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6章 アイとユウキは……『世界を救う、はずだ』
書の8前半 新しい船出『冒険はまだ始まったばかりっぽい』
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■書の8前半■ 新しい船出 TO BE CONTINUE
赤い旗を立てた連中の中には、赤い旗を相手に感染させる『ホスト』ってのが居る。実際、末端で感染力が無い奴の割合が多く、魔王八逆星と呼ばれる連中以外のホストは稀であるようだ。今の所南国カルケード軍に紛れ込んでいた蛇女以外見たことがない。
レッドフラグは何をもってして感染していくか?
思い出せ、南国で醜い怪物に変わり果てたロッダ王妃を。
魔王八逆星であったアイジャンの血を飲み干して、醜い怪物に姿を変えた王妃。
血だ、という判断は当たっている。だがそれだけでは百点満点の花丸はもらえない。
別に血じゃなくったっていいんだよ。何だっていいんだ、血に順ずる体液なんてのはもっと他にも色々あるもんだぜ?あえて俺は多くは言わんがなッ!
だがそれではナドゥ曰く『効率が悪い』んだそうだ。
そんな事を俺は思い出す。
だから、俺は静脈注射で精度向上させたという精製薬品をぶち込まれた。でなきゃお前、健全とは言いがたい展開になってた可能性があるぜ?そんなんなってたら流石の俺でもマジ泣きしそうだよホント。
ギルの奴は、ナドゥもといリュステルからお墨付きもらってシーミリオン国を占拠しやがっていた。
国の中枢を抑えて、好き勝手やって良いって言われたんだろうな。
つまり、リュステルからその『中枢』とやらをを壊してしまうように仕向けられたんだろう。
ギルもギルでそれを承知して……好きなように好きなだけ、シーミリオンの中枢、後宮の……女を根絶やしにする勢いで蹂躙したって訳だ。
あの人を甚振るのが趣味と言って憚らない、好色そうな男は実の所……。
もう、一人の女性も愛せない体なんだよ。
愛した途端に壊すんだ。まぁ、愛して無くっても壊すんだけどな。
壊す意図が無くっても、絶対殺してしまうだろう。というか、殺すだなんて表現は生ぬるい。壊すんだ、破壊するというのが一番しっくり来る。
レッドフラグの、ホストとしての力が強すぎるのだろう事はよっく、理解できた。させられた、とも言う。
まともに相手が出来るのは同類くらいだろう。つまり、同じ八逆星で赤旗立ててるストアとか以外は、例外無くぶっ壊す。
あ~……だからあいつらいちゃついてたんだな~と、俺は遠い目。
あの野郎……一夜一人とシーミリオンの後宮の奴らを食い殺したんだ。
中枢だけが腐敗していて、大事な所だからとしっかり守られている所を内側から食い破ったって事だな、話を聞くにシーミリオンのエラい人達は魔王八逆星の占拠に伴いほぼすべて、その後宮に閉じ込められていたらしいじゃねぇか。
逃げ出せたのはユーステルとキリュウ、そしてごく一部だけだったのだって全部、リュステルの計算の内なのだろう。
「本当に……本当に無傷なのか?お前の国」
でもやっぱり、強がってるんじゃねぇかという懸念はあって俺もそう聞きなおしていた。
外見上キリュウは伏せ気味だった顔を上げる。
「国民達に被害はありません。もちろん、政治を預かる者達も同じ様にシーミリオン国の民に違いはありませんが……私には改革する力は無い。リュステルは知っていたのかもしれません。シーミリオンを海中に適応するように改変させるだけでは『変えられない』事も」
毒をもって毒を制したって事か。
はッ、あのおっさんも食わせもんだな。一方で八逆星を制御してなにやらやってるのに、こっそり自分の国に気を回してみたり。
「だったら別に、俺らのお陰じゃねぇんじゃねぇのか?一連はやっぱりナドゥの……リュステルの采配だろう?」
「いえ、……去り際にギルから直接言われましたよ。奴らに嗅ぎつけられてもうここは使い物にならないから返してやる。奴ら……ヤトさん達に感謝するのだな、と」
もし、俺がギルに致命傷を与えていなかったらどうなっただろう?
というか俺が、トビラを開いて。
魔王ギガースに拮抗したら、でなければ完全に奴らに飲み込まれていたら。
シーミリオン国は開放されていただろうか?それとも占領が続いただろうか?
俺は何時しかどんな顔をすりゃいいのか分からなくなって無言で、テーブルの上で手を組んでいた。
俺のお陰だ、という話はそういう観点から見ると当たっている様にも思える。
まぁ、俺が選べた展開じゃぁないっぽい気配もして、それで正直へこむ。
俺は抵抗しようとして抵抗したか?俺は自分で選んで奴らに……ギガースの声に飲まれなかったのか?
ちゃんと自分で選択して、今ここに『俺』として立っているのか?レッドの機転があってこその今じゃねぇのか?
はっきり言って……色々と自信ねぇな。
「とりあえずは……良かったじゃない。これで一番厄介な部分が不本意とはいえ……ギルから壊されてて均されて、少しは統治しやすくなったワケでしょ?」
「……そうですね、でも素直に喜べなくって」
アインの言葉に外見上キリュウは苦笑した。
「いいじゃねぇか、ギルのお陰じゃなくて……お前らが探してる本当の王、リュステルのお陰だって思えば」
「彼は……何をやろうとしているんでしょう」
外見上キリュウがテリーの言葉に対して同意はせずに、苦笑を止めて困った様に溜め息を漏らす。
「あの人は何がしたいのか、私には良くわからない。国の事なんてどうでもよくって逃げ出したのでは無かったのだろうか?」
「……」
魔王連中の都合、ひいては。
世界の仕組み。
それを説明すりゃぁ、多分リュステル=ナドゥの目指す具体的なビジョンをキリュウも、理解するかもしれない。
リュステルは医者だそうだな、とすりゃ多分アイツの目的は『治す』事だろう。今、世界は知られていない所でトビラという傷を負い、そっから見知らぬウイルスつーかバグっつーか……元来世界には無かったモノが入って来ている。それを、あの医者属性のおっさんは『察知』しちまったんだな。奴なりの感覚で、今世界は何かが『おかしい』と感じて抗っている。
ところがそれが俺達に言わせりゃ墓穴掘ってんだ、逆にバグを世界にばら撒いてる結果になってる。あいつらには『見えてない』んだからしょうがない、しかしそれを説明し、納得させる言葉を紡ぐのは難しい。
システムだとか、フラグだとか、バグだとかいう話はこの世界の連中に説明したって理解出来ない。……いや、もしかするとナドゥならば、ある程度の理解をしてしまうのではないかという懸念も薄っすら感じている俺だ。ともすれば、理解される事への危機感からやっぱり、事を正しく説明するリスクは高いな。
だから、今度会ったらお前のやってることは間違っていると、そう言ってやらなきゃいけないのだが……。そこには、レッドさんお得意の詭弁的な世界解釈を設定しなけりゃいけないだろうな。
余計な事すんじゃねぇと、奴らの行動を止める必要がある。レッドフラグに関しては見破られない程度の詭弁を仕立てて、連中とは腹を割って話し合いでもしなきゃいけないと俺は考えている。
だけど、そういう魔王八逆星に向けた懐柔計画を他の人に、詳しく話してもいいのだろうか?
魔王連中はある程度『世界の異変』に気が付いているから良いとして、他はそういう事を知らないでいる。そしてその異変の事は、拡散させて良い情報だとは俺は思わん。
出来ないよなぁ、余計な混乱を呼ぶだけだ。
ユースやキリュウには悪いがこれは、やっぱり話せない。
フラグシステム、および……互いにとっての異世界を行き来する『トビラ』の事なんて、何一つこの世界の人達は知らないし、理解しない。
俺達がこの仮想に騙されるように、この世界の人達も現れた大陸座の齎す守護に大人しく騙されてりゃ良かったのに。
どーしてそういう俺らの事情に奴は気が付いてしまった?リュステルはそんくらい変わり者って事か?
ただのゲームと、俺達が見下ろしている世界。
だがその世界からしてみれば、ゲームとして見下ろしている連中の存在は横暴で、許しがたいものになるのかもしれない。
そのように次元の違いで諍うっつーゲームシナリオも良くある話なんだけど、別にこの『トビラ』を作った高松さん達は、そういうギミックを仕組んだつもりは無いと言う。
俺達は平穏に、交わる事なく共存できるはずったんだ。
その平穏を掻き乱す、想定していなかった赤い旗の存在。
レッドフラグをばら撒く、魔王ギガース。時間の大陸座。
もしかすればナドゥ=リュステルの暴走は結局の所そいつの所為かもしれない。捕らえているつもりで連中は結局、ギガースという存在にに囚われている。
俺達は、八逆星によって隠されている大魔王の謎を解かなきゃいけない。
でもとりあえずは……自分らのバグを直すのが最優先だぜ。爆弾抱えたまま奴らには挑めないからな。
大体挑もうにも抵抗する手段が在るとはいえない。
まずは対抗する手段。
バグ矯正プログラム、デバイスツールを手に入れる事。これが、目下の目的だ。
なる程、確かにこの船は前に乗ったのと違う。
部屋を案内されたら……全員個室だ。とはいえ、チビドラゴン一匹が一部屋使ったってどうしようもないのでアインはアベルと同室な。
部屋の数が前の船と違って多い。これでかなり改装されたんだろうが、元々この船が軍艦だったろう事は間違い無さそうな作りをしている。
俺は夕飯の時間まで手持ち無沙汰で、一人であちこち見て回ったていた。
どうやら速度が悪いらしい、テリーは若干船酔い気味で部屋に閉じこもってるし……ナッツは羽の管理するのが大変だから潮風は浴びたくないって同じく、船探検をしたい俺の誘いを断りやがった。
マツナギは……返事が無いからやっぱり俺と同じでどっかに出掛けてるか、寝てるのかな?
そんで残りの、アベルおよびレッドには……声は掛けようという気持ちにはならない俺である。出来ればアインを誘いたい所だが、その為にアベルの部屋の扉を叩くのが面倒だと思う位に、あの二人にはお近づきになりたくない。
ははは、何故かって?何故だろうなぁ。
あいつらとは相性悪いのお互いに分かってるしな。
それで一人ぷらぷら船内を散歩していたら……。
なんだか変な場面に遭遇してしまった。
船底の倉庫に続く階段前で俺は立ち止まる。
聞き覚えの在る声が聞こえてきたからだ。
「何でって、……別に、意味は無いわよ」
アベルだ。……誰と話していると思ったら。
「その事を、話そうと思っています」
「はぁ?何で」
レッドと話してやがるよ。ああ?レアな組み合わせだなぁ。
俺は……珍しいという思いからそのまま、立ち聞きする事にした。
物音は立てちゃダメだぞ。なんたってアベルの奴、地獄耳だからな。気配を殺して……声が聞こえた場所から一切動かずに階下から聞こえてくる二人の声に耳を澄ます。
「このまま嘘をついていてはいけないか、と」
「そうかしら?だって、それはリアルでの嘘でしょ?こっちの世界では関係無いじゃない」
どうやら……レッドの隠していた例の事情について、すでに知っているはずのアベルに相談しているみたいだな。
奴は……レッドは。
現実で女であり仮想で男を演じている、その事実の事について、だな。
本当の事を話したという保証は無いのだと最後に俺を脅しやがったが、やっぱりそれはあいつの『本当』の事なんだ。
「こっちで話すのなんて無意味よ、暴露する必要無いでしょ。ログアウトしてから話せばいい事じゃない」
「……それで許してもらえるでしょうか?」
「許すも何も……こっちではキャラクター演じるのが当たり前なんだし、アンタが男を演じてれば済む話でしょ?」
どうすんだレッド、俺に暴露したお前の『思い』も話すつもりか?
「それが結構、キツい事に気が付きまして」
「……辛いって事?男やってんのが?」
「安易でしたね、騙しきるつもりがあったんですけど……嘘を付くのが僕のキャラであるのになんだか、騙しきる自信が無くなってしまって」
「それで、ヤトに暴露しちゃったの?」
ああん?ちょっと待てよお前、もしかしてまだ俺に嘘付いてるのか?
それって俺に暴露した理由と根本的に違うくないか?嘘なんぞつきたくないのがお前の本音じゃないのかよ。自信が無いから……だと?
だからアイツは最後に、全てを話している保証など無いのだと笑ったのか?
それとも……今度はアベルに対して適当な事を言っているのか。
でなきゃ、勘違いした事も、騙しきる自信が無くなった事も全部嘘か。全部……ホントか。
音を立てないようにそっと、俺は壁に頭をつけて寄りかかる。
ああ、面倒くさい。
お前が嘘ばっかりつくから、何か余計な事を考えてしまってそれに振り回されている気がする。
面倒なんだよ、だったらいっそ……。
言う事全てが嘘であるならまだ、分かりやすいのに。
勿論、そんな極端な人はいない事くらい俺だって知ってる。どんなに正直者でもたまには嘘を付くもんだ。大概そういう奴の嘘は下手ですぐバレちまうけどな。具体的に言うと俺の事だけど。
嘘だとわかる嘘ならまだいいのに、嘘かホントか分かんねぇ事ばっかりうやむやにして話をしやがる。
よくそんな面倒な事をしてやがるよ、アイツは。
演じる事だって、言わば嘘をついているようなもんだろう?リアルとは違う、偽りの自分を演じてるんだろう?この世界ではそれが『真実』ではあるとしても……。
なぜにあいつは、嘘だ真実だって事に拘って話をややこしくさせるんだ。
演じてりゃいいんだ、嘘吐きなキャラクターを。それで俺達をとことん騙せばいい。そういうキャラを作ったのはお前で、お前自身であるだろうに。
それなのに……そんなキャラをやってるのが辛いだなんて言い出しやがる。
本当はさ、お前が変えたいのは仮想じゃなく、致命的な嘘をついているリアル-イガラシミギワの方なんだろう?
いくらこっちの世界で変わろうとしたって無駄だ。
仮想と現実は混じらない。
そんな基本的な事を頭の良いレッドが理解していないとは考えられない。ともすりゃ、なんでアイツは嘘一つに拘って躓く?
「あたしは、話す必要無いと思う」
「アベルさん」
「関係無い、アンタのプレイヤーが男だろうが女だろうが……関係あるの?無いわよ。こっちとあっちは別なのよ?演じられないならそれ相応のキャラ設定に落ち着くだけよ。それに一番混乱してるのはアンタでしょ?」
「……確かに」
「口に出してすっきりして、それでどうにか現実が変わるの?ただ開き直れるだけじゃない。上手くキャラクターを演じられない理由をそうやって棚上げするだけだわ」
「……かも、しれません」
くそう、アベルの言葉にはヤケに素直だなぁおい?
「ちなみに貴方、あそこで誰か立ち聞きしてるのには気が付いてるの?」
「ぎくぅ」
もう、バレてるなら隠す必要無いからな。
俺はわざと声を上げて階段を覗き込んで苦笑する。
がっちり、アベルがこっちを睨んでるよ。
「お前な、分かってるなら先に言えよ」
「いいのよ、アンタだって気が付いたから。アンタになら聞かれても問題無いみたいだし……。どう思う?」
階段を上がってきて、それでもアベルは一発俺をどついた。まぁ、今回は勝手に立ち聞きしていた俺が悪いので文句は言わん。甘んじて受けたが、こう言う時ばっかりはきっちり、手加減されてやがる。
「……どうって、まぁ……俺は関係無い。レッドがどーしたいかだろ?」
そのレッドは随分と愁傷な感じで階段の数段下に座り込んでコッチに背中を向けてるし。
「結局まだ踏ん切りついてないのか?」
「……みたいですね」
相変わらず素直に認めるのはいいがな、そっからお前は進展がねぇんだよ。
「いいじゃねぇか。嘘でも何でも。お前の言う事にケチはつけねぇでやるよ」
つかもう、嘘つかれても一々過剰に反応する意味が分からん。無駄に思えてきた。
こいつは嘘をつくのだ。
そういうキャラクターなのだというのは……コイツ自身でも暴露した事じゃねぇか。
「……でも」
「いいから、お前が好きなように説明しろ。お前が語れる言葉で語ればいい。語れない事があるならキャラ変えてまで話す必要性があるか?この世界で?」
俺はおどけて肩を竦める。
「それで信頼を無くすのが怖いのか?」
「……」
無言だな、って事は恐らくは、そういう事か。
「俺は信じるって言っただろ。お前の事も信じぬいて見せるから……騙して見せろよ、徹底的にな」
「ヤト」
「お前もそうやって、俺がそういう無駄に無意味に何でも信じ込むおバカなキャラだって弁えればいい。裏切らねぇよ、だからお前も……自分のキャラを裏切んな」
一瞬の沈黙がものすっごく長く感じた。
ゆっくりとレッドが振り返り、苦笑した。
「……敵いません」
「全くよ、ホント、リアルでもこれくらい気持ちよく啖呵が切れればいいのに、ねぇヤト」
「うっせぇ、それは言うなッ!」
そんなの、自分が一番分かってんだよッ!
そんな訳で、しばらく来ないだろうと思っていた、全員で面合わせて話が出来る場と時間が出来てしまった訳でして。
「……続きを、話したいと思います」
続き。何の続きだって?
俺が魔王にとっ捕まって色々実験されて挙げ句、トビラを開けろと言われ……開いた先、赤旗発生の推定、張本人である魔王ギガースと面ぁつき合わせてその後、だな。
俺が展開にびびって、慌てて、追い出されて、逃げ出してその後だ。
すなわち。どういう続きかというと今からレッドが話す続きと言うのは、俺が真っ先にログアウトした後の話である。故に、俺にはさっぱり記録が無いし、噂のログ・コモン・コピーもまだだから殆ど、何も分からない話になる。
俺はギガースに対面し、ログアウトした後ブルーフラグ権限の喪失によりレッドフラグに感染。しかし……レッドから閉じられていた記憶を思い出すに、若干の断片があるんだよな。自分がどうやらとんでもない破壊を齎す何者かに変じていた記憶が、うっすらと残っている。って事は……何かしらの方法で俺は、完全にログアウトせずに一端ぶっ壊れた自分にしぶとくログインしていたと言う事だ。
でも多分、それがまずかったんだろう。おかげでログがバグったんだと思うな。
もしかすれば……氷漬けタイミングと今回の二回目ログインって微妙な所なのかもしれない。
レッドは……自分が仲間を裏切る展開になっているのをまだ、最初のログアウトの記録でははっきりと認識出来てないと言っていた。奴のログイン妨害というのは二回目ログインの後にレッドが仕組んだ事じゃねぇかなと思う。俺は氷漬けになってたが、他の連中は謎の追っ手から逃げる展開にログイン。アベルとナッツ以外はまんまとレッドの術中に嵌った……と。
他の連中も、俺が暴走したらしいその後を一回目のログアウトではっきりと覚えていないのだからこれで、辻褄は合う気がする。
唯一レッドだけが暴走した俺と対峙し、何か確信を得たところでログアウトしていた。第二回ログイン開始しょっぱじめ、そうしてレッドは俺の為に……仲間を裏切って魔王八逆星、正確にはナドゥとの何らかの約束を遂行するべく行動するハメになっている。
入った途端に遭遇した展開で奴は、裏切る事になったのではないだろうか?
きっと、俺を氷漬けにして南国に送ったはいいがその辺りでナドゥと何かしらの取引をする羽目になったんじゃねぇ?、とか思っている。
俺は氷漬け状態なのでこの辺り、想像ですが。
「皆さんは……タトラメルツで圧倒的な破壊を齎した『存在』についてはご存知ですね」
「ああ」
水の入ったコップを片手に、若干顔色が悪いテリーは悪態をつくように頷いた。
今さっき、ナッツから処方された酔い止めを呑んだばかりなのな。これが飲み薬の上に激マズらしくて……逆に吐きそうになっている所、ああやって水飲んで誤魔化しているらしい。
「圧倒的な殺気、そして僕らに触れる事のなかった黒い影。……本体が遥か遠くに居たと思ったけど……確信は無かった。それの正体はヤトでよかったのか?」
と、話を振られて俺は、逆に聞いている。
「それっぽいのをタトラメルツで見てもらった訳ですが逆に、どうよ」
「それだけどね……性質が逆なんだよね……」
「ん?」
「僕らが見たのは破壊する影だ。お前から実際伸びてたのはお前を再生させる謎の蔦だろ?」
「あ……そうか、んん?」
本人がこれじゃぁどうしようもない、という風に一同からため息をつかれ俺は、しょうがねぇじゃん俺もよくわかんねぇんだもんとか逆ギレしたが反応は鈍い。
「あれは、ヤトでしたよ」
と、ため息交じりにレッドが応えた。
「アインもそう言ってやがったな」
「なら、やっぱりそうなんじゃないの」
ふむ、俺は良く分からないが……ナッツ曰く、タトラメルツを破壊したのは蔦のように伸びていく黒い影だと言う。それが『本体』と思われるものから広範囲に伸び、インティを追いかける要領で町を破壊していってたんだそうだ。タトラメルツで発現したアレとは微妙に、見た目と振る舞いが違うという。
その、黒い影は覆い隠したものを白い砂に変えた。
3分の1、タトラメルツを覆っていた砂漠はそうやって作られた。
だがその影が何故かナッツ達を避けたのだという。
見事に避けて行ってくれたお陰で自分達は助かったのだ、とかナッツは言っていて……だからこそ、それの『本体』は俺だろうと根拠は無いけど確信していたらしいな。
ナッツの疑問にはアインが羽を広げて答える。
「あたしとテリーは別行動だった訳だけど……目指してる所は同じだったと思うわ。あたしが断言する、あの黒い影の『本体』はヤトだったわ」
「直接見たのかい?」
「いや、見れてねぇ。見たのはレッドだけだ。そうなんだろ?」
テリーが額を撫でつつ……多分船酔いで頭が痛いのだろう……視線だけレッドに投げた。
「そうですね……僕と皆さんが合流した時点ではすでに、決着が付いた後で……」
レッドは何故かこういう時、しごく爽やかに笑う。
「僕はみなさんを攻撃する側に回っておりました」
だから腹黒いと言われるんだと思うぞ、俺は。
「順序からいうとお前に遭遇したのは俺とアインが先だな、というか……例の黒い奴をヤトだと断言したのはコイツの嗅覚情報だ。信用するに値するだろ?ところがその目指していた『ヤト』の匂いが消えたのをアインが察してだな、俺達はナッツ達と合流しようって話になった。そこで……」
「……なる程」
ナッツが難しい顔で相槌を打っているが……。
俺には何がなる程なのか、相変わらずだがさっぱり分からん。
「そしたら、突然ちゅどーん、でしょ?」
アインが両手と羽を広げて大げさに言った。
ちゅどーん?何だそれは?
「マトモに会話する間も無くどっからとも無く狙い撃ちだ、敵の居場所がわからねぇ、廃墟で突然白兵戦になっちまって……戻って来たナギが先手を打ちに行っちまった」
「遅かったのね……あたし達がナッツと合流する前に対処に行っちゃってた訳」
と、それって俺に説明してんのか。
ああ?……ちょっと待て、整理するんだ俺。
……つまり俺が暴れて、レッドから氷漬けにされて、その後レッドは……姿を隠して他の5人を魔法攻撃し出したって事か。
その時テリーとアイン、そしてナッツとアベルとマツナギの2対3で別れて行動していたが、アインだけが……暴れたのが『俺』だという事および、何らかの対処をして攻撃してきたのが『レッド』だとはっきり理解していた事になる。
ところがテリー組とナッツ組が合流し、この訳の分からないであろう状況を互いに確認する前に……白兵戦のプロっつーか元々傭兵であり精霊使いを嗜むマツナギが何らかの形で単独行動になり……一人で見えない敵に向かっていって行き違いになったという訳か。
赤い旗を立てた連中の中には、赤い旗を相手に感染させる『ホスト』ってのが居る。実際、末端で感染力が無い奴の割合が多く、魔王八逆星と呼ばれる連中以外のホストは稀であるようだ。今の所南国カルケード軍に紛れ込んでいた蛇女以外見たことがない。
レッドフラグは何をもってして感染していくか?
思い出せ、南国で醜い怪物に変わり果てたロッダ王妃を。
魔王八逆星であったアイジャンの血を飲み干して、醜い怪物に姿を変えた王妃。
血だ、という判断は当たっている。だがそれだけでは百点満点の花丸はもらえない。
別に血じゃなくったっていいんだよ。何だっていいんだ、血に順ずる体液なんてのはもっと他にも色々あるもんだぜ?あえて俺は多くは言わんがなッ!
だがそれではナドゥ曰く『効率が悪い』んだそうだ。
そんな事を俺は思い出す。
だから、俺は静脈注射で精度向上させたという精製薬品をぶち込まれた。でなきゃお前、健全とは言いがたい展開になってた可能性があるぜ?そんなんなってたら流石の俺でもマジ泣きしそうだよホント。
ギルの奴は、ナドゥもといリュステルからお墨付きもらってシーミリオン国を占拠しやがっていた。
国の中枢を抑えて、好き勝手やって良いって言われたんだろうな。
つまり、リュステルからその『中枢』とやらをを壊してしまうように仕向けられたんだろう。
ギルもギルでそれを承知して……好きなように好きなだけ、シーミリオンの中枢、後宮の……女を根絶やしにする勢いで蹂躙したって訳だ。
あの人を甚振るのが趣味と言って憚らない、好色そうな男は実の所……。
もう、一人の女性も愛せない体なんだよ。
愛した途端に壊すんだ。まぁ、愛して無くっても壊すんだけどな。
壊す意図が無くっても、絶対殺してしまうだろう。というか、殺すだなんて表現は生ぬるい。壊すんだ、破壊するというのが一番しっくり来る。
レッドフラグの、ホストとしての力が強すぎるのだろう事はよっく、理解できた。させられた、とも言う。
まともに相手が出来るのは同類くらいだろう。つまり、同じ八逆星で赤旗立ててるストアとか以外は、例外無くぶっ壊す。
あ~……だからあいつらいちゃついてたんだな~と、俺は遠い目。
あの野郎……一夜一人とシーミリオンの後宮の奴らを食い殺したんだ。
中枢だけが腐敗していて、大事な所だからとしっかり守られている所を内側から食い破ったって事だな、話を聞くにシーミリオンのエラい人達は魔王八逆星の占拠に伴いほぼすべて、その後宮に閉じ込められていたらしいじゃねぇか。
逃げ出せたのはユーステルとキリュウ、そしてごく一部だけだったのだって全部、リュステルの計算の内なのだろう。
「本当に……本当に無傷なのか?お前の国」
でもやっぱり、強がってるんじゃねぇかという懸念はあって俺もそう聞きなおしていた。
外見上キリュウは伏せ気味だった顔を上げる。
「国民達に被害はありません。もちろん、政治を預かる者達も同じ様にシーミリオン国の民に違いはありませんが……私には改革する力は無い。リュステルは知っていたのかもしれません。シーミリオンを海中に適応するように改変させるだけでは『変えられない』事も」
毒をもって毒を制したって事か。
はッ、あのおっさんも食わせもんだな。一方で八逆星を制御してなにやらやってるのに、こっそり自分の国に気を回してみたり。
「だったら別に、俺らのお陰じゃねぇんじゃねぇのか?一連はやっぱりナドゥの……リュステルの采配だろう?」
「いえ、……去り際にギルから直接言われましたよ。奴らに嗅ぎつけられてもうここは使い物にならないから返してやる。奴ら……ヤトさん達に感謝するのだな、と」
もし、俺がギルに致命傷を与えていなかったらどうなっただろう?
というか俺が、トビラを開いて。
魔王ギガースに拮抗したら、でなければ完全に奴らに飲み込まれていたら。
シーミリオン国は開放されていただろうか?それとも占領が続いただろうか?
俺は何時しかどんな顔をすりゃいいのか分からなくなって無言で、テーブルの上で手を組んでいた。
俺のお陰だ、という話はそういう観点から見ると当たっている様にも思える。
まぁ、俺が選べた展開じゃぁないっぽい気配もして、それで正直へこむ。
俺は抵抗しようとして抵抗したか?俺は自分で選んで奴らに……ギガースの声に飲まれなかったのか?
ちゃんと自分で選択して、今ここに『俺』として立っているのか?レッドの機転があってこその今じゃねぇのか?
はっきり言って……色々と自信ねぇな。
「とりあえずは……良かったじゃない。これで一番厄介な部分が不本意とはいえ……ギルから壊されてて均されて、少しは統治しやすくなったワケでしょ?」
「……そうですね、でも素直に喜べなくって」
アインの言葉に外見上キリュウは苦笑した。
「いいじゃねぇか、ギルのお陰じゃなくて……お前らが探してる本当の王、リュステルのお陰だって思えば」
「彼は……何をやろうとしているんでしょう」
外見上キリュウがテリーの言葉に対して同意はせずに、苦笑を止めて困った様に溜め息を漏らす。
「あの人は何がしたいのか、私には良くわからない。国の事なんてどうでもよくって逃げ出したのでは無かったのだろうか?」
「……」
魔王連中の都合、ひいては。
世界の仕組み。
それを説明すりゃぁ、多分リュステル=ナドゥの目指す具体的なビジョンをキリュウも、理解するかもしれない。
リュステルは医者だそうだな、とすりゃ多分アイツの目的は『治す』事だろう。今、世界は知られていない所でトビラという傷を負い、そっから見知らぬウイルスつーかバグっつーか……元来世界には無かったモノが入って来ている。それを、あの医者属性のおっさんは『察知』しちまったんだな。奴なりの感覚で、今世界は何かが『おかしい』と感じて抗っている。
ところがそれが俺達に言わせりゃ墓穴掘ってんだ、逆にバグを世界にばら撒いてる結果になってる。あいつらには『見えてない』んだからしょうがない、しかしそれを説明し、納得させる言葉を紡ぐのは難しい。
システムだとか、フラグだとか、バグだとかいう話はこの世界の連中に説明したって理解出来ない。……いや、もしかするとナドゥならば、ある程度の理解をしてしまうのではないかという懸念も薄っすら感じている俺だ。ともすれば、理解される事への危機感からやっぱり、事を正しく説明するリスクは高いな。
だから、今度会ったらお前のやってることは間違っていると、そう言ってやらなきゃいけないのだが……。そこには、レッドさんお得意の詭弁的な世界解釈を設定しなけりゃいけないだろうな。
余計な事すんじゃねぇと、奴らの行動を止める必要がある。レッドフラグに関しては見破られない程度の詭弁を仕立てて、連中とは腹を割って話し合いでもしなきゃいけないと俺は考えている。
だけど、そういう魔王八逆星に向けた懐柔計画を他の人に、詳しく話してもいいのだろうか?
魔王連中はある程度『世界の異変』に気が付いているから良いとして、他はそういう事を知らないでいる。そしてその異変の事は、拡散させて良い情報だとは俺は思わん。
出来ないよなぁ、余計な混乱を呼ぶだけだ。
ユースやキリュウには悪いがこれは、やっぱり話せない。
フラグシステム、および……互いにとっての異世界を行き来する『トビラ』の事なんて、何一つこの世界の人達は知らないし、理解しない。
俺達がこの仮想に騙されるように、この世界の人達も現れた大陸座の齎す守護に大人しく騙されてりゃ良かったのに。
どーしてそういう俺らの事情に奴は気が付いてしまった?リュステルはそんくらい変わり者って事か?
ただのゲームと、俺達が見下ろしている世界。
だがその世界からしてみれば、ゲームとして見下ろしている連中の存在は横暴で、許しがたいものになるのかもしれない。
そのように次元の違いで諍うっつーゲームシナリオも良くある話なんだけど、別にこの『トビラ』を作った高松さん達は、そういうギミックを仕組んだつもりは無いと言う。
俺達は平穏に、交わる事なく共存できるはずったんだ。
その平穏を掻き乱す、想定していなかった赤い旗の存在。
レッドフラグをばら撒く、魔王ギガース。時間の大陸座。
もしかすればナドゥ=リュステルの暴走は結局の所そいつの所為かもしれない。捕らえているつもりで連中は結局、ギガースという存在にに囚われている。
俺達は、八逆星によって隠されている大魔王の謎を解かなきゃいけない。
でもとりあえずは……自分らのバグを直すのが最優先だぜ。爆弾抱えたまま奴らには挑めないからな。
大体挑もうにも抵抗する手段が在るとはいえない。
まずは対抗する手段。
バグ矯正プログラム、デバイスツールを手に入れる事。これが、目下の目的だ。
なる程、確かにこの船は前に乗ったのと違う。
部屋を案内されたら……全員個室だ。とはいえ、チビドラゴン一匹が一部屋使ったってどうしようもないのでアインはアベルと同室な。
部屋の数が前の船と違って多い。これでかなり改装されたんだろうが、元々この船が軍艦だったろう事は間違い無さそうな作りをしている。
俺は夕飯の時間まで手持ち無沙汰で、一人であちこち見て回ったていた。
どうやら速度が悪いらしい、テリーは若干船酔い気味で部屋に閉じこもってるし……ナッツは羽の管理するのが大変だから潮風は浴びたくないって同じく、船探検をしたい俺の誘いを断りやがった。
マツナギは……返事が無いからやっぱり俺と同じでどっかに出掛けてるか、寝てるのかな?
そんで残りの、アベルおよびレッドには……声は掛けようという気持ちにはならない俺である。出来ればアインを誘いたい所だが、その為にアベルの部屋の扉を叩くのが面倒だと思う位に、あの二人にはお近づきになりたくない。
ははは、何故かって?何故だろうなぁ。
あいつらとは相性悪いのお互いに分かってるしな。
それで一人ぷらぷら船内を散歩していたら……。
なんだか変な場面に遭遇してしまった。
船底の倉庫に続く階段前で俺は立ち止まる。
聞き覚えの在る声が聞こえてきたからだ。
「何でって、……別に、意味は無いわよ」
アベルだ。……誰と話していると思ったら。
「その事を、話そうと思っています」
「はぁ?何で」
レッドと話してやがるよ。ああ?レアな組み合わせだなぁ。
俺は……珍しいという思いからそのまま、立ち聞きする事にした。
物音は立てちゃダメだぞ。なんたってアベルの奴、地獄耳だからな。気配を殺して……声が聞こえた場所から一切動かずに階下から聞こえてくる二人の声に耳を澄ます。
「このまま嘘をついていてはいけないか、と」
「そうかしら?だって、それはリアルでの嘘でしょ?こっちの世界では関係無いじゃない」
どうやら……レッドの隠していた例の事情について、すでに知っているはずのアベルに相談しているみたいだな。
奴は……レッドは。
現実で女であり仮想で男を演じている、その事実の事について、だな。
本当の事を話したという保証は無いのだと最後に俺を脅しやがったが、やっぱりそれはあいつの『本当』の事なんだ。
「こっちで話すのなんて無意味よ、暴露する必要無いでしょ。ログアウトしてから話せばいい事じゃない」
「……それで許してもらえるでしょうか?」
「許すも何も……こっちではキャラクター演じるのが当たり前なんだし、アンタが男を演じてれば済む話でしょ?」
どうすんだレッド、俺に暴露したお前の『思い』も話すつもりか?
「それが結構、キツい事に気が付きまして」
「……辛いって事?男やってんのが?」
「安易でしたね、騙しきるつもりがあったんですけど……嘘を付くのが僕のキャラであるのになんだか、騙しきる自信が無くなってしまって」
「それで、ヤトに暴露しちゃったの?」
ああん?ちょっと待てよお前、もしかしてまだ俺に嘘付いてるのか?
それって俺に暴露した理由と根本的に違うくないか?嘘なんぞつきたくないのがお前の本音じゃないのかよ。自信が無いから……だと?
だからアイツは最後に、全てを話している保証など無いのだと笑ったのか?
それとも……今度はアベルに対して適当な事を言っているのか。
でなきゃ、勘違いした事も、騙しきる自信が無くなった事も全部嘘か。全部……ホントか。
音を立てないようにそっと、俺は壁に頭をつけて寄りかかる。
ああ、面倒くさい。
お前が嘘ばっかりつくから、何か余計な事を考えてしまってそれに振り回されている気がする。
面倒なんだよ、だったらいっそ……。
言う事全てが嘘であるならまだ、分かりやすいのに。
勿論、そんな極端な人はいない事くらい俺だって知ってる。どんなに正直者でもたまには嘘を付くもんだ。大概そういう奴の嘘は下手ですぐバレちまうけどな。具体的に言うと俺の事だけど。
嘘だとわかる嘘ならまだいいのに、嘘かホントか分かんねぇ事ばっかりうやむやにして話をしやがる。
よくそんな面倒な事をしてやがるよ、アイツは。
演じる事だって、言わば嘘をついているようなもんだろう?リアルとは違う、偽りの自分を演じてるんだろう?この世界ではそれが『真実』ではあるとしても……。
なぜにあいつは、嘘だ真実だって事に拘って話をややこしくさせるんだ。
演じてりゃいいんだ、嘘吐きなキャラクターを。それで俺達をとことん騙せばいい。そういうキャラを作ったのはお前で、お前自身であるだろうに。
それなのに……そんなキャラをやってるのが辛いだなんて言い出しやがる。
本当はさ、お前が変えたいのは仮想じゃなく、致命的な嘘をついているリアル-イガラシミギワの方なんだろう?
いくらこっちの世界で変わろうとしたって無駄だ。
仮想と現実は混じらない。
そんな基本的な事を頭の良いレッドが理解していないとは考えられない。ともすりゃ、なんでアイツは嘘一つに拘って躓く?
「あたしは、話す必要無いと思う」
「アベルさん」
「関係無い、アンタのプレイヤーが男だろうが女だろうが……関係あるの?無いわよ。こっちとあっちは別なのよ?演じられないならそれ相応のキャラ設定に落ち着くだけよ。それに一番混乱してるのはアンタでしょ?」
「……確かに」
「口に出してすっきりして、それでどうにか現実が変わるの?ただ開き直れるだけじゃない。上手くキャラクターを演じられない理由をそうやって棚上げするだけだわ」
「……かも、しれません」
くそう、アベルの言葉にはヤケに素直だなぁおい?
「ちなみに貴方、あそこで誰か立ち聞きしてるのには気が付いてるの?」
「ぎくぅ」
もう、バレてるなら隠す必要無いからな。
俺はわざと声を上げて階段を覗き込んで苦笑する。
がっちり、アベルがこっちを睨んでるよ。
「お前な、分かってるなら先に言えよ」
「いいのよ、アンタだって気が付いたから。アンタになら聞かれても問題無いみたいだし……。どう思う?」
階段を上がってきて、それでもアベルは一発俺をどついた。まぁ、今回は勝手に立ち聞きしていた俺が悪いので文句は言わん。甘んじて受けたが、こう言う時ばっかりはきっちり、手加減されてやがる。
「……どうって、まぁ……俺は関係無い。レッドがどーしたいかだろ?」
そのレッドは随分と愁傷な感じで階段の数段下に座り込んでコッチに背中を向けてるし。
「結局まだ踏ん切りついてないのか?」
「……みたいですね」
相変わらず素直に認めるのはいいがな、そっからお前は進展がねぇんだよ。
「いいじゃねぇか。嘘でも何でも。お前の言う事にケチはつけねぇでやるよ」
つかもう、嘘つかれても一々過剰に反応する意味が分からん。無駄に思えてきた。
こいつは嘘をつくのだ。
そういうキャラクターなのだというのは……コイツ自身でも暴露した事じゃねぇか。
「……でも」
「いいから、お前が好きなように説明しろ。お前が語れる言葉で語ればいい。語れない事があるならキャラ変えてまで話す必要性があるか?この世界で?」
俺はおどけて肩を竦める。
「それで信頼を無くすのが怖いのか?」
「……」
無言だな、って事は恐らくは、そういう事か。
「俺は信じるって言っただろ。お前の事も信じぬいて見せるから……騙して見せろよ、徹底的にな」
「ヤト」
「お前もそうやって、俺がそういう無駄に無意味に何でも信じ込むおバカなキャラだって弁えればいい。裏切らねぇよ、だからお前も……自分のキャラを裏切んな」
一瞬の沈黙がものすっごく長く感じた。
ゆっくりとレッドが振り返り、苦笑した。
「……敵いません」
「全くよ、ホント、リアルでもこれくらい気持ちよく啖呵が切れればいいのに、ねぇヤト」
「うっせぇ、それは言うなッ!」
そんなの、自分が一番分かってんだよッ!
そんな訳で、しばらく来ないだろうと思っていた、全員で面合わせて話が出来る場と時間が出来てしまった訳でして。
「……続きを、話したいと思います」
続き。何の続きだって?
俺が魔王にとっ捕まって色々実験されて挙げ句、トビラを開けろと言われ……開いた先、赤旗発生の推定、張本人である魔王ギガースと面ぁつき合わせてその後、だな。
俺が展開にびびって、慌てて、追い出されて、逃げ出してその後だ。
すなわち。どういう続きかというと今からレッドが話す続きと言うのは、俺が真っ先にログアウトした後の話である。故に、俺にはさっぱり記録が無いし、噂のログ・コモン・コピーもまだだから殆ど、何も分からない話になる。
俺はギガースに対面し、ログアウトした後ブルーフラグ権限の喪失によりレッドフラグに感染。しかし……レッドから閉じられていた記憶を思い出すに、若干の断片があるんだよな。自分がどうやらとんでもない破壊を齎す何者かに変じていた記憶が、うっすらと残っている。って事は……何かしらの方法で俺は、完全にログアウトせずに一端ぶっ壊れた自分にしぶとくログインしていたと言う事だ。
でも多分、それがまずかったんだろう。おかげでログがバグったんだと思うな。
もしかすれば……氷漬けタイミングと今回の二回目ログインって微妙な所なのかもしれない。
レッドは……自分が仲間を裏切る展開になっているのをまだ、最初のログアウトの記録でははっきりと認識出来てないと言っていた。奴のログイン妨害というのは二回目ログインの後にレッドが仕組んだ事じゃねぇかなと思う。俺は氷漬けになってたが、他の連中は謎の追っ手から逃げる展開にログイン。アベルとナッツ以外はまんまとレッドの術中に嵌った……と。
他の連中も、俺が暴走したらしいその後を一回目のログアウトではっきりと覚えていないのだからこれで、辻褄は合う気がする。
唯一レッドだけが暴走した俺と対峙し、何か確信を得たところでログアウトしていた。第二回ログイン開始しょっぱじめ、そうしてレッドは俺の為に……仲間を裏切って魔王八逆星、正確にはナドゥとの何らかの約束を遂行するべく行動するハメになっている。
入った途端に遭遇した展開で奴は、裏切る事になったのではないだろうか?
きっと、俺を氷漬けにして南国に送ったはいいがその辺りでナドゥと何かしらの取引をする羽目になったんじゃねぇ?、とか思っている。
俺は氷漬け状態なのでこの辺り、想像ですが。
「皆さんは……タトラメルツで圧倒的な破壊を齎した『存在』についてはご存知ですね」
「ああ」
水の入ったコップを片手に、若干顔色が悪いテリーは悪態をつくように頷いた。
今さっき、ナッツから処方された酔い止めを呑んだばかりなのな。これが飲み薬の上に激マズらしくて……逆に吐きそうになっている所、ああやって水飲んで誤魔化しているらしい。
「圧倒的な殺気、そして僕らに触れる事のなかった黒い影。……本体が遥か遠くに居たと思ったけど……確信は無かった。それの正体はヤトでよかったのか?」
と、話を振られて俺は、逆に聞いている。
「それっぽいのをタトラメルツで見てもらった訳ですが逆に、どうよ」
「それだけどね……性質が逆なんだよね……」
「ん?」
「僕らが見たのは破壊する影だ。お前から実際伸びてたのはお前を再生させる謎の蔦だろ?」
「あ……そうか、んん?」
本人がこれじゃぁどうしようもない、という風に一同からため息をつかれ俺は、しょうがねぇじゃん俺もよくわかんねぇんだもんとか逆ギレしたが反応は鈍い。
「あれは、ヤトでしたよ」
と、ため息交じりにレッドが応えた。
「アインもそう言ってやがったな」
「なら、やっぱりそうなんじゃないの」
ふむ、俺は良く分からないが……ナッツ曰く、タトラメルツを破壊したのは蔦のように伸びていく黒い影だと言う。それが『本体』と思われるものから広範囲に伸び、インティを追いかける要領で町を破壊していってたんだそうだ。タトラメルツで発現したアレとは微妙に、見た目と振る舞いが違うという。
その、黒い影は覆い隠したものを白い砂に変えた。
3分の1、タトラメルツを覆っていた砂漠はそうやって作られた。
だがその影が何故かナッツ達を避けたのだという。
見事に避けて行ってくれたお陰で自分達は助かったのだ、とかナッツは言っていて……だからこそ、それの『本体』は俺だろうと根拠は無いけど確信していたらしいな。
ナッツの疑問にはアインが羽を広げて答える。
「あたしとテリーは別行動だった訳だけど……目指してる所は同じだったと思うわ。あたしが断言する、あの黒い影の『本体』はヤトだったわ」
「直接見たのかい?」
「いや、見れてねぇ。見たのはレッドだけだ。そうなんだろ?」
テリーが額を撫でつつ……多分船酔いで頭が痛いのだろう……視線だけレッドに投げた。
「そうですね……僕と皆さんが合流した時点ではすでに、決着が付いた後で……」
レッドは何故かこういう時、しごく爽やかに笑う。
「僕はみなさんを攻撃する側に回っておりました」
だから腹黒いと言われるんだと思うぞ、俺は。
「順序からいうとお前に遭遇したのは俺とアインが先だな、というか……例の黒い奴をヤトだと断言したのはコイツの嗅覚情報だ。信用するに値するだろ?ところがその目指していた『ヤト』の匂いが消えたのをアインが察してだな、俺達はナッツ達と合流しようって話になった。そこで……」
「……なる程」
ナッツが難しい顔で相槌を打っているが……。
俺には何がなる程なのか、相変わらずだがさっぱり分からん。
「そしたら、突然ちゅどーん、でしょ?」
アインが両手と羽を広げて大げさに言った。
ちゅどーん?何だそれは?
「マトモに会話する間も無くどっからとも無く狙い撃ちだ、敵の居場所がわからねぇ、廃墟で突然白兵戦になっちまって……戻って来たナギが先手を打ちに行っちまった」
「遅かったのね……あたし達がナッツと合流する前に対処に行っちゃってた訳」
と、それって俺に説明してんのか。
ああ?……ちょっと待て、整理するんだ俺。
……つまり俺が暴れて、レッドから氷漬けにされて、その後レッドは……姿を隠して他の5人を魔法攻撃し出したって事か。
その時テリーとアイン、そしてナッツとアベルとマツナギの2対3で別れて行動していたが、アインだけが……暴れたのが『俺』だという事および、何らかの対処をして攻撃してきたのが『レッド』だとはっきり理解していた事になる。
ところがテリー組とナッツ組が合流し、この訳の分からないであろう状況を互いに確認する前に……白兵戦のプロっつーか元々傭兵であり精霊使いを嗜むマツナギが何らかの形で単独行動になり……一人で見えない敵に向かっていって行き違いになったという訳か。
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