異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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6章  アイとユウキは……『世界を救う、はずだ』

書の5前半 至上の違和感『断言する、お前らの愛は歪みまくりだ』

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■書の5前半■ 至上の違和感 supreme incongruous love

 魔王の謳う破滅の歌。
 滅べ、滅んでしまえ。
 この世界にはもう価値が無い、つまらない世界、未来の無い世界。卑しく空しい世界。

 勇者は呼応し謳う。

 魔王よ、お前の望みは小さい。

 たった一人、絶望して立ち直る事が出来ないお前は、自分を殺す事も出来ずに世界を拒絶する。
 自分を生かすことも、殺す事も出来ないお前は自分以外を拒絶する事で自分の存在を立てようとする。

 泣き笑いの魔王。
 お前に何が分かるのだ?
 分からない?
 嗤う魔王。
 ならば同情などするな。
 哀れむな、憎め、
 こんな小さな望みに、お前たちの世界は乱され潰されるのだから!


 強く光り輝く未来を予感させる、強き者を前に願い請う訳だ。


 だから、出来るならば殺してくれと。



 魔王という世界の爪弾き者。世界を拒否し、拒絶されて、願う滅び。
 愛はいらない、くだらない。そんなもので救われるならもうとっくに改心している。
 愛を失って、愛される事を拒絶して、誰からも憎まれる事を望んで、悪い奴、悪い奴、お前は悪い奴だと指差し憎まれる。
 開き直る、そうだ俺は悪い、悪いのだ。お前らウザいから死ね、俺もお前らが大嫌いだから死ね、死んじまえ!

 そんな幼稚で決まりきったなやり取りを繰り返す。
 魔王と世界の関係性。

 故に、勇者には愛が必要だ。
 世界でたった一人のかわいそうな爪弾き者に手を差し伸べる為に。

 だが、それでいいのか?
 魔王と勇者の麗しき関係性?麗しい?ありきたりの間違いじゃねぇのか?
 てゆーか大体。
 その愛はどうなんだ勇者。
 お前のそれは本当に愛なのか?
 失敗すると魔王はヤケを起こす訳だろ、同情すんな、哀れむなとかんしゃくを起こす訳だろ?
 そうならないように上手い事愛を囁かないと、勇者は救うべき人を救えずに結局暴力に訴えなきゃいけなくなるんだろうが。

 失敗したからボコって証拠隠滅かよ!

 いや、努力したんだけどね、とか後に悩むも勝手にしろ!勝手に悩んでろバーカ!


 俺はそんな勇者が大嫌いだ。


 勇者とはかくあるべきなどという入門書など破ってシュレッダーにかけて畑の堆肥に混ぜ込んでやるわ!
 人々の為に善行を成すのはいい、その為に命をかけるのはアホらしいとは思うが、まぁしょうがないと思ってしまうのは確かだけどな。
 キャラ的に。
 けどな、ちっさい欲望に振り回されて挙げ句『愛』などと拳を振り上げてみるのは俺の、趣味ではないのだ。
 マジ勘弁である。


 何処の世界にもそういう話はあるものだ。
 北神の恋、それに語られる北神イン・テラールと南神ルミザのやり取りは、まさしくその展開をなぞるのな。
 恋する破壊者、愛する聖剣士。
 一度その愛に救われるも、それを失った時に破壊者は破壊者に戻り人から憎まれる事を選ぶ。
 ちまた北神は慈悲無き賢者と呼ばれ、悪神とまで下げ積まれ嫌われている。
 対し、他の方位神はどうだよ。
 西のシュラードを神としてあがめ時に心の支えにしてる人は沢山いて、西教という古参な宗教がある。
 東のラウェイは学神として特に魔法使い、魔導師に敬まれている。
 南のルミザは世界を守り邪悪を振り払う存在として、そして死を司る者として南国で特に信仰されている。
 対して、……北神を神として崇める場合は大抵後ろ暗い時だ。
 多く呪い成就の神様として認識されている。一説北神イン・テラールは、そういう悪い部分を背負う神だとも言われるな。

 一神教だと受け入れられない事ながら、日本なんか八百万神のおわす国だろ?多く神の居る文化では、神は善と悪、どちらも背負うかどちらかを背負って二分化する。
 ま、分類が混沌としている場合も在るけど。

 コッチの世界において北神は究極の魔王として世界に君臨し、破壊神として人の負の感情の頂点にあると言える。
 それを救うのは、救う事が出来るのは。

 南で眠り、目覚めたルミザの注ぐ『愛』のみ。


 爪弾き者の魔王と、無償の愛を注ぐ勇者の展開をこの世界にある神話も確かになぞる。
 なぞるのだが。



 俺は目の前の魔王気取りを視界に収め、腰に手を当てもう一度言ってやる。
「嫌だからな、俺は」
「……貴方に拒否権は無いのですが」
 人質を取られている。戦わなければ他を殺すと来た。こいつはそうするだろう。自分の望みを叶える為なら何だってやらかす、超危険人物だ。
 それでも、俺は……
「絶対に嫌だ!拒否する、俺は、お前なんぞに……」

 ……愛、を注げるか。

 大体俺はそんな勇者気取りすんのが嫌だ。
 俺は魔王に同情もしない、哀れみも投げない。
 ただお前のやってる事は幼稚でおバカでドキュンだとひたすら責めたて、崖に追い立てて追い詰める、そんな泥臭い人間でいい。

 死ね、だったらさっさとテメェだけで死ね!
 そう言って悲しく背を向けた奴の背を蹴り飛ばしてやりたい。

 それで、俺が殺したと後ろ指差す奴がいるなら言ってやる。


 ならどうしてお前が、さっさと奴を愛してやらない?


「……お前、北神の恋って舞台、知ってるか」
「え?はぁ、知ってますけど」
 俺の質問は虚を付いたみたいだな。
 レッドは驚きつつも俺の問いに答えた。そういやこいつ南方人だった。南国では流行ってる演目らしいし。知らない訳は無いか。
「あれの結末、どんなんだよ」
「……というか、貴方もご存知なんですか?意外ですね」
「ちょっとな、訳あって聞かされちまって。……知ってるだろ、北神の恋の末路。悲劇で幕が下りるって事を」

 勇者は魔王を、救わなかった。
 ルミザは拒否したのだ。もう一度インを愛する事を。
 だって俺はお前の事、覚えて無いし……などという理由で袖にしちまうのだな。
 そういう、あっけない終幕が待っている。
 永い眠りから覚めたルミザは愛を忘れてしまう。そしてそれは結局、思い出される事はない。


 思い出される事は無いのだ。


「面白いオチだよな」
「そう、でしょうか?」
「王道嫌いとしては新鮮に思えるが」
「……だから僕は面白くないのかもしれませんが」
「つまりだ」
 俺はレッドの向けて勢いよく指を差す。
「それがこの世界においての王道なのだ。わかるか?」
「……はぁ」
「俺はお前なんか愛で救おうとは思わんからな!」
 愛、ついすっかりハッキリ言ってしまったがつまり、俺が言いたいのはそういう事だ。
 はっきり断言しておこう。

 俺は、こいつが、大嫌いだ。

 アベルみたいな馬が合わないとかそういうのではない、生理的に嫌なのだ。意見が全く合致しない、趣味の方向性も違う……いや、それはリアルでの話だからここでは無効か?
 どっちにしろ到底好きにはなれそうも無いタイプだ、という事だけははっきり言える。
 はっきり言って俺はドジっ子の方が好きだ。例えその子が天然を演じているとしても、俺はきっとそっちを選ぶだろう。
 頭いい奴を目の敵にしているといえばそれまでだ。
 俺はバカだから、頭のいいスカした野郎にはコンプレクスが働く。そうなりたいという願望が少なからずあるから、余計にその『理想』的な存在が許せない。そんなの、俺の隣にはナッツだけで十分だ。

 レッドは眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げる。
「ええ、ですから。さくっと殺していただきたいと先程から申し上げているのです」
 脱力する。
「理解しない奴だな……だから、俺は!」
 愛で救う気も無い。だけど……愛で殺す事も俺はしたくないんだよ!
「当たり前でしょ、僕男ですから。男から愛してると言われても嬉しくないですし、貴方もそれは嫌でしょう?」
 それは当たり前の部類の話だレッド。だから、一々口にしなくてもよろしい!
「戦いたくない、それは何故でしょうね。貴方が死にたくないから?それとも僕を傷つける事をしたくないから?まぁどちらでもいいでしょう。嫌だというのなら、僕は自分が殺されるべき舞台を築くまでです。僕は、魔王側について貴方達の憎しみを買う事にしますが」
「あいつらはそういう典型な訳だな」
 魔王八逆星。
 あれが自らを魔王と名乗る理由を今や『思い出して』理解している俺は嫌な顔をして、レッドを見やる。
「最終的に全てから憎まれても、自分はただ唯一正しい事を成す。それがこの世界の『王道』か。はッ……だったらレッド。お前はあいつらとも相容れない」
 一瞬怪訝な顔になり、それからレッドは顔を逸らした。
「……今の核心ついたろ?」
「何を」
「自分の事しか考えてない奴に構うほど奴らはヒマじゃねぇって言ってんだよ。そう言う奴は切り捨てられちまうんだよ。それこそ、アイジャンみたいにな」
 アイジャン。
 訳あって、魔王一派からも『殺害』希望が出されてしまった奴だ。
 結局の所アイジャンは死んじまった。それが誰の所為なのかもはっきりしていない事ながら。
 アイジャンが魔王八逆星が行おうとしている事から外れていたという事は、今の俺には良く分かる。
 俺に分かるならレッドだって当然分かってるだろう。
「なら僕は、」
「また嘘をついて取り入るのか。自分を偽って」
「この世界ではそれは真です」
 偽るは真。本音は嘘、か。
 そうだな。
 この世界では、現実にあるまじき設定したキャラクターを演じるが真。現実を持ち込むのは嘘。それはやってはいけない事の一つ。

 仮想に持ち込む現実はタブー。
 現実に持ち込む仮想がタブーであるのと表裏一体。

 設定したキャラクターを『演じる』がこの世界では真実。
 レッドはそうやって忠実に『演じて』いる。……俺だってそうだ。だって、戦士ヤトは『俺』なんだ。俺が思った事を一々捻じ曲げる必要はない。この世界では『俺』は、俺だというキャラクター設定になっているんだ。
 そのように、なるべく自分自身に近しいキャラクターを設定するようにと、メージンがゲームを始める前に言った。
 設けた設定を裏切ってしまうと、自動的に経験値がマイナスなどのペナルティを受けて、行動に見合うように設定しなおされてしまう。それはヘタなゲームのやり方だ。ゲームオタクの俺らにとっては恥ずかしいプレイ。
 けど、初期に設定した能力値は変動する。デフォルト設定はあくまでデフォルトなんだからな。

 ゲームの世界であっても、キャラクターが成長する事は許されている。

「でもお前はさ、もう嘘付きたくないんだろう?」
「…………」
 ようやく俺は、奴から沈黙を引き出した。
「嘘は、つき疲れたんだろ?嘘ついて、それをずっと心の中にしまい込んでおくのが嫌なんだろ?永遠とその嘘に縛り付けられるのが嫌なんだろ?」
 黙って、何とも言えない表情でレッドは俺を見る。
 無表情でもなく、笑うでもなく、悲しいのでも怒っているのでもない。
 喜怒哀楽の、どの仮面を被るべきか迷う様だと俺はそんな事を思う。
 こいつはいつも嘘を付いてきたのだな。
 語る言葉は嘘、嘘、嘘。
「もう嘘付くなよ」
 逸らした目が、嘘をついている事実を裏付ける。
「本当の事を誰にも言えない程お前は、この世界で嘘突き大魔王してなきゃいけないもんかよ?そんなに強い束縛設定なんかあるのか?」
 俺は睨みつけていた顔を少し緩めた。
「変わりたいなら変わればいい、変えればいい、それは出来ない事じゃねぇだろ?」
「……ああ、僕にはそれが……出来ない」
 ふっと両手を出し、それで顔を覆ってレッドは小さく漏らす。
「真実を漏らす程なら死にたい、僕のその望みを何故貴方は汲まない」
「だから、死にたいなら勝手に死ねって」
 レッドは、その場でしゃがみこんでしまった。
 何?なんなんだ?
「……そうです」
 しゃがみこんで顔を覆うレッドはくぐもった声で肯定する。
「ヤト、僕はね……卑怯で卑劣で、愚かな魔導師なんです。貴方達が思うよりも弱くて、小さい奴なんです。真実を一つも口に出せない、自分を変える事も出来ない、死にたいのに自分で自分も殺せない、そういう奴なんですよ。そんなのは嘘だと罵ってもいい、僕ももう何が自分にとって嘘で真実なのか良くわからない」
「……レッド」
「でも僕は、これでも自分を変える為に少しだけ、勇気を振り絞ったんだですよ?これでも……精一杯の勇気を振り絞って僕は貴方に挑んでいるんです。誤魔化して、大きく虚勢を張って……その為の嘘です、だから僕は嘘付きで本当の事なんて何一つ……言えない」
「でもな、それでも……やり直しは出来ないだろ?酷い性癖ってのはそりゃ、矯正するのはすごい大変なんだろうが……だからって安易にやり直すってのはどうなんだよ?しかも自殺する勇気が無いから殺してもらおうって……結局お前、それはないだろう?」
 確かにその願いは明るい話題じゃないよな。

 どっちかって言えば間違いなく、暗い。黒い。

 あと、ちっちゃい。

「そりゃさ、俺は人の事言えないぜ」
 俺はそれでも錯覚する。
 取り違えて、目の前で小さく蹲る奴を、いつしかリアルでの自分『サトウハヤト』であるように感じてしまって言葉を一旦止める。
「……全然、エラそうには言えない事だって分かってる事だけどさ。……それでも、やり直せないんだからなんとか前向いて生きるしかないだろ?」
「…………」
「思い切って暴露してしまえよ、お前は何を変えたいんだ?」
 俺は奇妙な気持ちの理由をちょっと悟る。

 そう、本音を語るのは……とんでもなくパワーの居る事なのだ。
 リアルでの俺は、きっと今目の前に居るレッドと大差無い。些細な理由で本当に思った事など何一つ、言葉に出せない。俺はリアルで、きっと嘘ばかりついている。嘘が真実として通用する仮想世界でしか、まともに会話できない俺は……。
 嫌いな理由、すげぇ単純だな。

 お前、俺のリアルに似てるんだよ。

「そんなにお前の望みは、世間様に公に出来ない程に真っ黒なのか?」
 二度目の言葉。
「そうです」
 その度に肯定の言葉が戻ってくる。
 うーむ、でも俺はまだその本音を聞いてないのだよなぁ結局。
 あんまりリアル事情を持ち込むのもどうかと思うが……俺は、リアル-サトウハヤトだったらどんな言葉を掛けてもらいたいだろうと想像し、口を開いた。 
「……言わないよ、お前がバラしてもらいたくないなら誰にもそれは言わないから、」
「貴方にだけは言えない」
 くぐもった声が湿っている事に俺は気づいた。
「何、お前、泣くほど言えない事なのか?」
「言えません」
 いくら俺がリアルでヘタレでも、そこまで口に出せない事実は無いけどな?……無いと思うけど……。
 腰に手を当てる。

 今更だが。

 俺、勝ってんじゃない?
 もしかしなくても俺、優位になってない?

「……よぉしわかった、」
 何はともあれ泣きに入るのは卑怯だよなぁ、ああもう。
 泣き落とし……なんぞはしないキャラだと信じて……真実を聞く事など諦めるか。
 こう言う時、語りたく無い事は何があっても語りたくは無いものである。重要なのだ、物凄い些細なことかもしれない。
 それでもとてつもなく『言えない』事は重要であったりするのだ。
 俺にはその気持ちが良くわかる。

 それでも吐かせてしまったらきっと、俺はこいつの重要な何かを壊してしまう。
 そう思う。

 俺は人をぶっ壊してまで物事を吐かせる程Sじゃねぇ。
 自覚してます、間違いなく俺はMです。

「そんなに嫌ならもう訊かん。とにかくな、負けを認めて死ぬのはよせ」
「……おかしいですね」
 ちょっと強がって笑いの含んだ声が返ってくる。
「僕、こんな事で弱みを見せるとは思いませんでしたよ。負けるはず無いと思ってたのに、実際には負けっぱなしなんですから」
「……いや、お前、それはちょっと違うだろ?俺は今ようやく一本取ったんだと思うけど?」
 顔を隠したまま、レッドは首を横に振る。
「違いますよ、ずっと僕は貴方に負けっぱなしです」
「……そうだっけか?」
「後ろめたい思いを抱いた方は絶対に、天然キャラには敵わない。そういう王道でもあるのかもしれません」
「何だそれは?」
「ああ、……僕は…………」
 奴は唐突に顔を上げると、眼鏡を外して強引に俺に押し付けてくる。
「何、」
「ちょっと、持っててください。邪魔なんです」
 俺に眼鏡渡しておいてから再び顔を伏せた。
 お前は何がしたいのだ。……泣きたいのか。
 その実嗚咽を噛み殺しやがって……ホントに素直じゃねぇよな。

 どんくらいそうしていたものか、ここはまだ奴の幻術の中なのか、それともガチに動揺しまくっているレッドの魔法はすでに破れていて現実の風景の中なのだろうか。

「……結局、隠し事は出来ないという事でしょうか」
 妙に湿っぽい声でようやくレッドは言った。
「ああ、」
 そういえばお前、動揺したっけな。
 隠さなければいけない事なのか?と何気なく言った、俺の言葉に。
 僅かに姿勢を崩し、すぐさまお前は何でもないように嘘の仮面を被ったんだろう。

 嘘を付いている。
 それがお前の真なる核心なのか。

「でも、別に無理する必要は無いんだぜ?」
「認めなければ僕は前に進めない、そうでしょう?」
「まぁ、確かにそう言ったけど」
 むしろ俺は、俺自身に言うべきセリフだよなと内心、かなり苦い思いをしつつ言った言葉な。
 思わず優しい声を掛けちまうのは、結局の所俺自身に対する甘えに他ならない。
「僕は、やり直したい」
「……何をだよ」
「失敗したのです、キャラクターの選択を」

 ……そうきたか。

 全く……ここまで失敗を後悔するほど、お前は何をやり直したいと言うのだ。

「やり直しが効かないからちゃんと選べって、メージンが言ってただろうが」
「違います……僕はもっと前から間違った。失敗した」
 違う?……どういう事だ。
「もっと、前って?」
「嘘を付き通せない」
 顔を上げた、なぜだろう。
 泣いてる奴の顔はこんな時、どうした事かドス黒い笑みを浮かべていたりする。
 いまいちその法則がよく分からない俺だ。
「もっともっと前から僕は、やり直したいと願っているんです。おかしな話です、僕はこの世界に来てそれを知ってしまった。仮想世界で、現実で望む事実を自覚するなんて……本当に、おかしな話です」
「……何の話だ?」

「戸籍上、女なんですよね僕」

 『戸籍上女』

 それはつまり……ユーステルみたいなのとは次元が一つ違うぞ。
 こっちではちゃんと男。なのに、精神的な本性が女。そして別の世界に女としての肉体をちゃんと持っている、正真正銘の独立した両性。



 オチとして。
 それはどうなんだろうなぁ。


 俺は惚け返す事も出来なかった。
 呆れていたけどなんかもう、ああ、もうどんな展開が来てもいいように心の準備が出来てたっていうか。
 流石にそこまでは予測できてなかったけど。

 俺は深く溜め息をつき、そして額に手を当てた。

「……つまり、こっちでは男なのに」
「ええ、現実では女」

 現実での出来事はリコレクトしても無駄だ。
 自力で思い出さなきゃいけない。
 でも、でも……なぁ。
 確かに整った顔だよなとは思ったが……これが女だとは全く、これっぽっちも認識できなかった俺は俺自身が呪わしくなった。
「それって、まさか、分かって無いの俺だけ?」
「いえ多分……ご存知なのは……アベルさんだけかと」

 そーいやあいつ、リアルでレッドのシャワー室覗いちゃって悲鳴上げてたよな。
 その意味が、これか。これなのか。

 脱力して俺は再びしゃがみこんでしまった。
 二人して白い砂の上にしゃがみ込み、盛大なため息を漏らしている。

「お前、それでまさか言わないよな」
「何をですか?」
 あ、惚けられちゃったな。
 自分から言う程俺は能天気ではない。ならいいんだ、と慌てて立ち上がりそっぽを向く。
 でもな、一応。言っとこう。
 そっぽを向いたまま、俺は告げた。

「俺はお前の事、大っ嫌いだからな」

 ……笑いやがるし。
 振り返ると、泣き笑いになっている。懸命に笑いを堪えて居やがる。
「なんだよ、そこ、笑う所か?」
「いえ、突然『好きです』とか言われる方がどん引きです」
「……この野郎」
 すげぇかわいくねぇなコイツ。
 まぁ、元からこーいうキャラな訳だが。
「……とにかくだ、素で性別不一致による違和感があったとしても。この世界にレッドっツーお前のアイコンを置いちまった以上、その責任はちゃんと果たせよな」
 腫らした目をこすり、レッドは困った様に笑う。
「僕はそれが嫌なんですよ?」
「ああ?」
「僕らは魔王討伐がお仕事で、レッドフラグの除去が職務です。貴方がその一つであると知っている以上、貴方を葬らないといけない。だから僕は魔王側についたんです。仲間である貴方に手を掛けるにはそういうお膳立てが必要です」
「あああ?」
 それって、やっぱり俺が嫌いな王道路線じゃねぇか?
 俺にとっては果てしなくどーでもいい展開を選んだ訳だな、コイツは。

 しかもお膳立てとしっかり自分で言いやがったよコイツ。

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