異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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6章  アイとユウキは……『世界を救う、はずだ』

書の8後半 新しい船出『冒険はまだ始まったばかりっぽい』

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■書の8後半■ 新しい船出 TO BE CONTINUE

 アインは小さな手で頭を抱えるようにして呟いた。
「あたし、その後もっと迷っちゃったの」
「……君が、察知した事を僕らに全部伝えなかったのは」
 アインは、ナッツに自分が察知した情報を正しく伝えなかったんだな。
 匂いである程度、世界を認識しているアインは分かっていた筈だ。突然攻撃してきたのがレッドだと事前に知っていれば色々、展開は変わったかもしれないがアインは言えなかったんだな。『それ』に対して口を閉ざしてしまった……迷ってしまったから、か。
「うん、そう。あたし……自分の嗅覚を疑っちゃってた」
 見えている世界が違う、それをどこまで話していいのか迷う。……お前が俺に漏らした言葉の本当の意味はこれか。
 ほぼ全員、攻撃を仕掛けてきたのがレッドだという事に、術に嵌まる直前まで気が付いていなかったのだが……。実はアインだけがかなりの高確率……というよりアタリだった訳だけど……それがレッドであると気が付いていたのだ。
 所が、それを彼女は疑った。
 自分の嗅覚、彼女にとって俺の目や耳と等しく確実に世界を認識しているはずの器官から齎される情報が『真実』なのかどうか、それを信じる事が出来なかったのだと言っている。
 信じたくなかった、というのが大きく占めているのかもしれない。とにかく……アインは考えてみたがその時の状況、レッドが攻撃をしてくるという事態を上手く理解出来なかったのだ。
 ありえない事だと信じたからこそ、齎されている事実の方を疑った。人間がよくやらかす致命的なミスじゃねぇか。
「転移門で何かが転送されたのを魔法探知で、ナッツが察知した訳よ。……レッドの作った門を通ったみたいから、当然とアンタとレッドだろうって話になったわ」
「それで、カルケードに逃げようって話になった訳だな」
 そう言う事だと頷いて一同、俺に答える。
「で、アインは……攻撃者がレッドなのかどうか確かめようとして、中途脱落か」
「うん……そんな感じ」
 アインは、自分達を追いかけてきている者が『レッド』であるという可能性をナッツ達に一言も告げられずに……まぁ多分、一人で飛び出して行ってしまったマツナギが心配だから残るとか何とか言って一人、引き返したって所だろう。
 アインなら嗅覚で人の居場所がわかるからな。よっぽど離れていない限りはぐれるって事は無い。それで、ナッツ達もそれを軽く了承しちまったに違いない。
「でもな……なんか、いつもと様子が違うような気がしてなぁ」
 空になったコップを置いてテリーが首の後ろを撫でている。
「気になっちまって……。移動速度で言えば俺はお荷物だしな、フェイアーンでナッツらを先に行かせて置いて……悪い。俺はそっから、一人でタトラメルツに引き返しちまってた」
「テリー」
「黙って待ってるなんてガラじゃねぇんだよ」
 憮然と腕を組んでいる。それから、テリーは思い出したようにポケットを弄って……小さな赤いものを指で弾く。
 俺は飛んで来たものを片手で掴身み取った。
「ん……?鱗か……」
 赤い色のこれは、鱗か。間違いなく、アインの鱗である。
「思い出した。そいつを届ける途中で俺もレッドの術中に嵌まった」
「届けるって、誰に」
「誰でも良かった、俺も……貰った時にはその意味までピンと来てなくてな。意思が上手く汲めなくて……悪かったな」
「ううん、元を正せばあたしが一言、皆にちゃんと思った事を言っていればこんなややこしい事にはならなかったと思う」
 と言う訳で、すっかり仲直りした一人と一匹でありやがります。……くそぅ、ちょっとジェラシーな俺。
「メッセージだったんだ」
「そういう事」
 メッセージ?俺とアベルが同時に怪訝な顔をしたんだろう。
 ナッツが苦笑したが、へいへい、どうせ俺らはおバカさんですよ。と言うわけで、説明ヨロシク……。
「アインは……引き返して来たテリーと会った時はもう、まともに喋れない状況になってたんだね」
 こくんと小竜は頷いた。
「レッドから逃げている途中テリーと会ったの。逃げろって、他にも……伝えたい事が沢山あったのにあたし、噛み付く様な事しか出来なかった。伝えたい事が言葉に出せなくて……目に付いた『赤いもの』が自分の鱗しかなかったの」
 ああ!把握!
 赤い鱗を示して『レッド』って事をアインは伝えたかった訳か!意図する事がその時、何か事情で言葉に出来ず、アインは赤いものを渡す事で相手に意味を伝えようとしたんだな。
 そういやアインさん、すっかり言葉を忘れた野生ドラゴンに戻ってたらしいもんな。その封印魔法、もといログイン妨害魔法の進行途中だったのかもしれない。
「ま、その後はお前もご存知の通りだ」
 テリーも同じく、レッドからログイン妨害を喰らってなんか良く分からんバーサク系の魔法が掛けられた様になってしまい……暴れまわっていた所をカオスから捕縛され、牢屋にぶち込まれていた……と。

 その間もナッツとアベルは南に逃げつづけ、レッドはそれを追いかけた。
 その後の展開はナッツが前に俺に説明した通りか。

「……で、何で俺達を追いまわした」
 テリーからやや睨まれたレッドは、しかし臆する事無くそれを受け止めて言った。
「当然と、八逆星からの信頼を得る為です」
「お前も必死だって訳だ。アーティフィカル・ゴーストとやらが居るもんな」
「……まぁ、それは僕の落ち度の所為なので、あなた方を攻撃した事には関係ありません」
 あっさりばっさり切り捨てて、レッドは例によって眼鏡のブリッジを押し上げた。
「魔王側に付くと言った以上、それなりの誠意を見せておかなければいけませんから」
「それで、俺らを殺さなかった理由は?」
 記憶喪失やら、精神剥奪やら、そんな厄介な魔法なんぞ使わずに一撃雷を落とせば人は死ぬ。明らかにそっちの方が楽であるはずだからな。
 八逆星から具体的に命令された内容は確か、足止めをしろ……だったか。その方法まで連中は指定しなかったのか。もしかすれば俺みたいに何か、サンプルとして有用性を見出されてて殺すな、と言われていた可能性も無きにしも非ず、な訳だけど。
 確かに、そこらへんは疑問の一つだ。
 何しろその後、俺を脅す時ちゃんと『戦わないと仲間を殺します』的な事を嘯いてるし……。
 詳しい、レッドの思惑は聞いておきたい所だよな、嘘を付かずに事を話すかどうかは別として。
「……僕ね、殺せないんですよ」
『は?』
 俺含む、多くの声が重なった。
「弱視しかりですが、不都合な設定をすればするだけ能力に経験値を消費出来るものですから。――僕はね『制約』で人の命を奪えないという設定持ちなんです」
 俺は頭を抑えた。
 ちょっと待て、俺、それ初めて聞いたんだけど?
「いや、それは……ダウトだろ?」
「判定する人はいませんけどね」
 俺の小さな『それは嘘だろう貴様』という呟きに対してレッドは笑いながら肩を竦めた。
「まぁ、とにかくあの流れでこの話を振ったら、間違いなく貴方は『そんなのは嘘だ!』と言って、僕の話をまともに聞かずにいたでしょう。ならあえて説明する必要は無いかと」
 あの流れとは、俺とレッドの一騎打ちになってそうでなってない、タトラメルツでのやり取りの事だな。
「大体設定として抱えるトラウマの1つです、ほいほい掘り返して語れるなら僕は心の傷として抱えてません」
「……だから、言わなかったって?」
「ま、ホントか嘘かはどうだっていいじゃありませんか。僕は嘘吐きキャラですし」
 やや優越的に笑って肩をすくめたレッド。
 ……この野郎。
 思いっきり開き直りやがりやがったな。
「うーん……なんでそんなに弱点を抱え込んでまで経験値を稼いでおく必要があるんだ?」
 ナッツの疑問に俺は緊張を取り戻す。俺の事じゃないのに、それがレッドの『核心』に触れる事なもんで……。
 どう反応するのか、気になる所だ。
「実は、一つ経験値消費の極めて激しい設定がありまして」
「何を取ったんだよ」
「それは、」
 どうする、レッド。
 俺とアベルが固唾を飲んで見守る中……事もあろうかレッドは指を揺らして腹黒く笑った。

「ひ み つ です」

 ぐわ、すげぇッ、今俺…… ……
 すんげぇ、こいつの真実を 暴 露 し た い 気分。

 思わず呪わしい顔で睨んでいたらしい。全員が俺を見ている。
「どうしたんだい?」
 マツナギから心配されて、ちょっと悪意あって爽やかに言ってやった。
「いや……やっぱ俺、こいつの事大っ嫌いだわーとか思って」
「何かまた盛大な嘘でもかまされてたんだろ」
 他人事みたいに言うテリー。ナッツも同じ感覚だな、苦笑しながら言った。
「ははは、まぁ……とりあえず冒険に支障が無ければいいじゃないか」

 ばっきゃろうお前ら。
 過去完了系は『支障』じゃねぇのかお前ら!?
 とっくの昔に支障来してんじゃねぇかよ!

 ああ、いいもんね。精々騙されているがいいさ!嘘付きキャラならとことん騙せと言ったのは確かに、俺だが?

 まさか、それがこんなに腹が立つとは思わなんだ!

「何よ、何苛々してんの?」
「……何でかムショーにムカつくんだよな、アイツの笑み」
 アベルはどうでもいい、というように肩を竦めている。
「まぁ、とにかく。トラウマがあって人を殺せないという事はちゃんと、八逆星側にも伝えてありますので……そのあたりは皆さんも是非ご考慮お願いしますね」
「先方もほとんど信じてないと思うけど」
「僕にしてみれば、判断を一瞬でも迷わせる事が出来れば十分なのです」
 しれっと言うよなー?ナッツが苦笑してやがるよ。
「嘘であれ真実であれ……。僕には貴方がたを殺す事など出来ないのですよ。でもこうやって今、再び顔を合わせ僕がこの場に迎え入れられている……そんな未来までは描く事は出来ませんでしたけど」
「……本気で八逆星に付くつもりだったのか?」
「やっぱりある程度の覚悟はしておかないと。いずれ裏切るにしたって、ちゃんと刺さり込んでおかないとまずいでしょう?」
 ホントに、にこやかに笑いながら言うよなー?
「ですから」
 レッドは笑う。……どす黒く?いや、……なぜか今奴が浮かべているのは爽やかな方。
「今後はちゃんと頭の隅に置いておいてくださいね?僕が、どっち付かずのコウモリキャラであるかもしれない、という可能性」
「仲間迷わせてどうすんのよ」
「そうだそうだ」
 言ってやれアベル。
「なら、どうぞ信じてください」
 ふっと目を閉じてレッドは言った。
「僕は信じてくれた方に味方しましょう。疑いを向けられたまま仲間などと言われるのはやっぱり、面白くないですから」
 俺は苦笑する。本当にコイツは素直じゃねぇ。だけど、それなら俺等に勝機アリだ。
 信じ抜くなら俺は、自信ある。俺、そういうキャラだもん。

 リアルーサトウハヤトから引っ張り込んでる俺の特性が関連しているな。情けないからあまり、人には言えないんだけど。
 俺は、人が怖いんだ。人から裏切られて、嫌われるのが怖い。ウザい奴と思われるのがたまらないんだ、知らない所で笑われるのが我慢ならないんだ。
 他人の視線が気になって仕方がない。誰も俺なんか見ていないと知っているのに、どうしてもそのように自分を騙しきる事が出来ない。
 俺は、どうやったら嫌われるのか知っている。
 知っているのに俺は自分から嫌われるような事をやっちまう事がある。そんな自分に当然呆れるんだけれどリアル、どうしてもその悪い癖が治せない。
 裏切っちゃいけないんだ。相手の信頼を裏切るような事はしちゃいけないんだよ。そんな事したら嫌われて当然だ。
 だから俺は、どうすれば良いのか分かっている。信じればいいんだ。相手の信頼を失わない為に俺も、他人を信じなけりゃいけない。
 でも疑っちまう、些細な事で不信に陥って逃げちまう。

 出来ない。どうしてもリアルーサトウハヤトでは信じる事が出来ないんだ。
 バーチャルでは出来る事がリアルで出来ない。まぁ、当たり前と言えば当たり前であるような気もする。でもな、この世界はリアルで出来ない事が出来るバーチャルなんだよ。とことんリアルな世界って意味で、だな。
 限りなく現実に近い仮想現実。違いは些細なのだがあまりにも隔たっている二つの世界。その両方に属していながら、同じ振る舞いが出来るとは限らない。
 人間ってのはなんて不器用な生き物だろう。いや、不器用なのは俺だけか?
 ともかくこの仮想異世界でなら『出来る』っつーなら俺は、信じる事をやり遂げたい。
 戦士ヤトは本性の俺とは比較できないくらい強い、俺自身でありながら本当にそう思う。
 俺なら出来る。
 そうしたいと願う『仮想』が真であるこの世界でなら、俺は。

「僕は、嘘であれ真実であれ……信じてくれる人が欲しかったのかもしれない」
「なる程、このバカなら誰でも彼でも安易に信じるとか言いそうなもんよね」
「まぁ、僕としてはそれでもいいんですよ。安っぽくても全然問題ありませんから」
「どーせ俺の言葉は安っぽいですよ!」

 一瞬シリアスに考えた俺だったが途端、見事に脱線して倒れました。
 まぁその後なんとかナッツが場を取り持って、復旧してくれたと思いねぇ。

「レッドは、ヤトに対してナーイアストの石を……デバイスツールを試したんじゃないのか?」
「いえ、未設置だとメージンからコメントを頂いていましたので恐らく、未完成であろうと思っていました。ですから、僕は別の意図もあってヤトに石を預けたのです」
 流石はレッド、その辺りはしっかり予測していたかぁと、ナッツが唸っている。
「とにかく、その意図とやらをさっさと説明しろ。そこが問題だろうが」
 俺は不機嫌に腕を組んで顎をしゃくる。
「あの時、貴方の意識は殆ど無かったようですね」
「……ああ……。記憶が殆ど無いって事は多分、そう言うことだろうと思うぜ」
「誰が、貴方を突き動かしているんでしょう?」
「戦士なヤトだろ?」
「純粋な殺意を抱いた訳ですか」
「……」
 ツッコミを入れられなくなって黙った。
 純粋な殺意、それが、タトラメルツを3分の1をついでに消し去った。
「誰に向けた殺意であったのか、貴方は覚えていますか?」
「覚えてる」
 はっきりと答えて俺は顔を上げた。
「何度も頭の中で唱えてたのさ。何があっても絶対に魔王八逆星には組しない、お前らは俺が殺す、ってな」
「つまり、それが」
「だろうな、それが強調されてああなった。拒絶する反応が全部殺意に置き換わってた。……どうやってそんな俺を止めた?」
「ギルと戦ったのを覚えていない?」
「中途半端だな……何でだろう、気がついたら剣振り回してたって感じだった。……何かに縛り付けられているような錯覚があってそれで、上手く動けなくって」
 俺は必死に記憶をリコレクトしようと天井を見上げる。
 青白く発光する巨大な剣を振りかぶり、ギルの一撃を往なす。全部捌けなかったのは何故だろう?
 ……俺は、そこから動けなかったからだ、と思い出す。
「お前の声が何か、聞こえていたような……」
「ああ」
 感嘆の溜め息を漏らしてレッドは苦笑した。
「覚えていないのですね」
「……みたいだな」
 何を思い出せと促されているのか、それすら俺には判らない。
「僕を背後に庇っていたのですよ」
 なる、ほど。
 全く意識してなかったけど、俺が何かに縛られるように感じてそこから動けなかったのは……。
 ……そういう事か。
「ギルの剣が俺の体を抉ったな」
「覚えています」
「その時、俺も一撃あいつに入れた。それで左肩から上を吹き飛ばしてやった」
「……ええ」
「そっから俺は覚えてない」
「蔦が、」
 レッドは言葉を切ったが……それで、大体俺に起こった変化が何であったのか俺を含めて全員察しただろう。
 蔦。俺の体の中から生えてくる謎の蔦植物が、俺が負った傷を修復しようとして這い出したってんだろう。
「……酷かったのですよ」
「何が?」
「貴方、貴方が受けた傷の深さがどれ程なのか、それすら覚えていないのですか?」

 ギルの剣が俺を抉った。
 文字通りだ。
 抉り取った。
 左腕から肩をごっそり。

「!?」
 俺は幻覚的に痛みを思い出し、思わず左肩を抑えていた。ばくばくと心臓が早く動き出し、脂汗が吹き出てくる。
「ヤト?」
「……う、ちょっと待て、……ぐぅ……ッ」
 やべぇ、吐き気がする。
 途端えずいてしまい慌てて口を抑えたら……テリーの奴、準備いいでやんの。多分自分用だろうが、ゲロ袋差し出して来た。
 今は迷っている場合ではない、俺はそれを引っ手繰って背後を向き、吐いた。
 断続的に内臓が顫動しありえない程の痛みを『リコレクト』した脳が、それを全て処理しきれずに混乱したみたいな感じだろうか?
 内容物をひたすら吐き戻しながら、俺はなぜか冷静にそんな事を思っていたり。
 気が付いたら誰かが背中をさすっている。
「……悪い……」
「誰か、水持ってきて」
 声から察するにナッツか。うう、いつもすまんのぅ。
「すいません……思い出させてしまったみたいで」
 今更謝られたって、お前の『すいません』は白々しいんだよッ……たく。
 ……俺は差し出されたタオルで口を拭い、口元に笑みを浮かべていた。
「おかげ様だ、すっきりしたぜ」
「……ヤト」
「そうだ、あんなもんじゃなかったと思っていた」
 アベルが水を持って戻ってきた。俺は差し出されたコップを素直に受け取り、飲み干して再びタオルで口を拭う。
「俺は何回殺された?」

 倒れては起き上がり、その都度突き刺され、切り刻まれる。
 しまいにはすぐに立ち上がれなくなった。
 情けない、相手に一撃入れちまったばっかりに、俺は錯乱した相手から何度も半殺しにされるハメになったんだ。
 幸いレッドフラグによって齎された謎の『力』は、オレという形を全力で維持した。その力があったから俺は何とか今、ここにいる。

「……お前、庇ったんだろう」
「……え?」
「すっとぼけんな。お前は俺を庇う為に……」

 魔王側に寝返るハメになったな?

「そうなのか?」
「……さぁ、どうでしょう」
 しかし、あくまで白を切るつもりか。レッドは例の黒い笑みを浮かべて誤魔化し通すつもりのようだ。

 それは、レッドしか知らない事。それをレッドが語りたくないと詭弁で誤魔化すなら、それまでの事。
 でも例えばだ。あくまで例え話だぞ?

 コイツは目の前で知り合いがズタボロにされていくのを黙って見ていられず、庇って命乞いをしてしまったとする。
 そんな事をするようなキャラじゃなかろうに、などと思っていたにもかかわらず、だ。
 それでも庇ってしまった。ともすれば……。
 それは自分のキャラクターとして正しいのか、それとも間違っているのか、などと。
 レッドの奴は真面目に考え込んでドツボにはまってそうだよな。
 自分の事だから尚更、自分でも理解出来ていない行動を疑問に思って、それはどういう事だろうって無駄に考え込んでしまったのかもしれない。

 自分の気持ちの本当はドレで、何がウソなのか。
 分からなくなったと言った、レッドのその言葉は本当なのだろうなと思う、俺だ。

「ま、いいさ。どっちでも……とにかく、それで俺の命を繋ぐ怪物を石で押さえ込み、その上氷漬けにして南国に送ったってか」
「……いえ、嘘つきました」
 レッドはつっと眼鏡を押し上げた。
 おお?一瞬スルーする所だった。こいつ、今自分から嘘ついたって言ったか?
「何?」
「貴方が生きていたのはまったくの偶然です」
「……何だと?」
「……僕は、ただ八逆星に石を渡したくなかっただけです」
 そう言ってレッドはゆっくり右手を出し、ゆっくり開く。
 その手の中にある、見た覚えの在る結晶体。
「……いや、これは……」
「その通り。これはただの英石。今僕が魔法で構築したものです」
 つまりニセモノって事だな。何で偽って見てすぐわかるかって、そりゃ……俺らはフラグが見えるからな。デバイスツールには旗は立たないが、その代り『それ』と分かる、不思議な感覚で『見える』。
「騙し通せるとは思っていませんでしたが……相手の視界から届かない場所に石を隠さなければと思いまして」
「はぁッ?お前、それで俺に、石……」
「ええ……目の前で激しい再生を行う貴方を見ていて……今石を中に入れてしまえばそのまま傷が塞がり……貴方の中に隠せると思いまして。そのまま貴方を南国に送ってしまえば……と」
 こいつは…… ……
 どこまでこの俺にがっかりな気分を叩きつければ気が済むんだろうなぁ?ああッ?
「なるほどな、それでアーティフィカル・ゴーストって運びか」
 テリーの低い言葉にレッドは苦笑を浮かべた。
 俺を氷付けにして、逃がす約束はなんとか取り付けたんだろう。それでいて、要求されたんであろうナーイアストの石については……ニセモノを渡してごまかしたという事か。
 さすがの連中も、堂々とニセモノを渡すとはその時は思わなかったのか……一時まんまと騙されたんだろうな。で、当然だがすぐばれてしまって……レッドはそれ相応の報いを受ける羽目になったー……ってか?

 その場をなんとか回避するために……。

 レッドはアーティフィカル・ゴーストという方法を編み出して自分に科した。
 八逆星に、自分の命を握らせやがった。

 ところがそれさえも、奴が自分自身でさえ『殺せない』という制約を突破するための、死ぬためのシナリオ。

「ええまぁ……そうですね。でもそれはいいんです、石を隠してヤトを隔離するには嘘をついて相手を騙しでもしなければ無理でしたし。そのために皆さんを攻撃しなければいけなかったと……言っても、信用が無いのなら信用しなくてもいいですし」
「ばぁか」
 テリーから頭をはたかれ、レッドはずれた眼鏡を治してうつむいた。
 それは、許されているという事だ。
 今更卑屈になるな、と言う意味だというのは俺にも判る。
「蝕まれるのは……痛いのでしょう?」
 ふっと、レッドから聞かれた言葉に俺はため息を漏らす。
 当たり前だお前、得体の知れないものが身体中這い回る感覚だけでもう、アレだ。
 大人しく死んでいれば確かに楽なんだけどな、撒き戻してもう一度痛みを味わいながら蘇生させられる、たまったもんじゃねぇよ。でもな、俺はそんな辛みを素直に言えない。
「生きてるなら痛いのは、しかたねぇよ」
 気楽に笑う。なんたって、この『ゲーム』には全てある。体の痛みも、心の痛みも全部あるんだ。
 その痛みは今や、お前も身に沁みてんだろ?

 赤旗に肉体から蝕まれていく青旗キャラである俺達。

 やってらんねぇ、感染は絶対無いって言ったじゃん。まぁ、あくまでこっちの世界の『肉体』にしか感染しないし、俺が赤い旗を現実世界にお持ち帰りする訳じゃぁ無いけどな。
 ログアウト中の、ノーフラグ状態で干渉された俺と……。
 青旗なのに、実質赤旗を保持する方法を生み出して実践させられてしまっているレッド。

 とにかく、この爆弾をなんとかしないと。バグ、虫だなんて可愛いもんじゃねぇ、時限核弾頭なんだよこれ。
 ヘタすりゃヘタな事になる。
 世界がぶっ壊れるんだ。

 その、爆弾の所為で。

 デバイスツーツでリセットできるものだといいがなぁ。とにかく今は希望的にそう呟くしかない。
 白旗が、どんだけ神なツールになるかによる訳だな。

 幸い……それでも俺は楽天的に振る舞う事が出来る。
 それは、俺等が軽々しく命を落とせる『勇者』だからだ。
 この世界は俺達にとってゲームで、手軽とは言えないけれど……コンティニュー、すなわちやり直しが出来ない訳じゃない。
 俺は死ぬけど『俺』まで死ぬ訳じゃない。故に許されている気軽さがある。
 そんなゲームの仕方はどうよ?という、根気だけで俺らはゲームを続けるてる訳だ。

 悪くない、ゲームとしてはアレだ、破綻している事は宣告承知なんだ。バグゲーム承知で続きをやってる。
 世界に騙されている……だからこそ俺達は、前に進めるんだぜ。

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