれた素焼きの壺から、怪しい煙が吹き出しているのをレッドが見つけた。
 ナッツが中身をのぞきこんでから魔法で水を呼び出す。熱が消える音がして煙の発生が途絶えた。とりあえずこれで怪しい煙は時期に消えるだろう。ナッツが壺の中身を確認してから、中和薬品を調合出来るかもしれないとか言ってる。
「あ、やっぱり来たねぇ」
 一安心した所、聞き覚えのある声に、俺達は一斉に振り返った。青白い靄の向こうに、平然と階段に腰を降ろしてこちらを見ている少年。
 禍々しい赤い旗を頭上にはためかせた場違いな姿が眼に入った。
 俺の手の中で反応する石はコイツを予告してたのか!?
「ん、怒ってる?」
「当たり前だろう」
 俺は一歩前に踏み出して剣の柄に手を掛けた。こいつはファルザット市のスークで会った姿の、魔王八逆星インティだ。一階へ続くであろう階段の中腹に腰を降ろしている。
「何が目的でこんな、」
「色々と僕らにもあるんだよ」
 インティは膝の上に肘を付き、手の上に顎を乗せてにっこり微笑んだ。
「でもね、僕って面倒な事は嫌い」
 そのセリフが一々ムカつく、余裕ぶっこきやがって!
「俺達に何させようってんだ!」
「お兄さん達、魔王討伐隊なんでしょ?だから僕は、お兄さん達が今ここに居るのだと思うけどね」
 レッドが動かないから俺は突っかかってもいけない。怪しい煙は地下であるこの部屋にまだ、充満している、まだレッドの傍を離れる事が出来ない。奴から話を聞き出すのが重要だってのか?
 急ぐんだろう、こんな奴に構っていないで……。
「僕らを誰に宛てがおうとしているのです?」
 ……それは、どういう意味だよ。レッドの探りの入った意味深な質問に、インティはにっこりと微笑んだ。
「うん、その質問の仕方、面倒臭く無くて助かるよ。僕もいいかげん南国に飽きてきたし。西方に面白いのが出てるらしいからさ、早い所タトラメルツに戻りたい所だったんだよね。だから簡単に言うね、」
 微笑んだまま、突然冷たく凍りつく様な声でインティは告げた。
「魔王八星の一人であるアイジャンを殺すの、手伝って欲しいんだよ」
「魔王、だって?だってアイジャンって……」
 偽者でも王の兄だろう?それとも入れ替わりはもう一段階あるっていうのか?
 魔王の一人がアイジャンに成りすましている……とか?
「仲間割れ、というわけですか」
「だから、色々あるのさ。もう僕の名前は出しても構わないよ、まぁ……出せるものならね」
 すっと、例によって奴の姿が掻き消えた。
「畜生!ふざけやがって、」

 何が魔王を殺すの手伝って、だ!
 言われなくたって俺がこの手で全員ぶったおしてやるわい!

「何だ、元気な奴がいると思えば」
 すると今度は頭上の階段の上から声が掛り俺は大声を上げた手前びっくりして振り返った。
 まずい、騒ぎすぎたか?インティが腰掛けていた階段を見上げたが、逆光で相手の顔がよく見えない。
「君達だったか」
「?」
 ようやく目が慣れる。
 だがその声、どっかで聞いたことがあるぞ。
「……お前!」
「ふむ、覚えていたようだな、」
 不敵な笑みを浮かべて鼻に掛けたモノクルのズレを直し、白衣の男はその上着を翻して言った。
「早く上にあがりたまえ、そこは死体捨て場だぞ」

 言われなくても!
 駆け足で石の階段を昇っていた。出た先は中庭に続く廊下の奥だ。幸い、例の煙は無い。どうやら地下だけに施されていた様だな。この地下への階段は、普段は鉄格子で閉じているのだろう。今は開放されていて、白衣の男はその鉄格子の向こうにさっさと歩いて行く。
 俺達は慌ててそれを追いかけた。
 すっかり腐臭に鼻が慣れていたために外の空気がエラく新鮮だ。

 抜け出た先は中庭。眩しい南国の逆光に悠然と立っている男へ俺達は油断なく構える。
「久しぶりだな。『女王』とは無事再会を果たせたかね」
「テメェらで攫っておいて……」
「お前も魔王八星か!」
 剣を抜こうとした俺を抑え、テリーが聞いた。
 疑問は確かに色々とある、だが俺の怒りはそんなもんはどーでもいい状態にまで達していた。インティに軽くあしらわれた事もあるんだろうが、よくよく考えるとここまで俺は短気じゃねぇんだよな。
 恐らく戦士ヤトの仕様なんだろう、と思う。
「……さて?」
 しかし白衣の男はテリーの質問に少し顎を引き、こっちを上目使いに見ながら惚けて見せた。
「ご想像にお任せしよう」
 この野郎、恐らく俺達の状況が分かっててそんな返答をよこしやがったな?ところで、テリーが俺を抑えて魔王かどうかと直接尋ねたにも理由がある。

 コイツの頭上にレッドフラグが無い。
 ナーイアストの石も無反応、なのだ。

 そんなん初見で気付きそうなものなのだが、最初のギルと一緒に居た時な。あの時は完全にギルの方に気が取られ、メンバー誰一人としてこの白衣の男の頭上に旗が立っていたかどうかを覚えていなかったのだ。それくらいギルの存在から意識を逸らせない状況だったって事だろう。
 何となく無かったような気がする、程度の認知だった。
 しかし改めて前にして……間違いなく奴の頭上には旗が無い。何も無い。
 という事は八逆星では無いだろうし、魔王関係者とも言えないはずなのに……なぜ初対面時にギルと一緒に登場しやがったんだ?そして今こうやって、なんで南国に姿を現した?
「なんでここの魔王に手を貸す?」
「私が?悪い冗談じゃないのかね」
 口調は笑っているが目はそうじゃねぇ、何かを狙っているようにギラギラしてやがる。そのまま白衣の男は手を口に当て、そのギラついた目を逸らす。
「王の予定では……王子のどちらかをご所望だったが致し方ない。君達を案内しようか」
「奴に降伏しろと言え!間もなく正午だ、勝ち目は無いだろう!それとも、」
「それとも、」
 男は俺の言葉を復唱して振り返った。
「懸念通りに魔王であるなら?どうする?」
 宮殿のあちこちから、ただならぬうめき声が一斉に上がる。
 レッドが手に持つ時計を見て、半時前ですと告げた。白衣の男は含み笑いを漏らして再び前に歩き出しながら静かに言った。
「間もなくこの宮殿の兵士は全て、黒い獣へと変態するだろう。丁度、正午辺りかな。上手く発動時間を合わせたつもりだが……この気候だ、持ち場を離れて水を飲んだ連中がいてね。先に『作用』を知った奴らは自ら自害した」
 こいつら……赤旗感染する毒素を飲み水に混ぜやがった……!?
「……ホストがいるんだな、」
 マツナギが弓矢を番える、いつでも穿つ姿勢に男が苦笑して振り返り外へ促す。
「仕方が無いだろう、それが王の所望だ。言いたい事があるなら彼に言いたまえ」
 俺は静かに肩の力を抜く。
 柄から手を離し、深く息を吸って心を落ち着かせると手を上げてマツナギを制した。
「……行こう」



 階段を二度上った。
 余り広くはない、三階相当にある大きな部屋の中央に、そいつは胡座を掻いて待っていた。
 ゆっくりと顔を上げる、日焼けした様な浅黒い肌に白い裂傷の様な独特の紋様……灰色の髪を後ろに撫でつけた中年の男はにっこりと笑って俺達を見回した。
 俺達の登場は完全に予定外だろうに、そんな動揺を見せない……偽者とはいえ流石は王の器だ、胆力が違う。
「残念、上等なエサで釣ったのに」
 ゆっくりと立ち上がった男は、鎖帷子が縫い込まれた軽い鎧をまとっていた。服装は上品でいて威厳ある白と黄金でまとめられ、額には金のサークレットが嵌まっている。

 間違い無い、簡素だが王の出で立ちだ。

「アイジャン閣下、……随分と外見がお変わりに成られた様ですが」
 レッドが一歩前に踏み出して低く呟く。奴はどうやら顔を知ってるらしいからな、こいつが噂の偽王アイジャン・RZだって事を俺達に知らせたつもりだろう。
「何、魔王討伐隊の君達に姿を偽ったって仕方ないだろう?どうせすぐこれで分かっちゃうって聞いたし」
 そう言って男、アイジャンは自分の頭上を指差した。
 コイツは……あのギルと似ている。浅黒い肌に白い傷の様な紋様が浮き出た顔。
 そして頭上の赤い旗。
「八逆星か」
「ご名答、やはり君達には分かるんだね」
 ……ぬ、もしかして今、尋問誘導されたか?
「しかもジュンケツシュだ、余はそこいらのザコと違うぞ」
 アイジャンはそう言って右手で左手の掌を傷つけ、その血を床に置いてあった杯に注ぐ。
「ふふ、あてが外れたが君達には一つ、特別に面白いものでも見せてあげようかと思うのだが」
 悪意に満ちた笑みに俺達は身構えていた。この部屋まで案内してきた白衣の男が奥の部屋から兵士を伴って戻ってくる。その兵士達が両手を羽交い絞めにして連れて来た人物を視界に収め、俺は展開が読めてしまった。
「王妃!ロッダ王妃!」
 飛び出そうとしたが、アイジャンが振り払った手と制止力のある気迫に、踏みとどまってしまう。顔を黒いローブで隠しているその女性が、僅かに顔をそむけたのが見えた。
「簡単なものだよ、息子を魔王にしてやると言ったら飛んで来た。ならばいっそ自分を、などと……訳の分からない理屈を通してくる」
 何が、何が訳の分からない理屈だ!
「……君達には特別に、魔王って奴がどうやって出来るのか教えてあげようと思うのだよ」
「……」
 アイジャンの隣に控える白衣の男が、何か言いたそうな顔をしている様な気がするが……目を逸らしたな。
「ん?どうした。想定外の事だったか?」
 と、アイジャンも何か意味有りげに笑いながら白衣の男に目配せしている。何だ、いまいちこいつらの関係性がよく分からん。主従関係?どっちが上だ?分かり辛い。
「……何の事やら」
「惚けるか、余が何も知らぬとでも思うか?」
 白衣の男は全く動じずに肩を竦めた。その行動が益々、奴らの関係性を理解し辛いものにしている。
「構いません、いずれしっかりその事実は彼らに刻み付けてやるつもりでしたから」
 そう言って白衣の男はアイジャンから杯を突き出され、受け取る。
 何だ、何しようってんだ?
 兵士二人が戒めを解くと、推定王妃は少しよろめきながらもその場に留まった。おびえている気配はない、むしろ王族の妃としての威厳、気迫すらある。白衣の男から差し出されようとする杯を戸惑いもせずに奪い取り……それを、飲み干してしまった。
 何をされるのか、何をするべきなのかすでに分かっていたのだろう。

 止める暇もあったもんじゃない。

 魔王の血ぃなんか飲んだら、そりゃ、食当たって当然だ!という突っ込みが浮かぶ間もなく、制止する言葉も掛ける間も無かった。
 飲み干した杯を手に掴んだまま蹲る推定王妃は、その場でわなわなと震えだす。
「おい、ちょっと……」
 物凄くヤバい展開じゃねぇ?ヤバいなんて度合いじゃねぇよ。


 物凄く、悲惨な展開なんじゃねぇ?


 冷静に突っ込んでも状況は変わらない。推定王妃が握り締めた杯が、彼女の手の中でばきんと破壊される音がする。ぶちぶちと服を破る音とともに、彼女の背中が無様に膨れ上がっていくのを俺達は、どうする事も出来ずにただ傍観するしか出来なかった。
「やっぱりダメだな」
 白衣の男は苦笑を漏らし、変容して行く推定王妃を冷ややかに見つめている。

 何が、ダメだって言うんだ?

「バカな女だねぇ、素直に飲んじゃうんだもの」
 アイジャンが笑って言ったその言葉を耳にして俺は、冷え込んでいた気持ちが裏返った様に熱を帯びた気がする。
 問答無用で斬りかかっていた。
 が、その一撃は何時の間に構えたのか、アイジャンが抜いた短剣の前に止まっている。
「くッ……のぅッ!」
 弾き返されてたたらを踏み、前へ斬り込むが王は一歩背後に下がってそれから逃げる。
「ヤト!おい、勝手にやらかしてんじゃねぇ!」
 テリーの声が届き背後に目をやったら……背後の階段から、黒い怪物達がわらわらと上がってくじゃねぇか!さっきまで推定王妃を抑えていた兵士二人も、見る間に黒い怪物へと変貌する。
 俺の意識は前にだけ向いていた、背後の動きまで気にしていなかったのだ。

 くそ、何時の間にか手下なんぞ呼びやがって!

 慌てて正面に顔を戻し、俺はどっちに斬りこめばいいのか一瞬迷った。その視線の先、白衣の男が懐中時計を見たのが目の端に写る。
「正午まであと数分ですが」
「あぁあぁ、全く」
 アイジャンが笑いながら額に手を付き、大げさに嘆くように天を仰ぐ。
「せっかくいい所まで食い入ったのになぁ、何が気にいらないのよナドゥ」
「私の意思ではないからな」
「ふぅん、多数決って所?これからおいしい所を提供できたってのに……ま、十年近く憧れの王座につけたから良しとしますかねぇ」
「恐らくはその、」
 俺が決心して前に出ようとすると、背後から容赦なく敵が襲いかかって来た。一瞬の迷いがあだになったか!?
 結局俺も上がって来た魔王軍モンスター……白衣の男曰く『黒い獣』とやらを相手にしなくちゃいけなくて、奴らの言葉に耳を傾けるのに精一杯だ。とりあえず手足の空きは無いが耳と口は動く。
「何考えてやがる!罪の無い奴らを巻き込みやがって……抵抗すんならテメェ一人でしろ!」
 が、推定魔王連中はこっちに耳を貸すつもりが無いっぽい。
「その……望みが良くなかったのではないでしょうか」
「無視すんなーッ!」
「……ふん、余が高望みなのが悪いと云うか」
 しかし完全に俺達を無視して二人なにやら話をしてらっしゃいます!うがーッ!一撃で斬り伏せる事が出来ない微妙な強さの敵がウゼェッ!
「仕方ないんじゃない?力は余の望みだ、それはあの男も同じだったはずなのに……あそっか、あいつはそれ以外に望みは無かった……余はその力を手段にして更に、叶えたい望みがまだ他にあった。その違いって訳?」
「さぁ……どうでしょうね」
 そんなこんなしているうちに正午を知らせる鐘の音が響き渡る。それじゃなくても最上階の喧騒は外からも見えてるはずだ。
 そんな中一際猛々しい、甲高い声が響き渡る。

 完全にメタモルフォセスを終えた一匹の新生赤旗モンスターが吼えたのを、俺は舌打ちして睨みつけた。

 大きさが桁外れだ、何やら知らんが魔王八逆星の『ジュンケツシュ』とやらの血は一般生物を完全にレッドフラグに感染させて存在を犯す力があるらしい。
 純血種の事か?いや、それならそうと大人しく俺の意識がそう漢字変換するだろう、そうしなかったって事はどうも純血という言葉に違和感があるからだ。
 こいつが純な魔王?
 レッド曰く、外見は少々変わったらしいがこいつは、元南方人で国王の兄、アイジャンに変わりないんだろ?魔王八逆星を名乗る連中は全員ホストって訳だろうか?そもそもアイジャンは本当に魔王なのか?奴らが自分を魔王と名乗る以外、何を持って『魔王』たらしめるのか、良く考えると俺達には分からないのだ。赤い旗なら、今目の前にしている黒い怪物どもにもある。しかし旗の上にキングを示す印がある訳じゃねぇ、パラメーターは、メージンじゃなきゃ見えないしメージンはそれらの情報を逐一俺達に教えてくれる便利なオペレーターじゃねぇ。
 あくまで冒険を、デバックもついでにしている俺達を手助けする程度、臨時に置かれた存在でしかない。
 そういう中、あえて言うならケタ外れな力を持つものを魔王と認識していた。
 アイジャンは桁外れな力を持つか?そうか、考えたら今ここに居る多くの赤旗ブッ差した黒い怪物、元を正せば全部アイジャンから出てると考えたら十二分にケタ外れか!?
 しかし……白衣の男は『やっぱりダメだ』と漏らした。
 混沌の黒き魔物に変態させる魔王の血。十分だ、そう思えるが……白衣の男にとっては何かがダメ。

 ……アイジャンは魔王がどのようにして出来る、つまり誕生するのか俺達に、教えてやると言ったよな?

 秩序も自意識も無さそうな混沌の怪物を切り捨てる。この黒い魔物達は……もしや、失敗作って事か?魔王の血を受けた者は魔王になれる?
 おおぅ、今度は魔王増殖説かよ……ああ、余計な事考えた気配がする。嫌な空想が飛躍しそうになるのを慌てて止めた。

 十年前に、魔王討伐隊に参加したはずの王の兄。

 それがどうして弟王アイザートの座に入れ替わって座っていて、あまつさえ魔王で頭上に赤旗をぶったててやがるんだよ!誰かから魔王にされた、とか?
 しかし……どうやって?

 誰から、何の為に。

「おい、お前!お前はアイジャン・ルーンザードで間違い無いんだよな!」
 俺は若干開いた空間から、遠ざかってしまった奴らに指差し叫んだ。その間にも横から襲い掛かってきた怪物を槍で受け止め、押し返す。

 返答が、戻ってこなーいッ!

「うおおいッ!無視すんなってんだーッ!」
「悪いがその問いには答えられん」
 大丈夫だ聞こえてるぞという風に、さっきの王っぽい魔王八逆星が声を大にして返事くれました。いい人、王さまいい人じゃねぇか畜生!ええい、邪魔だ雑魚モンスター!しかし、答えられんって何だ!
「何ィーッ?」
「余は君達にもう用は無いし、構っている暇は無いのだよ。やる事があるのでこれで失礼するぞ」
 そう言って、視界の端でアイジャンがバルコニーから下に飛び降りた様子が写る。
「逃げるのかーッ!」
「恐らくは王子らに用があるのでしょう、あのナドゥ、とかいう男も言っていました」
 俺の背後にレッドがやって来て諭す。
「ミスト王子が危ないだろう、くそ、こいつらッ!」
「全部、元人間ですよ」
 切り伏せて、肩で息をつく。
 ナドゥとか言う白衣の男の言葉が意識の中で引っかかって来た。

 ……兵士達は正午には変態を終え、黒い獣となる……。

「嫌な事思い出させんな」
「見据えてください、それが現実なんです」
「ゲームだったら俺は躊躇なんかしてねぇよッ!」

 外見が悪くても、見た目全然人間じゃなくても。
 この襲い掛かってくる黒い怪物達が元南国兵士だって『現実』は、俺の意識の中に間違いなく、ある。
 でもそれでも俺は剣を振れる、槍を突き刺せる。
 迷いは無い。
 『敵』を前にして躊躇する意味が見出せない。

 だってこうするしか救えないんだ!今だメージンから赤旗除去ツールの到着の朗報も聞こえない。
 この怪物を放置して他の無害な人達が傷つけられたり、殺されたりするのを許すわけには行かない。
 大体、その話は今更なんだよ!
 俺達は、ヒュンスの部下だった怪物だって、魔王に連なる危険な存在っていう名目でぶっ殺してきたじゃねぇか!赤旗ばら撒いてたリラーズだってそうだ。

「躊躇は、しないのですか」
「いや、してる!」
 そう言いつつ四本足の獣を真っ二つに両断する。行動と言葉が矛盾している?いいや、そういうベクトルじゃねぇんだ。

 反発してるのは俺の心だ。
 それだけが殺戮をするなと奥底で暴れている。

「俺にとってはゲームじゃねぇよ」
 あらかた片付いて、一匹巨大な怪物を前に俺は血糊で汚れた剣の切っ先を見つめた。
「ゲームだったら躊躇はして無い。でも躊躇してる『現実』は確かにある……ならこの現実は俺にとってバーチャルじゃねぇ、リアルなんだ」

 声に出す結論。すでにずっと昔に、心の中で決着がついていた事実。

「だから、もうこの世界がゲームだなんて俺は思わない」
 これは結論じゃない。俺の、ただの決心。
「レッド、お前はそのあたりどうよ?どう思ってる?」
 と、背後で奴が笑ったのを感じる。おいてめぇ、なんで笑いやがる。
「いや、……僕もそうだと思いますよ」
「よし、じゃぁぶっちゃけて言う」
 俺は巨大な醜い、巨大な象が膨れ上がったような怪物を見上げて力強く言った。
 言ってやった。

「他はアレとしてこれとだけは戦いたくないッ!これとだけは、戦えない!」

「……言い切りましたねぇ」
 のんきに言うな、お前!これ、明らかに噂のロッダ王妃のなれの果てじゃねぇかよ!
 元人間の怪物と思って若干は躊躇しながら敵を屠っている状況、目の前で怪物になった救わなければいけない人物と、なんだって戦わなきゃいけない。ふざけんな、俺はそんなご都合RPGゲームをやってんじゃねーッ!断固拒否する!拒否だ拒否!

 この気持ち、誰からも理解されないものだとは思わない。

「……どうにか……レッドフラグ除去ツールが届くまで封印とかできねぇもんか?」
「石化魔法はサンサーラに置いて来てしまいましたし」
 兵士達の突入が始まったのだろう。
 静かだった周りは、歓声、怒号、ラッパの音などであっという間に騒がしくなってきた。黒い怪物連中も、突入してきた王子軍の方へ向かったのだろう。逆に、この王らしい奴が控えてた上階は静かになっていた。見渡すと三階ホールに累々と横たわる死骸が3ダース以上はあるっぽいな。
 流石だ俺達、数分でこれだけ敵を屠っちまうとは。流石だとは思うが……結局大量殺戮という事実は揺るぎ無い。姿が、心が怪物というだけで命を奪っていいはずがない。倒して元の人間の死体に戻らない、っていうのが誤解は生じ難いが救いようが無い現実を物語っている。
 南国で、これだけの人の命が奪われる、戦争に等しい行為が行われた事に対して申し訳無いという気持ちが競り上がって来た。俺が敬愛する偉人、南国の昔の王様が見たらきっと嘆く惨状だよと思ったのだ。戦士ヤトは、そういう事を思って急激にヘコんだっぽい、何か知らんが俺、今ものすごーく気分が気落ちしている。思わず剣を鞘に納めていた。
「下の加勢に行かなくていいかな?」
「問題無いよ、この宮殿そんなに広くないから……兵士の数は多くて三百とヒュンスが言ってた」
「それが全部……」
 俺は視線で意味を伝える。

 苦しみを現すようにのた打ち回る、巨大な怪物に一歩自然と下がってしまった。

「……でも、地下でかなりの数の兵士が……死んでいたみたいだからね」
「……じゃ、残りは」
「精々百か、もしかしたらそんなに居ないかもしれない」

 それを取り囲む、数千というミスト、エルーク王子軍。いくら強め設定の魔王軍モンスターでも、それくらいの戦力差であればなんとかなるだろう。とりあえず、怪物の出所を知らない内は果敢に戦えるだろうからな。
 ……魔王軍モンスター、混沌の魔物とか黒い獣とか……特に定まった名称の無い、俺達に言わせれば『赤旗の怪物』がどうやって誕生するのか。
 それはまだ、世間には公開されていない事実だ。
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