異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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4章   禍 つ 者    『魔王様と愉快な?八逆星』

書の2前半 贈る言の葉 『任せろ、根拠のない言葉かもしれないけど』

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■書の2前半■ 贈る言の葉 We gave aid to king

 問題は、真ッ昼間にどうやって地下牢を出るかだ。

 秘密通路を戻ってもいいのだが、ユーステルを案内するにはあんまり良い道じゃないし大体、出る先は城の中だ。
 こういう時こそ転位門だろう?しかし、そこん所は腐っても牢獄。しっかり転位魔法遮断が効いていらっしゃるようで使えない。少なくともこちらからの発動は難しいとレッドが言っている。
「他に出口は無ぇのか?」
「地下鍾乳洞に下りればいくつかあるみたいだけど」
 ナッツが地図を確認して苦笑する。
「ただルート的に例の、南方神殿へ続いてる通路を経由しない訳にはいかない。間違いなくその辺り、偽王の兵士に抑えられているだろうね」
 その問題の通路をぶっちぎらないと頼みの地下通路は、城の外には通じていないんだな……って言うかあれだ。

 そういう地下通路の事情を分かってて偽王の奴、南方神殿を抑えてやがるんだな?

「やれやれ、では仕方なく相手の策に嵌まりますか」
「どういう意味だい」
 レッドの言葉にマツナギが怪訝な顔をすると、ナッツはなおも苦笑した。
「ちょっと、何だっていうの?」
 アベルから袖を引っ張られ、ナッツはしぶしぶ口を開く。
「つまり、もうすでに後手だって事かな」
「訳わかんない」
 アベルから目を細めて睨まれて、ナッツは逃げるようにレッドを向いた。目線で何か訴えている。お前らは相変わらずアイコンタクトで話すよなァ?頼むから俺達にも分かりやすく事情を説明しろよ。
「やはり、そうなのですね」
「はぁ、多分この気配は」
「探知系の魔法を使ったのか」
 テリーが腕を組み、牢屋の外に出て通路をうかがう。糸で作ったトラップは反応してないけどと、マツナギが小さな玉が結び付けてある糸の先を慎重に拾い上げた。
「アイン、何か匂うか?」
「うーん、そうねぇ」
 テリーの肩に乗っかっている小竜のアインは、鉄格子から鼻先を通路に出し鼻を鳴らした。
「ここの牢屋って殆ど使ってないわけでしょ?空気の流れは、こっちからこっちに流れてるの」
 ふむ、嗅覚だけでそんな事まで分かるのか。
 アインは牢屋の最深部から仕切り戸の方へ空気が流れていると示した。最深部は行き止まりのはずなのだがどうやら、地下牢入り口の真下でもあるらしく今回の出口でもあったりする。
「で、ヒトの匂いが……ふんふん、夜より強いかな?」
「昼間だから暑いってんで、汗かいてるだけじゃね?」
「それもありうるわね」
 ありうるのかよ。
「でも、多分夜の人数分じゃないわね……倍以上の種類を感じる」


 先頭は……やっぱり俺だ。
 もうなんか最近悟りを開いてきた。アレだ、やっぱり戦士ってのは先頭に立って先にダメージを受けなきゃいけない運命なのかもしれない、とか。某MMOゲームでもナイト=盾だからな。盾役も相当に重要なんだ。俺はその重要っていう響きに自尊心を持って先頭役を担おうと思う。
 ……おかしい、俺はいつからそんなスタンダードな役割を担う様な奴になったんだ?
 基本的には盗賊とか狩人とか魔獣使いとか、自らの手を汚さないタイプが持ちキャラだったのに。
 安易に職業戦士なんぞ選んだのが運の尽きか。選んだ理由は例によって、せっかく強く作れるのにあえて『武器戦闘バカ』というマイナーな路線を狙ってしまったからだ。少なくとも戦闘バカが一人出来る事は分かっていた訳だが、そいつが絶対に『拳闘士』を選ぶだろう事まで推測できたからなぁ。
 ちょっとだけ、テリーに対抗意識を飛ばしたというのも実際にはアリです。

 さて、先頭を切って地上に出るわけですよ。

 レンガの出っ張りを登りきって、僅かな隙間から光の差し込む石の蓋をえいやっと押し開けて……。
 覗いた青い空を見上げ、数秒何もアクションが無い事を確認してから俺は、素早くレンガの出っ張りを蹴り表へ跳び出した、と。
「あぁ、」
 俺は思わず右手で顔を抑えて項垂れてしまった。
 案の定過ぎて苦笑が漏れる。
「ダメだ、やっぱ包囲されてる」

 ぐるりと取り囲む、南国兵士達。

 石綿を吹き付けた鎖帷子にベストに似た同じデザインの上着を纏い、頭にはターバン。そしてカルケード国章である月星のファマメント紋。
 そういう恰好の兵士がぐるりと、ハルバートを持って俺が出てきた穴を取り囲んでいる状況だ。とりあえず襲い掛かってくる様な気配はなく、数メートルの距離を置いてこっちを静観していた。

 すっかり全員穴を出る。今更引っ込んだって逃げ場が無いんだしな。
 ユーステルが最後になったマツナギから押し上げられる様に穴を出てくると、ようやく取り囲んでいる兵士の一人が反応を示した。
「……本当にいらっしゃった……」
 しかしなんだ、その反応の仕方は。
「あの……俺達に何か用なのか?」
 謎の穴から出てきた俺達の言うべきセリフじゃないだろうとか、ツッコむなそこ。
「この下がどのような場所なのかは……ご存知なのですか?」
 レッドが辺りを見回しながら聞いた。月白城の正面から左手側、兵士達の宿舎がある奥にある奇妙な石造りの建物のすぐ脇だった。
 奇妙に見えるのは、この建物が斜めに傾いて地面に埋もれている様だからだ。何って事はない、それが地下牢への入り口にあたる建物だろう。扉の無い建物の奥に鉄格子が見えて、真っ暗な空間が伺える。レッドの推測通り、この秘密の出口は地下牢出入り口付近に会ったというワケだ。
 しかし俺達の質問など無視して兵士達は突然武器を降ろし、膝を砂の地面について畏まる。
「ユーステル女王、お探ししておりました。城を預かっておられるエルーク王子が案じておられましたぞ」
「だったらなんで突入してこねぇんだよ」
 俺の容赦ない突っ込みに、レッドは今しがた俺が開けた石の蓋を観察する。持ち上げようとしたみたいだが力が足らんかったらしく、テリーから裏返しにしてもらっている。
「ふむ、円に第三眼……神聖封印の複合紋章ですか」
「何だそりゃ?」
 テリーの問いにレッドは蓋を元に戻して……つまり今俺達が出てきた穴を塞ぐようにテリーに指示しながら答えた。
「南国で神聖とされる8精霊紋章が4つ在ります。一つが南国紋章でもる月星で現されるファマメント紋、二つが南方の太陽で現されるイーフリート紋、三つが環と和で現されるドリュアート紋、そして最後がこの国最大の偉人を示す第三眼紋章のイシュタルト紋です」

 なんかめんどくさい事に、国の名前と紋章の形と八精霊をそれぞれ意味する紋章の形が一致してないのな……。
 南国カルケードがファマメント紋で、西国ファマメントは翼の紋章……つまりジーンウイント紋が国章になっている。イシュタルトという精霊がいるが、これを現すのは一つ目を象った紋章で『第三眼』と呼ばれるんだが、これの模様を国章にしている国は無い。遠東方イシュタル国の紋章は竜。

 しかしそういえば南国の俺でも知ってる偉人を現す紋章として、イシュタルト紋が使われているんだった。俺でも知ってる世界的な有名人……テトアシュタ王。この偉人は特に魔種に人気が高い。知らないとすれば……そうだな、テリーかアベル位じゃないのかってくらいに有名な人だ。
 何で有名なのかは今は、割愛するけどな。
 とにかく、そういう事を今のレッドの説明で思い出した俺。思い出したわけだから当然、戦士ヤトの知識だ。

「この内、円であるドリュアート紋はこの国では国家的に必要な封印という意味があり、その中に第三眼があれば特に重要な封印を意味します。カルケードの偉大なる王に誓い、これを暴く事を忌みとする……開けたくても開けられなかったわけですね」
 裏面には何も掛かれてなかったが、表側にそうあるとなっちゃぁ……なる程、この国の兵士達はこの石の蓋を持ち上げるわけには行かなかったわけか、国家的な仕来りの所為で。
「行きましょう、皆さん」
 ユーステルの言葉に促され、俺達は大人しく頷いた。

 まぁな、展開はどうあれ。……例え罠でも。エルーク王子と穏便に会えるならそれでいいじゃねぇか。



 月白城の5階相当、だな。
 螺旋階段を兵士達に前後ろ挟まれて俺達は登り……その部屋へ通された。
「ユーステル」
 待ち構えていた青年が嬉しそうに近寄ってきて、俺の隣に居たユーステルの手を取る。ミスト王子に雰囲気は良く似てる、しかし驚いた事に頭髪は黒髪じゃぁなくて白髪で、目の色が……黒い。
 なんだそのあべこべな配色は?遺伝的にありえなくない?もしかして髪の毛色変えてるとか?
 そんな割とどーでも良い事を考えた俺の隣でその時、ユーステルの顔が困惑気味に歪んだのを……弟王子は無視した様に思える。
「全く、どこに行っていたんだい?」
「……貴方は……何を」
 ユーステルの戸惑った呟きを無視し、エルークとやらは俺に向き直った。そして人懐っこそうな笑みを浮かべて俺の手を強引に握る。
「ありがとうヤト、君が魔王の手から彼女を助け出してくれたんだよね」
 ぎゅっと強く握られる手。

 だ・よ・ね?

 何となく……その言葉には強要的なニュアンスが含まれておりませんか?大体なんでお前が俺の名前を知ってるんだよ。的な事を聞く前に王子が口を開いた。
「君達が魔王討伐隊である事は……」
 誰から聞いたよと俺が咄嗟に口を挟む前に結論を言われた。
「情報屋から聞いているよ」
 その答えに、俺は息を詰まらせてしまった。

 つまりこれは、精神的にショックを受けたわけだが……情報屋、そんなの知ってる情報屋って言えばミンジャン、フクロウ看板のAWLしか無いだろうが。
 どういう事だ?確かに、俺達の行動はそれ程隠密という訳ではないのだから、AWL的には俺達の情報を取り扱うのは合法だ。合法だけど……ミンならもうちょっと、こっちの立場って奴も考えてくれるもんだと思ったのに。
 いやでも、冷静に考えるとそれって都合が良すぎる話だよな。
 AWLに限らず俺達の事情を知っている者は他にもいるんだろうし、イシュタル国から正式派遣されている討伐隊だというのも基本的にはオープンな情報なわけで。
 俺がそんな風に逡巡している間に、レッドは予定通りの行動に出た。
「エルーク王子とお見受け致します」
 低く畏まったレッドに俺達も倣う。エルーク王子はちょっと驚いた様な顔をしたが、すぐに優越感がちらほら見える顔で俺達を見下ろして言った。
「いかにも、エルーク・ルーンザード・カルケードだ」
「我々は殿下のご高察の通り、イシュタル国任命の魔王討伐隊にございます。この度は北方シーミリオンからの密使により、このように無礼かつ無法な行動に出た事、まずはお詫びを申し上げたく」
 ……その礼節って、建て前なのか本気なのか。……たぶん建て前だろうけど、だって腹黒嘘吐き魔導師だし。
「非常時だ、許す。女王を無事奪還した事に免じよう」
 いかん、ガマンしろ俺。……エルーク王子のその言葉にカチンと来てしまった。しかしここはガマンだ、ガマンだ俺ッ。ちらりとアベルを伺うと、やっぱり奴も何か腹に据えかねる顔をしている。気持ちは判るが頼むから我慢だぞアベル!
「……恐れながら、お聞きしたい事がございます」
 レッドは今だ平伏したまま聞いた。
 基本的に『表を上げよ』と言われるまでは、こうして平伏してなきゃいけないもんだろうと思う……。良く分らんが……結局相手のゴキゲン取ってる行動だ。取り合えず相手の機嫌を取るのが先決、機嫌を損ねない事が最重要項目なんだよ。そのために全てはガマンだ。
「何だ?」
「女王を救出するにあたり、実に心強い協力を戴いたのですが。もしや、あれは……」
「ああ……」
 王子は少し機嫌が良さそうに笑った。
「そうだ、僕が手助けしたんだよ」
 ……俺は、顔を上げて奴の頭上を今にも確認したい気分で一杯イッパイなのだが、とにかくガマンして平伏し続けていた。
「ならば、この件は我々の力によるものではありますまい、全ては殿下のお力添えのお陰」
「そんな事は無い、君達じゃなきゃいけなかったんだから」
 ようやく顔を上げるように言われた。睨みつけてしまわないように深呼吸を密かに行ってから、俺は顔を上げる。

 だがエルーク王子は……白だ。
 彼の頭上には怪しいフラグは見えなかったし、彼を取り囲む兵士達の頭上にも同じくだ。

 だからと言って魔王との関連性も……白とは、いかないがな。

 レッドのやり取りの中で王子ははっきりと、魔王八逆星であるインティとの関係を認めてしまった。
 そんな簡単に引っかかってくれちゃうと、逆に天然で分かってないで答えたのかそれとも、全て分かっている上で言っているのか判別つけにくい。
 少なくとも俺にはどっちなのかはっきりと決めかねる。人懐っこそうな、と最初に感じたイメージはすでに崩壊を起こしていた。こいつは、この弟王子はミスト王子とは全く違う性格をしていて……すげぇ、嫌な奴だ。それだけははっきりと分る。
 属性的には俺達の好敵手であるランドールに似ている。ランドールも南方人だしな。にっこりと微笑む笑みには、狡猾な侮蔑が込められている様な気がするのだ。とにかく悪意が微笑んでいる様に見えるのは……俺の錯覚か?
「女王、貴方は魔王によって幽閉されていた」
 微笑んだまま、エルークはユーステルに『言い含める様に』優しく囁く。
「僕との婚姻を邪魔するあの偽王、伯父の手によって隠されていたんだよ?」

 それは確認じゃぁなくて。

 それは、事実を決め付ける断定の言葉だな。

 ああ、今俺はようやく悟る。
 インティが女王を攫った事を『秘密にして』などと持ちかけてきたのはつまり……こういう流れになる事を知っていての事か。どういう関連かは良くわからないが……エルークとインティ、どうやら通じてるな?もしかすると魔王の連中、この頭の弱い弟王子を利用しようとしているのかもしれない。そして何かを企んでいるんだ。
 そして今は、その流れに俺達も乗れとインティが言っている。

 事実、乗っかるしかないのだというのも俺は理解してしまった。
 レッドやナッツを伺うまでも無い。

 突然湧き出した結婚話の真相は分からないが、その果てに女王誘拐、さらに幽閉。戦争勃発の危機に、集結した反偽王派。突然南国に流れ出した、偽王の噂。
 それで、でっち上げの『魔王による女王幽閉』と『偽王と魔王の関連性』。

 ああ、くそッ!

「……ミスト王子が決起した、戻ってくるぞ」
 俺は小さく呟いた。ふつふつと湧き上がる、理不尽な気持ちから来る怒りを押さえつけて出来るだけ、冷静に。
 しかしエルーク王子はふいと横を向き、口だけ笑う。
「ああ、そうなんだ。ようやく来るんだね」
 そして俺達に背を向けると笑いながら小さく囁いた。
「……全く、世話が焼ける兄だよ」



 戦争のセの字の気配も無い南国カルケードの首都ファルザットを目指し押し寄せる、ミスト王子の軍の噂は次の日の朝、あっという間に駆け巡った。俺の目には、その噂で騒ぐ町の様子は歓喜に近い感情が沸き立っている様に見える。

 今や偽王アイジャンの存在はすっかり公にされ、弟王子エルークの幽閉もミスト王子決起の知らせに意味の無いものとなっていた。偽王の噂に城の兵士たちもすっかり困惑し、エルークが突然兄王子ミストに同調して決起する様働きかけた事に引き吊られた格好だ。
 急速に偽王アイジャンの権力が消えていくのが、部外者であるはずの俺にも分かる。
 レッド曰く、南国が戦争をするという話が流れた段階で、それを黙認したと見られている王に対する国民の失意は相当なものなんだと。
 それくらい、本当は南国人フレイムトライブってのは争いごとが嫌いなんだとか。

 でも、どうだろう。
 弟王子に率いられた城兵と、戻ってきたミスト王子の軍にすっかり取り囲まれた、南方神殿を夕方頃には拝む事になって……俺は、この国の人達が本当に心穏やかな性格なのかどうかはちょっと疑問に思う。
 結局何かしらの血が流れる事を生贄を捧げて執り行う祭りみたいに、待ち詫びている様に思うのだ。
 真に心穏やかなら、この王と王子の対立図を嘆いてもいいんじゃねぇのか?などと俺は思うのな。
 なんだろう、アレかな……俺はこの国に昔居たどエラい王様であるテトアシュタ王が割りと好きなんだな。彼が戦争や争いを嫌い、融和の歴史を築いたというのに心底関心している。その王の居た国に……どこか高望みした先入観を持ってしまって。
 理想と現実のギャップに落ち込んでいる。
 理想の方が現実に負けてる場合は嬉しいのにな、どうして現実が理想に届いていないとこんなに、落胆するんだか。
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