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4章 禍 つ 者 『魔王様と愉快な?八逆星』
書の4前半 導き手『魔王の城、見つけちゃいました』
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■書の4前半■ 導き手 CHAOS&KARMA
さて……これでイベントも一区切りなのかな。
様々な焦燥感から開放されて、次に何をしようかと思うって事は、多分一つのイベントが終了したからだと思う。ゲーム感覚で悪いがしょうがないだろ、例えこの世界は今の俺にとって現実だと受け入れても、重度ゲーマーである俺という本性が変わる訳じゃぁない。
一段落付いたという雰囲気はするけれど、結局の所色々と謎は深まるばかりだ。
分からない事を指折り数えたら切りが無い。ああ……多分俺達はまだまだ、RPGゲームに例えたら全然序盤にいるんだなぁと思う。大長編って奴?全く底が知れねぇよ。
しかもアレだろ?こういうイベントはプログラムとして組まれている訳じゃないんだ。分かり易く言うとだな……つまりイベント一連を作ったのはプログラマーじゃないんだよ。MFC開発者の高松さん達が意図して作ったイベントじゃない。高松さんらはイベントを引き起こすだろうオブジェクトは配置するが、それがどういうイベントを起こし、ドラマを生むかは世界とプレイヤーに任せている。
この『トビラ』の世界は自動ダンジョン生成型ゲームならぬ、自動イベント生成型ゲームに近いのだろうと思うね。
現実的な世界が生み出す自動的な『イベント』。
それが嫌にデカく俺達にぶち当たってきた。
何かしらのアクションを必要とする人物が、プレイヤーである俺達に分かりやすい様に目印を出す。
具体的には頭上に、緑色の旗を立てる。力になって欲しいと訴えられて、プレイヤーはその望みを察知してイベント発動フラグである緑旗に引き寄せられていく。
考えてみるに、この世界を唯一プレイヤーにゲームたらしめているのはソコの部分だ。旗システムだけが唯一俺達に、現実的な世界から別の階層(レイヤー)に居るのだという事を知らしめる。
今回俺達がやけにデカいイベントに関わってしまったのは、レッド達の推測によればアドミニ権限強化の所為だろうと云う事だ。前にテリーが俺に聞いて来た、あの『背景ルール』の事だろう。
プレイヤーとして俺達が背負っている履歴についての規則。悪いが俺は良く読まなかったので、アインの説明でふーんへぇーそんなのあったんだー的に初めて認知した訳ですが。
ヘルトの町でランドールのパーティーと鉢合わせた時、テリーは設定上の『兄』の出現に、顔を会わせたく無いと逃げ隠れするハメになった。なんでそんなエラい設定になっているのだと思ったら、別にテリーはそんなバックボーンを好んで選択設定した訳じゃぁ無いのな。
プレイヤーの経験値の上昇に合わせ、より『世界』に深く係わり合いを持つ事が出来るようになる。ぶっちゃけイベントに絡みやすくなるって事だろう。そうやって『世界』に深く刺さり込む為に、背負っている過去が自動的に重くなっていくというルールであるらしい。
俺はこれで一応スゲぇ経歴持ってるんだぜ?何の変哲もない頭のイタい戦士だと思うな?
割かし当たってるかもしれないけどな……っておい自分、自虐ネタ多くない?
思い出してみると、俺はこれで遠東方イシュタル国にある闘技の町エズで、歴代総合チャンピオンなんだ。そう、一応テリーも破ってる設定だ。まぁ闘戦士始めた年齢が俺の方が先だからな、経験の差って奴?
とにかく戦ってばかりいたんだ、ガキの頃から。
生暖かい風を受けて、俺は白い蓮の花びらが舞う城下の道々を目で辿っていた。
厳かに行われていた元国王アテムートの葬儀が佳境に入っている。
赤い夕焼けの景色は、世界が滅亡寸前のような壮絶な色に南国カルケードを染め上げている。鳴り止まない鐘の音、骨壷に連なる参列が静かに丘を下って行き、人々が静かに眠りに祈る。
……南国では眠りは『死』の意味を孕んでいる。
道々の人々はきっと目を閉じて、アテムートの安らかなる眠りを祈っているだろう。
ああ、余裕が出来たから例の『アテムート』と『アテムトゥ』の違いをレッドに聞いておいたぜ。
よく考えてみるとアテムトゥという発音をするのは南方人だけなんだよな。……あ、レッドはアテムートと発音するんだが、これは違いについての突っ込みを受けない為の考慮だったんだそうだ。突っ込まれるとレッドの奴、こっちがガッテンするまで説明かまして話が脱線するからなぁ。
ぶっちゃけて、この発音の違いってのは方言みたいなものらしい。
大陸や地域ごとに特有の言語や言い回しがある訳だよ。ちなみに今現在共通する言語の基礎は、新人類と呼ばれている第四期に出現した人間によって固められたものだ。
この新人類ってのは西方大陸から世界に広まったらしくてな、それで基本的にどこに行っても大体の言語は共通だ、会話には苦労しない。
逆に文字系統は難しくって読めない看板とか、割とあったりする。
西方人から分岐した南方人は、気候や文化よって独特の歴史を築いている。それをティルメント文化とか言うらしい。変わった名称や言い回しが多く、西方人が苦手な発音を使う事が多くて結構独特な喋り方をするのな。
で『アテムート』と『アテムトゥ』という発音の違いが出てくるわけだ。文字にしてみると同じなのだが、その文字の発音の仕方が南で異なっている事に起因するらしい。
……その元国王は、南方神殿の例の地下室の奥で見つかった、との事だ。
見つからない方が良かったんじゃないか等と俺は思ってしまったのだがそれって、不謹慎だろうか?
やっぱりどんな悲惨な姿をしていても、遺体はちゃんと見つかった方が新生国王ミストラーデにとっては心休まるだろうか?
そこの所ミスト王がどんな顔をして嘆いたかは良く分からない。
でも、淡々と式を執り行う姿は冷徹には見えなかった。きっと辛いのや悲しいのを必死にガマンしているんだと、俺は彼の背中を見ていてそう思った。
元国王、ううん。そんな言い方じゃ悲しみが伝わらない。肩書きなんてどうだっていいのに、それを第一にしなくちゃいけないからミスト王は我慢をするんだ。父親、でもそう言ったらあの気丈な顔が苦笑に歪みそうな気がしてならない。
親が亡くなった事に素直に嘆き悲しめたらどんなに気が楽だろうな……。
とか言って、俺にはそんな事言う資格は無いかもしれないけれど。
俺は顔を上げ、空を眺める。
管理者権限で強化された俺達は、ルールに則り背景が重くなる。重いかどうか俺にはよく分からないな、正直。
両親が居ない、両親の記憶が無い、俺の背景。今まで何とも思っていなかったけれど、何となくそれを思い出して俺は一人苦笑した。
おかしな気分だったんだ。だってリアル俺であるサトウハヤトには、残念ながらちゃんと両親が存在するし現在も健在だ。目ぇ醒めた時に訃報でも届いてなけりゃ。
酷い言い方だがぶっちゃけ、あんまり仲は良くないのだ。いや、夫婦間じゃなくて夫婦と息子である俺との仲な。
だからどうとでも言える。親不孝だと思ってはいるが、誰がテメェらの老後の世話なんかするかバーカ!的な……とても悪い息子なんですよ、俺は。
だから親って存在とは疎遠、って意味では同じようなもんなのかな。
両親が居るという実感が無い、という意味では似てる境遇かもしれないと、俺は気が付けば無駄にアッチとコッチで一致する所を見つけようとしている。
そんなの無意味な事なのに。
この世界は異世界で、仮想現実で、今の俺には現実だ。今じゃない俺、トビラの向こう、リアルの世界、サトウハヤト的な世界とは一切、交わる事が無い『世界』がここにある。
絶対に交わらない、てゆーか混じってはいけない。
混同したら精神的に未熟だと言わざるを得ない、俺はそんな自分を鼻で笑うだろう。リアルとバーチャルの区別もつかないのか?現実は現実、仮想は仮想だ。
二つは別モノ。
例えどんなにリアルに近づいても、現実になる事などありはしない。
何度も例えて思った事だな。
小説に絵が付く事、マンガになる事、アニメーションになる事、肉声がついて動き回っても、ドラマになって俳優が演じても、どこまでも仮想だ。どこからも現実になったという事実なんか無い。
現実的だと勘違いするのは勝手だろうが、俺はそういう勘違いは幼稚だとさえ思っている。
でも俺はこの『世界』で過ちを犯している。
混同してはいけないのに、混同させようとしている。幼稚だと思う行為を気が付けば反芻して戸惑ってばかりだ。交差する事の無い世界にただただ、騙されていればそれでいいのに。
俺の脳味噌は一体何に反抗してやがるんだか。
自然と溜め息が漏れて当然と、トビラを潜ってあっちに戻った時の事が心配になる。果たして俺はちゃんと現実と仮想を分けて考えられるのか、ちょっと不安になっちまったり。
ふぅ、軽い鬱の溜め息。
普段は雲一つ浮かぶ事の無い南国の空に、鱗の様な雲が赤く染め上げられて並んでいる。
「一雨来るね」
びっくりして振り返ると何時の間にやらマツナギが後ろに立っていた。
「なな、ナギさん、何時の間にッ!」
気配が無いんだよなぁ、そういう足運び、癖なのかもしれない。彼女の北方上級傭兵という肩書きはマジメなモンだな……。
「んー……その、通りかかったらなんだか溜め息ばっかりついているからさ、気になって」
ずっと見られてたか、俺は恥ずかしくなって前を向き直る。
丘を降りていく葬儀の一団は、ずっと遠い砂漠の中へ消えていこうとしていた。風が出てきて砂が舞い月白砂漠に靄が掛かる。さっきまではっきり見えていた合祀陵墓である『南天還地』という名前の緑地がすっかり砂嵐で見えなくなっていた。道路に舞っていた蓮の花びらも、通り抜ける風に運ばれて殆どが姿を消している。
「らしくないね」
俺はちらりと横に並んだマツナギを窺う。
「別にいいだろ?俺だって色々と……」
考える時はあるさ、バカな俺でも。俺は気を取り直し、意地悪に笑ってマツナギに向き直る。
「俺の事心配してんのか?」
「べ、別に心配って訳じゃなくてさ、」
うーむ、お決まりの文句での返答ありがとう。ツンデレは悪くないが俺的には萌えないな。もうちょっと捻りを加えた返答を貰いたかったかな。
ん?いや待て?俺は何を期待してるんでしょうね、ははは。
「どうだ、世界を旅して周って見て」
「ん、そうだね……。RPGも悪くないかもね」
俺とマツナギが顔を見合わせた。互いに言葉の意味がズレた事を数秒後に悟って、笑い合う。
俺は北方で傭兵家業をしていたマツナギに言ったつもりだったが、彼女はリアルでの、マツモトナギとして答えた訳だ。
全く、それって俺らが前にオーター島でやらかしたのと全くの逆パターンじゃねぇか。お互いにそれが分かって思わず笑ってしまったって訳だよ。
「音ゲー専なのに、それっぽい要素が全然出てこねぇもんなぁ」
「ヤトだって遠東方から出るの今回始めての癖に」
再びズレる会話にひとしきり腹を抱えて笑った。何がおかしいって訳じゃないのに、何だか酷く笑えてしまう。しまいにはワザと会話をズラしてみたりして、俺は彼女との会話を楽しんでいた。
それで、不安や鬱な気分を吹き飛ばした。確かにらしくないもんな。ひとしきり笑った頃、風が強まってきてぽつりと雨が落ちてくる。
「ほら、降って来た」
笑いを収めながらマツナギが空を見上げた。何時もなら満天の星空が瞬きはじめる空にはどんよりと紫色に曇っている。
「天が代わりに泣く、ってか」
俺は苦笑してやはり、空を見上げる。
「誰の代わり?」
ちょっと怪訝な顔で尋ねられて、俺は決まってるだろと遠く、南天還地陵墓の方角を見る。
「泣けない国王陛下の代わりにだよ」
雷が鳴る。
本格的に降り出す前に俺とマツナギは月白城に戻った。客人として城内の部屋を借りてるんだ。別に宿屋でも良かったんだが、ミスト王がどうしても使ってくれって言うしな、お言葉に甘えた格好。
「雨か、珍しいんだよな?」
中庭を走る廊下にテリーとアベルが居る。雨避けというより、本来は日差し避けの為の通路だな。
「お前らは城にいたのか?」
「ああ、適当にブラブラしてたらコイツが城で迷子になっててな」
指差されたアベルはプイっとそっぽを向く。こんなに見通しの利く単純構造の城内でさえも迷う、アベルはそんな奴だよ。
「で、今ここまで連れて来た所だ」
「他の奴らは?」
言った傍からナッツとアインが飛び込んできた。
「ひゃーッ、酷いな、南国で雨に打たれるとは思わなかった」
ぐったりと濡れた羽をバサバサと振る有翼族のナッツ。どうやら防水加工とやらを怠っていたらしい。小竜のアインもその隣で首をプルプルと振っている。見てるだけなら可愛いんだが、中身がなぁ……腐女子だからなぁ。なんか完全に、彼女を見る目変わっちゃったんだけど。
「不吉ですねぇ」
雨避け魔法を張って悠々と最後に帰って来たのがレッド。本を大事そうに抱えている所……お前、ファルザットまで行ってたんか。
「不吉って、雨が?」
アベルは雨振る中庭を眺めて、床にしゃがみこんでいた所振り返る。
「恵みの雨じゃぁないんだ?」
「確かに有り難いものですがね……季節はずれの雨は一方で不吉の前兆だという迷信があるのです。たまたま良くない出来事と、季節はずれの雨が重なった事があったのでしょうね。カルケードの都市部に残る都市伝説みたいなものですよ」
なんだその、都市伝説って。
「……女神の予言ならいいのですけれど」
おっと、スルーする所でしたがこの言い回しはこっちの世界特有だよな。俺もフツーに意味を理解していたから世界的に有名な比喩なんだろう。
ええと予言を司る女神、ってのがいるのな。もちろん実在するもんじゃねぇぞ。で、その予言ってのが『当たらない』ってのが何故か前提になってるらしい。よって女神の予言すなわち『当たらない』もしくは『覆る宿命』という意味で使われるのだ。こっちの一般的なことわざとして使われているのでレッドの口から自然とそう云う文句が出たのだろう。
俺達は、珍しい訳でもないのに、なんだか飽きずに降りしきる雨を見ていた。渡り廊下の屋根を伝って落ちる水が、庭に掘られた水路に集まりどこかへ流れていく。
『……皆さん……』
心地よい雨音に混じり声がする?いや、これは声じゃない。呼びかけが鮮明になって来る。
『悪い知らせです』
メージンのコメントだ。
返答しても会話が出来ない状態なのは分かっているから、俺達は思わず天を見上げて彼の言葉の続きを待った。
『タイムリミットが近い様です』
ああ、来てしまったのか。
さて……これでイベントも一区切りなのかな。
様々な焦燥感から開放されて、次に何をしようかと思うって事は、多分一つのイベントが終了したからだと思う。ゲーム感覚で悪いがしょうがないだろ、例えこの世界は今の俺にとって現実だと受け入れても、重度ゲーマーである俺という本性が変わる訳じゃぁない。
一段落付いたという雰囲気はするけれど、結局の所色々と謎は深まるばかりだ。
分からない事を指折り数えたら切りが無い。ああ……多分俺達はまだまだ、RPGゲームに例えたら全然序盤にいるんだなぁと思う。大長編って奴?全く底が知れねぇよ。
しかもアレだろ?こういうイベントはプログラムとして組まれている訳じゃないんだ。分かり易く言うとだな……つまりイベント一連を作ったのはプログラマーじゃないんだよ。MFC開発者の高松さん達が意図して作ったイベントじゃない。高松さんらはイベントを引き起こすだろうオブジェクトは配置するが、それがどういうイベントを起こし、ドラマを生むかは世界とプレイヤーに任せている。
この『トビラ』の世界は自動ダンジョン生成型ゲームならぬ、自動イベント生成型ゲームに近いのだろうと思うね。
現実的な世界が生み出す自動的な『イベント』。
それが嫌にデカく俺達にぶち当たってきた。
何かしらのアクションを必要とする人物が、プレイヤーである俺達に分かりやすい様に目印を出す。
具体的には頭上に、緑色の旗を立てる。力になって欲しいと訴えられて、プレイヤーはその望みを察知してイベント発動フラグである緑旗に引き寄せられていく。
考えてみるに、この世界を唯一プレイヤーにゲームたらしめているのはソコの部分だ。旗システムだけが唯一俺達に、現実的な世界から別の階層(レイヤー)に居るのだという事を知らしめる。
今回俺達がやけにデカいイベントに関わってしまったのは、レッド達の推測によればアドミニ権限強化の所為だろうと云う事だ。前にテリーが俺に聞いて来た、あの『背景ルール』の事だろう。
プレイヤーとして俺達が背負っている履歴についての規則。悪いが俺は良く読まなかったので、アインの説明でふーんへぇーそんなのあったんだー的に初めて認知した訳ですが。
ヘルトの町でランドールのパーティーと鉢合わせた時、テリーは設定上の『兄』の出現に、顔を会わせたく無いと逃げ隠れするハメになった。なんでそんなエラい設定になっているのだと思ったら、別にテリーはそんなバックボーンを好んで選択設定した訳じゃぁ無いのな。
プレイヤーの経験値の上昇に合わせ、より『世界』に深く係わり合いを持つ事が出来るようになる。ぶっちゃけイベントに絡みやすくなるって事だろう。そうやって『世界』に深く刺さり込む為に、背負っている過去が自動的に重くなっていくというルールであるらしい。
俺はこれで一応スゲぇ経歴持ってるんだぜ?何の変哲もない頭のイタい戦士だと思うな?
割かし当たってるかもしれないけどな……っておい自分、自虐ネタ多くない?
思い出してみると、俺はこれで遠東方イシュタル国にある闘技の町エズで、歴代総合チャンピオンなんだ。そう、一応テリーも破ってる設定だ。まぁ闘戦士始めた年齢が俺の方が先だからな、経験の差って奴?
とにかく戦ってばかりいたんだ、ガキの頃から。
生暖かい風を受けて、俺は白い蓮の花びらが舞う城下の道々を目で辿っていた。
厳かに行われていた元国王アテムートの葬儀が佳境に入っている。
赤い夕焼けの景色は、世界が滅亡寸前のような壮絶な色に南国カルケードを染め上げている。鳴り止まない鐘の音、骨壷に連なる参列が静かに丘を下って行き、人々が静かに眠りに祈る。
……南国では眠りは『死』の意味を孕んでいる。
道々の人々はきっと目を閉じて、アテムートの安らかなる眠りを祈っているだろう。
ああ、余裕が出来たから例の『アテムート』と『アテムトゥ』の違いをレッドに聞いておいたぜ。
よく考えてみるとアテムトゥという発音をするのは南方人だけなんだよな。……あ、レッドはアテムートと発音するんだが、これは違いについての突っ込みを受けない為の考慮だったんだそうだ。突っ込まれるとレッドの奴、こっちがガッテンするまで説明かまして話が脱線するからなぁ。
ぶっちゃけて、この発音の違いってのは方言みたいなものらしい。
大陸や地域ごとに特有の言語や言い回しがある訳だよ。ちなみに今現在共通する言語の基礎は、新人類と呼ばれている第四期に出現した人間によって固められたものだ。
この新人類ってのは西方大陸から世界に広まったらしくてな、それで基本的にどこに行っても大体の言語は共通だ、会話には苦労しない。
逆に文字系統は難しくって読めない看板とか、割とあったりする。
西方人から分岐した南方人は、気候や文化よって独特の歴史を築いている。それをティルメント文化とか言うらしい。変わった名称や言い回しが多く、西方人が苦手な発音を使う事が多くて結構独特な喋り方をするのな。
で『アテムート』と『アテムトゥ』という発音の違いが出てくるわけだ。文字にしてみると同じなのだが、その文字の発音の仕方が南で異なっている事に起因するらしい。
……その元国王は、南方神殿の例の地下室の奥で見つかった、との事だ。
見つからない方が良かったんじゃないか等と俺は思ってしまったのだがそれって、不謹慎だろうか?
やっぱりどんな悲惨な姿をしていても、遺体はちゃんと見つかった方が新生国王ミストラーデにとっては心休まるだろうか?
そこの所ミスト王がどんな顔をして嘆いたかは良く分からない。
でも、淡々と式を執り行う姿は冷徹には見えなかった。きっと辛いのや悲しいのを必死にガマンしているんだと、俺は彼の背中を見ていてそう思った。
元国王、ううん。そんな言い方じゃ悲しみが伝わらない。肩書きなんてどうだっていいのに、それを第一にしなくちゃいけないからミスト王は我慢をするんだ。父親、でもそう言ったらあの気丈な顔が苦笑に歪みそうな気がしてならない。
親が亡くなった事に素直に嘆き悲しめたらどんなに気が楽だろうな……。
とか言って、俺にはそんな事言う資格は無いかもしれないけれど。
俺は顔を上げ、空を眺める。
管理者権限で強化された俺達は、ルールに則り背景が重くなる。重いかどうか俺にはよく分からないな、正直。
両親が居ない、両親の記憶が無い、俺の背景。今まで何とも思っていなかったけれど、何となくそれを思い出して俺は一人苦笑した。
おかしな気分だったんだ。だってリアル俺であるサトウハヤトには、残念ながらちゃんと両親が存在するし現在も健在だ。目ぇ醒めた時に訃報でも届いてなけりゃ。
酷い言い方だがぶっちゃけ、あんまり仲は良くないのだ。いや、夫婦間じゃなくて夫婦と息子である俺との仲な。
だからどうとでも言える。親不孝だと思ってはいるが、誰がテメェらの老後の世話なんかするかバーカ!的な……とても悪い息子なんですよ、俺は。
だから親って存在とは疎遠、って意味では同じようなもんなのかな。
両親が居るという実感が無い、という意味では似てる境遇かもしれないと、俺は気が付けば無駄にアッチとコッチで一致する所を見つけようとしている。
そんなの無意味な事なのに。
この世界は異世界で、仮想現実で、今の俺には現実だ。今じゃない俺、トビラの向こう、リアルの世界、サトウハヤト的な世界とは一切、交わる事が無い『世界』がここにある。
絶対に交わらない、てゆーか混じってはいけない。
混同したら精神的に未熟だと言わざるを得ない、俺はそんな自分を鼻で笑うだろう。リアルとバーチャルの区別もつかないのか?現実は現実、仮想は仮想だ。
二つは別モノ。
例えどんなにリアルに近づいても、現実になる事などありはしない。
何度も例えて思った事だな。
小説に絵が付く事、マンガになる事、アニメーションになる事、肉声がついて動き回っても、ドラマになって俳優が演じても、どこまでも仮想だ。どこからも現実になったという事実なんか無い。
現実的だと勘違いするのは勝手だろうが、俺はそういう勘違いは幼稚だとさえ思っている。
でも俺はこの『世界』で過ちを犯している。
混同してはいけないのに、混同させようとしている。幼稚だと思う行為を気が付けば反芻して戸惑ってばかりだ。交差する事の無い世界にただただ、騙されていればそれでいいのに。
俺の脳味噌は一体何に反抗してやがるんだか。
自然と溜め息が漏れて当然と、トビラを潜ってあっちに戻った時の事が心配になる。果たして俺はちゃんと現実と仮想を分けて考えられるのか、ちょっと不安になっちまったり。
ふぅ、軽い鬱の溜め息。
普段は雲一つ浮かぶ事の無い南国の空に、鱗の様な雲が赤く染め上げられて並んでいる。
「一雨来るね」
びっくりして振り返ると何時の間にやらマツナギが後ろに立っていた。
「なな、ナギさん、何時の間にッ!」
気配が無いんだよなぁ、そういう足運び、癖なのかもしれない。彼女の北方上級傭兵という肩書きはマジメなモンだな……。
「んー……その、通りかかったらなんだか溜め息ばっかりついているからさ、気になって」
ずっと見られてたか、俺は恥ずかしくなって前を向き直る。
丘を降りていく葬儀の一団は、ずっと遠い砂漠の中へ消えていこうとしていた。風が出てきて砂が舞い月白砂漠に靄が掛かる。さっきまではっきり見えていた合祀陵墓である『南天還地』という名前の緑地がすっかり砂嵐で見えなくなっていた。道路に舞っていた蓮の花びらも、通り抜ける風に運ばれて殆どが姿を消している。
「らしくないね」
俺はちらりと横に並んだマツナギを窺う。
「別にいいだろ?俺だって色々と……」
考える時はあるさ、バカな俺でも。俺は気を取り直し、意地悪に笑ってマツナギに向き直る。
「俺の事心配してんのか?」
「べ、別に心配って訳じゃなくてさ、」
うーむ、お決まりの文句での返答ありがとう。ツンデレは悪くないが俺的には萌えないな。もうちょっと捻りを加えた返答を貰いたかったかな。
ん?いや待て?俺は何を期待してるんでしょうね、ははは。
「どうだ、世界を旅して周って見て」
「ん、そうだね……。RPGも悪くないかもね」
俺とマツナギが顔を見合わせた。互いに言葉の意味がズレた事を数秒後に悟って、笑い合う。
俺は北方で傭兵家業をしていたマツナギに言ったつもりだったが、彼女はリアルでの、マツモトナギとして答えた訳だ。
全く、それって俺らが前にオーター島でやらかしたのと全くの逆パターンじゃねぇか。お互いにそれが分かって思わず笑ってしまったって訳だよ。
「音ゲー専なのに、それっぽい要素が全然出てこねぇもんなぁ」
「ヤトだって遠東方から出るの今回始めての癖に」
再びズレる会話にひとしきり腹を抱えて笑った。何がおかしいって訳じゃないのに、何だか酷く笑えてしまう。しまいにはワザと会話をズラしてみたりして、俺は彼女との会話を楽しんでいた。
それで、不安や鬱な気分を吹き飛ばした。確かにらしくないもんな。ひとしきり笑った頃、風が強まってきてぽつりと雨が落ちてくる。
「ほら、降って来た」
笑いを収めながらマツナギが空を見上げた。何時もなら満天の星空が瞬きはじめる空にはどんよりと紫色に曇っている。
「天が代わりに泣く、ってか」
俺は苦笑してやはり、空を見上げる。
「誰の代わり?」
ちょっと怪訝な顔で尋ねられて、俺は決まってるだろと遠く、南天還地陵墓の方角を見る。
「泣けない国王陛下の代わりにだよ」
雷が鳴る。
本格的に降り出す前に俺とマツナギは月白城に戻った。客人として城内の部屋を借りてるんだ。別に宿屋でも良かったんだが、ミスト王がどうしても使ってくれって言うしな、お言葉に甘えた格好。
「雨か、珍しいんだよな?」
中庭を走る廊下にテリーとアベルが居る。雨避けというより、本来は日差し避けの為の通路だな。
「お前らは城にいたのか?」
「ああ、適当にブラブラしてたらコイツが城で迷子になっててな」
指差されたアベルはプイっとそっぽを向く。こんなに見通しの利く単純構造の城内でさえも迷う、アベルはそんな奴だよ。
「で、今ここまで連れて来た所だ」
「他の奴らは?」
言った傍からナッツとアインが飛び込んできた。
「ひゃーッ、酷いな、南国で雨に打たれるとは思わなかった」
ぐったりと濡れた羽をバサバサと振る有翼族のナッツ。どうやら防水加工とやらを怠っていたらしい。小竜のアインもその隣で首をプルプルと振っている。見てるだけなら可愛いんだが、中身がなぁ……腐女子だからなぁ。なんか完全に、彼女を見る目変わっちゃったんだけど。
「不吉ですねぇ」
雨避け魔法を張って悠々と最後に帰って来たのがレッド。本を大事そうに抱えている所……お前、ファルザットまで行ってたんか。
「不吉って、雨が?」
アベルは雨振る中庭を眺めて、床にしゃがみこんでいた所振り返る。
「恵みの雨じゃぁないんだ?」
「確かに有り難いものですがね……季節はずれの雨は一方で不吉の前兆だという迷信があるのです。たまたま良くない出来事と、季節はずれの雨が重なった事があったのでしょうね。カルケードの都市部に残る都市伝説みたいなものですよ」
なんだその、都市伝説って。
「……女神の予言ならいいのですけれど」
おっと、スルーする所でしたがこの言い回しはこっちの世界特有だよな。俺もフツーに意味を理解していたから世界的に有名な比喩なんだろう。
ええと予言を司る女神、ってのがいるのな。もちろん実在するもんじゃねぇぞ。で、その予言ってのが『当たらない』ってのが何故か前提になってるらしい。よって女神の予言すなわち『当たらない』もしくは『覆る宿命』という意味で使われるのだ。こっちの一般的なことわざとして使われているのでレッドの口から自然とそう云う文句が出たのだろう。
俺達は、珍しい訳でもないのに、なんだか飽きずに降りしきる雨を見ていた。渡り廊下の屋根を伝って落ちる水が、庭に掘られた水路に集まりどこかへ流れていく。
『……皆さん……』
心地よい雨音に混じり声がする?いや、これは声じゃない。呼びかけが鮮明になって来る。
『悪い知らせです』
メージンのコメントだ。
返答しても会話が出来ない状態なのは分かっているから、俺達は思わず天を見上げて彼の言葉の続きを待った。
『タイムリミットが近い様です』
ああ、来てしまったのか。
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3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
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