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4章 禍 つ 者 『魔王様と愉快な?八逆星』
書の6前半 突撃前夜 『誓おう、この世界がままにある事を』
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■書の6前半■ 突撃前夜 the night before charge
今度こそ間違いなく、これが最後のセーブになると思う。そう思うと……なんだか夜は長い。
眠ってしまったら、次に意識が起きたら魔王の城の前に立っているだろう。ヘタすりゃ余計な展開がスキップされて、八逆星の誰かと鉢合わせている所で『目が醒める』かもしれない。
それで強制セーブになっちまったら本当に終わりだ。
精々、死なない程度で突撃しねぇと。でも……それって突撃っぽくねぇなぁ。
領主の屋敷に泊まる事になった俺達は明日に備えて色々と準備をしている。とは言っても、一番問題なのは心の方の準備、なのかもしれないがな。
すっかり空には星が瞬いている、夜には雲が晴れたのか、途端に冷え込んできやがる。屋上に上がって見下ろしていた中庭では今だ、レッドが『転移紋』を刻む作業をやってるな。
これも準備の一つだ、ヤバかったら撤退するために目印つけてるらしい。
南国カルケードまで戻るのもアレだし……レッド曰くその『転移門』と言う魔法の仕様上、逆門とかいうのを開かれる事を阻止するためにはあらかじめ、特殊な目印をつけて追っ手を振り切るための小細工が必要なんだと。
良く分からないが例えて……匿名で送ったメールなのに、発信元がバレちまうようなもんかね?
レッドが今やってるのは例えてハッキングなんかをした時に、追跡の手を逃れるための下準備みたいなものかもしれない。ハイテク技術は関係ないファンタジーなのに、まるで魔王の城にハッキングしに行くみたいな段取りだよな。ヘタすりゃハッキング所じゃねぇ、クラッキングか。
でも……コンピュータ用語は魔法構築に例えられる事がある。ファンタジーの世界にあった魔法用語が、いつの間にやらコンピュータの中で使われている例はいくつかあるぜ。
不正進入を防ぐ仕組みなんか炎の壁『ファイヤーウォール』って言うし、難しい作業を簡単操作に導く仕組みの事を魔法使い『ウィザード』と言ったりな。
さて、寒くなってきたし。
いいかげん部屋に戻ろうかなぁと俺が振り返る……と。
「……?うわッ!」
すっかり暗くなった時刻、いつの間にやら俺の背後に立っていた人物をすぐに認識できずに俺は、無駄に驚いて跳び退る。
「やぁ、こんばんわー」
「ってめぇ!おい、何時の間に背後にいやがるんだよ!」
「嫌だな、さっきからずっと居るのに」
「だったら声掛けろっつーの!」
「いやぁ……レッド君?あれ何してんのかなぁって僕も見てたんですよ。そしたら突然君が振り返った、と」
俺の背後に立ってたいたのは……俺より頭一つ以上背の高い、グランソール・ワイズだ。お前、もうタトラメルツを離れたんじゃなかったのかよ!
ランドールパーティなのに何かと縁のある奴で……ひょっこり現れてはひょっこり居なくなる奴……として俺はその後認識するようになる。ともかく、こいつ背が高いから俺の隣に立たなくても中庭の様子は見下ろせるらしいな。しかしだからって人の背後に黙って立つかフツー?
「ダメだよ君ぃ、もうちょっと感覚は張りつめておかなきゃ」
「んな、気配殺して立つ方が問題だろう」
これで、俺は気配には敏感な方なんだぞ!?
「はは、確かにね。これって癖なんだよね。ナッツもそうじゃない?」
ワイズは少し屈むようにして、屋上の高覧に両腕を組んでその上に顎を乗せる。
「アイツの場合は羽音で分かるだろう」
ナッツは有翼族だ、背中にでっかい翼がついてる。
「うーん、じゃぁそれって多分わざと音を立ててるんだね」
そこまでして何でお前らは気配を消すかね?神官ってのは何か?工作員的な作法でも身につけなきゃいけない理由でもあるのか?
「ま、それはともかく。悪かったね、」
「……何がだよ」
ワイズは長い前髪を風に揺らして笑う。
「何って、うちの坊っちゃん。我が侭し放題で」
坊っちゃん、何でそんな風に呼ぶのか知らんがこれは、ランドールの事だ。今ならこいつ、ランドール達の事を話してくれるかも。セーブ前だし奴らの事情、聞いて保守しておこうじゃねぇか。聞き質して置きたい疑問もいっぱい在るし。
「奴ぁ一体何者だ?なんでテニーさんが敬語を使うんだよ。そんなエラい立場なのか?」
「あれー?その辺ナッツは何も説明してないの?」
「なんだよ、あいつは何か事情知ってて黙ってるってのか?」
「んー……いや、ソコの所は秘密にするように言われているもんだからね。律儀に守っているだけなのかな、じゃぁ僕も言えないかぁ。あはは、ごめん。まぁ色々深い事情があるんだよ、あの坊っちゃんについてはね」
へぇそう。いいもんね俺、後でナッツの奴にラリアットかましてコブラツイストキメてでも聞き出してやるもんね。
「しかし、俺達の事ランドールには話してなかったのか?」
「いや、ヘルトで話したよ。スウィートで会った事とか全部。でもねぇ、あの性格だから。関係ないって言われたらそれまでなんだよねぇ。興味無かったみたいでさ、ヘルトでの広告活動が忙しくって」
……確かに。奴は他人より自分の事が第一っぽい奴だ。
「でもリオくらいには相談しておけばよかったよ、何で教えてくれないんだって今さっき、こってり絞られた所」
リオさんってのは、目の細い遠東方人系の女性な。さっきのやり取り見た所、ランドールパーティの軍師的な役割みたいだ。占い師とかで、色々古い話を知っていて重宝している人材なんだってさ。
他に、ワイズから聞き出したパーティー構成はこうだ。
戦士でパーティリーダーを務めるランドール。
その付き人として財務関係をやってるテニーさん。
森貴族のシリアさん、この二人がリーダーの太鼓持ち。……ワイズ曰くだ、奴もそう思ってるって事だな。
それからこの緑の巨人ワイズと、占い師のリオ。
竜種にて魔術師だという一目見たら衝撃で忘れない顔の奴がエース。
今回初めて仮面の下を覗かせた鱗鬼種の西方騎士マース。それと、まだ見たことが無いのだがかなり大きなドラゴンも一向の仲間であるらしい。
ウチのちっこい腐女子ドラゴンと交換……してくれるはずねぇよな……ははは……。
「ランドールって、西方で派遣された魔王討伐隊なんだよな?」
「そう、第二陣ね」
ワイズは相変わらず口を笑わせたまま答えた。
「……各国で人員出し合って挑んだんだろ、最初はよ」
「そう、最初はちゃんと国同士で連携取れてたんだけど今はねぇ、大陸座と接触できなくなった所為もあって割と各国で好き勝手してるね」
「最初の奴らが失敗したってのは……やっぱ、マジなんだな」
カオスもその情報をどこからか掴んで来ていた。
「……誰一人無事に戻ってこなかったのなら、そして魔王八逆星が今も変わらず跋扈しているならそれは、失敗と言わずに何だというんだろうね」
うーむ……レッドはお取り込み中だしなぁ……俺一人で勝手に話していいのかな。こいつ、ランドールパーティの一応軍師役みたいだし、ヘタな事聞いたり喋ったりしたらあっちに筒抜けになっちまうかもしれないし……。別にソレが結局として世界平和に結びつくなら遠慮なく話すんだけど、どうもランドールの奴らに対して、俺はそれを期待出来ないんだよな。
なんか洩らした情報を悪用されそうでさ。用心してる。
「その、南国カルケードの事は知ってるか?」
「ああ、勿論聞いているよ」
ワイズはゆっくり頷きながら頭を掻く。
「随分と大活躍だったみたいだねぇ、いや流石はイシュタル国のお墨付きだよ」
「……ちょっと待て?分かってるんならなんで俺達の実力をあの野郎認めねぇんだよ?」
「や、だって。坊っちゃん南国の事は興味無いし」
「興味無いって、おいおいこらこら」
興味無いで片付けるなよお前、だってすぐ隣の国だろうが!
「……まさか、お前は知ってるのに奴は俺達の活躍アンド南国カルケードで起こった事とか把握してない……とか?」
「ご名答。いや、一応話はしたんだけどねぇ、聞く気無いみたいだし。話しても無駄かな、と」
うーむ?ランドールってあれ、フレイムトライブ(炎族)じゃなかったっけか?て事は南方人だよなぁ?南方人って同胞愛が強いんじゃなかったっけか?でも、南方人にも色々あるのかもしれないな……だって身近にいるフレイムトライブのレッドがアレだし。
「全く……メチャクチャだなお前ンとこのリーダー。何か?西方の事しか守る気無いんじゃねぇのか?」
「西方の事というより、魔王討伐という実績かなー。ウチのリーダーは厚顔無恥がウリだからね。他人の事を気に掛けてたら厚顔無恥には振る舞えないッしょ?」
ケラケラと笑うワイズ。お前……それランドールが聞いたら大変な修羅場に突入するぞ?
俺が告げ口する事は無い、と知って暴言を吐いているのか?……確かにワイズの意見に同調してしまう俺には告げ口する気は無いけどな。しかしこいつ……付き合う人によって話を変えるタイプじゃね?狡猾な、嫌な奴だな、俺の事も俺が知らない所で散々言ってそうだ。自分で言った事がウケたのか、散々笑ってからワイズは言葉を続ける
「……まー色々あるんだね、坊っちゃんにも」
その、色々な所を誰も彼も詳しく語らなすぎだろう。ユーステルやキリュウもそうだし魔王の連中、アイジャンやインティもな。
俺は別に色々無ぇもんな。ぶっちゃけてる方よ?なんだか……ぶっちゃけるのは損な気になって来た。
そんな事をぶつぶつグチった俺に、突然ワイズがずずっと顔を寄せて来た。
「な、何だよ」
「……そりゃ嘘でしょうよ」
「へ?何が」
ワイズは顔を離して口元に再び笑みを浮かべる。
「君が『何も隠し事が無い』とは、僕は思わないけどねぇ」
そりゃぁ……パーティー一丸となって隠している物事はあるし、異世界からの来訪者であるという説明の仕様が無い問題もあるけどさ。そんな訳で知らずに目を逸らしてしまった。人間、後ろめたい事があるとまず最初に目を逸らしちまうもんなんだよな……自然と。
「前っから気になってたんだよね。坊っちゃん達には内緒にするからさ、一つ教えて欲しい事があって」
ワイズはそう言って再び中庭を見下ろした。すっかり暗くなった辺りに、魔法の明かりを灯してでレッドはまだ作業を続けている。
「何だよ、そういえばお前何しに来たんだ?」
「んー、つまり聞きに来た訳だね」
「何を」
「君、エラい傷があるでしょ?」
傷、再び無意識にギルから斬られた所を抑えそうになって意識して止める。温泉郷スウィートでもワイズから言われた。
綺麗に治っていると言っていた、傷?
一体全体俺の、どこの傷跡の事を言ってらっしゃるんでしょうかね?
何しろ俺は天涯孤独で、ガキの頃に戦ってばかりの生活に身を置いた。常勝無敗の天才って訳にはいかないんだよ。闘技士として遠東方のエズ有権者に飼われていた身分の時には、そりゃぁ死に物狂いで特訓と闘技を繰り返し、娯楽性のある生死の境で懸命に生きて来た。
生傷だって沢山あるさ、でも成長期のガキの頃に敗北をひたすら積み上げたお陰で、ある程度の年齢になった頃から……俺は傷を負わずに戦う術を身に付けた。
ま、早熟だったって訳だな。その頃からは殆ど負け知らずで通したなぁ。で、この歳において歴代チャンピオンに名を連ねた訳。いやまぁ、環境的に若い子の方が断然に強い、っていう……アスリートっぽい背景もあるんだけども。
古いものだと、綺麗に治った傷なんて沢山あるぞ?一見見ただけで分からないだろうが、良く見るとやっぱりあちこちに傷はあるはずだぜ。
幸い、俺が育った遠東方の町、エズは闘技場がある関係上怪我人が多く排出される訳で……魔法医療師や医療技術施設はかなりいいのが揃っている。割と傷は綺麗に治してくれるんだよね。
「……もしかして、俺の目の届かない背中にでもデカい傷があったりするのか?」
もちろん、背中を斬られた事も無い訳じゃない。敵に背後を見せたと言う事で、こういう傷は不名誉なものだと思われがちだが……不名誉だったのは傷を負わせた連中だ。
勝負が決まった後、闘技場を後にしようとしたら背後からばっさり、とか。一度だけそれを許した事がある。油断してたんだよ、だからその後はちゃんとホームに帰るまで気を許さない事にしたよなぁ。おかげで……就寝中の不意打ちとか、月の無い晩酒に酔って歩いていた時の不意打ちだってちゃんと対処出来た。
その一件があったお蔭だと思っている。あとは独立前に規則破って鞭打ちとか?
まー、割とやんちゃでしたんで、そーいう傷も無きにしも非ず。
「あー違う違う。名乗っただろ、僕は封印師だよ?シーラーは肉体が負う傷の穴を塞いだりはしない。それはヒーラーの……ナッツとかの仕事でしょ。大体肉体はちゃんと『自分』で傷を塞いで再生するんだし」
「……?」
はっきり言って、意味が良く分かりませんが?
「封印(シール)って言うのは第三者が行う一時的な蓋の事。肉体の傷は魔法だろうと薬でだろうと、結局自分の生命力で治しているんだ。だから僕が言っている傷はそういう肉体的なものではなく……精神的なものだよ」
「ん?……トラウマとか言う奴か?」
「東方の言葉だね、まぁそれでもいいだろう」
俺は怪訝な顔で咄嗟に『思い出す』を実行してみる。
傷、傷。心の傷。思い出したくも無い、精神的な傷。って、思い出したく無いならコマンド『思い出す』では思い出せる筈無いよなぁ。
どうしたって思い出せないんなら、そりゃ今の俺にはお手上げだ。
むしろ、そんな傷が俺にあるというのに興味が湧いた。怖くは無い、単純に俺は、俺の事を知りたいと思う。
今度こそ間違いなく、これが最後のセーブになると思う。そう思うと……なんだか夜は長い。
眠ってしまったら、次に意識が起きたら魔王の城の前に立っているだろう。ヘタすりゃ余計な展開がスキップされて、八逆星の誰かと鉢合わせている所で『目が醒める』かもしれない。
それで強制セーブになっちまったら本当に終わりだ。
精々、死なない程度で突撃しねぇと。でも……それって突撃っぽくねぇなぁ。
領主の屋敷に泊まる事になった俺達は明日に備えて色々と準備をしている。とは言っても、一番問題なのは心の方の準備、なのかもしれないがな。
すっかり空には星が瞬いている、夜には雲が晴れたのか、途端に冷え込んできやがる。屋上に上がって見下ろしていた中庭では今だ、レッドが『転移紋』を刻む作業をやってるな。
これも準備の一つだ、ヤバかったら撤退するために目印つけてるらしい。
南国カルケードまで戻るのもアレだし……レッド曰くその『転移門』と言う魔法の仕様上、逆門とかいうのを開かれる事を阻止するためにはあらかじめ、特殊な目印をつけて追っ手を振り切るための小細工が必要なんだと。
良く分からないが例えて……匿名で送ったメールなのに、発信元がバレちまうようなもんかね?
レッドが今やってるのは例えてハッキングなんかをした時に、追跡の手を逃れるための下準備みたいなものかもしれない。ハイテク技術は関係ないファンタジーなのに、まるで魔王の城にハッキングしに行くみたいな段取りだよな。ヘタすりゃハッキング所じゃねぇ、クラッキングか。
でも……コンピュータ用語は魔法構築に例えられる事がある。ファンタジーの世界にあった魔法用語が、いつの間にやらコンピュータの中で使われている例はいくつかあるぜ。
不正進入を防ぐ仕組みなんか炎の壁『ファイヤーウォール』って言うし、難しい作業を簡単操作に導く仕組みの事を魔法使い『ウィザード』と言ったりな。
さて、寒くなってきたし。
いいかげん部屋に戻ろうかなぁと俺が振り返る……と。
「……?うわッ!」
すっかり暗くなった時刻、いつの間にやら俺の背後に立っていた人物をすぐに認識できずに俺は、無駄に驚いて跳び退る。
「やぁ、こんばんわー」
「ってめぇ!おい、何時の間に背後にいやがるんだよ!」
「嫌だな、さっきからずっと居るのに」
「だったら声掛けろっつーの!」
「いやぁ……レッド君?あれ何してんのかなぁって僕も見てたんですよ。そしたら突然君が振り返った、と」
俺の背後に立ってたいたのは……俺より頭一つ以上背の高い、グランソール・ワイズだ。お前、もうタトラメルツを離れたんじゃなかったのかよ!
ランドールパーティなのに何かと縁のある奴で……ひょっこり現れてはひょっこり居なくなる奴……として俺はその後認識するようになる。ともかく、こいつ背が高いから俺の隣に立たなくても中庭の様子は見下ろせるらしいな。しかしだからって人の背後に黙って立つかフツー?
「ダメだよ君ぃ、もうちょっと感覚は張りつめておかなきゃ」
「んな、気配殺して立つ方が問題だろう」
これで、俺は気配には敏感な方なんだぞ!?
「はは、確かにね。これって癖なんだよね。ナッツもそうじゃない?」
ワイズは少し屈むようにして、屋上の高覧に両腕を組んでその上に顎を乗せる。
「アイツの場合は羽音で分かるだろう」
ナッツは有翼族だ、背中にでっかい翼がついてる。
「うーん、じゃぁそれって多分わざと音を立ててるんだね」
そこまでして何でお前らは気配を消すかね?神官ってのは何か?工作員的な作法でも身につけなきゃいけない理由でもあるのか?
「ま、それはともかく。悪かったね、」
「……何がだよ」
ワイズは長い前髪を風に揺らして笑う。
「何って、うちの坊っちゃん。我が侭し放題で」
坊っちゃん、何でそんな風に呼ぶのか知らんがこれは、ランドールの事だ。今ならこいつ、ランドール達の事を話してくれるかも。セーブ前だし奴らの事情、聞いて保守しておこうじゃねぇか。聞き質して置きたい疑問もいっぱい在るし。
「奴ぁ一体何者だ?なんでテニーさんが敬語を使うんだよ。そんなエラい立場なのか?」
「あれー?その辺ナッツは何も説明してないの?」
「なんだよ、あいつは何か事情知ってて黙ってるってのか?」
「んー……いや、ソコの所は秘密にするように言われているもんだからね。律儀に守っているだけなのかな、じゃぁ僕も言えないかぁ。あはは、ごめん。まぁ色々深い事情があるんだよ、あの坊っちゃんについてはね」
へぇそう。いいもんね俺、後でナッツの奴にラリアットかましてコブラツイストキメてでも聞き出してやるもんね。
「しかし、俺達の事ランドールには話してなかったのか?」
「いや、ヘルトで話したよ。スウィートで会った事とか全部。でもねぇ、あの性格だから。関係ないって言われたらそれまでなんだよねぇ。興味無かったみたいでさ、ヘルトでの広告活動が忙しくって」
……確かに。奴は他人より自分の事が第一っぽい奴だ。
「でもリオくらいには相談しておけばよかったよ、何で教えてくれないんだって今さっき、こってり絞られた所」
リオさんってのは、目の細い遠東方人系の女性な。さっきのやり取り見た所、ランドールパーティの軍師的な役割みたいだ。占い師とかで、色々古い話を知っていて重宝している人材なんだってさ。
他に、ワイズから聞き出したパーティー構成はこうだ。
戦士でパーティリーダーを務めるランドール。
その付き人として財務関係をやってるテニーさん。
森貴族のシリアさん、この二人がリーダーの太鼓持ち。……ワイズ曰くだ、奴もそう思ってるって事だな。
それからこの緑の巨人ワイズと、占い師のリオ。
竜種にて魔術師だという一目見たら衝撃で忘れない顔の奴がエース。
今回初めて仮面の下を覗かせた鱗鬼種の西方騎士マース。それと、まだ見たことが無いのだがかなり大きなドラゴンも一向の仲間であるらしい。
ウチのちっこい腐女子ドラゴンと交換……してくれるはずねぇよな……ははは……。
「ランドールって、西方で派遣された魔王討伐隊なんだよな?」
「そう、第二陣ね」
ワイズは相変わらず口を笑わせたまま答えた。
「……各国で人員出し合って挑んだんだろ、最初はよ」
「そう、最初はちゃんと国同士で連携取れてたんだけど今はねぇ、大陸座と接触できなくなった所為もあって割と各国で好き勝手してるね」
「最初の奴らが失敗したってのは……やっぱ、マジなんだな」
カオスもその情報をどこからか掴んで来ていた。
「……誰一人無事に戻ってこなかったのなら、そして魔王八逆星が今も変わらず跋扈しているならそれは、失敗と言わずに何だというんだろうね」
うーむ……レッドはお取り込み中だしなぁ……俺一人で勝手に話していいのかな。こいつ、ランドールパーティの一応軍師役みたいだし、ヘタな事聞いたり喋ったりしたらあっちに筒抜けになっちまうかもしれないし……。別にソレが結局として世界平和に結びつくなら遠慮なく話すんだけど、どうもランドールの奴らに対して、俺はそれを期待出来ないんだよな。
なんか洩らした情報を悪用されそうでさ。用心してる。
「その、南国カルケードの事は知ってるか?」
「ああ、勿論聞いているよ」
ワイズはゆっくり頷きながら頭を掻く。
「随分と大活躍だったみたいだねぇ、いや流石はイシュタル国のお墨付きだよ」
「……ちょっと待て?分かってるんならなんで俺達の実力をあの野郎認めねぇんだよ?」
「や、だって。坊っちゃん南国の事は興味無いし」
「興味無いって、おいおいこらこら」
興味無いで片付けるなよお前、だってすぐ隣の国だろうが!
「……まさか、お前は知ってるのに奴は俺達の活躍アンド南国カルケードで起こった事とか把握してない……とか?」
「ご名答。いや、一応話はしたんだけどねぇ、聞く気無いみたいだし。話しても無駄かな、と」
うーむ?ランドールってあれ、フレイムトライブ(炎族)じゃなかったっけか?て事は南方人だよなぁ?南方人って同胞愛が強いんじゃなかったっけか?でも、南方人にも色々あるのかもしれないな……だって身近にいるフレイムトライブのレッドがアレだし。
「全く……メチャクチャだなお前ンとこのリーダー。何か?西方の事しか守る気無いんじゃねぇのか?」
「西方の事というより、魔王討伐という実績かなー。ウチのリーダーは厚顔無恥がウリだからね。他人の事を気に掛けてたら厚顔無恥には振る舞えないッしょ?」
ケラケラと笑うワイズ。お前……それランドールが聞いたら大変な修羅場に突入するぞ?
俺が告げ口する事は無い、と知って暴言を吐いているのか?……確かにワイズの意見に同調してしまう俺には告げ口する気は無いけどな。しかしこいつ……付き合う人によって話を変えるタイプじゃね?狡猾な、嫌な奴だな、俺の事も俺が知らない所で散々言ってそうだ。自分で言った事がウケたのか、散々笑ってからワイズは言葉を続ける
「……まー色々あるんだね、坊っちゃんにも」
その、色々な所を誰も彼も詳しく語らなすぎだろう。ユーステルやキリュウもそうだし魔王の連中、アイジャンやインティもな。
俺は別に色々無ぇもんな。ぶっちゃけてる方よ?なんだか……ぶっちゃけるのは損な気になって来た。
そんな事をぶつぶつグチった俺に、突然ワイズがずずっと顔を寄せて来た。
「な、何だよ」
「……そりゃ嘘でしょうよ」
「へ?何が」
ワイズは顔を離して口元に再び笑みを浮かべる。
「君が『何も隠し事が無い』とは、僕は思わないけどねぇ」
そりゃぁ……パーティー一丸となって隠している物事はあるし、異世界からの来訪者であるという説明の仕様が無い問題もあるけどさ。そんな訳で知らずに目を逸らしてしまった。人間、後ろめたい事があるとまず最初に目を逸らしちまうもんなんだよな……自然と。
「前っから気になってたんだよね。坊っちゃん達には内緒にするからさ、一つ教えて欲しい事があって」
ワイズはそう言って再び中庭を見下ろした。すっかり暗くなった辺りに、魔法の明かりを灯してでレッドはまだ作業を続けている。
「何だよ、そういえばお前何しに来たんだ?」
「んー、つまり聞きに来た訳だね」
「何を」
「君、エラい傷があるでしょ?」
傷、再び無意識にギルから斬られた所を抑えそうになって意識して止める。温泉郷スウィートでもワイズから言われた。
綺麗に治っていると言っていた、傷?
一体全体俺の、どこの傷跡の事を言ってらっしゃるんでしょうかね?
何しろ俺は天涯孤独で、ガキの頃に戦ってばかりの生活に身を置いた。常勝無敗の天才って訳にはいかないんだよ。闘技士として遠東方のエズ有権者に飼われていた身分の時には、そりゃぁ死に物狂いで特訓と闘技を繰り返し、娯楽性のある生死の境で懸命に生きて来た。
生傷だって沢山あるさ、でも成長期のガキの頃に敗北をひたすら積み上げたお陰で、ある程度の年齢になった頃から……俺は傷を負わずに戦う術を身に付けた。
ま、早熟だったって訳だな。その頃からは殆ど負け知らずで通したなぁ。で、この歳において歴代チャンピオンに名を連ねた訳。いやまぁ、環境的に若い子の方が断然に強い、っていう……アスリートっぽい背景もあるんだけども。
古いものだと、綺麗に治った傷なんて沢山あるぞ?一見見ただけで分からないだろうが、良く見るとやっぱりあちこちに傷はあるはずだぜ。
幸い、俺が育った遠東方の町、エズは闘技場がある関係上怪我人が多く排出される訳で……魔法医療師や医療技術施設はかなりいいのが揃っている。割と傷は綺麗に治してくれるんだよね。
「……もしかして、俺の目の届かない背中にでもデカい傷があったりするのか?」
もちろん、背中を斬られた事も無い訳じゃない。敵に背後を見せたと言う事で、こういう傷は不名誉なものだと思われがちだが……不名誉だったのは傷を負わせた連中だ。
勝負が決まった後、闘技場を後にしようとしたら背後からばっさり、とか。一度だけそれを許した事がある。油断してたんだよ、だからその後はちゃんとホームに帰るまで気を許さない事にしたよなぁ。おかげで……就寝中の不意打ちとか、月の無い晩酒に酔って歩いていた時の不意打ちだってちゃんと対処出来た。
その一件があったお蔭だと思っている。あとは独立前に規則破って鞭打ちとか?
まー、割とやんちゃでしたんで、そーいう傷も無きにしも非ず。
「あー違う違う。名乗っただろ、僕は封印師だよ?シーラーは肉体が負う傷の穴を塞いだりはしない。それはヒーラーの……ナッツとかの仕事でしょ。大体肉体はちゃんと『自分』で傷を塞いで再生するんだし」
「……?」
はっきり言って、意味が良く分かりませんが?
「封印(シール)って言うのは第三者が行う一時的な蓋の事。肉体の傷は魔法だろうと薬でだろうと、結局自分の生命力で治しているんだ。だから僕が言っている傷はそういう肉体的なものではなく……精神的なものだよ」
「ん?……トラウマとか言う奴か?」
「東方の言葉だね、まぁそれでもいいだろう」
俺は怪訝な顔で咄嗟に『思い出す』を実行してみる。
傷、傷。心の傷。思い出したくも無い、精神的な傷。って、思い出したく無いならコマンド『思い出す』では思い出せる筈無いよなぁ。
どうしたって思い出せないんなら、そりゃ今の俺にはお手上げだ。
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