異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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4章   禍 つ 者    『魔王様と愉快な?八逆星』

書の2後半 贈る言の葉 『任せろ、根拠のない言葉かもしれないけど』

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■書の2後半■ 贈る言の葉 We gave aid to king 

「地下も完全に塞いでるらしいぜ」
「ふーん……抜かりなしだな」
 夕闇押し迫る頃合い、その様子をちょっとはなれた丘の上から眺めていた俺は、テリーの言葉にどこか心あらずと答えた。偽王アイジャンは、自らの住居を南方神殿に移していて……今、そこが完全包囲されている状況を眺めていた所だ。
 南方神殿は城下町のやや外れにあって、なだらかな丘に広がる城下町の上部からもよく見える、大きくて立派な建物だ。中東のモスクみたいな独特のドーム型の屋根に、宝珠の嵌まった頂華。ひし形の敷地の南側に偏っている建物を囲む、他方位の尖塔には玉葱型の屋根。壁に刻まれた幾何学模様が、薄暗い中景色の中怪しく浮かび上がってくる。

 その神殿がすっかり王子軍によって取り囲まれている。包囲して未だ、動きは無い。
 だがこれから行う作戦については、戻ってきたヒュンスから聞いている。

 偽王に明日の正午まで自白する猶予を与えて、立てこもるつもりであるなら強制突入。
 そういう段取りなんだそうだ。外側を囲む軍は明日までは動かない。動きがあるとするならば内側からだ。誰もがその動きを、固唾を呑んで見守っているんだな。

「探したのよ、ミスト王子からお呼びが掛かったみたい、」
 テリーの肩に乗っているアインが羽をばたつかせた。
 俺は、不穏な動きが無いよう監視するために、明松火を灯し始めたミスト王子軍の様子をぼんやり、丘の上から眺めていた視線を動かしアインを一瞥した。
「お前の鼻なら俺を探すのに苦労しないだろ?」
「だって、風が強いんですもの」
 ふわっと生暖かい風が吹き抜けて、俺の剛毛を撫でていった。
 テリーの長い長髪も風に揺れている。
「ほら、風向きが変わったの。それでようやく見つけたんだから」
 陽が沈み空気は急激に冷え込んでいくのが分かる。昼間はうざかったマントが心強い。
「帰るぞ、」
「ああ、」
 促されて、俺は座り込んでいた石造りの手摺りからようやく身を離した。
「なぁ、」
 俺の呼びかけに、テリーは足を止めて振り返る。
「……このまま上手く事が運ぶと思うか?」
「さぁな」
「俺はどうも腑に落ちないぜ」
 ぶっちゃけて不安な俺の気持ちに、テリーは肩を竦めてアインと顔を見合わせてから言った。
「そりゃな、裏で魔王が絡んでいるのは確実なんだろ?このまますんなりって訳には……いかないだろうぜ」
「何か……何か明日に起こる可能性は高いよね、きっと」
 やっぱりそうだよな。でもそれが『わからない』。まんまと『乗せられて』いる所為で結局の所『わからない』んだ。魔王一派がこの、訳の分からない誘拐から始まった一連のイベントを何故起こしたのか『わからない』。
 関与してそれで何をしようとしているのかさっぱり、見えてこない。

 俺は、正直不安だ。

 エルーク王子はともかく、ミスト王子の事は精一杯応援してやりたいんだ。どうにか良い方向に……決着が着けば良いと願っている。でもその、良いと思われる決着を迎える結末が訪れるのか……俺はとても不安なんだ



 で、呼ばれて参上した所、冒頭いきなり。
 ミスト王子はヒュンスと入れ替わりに入って来た俺達の姿を確認するなり……席から立ち上がり頭を下げた。
「今ひとつ、君達に頭を下げなければいけなくなった様だ」
「え?」
 ヒュンスを部屋から下がらせて、俺達だけに何の話しがあるのだろうと思ったら突然、頭を下げられた。ちょっと待てよ、こっちだって心の準備って奴があるだろ?もういい加減、エラい人から平伏されるのうんざりだって。
 エライ人!むやみやたらと下々の人達に頭なんか下げないでください、いやマジで!
「頼む、……君達にしか頼めない事だ」
「どうなされたんです」
 しかし、そう聞いたレッドの言葉はどことなく冷静だ。奴はミスト王子の言わんとしている用件を薄々、分かってるのかもしれない。
 ミスト王子はどこか疲れの見える瞳を上げて、憂い気味の表情を隠さずに告げた。
「今回の騒動はカルケード国民には何の関係も無い、……我々ルーンザード王家の問題。これ以上国王家という事情で国政を混乱させたくは無い。決着は明日必ずつけるつもりだ」
「……?」
 王子が言いたい事が俺にはよく分からない。
 それで、わかるか?少なくともアベルはちんぷんかんぷんな顔をしている。
「しきたりで……母が地方に住んでいるのだが」
 ……む、母君ですか。母君、ご健在だったんですね。
「カルケード国は一夫多妻が法律で認められています。といっても、男尊女卑というのがある訳ではないですし、実際一夫多妻を堂々と行っている者は稀です。昔の色々な事情がありまして……後継者問題とかでしょうけれど。国王に許されるのなら国民にだって然るべきという事で、この案件は長らく手が加えられていなかったはずです。それで、そういった昔からの慣習から国王は離宮に王妃を住まわせて、王がその王妃の許へ出向くという形を取るのです」
 なぜかレッドが詳しい解説を入れてきた。って事は、問題は『その辺り』が絡むという意味か?
 しかし一夫多妻制かぁ。ある所には在るもんだな……ハーレム作るのも合法ですか南国は。などと俺の想像力は見事にそういう方向性に羽ばたくのですが、きっとテリーもナッツだってそういう方向性をチラリと考えているに違いない。いや、きっと考えている。ハーレムは男の浪漫だからな!そこん所、断定でよろしく。
 で、今は一夫多妻制がありながらも嫁は一人しか貰わないというのが暗黙のルールと化している様だが、国柄上そこの所の法改正をする必要がなくって……つまり現行の法律で何も問題が無いって事だな……無頓着に長年議題にも上がらなかったって所か。
 ふんふん、それで?
「後継ぎとなる王子は十歳で城に上がる」
 ミスト王子は、レッドの説明の通りだと頷きながら話を続けた。
「っていう事は、お母さんと暮らせるのは王子だと十歳まで?まさか、その後は『しきたり』で会えないとか?」
「そこまで厳しくは無いよ、でも母が城へ上がる事は無い。俺が会いに行かなければいけない」
 驚いたマツナギにミストはそう言ってから厳しい顔になる。
「王妃は……例えルミザ祭であろうとも城には近づかない。許されてファルザット郊外の離れまでだ。王妃が城に近づく事は不吉だとされている為にね」
「それは、何故?それも『しきたり』なの?」
 明らかにアベルさん、不機嫌です。事情が読めないので焦らされて来ている気分なのだろう。
「……王が眠りにつく参列には許される。だからだろう」
「眠りにつく、参列?」
 思い出してみる。すると、戦士ヤトの知識はそれを『南国特有の言い回し』だと回答した。

 眠りにつく、眠る。それは南国の言葉で『天に召される』って事になる。いやいやこれじゃぁ分かり辛い。ズバっと言って置こう。
 南国で『眠る』とは、死んだという事、亡くなる事を意味している。

 という事は、王妃が城に近づく時というのは、王の『眠り』が近いとかいう不吉な意味になるんだろうな。なる程、それで王妃は王が尋ねてくるまで離宮から離れない。それで?その母君が……どうしたって言うんだ。
「……大体察します」
 がしかし、肝心な事を聞き出す前にレッドが小さく頭を下げてミスト王子を気遣ってしまった。
「すまない、……頼めるだろうか」
「出来るのは……僕らだけなのでしょう」
 俺は軽くレッドを睨む。意味がわからん、説明しろという目線を代表して俺が送っておく。
「……よろしいでしょうか」
「構わない、」
 レッドはミスト王子に一応前置きしてから詳しい事情を説明すべく口を開く。
「……王妃、つまりミスト殿下の母君が今……南方神殿に居られるのでしょう」
「何ィ?」
 俺は思わず眉をひそめた。
「それって、まさか……人質?」
「似たようなものでしょうね。しかし王の眠りに付く参列以外、城近辺には近づかない筈の王妃をどのようにして、アイジャンはおびき寄せたのでしょうね?母君は……偽王の件は勿論ご存知だったのでしょう?」
「ああ、恐らく俺より早くに。だからだろうか……何か嫌な予感がする。君達の働きや思いがけないエルークからの援護があってこの様に事は上手く運んでいるが。俺にはなんだか上手く行き過ぎている感じすら受ける」

 結局魔王八星の一人、インティがユーステルを攫っただけではなく、それを救い出そうとした俺達の手引きまでして来た事は……誰にも話していなかった。いや、誤解はしないでくれ。全て『先方が勝手に』しでかした事だ。しかし突っぱねる事も出来ずに受けた形になっちまった。しかし、もともと牢屋に行く予定だったんだから気にする事じゃないのかもしれない。でも……流れに乗ってしまったという罪悪感が消えない。乗せられた、とも言う。
 図らずともインティの交渉を受けた形になってしまっているがそれについて、王子にも黙って居る。
 黙ってなきゃ魔王討伐隊である俺達が魔王から手引きされたという、訳の分からない事情が明るみに出る。奴らに軽くあしらわれている事を誰かに語って誰か得するか?しかもフツーに勇者一行にとって情けない事態だろ、それって?

 ムカつくがこれが事実だ。

 俺達は魔王一派の奴らが敷いている『何か』のレールの上をひた走っている。……今もそうなのだろう。

 だからミスト王子のその『何か上手く行き過ぎている』という直感は全く合っていると思う。だが、その通りだと肯定する訳にも行かないので俺達はつい、沈黙で返してしまった。
 ……いや、不安にさせてどうするよ。
 俺は顔を上げる。
 レッドでさえ掛ける言葉に迷っている中、俺は口を開く。
「そんな事無いって」
 無駄に明るく装って俺はミスト王子に手を差し出した。
「最後まで上手く行くさ。俺達は協力を惜しんだりはしない、ちゃんとユーステル救出で協力戴いた訳だし……頭なんてそんな、下げる必要無いッスよ」
「……ヤト」
 俺はそれでも頭を項垂れようとするミストに手を更に差し出して、牽制。
「俺達の力が要るんだろ?」
 ミストは静かに右手を上げて俺の手をゆっくり、しかし力強く掴んだ。
「頼む、母を……ロッダ王妃の事を……頼む」
「任せろ!王子はちゃんと……どんな卑劣な交渉にあっても耳を貸すな。絶対に迷わずに偽王を裁くんだぜ」
「ええ、決着をつけてみせます」
「王妃は、俺達で絶対無事に助け出してみせる」

 絶対とか、そんな軽々しく約束していいものかって?いや、実際心中どうだろうなと自ら自問自答している。
 王妃の問題だけじゃない……。
 本当の国王、ミストとエルークの父親であるアテムート王の事も含めてそう思う。
 でもこの場はそう答えなくちゃいけない。
 そういうシチュエーションなんだよ。お分かり?今必要な言葉は、出来るか出来ないかなど関係の無い、前向きな回答であるべきだ。熱血漢……としての俺の『役割』的にはこの選択肢以外に無い。
 最悪な結果の場合。
 今俺の目の前に立っている黒髪の王子は、明日にもこの国の王となるだろう。最悪な結果、それはやはり今の王様は偽者で、伯父のアイジャンが何時の間にか入れ替わっていて……本来の王であるアテムート王はもう、この世にいないという事態だろうと俺は思う。
 誰も口には出さないが多分皆同じ意見だろう。誰もアテムート王の安否については口にしない、ヒュンスでさえもそこの所を避けて話をしている様に思える。

 だからそういう彼の『家族』の話は積極的にしてはいけないのだと思う。
 彼が自らその話を振るまでは。

 今ようやく母親が無事である事実と、危険にさらされている事実を同時に知らされた。
 『家族』を助けて欲しいという、本来人が当然願うであろう頼みも軽々しく口に出来ないなんて……そんなん、辛いに決まっている。
 周りで傍観しているしかない俺達に出来る事は、その辛さを和らげてやる事位しか出来ない。
 だから俺だって辛い、悔しい。絶対的な力になって、応援してやれない事が口惜しいよ。ミスト王子は余りにも自分の立場はわかってる、分かりすぎてる。
 俺達みたいに頼れる遊撃隊がいなければ、王妃救出なんて作戦、考察されなかった可能性が高いに違いない。本来ならば多くの命を消費してでも王妃を助すけるべき……という筋書きになるはずである。ところがそれは明らかな罠だ。ミスト王子にもたらされている、悪意のある罠である。
 偽王に国の統治を委ねてしまっていた事は、国の問題であるが何より、王一族の問題だとミストは言った。だから、王妃の事は公には伏せているのだろう。王妃を助ける事より、不正を暴き事態の収拾を付ける事を優先しようとしている。
 もしかすれば、王妃を何かしらの交渉に使って来る可能性もある。だがその時は、確実に王妃の命は軽く見積もられる事になるだろう。ミスト王子自身で王妃の命を選ぶ、その可能性を潰すだろう。一人の命を救う為に多くの犠牲を出す訳には行かない……そんな数学的な問題で。
 そういう苦渋の選択を、出来るだけ回避する為にも先に、王妃を救い出すことが出来るならそれに越した事はないのだ。
 優先すべきは国家の血ではなく、住まう国民の平穏。そうやって国によって消費されるのが、国を治める血族の使命だとミスト王子はあまりにも理解しているんだな。
 だが今、ミスト王子が頭を下げてまで望むのは、国家には関係のない個人的な……家族という一身上の都合によるものだ。国家を混乱に巻き込む位なら、消費されるべきもの。
 悲しいかな、それが王族ってものなんだろうと思う。
  南国の王、とりわけルーンザード家は善政を揮った王が多いんだ。俺でも知ってる南国の偉人テトアシュタもルーンザードだもんな。ずっと昔から、その気質は受け継がれているんだなぁと思う。
 だから多分、俺は理屈無しに応援したいんだ。ミスト王子は理屈や最上の結果を求めてこうやって、俺達に頭を下げてるんじゃない。今だ迷う、心のわだかまり、不安。そういったものを取り除いて欲しいという王子のさり気無い望みに、俺は気が付く事が出来たと思う。
 王子の決断は、決まっているんだ。俺達はその決意を応援すべく、限りなく全力で力になる事を伝えられれば良い。
 見えない、結果は分からない。
 だけど今この場は約束して、求める安心を与えてやるべきだと思うんだ。

  
  
 地下鍾乳洞から南方神殿地下へ続く秘密通路を、ヒュンスに案内されて抜けた俺達。
 時刻は朝だ、とは言っても地下だから昼か夜か朝か夕かなんて分からない。
 しかし思い出してみると今は朝なんだと来る。恐らくセーブしてスキップして現在に至る、だな。
 正規手続きでの睡眠『セーブ』、イベント省略の『スキップ』、そして記憶をたどる思い出す……これはレッド曰く『リコレクト』。
 まだ名称は定着してねぇな、セーブやスキップと違って特殊なコマンドだ。メージン曰く、一旦ログアウトしてから開発者を交えてどういう名称で統一していくかを決める予定らしい。

 とにかくセーブ、スキップ、思い出すという定番の動作を終えると、俺達は地下秘密通路を歩いていたって訳だよ。

 晧々と明かりが照らされて、一つしかない南方神殿への秘密通路は、何重にも厳重に封鎖されていた。
 所々怪しい形をした黒い布の山がある。
 アベルやマツナギが目を逸らして、密かに口元を手で覆った。その動作で大体『それ』が何であるのかを察した俺だ。あいつら視覚聴覚に限らず五感全部鋭いからな、嗅覚能力も並じゃない。
 あれはアレだな、多分……偽王側の兵の被害者だろう。
 この地下通路を確保するにあたり見えない地下では、激しい戦闘があったのは確実だ。仕えた王が偽者とも知らない何人かの忠誠心厚い兵士は……ここで不運にも命を落としたのだろう。
「魔物や、魔王軍が出たという話は?」
「幸い、報告は無い」
 ヒュンスは、鍾乳石に埋もれかけている古い石扉の前で振り返って首を振った。

 地上から地下秘密通路まで、全て包囲されて、何も抵抗無しってのは正直不気味だな。
 今だ致命的な尻尾を出していない偽王アイジャンの本拠地……それがこの石扉の向こうにある。

 この扉が、二つの世界を隔たる唯一のもの。

 突入タイミングはもう数分後だ。ぜんまい時計の時間を睨みつけているヒュンスにレッドが小さな声で尋ねる。
「王妃の情報は……どこから?」
「……はっきりとは分からないが、恐らく偽王側から齎されたものだろうと私は思っている」
 それって明らかに罠じゃね?しかしそういう事はウチの軍師ども、すっかり承知してるみたいで驚いてくれない。
「やはりそういう事情でしたか……」
「効果的な誘い文句だよ、偽王サイドは僕らのような遊撃隊が存在する事を知らないのかもね」
「そうか?」
 テリーが険しい顔でナッツを一瞥する。
「知らないんじゃなくて、知らされてないって事じゃねぇのか?」
「それは魔王サイドと繋がりがあった場合よね」
 ……待て、俺その話について行けてない気がする。どういう意味だテリー、アイン。この場で分かってない……見回して見た所……約二名って所か。
 アベルさん、一緒に底辺でがんばりましょう。
 そんなアベルは無言で不機嫌な視線をナッツに向けた。ナッツは視線が向けられた事を知って慌てて苦笑する。
「ほら、僕ら……」
 言いかけてヒュンスが居る事に気がついて口を閉じてしまった。失言してしまったという事に気が付いたらしいテリーも頭を掻く。レッドが肩を竦めた。
「どうしたんだ?」
 突然止まった俺達の会話に、不思議そうな顔をするヒュンス。レッドは少し考えてから言った。
「信用してお話しましょうか」
 また嘘付くのかと思って俺は内心構えちまったが、何事も信用ってのは重要だ。ましてやヒュンスはそういうの堅く守ってくれそうな人だし。よし、話してしまえレッド。
「……僕らを含め、どうやら魔王一派の策略に乗せられています」
「何……?それは、どういう事だ」
 ヒュンスが一瞬辺りに目を配り、小声で聞き返す。
「北方女王誘拐から始まり南国の戦争蜂起。これらは何かの目的があって企てられた緻密な計画の一部の様に思えるのです。そして、その図を書いているのが魔王八逆星の誰か……誰なのかまでははっきりしませんが、少なくとも一人関わっているのを僕らはすでに、はっきりと知っている」
「では君達は、その八逆星の一人を追いかけているというのが実際の所なのか?」
 レッドは小さな溜め息を漏らした。
「……言っていいんでしょうかねぇ。いえ、見栄を張ってもしかたがありません。実際の所今の僕らの実力では、八逆星の一人にも手が届かないのですよ。だから恐らくは、僕らは彼らの策略に乗せられている……苦悩する所です」
 そうか、とヒュンスは低く呟いて項垂れた。立場って奴を理解してくれたのか、何となくヒュンスは俺達の苦労を組んでくれた様だ。
「素直に差を認め、差を知れるというのは悪い事ではない」
 ナイスフォローありがとうヒュンス。負けてる俺達の心の傷が、癒されてく感じがするぜ。
「ですから案外王妃を盾に取ったという情報は、王子を誘い出す為の物ではなくむしろ、僕らを誘い出しているという考えも出来なくは無い」
 レッドの言葉に俺は口を強く結ぶ。俺はそこまで予測してなかったのだが、確かに物凄くありえそうな話だ。
「我々では図りようの無い策略があるかもしれんのだな……」
「結局の所、大局的に見てどっちが大きな図を引いているか、というのが問題なんだと思うよ。アイジャンが上か魔王が上か……少なくとも今の展開は偽王には不利だ、もっと大きな策略を引いた誰かが居るはずだと思う」
 ナッツは真面目な顔で言った。偽王よりも大きな、何らかの『策略』を展開するもの……その正体は恐らく魔王八星だろう、って所だな。さてはて、偽王も魔王と繋がりがあるという話だったのに、何をどうして拗れてしまったんだか。
 「時間だ」
「よし、」
 俺は立ち上がり扉の前に立った。
 今回のイベント、まだまだ謎の部分がありすぎる。少しずつ外堀を埋めていこうじゃないか。
 まずは、偽王とやらと魔王の関連性だ。ミスト王子の言う通り、入れ替わった偽者の王であるアイジャンが魔王との関連性を持つのか。

 具体的には奴の頭上に、赤い旗があるかどうか。
 まずはそれからだ。
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