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4章 禍 つ 者 『魔王様と愉快な?八逆星』
書の5後半 井戸に落とす石 『嬉しくないわ、そんな選ばれ方』
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■書の5後半■ 井戸に落とす石 Such as CANARY
次の日、なるほど俺達は再びランドールご一行と鉢合わせする事になった。出来ればぶっちゃけ会いたくなんか無いが、何しろここは魔王本拠地と疑われるタトラメルツ。お互いどうするのかって事も含め、行動は探りあいたい所だよな。
……同じ『魔王討伐』を志す訳ですし。
しかしどうしてこういう流れになったかっていうと、想定外な事情が絡んでいた。
この出会いはある意味偶然ではない、って奴だ。こういう風に魔王討伐隊をタトラメルツに招いた奴がいるんだよ。俺はてっきりお互い魔王を目指していて偶然ブッキングしたもんだと思った訳だが……。
全て『導かれて』こういう事情になっていたんだ。
で、その様に余計にも導いてくださったのが事もあろうか、名も無き村から同行して来た……カオス・カルマだったって訳。
再び鉢合わせる場、それはディアス国タトラメルツの事情を良くご存知であろう、領主様の御前その屋敷にて、であった。
俺達は今長いテーブル越しに顔を合わせている。
『思い出してみる』と、カオスの奴がどうも領主に顔が利くらしくてな。それでレッドが事情を多少漏らし、領主と取り次いでもらえないかとお願いしているのである。
だがまさか、そこにランドール一向も居るとは。流石にこの事態は予想してない。予想していなかった事態なので……この場の交渉権はレッドにゆだねてある。その場合俺達は余計な口を挟まない、という風にこの辺り、事前ルール化していたりする。
割とカオスは俺達の素性を知ってたんじゃないか?という疑惑を今は強く持ってる俺だ。
それで俺は、目の前に不機嫌に座っているランドールへ、話し掛ける事は勿論、睨むも笑い掛けるも出来ないので……どうするべきか脳内会議中。
……ヘルト出掛けにケンカ振ったしなぁ。どうしよう、うーむ……。視線のやり場に困っていたらようやくこの場を取り繕った領主が、カオスを引き連れてやってきた。頭上に『領主』というタグがついてる訳じゃないが、多分あの落ち着いた雰囲気のおっさんが領主で間違い無いだろう。
「話が違うぞ、こいつらは何だ」
領主が席に着くより先に言葉を発したのはランドールだ。
「事が事だ、人手は多い方が良い」
「ふざけるな、足手纏いを抱えるつもりは無い」
な、に?足手纏い?誰が……?ふ……ざけんなはこっちのセリフだわいこの……ッ!俺は、口に出したいセリフを懸命に飲み込む。アベルが暗い表情で俯いているのは恐らくは、俺と同じ状況だからだ。
「まぁ坊っちゃん、共同戦線になるかどうかはまだ分かりませんから」
と、ワイズが宥める。こいつは……なぜか昨日の段階でこうなる事を予測していた様だな。魔王本拠地と噂される街で鉢合わせてしまった以上、再び会う確立は高い。お互い、同じ場所を目指している事は間違いないんだし。
そう、お互い魔王討伐隊であるというのはこの場、全員が理解している事だ。ランドールパーティーも今や、俺達がイシュタル国で正式承認された魔王討伐隊である事は承知している。
とゆーか。ついさっきまで知らなかったみたいだけど。
確かにそうだと別に名乗ったわけじゃないしな……。その辺りのやりとりはスキップしたと思われる。
「まずはこの街の状況をお話願えませんか?」
レッドが静かに聞くと、領主である初老の男は小さく頷いた。カオスはその隣に静かに何も言わずに佇んでいる。
「魔王本拠地としてファマメントおよび、カルケードから我が町が睨まれているのはディアス国も承知している所。しかし、我が領土は元々ディアス国においては単なる属領……魔王をのさばらせている事など知れたら容易く切り捨てられる」
「ディアス国から?」
領主はフゥムと深刻そうな溜め息を漏らす。
「歴史的にエルエラーサとタトラメルツの関係は、改善の余地無く芳しくは無い。この今の属領という扱いも、切れるものなら切って貰いたい所ではあるがな……」
えっと、エルエラーサっていうのは要するに、ディアス国の事だ。ディアス国の首都がエルエラーサなのでディアスの事を差しているのだろう。同時に遥か昔からある因縁において、黒の丘タトラメルツと白の平原エルエラーサは宿敵みたいな関係だったんだそうだ。とはいえ、もはや伝説とかのレベルなんだけど……。
古き町並みを色濃く残すこのタトラメルツという国は……一番古い歴史を持つ国家であるディアス国と、建国時代に遡る深い因縁を持っている。その因縁ある国を祖と持つ二つが、一方は支配国で一方はその属領として繋がりを持った事には、それなりの深い理由がある訳だろうが……。
今だそれに対する確執はあるって事か。
今でこそディアスの属領だが、タトラメルツ領土の人間にとってそれは許しがたい屈辱なのかもしれない。昔っから喧々してる同士だったりする訳だな。
「しかし魔王が余計だ、ディアスから孤立したら西・南の両国は武力で持って、魔王の本拠地と指を差し堂々とタトラメルツに攻め入るであろう。我々タトラメルツの民はただ搾取される、全てはあの魔王どもの所為だ……!」
最悪、魔王と手を組むっていう手もあるんだけどな……と、異端プレイが好きであるサトウ・ハヤトは思ったりしましたが思うだけにしておきます。
「だけど追い出すに追い出せない……なまじ相手は魔王八逆星、お辛いお立場を憂慮致しますわ」
エメラルドグリーンの美しい髪と瞳を持つ貴族種のおねえさんが、上品な手付きでテーブルの上で手を軽く組む。俗称エルフの貴族腫は非の打ち所無く美人ばかりだ、美しい……やばい、見蕩れそうになる。マツナギとは逆ベクトルなのだがそれが、イイ。
「……他国に攻め入られて滅ぶか、魔王に蹂躙されて滅ぶか。残念だが我々にはその選択肢しか無い」
タトラメルツ領主はどうあがいても魔王一派に勝てない、という現実はちゃんと見ている様だ。うむ、現実を見据える事は重要だな。とはいえ、かなわない相手となるとその現実に悲観的にもなるんだが。
……それで魔王に首を垂れるを良しとしないのは、そんな事をしても魔王から庇護を貰えない事を承知しているからかな?
「そこで私は……何とかして奴らを、魔王を倒す手段を考えた」
ふぅむ、そこでそこまで話が飛躍するのか。領主である一人が……?国家がそれぞれ探しているその、難しい課題に取り組んでいるってか。……ふぅむ。まぁ自分の領土が滅ぶかどうかという危機だ、この土地に住まう者達の明日を考えれば色々と、必死にもなるだろうか。そんな風に俺が思いを巡らせていると領主、隣に立っているカオスを向いて紹介する。
「その為に私の手足となっているのがこの、カオスなのだ」
はぁーん、なる程。そういう密使でらっしゃったか。
「危うい賭けだが、ディアス本国に事が知れるのは時間の問題であろうと思われる。そこで、」
「そこで、私が各国に向けここタトラメルツが、魔王の本拠地の一つである事をリークして回る工作を行った」
「……何?」
「なんだって?」
俺達とランドール、双方がカオスの言葉に腰を浮かせた。
つまり……ええと、そもそもここに魔王の本拠地があると言う事を各国、ひいては世界に向けて吹聴して回ったのはタトラメルツ、と言う事か!カオスの奴が俺達に向けて話した昨日の事は、実は適当な嘘だったわけかよ。
俺達がこの世界にログインする前から、西方タトラメルツに魔王の本拠地がある事は囁かれていた。レッドやナッツがリコレクトする情報としてそうなっている。それは、カオス・カルマはタトラメルツに魔王本拠地があると吹聴し回ったその結果という事か。そうやって、魔王討伐隊をこの地に導いて来たって事か!!
「では、全ては貴方がたの狂言ですか?」
「いや、実際魔王本拠地と思われる場所は、あるのだ。すぐそこにな」
「……」
「それはファマメント国でも確認しているはずだろう。だが、ファマメントはその情報を他国と共有しようとは思わないだろう。独占したはずだ、違うかね?」
領主、ランドール側にファマメントのエラい人が居る事を知っているらしく、そっちに向けて言ったな。
「幸い、隣に南国カルケード領となっているフェイアーンがある。中立国家イシュタルも魔王討伐に向けて意欲的であると聞いている。タトラメルツに在る脅威の情報が可視化された事により、危ういながらも均衡は、保つ事が出来た」
レッドが、ちょっと厳しい顔で何か考えてるな。流石にタトラメルツがここまで情報戦を世界に向けて仕掛けていた事情を察してなかった、って所かな。
「それで、魔王は?本拠地を暴かれた魔王連中はどうしているのでしょう」
「足元に蟻が巣を作っていて、特に障害にもなっていないとするならどうするか」
相変わらずローブに埋もれたカオスの言葉に俺達は、黙った。
俺達は魔王八星であるギルのイカれた仕様を知っているし、インティにいいようにあしらわれた事も忘れてない。
ランドールだって西で、実際奴らとやり合ってるはずなのだから魔王連中の強大さはそれなりに、理解しているのだろうと思うな。
「そういうワケだ、こちらが手を出さない限りは問題は無い」
「しかし、この度ここへ私達魔王討伐隊を呼び込んだからには、魔王も黙って居ないのでは?」
ランドール側の軍師役、と思われる女性の魔導士の言葉に領主は、どこか改まったように何度か頷いて、席を立ちあがった。
「この度西で魔王軍を蹴散らしたという討伐隊をこの場にお呼びしたのは、……カオスが魔王一派を倒す手立てを持ち帰ったなればこそ!」
「倒す手立て?」
黙ってなきゃいけない所だが、驚いて聞き返す位はいいだろ?なぁ。だって……魔王って赤旗ぶったててる、こっちの世界の連中にはどうしようもない規格外ばっかりなんだぞ?それに一矢報いる方法があるだなんて……超興味あるんですけど。
「本当か?」
ランドールも疑わしそうにカオスを一瞥している。カオスは、例によってローブにうずもれた格好で顔を殆ど隠した状態で小さく頷いた。
「言った筈、私は魔王達を倒そうと考えていると。それしかタトラメルツを守れない」
カオスが、領主を伺いながら同じく立ち上がる。
「では領主、ご説明致したいと思います」
「うむ、」
真面目に、本気で、カオスは魔王についての情報収集をしている様だな。彼の展開して来た理論はデバッカーとしてこっちに来ている俺達の舌をも巻くものだった。
カオスはまず、この世界と魔王の関係性から話を始めた。一般人は知りえない筈の世界の破壊者としての魔王の関係性を探り当て、魔王と呼ばれる『八逆星』の連中が何を欲し、何を目指して行動しているのかという事を丁寧に推理していく。
こういうの、カオスが知らないはずなのはアレだな、大陸座の勅命を受けた国の上層部でそれを未だに隠しているからだ。まさしくさっき、領主が懸念した通り。情報を西方大国のファマメントが握り込んで共有しない問題があるのだろう。
もちろん、何でもかんでも情報は正しく伝達すればいいという物では無い。正しいからこそ、ヘタに伝播するとパニックを起こすという事も在りうる。基本的にはそういう理屈でヤバい情報っていうのは隠匿されるものなのだな。
魔王についての詳しい情報は、特定の人物……例えば俺達みたいな魔王討伐隊位しか知らない筈なのにカオスは、そういう情報を恐らく殆ど把握している。こいつ、謎の身なりをしているがその実凄腕のエージェントなのだろう。
一体どんな手段を用いたのか、カオスは、フラグシステムやデバイスツール以外においての俺達がたどり着いている情報や理論までちゃんと『追いついている』んだぞ?
国と繋がりを持たない、いや……持てないタトラメルツの領主は、カオス・カルマという謎の優秀な片腕を手にし、隠されている事実を丁寧に暴いて行った。
侵略した街、攻撃している地域、出没した噂の曰くなどを細かく地図を広げて説明するカオス。
レッドとナッツ、それからランドール側の軍師らしいワイズと目の細い遠東方系の魔導士っぽい女性が真剣な顔でカオスの話と地図に集中していた。
細かい話はまぁ何だ、俺はよく覚えてないんだが。おおむねの会話の流れは理解できただろう。
で、話が進むにつれてどうやらこのカオス・カルマの『探し物』な。
何となく俺にもピンと来ていた。
「恐らく、魔王達にとって『その存在』が邪魔であるという事は間違い無いと思うのです」
「そうですね……なる程、細かい地域の情報を見てみると確かにそういう読み解き方も可能です」
レッドが頷きながら小さく唸れば、反対側でワイズが苦笑気味に頭をがりがりと掻いている。
「うーむ、でもまさかそんな事は無いだろうと思ったんだがなぁ。破壊者と予言されるにしたって自分らが住んでいる所を壊すまではしまいと思ったけど」
「存在の仕方が歪なのです、古き時代に言い伝えられた『禍つ者』としての姿……もしや今、この時を予言しての事であるのやも」
元々目の細い女性な軍師は、さらに目を細めて厳しい顔でゆっくりと言葉を結んだ。
「それで、カオスはなぜ魔王がその存在……『大陸座』を攻撃していると思うんだ?」
ナッツが静かに問う。これで頭の弱い連中にも今現在の話の流れが見えたであろう。ああ……魔王連中は無秩序に活動しているんじゃない。何を目的に活動しているのかいまいち読み取れなかったが、カオスが予測展開する話を読み解くに、どうやら『大陸座』の居る場所付近に攻撃を仕掛けているというのが分かって来る。
「世界の秩序を乱すには……それが手っ取り早いという見方もできるだろう。しかし」
カオスは言葉を切り顔を少し上げて続けた。
「私はそうだとは思わない。例え破壊者として予言されるにしろ、世界を破壊してしまった先には何の望みもありはしない。ならば何故魔王は『大陸座』を敵視するのか?恐らく『大陸座』は魔王にとって脅威となる存在ではないか、という推理を立てることが出来る」
俺は、小さくレッドをテーブルの下で突付いた。何故突付かれたのか察しているであろうレッドは『今はまだダメです』という意思を小さく、首を横に振って髪を払う動作で俺に伝えて来る。
「大陸座が……魔王を滅ぼす力を持つ?」
ランドールが小さく呟いた。そう、つまり俺が言いたいのはそれだ。だからレッドに聞いた訳だよ。
ナーイアストから貰った例の『石』をこの場に、示した方がいいもんかな……って。
「そもそも魔王討伐は大陸座の勅命によるものだよ?彼らが魔王を滅ぼす力を持つなら、何故その力を僕達に示さないのでしょうね?」
ワイズが肩を竦めて言った言葉に対し、カオスは冷静に言い返した。
「そもそも大陸座は一度失敗し、魔王を倒せずに今後手に廻っている。つまりかの存在は、八逆星という存在を正しく理解出来ていないのだろう。逆に魔王達は彼らが脅威となる事をすでに理解して行動している」
「……それは。つまりアレかな」
ワイズがそう言って、髪に隠れた目線をナッツに向けた。ナッツに説明しろ、と言っているのか?
何を?
「ああ……『ファマメント』の例の」
と、ナッツも応答する。
「何だよ、くわしく」
「……その、接触できなくなったんだよね」
一瞬迷い、ナーイアストと俺達の例を飲み込んだと見える。レッドが黙っていろと言った意図は流石第二軍師、意思疎通が無くても承知しているようだ。
とりあえず俺達が大陸座の一人『ナーイアスト』とすでに接触している事は……この場では秘密の方向性だな。了解、俺もそれは把握した。
「大陸座が世界との接触を拒んだ、とか言われているけれど。実際そうじゃない可能性もあるんだ」
「どうしてそこの所お前ははっきり話さない。そんなんだから降格されるんだぞ?」
ワイズの言葉にナッツは苦笑気味に首を振る。
「それは言わないって約束だろ?」
「……」
むぅ、どうやらこのファマメント国天使教のお二人、秘密にしている事が少なからずありそうな気配だな。カオスがローブに隠れた鋭い視線をナッツに向ける。
「大陸座との接触が出来なくなった……という話はコウリーリスでも聞いている。……ファマメントでもやはり?」
「……ああうん。そうなんだ」
苦笑気味にナッツが肯定すると、貴族種のお姉さんが確認するように口を開いた。
「じゃぁ、その接触?出来なくなった理由が……大陸座にあるんじゃなくて実は、魔王にあるって言うのかしら?」
「それを語るのは魔王自らか、あるいは大陸座に限られましょう。残念ながら大陸座は各国で丁重に管理されている事が少なくない。コウリーリスでの事例を確認出来たのが唯一で、ファマメントで事情を知らぬとなれば……他に確かめるには」
「魔王に直聞きが手っ取り早いか」
テニーさんの言葉に、俺は拳を打ち付けてテーブルを睨む。これで方向性は定まった、と思った俺であったが。
「よし、じゃぁお前らで聞きに行け」
突然の命令口調は……目の前の男からだった。俺の事を指差してのこれは、間違いなく『命令』。
「グラン、早急に大陸座との渡りを付けて事情を聞き出せないかどうか調べろ。テニー、一度レズミオに戻るぞ」
「しかし坊っちゃん、」
グラン、というのは恐らくワイズの事だ。グランソール・ワイズが奴のフルネームだからな。
「お前らに一番手を与えてやると言っている」
しかしワイズの静止を聞かず、ランドールはなおも俺を指差して続けた。
「イシュタル国認定だか何だか知らんが、実力もはっきりしない連中に大陸座との接触は荷が重かろう。魔王討伐隊を名乗るなら魔王本拠地の偵察くらいやってもらわん事にはな」
「く、……」
レッドから袖を引かれて俺はなんとか口を閉じた。多分、反対側でアベルも同じように、マツナギやナッツから袖を抑えられているんだろう。
「……分かりました、その役目、我々で負いましょう」
レッドは俺達を抑えて、全く動揺の無い言葉でランドールの指示を呑んだ。こう云う所、まるで何でも無い様に装う所、流石は嘘吐き技能持ち。奴だって内心穏やかじゃねぇだろうに。
「いいのかレッド」
と、口を挟んだのはテリーだ。こういう場だと交渉の邪魔をしないように黙っている事が多い奴だが、目の前に兄が居る事もあり……少々気持ちが浮ついているのかもしれない。
「魔王を牽制し有利な情報を我々が齎し共有する事こそ、世界を平穏へと導く道です。その望む所は一同、同じものでしょうから」
エラい皮肉っぽく聞こえるなぁレッド。実際皮肉ってわざと言ってるんだろうけどな。案の定、ランドールは小さく悪態をついたぞ。……俺はそれをしっかり見たからなランドール。
すぐにも行動に移るランドール達を見送って、俺達もその次に部屋を後にする。
行くんだ、魔王本拠地に。これからマジで。
場所については領主の方で把握、近辺に近づかないように閉鎖隔離しているそうだ。曰く、元々タトラメルツ住民らも滅多に近づく事の無い所だそうで、そういう事情も把握されたうえでいつの間にか魔王本拠地っぽくなっていたそうだ。
でも、本当に……すぐ近くだ。地図で確認するまでもない。タトラメルツの北方外れの森がソレだという。
薄曇りのぼんやりとした天気ながら、領主の館の三階まで登ればその問題の森と、入り口に立っている古い城が確認できてしまう。何でも、大昔に国境を管理していた公族の土地だとかで……色々と良くない噂の絶えない人の所有だったらしくて、そういう事情今も人が寄り付かないんだと。
全く魔王の奴ら……そんな曰くつきの所をわざわざチョイスしなくたっていいじゃんよ、などと愚痴っぽく思ってしまう。……別に幽霊怖いとかじゃねぇぞ?怖くなんかないぞ少なくとも俺はな、俺は。
他は知らんが。
とはいえ幽霊屋敷だろうと何だろうと、躊躇する理由にはならない。……明日にも俺達はそこへ向かうだろう。
ログアウトも近い、あんまりグズグズもしてられない。
「まるで、試し撃ちだわ」
屋敷の廊下を歩く中、憎々しく呟いたアベルの言葉に俺は苦笑した。
確かに。俺達って井戸の深さを知るために投げ入れられる、ただの石みたいな扱いされてるよな。
次の日、なるほど俺達は再びランドールご一行と鉢合わせする事になった。出来ればぶっちゃけ会いたくなんか無いが、何しろここは魔王本拠地と疑われるタトラメルツ。お互いどうするのかって事も含め、行動は探りあいたい所だよな。
……同じ『魔王討伐』を志す訳ですし。
しかしどうしてこういう流れになったかっていうと、想定外な事情が絡んでいた。
この出会いはある意味偶然ではない、って奴だ。こういう風に魔王討伐隊をタトラメルツに招いた奴がいるんだよ。俺はてっきりお互い魔王を目指していて偶然ブッキングしたもんだと思った訳だが……。
全て『導かれて』こういう事情になっていたんだ。
で、その様に余計にも導いてくださったのが事もあろうか、名も無き村から同行して来た……カオス・カルマだったって訳。
再び鉢合わせる場、それはディアス国タトラメルツの事情を良くご存知であろう、領主様の御前その屋敷にて、であった。
俺達は今長いテーブル越しに顔を合わせている。
『思い出してみる』と、カオスの奴がどうも領主に顔が利くらしくてな。それでレッドが事情を多少漏らし、領主と取り次いでもらえないかとお願いしているのである。
だがまさか、そこにランドール一向も居るとは。流石にこの事態は予想してない。予想していなかった事態なので……この場の交渉権はレッドにゆだねてある。その場合俺達は余計な口を挟まない、という風にこの辺り、事前ルール化していたりする。
割とカオスは俺達の素性を知ってたんじゃないか?という疑惑を今は強く持ってる俺だ。
それで俺は、目の前に不機嫌に座っているランドールへ、話し掛ける事は勿論、睨むも笑い掛けるも出来ないので……どうするべきか脳内会議中。
……ヘルト出掛けにケンカ振ったしなぁ。どうしよう、うーむ……。視線のやり場に困っていたらようやくこの場を取り繕った領主が、カオスを引き連れてやってきた。頭上に『領主』というタグがついてる訳じゃないが、多分あの落ち着いた雰囲気のおっさんが領主で間違い無いだろう。
「話が違うぞ、こいつらは何だ」
領主が席に着くより先に言葉を発したのはランドールだ。
「事が事だ、人手は多い方が良い」
「ふざけるな、足手纏いを抱えるつもりは無い」
な、に?足手纏い?誰が……?ふ……ざけんなはこっちのセリフだわいこの……ッ!俺は、口に出したいセリフを懸命に飲み込む。アベルが暗い表情で俯いているのは恐らくは、俺と同じ状況だからだ。
「まぁ坊っちゃん、共同戦線になるかどうかはまだ分かりませんから」
と、ワイズが宥める。こいつは……なぜか昨日の段階でこうなる事を予測していた様だな。魔王本拠地と噂される街で鉢合わせてしまった以上、再び会う確立は高い。お互い、同じ場所を目指している事は間違いないんだし。
そう、お互い魔王討伐隊であるというのはこの場、全員が理解している事だ。ランドールパーティーも今や、俺達がイシュタル国で正式承認された魔王討伐隊である事は承知している。
とゆーか。ついさっきまで知らなかったみたいだけど。
確かにそうだと別に名乗ったわけじゃないしな……。その辺りのやりとりはスキップしたと思われる。
「まずはこの街の状況をお話願えませんか?」
レッドが静かに聞くと、領主である初老の男は小さく頷いた。カオスはその隣に静かに何も言わずに佇んでいる。
「魔王本拠地としてファマメントおよび、カルケードから我が町が睨まれているのはディアス国も承知している所。しかし、我が領土は元々ディアス国においては単なる属領……魔王をのさばらせている事など知れたら容易く切り捨てられる」
「ディアス国から?」
領主はフゥムと深刻そうな溜め息を漏らす。
「歴史的にエルエラーサとタトラメルツの関係は、改善の余地無く芳しくは無い。この今の属領という扱いも、切れるものなら切って貰いたい所ではあるがな……」
えっと、エルエラーサっていうのは要するに、ディアス国の事だ。ディアス国の首都がエルエラーサなのでディアスの事を差しているのだろう。同時に遥か昔からある因縁において、黒の丘タトラメルツと白の平原エルエラーサは宿敵みたいな関係だったんだそうだ。とはいえ、もはや伝説とかのレベルなんだけど……。
古き町並みを色濃く残すこのタトラメルツという国は……一番古い歴史を持つ国家であるディアス国と、建国時代に遡る深い因縁を持っている。その因縁ある国を祖と持つ二つが、一方は支配国で一方はその属領として繋がりを持った事には、それなりの深い理由がある訳だろうが……。
今だそれに対する確執はあるって事か。
今でこそディアスの属領だが、タトラメルツ領土の人間にとってそれは許しがたい屈辱なのかもしれない。昔っから喧々してる同士だったりする訳だな。
「しかし魔王が余計だ、ディアスから孤立したら西・南の両国は武力で持って、魔王の本拠地と指を差し堂々とタトラメルツに攻め入るであろう。我々タトラメルツの民はただ搾取される、全てはあの魔王どもの所為だ……!」
最悪、魔王と手を組むっていう手もあるんだけどな……と、異端プレイが好きであるサトウ・ハヤトは思ったりしましたが思うだけにしておきます。
「だけど追い出すに追い出せない……なまじ相手は魔王八逆星、お辛いお立場を憂慮致しますわ」
エメラルドグリーンの美しい髪と瞳を持つ貴族種のおねえさんが、上品な手付きでテーブルの上で手を軽く組む。俗称エルフの貴族腫は非の打ち所無く美人ばかりだ、美しい……やばい、見蕩れそうになる。マツナギとは逆ベクトルなのだがそれが、イイ。
「……他国に攻め入られて滅ぶか、魔王に蹂躙されて滅ぶか。残念だが我々にはその選択肢しか無い」
タトラメルツ領主はどうあがいても魔王一派に勝てない、という現実はちゃんと見ている様だ。うむ、現実を見据える事は重要だな。とはいえ、かなわない相手となるとその現実に悲観的にもなるんだが。
……それで魔王に首を垂れるを良しとしないのは、そんな事をしても魔王から庇護を貰えない事を承知しているからかな?
「そこで私は……何とかして奴らを、魔王を倒す手段を考えた」
ふぅむ、そこでそこまで話が飛躍するのか。領主である一人が……?国家がそれぞれ探しているその、難しい課題に取り組んでいるってか。……ふぅむ。まぁ自分の領土が滅ぶかどうかという危機だ、この土地に住まう者達の明日を考えれば色々と、必死にもなるだろうか。そんな風に俺が思いを巡らせていると領主、隣に立っているカオスを向いて紹介する。
「その為に私の手足となっているのがこの、カオスなのだ」
はぁーん、なる程。そういう密使でらっしゃったか。
「危うい賭けだが、ディアス本国に事が知れるのは時間の問題であろうと思われる。そこで、」
「そこで、私が各国に向けここタトラメルツが、魔王の本拠地の一つである事をリークして回る工作を行った」
「……何?」
「なんだって?」
俺達とランドール、双方がカオスの言葉に腰を浮かせた。
つまり……ええと、そもそもここに魔王の本拠地があると言う事を各国、ひいては世界に向けて吹聴して回ったのはタトラメルツ、と言う事か!カオスの奴が俺達に向けて話した昨日の事は、実は適当な嘘だったわけかよ。
俺達がこの世界にログインする前から、西方タトラメルツに魔王の本拠地がある事は囁かれていた。レッドやナッツがリコレクトする情報としてそうなっている。それは、カオス・カルマはタトラメルツに魔王本拠地があると吹聴し回ったその結果という事か。そうやって、魔王討伐隊をこの地に導いて来たって事か!!
「では、全ては貴方がたの狂言ですか?」
「いや、実際魔王本拠地と思われる場所は、あるのだ。すぐそこにな」
「……」
「それはファマメント国でも確認しているはずだろう。だが、ファマメントはその情報を他国と共有しようとは思わないだろう。独占したはずだ、違うかね?」
領主、ランドール側にファマメントのエラい人が居る事を知っているらしく、そっちに向けて言ったな。
「幸い、隣に南国カルケード領となっているフェイアーンがある。中立国家イシュタルも魔王討伐に向けて意欲的であると聞いている。タトラメルツに在る脅威の情報が可視化された事により、危ういながらも均衡は、保つ事が出来た」
レッドが、ちょっと厳しい顔で何か考えてるな。流石にタトラメルツがここまで情報戦を世界に向けて仕掛けていた事情を察してなかった、って所かな。
「それで、魔王は?本拠地を暴かれた魔王連中はどうしているのでしょう」
「足元に蟻が巣を作っていて、特に障害にもなっていないとするならどうするか」
相変わらずローブに埋もれたカオスの言葉に俺達は、黙った。
俺達は魔王八星であるギルのイカれた仕様を知っているし、インティにいいようにあしらわれた事も忘れてない。
ランドールだって西で、実際奴らとやり合ってるはずなのだから魔王連中の強大さはそれなりに、理解しているのだろうと思うな。
「そういうワケだ、こちらが手を出さない限りは問題は無い」
「しかし、この度ここへ私達魔王討伐隊を呼び込んだからには、魔王も黙って居ないのでは?」
ランドール側の軍師役、と思われる女性の魔導士の言葉に領主は、どこか改まったように何度か頷いて、席を立ちあがった。
「この度西で魔王軍を蹴散らしたという討伐隊をこの場にお呼びしたのは、……カオスが魔王一派を倒す手立てを持ち帰ったなればこそ!」
「倒す手立て?」
黙ってなきゃいけない所だが、驚いて聞き返す位はいいだろ?なぁ。だって……魔王って赤旗ぶったててる、こっちの世界の連中にはどうしようもない規格外ばっかりなんだぞ?それに一矢報いる方法があるだなんて……超興味あるんですけど。
「本当か?」
ランドールも疑わしそうにカオスを一瞥している。カオスは、例によってローブにうずもれた格好で顔を殆ど隠した状態で小さく頷いた。
「言った筈、私は魔王達を倒そうと考えていると。それしかタトラメルツを守れない」
カオスが、領主を伺いながら同じく立ち上がる。
「では領主、ご説明致したいと思います」
「うむ、」
真面目に、本気で、カオスは魔王についての情報収集をしている様だな。彼の展開して来た理論はデバッカーとしてこっちに来ている俺達の舌をも巻くものだった。
カオスはまず、この世界と魔王の関係性から話を始めた。一般人は知りえない筈の世界の破壊者としての魔王の関係性を探り当て、魔王と呼ばれる『八逆星』の連中が何を欲し、何を目指して行動しているのかという事を丁寧に推理していく。
こういうの、カオスが知らないはずなのはアレだな、大陸座の勅命を受けた国の上層部でそれを未だに隠しているからだ。まさしくさっき、領主が懸念した通り。情報を西方大国のファマメントが握り込んで共有しない問題があるのだろう。
もちろん、何でもかんでも情報は正しく伝達すればいいという物では無い。正しいからこそ、ヘタに伝播するとパニックを起こすという事も在りうる。基本的にはそういう理屈でヤバい情報っていうのは隠匿されるものなのだな。
魔王についての詳しい情報は、特定の人物……例えば俺達みたいな魔王討伐隊位しか知らない筈なのにカオスは、そういう情報を恐らく殆ど把握している。こいつ、謎の身なりをしているがその実凄腕のエージェントなのだろう。
一体どんな手段を用いたのか、カオスは、フラグシステムやデバイスツール以外においての俺達がたどり着いている情報や理論までちゃんと『追いついている』んだぞ?
国と繋がりを持たない、いや……持てないタトラメルツの領主は、カオス・カルマという謎の優秀な片腕を手にし、隠されている事実を丁寧に暴いて行った。
侵略した街、攻撃している地域、出没した噂の曰くなどを細かく地図を広げて説明するカオス。
レッドとナッツ、それからランドール側の軍師らしいワイズと目の細い遠東方系の魔導士っぽい女性が真剣な顔でカオスの話と地図に集中していた。
細かい話はまぁ何だ、俺はよく覚えてないんだが。おおむねの会話の流れは理解できただろう。
で、話が進むにつれてどうやらこのカオス・カルマの『探し物』な。
何となく俺にもピンと来ていた。
「恐らく、魔王達にとって『その存在』が邪魔であるという事は間違い無いと思うのです」
「そうですね……なる程、細かい地域の情報を見てみると確かにそういう読み解き方も可能です」
レッドが頷きながら小さく唸れば、反対側でワイズが苦笑気味に頭をがりがりと掻いている。
「うーむ、でもまさかそんな事は無いだろうと思ったんだがなぁ。破壊者と予言されるにしたって自分らが住んでいる所を壊すまではしまいと思ったけど」
「存在の仕方が歪なのです、古き時代に言い伝えられた『禍つ者』としての姿……もしや今、この時を予言しての事であるのやも」
元々目の細い女性な軍師は、さらに目を細めて厳しい顔でゆっくりと言葉を結んだ。
「それで、カオスはなぜ魔王がその存在……『大陸座』を攻撃していると思うんだ?」
ナッツが静かに問う。これで頭の弱い連中にも今現在の話の流れが見えたであろう。ああ……魔王連中は無秩序に活動しているんじゃない。何を目的に活動しているのかいまいち読み取れなかったが、カオスが予測展開する話を読み解くに、どうやら『大陸座』の居る場所付近に攻撃を仕掛けているというのが分かって来る。
「世界の秩序を乱すには……それが手っ取り早いという見方もできるだろう。しかし」
カオスは言葉を切り顔を少し上げて続けた。
「私はそうだとは思わない。例え破壊者として予言されるにしろ、世界を破壊してしまった先には何の望みもありはしない。ならば何故魔王は『大陸座』を敵視するのか?恐らく『大陸座』は魔王にとって脅威となる存在ではないか、という推理を立てることが出来る」
俺は、小さくレッドをテーブルの下で突付いた。何故突付かれたのか察しているであろうレッドは『今はまだダメです』という意思を小さく、首を横に振って髪を払う動作で俺に伝えて来る。
「大陸座が……魔王を滅ぼす力を持つ?」
ランドールが小さく呟いた。そう、つまり俺が言いたいのはそれだ。だからレッドに聞いた訳だよ。
ナーイアストから貰った例の『石』をこの場に、示した方がいいもんかな……って。
「そもそも魔王討伐は大陸座の勅命によるものだよ?彼らが魔王を滅ぼす力を持つなら、何故その力を僕達に示さないのでしょうね?」
ワイズが肩を竦めて言った言葉に対し、カオスは冷静に言い返した。
「そもそも大陸座は一度失敗し、魔王を倒せずに今後手に廻っている。つまりかの存在は、八逆星という存在を正しく理解出来ていないのだろう。逆に魔王達は彼らが脅威となる事をすでに理解して行動している」
「……それは。つまりアレかな」
ワイズがそう言って、髪に隠れた目線をナッツに向けた。ナッツに説明しろ、と言っているのか?
何を?
「ああ……『ファマメント』の例の」
と、ナッツも応答する。
「何だよ、くわしく」
「……その、接触できなくなったんだよね」
一瞬迷い、ナーイアストと俺達の例を飲み込んだと見える。レッドが黙っていろと言った意図は流石第二軍師、意思疎通が無くても承知しているようだ。
とりあえず俺達が大陸座の一人『ナーイアスト』とすでに接触している事は……この場では秘密の方向性だな。了解、俺もそれは把握した。
「大陸座が世界との接触を拒んだ、とか言われているけれど。実際そうじゃない可能性もあるんだ」
「どうしてそこの所お前ははっきり話さない。そんなんだから降格されるんだぞ?」
ワイズの言葉にナッツは苦笑気味に首を振る。
「それは言わないって約束だろ?」
「……」
むぅ、どうやらこのファマメント国天使教のお二人、秘密にしている事が少なからずありそうな気配だな。カオスがローブに隠れた鋭い視線をナッツに向ける。
「大陸座との接触が出来なくなった……という話はコウリーリスでも聞いている。……ファマメントでもやはり?」
「……ああうん。そうなんだ」
苦笑気味にナッツが肯定すると、貴族種のお姉さんが確認するように口を開いた。
「じゃぁ、その接触?出来なくなった理由が……大陸座にあるんじゃなくて実は、魔王にあるって言うのかしら?」
「それを語るのは魔王自らか、あるいは大陸座に限られましょう。残念ながら大陸座は各国で丁重に管理されている事が少なくない。コウリーリスでの事例を確認出来たのが唯一で、ファマメントで事情を知らぬとなれば……他に確かめるには」
「魔王に直聞きが手っ取り早いか」
テニーさんの言葉に、俺は拳を打ち付けてテーブルを睨む。これで方向性は定まった、と思った俺であったが。
「よし、じゃぁお前らで聞きに行け」
突然の命令口調は……目の前の男からだった。俺の事を指差してのこれは、間違いなく『命令』。
「グラン、早急に大陸座との渡りを付けて事情を聞き出せないかどうか調べろ。テニー、一度レズミオに戻るぞ」
「しかし坊っちゃん、」
グラン、というのは恐らくワイズの事だ。グランソール・ワイズが奴のフルネームだからな。
「お前らに一番手を与えてやると言っている」
しかしワイズの静止を聞かず、ランドールはなおも俺を指差して続けた。
「イシュタル国認定だか何だか知らんが、実力もはっきりしない連中に大陸座との接触は荷が重かろう。魔王討伐隊を名乗るなら魔王本拠地の偵察くらいやってもらわん事にはな」
「く、……」
レッドから袖を引かれて俺はなんとか口を閉じた。多分、反対側でアベルも同じように、マツナギやナッツから袖を抑えられているんだろう。
「……分かりました、その役目、我々で負いましょう」
レッドは俺達を抑えて、全く動揺の無い言葉でランドールの指示を呑んだ。こう云う所、まるで何でも無い様に装う所、流石は嘘吐き技能持ち。奴だって内心穏やかじゃねぇだろうに。
「いいのかレッド」
と、口を挟んだのはテリーだ。こういう場だと交渉の邪魔をしないように黙っている事が多い奴だが、目の前に兄が居る事もあり……少々気持ちが浮ついているのかもしれない。
「魔王を牽制し有利な情報を我々が齎し共有する事こそ、世界を平穏へと導く道です。その望む所は一同、同じものでしょうから」
エラい皮肉っぽく聞こえるなぁレッド。実際皮肉ってわざと言ってるんだろうけどな。案の定、ランドールは小さく悪態をついたぞ。……俺はそれをしっかり見たからなランドール。
すぐにも行動に移るランドール達を見送って、俺達もその次に部屋を後にする。
行くんだ、魔王本拠地に。これからマジで。
場所については領主の方で把握、近辺に近づかないように閉鎖隔離しているそうだ。曰く、元々タトラメルツ住民らも滅多に近づく事の無い所だそうで、そういう事情も把握されたうえでいつの間にか魔王本拠地っぽくなっていたそうだ。
でも、本当に……すぐ近くだ。地図で確認するまでもない。タトラメルツの北方外れの森がソレだという。
薄曇りのぼんやりとした天気ながら、領主の館の三階まで登ればその問題の森と、入り口に立っている古い城が確認できてしまう。何でも、大昔に国境を管理していた公族の土地だとかで……色々と良くない噂の絶えない人の所有だったらしくて、そういう事情今も人が寄り付かないんだと。
全く魔王の奴ら……そんな曰くつきの所をわざわざチョイスしなくたっていいじゃんよ、などと愚痴っぽく思ってしまう。……別に幽霊怖いとかじゃねぇぞ?怖くなんかないぞ少なくとも俺はな、俺は。
他は知らんが。
とはいえ幽霊屋敷だろうと何だろうと、躊躇する理由にはならない。……明日にも俺達はそこへ向かうだろう。
ログアウトも近い、あんまりグズグズもしてられない。
「まるで、試し撃ちだわ」
屋敷の廊下を歩く中、憎々しく呟いたアベルの言葉に俺は苦笑した。
確かに。俺達って井戸の深さを知るために投げ入れられる、ただの石みたいな扱いされてるよな。
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