異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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5章 際会と再会と再開 『破壊された世界へ』

書の6前半 実験室の檻 『忘れるな、奴の食事は7日に1度』

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書の6前半 実験室の檻 bloody brute

 ヒュンスに休むって約束したけど眠れなくなっていた。

 あー、そういう事見越して明日話すって言ってくれたのかな。
 起き上がる、本当は眠ってちゃんとセーブしないといけないんだが……寝れないんだもん……仕方ない。
 月明かりが白い砂の沙漠に反射し、夜だと云うのに外はやけに明るく感じる。部屋の中の方が暗いのな。ぼんやりと青白く発光する様な窓を俺は眺め……思いを募らせていた。
 二人部屋なのに一人。
 正直人恋しいのだ。だからナッツの側にいたかったのに。アベルもきっと起きているだろうなと思うけど……さすがに夜中に女の部屋を尋ねるのはアレだよな?という配慮に自分の頭を殴りたい気分になった。
 別にいいじゃん、何遠慮してんの俺?とか。
 でも行動には移れなかった。何でってそりゃ怖いからだ。相手がアベルだから思いっきり殴られる可能性が怖いってのもあるが、どっちかって云うとむしろ、
 拒否られるのが……怖い……かな。
 ……拒否されるという懸念がある以上、俺は怖くて隣の扉は叩けなかったりする。
 結局俺は『こっち』の世界で戦士ヤトをやってても、根本的には『俺』である事には変わりが無い訳で……ともすりゃ、ヘタレなのは実は変え様の無い事なのかもしれない。
 逆に考えれば俺は『あっち』で戦士ヤトのように、少しはまともに社交性のある人間に成れる余地があるという事だろうか?

 おいおい止めろ、コッチとアッチは別だろう。

 現実と仮想を取り違えるのは止せ、ゲームに影響されて性格変わるなんてシャレにならん。そんな三面記事やワイドなショーの騙言に踊らされてたまるか!
 それにどうせ『あっち』に戻ったら『こっち』の記憶は全部メモリスティックの中だ。MFCが無いとログ確認は出来ない。この世界の記憶は俺の脳には全部、収まらない。
 そういうシステムのゲームなんだからな。

 だから、俺はこの世界では自由に振る舞う事が許される。
 多分、そういう事。
 何を信じても良い、体裁や一般論は置いておいて自分がそうだと思った事に……騙されていいのだ。
 レッドは、リアルの方で俺にそういう事を言いたかったのだと思う。


 レッド……どうしているだろう。
 奴の事だからちゃっかり無事で、ドコからともなくひょいッと戻ってきそうな気がするんだがな……。
 マツナギは『あっち』だと女子大生といった風の普通の女の子なのに『こっち』じゃ熟練の傭兵だ。冷静に状況を把握して、無事逃げていればいいけど。
 アインは……そういえばテリーとケンカの最中だったよな。あいつらあのまま喧々したままなのかな。まさかそれが理由でとっ捕まる様な事になってなけりゃぁいいが……。


 何となく、ヒュンスの話を聞いてこのあたりがきな臭いと思う俺だ。
 彼が持って帰って来たのは……カルケード国北の端に位置するフェイアーンでの噂だという。なんでも、フェイアーンの町外れで怪物が暴れまわってるんだと。
 怪物、って言い方がまずおかしい。
 怪物という呼び方は特殊なのだ。
 この世界にはリアルにはフツーはありえないような生物……魔物と呼ばれる『規格外』が格外の中に納まってちゃんと存在している。だから、サトウハヤト的な感覚で『魔物』と言ってもこちらの世界ではそれはややニュアンスが違うんだな。
 コッチの世界ではありえない生物の事を魔物、とは言わないんだ。
 魔物は魔物、人は人、動物は動物だ。独特な分類がしっかりしている。そこに戦士ヤトのスタンダード意識バイアスが掛かって俺は、そのあたり違和感なく魔物と怪物の違いに大きな隔たりがある事に気が付いている。
 魔物という分類の中に『怪物』という項目は無い。
 魔物と怪物は別の言葉だ。そして、恐らくありえないものを差す言葉として『怪物』という言語は使われている。
 呼んで字の如く、だな。怪しいモノで怪物な訳だから、存在が怪しいモノを指差して呼ぶ名前として適しているだろう。妖物、妖怪なんかでも合っているのかもしれないが、妖しい怪奇現象そのものを怪物とみなしているわけじゃぁないからな。
 肉があると言う響きである『怪物』というのがしっくり来る。姿がはっきりしていないなら『妖怪』と呼ばれるのかもしれない。
 とにかく、魔物ではなく怪物だと呼ばれる事象は怪しい。
 そういえば……魔王軍と呼ばれる黒いモンスターの事を魔物、とは言わんよな。あれは『黒い怪物』だとごく自然に俺は認識していた。戦士ヤトとして、自然にコッチの世界の言葉を使い分けた結果だ。
 頭上に赤い旗を立て、バグとして『ありえない存在』であるから怪物。そう、定義はこれだ。
 ありえない存在……フェイアーンの町で暴れまわったモノは、魔物ではない。普通はありえない、という認知をされたという事だ。一応その、在り得ないような能力を持つ『魔物』というのも存在して、それが時に魔王と云う名前を冠している事もあるが……。

 アレは怪物だと名指しして恐れる事象には、何か赤い旗を匂わせる気配を感じる。

 ヒュンスの話によると、人の形をした『怪物』が町を半壊する程暴れ回り大変な被害が出たのだと云う。しかし最近、魔法使いによって捕らえられた、とか。
 その後牢屋にぶち込まれているという怪物の人相がこれまた……笑っちゃいけないのだが俺は吹き出しそうになった。
 金髪、碧眼、長髪、武器を持たない戦士すなわち……格闘家、だよな。
 ヒュンスから渡された人相図を見て俺は額を抑え、笑いそうになる顔を必死に隠したもんだ。おいおい、もしかして……それって俺の知り合いだったりしますか?

 テリーだったりしますかそれは。

 しかし今、それを冷静に反芻してみると……疑問が大量に湧いて出る。まずなんでテリーの奴、町を半壊してまで暴れたんだ?それを魔法使いが捕らえた?……事実が捻じ曲げられてんじゃねぇのか?しかも『怪物』認定とはどーいう事だ。
 魔法使いというと……真っ先に魔王八逆星のインティの事を思い出しちまう。
 あ、魔導師と魔法使いってのもニュアンスが違っててな、上手く説明するのが難しいんだが理屈っぽいのが魔導師で、感情論なのが魔法使い……って言ってこれで伝わるか?
 感情ありきで魔法を使うというイメージで云うと、好き嫌いや面倒か否かで魔法を使ったり使わなかったりというインティが真っ先に思い浮かぶんである。
 真相は実の所、インティとテリーが何かの都合、フェイアーンで追いかけっこかましてその間の破壊活動が全部、テリーの所為になっちまった~とか。
 そういう事じゃぁないのか?
 テリーが絡んでいなければ勿論それはそれでいいのだが。

 ともかく急いでフェイアーンに行って見よう。それだけは確定だ。ナッツの意識が回復しないなら俺だけでも行くつもりだ。

 再びベッドに横になり、ごろごろと寝返りを打つ。
 そんで実は……アベルは、ここに置いて行こうと思ってる。別に何って訳じゃないけど……ナッツが回復してから行動しよう、とか言い出すんじゃないかなと思って。 
 そんなん待ってられないだろ?本当にテリーだったらどうするんだ。捕まったで終わらず討伐されてしまう可能性だってある。ナッツを一人ここに残すのも気がかりだし。
 だったらアベルにはナッツと一緒に月白城に残ってもらうのってのは名案だと俺は思ったのだ。
 そうだ、そうしよう。俺一人で行こう、その方が……きっと気が楽だ。色々と、な。

 安易に自分の名案に納得し、俺は安心したのか……そこから先深くを考えない間にセーブに入った。

 そう、重大な問題はまだ解かれずにあったっていうのに。




 セーブ明けスキップ後……グーパンチ。
 俺は吹っ飛ばされて目が覚めた。
「……」
 場が呆然と事態を把握できずに沈黙する。
「やっば……本気で殴っちゃった」
 アベルが突き出した拳を撫でながら肩を竦めたのと、俺が一時的な気絶から回復したのはほぼ同時である。
「お前ッ!今ッ、今本気で殴っただろッ!」
 殴られた頬が即座、熱を帯びて膨らむのが分かるぞ!
「仕方ないでしょ、アンタがまたバカな事言うんだもの!こっちは殴りたくもなるわよ!」
「俺が何時バカな事を言ったよ?」
「自覚無いの?全く……これだからバカは……」
「てめぇ……ッ」
 カッと血が頭に上り、相手に突っ込もうとしたのを止めたのはヒュンスだった。
「落ち着けヤト」
「う、ぐぅぅ……」
 殴られた頬がヒリヒリする。鉄臭い味がしたので口を拭ったら……くそ、血ィ出てんじゃんかよ!溢れ出す血が喉に流れていく、口の中が切れている、舌で確認するに歯は折れずに無事ですセーフ!
 綺麗なじゅうたんの敷かれた部屋に唾吐き出す訳にも行かないので、仕方なく自分の血を飲み込んで、止めてくれたヒュンスを押しのけようとしたけど……流石地下族、腰が座ってびくともしない。
「今のは君が悪いよ」
 俺は驚いて前を向き直る。執務室の机の上で溜め息を漏らし、ミスト王は苦笑をもらしていた。
「もう一度言う、君が悪い」
 ぐっさり言葉が俺を刺す。ミスト王の言葉は針のように俺を突き刺し、見事にその場に張り止める威力があった。
「俺が?」
「だってそうだろう。君は……また一人で行こうとしている」
「……でもそれは、ナッツがまだ起きないから当然じゃぁないスか。あいつを一人には出来ません」
「逸る君の気持ちも分からないでもない。しかし……分かってやりたまえ。一人にするという事の辛さを」
「一人になるのは今回俺です」
 アベルが俺を睨む。俺は、何で睨まれているのか良く分からないが憎々しかったので睨み返してやった。
「……だからね……。君を一人にするのだって辛いんだよ」
 ミストの言葉に、俺は顔を歪めた。怒っていいのか笑っていいのか、感情表現が上手く行かない。つまりよく理解できなかったんだな、その心って奴を。
 自棄だ、再び殴られるの覚悟で聞いてやる。
「誰が?辛いんですか」
 キッと目元を吊り上げ、アベルが両手拳に力を込めたのがわかる。しかしそんなアベルを止めたのはやっぱりヒュンスだった。アベル、彼の事は殴れないと必死に拳を止めたな。俺の事は遠慮なく本気で殴った癖に!
「私がヤトに同行しよう」
「ヒュンスさん」
「いいよ、カルケード国内だしフェイアーンまではそんな遠くないし……」
 俺は丁重にお断りしようとしたのだが。
「ヤト、危険だというのが分からないのか」
 正直に言う。正直……危険だという実感なんか湧いてない。

 だってそこにいるのってテリーなんだろ、人相描きからしてこれは多分、間違い無いだろう。実の所寝不足だった頭を、無事眠ってセーブして色々考えたらこれは奴だと、俺の推測は確信に変わっていた。
 それに、町を半壊しただなんてそんな噂、絶対ガセだ。

「むしろ牢屋にぶち込まれているのをどうやって助け出すのかが問題だよなぁ。とりあえず、行って見て話を聞いて見ない事には」
「……ヤト、」
 ヒュンスは目を伏せるようにしてゆっくり告げた。
「話を聞ける状態なら俺が聞いて来ている」
「……あ、……そう……か」
 じゃぁ……話を聞けない状態って何だよ。
「とにかく、私が同行して彼を案内する。一人で何かしないように抑える。アベルはナッツと城に残るといい」
「ナッツが目を醒ましたらすぐ後を追うわ」
「それも良いだろう」
 ヒュンスは深く頷き、すっかり場を抑え込んでしまっている。
 俺は、すっかり狐につままれた気分で口を閉じていた。

 いつしか楽天的に考えるようになってたみたいだけど……そうだな。
 もしテリーが合間見えた相手が例えば最悪魔王で、その結果とっ捕まったという結果がそういう『噂』を生んでいるというのなら……ただ事で済むはずは無いよな。
 怪物と、評価されてしまっているのだし。

「ヒュンス……すまん」
 俺は素直に謝って、案内を頼むと付け加えた。ヒュンスは黙って頷き……その前に医務室だと俺の腕を引っ張った。
 そうだな、そうだよな。……うう、殴られた所がスゲェ腫れて来た。



 おっさんとの短い二人旅など殆どスキップ希望!と、お願いした訳じゃないが、元々ストイックで無口なヒュンスとフェイアーンに向かう道中は、特に特筆すべきやり取りも無かった様だ。ようやくアベルに殴られた頬の腫れが引き、青い痣が消えるのを待つのみとなった頃。
 俺達二人はフェイアーンの町外れまでやって来た。砂馬飛ばして、途中のワイドビヨン河を横断して……リコレクトし日数を数えてみたら大体一週間って所かな。
 フェイアーンの町外れ、そこは例の三国境界のすぐ近くだ。森が見える……あの森を突っ切っていけばタトラメルツで、森に入らず西に進路を取ればファマメント国のバセリオンにたどり着く。
 カルケード国内とはいえ……あの、問題のタトラメルツはすぐそこだ。

 思っていた以上にタトラメルツの近くに来た事に俺は何故か、緊張している。知らずに気配を探り、怪しい赤い旗がちらついていないか辺りを用心深く見回していた。

 町の中心部を取り囲むように広がる畑の畦道。そこをゆっくり進みながら、俺はスキップを抜けて、沈黙に耐えられなくて前を歩くヒュンスに尋ねた。
「なぁ、フェイアーンってどんな所だ?」
「三国の境界となっている所というのは知っているな」
「ああ……ファマメントのバセリオン、ディアスのタトラメルツと隣接してるんだってな」
「元々、フェイアーンは西国でな……遡ればバセリオンの系譜に属する」
 俺は長閑な農地を見回し、たわわに生る茄子のような植物をまじまじと見ていた。黒々とした紫色の物体は見た事が無いほどデカい。でも、蒸し焼きにしたら美味そうだな……とか思いながら顔を前に向け直す。
「じゃぁ元々ファマメントの属領か」
「いや、このあたりの土地と町は国の間を行ったりきたりしている。フェイアーンは極小国家だったが四大国家時代にバセリオン大国に属したものの……公族として取り入る事に失敗したらしい。バセリオン大国の分裂と共に真っ先にディアス側に寝返ったと伝えられている」
「こうもりみたいな町だな……今はカルケードに属してんだろ?」
「ディアスは奪われたと伝えるが、カルケード側ではそうは記録していないな。カルケードがディアスから戦争を仕掛けられた時、その戦場としてここが選ばれた。カルケードは搾取され行くフェイアーンを保護したのだ」
「ん?いつの話だそれは?」
 俺はようやく違和感を感じて首を傾げる。
「前7期の話だな。10世紀程前の話だ」
「げげ、それを先に言えよ」
 人間の俺からすればもう、かなり前の話じゃねぇか。戦争とか四大国家時代とか、なんか知らん話が混じってるなぁと思ってたんだよね。
「タトラメルツもそうだけど、ここら辺は本当ややこしい歴史の所が多いんだな」
「仕方があるまい、土地の境はここに限らずどこでもそうだ」
 ヒュンスはため息を洩らして少しだけ俺の方を振り返った。
「しかしこんな長閑な所なのに、怪物とやらを収容できる牢屋なんかあるのか?」
「大昔の施設が残っている。何でも、四大国家時代にバセリオンが置いた国守が町の中央に屋敷を構えていたらしくてな。上の方はもう残っていないが地下の施設は生きているとか」
「地下施設ね、それが牢屋だってか」
「一説には実験室だったと云われているが。怪物を飼っていたとか『作っていた』とか、そういう話がある。だからやけに頑丈でな、地下は崩れることなく残っているのだ」
 俺はヒュンスの言葉に苦笑を洩らした。そりゃ、怪物を入れておくにはお誂えな事で。


「こっちだ」
 宿屋に部屋を確保し、砂馬を休ませて納屋に繋げるとすぐにヒュンスが行き先を示す。
 ゆっくり旅の疲れとか癒してる場合じゃない。
 俺は頷いてヒュンスの後を追いかけた。

 確かに……町はボロボロだった。中に進む程に復興中のバラックが目に付く。石造りの頑丈な家が吹き飛ばされ崩れているし、隣の家に柱が突き刺さっていたり……と、やや尋常ではない力が働いているのが見て取れる。
 嵐が吹き荒れたような……それにしては偏った、理不尽な破壊。
「む、」
 あちこち見回していたので、突然ヒュンスが立ち止まったのに気が付かなくて俺は彼の背中に激突して止まる。鉄壁だ、地下族は本当に体幹が強い。
「ごめん、」
「問題無い……それより……まずい時期に来た」
 頑丈な地下族は俺が追突したのにもびくともせずにいてそのまま、突然くるりと向きを変え、俺の腕を引っ張ってユーターン。逆らえない、地下族マジ体幹強い!
「え?ちょっと待てよ」
「明日出直す」
「何でだよ!」
 俺は強い地下族のパワーに負けじと足を踏ん張った。瓦礫に足を引っかけて踏ん張る
「いいじゃん、ちょっとだけ、一目見に行こうぜッ!」
「いかん、今はまずい」
「なんでだよッ何が、まずいんだよッ!」
「……それは言えんが……」
 そんな言い方されると益々気になる。
「何をしている?」
 第三者の声に俺とヒュンスも驚いて身を竦めた。
「……君達は……この辺りの者じゃないな」
「あーはい、ちょっとした通りすがりの冒険者ッス~」
 ヒュンスが咳払いして事情を説明するより早く俺が言った。
「冒険者……?」
 口髭を蓄えた、きちっとした身なりの男は怪訝な顔で反芻した。背後に自警団ぽい人達が構えている。ヒュンスが慌てて名乗りなおそうとするのを押さえ込むように俺は続けた。無口なヒュンス隊長からならしゃべりで、勝てる!
「なんか、この辺りにスゲェ怪物が出たとかって聞いたもんで~」
「……見世物じゃない、」
 すると男は苦虫を噛み潰した様な顔になってやや、俺を睨んだ。
 むぅ、接し方を間違えたな。怪物に困ってます、力を貸してください戦士様!とかいうベタな展開が来るのを狙ってみたのだが。
 よし、王道路線止め。俺は元々マイナー路線好きだし。ふざけるのは止めて真剣な顔で言った。
「いや、ぶっちゃけるとそういうんじゃない。人相からすると俺の友人らしくて……」
 すると男は顔色を悪くしてさらに俺を睨む。
「友人……?」
「ヤト、勝手に話を進めるな!」
「とにかく、マジに知り合いなのかどうか確認させてもらいたくて来たんだ」
「ヤト!」
「……確認など無理だよ」
 男の冷淡な言葉に俺は、一瞬胃に氷が落ちるような冷たい痛みを感じる。
「それはどういう事……」
「ヤト、今日はダメだ!明日に……」
「知り合いかどうか確認を取りたいというのなら、今日の方が都合がいいかもしれませんが……」
「止めろアズリー!」
 ヒュンスの恫喝に、男は驚いて目を瞬く。
「……分かったヤト、諦めて事情を話す」
 勝手に、ヒュンスが諦めた。
 俺はまだ目の前でやや驚いている男、アズリーというらしい人の言っている言葉の意味をよく理解してなかったのに。
「あれ……?バラード……隊長さん?」
 ようやく浅黒い肌の男の正体を察したように、アズリー地区長はやや慌てて南国式の敬礼を返した。

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