異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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6章  アイとユウキは……『世界を救う、はずだ』

書の3前半 ようこそ『お待ちしておりました、貴方の事を』

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■書の3前半■ ようこそ welcome to..

 覚悟はある程度していたが、俺はその惨状を目の前にして……自然と足が止まってしまった。

「……これは……何、だ?」
 テリーが居た、フェイアーンが半壊してた状況の比ではなかった。
 大体フェイアーンに比べればタトラメルツの方が断然町の規模は大きい。
 それが、それなのに、なんだ、何なんだこれは……?

 タトラメルツが……無い。
 3分の1、無かった。
 町がそこのにあったという痕跡が無い、フェイアーンの様に瓦礫が積み上がっているとか、そういう跡すらないこの状況を何と言えばいいのか……古い街並みのタトラメルツ北部が、白い砂原になっている。

「……来たか」
 高台から見下ろして、俺がその光景に唖然としていると……俺達がタトラメルツに戻ってきたのを察したらしい、何時の間にやらカオスが背後に立っている。
「領主には……顔向け出来ないわよ」
 アベルが困った様に言った言葉に、無感情な声が答えた。
「心配はするな、あの程度の規模で済んだのは全て、君達のお陰だという事になっている」
 俺の隣にローブの男が立った。それを視界の端に捉えて俺は呟く。
「……お前……俺達の状態を知ってるのになんで……」

 カオスの正式な雇い主はタトラメルツの領主であるはずだ。その主に嘘をついてまでなぜ、俺達を庇ってくれるのだろう。

「……察しているだろう。私は悪魔だ」
 唐突にカオスは暴露した。俺達が段々疑い始めた事を察していた様な素振りだな。アイン達が予測した通り、だった訳か。だけど俺は今、それについて驚いているヒマは無かった。
 目の前の光景に目を奪われて……そこから、目を逸らす事が出来ないんだ。
「私は第三位悪魔無心の者である。だからこの際はっきり言っておくが……私にとってタトラメルツがどうなろうがそんな事はどうでもいいのだ」
「……お前、」
 俺はようやくカオスに関心を向け、睨みながら振り返る。
 すると、例の感情の無い水色の瞳が俺を真っ直ぐ見ている。
「何とでも言うがいい。私は悪魔で、ましてや無心と呼ばれる位の者。人間の都合など知った事ではない」
「……あたしたちを助けてくれたのにも何か、裏があるって事かい?」
 マツナギが警戒したように聞いている。
「君達と敵対するつもりは無い。今の所まだ、志は同じであると見える。だが、もしそれが違えるというのなら……その時は」
「待てよ、お前……悪魔だってな?」
 踵を返そうとするカオスを俺は、掴んでいた。
「悪魔ってのはアレだろう、こっちの世界を『破壊』する存在だとか言うがそれは、本当なのか?」
「……そうだな」
 俺は眉を顰めた。
「志が同じ?どういう意味でだ。俺達が世界を破壊するとでも言うのかッ?」
「……いや」
 無感情な瞳が少しの否定を返す。カオスは俺に胸倉をつかまれたまま抑揚無く、遠く消えてしまった町の一角を指差した。
「私の望みは彼が知っている」
「……何、だと?」
「本来であれば私は、自分の正体を無闇にばらしたりなどしない。悪魔といものは世界の敵対者であるからな。だが私は、君達とならば同じ目的を目指し協力し合えると判断した。だからもう隠すのはやめようと思う」
 無感情な瞳が俺を見る。
「最後の一人と合流するのだ。そうして君達は……私が望む答えにも自然と辿りつくだろう」
「何でお前が命令する!」
「必要な事だろう?……彼はあそこにいる」
 彼、とカオスが指さすのが誰なのか、言われるまでも無い。
「んなの、知ってるさ!」
 俺はカオスを突き放し、再び消えてなくなった町を振り返った。
 そのまま無言で奴が去っていくのをやり過ごそうとしたが……
「……おい、待て。最期に答えろ。……アレやったのは本当に俺か」
 不機嫌に俺は聞いていた。
 目を真っ直ぐ、切り取られて無くなってしまった町に向けたまま。
 出来れば否定して欲しいなぁという、小さな希望が込められていた事などカオスは、微塵も察する事なく返答する。
「……そうだ。君がやった」
 目の前の石造りの棚に思わず俺は、拳を叩きつけていた。
 幼稚な行為だ、行き場の無い感情を暴力的に晒してしまうなんて。
 どうしようもない苛立ちが俺を自傷行為に走らせる。途端小指がつぶれて鮮血が飛び散った。
「……ヤト……」
 でもなんだか不思議と痛みが、感じられない。痺れた手を持ち上げて俺は笑った。その手をナッツがやんわりと取る。無言で手当てし始めたのを俺は、ぼんやりと眺めて再び視界を切り取られた一角に向けていた。

 何なんだろうあれは。
 おかしい、絶対におかしいだろう?
 どうして瓦礫一つ無いんだ?真っ白い砂がどこまでも降り積もっている。
 そしてその奥に森があり、その手前に……崩れ去った元魔王の城。

 規模的にはちょっと大きな館位だったがとにかく、その建物と建物を覆っていたあのめちゃくちゃ頑丈そうな塀も含めて、完全に崩れ去って跡形もない。
 そしてタトラメルツの3分の1が砂漠化したみたいに白い砂に覆われている。

「俺が、何したって言うんだよ」

 それでも記憶は戻らない。
 あれを本当に、本当に俺がやっちまったと言うのか?



 何を言っても俺を慰める言葉にはならない事を、連中は多分分かっているんだなと思う。
 一言も話し掛けてこない。多分、何を言って良いのか分からないのだろう。正直、そうやってほったらかしにされる状況が嬉しかった。
 どんな言葉で励まされようと、今の俺にはマトモに届かないだろうな。
 ……同情なんざ欲しく無い。突きつけられている訳の分からない現状を俺は、正直受け入れたく無いのだ。それなのにまるで俺の所為だと言わんばかりに慰みの言葉を掛けられても俺は多分、その気持ちに反発するだけだろうと思う。

 どうやったらあんな状況になるんだよ。俺は額を抑えた。
 あれを、俺がやった?
 バカな、どうやってあんな圧倒的な破壊を生み出せるんだよ。
 俺はただの剣士だぞ?魔法なんか潜在魔力が高いだけで技術的な事は一切訓練してない。

 正直瓦礫の山があった方がまだ現実味があったと思う。

 実際に破壊されたタトラメルツを見て俺は、受け入れようと覚悟した事実を……拒絶したい気持ちで一杯になった。
 あんな得体の知れない破壊を自分がやっただなんて、認めたくない。
 というよりは多分……怖い。
 誰がやったかとかそんな問題はおいて置いて、あんな訳の分からない破壊を齎すモノが正直に怖いと思ってしまった。
 いや、違う。それを自分がやったのだという事実において、いずれ再び同じ滅びを齎すのではないかという可能性が存在する事が怖いのか。
 自分を笑える、怖い、どうした事か怖くてたまらない。



 流石に真っ直ぐ行く予定ではなかったので、俺達はカオスから再び領主の屋敷に案内された。カオスの云う通り領主は俺達を責める訳でもなく、むしろ労ってくれていたらしいがよく覚えていない。
 俺はもう、連れられるままって感じで……正直ここが何処なのか割とどうでもよくなりつつあった。

 ようやくチキンな自分の状況を受け入れて、俺は部屋に戻ってきたナッツの気配を感じて自分の状況を吐露する。。

「やべぇな、思っていた以上に堪えるわ」
「……ヤト」
 俺は膝の上に肘をつき、頭を抱えて呟いた。
「……どうしよう、俺」
 壊れてしまったログを取り戻す?取り戻したら一体、俺はどうなるんだよ。問題無いと腹を括ったはずなのに途端絶望したのが自分で、良く分かる。
「これは……前に進めないかも」
「……」
「お前がこの破壊をやったって、後ろ指差されたら……レッドからそれを責められたら俺、ちょっと……再起不能かもしれない」
 口が無様に笑う。おい待て、俺はどういう決心をしてここに来たんだよ。
 レッドに会うんだろ?奴が何を企もうと会って、話して、説得させるつもりで来たんじゃないのか?
 口だけが異常に立つアイツをどうやって説得させるつもりだったのか、やっぱり俺は暴走勇者だ。
 何も考えていない。

 実際奴と口論になって勝てる気がしないんだよ。

 レッドがもし俺に悪意を抱いていたら、そらもう簡単に俺はぶっ壊れちまう気がする。
 言い直す。ぶっ壊されちまう、だな。

「お前は一人じゃないだろ。たとえ世界の全てがお前を否定しても……僕らは、お前と同じ立場だよ。一人の責任じゃない、お前だからあの結果がある訳じゃないと僕は思うよ……誰にでも同じ可能性はあったんだ」
「……ああ」

 誰も俺に話し掛けないのは、そうか。
 俺に慰めの言葉を掛けられない、そういう事じゃないのか。

 今、この事実を背負うのは俺だけど、俺達全員がこうなる可能性もあったし、現在進行形『在る』んだ。そしてそれを知っているから、連中は俺が今悩む立場に成り代わり、きっと皆悩んでいる。
 全員同じ、俺と同じ迷いを。
 破壊を齎す側になり、あの何も無い、何も残さない破壊を引き起こす存在になり得るという恐怖を噛み締めている。
 俺だけじゃないんだ。たまらなくなり、顔を上げた。
 うぬぼれるな、自分だけが特別なんじゃない。俺だけが悩んで、俺だけか背負っている重さじゃない。この背にのしかかる重圧は、俺一人で支えてるんじゃないんだ。
 俺達全員で支えている。
 そう考えた途端、ふっと軽くなった気がする。少しだけ、皆で支えているのだという思いが俺の重いを軽くした気がして俺は、少しだけ恐怖を振り払える。
「レッドも同じかな」
「……きっとそうさ」
 ナッツが小さく笑う。
 それは希望だけれども……そうであって欲しいと願う事だけど……否、違う、断固否!

 違うぞ、そういう事じゃない。
 この問題は、重さは……奴も、背負わなければいけないのだ!

 そう悟った瞬間、俺は立ち直っていたりする。
「それなら、……ちょっとイケる気がしてきた」
「僕は……正直まだ怖いんだよね。レッドを説得出来るか」
「お前にばっか負担掛ける訳じゃないだろ?確かに、マトモに会話できるのはお前だけだけど……一人で背負うな」
「……そうだね」



 セーブして、スキップ明けて、俺達は何も無い白い砂の降り積もる大地の前にいる。

 隔たるものが何も無い、視界の奥にある廃墟が蜃気楼のようにぼんやりと揺れていた。
「……行くぞ」
 昨日抱いた恐怖を、僅かな勇気で振り払う。
「大丈夫?」
「それ、俺だけに向けられた言葉じゃ無いんだろ?」
 俺は笑って、一同を振り返る事が出来た。それを見たアベルが関心気味に目を瞬かせる。
「……すごいねアンタ。ちゃんと一日で開き直ったんだ」
「開き直った言うな」
 確かに、開き直ったとも言うがッ。
「お前の能天気な態度を見てるとなんかもう、どうでもよくなってくるな」
 テリーが呆れて首を回す。
 マツナギは苦笑しつつ肩に込めていた力を抜く様に姿勢を崩した。
「はは、でも……勇気は湧くよ」
「うん、流石は人柱ね、」
「だから、人柱ゆーな!」
 アインのボケに俺の即座突っ込み、うむ、調子が戻ってきた感じがするじゃないか。
「ちんたら歩くのも何だ、……走るぞ!」
「はッ!」
 テリーは笑って肩を竦めた。
「どっちの足が速いのか、この際はっきり計っておこうぜ?」
「面白い、受けて立つ」
 俺は拳を固めてテリーを軽く横目で睨んでやった。
「じゃ競争だ……アベルとマツナギはペナルティ5分」
「あら、たった5分でいいのかしら?」
 余裕のアベルに俺は足をぶらぶら運動させながら鼻で笑う。
「精々5キロって所だろ。こっちなら短距離みたいなもんだぜ。人間だからって甘く見るなよ?」
「僭越ながらタイムキーパーを努めさせていただきます」
 とナッツが丁重にお辞儀。手を差し出した。
「はい、構えて……スタート!」
 俺とテリーが硬い砂地を蹴り上げた。足場は砂漠ほど酷くは無い。割と硬いのだ。それでも白い砂埃は舞う。
 この踏みしめる白い砂の中に、幾千という命が埋もれていたのだろう事実を頭の隅では意識する。忘れている訳ではない。
 でも、この地を踏まなければ前に進めないなら俺は踏む。走り出してしまったから今更迷ったりはしない。

 目の前にある、崩れた魔王の城を目掛けて。


 でも……。
 ……全力疾走って疲れるな。……あたりまえだが。

 10分以上全力で走るなんて土台無理か、長距離とは訳が違う。
 後半からなんとか走ってる状況になってしまう。……とっくの昔にマツナギとアベルからは追い抜かれました。人間じゃねぇあいつら……とか思ったが本当に人間じゃなかったんだった。
 頭が微妙に沸いている。
「おい、お前、」
「なんだよ、」
 ぐだぐだ走りながら、隣を走っているテリーが唐突に声を掛けてきた。俺達はとりあえずコイツからは負けられん、という意地で走っている気配である。
「本当に、何も覚えて無いのか?」
「何がだよ」
 そんな俺らの頭上を飛びながらついてくるアイン。彼女は元より飛ぶ速度はあまり速くない。俺らの走り位で丁度いいらしい。
「テリーが聞いているのはここでの事じゃない?」
 アインが高度を落とし、俺の隣で羽ばたく。
「ここでって、俺が」
 荒く息をしながら言葉を続ける俺。
「魔王として振る舞ったって、奴か?」
「そーいう展開に……なるんじゃねぇかって、そういう懸念はあったんだろ?」
 俺はぜいぜい息を漏らしつつテリーを振り返る。
「なんかさ、ヤバそうな薬を大量にブチ込まれたっぽいんだわ」
「そういうログは、ある、のか」
「……ちょっと休んだら?」
 アインから言われてようやく、よろよろと俺達は足を止めた。
 その場で体を折り曲げて激しく深呼吸。
「がんばれ~、あとちょっと~」
 空で旋回しているアインは気楽に歌っている。
「うし……こっからもう一度競争だ」
「当然だろ」
 急いで息を整えつつ、脱力感に襲われないように俺とテリーは睨み合った。
「で、お前は本当に記憶に無いのかよ」
「無い、全然無い。残ってる記憶もガチでぶっ壊れてるのか、それとも薬でラリってんのか分からん状態だ」
 俺は、足元に広がる硬い白い砂を睨んだ。
「ラリったままだったとしても、それでも俺の所為なんだろうけどな」
「……追い込んだって仕方ねぇだろ。ナッツにはその事は話してあるんだろうな?」
「何でだよ、」
 俺は顔を上げ、テリーをやや睨む。
 正直に言えば、心配掛けるだろうからナッツには、余り捕まった後の状況は話してない。今つい口を滑らせてテリーにぶっちゃけてしまったけど。
 いやまぁ、今更何の心配をされるのかってのも微妙だが。
「薬投与されたって、副作用とか薬品汚染とか、いろいろあるだろうが。ちゃんとその辺り診て貰ったのか?」
「科学が進展してる俺らのリアルとは違うぜ?」
「だからおっかねぇんだろうがよ。こっちはヤブも平気で混じってる世の中なんだからな?」
 何かテリー、藪医者にでも引っかかったイタい経験でもあるのかお前?
「別に、体調は悪くねぇぞ?ナドゥのおっさん、マッドそうだが割とマトモな医者っぽかったけどな」
 全力疾走した訳だが別に今、身体に違和感は無い。何か変調した所は無かっただろうかと記憶をリコレクトする。
「……ん?」
「どうした」
 その一群、過ぎ去ったログの中に……。
 何か重要な事が混じっていなかったか?俺は慌ててもう一度リコレクトしながら青い空を見上げた。
「いや、今……何か重要な事を思い出し掛けた気がしたんだが……」
「マジか」
 するとすでに目的地に付いているアベルが、こっちに向かって叫んでいる声が耳に入って顔を上げた。
「あんた達~、休んでないでとっとと走れー!」
「やべ、とりあえず行くぞ」
「おう、アイン、合図しろ」
 アインのよーいドンの掛け声に背を押され、俺とテリーは再び全力疾走。だが、数分休んで疲れが取れる程人間種は万能じゃない。
 割とヘロヘロになってようやく目的地にたどり着いたのであった。……よって、勝敗つけるのは止めた。俺とテリーは半分歩いた状況でようやく崩れ去った魔王の本拠地があった瓦礫の山の前に倒れ込んだからだ。
「ダメダメね、あんた達」
「うっせー、俺らはただの人間なんだよ~」
 走り出す前といってる言葉が違うな、俺。
「こんなに弱いんだ」
 マツナギもちょっと呆れている。
 貴族種マツナギと遠東方人アベルはほとんど息も切らせずにここまで10分以内でたどり着いていたりする。あと、飛んでしまえば論外のナッツは先にこっちに居てアベルらの到着を待っていたはずだ。
「その分決定的な弱点も持たない、成長が早いという種族だからね」
 軽い体力回復補助魔法を掛けて俺達をクールダウンさせながら、ナッツは倒れた俺らに向けて翼を軽く振って風を送りながら苦笑している。
「で、どうだナッツ。先に調べておいたんじゃねぇのか?」
「ああ、うん」
 ナッツは首だけで瓦礫の山の方を向いて言った。
「魔法で覆われてるね」
「どういうこった、」
 倒れていた所起き上がり、水筒から水を補給しながらテリーは砂の上で胡座を掻いた。
「結界魔法の一種だ。テリトリー魔法の強化版かな」
 そう言って、白い砂の上にナッツは指で状況を図解し始めた。
「これが魔王の館跡地」
 ニホン地図で見慣れた城のマークを描き、それを円で囲む。その南端にバツ印を描きながら顔を上げる。
「今僕らがいるのはここね」
「この円は、塀のあった場所だな」
 塀は残骸も無く、キレイに存在しないが元々あの頑丈な塀に掛けられていた結界魔法は未だ健在、という事だろうか。
「そういう事……で、」 
 その塀があった円の内側に、ナッツはもう一つ円を描く。
「こんな感じに……さらに結界魔法で覆われているんだね」
「じゃ、入れないの?」
「そうじゃないな」
 ナッツは腕を組み、瓦礫の山を見やった。
「分かりやすく言うと……その結果の中は術者に有利な場を形成している、という事なんだよ。結界とは言ったけど、目に見えたりするんじゃないんだ。制空圏とか言ったら通用する?」
「……つまり、その中心に居る者の攻撃範疇って事か」
 俺も制空圏でナッツが言いたい意味は察したな。テリーは分かって当然だ。制空圏つーのは軍事用語および武術用語だからな。格闘シュミである奴が知らない訳が無いのだ。ずばり、自分の攻撃が相手に当たる空間領域の事で、軍事的には敵より圧倒的に優位な立場で攻撃が出来る的な空域の事だ。
 しかし武術用語で説明するなら……ナッツが図解した広さの制空圏は普通にありえない。
「……居るんだな、」
 広範囲な攻撃圏を持つ者。
 この世界においてそれは魔法使いの事に他ならないだろう。そしてこの巨大なテリトリーを展開するとなれば、相当な使い手であろう事は察する。
 カオスも言っていたからな。奴が、ここに居るだろうと。
「……レッドがお待ちかねって訳だ」
「入った途端火の玉が飛んでくるならまだ、マシだよ」
 ナッツは神妙な顔で自分が描いた図を眺めた。
「そりゃ、突然攻撃してくるとは限らないだろう?」
「攻撃は何も物理とは限らないからね」
 その意味を理解してマツナギは口を閉じた。
「……精神的な魔法も届いちゃうのか……何とかその制空圏とやらを解除できないものなの?」
「アベル、制空圏は例えだから」
 ナッツは苦笑するが、名称はどうだっていいのよ、何とかできるの出来ないの?と責められてさらに苦笑う。
「無理、だろうね。別に結界張ってるのとは違う。中央にいる人を攻撃でもしないと……解除は難しいと思うよ」
「こっちも似たようなの展開しながらつっこむとか?」
 という、アベルの提案にナッツは首を振り、何と説明するかと考えながら丁重に答えた。
「たとえそういう事が出来たとしても、結局魔法というのはジャンケンみたいなものだからね。その上、後出しは強くは無いんだよ、先出しした方が駆け引き的な意味において強いというのが魔法だ」
「奴の魔法範囲ってこんなに広かったのかよ」
「それはそうさ、一番後ろに下がっていても、ちゃんと君達のフォローしてただろ?」
 テリーの言葉にナッツは足で描いた図を消しながら言った。
「もっと時間と集中力があれば、魔導師というのはどこまでも自分の力を伸ばせるんだよ。ましてや彼は最高位の紫じゃないか。敵に回したら厄介なのはある程度承知していると思ってたけど」
「まぁなぁ、スゲぇ肩書きだってのは分かるが……あんま珍しすぎて逆に実力って分からねぇもんじゃねぇか?」
 俺もテリーに激しく同意である。
「全員で入らない方がいいんじゃないのかな……それに特にあたしとテリー、アインは……近付かない方がいいかも」
 と、マツナギが警戒して言った。
「何でさ」
「一度レッドの魔法に掛かっているからさ。精神的な魔法を一度でも受けると、バイパスが出来てしまうとも言う。……魔法抵抗力が弱くなるんだよ」
 マツナギが深刻そうな顔で言った。うむ?
「それだったら俺もだろ?」
「あ、そうか」
 マツナギは困った様に首を竦めた。
「それで言うなら僕も、同じ状態だな。結界魔法で閉じ込めた時、幾分応酬したし……」
 ナッツがそう言って……アベルを見る。全員がアベルを向いた。
「え?じゃぁ、……あたし?」
「でもなぁ、偵察に向けようにも方向音痴だからなぁ」
 状況、嫌だともいえないと察したらしくアベルは仕方なく引き受けた、というように立ち上がった。
「アベル、真っ直ぐ前向いて歩くんだぜ?」
「こんな見通しの良い所で迷ったりなんかしないわよッ!」

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