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4章 禍 つ 者 『魔王様と愉快な?八逆星』
書の6後半 突撃前夜 『誓おう、この世界がままにある事を』
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■書の6後半■ 突撃前夜 the night before charge
「それって、誰かが俺の何かを封印……制限してるって事か?けどその場合、傷は治った事にはならないだろ?」
ワイズ曰く、傷ってのは自分のチカラで塞ぐものらしいからな。回復魔法も傷を治す薬も、結局対象となる生物の生命力を補助して治す力を高めるに過ぎないって訳だろ?そこの所を自分じゃなくて、他人の力で塞がれている事をワイズは『封印』と云うのだと説明したじゃないか。
「そうなんだけど……。でも何かおかしいんだよ君の場合」
俺のその傷は治っているんだろ?自分自身で閉じているんだろう?なぜそれを封印されていると言う?理にかなってねぇじゃねぇか。
「いまいち要領を得ないな、俺ぁあんま頭良くねぇから分かりやすく頼むよ」
しかしワイズはどこか、唖然とした様に口を半開きにして一瞬言葉を止めた。
「……て言うか、怖がってくれないものだね」
「はぁ?」
何か?それってつまり俺に、躊躇してもらいたかったって事か?
自分の見えない部分が暴かれる事を恐れて、拒否って貰いたかったと?
俺は腰に手を当て、背の高いワイズを下から睨む。
「俺を脅して、迷わせに来たってのか?」
「いやいや違うんだ、決してそういう訳じゃないんだけど……思っていたより肝が据わっているから感心しているんだよ。僕は君に拒絶される事を前提に聞きに来た訳だからね」
「そんなに気になる事なのか?」
「封印されている事実や封じられている物を嗅ぎ分けられる職業柄、やっぱりちょっと無視出来ないなぁと思う位」
ふぅむ、自分の事ながらなんかワクワクしてきたぞ?
それってつまり、俺の中に何かスペシャルな秘密が隠されているって事だろ?それが俺達が選んでいないのに経験値の上限によって勝手に付加される『背景』に違いない。
テリーが公族の出だったり、ナッツが元神代理だったりするのと同じ『重い背景』。
「一見、治っている様に見える。傷はちゃんと自分で塞いである。でもおかしいんだよね、そもそもそこには傷なんか無いのに、どうして大きなカサブタをかぶせているんだろう?」
まじまじと俺を覗き込むようにしてワイズは言った。
「傷が無いのにカサブタ?」
「目には見えない事だからこれは例えだけれど……何を自分自身で覆い隠しているんだい?致命的では無い筈なのに、なぜそれに自分で封をしないといけなかったんだ?」
一体全体、何を差してワイズが俺に詰め寄って来ているのかよく分からない。確かに隠している事実は沢山ある。
ワイズはライバルパーティ所属だから、全てを包み隠さず話せている訳ではないし、何度も言う様だが俺達はこっちの世界の人間とは言いがたい。特殊な干渉の仕方をしている『違う』人間だ。
正確な意味で俺は、俺の精神であるサトウハヤトはこっちの世界の住人ではない。
しかしそれを説明しようにも出来ない。立っている階層が違う、この世界に居る限り俺はサトウハヤトではなく戦士ヤトだけど。
ちょっと思い出すコマンドを連発してみた。
戦士ヤトの経歴で、あえて語らずにいる特に問題の無い封印された事実は無いか?考える事数秒、ワイズはその間黙って俺を見守っていた。
「……あ……?」
と、俺がとある事を思い出して顔を上げると、奴はさらに顔を突き出してきた。
「何か思い出した?」
「もしかしてアレか?俺が職業戦士なのが問題なのか?」
「職業戦士?」
「うぉっと、ええとつまりだな……俺が魔法オンチなのが問題なんじゃないのか?」
「確かに君は魔法を扱う素質が無さそうだけど……」
そういうのって、魔法使いの連中には見ただけで分かるもんなんだろうか?……アインみたいに匂いで分かる……とかだったりして。しかしこれって話して良い肩書きなのかなぁ?
俺は、戦士ヤトのキャラクターをメイキングした時……一つ余計な特徴を選んだんだよな。
職業戦士。つまり魔法を一切使えない設定を選択しておきながら、実は魔力素質を相当な度合い持ち合わせている……という良く訳の分からない裏設定。
俺的にはだな、東方人として生まれて魔法素質もそれなりに高いからフツーは魔導都市ランに上がって魔導師になるべき所を……魔法より自分の拳一つで戦う戦士がやりたいんじゃーッ!という具合に戦士を極めてしまった……という背景を狙った訳だ。
様はアレだ、種族的に精神面や魔法素質を生かしたジョブに就くべき所を、マニアック路線全開で種族特性を思いっきり無視しちゃってる感じ。要するにちょっと無駄なキャラメイキングをしている。
せっかく持っている要素を生かさず、むしろ殺して制限してしまっている。
その辺りが封印士であるワイズから見ると恐らく、自らで殺している特徴が……封印されている様に見えるのかもしれない訳だよ。
俺はこれから魔法を習得する予定は無いからな、結局別に隠す事じゃないかと思って、ワイズにはそういう『実は……』的な背景の事を説明してやった。
するとワイズは突然、俺の肩を両手でがっちり掴む。
「勿体無い!」
はぁ、お言葉おっしゃる通りで。でも許せ、それが余計な路線でゲームを楽しもうとする俺のプレイスタイルなんだ。
「どれだけの素質が眠っているのか分からないけど、魔法というのは潜在魔力だけでは上達しないんだよ?君はまだ若いんだし……簡単な魔法を一つ二つ習得して切り札にでもすべきじゃないのかい?」
「いやぁ、でも使わないっていうのが俺のポリシーですから」
所謂自虐プレイだ。自虐極まってすでにここまで戦士としての経験値を積み上げちまった。
そんな俺の『ゲーム感覚』的な事は、ワイズから見れば深刻な心の傷に見えるんだろう。きっと、訳あって魔法を使えない……そういう重大なトラウマを持っている様に見えるのかも……しれないなぁ。うーむ、成る程……そういう事だったか。その程度の事だったか……ちょっとがっかりした。
「……潜在魔力はあるんだね」
「はぁ、」
ワイズはごそごそと腰に提げたポーチを漁り始めた。小さな皮袋の……刺繍こそされていないがサイズ的にはお守りだな。それを取り出して俺の手に強引に握らせる。
「これから君達は魔王の本拠地に乗り込むんだ、簡単な事じゃない……そうだろう?」
……確かに。簡単な事じゃぁない。
「これには、僕が封じたとびきり強力な結界魔法が入っている。付加魔法じゃないから開放したらそれっきりだけど威力は保証するよ」
「いいのか?そんな大層な物」
「……維持魔力がエラく掛かる代物なんだ。精神力が尽きてから使ったのでは意味が無い。使い所が難しいなと手に余していたものだから構わないんだ、むしろ君のような者が持ってこそ真価が現れるんじゃないかな」
うぅん……魔法は使わない主義なんだがなぁ……。でも確かに、軽い気持ちで魔王本拠地に乗り込むわけにも行かない。俺達は死ねないんだ、生きて帰らないと……そうしないとゲームの続きが出来ない。
もう目の前に迫っているログアウト、でもまだ俺達はトビラの中にいる。
この世界に居る以上、この世界での死はこの世界の理に則り『消滅』として俺達に適応される。例えメージンがバックアップしてくれていたとしても、それに頼ったゲームをするのはどうだろう。
ゲームオタク代表として集っている身として、そんなチキンなプレイは恥ずかしいだろ?
俺はワイズから握らされたお守りを握り、その皮袋の中に入っているタブレットを確認しながら笑った。
「分かった、有効に使わせてもらうよ」
「そうしてくれ」
「でお前、大丈夫なのかまだこの館に居て」
「あははー、先にファマメントに帰って話を通して来いって単独行動になったらからちょっと寄り道をね」
おい、方向が逆だろうが。大丈夫かお前?
「大丈夫、僕は転位門いくつかシールして確保してあるからね、んじゃ!」
古い石造の建物は、所々隙間風が入って寒い。壁に張られた布が蝋燭の明かりの中脈打っている。
「あら、あんたドコに居たのよ?」
廊下を曲がった所、やけに眩しい光に目がくらんだ。アベルの奴、手に持つ剣にライトの魔法をエンチャットしてるのはいいが……それはもうライト某剣を通り越してまるっきし蛍光灯だぞ?
「お前なぁ、暗視持ちなんだからそんな明かりは要らないだろ?」
「そうなんだけど、なんかはっきり見えないと迷っちゃいそうなんだもの」
確かに、この壮絶方向音痴は三階までの作りであるこの屋敷でもばっちり迷子になるんだろう。
「なら大人しく部屋で待ってりゃいいじゃねぇか」
「落ち着かないでしょ?みんなどっか行っちゃったし、あたしだけ部屋に居るのもなんだし……戻るの?」
俺は腕を組んで肩を竦める。鎧は脱いでいてアンダースーツだけの格好は冷えるんだ。
「外に居たら寒くってよ、風邪引くと悪いし……さっさと寝るかなと思って」
「もう休むの?……しばらくこっちの世界で目を覚ます事が出来ないかもしれないのに」
「まぁな、でもやる事も無いし……レッドはまだ中庭にいたけど大丈夫なのかな」
「知らないわよそんなの」
ま、そりゃ知らんだろうな。俺が分からない事をこいつが分かっているはずはないのだ。持っている知識や考える速度がパーティー底辺に位置するであろう俺とアベルは、ぶらぶらとあてがわれた部屋に戻る廊下を歩く。
「ね、ログアウトしてしまったらさ……。物語はそこで止まるのかな」
「どういう意味だよ」
「あたし達が干渉していない所で話が進むのは嫌だな、と思って」
「無いだろ、いくら俺達のコム(COM)があるったって……大体こっちの世界では時間軸はメチャクチャだからな。実際『戻って』開発者の人達に話を聞いて見なきゃわかんねぇけど」
「勝手に世界が壊れていったりしないよね」
俺は立ち止まり、眩しく輝く剣を背後に引き摺ってついてくるアベルを振り返る。
……肩を竦めて何お前マジになって心配してんの?と、茶化す気にはどうも、ならなかった。
いつもならそうするんだろうけど。
俺も、そう思うんだ。アベルと同じ気持ちで、勝手に世界が壊れていったりしないだろうかと……それが結構心配だ。
「魔王の連中を結局、一匹も仕留められない可能性もあるわけだしな……何を持って破壊を防げるのかもよく分からねぇし」
「うん……だよね」
俯く彼女に、しかし俺は何と声を掛けていいのか戸惑った。いつもドつかれてなんぼという風に意見が食い違って、罵り合っている仲だから……こういうシリアスな話題は……あ、あれ?
割と今回初じゃねー?
「あたし達、どんな顔をして目を覚ますんだろうね」
「……わかんねぇよ、そんなの」
俺は頭を掻き、再び前を向いて歩き出す。自分の部屋の扉に手を掛けた時、アベルが俺の左手を掴んだ。
「無茶しちゃダメよ?」。
「何だよ、……俺が無茶すると思うのか?」
などと言って置いて何だが、確かに今までの経緯からすると一番無茶するのは間違いなく、俺だよな。 おかげで苦笑気味になってしまって、アベルから呆れた視線を貰ってしまった。
「メージンも言ってたわ、死ぬのだけは回避しないといけないのよ?一人で暴走するのは止めて」
「だったらお前が俺を止めろよ」
「無責任!」
アベルが突き出した顔に俺はのけぞり、視線を泳がせて苦笑する。
「しかたねぇだろ、そういうキャラみたいなんだから。気がつくと行動してんだよ。だから……まぁ、ヤバそうだなと思ったらお前が止めてくれよ。お得意の暴力でも何でもいいさ……な」
視線を戻して笑いかけたら……彼女の表情は割と真剣で、俺は再び視線を空に泳がせる。
「意識してよ、一人で背負わないって。あんたがこの世界を救うんじゃないわ、あたし達全員で救うんだから」
「へいへい……分かってますよ」
俺は扉を開き、強引にアベルから逃れる。
「メージンに迷惑掛けるわけにもいかないんだしな……ちゃんと自覚するって。じゃぁな」
「ヤト!」
「おやすみ」
扉を閉めて、俺は深く溜め息を漏らす。鍵はついているが……二人部屋なのでいずれナッツが戻ってくるだろうから鍵掛ける訳にはいかない。
アベルはこの、今閉じられた扉を開けるだろうか?俺は少し身構えてそれを待ってみたけどその気配は無い。何を期待してそんな事を思ったのか、俺は気恥ずかしくなって頭を掻く。
ブーツを脱ぎ散らかし、ベッドに身体を預ける。頭の後ろで腕を組んで天井を見上げて小さく、呟いた。
「誓うさ……こんな所でくたばったりはしない。この世界が正しくある為に……こんな所で死ぬような真似は……」
しない。出来ない。したくない。
そう正直に思ってるけどやっぱり、俺って無茶しでかしそうだよな……って思うのは何でだろうなぁ?
ワイズから貰ったお守りを取り出して見て、すぐにズボンのポケットの中にねじ込んだ。別に連中に話す事でもないだろう、いざって時の切り札として……こっそり持ってるのも悪くない。
レッドあたりだとワイズから貰ったって時点で、無駄に警戒しかねないしな。
寝返りを打ってみたけど案の定、眠くない。頭が冴えていて、来るだろう一時の終焉を思うと瞼が閉じない。
どうなるんだろう?俺達は明日、どうなってしまうのだろうか……?
「それって、誰かが俺の何かを封印……制限してるって事か?けどその場合、傷は治った事にはならないだろ?」
ワイズ曰く、傷ってのは自分のチカラで塞ぐものらしいからな。回復魔法も傷を治す薬も、結局対象となる生物の生命力を補助して治す力を高めるに過ぎないって訳だろ?そこの所を自分じゃなくて、他人の力で塞がれている事をワイズは『封印』と云うのだと説明したじゃないか。
「そうなんだけど……。でも何かおかしいんだよ君の場合」
俺のその傷は治っているんだろ?自分自身で閉じているんだろう?なぜそれを封印されていると言う?理にかなってねぇじゃねぇか。
「いまいち要領を得ないな、俺ぁあんま頭良くねぇから分かりやすく頼むよ」
しかしワイズはどこか、唖然とした様に口を半開きにして一瞬言葉を止めた。
「……て言うか、怖がってくれないものだね」
「はぁ?」
何か?それってつまり俺に、躊躇してもらいたかったって事か?
自分の見えない部分が暴かれる事を恐れて、拒否って貰いたかったと?
俺は腰に手を当て、背の高いワイズを下から睨む。
「俺を脅して、迷わせに来たってのか?」
「いやいや違うんだ、決してそういう訳じゃないんだけど……思っていたより肝が据わっているから感心しているんだよ。僕は君に拒絶される事を前提に聞きに来た訳だからね」
「そんなに気になる事なのか?」
「封印されている事実や封じられている物を嗅ぎ分けられる職業柄、やっぱりちょっと無視出来ないなぁと思う位」
ふぅむ、自分の事ながらなんかワクワクしてきたぞ?
それってつまり、俺の中に何かスペシャルな秘密が隠されているって事だろ?それが俺達が選んでいないのに経験値の上限によって勝手に付加される『背景』に違いない。
テリーが公族の出だったり、ナッツが元神代理だったりするのと同じ『重い背景』。
「一見、治っている様に見える。傷はちゃんと自分で塞いである。でもおかしいんだよね、そもそもそこには傷なんか無いのに、どうして大きなカサブタをかぶせているんだろう?」
まじまじと俺を覗き込むようにしてワイズは言った。
「傷が無いのにカサブタ?」
「目には見えない事だからこれは例えだけれど……何を自分自身で覆い隠しているんだい?致命的では無い筈なのに、なぜそれに自分で封をしないといけなかったんだ?」
一体全体、何を差してワイズが俺に詰め寄って来ているのかよく分からない。確かに隠している事実は沢山ある。
ワイズはライバルパーティ所属だから、全てを包み隠さず話せている訳ではないし、何度も言う様だが俺達はこっちの世界の人間とは言いがたい。特殊な干渉の仕方をしている『違う』人間だ。
正確な意味で俺は、俺の精神であるサトウハヤトはこっちの世界の住人ではない。
しかしそれを説明しようにも出来ない。立っている階層が違う、この世界に居る限り俺はサトウハヤトではなく戦士ヤトだけど。
ちょっと思い出すコマンドを連発してみた。
戦士ヤトの経歴で、あえて語らずにいる特に問題の無い封印された事実は無いか?考える事数秒、ワイズはその間黙って俺を見守っていた。
「……あ……?」
と、俺がとある事を思い出して顔を上げると、奴はさらに顔を突き出してきた。
「何か思い出した?」
「もしかしてアレか?俺が職業戦士なのが問題なのか?」
「職業戦士?」
「うぉっと、ええとつまりだな……俺が魔法オンチなのが問題なんじゃないのか?」
「確かに君は魔法を扱う素質が無さそうだけど……」
そういうのって、魔法使いの連中には見ただけで分かるもんなんだろうか?……アインみたいに匂いで分かる……とかだったりして。しかしこれって話して良い肩書きなのかなぁ?
俺は、戦士ヤトのキャラクターをメイキングした時……一つ余計な特徴を選んだんだよな。
職業戦士。つまり魔法を一切使えない設定を選択しておきながら、実は魔力素質を相当な度合い持ち合わせている……という良く訳の分からない裏設定。
俺的にはだな、東方人として生まれて魔法素質もそれなりに高いからフツーは魔導都市ランに上がって魔導師になるべき所を……魔法より自分の拳一つで戦う戦士がやりたいんじゃーッ!という具合に戦士を極めてしまった……という背景を狙った訳だ。
様はアレだ、種族的に精神面や魔法素質を生かしたジョブに就くべき所を、マニアック路線全開で種族特性を思いっきり無視しちゃってる感じ。要するにちょっと無駄なキャラメイキングをしている。
せっかく持っている要素を生かさず、むしろ殺して制限してしまっている。
その辺りが封印士であるワイズから見ると恐らく、自らで殺している特徴が……封印されている様に見えるのかもしれない訳だよ。
俺はこれから魔法を習得する予定は無いからな、結局別に隠す事じゃないかと思って、ワイズにはそういう『実は……』的な背景の事を説明してやった。
するとワイズは突然、俺の肩を両手でがっちり掴む。
「勿体無い!」
はぁ、お言葉おっしゃる通りで。でも許せ、それが余計な路線でゲームを楽しもうとする俺のプレイスタイルなんだ。
「どれだけの素質が眠っているのか分からないけど、魔法というのは潜在魔力だけでは上達しないんだよ?君はまだ若いんだし……簡単な魔法を一つ二つ習得して切り札にでもすべきじゃないのかい?」
「いやぁ、でも使わないっていうのが俺のポリシーですから」
所謂自虐プレイだ。自虐極まってすでにここまで戦士としての経験値を積み上げちまった。
そんな俺の『ゲーム感覚』的な事は、ワイズから見れば深刻な心の傷に見えるんだろう。きっと、訳あって魔法を使えない……そういう重大なトラウマを持っている様に見えるのかも……しれないなぁ。うーむ、成る程……そういう事だったか。その程度の事だったか……ちょっとがっかりした。
「……潜在魔力はあるんだね」
「はぁ、」
ワイズはごそごそと腰に提げたポーチを漁り始めた。小さな皮袋の……刺繍こそされていないがサイズ的にはお守りだな。それを取り出して俺の手に強引に握らせる。
「これから君達は魔王の本拠地に乗り込むんだ、簡単な事じゃない……そうだろう?」
……確かに。簡単な事じゃぁない。
「これには、僕が封じたとびきり強力な結界魔法が入っている。付加魔法じゃないから開放したらそれっきりだけど威力は保証するよ」
「いいのか?そんな大層な物」
「……維持魔力がエラく掛かる代物なんだ。精神力が尽きてから使ったのでは意味が無い。使い所が難しいなと手に余していたものだから構わないんだ、むしろ君のような者が持ってこそ真価が現れるんじゃないかな」
うぅん……魔法は使わない主義なんだがなぁ……。でも確かに、軽い気持ちで魔王本拠地に乗り込むわけにも行かない。俺達は死ねないんだ、生きて帰らないと……そうしないとゲームの続きが出来ない。
もう目の前に迫っているログアウト、でもまだ俺達はトビラの中にいる。
この世界に居る以上、この世界での死はこの世界の理に則り『消滅』として俺達に適応される。例えメージンがバックアップしてくれていたとしても、それに頼ったゲームをするのはどうだろう。
ゲームオタク代表として集っている身として、そんなチキンなプレイは恥ずかしいだろ?
俺はワイズから握らされたお守りを握り、その皮袋の中に入っているタブレットを確認しながら笑った。
「分かった、有効に使わせてもらうよ」
「そうしてくれ」
「でお前、大丈夫なのかまだこの館に居て」
「あははー、先にファマメントに帰って話を通して来いって単独行動になったらからちょっと寄り道をね」
おい、方向が逆だろうが。大丈夫かお前?
「大丈夫、僕は転位門いくつかシールして確保してあるからね、んじゃ!」
古い石造の建物は、所々隙間風が入って寒い。壁に張られた布が蝋燭の明かりの中脈打っている。
「あら、あんたドコに居たのよ?」
廊下を曲がった所、やけに眩しい光に目がくらんだ。アベルの奴、手に持つ剣にライトの魔法をエンチャットしてるのはいいが……それはもうライト某剣を通り越してまるっきし蛍光灯だぞ?
「お前なぁ、暗視持ちなんだからそんな明かりは要らないだろ?」
「そうなんだけど、なんかはっきり見えないと迷っちゃいそうなんだもの」
確かに、この壮絶方向音痴は三階までの作りであるこの屋敷でもばっちり迷子になるんだろう。
「なら大人しく部屋で待ってりゃいいじゃねぇか」
「落ち着かないでしょ?みんなどっか行っちゃったし、あたしだけ部屋に居るのもなんだし……戻るの?」
俺は腕を組んで肩を竦める。鎧は脱いでいてアンダースーツだけの格好は冷えるんだ。
「外に居たら寒くってよ、風邪引くと悪いし……さっさと寝るかなと思って」
「もう休むの?……しばらくこっちの世界で目を覚ます事が出来ないかもしれないのに」
「まぁな、でもやる事も無いし……レッドはまだ中庭にいたけど大丈夫なのかな」
「知らないわよそんなの」
ま、そりゃ知らんだろうな。俺が分からない事をこいつが分かっているはずはないのだ。持っている知識や考える速度がパーティー底辺に位置するであろう俺とアベルは、ぶらぶらとあてがわれた部屋に戻る廊下を歩く。
「ね、ログアウトしてしまったらさ……。物語はそこで止まるのかな」
「どういう意味だよ」
「あたし達が干渉していない所で話が進むのは嫌だな、と思って」
「無いだろ、いくら俺達のコム(COM)があるったって……大体こっちの世界では時間軸はメチャクチャだからな。実際『戻って』開発者の人達に話を聞いて見なきゃわかんねぇけど」
「勝手に世界が壊れていったりしないよね」
俺は立ち止まり、眩しく輝く剣を背後に引き摺ってついてくるアベルを振り返る。
……肩を竦めて何お前マジになって心配してんの?と、茶化す気にはどうも、ならなかった。
いつもならそうするんだろうけど。
俺も、そう思うんだ。アベルと同じ気持ちで、勝手に世界が壊れていったりしないだろうかと……それが結構心配だ。
「魔王の連中を結局、一匹も仕留められない可能性もあるわけだしな……何を持って破壊を防げるのかもよく分からねぇし」
「うん……だよね」
俯く彼女に、しかし俺は何と声を掛けていいのか戸惑った。いつもドつかれてなんぼという風に意見が食い違って、罵り合っている仲だから……こういうシリアスな話題は……あ、あれ?
割と今回初じゃねー?
「あたし達、どんな顔をして目を覚ますんだろうね」
「……わかんねぇよ、そんなの」
俺は頭を掻き、再び前を向いて歩き出す。自分の部屋の扉に手を掛けた時、アベルが俺の左手を掴んだ。
「無茶しちゃダメよ?」。
「何だよ、……俺が無茶すると思うのか?」
などと言って置いて何だが、確かに今までの経緯からすると一番無茶するのは間違いなく、俺だよな。 おかげで苦笑気味になってしまって、アベルから呆れた視線を貰ってしまった。
「メージンも言ってたわ、死ぬのだけは回避しないといけないのよ?一人で暴走するのは止めて」
「だったらお前が俺を止めろよ」
「無責任!」
アベルが突き出した顔に俺はのけぞり、視線を泳がせて苦笑する。
「しかたねぇだろ、そういうキャラみたいなんだから。気がつくと行動してんだよ。だから……まぁ、ヤバそうだなと思ったらお前が止めてくれよ。お得意の暴力でも何でもいいさ……な」
視線を戻して笑いかけたら……彼女の表情は割と真剣で、俺は再び視線を空に泳がせる。
「意識してよ、一人で背負わないって。あんたがこの世界を救うんじゃないわ、あたし達全員で救うんだから」
「へいへい……分かってますよ」
俺は扉を開き、強引にアベルから逃れる。
「メージンに迷惑掛けるわけにもいかないんだしな……ちゃんと自覚するって。じゃぁな」
「ヤト!」
「おやすみ」
扉を閉めて、俺は深く溜め息を漏らす。鍵はついているが……二人部屋なのでいずれナッツが戻ってくるだろうから鍵掛ける訳にはいかない。
アベルはこの、今閉じられた扉を開けるだろうか?俺は少し身構えてそれを待ってみたけどその気配は無い。何を期待してそんな事を思ったのか、俺は気恥ずかしくなって頭を掻く。
ブーツを脱ぎ散らかし、ベッドに身体を預ける。頭の後ろで腕を組んで天井を見上げて小さく、呟いた。
「誓うさ……こんな所でくたばったりはしない。この世界が正しくある為に……こんな所で死ぬような真似は……」
しない。出来ない。したくない。
そう正直に思ってるけどやっぱり、俺って無茶しでかしそうだよな……って思うのは何でだろうなぁ?
ワイズから貰ったお守りを取り出して見て、すぐにズボンのポケットの中にねじ込んだ。別に連中に話す事でもないだろう、いざって時の切り札として……こっそり持ってるのも悪くない。
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