異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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6章  アイとユウキは……『世界を救う、はずだ』

書の4後半 断固拒否。『知ってるだろ?俺のセオリー無視至上主義』

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■書の4後半■ 断固拒否。 give a flat refusal

 こっちの世界では、生物というのは必ず三つの要素で成り立っているのだそうだ。
 まずは器だな、肉体である『物質』。それからその生物の意志、知性とも言う奴だ。ピンきりだがこれを『精神』と呼ぶ。それから『幽体』……理力とか理の事だ。理論法則属性などの目には見えない現象や反応をひっくるめたものの事だが、科学が信奉されているアッチの世界では、これは独立した概念ではなく基本的に物質に付随するものと考えられているな。
 宗教によっては精神に左右されるとも言われるが。

 しかし、コッチの世界では、理……見えない物事であるから『幽体』と呼ぶのだが、これは独立している。どっちかに依存するもんじゃない。それ単体で成り立つもの、という意味だ。
 物質、精神、どちらにも等しく『存在するもの』として『見えない存在』が信じられている訳だ。

 さて、生物は必ずこの三つがセットで無ければいけない。

 とすると、どれか一つ欠けてしまったらどうなるのかというと、それは生物とは呼ばれなくなる。
 どれか一つ掛けてるモノを、何が欠落しているかというのは無視して全部『死霊』と呼ぶのだ。
 ちなみに、二つ失った場合はこの世界では存在した事にならない。一つではただの概念でしかないからな、認識は不可能であると言われる。
 これはコッチの世界のお約束だ。

 『死霊』つーのはそういう根本的に違う存在なのだから、俺がもし死霊なら誰しもそうだと気が付くはずだ。俺だって自分で気が付くだろう、と思う。……自分が幽霊なのに気が付かない場合も、ホラーとかではあるのだろうがそこまで俺は鈍感だろうか?
 精神が無かったら自覚しないかもしれないけど、だとするならこの冒険の書を誰が語るんだよ?


 という事は『俺』というのは三つの物体のうち『精神』であるとも言えるだろう。
 つまり『俺』とはリアル-サトウハヤトの事な。サトウハヤトとしての意識が青旗なのだ。
 この度のログイン妨害騒動ではっきりした。
 肉体である物質に旗がついているのではない。
 旗が立つのは精神の方だ。フラグとは……あくまで意志を守っている。

 こちらの世界のアイコン、キャラクター、戦士ヤトには元々特殊な旗など立っていない。

 そこにそのキャラクターを演じるべく青い旗を立てた……いや、旗自身である『俺』が降り立つ。
 そんでその存在を乗っ取る。
 ……ちょっと言い方が悪いが別に、戦士ヤトの意識を蹴りだすワケではなくって、トビラを潜ってこちらに来た瞬間に『俺』は戦士ヤトになり、戦士ヤトは……俺になってる。
 精神的に融合する感じだな。だから、俺は戦士ヤトの記憶をリコレクトできる。

 ところが『俺』の意識がログアウトし、戦士ヤトがノーフラグになるとどうなるか?

 赤旗の感染に抵抗出来るかというとこれが、出来ない。
 なぜなら赤旗を無効化する青旗は、肉体である『物質』を保護するものではないからだ、と結べる訳だよ。
 守られているのはあくまで『精神』。

 戦士ヤトは死んだ。一般的には死んだと言うべき肉体の破壊が行われ、その代わりに何者かが戦士ヤトを乗っ取ってしまった。
 そして『俺』は、そんな置き換わってしまった別の何者かにログインし、再び戦士ヤトを演じている。


 それが現状だ。
 思い出した。
 剥がれ掛かった俺の意識は、赤旗への抵抗力を失って行く戦士ヤトの最期を思い出す事が出来る。
 死んでしまうアイコン。
 レッドが、俺の胸にねじ込んだ石の意味を俺は忘れていた。忘れさせられていた。
 今ようやく察する、その真意。あいつは俺を殺したいのではなく、俺を生かしたかったのだ。
 圧倒的な力と何とか均衡を保っていた『俺』が去れば、その力の侵攻は容赦なく俺の器を破壊してしまう事をレッドは悟ったに違いない。
 生物は構成されるどれかを失ったら死ぬ、すなわちキャラクターロストだ。精神が無事でも物質である肉体が無くなったら俺は二度とこの世界に戦士ヤトとしてログインできない。
 だから、ナーイアストの石を『俺』の代わりにと埋め込んだ。精神およびそのキャラクターを保護する青旗の代わりに、だな。代役を無事果たすのかどうか、そこは保障されていた事ではないから奴的には賭けに近い事だったろう。
 ……それで無事、戦士ヤトの死を回避させたのか?いいや、やっぱり俺は、一旦そこで死んだのだと思う。
 宿るべき精神が何か、別のものになっている事を察したレッドは……『俺』の意識が再びログインするまで……俺を氷漬けにして封じ込めたという訳か!
 1ヶ月もあればいずれ俺が、ブルーフラグのサトウハヤトが戻るだろうと見込んで、いずれ氷は溶けるように?


「……お前のお陰で助かったじゃねぇか、それなのになんでお前は」
 それでも魔王側に付くなどと言う。その真意は何なんだ。
「……簡単な理由です。貴方を生かしたかったからですよ。その為に僕は皆さんを裏切るしかなかった。……後悔はしていません、その件で責められても弁解はしません」
「いいんだよ、そんな事は」
 俺の一言は意外であったのか、レッドは少し眉を顰めた。
「どーせお前の事だ、何か考えがあっての事だろうってのは皆分かってるだろ。……誰一人欠けた訳でもねぇしな。で、俺を殺したいんだってな?そりゃまだ望んでる事か?別に魔王側に付いていても居なくても出来る事だとは思うが……」
「それは、貴方が死んでいた場合の話です。死んでいて、貴方が『貴方』ではなくなっていた場合の話です。でも今、貴方はちゃんと生きている」
 窓の前で浮かべる笑みは、心底嬉しそうに見える。
 俺がこの世界に生きている事がそんなに、嬉しいのだろうか?そして俺がこの世界で死んでいる事はどんなに……どんなに。

 共に死んでしまいたいと思う程に?

 俺は怪訝な顔を向けていただろう。奴が始めに俺に、望んだ言葉を思い出している。
 暗闇にぽっかりと浮かび上がる窓の外の空、異質な空間を一歩前へ踏み出す。
「生きてください、どうぞ僕になど構わず」
「そりゃ、そうするぜ?フツーに」
 折角生きてるんだしな。ま、ちょっと同居してるモノがアレだが。
「どうでしょうか?」
 レッドはすっと窓の横に避け、窓を手で差し示す。すると……景色が歪み、上下が逆転するような錯覚を引き起こす。
 違う、景色が空を見上げる形から地上を見下ろす視点に切り替わったのだ。
 ズームする、真っ白い世界、破壊された白い砂の景色の中にある瓦礫の山。その一角がさらに崩れて、暗い穴をあけているのが上から見上げると理解できる。
 穴の奥、地下へと視界が急降下する。

 俺達は今何処にいるんだ?まだ、俺はレッドの見せる幻の中にいるのか?

 その可能性が非常に高い。だけどそれでも騙されて、俺は目の前に飛び込んできた景色に動揺しレッドと窓の向こうを交互に見やった。
「……どういうつもりだ?」
「どうもこうも、見えている通りです」
 深い地下室に落ち込んで、倒れている4人と1匹。
「分かっているとは思いますが……貴方も含めて、僕が見せている幻の中にいます。彼らは今も必死に戦っているんですよ、幻の中でね」
 夢の中で夢を見る。変な話だ。だが入れ子構造にも気が付けずに騙される……人間の脳ってのはそんな事も出来るってんで凄いようだが……間抜けだとも言い換えられる気がするな。
「MFCシステムの応用ですね、僕が用意したステージの中に貴方達の意識を閉じ込めている訳です」
「俺は?」
「貴方はちゃんと僕の前に居ますよ、今はね。勿論意識は半分程こちらで握ってますけど。彼らもあの通り、地下室で幻夢に魘されています」
「……黒い怪物の死霊もあれ、幻か?」
「その通り。違和感があったでしょう?」
 違和感、何だろう。
 思い出してみて今気が付いた。どこかゲーム的な感覚で思い出せる。理由は……
「……匂いが無かった?」
 もちろん、そのように幻を見せられて脳が騙されていた俺達はそんな違和感すら感じる事が出来なかったのだろうが。
 今思い出すとその『経験』には匂いが無い。
 死体なんだから相当に臭くて吐きそうな程それが不快なはずなのに……なぜかそういう『経験』がすっぽりと無いのだ。

 景色が突然変わる。
 窓がはじけて、俺とレッドは白い砂に覆われた瓦礫の山の前に立っていた。

 これは幻ではないのか?それとも、現実に見間違う幻なのか。
 騙されているんだという前提の前では、現実などという言葉こそ幻の様に遠く感じる。
「貴方は言いましたね、僕の望みを語れ、と」
「……ああ」
 何をするつもりだと言うのだろう。
 俺は警戒してレッドを振り返る。
「そして僕の望みに妥協して、お付き合いいただけるともおっしゃった」
「確かに、言っちゃったな」
 今、ちょっと後悔してるけど。
「とんでもないお願いをされたら困るそうですけれど」
 うわ、嫌な予感。
 俺は思わずレッドに嫌な顔をして見せたが……奴はそんな俺を見て見ぬ振りをするように口元は邪悪に笑う。
 俺は溜め息を漏らし前髪を掻き揚げた。
 まぁどうせとんでもない事を言って俺を困らせるんだろうがとにかく、そのブラックな望みを聞かない事には始まらない。

 いいだろう言ってみろ。
 俺の心の準備は多分、出来てるぞ。
 うん、とにかく言え。言ってみやがれ。

「……僕は卑怯な魔導師です。正しいとは言えない手段でこの地位を築いた。不幸なのは誰も僕のこの嘘を見抜いてくれなかったと言う事です」
 紫色の魔導マントを翻して、レッドは眼鏡のブリッジを押し上げた。
「嘘?……お前は嘘を見抜いて欲しいのか」
「今更暴露してももうどうにもならないのですよ、誰も僕を裁けないのです。紫という地位はそういうもの。今更それが失敗であったなどと容易には認めない。僕は永遠に嘘を付いたまま生きなければいけない」

 永遠に、嘘を付いたまま。

 そのフレーズは何かに引っかかる。何だろう?
 ああ、ミスト王から聞いたあの説話か。恋をして報われず永遠に恋し続ける悲壮な『北神の恋』

 恋と嘘、それは全然違うものだけど、どちらも抱え続ける事はどこか後ろめたい。そんな思いを喚起させる。

「ですから、誰にも語る事ができずに居るのです。最後に僕の懺悔を聞いていただけませんか?」
「……それがお願いってんならお安い御用だが……いや、待て?最後?」
「ええ、最後です。僕か、貴方か……いずれにせよ」
 レッドはどこか苦笑気味に笑う。
「生きてください?貴方は生きたいのでしょう、でも僕は仕事上で言えば、存在が歪なまま生きている貴方を放置する事は出来ないのです。歪んでいるのは貴方だ、だから僕は本当はそうしたくはありませんが、貴方を殺さなければいけない」

 俺の存在が歪んでいる。
 そうだな、俺はそれを否定する言葉が無い。
 確かに俺は今生きている、一見普通だ。でも、本当はそうじゃない。
 俺の体から伸びる得体の知れない蔦。俺の中に俺ではない何かが居る。
 俺の肉体である『物質』と、融合しきれていない『精神』と、それに寄り添う『幽体』の本性は……歪だ。
 だからレッドの言っていることは至極まっとうな事に聞こえる。だけど、

「存在を賭して、貴方は僕と戦えますか?」
「正直、嫌だな」
 何が嫌って、レッドと戦うのが嫌というよりもむしろ、剣士である俺が魔導師に挑む愚行が嫌だな。
 それ、フツーに俺に勝ち目無いじゃん?
 まぁ、だから俺は死ぬんだとコイツは言う訳だろうが。
「……どうしてサシ勝負なんだよ」
「彼らに事情を説明するのが面倒なので」
 確かに。
 俺の事態を正しく理解しているのは今、俺とレッドだけである。
 まず連中には何が起こっているのかの説明を、一からからしなくちゃいけないだろう。
 そしてその上で、奴らがレッドと俺のどっちに付くのかが未知数だ。レッドにしてみりゃ、敵はこれ以上増やしたくないだろうから、事情を分かっている俺とサシ勝負を選んだというのは至極真っ当な理由に聞こえる。

 だが、本当にそれがお前の理由なのか?

「真面目にやってくださいね」
 そりゃ真面目にやるよ。
 俺だって易々死のうとは思わん。折角こうやって生きているんだ。こうなってしまった事情を理解せずして再び俺は、自分の命を軽く投げ出したりはしない。
 どうしてこんな事になったのか、俺はちゃんと納得して死ぬつもりだ。
 納得しないで未練たらたらで死んで、お前に死霊召還されて扱き使われるのは叶わんからな。
「ちゃんと戦わないと、」
 レッドが暗い笑みを浮かべて見やる先に新しい窓がある。
 その中で意識を失って倒れて居る4人と一匹が居る。彼らの倒れる床の隙間から唐突に氷の槍が突き出された。
 ……無防備な連中の命を奪うなど造作も無い事だ、と言いたいのか。人質をとられた訳だよつまり。
 俺はそれを見て、溜め息を漏らしてその場にしゃがみこんでしまった。
 フツーはそこでやる気になるのかもしれないが俺はなぁ、ひねくれ者なんだよ。そーいう事されると逆にテンションが下がるんだけどそのあたり、レッドさんはご理解頂けてない様で俺は残念でなりません。
 頭を抱える。
「あーあぁ、お前ホントに遠慮なく連中の事殺しちまいそうだしなぁ……。何でお前はそこまでして魔王側についてなきゃいけねぇんだよ。どうしてそこまで赤旗殲滅に躍起になるんだ?とりあえず俺、今まともじゃねぇかよ。今俺を殺さなきゃいけない状況か?理由を解明してからじゃ遅いのか?」
 俺はしゃがみ込んだままレッドを見上げた。
「死んだら、二度とこのキャラクターでこっちにログイン出来ないんだぞ?」
「死んだのにログインした貴方が言っても説得力無いですけどね」
「そういう都合をつけたのはお前だろうがよ、それが失敗だったってのか?もう一度やり直したって俺の状況は改善するわけじゃねぇんだぜ?そんな奇跡は何度も起きんだろ?」
「勿論です、起きなくて結構です」
 ああ、オッケー。

 分かった。唐突だが悟った。

 俺は顔を上げる。
 困った顔で笑っているレッドを見上げた。
 俺を殺すと言った言葉の、本当の意味を俺はようやく理解する。

「つまり、死にたいのはお前の方か」
「ええ、……そう言う事ですね」
 それをレッドは、やけにあっさり認めやがるし。

 俺は立ち上がり指を突き差し、力いっぱいに言ってやった。

「なら勝手に毒でも煽って死ね!崖から飛び降りて死ね!首括れ!頼むからテメェ一人でやれよ!そう言う事はッ!」
 流石に驚いてくれたのか、レッドは少し身を引きながら呟く。
「それが出来れば苦労はしないのですが」
 そしてすっと、視線を遠くに投げる。
「あぁ?自殺できねぇって言うのか?だから殺してくれ?……お前な!だったらもっと殺したがってる人にそういう事をお願いしろよ!いるから、そう云うイカれた野郎は多分どっかにいるから!」
「そうですね、そうかもしれません」
 同意すんな!
 同意すんならそれを俺に頼むな!
 そんな俺の非難の視線を受けて、レッドは苦笑を向ける。
「頼む人を間違えたのかもしれませんねぇ」
「ばーか、今更悟るな」
「では、僕が死ぬ為に行動する事を貴方は放置してくれるのですか?」
 む、それは……。
 俺は目を眇めて一瞬躊躇。
「……死んだら、お前はこっちのキャラクターを失っちまうんだぞ?」
「ですから」
 レッドは目を閉じる。その言葉の続きを言えないのか口を噤む。
「……何?もしかして、お前……」
「失意の魔導師は魔導都市に居る事が苦痛になり逃げ出したのです。嘘を永遠に胸にしまい込む事が嫌で、どうすればそれを吐き出して、抱えた苦痛から逃れられるのだろう、と」

 それは恐らく、レッドが背負った重い背景。
 俺達全員が背負ってしまった、経験値の上昇にともない深く重くなる過去の出来事。

「魔王を目指したのです。敵わないと知りつつ。そしてあわよくばその立場に混じろうと。そうして粛清されてしまえばきっと、楽であろうと。……それが僕の背負う背景」
 バカか。と罵ってやりたいが、お約束はきっちり守ると宣言していたレッドだ、そこまでパーフェクトにそれっぽいキャラ立てるとか……あ、やっぱりバカか。
 俺も人の事は言えない所、あるけどな。
 再び俺は、額をを押さえていた。

 死か。
 それとも?

 俺はレッドが何を目指し魔王側へ寝返ったのか、その意図を、本当の意味を手繰り寄せる。
 こいつにとって……俺を生かすも、殺すも、全て自分の望みの果てなのか。
 死にたいと願う果ての行為か。

「お前、それ……職務放棄だ」

 赤旗の除去、ひいては魔王八逆星の殲滅。
 そんな事、お前にとってはどうでもいいってのかよ。
 それが俺達の仕事で、俺達はその為にこの世界に居るというのに……!

 死にたい。
 そういうキャラクタに掛けた呪われた望みの為だけにお前は今、ここに立つのか。

「ええ、そうなのです」

 なぜそこで嬉しそうに笑う。
 それが事実で、それが真実で。それを暴かれる事がそんなにお前には嬉しいのか。

 嘘ばかり並べやがって、ここまでお前はどれだけの嘘をついた?その癖嘘を暴いて欲しい、だと?
 嘘で塗り固められた自分が嫌ならお前は、嘘など付かなければいいじゃないか。

「……お前、お前が俺に気づかせたんだぞ?体裁や一般論は置いておいて、自分の心に素直になればいいだろって……お前が俺に、諭した言葉じゃないか!どうしてお前は嘘ばっかり言う。そんなんじゃ俺はお前の何も信じられないじゃねぇか。……素直じゃねぇんだよ、素直になれよ」
「僕は今物凄く、素直になって望みを暴露したのですが」
「どこが素直だ!」
 俺は一歩前に踏み出して手を振り払う。
「違う、それはお前の手段だ!その先があるだろう?死ぬ事を望むのは果てじゃない、お前は……やり直したいだけだろうが!」
「……ですから、そういう事ですよ」
 思わず拍子抜けしてしまった。
 思い切って暴露したつもりだったが、圧倒的に俺より聡い奴はちゃんと分かっている。

 知ってるか?俺は少なからず知っている。
 分かっててやる奴は、どうしようもない『アホ』か『悪』の二択なんである。

 こいつは圧倒的な悪である事を選んだという事か。
 自分本位に、悪の道を突き進んだ訳か。
「死んで、やり直したいだと?バカかッ!死んだら終わりだ、やり直しなんぞきくかッ!ゲームじゃねぇんだ!」
「ゲームですよ」
「確かにゲームだ、でもそういう遊び方は出来ないんだよこのゲームはッ!」
「ええ、その通りですね」
 この野郎、なんでも肯定すんじゃねぇ!少しは俺の言葉に驚いたらどうなんだ?それとも俺のセリフは全部想定内か?
 ならどうして、そこまで分かっていて現状を素直に受け入れない。
 やり直す事なんてできねぇんだよ人生。だから、どんなんであれ、受け入れるしかねぇんだろうが。
 なんでこんな事を俺は、異世界で喚かなきゃいけんぇんだよ!

 リアルの自分が脳裏にチラついて物凄く、情けない気分になってきやがる、畜生ッ!

 俺はまるで、自分自身に向かって叫んでいる気分になっていた。
 人生はリセット出来ない。当たり前だ。
 人生はゲームではない。当たり前だ!

 なんでそんな当たり前の事をこんな、異世界で、現実とは全然関係無い所で再確認しなきゃいけないのだ。
 それともアレか?そういう当たり前の事は、中々現実ではそうだと理解しないとでも言うのか。
 当たり前なのにそうだと知る事が出来ないと言うのか。
 現実ではない事、仮想の体験が現実を保証する。
 仮想が現実を裏付ける、なんなんだこの関係は。

 何かそれは間違ってないか?
 それとも、何もそれは間違っていないのか?


 海を見た。
 モニターの向こうの美しい海を見て、これが海だと信じている。実際に目にしたヘドロにまみれた黒い海から目を逸らす、こんなのは海じゃない。
 海じゃない?
 仮想に裏付けされた現実が真?
 現実が突きつける真は嘘?

 逆転した価値観に人はいつでも騙されている。
 嘘で固められた世界で、騙されて生きている。

 でもそれは、確かに疲れるし、確かに空しいけどそれだけだ。
 何も死のうと思う程どん底じゃない。


「お前は……生きなきゃいけない」
「……生きたくないのです、僕も『レッド』も。僕らの望みが一致した今、僕らはその望みを叶えようと足掻く。知っていますか、世界を破壊しようと願う嫌われ者の望みを」
 知っている。
 ああ、それは良くある話で、よくあるシナリオで。王道嫌いの俺が大っ嫌いな展開で。
 その実、王道主義のお前が大好きな展開か。

「嫌だ」

 俺は、その展開は断固、拒否する!
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