異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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6章  アイとユウキは……『世界を救う、はずだ』

書の2後半 恐れない一歩『魔王の城、リトライ』

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■書の2後半■ 恐れない一歩 without hesitating step

 他にも色々と、俺に対して口を噤んでいた事実が次々と明るみに出て来た。

 酷い事に、俺がどうも魔王化したという事実までは俺以外全員、ログで確認出来ていたらしい。
 ログで確認というのはこの『トビラ』の外に出て、ログを確認してリアルで自分の記憶に引っ張ってくるという意味だ。
 つまりだ、俺が思い出せないとリアルでいろいろ悩んで居る間にな、俺を除く全員は知っていたって事だ。

 俺がどうやら魔王となって、タトラメルツをぶっ壊し始めたという事実だけは。

 どうしてそうなったかという『理由』は当然すっぱ抜けている訳だが、そういう展開に成った事までは了承していたらしい。そして、リアルでは人付き合いが苦手な俺を差し置き、連中はそれを俺に語らない事をこっそり決めたらしいのだ。

 俺だけその事実を知らないだろう事すら、奴らはわかっていたんだ。俺が何も知らずに能天気に、ゲームの続きを始めるのを連中は黙って黙認した。誰よりも酷い続きになる人間を放置して、連中は世界を破壊しないで続きをすべきだと、そう主張したって事か。

 流石に俺、ちょっと愕然としてしまう。

「なんで教えてくれなかったんだよ」
 流石にじわじわと頭に来ている。一人除け者にされてた訳だろ?気分悪いよそれフツーに。
「今はともかく、アッチでそれ説明したらお前、どうしたさ」
「んなの決まってる、おお、俺スゲェ!魔王になっちまったよ!とか無駄にはしゃいで勢いでリセット押すわな!」
「やっぱり」
 ナッツは額に手をやって溜め息を漏らした。
「……嘘、冗談だ。俺は割とそういうあるまじき展開にワクテカしたかもしれない」
「どうだか」
 アベルが肩を竦めている。
「俺らは、お前がどーなろうが続きがやりたかったんだよ」
「それは酷い」
 テリーの言葉に思わず笑ってしまった。俺がどうなろうがゲーム続行を選ぶか。
 あぁお前ら、いい度胸だな!
「多分、誰がヤトの状況でもそうなったと思うわよ」
 アインが申し訳無さそうに首を伸ばす。
「そうか?」
「そうだよ。僕らゲームジャンキーだもの。リアルで友情を選ぶとは考えられないね」

 それは……間違う事無きゲーマーの正論だ。

 立場をナッツに換えて考えてみよう俺。
 ……うん。そうだな。ナッツが魔王になっててその事実に悩むとしても、でもその展開はゲームとしては燃える。故にリセットなんか選ばんだろう。
 ナッツの意見はどうあれゲーム続行を俺も選ぶな。

 俺はようやく連中の事情も理解して項垂れてしまっていた。
「……まぁいいや、その件は分かった。それより……レッドだ」
 何故だかどうして、全員で溜め息を漏らしてしまった。俺含む。

 つまり……奴はすでに知っていたという事か。
 トビラの外、現実世界のドトールで額つき合わせて、思い出せない『思い』の事で相談をした時も、あんなに爽やかに笑いながら……。
 あいつはこういう展開の続きになる事を知っていたって事じゃないか。

「一言も、この展開についての話はレッドから無かったのか?」
「あったら僕は驚いてないよ」
「……なんであいつ、黙ってたんだ」
 俺は額を抑え項垂れてしまった。
 あのリアルで見た、別に腹黒くもなんとも無い笑顔を思い出す。あいつが何を考えているのか、さっぱり分からない。
「あっちこっち穴だらけだけどレッドのログにだけは、魔王なお前とのやり取りの断片があるらしい。レッドだけそれを確認したって言ってるんだよ」
「……そうだな、俺もなぜか断片で奴から何か言われた様な記憶がある」
「何を言われたんだ?」
「憶えていれば苦労しねぇよ」
 再び一同、溜め息。
「魔王側に寝返った……か。どうして俺と奴の立場が逆転してるんだよ。おかしいじゃねぇか」
「……そう、なんだよね」
 魔王になったの俺なんだろ?理由とか方法とかすっぱ抜けてるけど。
 でもログインしてみたら、俺はそういう事情すっかり忘れてて、なぜかレッドが魔王側として俺達を攻撃している状況だと云う。
「身代わりの身代わりとかになってんじゃねぇのか?」
 俺の安易な言葉にナッツは苦笑らしいものを漏らす。
「そんな事が出来るなら全員、そうしたかったに違いないよ」
「……ん、そうか」
 ……一同、無言で同意をしたな、その雰囲気にあんまり能天気に話すのもどうかな、と俺は自分の安直さを呪った。
 俺に酷い仕打ちをした一方で、その事実に悩んだ事も事実か。
 ああ、何が悪かったんだろう。
 何が悪くてこんな状況になっちまったんだ?

 俺が勝手に暴走したから?俺が勝手に人柱になる事を選んだから?そもそもお手軽に魔王に挑んだのがバカだったのか。
 強化されているとはいえ仮にも魔王、舐めて掛かったのがいけなかったのか。
 いや、その魔王の設定がそもそも在り得ない存在であるのが悪いのか。
 ぶっちゃけてバグ、赤旗という存在が全ての元凶か。

「悩んだってしょうがないよ」
 マツナギがぽつりと漏らす。
「ヤトが悪い訳でも、誰かが悪い訳でもない。そうだろう?」
「……そりゃ、分かってるけど」
「分かってるんならウジウジ悩むのは止めれば?」
 アベルは正座を諦め、足を崩しながら投げやりに言う。
「うっせぇ、確かに俺のキャラじゃねぇけど」
 俺が、俺達が取るべき道。
 それはすでに決まっていると言い切っても良いはずだ。が、しかし……だ。
「間違いなく全て、彼の掌の上だ。だからあたしは……感情から言えば止めるね」
 マツナギは正座のままピンと背筋を伸ばしてはっきりとした口調で言った。
「タトラメルツには行かない方がいい。行くとするならそれは……多分、こういう展開になってしまった最初から、レッドの思惑通りの事だよ」

 手っ取り早いのは奴をとっちめて、お前は何を企んで居るのだと聞く事だ。
 当たり前だが。
 だがそのように俺達が再び、タトラメルツに行く事をどうやら奴は仕組んでいる気配がある。
 はっきりとしている事。それは何だ?俺が魔王として振る舞ったというのはまだ、はっきりとした事実では無いのではないか?それを保証したのはレッドだけだ。
 本人である俺のログにはそんな記録は無い。
 ならば今、はっきりとしている事は?

 レッドが俺達から離別し、魔王サイドに有利であろう行動を取ったという事実か?
 俺達から青旗を剥奪しバラバラにさせて……。

 ん?あれ?

「いや、待て?どうして『それ』でアイツが魔王サイドに寝返った事になるんだ?」
「……本人がそう言ってたぜ」
 すっかり崩して胡座を掻いているテリーの言葉に一同頷く。
 俺は笑ってしまった。
「何が可笑しい」
「馬鹿かお前ら、あいつは超がつく程の詭弁家だろうがよ。ナニよお前ら、あの嘘吐き野郎の言葉を真に受けてんの?」
 テリーとアインは、今更ながらそれもそうかという具合に顔を見合わせている。
「……ヤト、どうしてあたしがタトラメルツに行くなって言っているか、その具体的な事をまだ告げていなかったね」
 相変わらず正座のまま、マツナギは目を細めた。
「……あいつの策略の上だからだろ?」
「何を画策しているのか、言ってないだろう?」
 うむ?まぁ、……結局奴が何を企んでいるのか分からんのだろ?ナッツもいまいち予測出来ないって言ってたし。
 俺がそうだろう?という風にナッツを振り向くと、ちょっと険しい顔をして何やら悩んでいる。
「確かに、レッドから直接何も聞き出せなかった。僕は半月レッドを拘束した訳だけど……。でも今はその時とは状況が違う」
「何か思いつく事でもあるのか?」
「……お前にかけられた魔法だよ。一ヶ月氷漬けにしてその後自然に解けた魔法……これは、どういう意味だろう?」
 ナッツは険しい顔を上げる。
「半月僕が拘束したのにも、レッドは別段焦った素振りは見せなかったのだよね。彼にとっては……一ヶ月、僕らを撹乱出来ればそれでよかった、という事だろうか?」
「時間稼ぎ……って事?」
 アインが羽をばたつかせて首を伸ばす。
「これが全て彼の計算の内ならば、レッドは時間を稼いで何かを待っていた事になる。ナッツ、分からないかい?」
 マツナギの言葉に、ナッツは唸り声を上げた。
「待つ……か。そうだな、僕らが再度ログインしたタイミングが何時なのかはっきりしない訳だけど……例えば待っていたのがデバイスツールの完成……とか」
「ああそうか、知らないんだね」
 ふいとマツナギは納得したように手を合わせた。
「何がだい?」
「ナーイアストの石の行方」
「知ってるのか?」
「知ってるも何も、あれ、レッドが持っていったじゃないか。覚えてない?」
 壊れてしまったログ。
 でも実際、壊れていなくても同じ経験から、引き上げられる記憶には個人差がある。
 ナッツが覚えていない事を、他の人がはっきり覚えている場合もあるのだ。
「え?そ……そうだっけ?」
「ああ、そうだよ。タトラメルツが突然破壊され出したどさくさに紛れて……レッドが手に取って懐にしまい込んだのをあたしは、見た」
 はっきりとした口調に、途端にナッツの顔色が悪くなった。口を抑える。
「……じゃぁ、レッドが待っていたのは……デバイスツールの完成で間違いないのかも」
 アベルが天井を見上げる。
「ごめん、メージン。悪いけど聞くわ。……デバイスツールの場所とかそっちでトレースできるの?」
 ややあって、メージンからのコメントが返って来た。
『残念ながらそれは、こちらでは』
「もう一つ。ナーイアストが持ってるはずのツールはどうなるの?」
 再び間があって、メージンの答えは返って来た。
『ナーイアストが渡すべきツールはすでに、皆さんが受け取った事になるようです。高松さんがそう言っています』
「これは、行くべきじゃないな……」
 ナッツが低く呟いた。
「何言ってる、違うだろ?あいつはツールの完成まで時間稼ぎをしたんだよ。それを、魔王連中に悟られない為にそういう芝居を打った……違うか?」
「僕はそうは思わない」
「……何で」
 ナッツは俺を見ないで、床を見つめたまま言った。
「レッドの言っている事がどこまで本当で、どこから嘘なのかは正直分からない。でも……お前が魔王化したという話は本当なのだと僕は思う。そしてそれは、魔王八逆星にとっても想定外だった……タトラメルツが攻撃されたのはつまり、そういう意味じゃないのか?」
「……?」
 それって、つまり連中は別に俺をお仲間に加えたかった訳じゃぁ無いって意味か?
 何故だか俺には、その意見の方に違和感がある。何故だろう、思い出せない記憶の中に何かがひっかるような気がするんだ。
 ふっと、ナッツの視線が俺を見据える。
「レッドはナーイアストの石をすでに、お前で試しているのだと思う」
「……赤旗修正ツールを、未完成な状態でか」
 魔王になっちまったという俺に対して、か?そうしなきゃいけない状態にあった、つまり俺が……しないはずのバグ感染を起こしてしまったという事か……?
「もし、お前が魔王と化してて、赤旗だったら……デバイスツールはどう作用するだろう?それに、理を正して正常化するデバイスツールは果たして、青旗である僕らに無害だと言えるだろうか?」
「!?」
 それは……意外な盲点だな。

 理を正すという開発者を示す白旗の、矯正ツール。理とは何だ?この世界において、正しい理とは何だろう。
 密かに俺は思い出す。リコレクトじゃぁ無い。さりげなく言った、メージンのかつてのコメントにあった一言。

 覚えているだろうか?
 俺とレッドテリーだけで、一番最初に遭遇した赤旗モンスター玄武の処理についてあれこれ協議した時。
 赤旗も開発者が作ったシナリオの一部じゃないのかと疑ってた俺達に、メージンはこんなコメントを返したのだ。

『……ええと、フラグというのはある意味この世界においては全て、バグなんだそうです』

 言い方からして恐らく高松さんの言葉をそのまま伝えたのだろう。
 ある意味この世界においてフラグはバグである。
 つまりそれはどう言う意味かというと……俺達の頭上にある青い旗や、一部イベント発動を知らせるフラグシステム自体がこの世界に在るべきでは無い余計なプログラムになるんだよ、という事であろう。
 俺達は今はすっかりこっちの住人として馴染んでいる感はあるが実際には異邦人。
 実はこっちの世界に合わせて『演技』しているに過ぎない。
 それが、RPG(ロールプレイングゲーム)という真の意味だ。

 レッドの独白を思い出す。

 トビラ、なぜこの世界を『トビラ』と呼ぶのでしょう?
 扉を潜り来るモノの事を、こちらの世界では何と呼ぶのか知っているはずなのに。
 僕らの存在はどちらかというと。

 異世界より現れ、世界を破壊する。
 この世界においての普遍的な『悪魔』という事か?
 破壊者というの定義の……?

 俺は、知らずと自分の手を見つめていた。
 破壊。
 俺が、俺達が破壊を齎す存在なのかもしれないと奴は、あの時それを言いたかったのか。レッドが一人危惧した言葉の意味を今は、俺も危機感を持って感じる事が出来る。

 世界を救う側ではなく俺は、もしかすると、世界を破壊してしまう側かもしれない。
 そいう事なのか?

 メージンから、鈍い手ごたえの言葉が返ってくる。

『それは……やってみなければ分からないそうです』

 この世界に歪としてある理を、正しく元に戻す事ができる道具『デバイスツール』
 それがこの世界に齎されている。
 世界を管理する神としてを与えられた、大陸座が持つ権限を今、一部の人が手に持つことが許された世界。

 メージンのコメントに、俺達は黙り込んだ。
 今、一つ齎されたデバイスツール。それを持つレッドは、一体何をそれで正そうと考えているだろう?
 魔王か、それとも……扉を潜りこの世界にやってきた俺達なのか?なんとも奴の意志が読み取れない。
 だが……アベルも言ってた。ウジウジ悩んで立ってしょうがないし大体、それ俺のキャラじゃねぇ。

 暴走勇者ヤト、ここは暴れ時だ。

「面倒だ、やっぱ行くっきゃねぇ」
 俺は立ち上がり、ぼんやり可能性を咀嚼して迷っている連中を見回し拳を固めた。
「それで、バカな事考えてる様だったら殴ってでも止めればいいじゃねぇか」
「……お前は、相変わらず」
 ナッツは苦笑して言葉を止めた。何だよ、相変わらず何だって?
「確かに。結局答えは出ないならそうするしかないんだろうな」
 テリーが諦めたように肩を竦める。
「どうせそうなるだろう事は分かっていたけどさ……でも、慎重になって欲しかったんだ」
 マツナギは微笑して目を閉じる。
 無言で俺達は頷きあった。そうだ、こうなる事は何を迷おうと決まっていた展開だ。
 俺達は行かなきゃいけない。
 最後の一人の仲間を取り戻す為に、どうせこの道を選ばなければいけないんだ。

「魔王の城、リトライだぜ」



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