異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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6章  アイとユウキは……『世界を救う、はずだ』

書の1前半 思い出してしまった『お願いだ、お願いだから引き返してくれ』

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■書の1前半■ 思い出してしまった now I remember!

「ナッツ、」
 どこか言葉を止めるようにナッツに呼びかけたアインを俺は、睨んで黙らせていた。
「説明しろよ、ちゃんと。何があったんだよ、教えてくれよ」
 何度も言っている言葉の様に感じる。都度、誤魔化されてきたんだな……とも思う。
「……逆にさ、ヤトは何処まで覚えているんだ?」
「何をだよ」
「魔王連中にとっ捕まった後、さ」
 ナッツは顔を上げ、はっきりと言った。

 ようやく俺ははっきりした肯定の言葉を貰った気がする。
 アベルでさえ適当に流したその答え。

 俺は、やっぱり連中に捕まった。その記憶はやっぱり、間違い無いのだ。

 正直に憶えている所まで話すか……それで、教えてくれる事があるなら素直になろう。
「……正直殆ど覚えていない」
 俺は素直にそう切り出していた。
「でも、断片はあるんだろ?」
「インティと話していて、それで……そっからかなりあやふやだけど……ギルやナドゥと何やら話し込んでいた様な……」
「その、後は?」
 後?
 後も何も……。困惑した俺の顔を見てナッツは、納得したように目を瞬いた。
「どうしたか、覚えてないんだね?」
「……どうしたって……」
 その後。

 余りに記憶が断片的で、前後関係がわからんのよな。断片とわかる記憶を懸命に俺は、リコレクトする。
 覚えていない夢を必死に、思い出すみたいなすげぇ……自信の無い記憶なんかあてに成るのだろうか?

「……レッドと話した?かな。いや……俺は一方的に話を聞いていただけのような?」
「ナッツ。……話してしまえ」
 テリーが低い声で悩んでいるナッツの背中を押した。
「でも、ねぇ」
 テリーの肩でアインが逡巡している。
「それで何かスイッチが入るかもしんねぇぜ。何、どうせいずれ思い出す事だろ」
 ナッツは目を閉じてテリーの言葉を聞いていたが……意を決したように青い目を見開いて、俺を真っ直ぐに見つめて来た。
「先に推測を聞きたい。……お前はその後、どうなったと思う?」
 俺はその質問に一瞬口を噤んでから……正直に想像する『王道的』な展開を口にしていた。
 

「俺が魔王サイドに寝返った」


 強制的だろうが何だろうが、そこらへんは重要では無いと思う。そんなのは余計な修飾だ。
 自分の意志であろうと強制であろうと、結局どうなったかが問題なんだ。
 だから、俺は恐らく魔王にとっ捕まってその後、某バッタライダーみたいに改造されて強制的に連中の仲間にされてしまった~みたいな展開を引き起こした可能性が非常に高いと、思う。記憶が無いというのもそういう在り難いオプションなのであろうとすら疑っているな。
 何と言うか、断片的に非常に受け入れがたい記憶があるんだよなぁ。……受け入れたくないのだが間違いなく、断片が残っていやがる。
 俺はナドゥのおっさんと会話する度に何か、怪しい薬品を摂取させられた。これは……間違い無い。その都度記憶が曖昧になるから……モノは睡眠薬か?それとももっと、ヤバい薬だろうか?その辺りの詳細は本当に思い出せない。と云うか、知らされていないという可能性もある。
 俺の記憶はそこで、多分……破綻している。

 エグい続きになるだろうと予測していた。
 だからゲーム続行に対し、俺は非常に気が重かった訳だ。

「どうしてそう思うんだ」
 一々傷に手を突っ込むみたいに聞いてくるな、そんなのナッツだって大体予想するだろうに。何となくナッツには、その薬飲まされた云々を言いたくない俺はちょっと返答に渋ってみたり。
 俺は顔を顰めて、南国で魔王アイジャンの血を飲み干し、目の前で見る見るうちに怪物になってしまったロッダ王妃を思い出している。
「血……というか、まぁ方法はどうあれだな。俺達は確かに青旗で、赤旗よりも権限上だけど……だからってバグ感染しないという保証は無いんじゃないかって思ってな」
「しないよ」
 しかし、ナッツはあっさりと俺の言葉を否定した。
「赤旗は僕らには効かないよ。血を混ぜようと何しようと、僕らは赤旗には感染しない」
「……じゃ、俺は最悪な展開を回避したんだな?」
 しかしナッツは苦い顔で首を横に振った。
「いいや、最悪だよ。赤旗に感染しないはずなのにお前が魔王として振る舞う……。覚えていないみたいだけれど、残念ながらその後の展開は……お前が予測した通りだ」

 じゃぁ何か。

 俺は、予測していた事とはいえ『それ』を認められてしまって正直、心が素直にその事実を許容できない事に驚いた。
 何とも言えない視線を俺に送る一同を見回し、俺はゆるゆると自分の両手を見てしまう。

 最悪な予測通り俺が、魔王として振る舞った?

 リコレクト。リコレクト。ああ、リコレクトしろよ!
 たのむから思い出せ、思い出してくれ俺の脳。
 ぶっ壊れた記憶、何でぶっ壊れた?壊れて欲しいと願ったからか?こんな記憶はいらないと思ったからか?

 違う、俺は両手を握り込んだ。

「それ……事実なんだな」
 小さく尋ねる。アインとアベルは視線を逸らしたが、テリーとナッツは小さく低く、そうだという声を返した。
 俺は唐突に回れ右、さっきまでカオスが立っていた辺りの壁につかつかと歩み寄り……そこに、思いっきり額を打ち付けてみた。
「ヤトッ、何してるんだ」
「ショック療法でなんとかリコレクトしないもんかと思って」
「おい……」
 俺はもう一度頭を壁にぶつける。
「あー……ダメだな。どうも弱い。アベル、ひっぱたいてくれ」
「バッカじゃないの?叩いて思い出せるならあたし達、殴りあってるわ」
「そりゃいい、いっちょ殴り合って見るか」
「冗談よ!止めなさいよ!」
 三度目額を打ちつけようとしたのを、アベルが止めていた。ああ、暴走してたら止めてくれって、俺がそう言ったんだったな。
 なんだかそれが遠い昔のように感じる。
「……魔王、か」

 そんなベタな展開はナシだよなぁ。
 てゆーかぶっちゃけそれって冗談ナシにキツいよなぁとか……。密かに能天気に考えていた自分に腹が立った。よくあるパターンとはいえ、よくあるパターンだと笑い飛ばせないこの状況、分かるか?分かんねぇだろうな。
 出来る事なら笑い飛ばしたい。
 何よ、その分かり切った展開?とか。
 何安易に救う方から壊す方に方向転換しちゃってんの?とか。
 第三者として見ているならともかく、実際当事者になってみるとこれ、本当に……シャレにならん。

 俺はアベルに抑えられたまま壁に手をつき、項垂れた。
 ものの見事にナッツからは話をはぐらかされた訳だが……そう気が付いていたけどそれは、今やどうでもよくなった。
 順番的に言えばこっちの方が先なのだ、とも思う。
 俺が触れたかった話の核心は、まず俺がその前にどう言う状況に陥っていたか?という事を俺が、理解しない事には話しが進まないのだろう。
 だから、ナッツは『そこ』から話を始めたのだと俺は素直にそう理解した。

 ならば、俺が『理解』する為の猶予が欲しい。

 壁に手をつき、項垂れたまま呟く。
「ごめん、ちょっと……考えさせてくんねぇ?」



 考えた所で何か思い出すのか?
 ぶっちゃけて何も思い出せない。それが益々歯がゆいが……考える事で予測できる事は沢山ある。
 明日には、ファルザットに向かって戻る手筈でいたのだが……俺は、ここまで来ていてまた南国に引き返すのはごめんだ。

 記憶の途切れた場所、タトラメルツ。
 そこに行けば何か分かるのではないかと、別に確信がある訳じゃないけどそう思う。
 勘というよりは……ゲーマーとしての経験からそう思うのな。基本的にお約束な展開をしやすいゲームという世界では、記憶っていうのは重要な場所でちゃんと思い出せるモノなのだ。そーいうシナリオになっている。そういうお約束の元に作られているのである。
 もちろん、それがこのリアルな異世界で通用するかどうかは分からんし保証も無い訳だが……。
 それでもそこに行きたい。

 逃げずに俺はそこに、引き返したいと思う。

 強制終了で終わったゲームの続きが、突然南国で始まったのはどうも違和感があるしな。
 きっとタトラメルツに戻った時初めて俺達は、真にゲームの続きを再開できるのではないだろうか。いや、俺だけかそれは?……その後何があったのか、詳しく聞きたいと思う好奇心と、それに俺は耐えられるのかという恐れが素直に入り混じっているのが分かる。これは俺の心か、この世界に居る……俺の心か。

 夕飯も喉を通らず、一人で考えていた訳だが何時までもそーやってグルグル考えていた所で物事は先には進まない事だけは分かっている。腹をくくって今、結論を出して俺はヒュンスの部屋の扉を開けていた。

「……どうした?夕飯も食べないで……」
 ああ、ヒュンスは俺の事情を知らないのか。まぁ、知らんよな。
 連中が中々俺に事実を告げなかったように、ナッツ達はヒュンスに事情を説明するつもりは無いらしい。
 大体魔王を狩る側である人間が一時でも、魔王側にいた事など語った所で得する事など何一つ無いもんな。
 普通なら黙秘だ。それが当たり前だろう。
 いずれ誰かにその事実が暴かれて足を引っ張られたら……その時に何か言い訳でも考えればいい話だ。レッドあたりに盛大な嘘でもかまして貰おう。

 レッドがまだ俺達の側に居れば、の話……だがな。
 ……その話はまぁ後で、俺が事態を理解して連中が口を開いてから詳しく聞くとして……。

 俺が魔王として振る舞ったという事実は、確実に俺の背にのしかかっている。
 ヒュンスが知らなくても、俺の心がそれで救われる訳じゃぁない。

「悪い、南国には戻れない」
「何?」
「王様にはホント、悪いと思ってる。でも俺……思い出しちまったから」
 何時もの軽薄な笑みを貼り付け、俺はヒュンスを拝み倒す魂胆で両手をあわせ、頭を下げた。
「もう一度タトラメルツに行かなくちゃいけない」
「今すぐにか」
「今すぐに。マツナギがそこに居てさ……迎えに行かないといけないんだよ」
 ああ、俺はまた嘘でごまかすのな。本当にすまないヒュンス隊長。
 マツナギを迎えに行くのは当然だが、俺の目的はそれだけじゃないしそれは、本命じゃないのに。
「こんな近くまできたのに……一旦ファルザットには戻れねぇ。出来るなら挨拶したかったんだけど……」
 するとヒュンスは溜め息を漏らして腕を組み、ふっと笑った。
「そう言うだろうと思ったよ」
「……え?」
 ヒュンスは苦々しく、でも笑いながら椅子の上で反り返った。
「ミストラーデ王はそうなるだろう事を多少、予測しておられた」
「あ……はぁ」
 ミスト王にも色々と迷惑掛け通しだ。
「分かった。私は明日にもファルザットに戻る途につく、そしてその件を王に伝えよう。だが……遠慮は無用だ」
 ヒュンスは笑って俺を振り返った。その笑顔が本当に頼りになる。今の俺には、なんだか涙が出そうになるくらいに頼もしく見えてしまった。
「頼りたい時は遠慮なく我々を頼って来てくれ。我が王ならば必ず君達に向かってそう言い、送り出す事だろう。事実王は今回君達がどんな形であれ……南国に戻って来てくれた事をとても喜んでいたのだよ。だから都合が付いたなら是非、我が王の元を訪ねて欲しい」
 俺は感謝しつつも本当に申し訳なくって苦笑を漏らしてしまう。その眩しい顔を見て居られないで、顔を伏せたままヒュンスに向かって手を差し出した。地下族のがっしりとした手がそれを握り返して来る。
 こうなると良い言葉が思い浮かばないんだ。
 何を言っても、もう全ての思いは伝わっている。こう言う時、余計な言葉は不要になるんだな。
「ありがとう、本当にマジで。ありがとう……」
「気にするな。一刻も早く平穏な日々がある事を願っているよ」
「……あ、でも……一言伝言いいかな」
 そうそう。
 誤解は一応解いておこうと思う。
「勿論、構わないぞ」
「王様には、俺とアベルは仲良くやってますって伝えておいてくれ。あと、仲は良いかもしれないけどそーいう関係じゃ無いですからあしからず、と」
 ヒュンスは当然だが……ちょっとだけ怪訝な顔で生返事した。



 さて、あとはナッツ達の説得だな。

 俺は暗闇の廊下を歩きながら、どうやってタトラメルツに向かう事を説明するか……と考えた。
 まぁマツナギを迎えに行くんだから、ナチュラルな流れではあると思うんだが……。正直俺は今だに後ろめたい。
 俺が思い出せない記録の事実についてもそうだけど。それを取り戻したいと願う、俺の行動も何故だか、後ろめたい感情が付きまとう。
 魔王として振る舞った記憶なんて、そんなもん一生思い出さなくても良い様な気もする。とりあえず今はそういうの、すっかり忘れてるし、そんな事あるかって思う位に打倒魔王を強く胸に抱いている俺だ。
 でも事実としてそうなった『状況』があるらしい。その事実から逃げちゃぁダメなんだろうな。
 幸い戦士ヤトは、リアル-サトウハヤトと違ってチキンじゃない。嫌だなぁという思いは相当に重くのしかかっているがそれでも、足はちゃんと逃げずに前に向いている。腹を括ったのだってそういう事だろう。
 サトウハヤトなら、ここで一目散に状況から逃げ出しているだろうよ。

 本当は一人で今からタトラメルツに向かって走って行きたい位には、自分で自分の問題を解決したいという衝動があるが、それは件の暴走になるだろう。そうやってまたアベルから殴られるのもアレだし……止めよう。多分そういうお約束の展開にはならないだろうし、大体俺はそういうお約束展開が好きじゃない。
 あ、好き嫌いの問題では無いが。

 一人になるのは危険だ。一人にするのは危険だ。
 今更アベルの気持ちを理解する。

 俺が一人でフェイアーンに行くと言った時、問答無用で殴って来たアベル。
 なぜまた一人で行こうとするのか?なぜ俺を思わず殴っちゃう程の拒絶が含まれていたのか。
 それは、俺が一人で行った過去の事実を後悔しているからか。
 暗い廊下で立ち止まり、右手を開き無意識に握り締めるのを見る。

 一人サンプルを寄越せと暗に要求した魔王連中に対し、俺は何の相談もなしに自らを差し出した。
 その結果だ。
 俺が選んだ結果じゃないか。俺が落ち込んでいたってしょうがない。
 と、眩しい光が差し込んで俺は驚いて後ろに引く。廊下を曲がって光の剣を引き摺ったアベルが俺を見つけ、いたーッと大声を上げていた。
「な、なんだよ!」
「あんた、また一人で出かけたかと思って!部屋を覗いたらもぬけの殻だし!」
「流石に今回は暴走しなかったか」
「そんな毎度暴走されたら困るよ本当に……」
 と、テリーとナッツもアベルの声を聞いて駆けつけてくる。
 ……っと……何、お前ら。
 その、今から出掛けます的なフル装備。
 ナッツは親指で外を差す。全部御見通しかよと俺は、目を瞬く。
「行かないのかい?」
 俺は苦笑してすぐに準備すると答え、自分の部屋へ戻るのだった。




 怖いものほど見たくなる心理って奴だろうな。
 俺は、タトラメルツへ向かう道中、ずっと思い出せない記憶を辿ってみて、何度も何度も思い出そうとしてみていた。失った記憶を取り戻そうとするなんて、実際記憶を失った人はそんなに必死になるものだろうか?といつか疑問に思ったよな。
 ぶっちゃけ、思い出せないならどうでもいいんじゃない?それで次に進めるなら忘れたままでもいいじゃないかと俺は、その時正直に思った。
 今は違う、思い出せないままにはして置けないと思う。
 思い出さなければいけないんだ。
 全ての記憶を失ったのなら、何も思い出す必要も無いだろう。でも何か一つ得てしまったら、そこから芋蔓式に過去が中途半端に顔を出し、全てを掘り起こさずには居られなくなる。

 思い出さなければいけない。

 例え自らの傷口に手を突っ込む行為だとしても。
 悩んでも頭を殴っても思い出せない記憶。どうしたらこの壊れて引き上げる事の出来ないログを取り戻す事が出来るのだろう?

 バラバラに砕けた壺。パーツはある。でも、それが壺の何処に当てはまるものなのか分からない。
 壺がどんな形をしていたのか分からない。でも……俺は、例えてこの砕けた欠片を拾い上げて思う。
 僅かな手がかりを元に、何と無くその壺がどんな形であったのかを推測して思い出す事は出来るのではないだろうか?
 そして、もう一度オリジナルに近い壺を作り上げればいい。どうしても足りない部分はパテでも何でも埋め合わせればいい。その足りない部分は、俺だけじゃなくて他の連中の力を借りてもいいじゃないか。
 本当の事を言えば全体像を見るのが怖いんだけどな。リアル-サトウハヤトだったら間違いなく逃げれてる所だろう。でも『俺』は逃げない、逃げられない。
 この世界で戦士ヤトを演じる以上、情けない真似はしない。

 ぶっちゃけてまた経験値削られるのもヤだし。
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