異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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6章  アイとユウキは……『世界を救う、はずだ』

書の7後半 勝利&諦観『試合には負けたけど勝った気分』

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■書の7後半■ 勝利&諦観 triumph & resignation

 そこで待ち構えていたのは……彼、もしくは彼女。

「キリュウ!?」
 思わず叫んじまったら、先方も俺達に気が付いてまず真っ先に深いお辞儀を返した。
 いや待て、確かに外見はキリュウなんだが……彼は……いや、彼女は……違うくてやっぱり彼?

 あぁ、ややこしい!

 キリュウ・シーサイドは外見こそ男っぽいが実は女性であり、でも中身は……。
 ユーステル・シールーズという『男性』であったりするのだ。しかもその男性ユーステルってのはシーミリオン国においての現在の王様であったりする。

 おいおい、お前一応外見的には補佐の『キリュウ』だけどその実、中身的にはシーミリオン国の女王……じゃなかった……王『ユーステル』なんだよな?
 こんな辺鄙な田舎町まで何しに来てるんだよ?

 そんな疑問を口にする前に、便宜上外見で呼ぶがキリュウは俺達の方へ歩み寄りながら言った。
「お待ちしておりました、随分早い到着で驚きましたよ」
「待ってたって、ええッ?」
 どうやって連絡取ろうかとこっちは悩んでたってのに、どうやって俺達が来るのを察知出来たって言うんだ? 
「実は……ヤトさんのお渡しした鎧と篭手……」
 俺は目を瞬いて、キリュウから貰った鎧と槍になる篭手を意識した。
「それ、シーサイドの人間には特別な金属でして……近付いてくるのがわかるんです」
「って事は……これ、発信機みたいなもんだって事か?」
「発信キー……?はぁ、まぁそうですね」
 うわやべぇ、失言した。発信機っていうのはこの世界設定では使えない言葉だったかもしれん。聞き違えて外見上キリュウは俺が意図した意味を大体理解したみたいだけど……。ふぅ、これで経験値はいくら削られちまうんだろ。がっくり。
 それはともかくだな、俺の使ってる鎧と篭手、シーサイド家の錬鉱師による作品らしい。何か特殊な細工がされているんだろう。
 俺は外見上のキリュウを捕まえて小声で言った。
「って事は、それが分かるのはお前じゃないだろう」
 外見こそ今、俺が捕まえているのはキリュウ・シーサイドだが……『それ』を察知するのはユーステルの中に居る本当のキリュウに違いないのだ。
「……ええ、まぁ……はい」
 外見上のキリュウは苦笑気味に俺の言いたい言葉の意味を察してくれた。

 キリュウとユーステル、お前らが精神と肉体取りかえっこしちまってるっていう、ネタは割れてるんだぞ?
 って、事だな。

「なんでお前が迎えにくるんだよ」
「……それでも、便宜上彼女が『ユーステル』ですから」



 荒波の打ち寄せる断崖絶壁に案内され、その真下の海に船が沈んでいるのを俺達は見ていた。
 シーミリオン国家が所有する『海の中を進む船』だ。
 そう、俺達ケレフェッタまで行く必要が無くなったのである。
 彼らの船に再び、お世話になる事になった訳だからな。
 空気の膜を張ったままで、船が海の中からゆっくり浮上して来る。
「あれ?前と違う船だね」
「違う?」
 マツナギはそういうが、俺には違いが良く分からない……な、うん。
「前の船よりデカくねぇか?」
 そういわれてみれば、上番が一回り広いような?
「ええ、前の船では速度がありませんからね。高速船に変えました」
 んな好都合なと思ったが……キリュウは船が浮かび上がってくる間、俺達をじっと眺めてから再び、深い礼をする。
「何だよ」
「感謝しているんです、それもこれも貴方達のお陰だ」
「何がお陰になってるのかさっぱりわからんが……」
 俺達、彼らに何かしてやれただろうか?
 シーミリオン国の都合で進展があったとすりゃ、精々ユーステルから事実を暴露された程度だよな?
 大体ユーステルが南国に攫われたのだってあれは、南国においてのトラブルのとばっちりだった訳だろう?
「実は……お陰さまで首都を奪還出来たんです」
「何ぃ?」
 それは、喜ばしい事なのだがびっくりだ。
 首都が魔王八逆星に占拠されている、と聞いていただけに……知らない間に知らない場所で、進展があったとすりゃそりゃぁ驚きだ。
 しかも、俺達何もしてないはずなのに俺達のお陰って、どういうこった?
「俺達何も手助けなんかしてねぇぞ?」
「そうよね……あたし達は何もしてあげられてないと思う。大体、首都を占拠してるのってあの、ギルだって話しだったじゃない」
「あ」
 嬉しくないが俺とレッドの声が重なる。
「思い出した……」
「いやまさか、そのように事態が好転するとは僕も思いませんでしたが」
「何だっていうんだ?」
 ナッツから尋ねられて俺は頭を掻く。
「まだレッドが話してないだろ、……その、例の詳細を。俺はもうそのあたりは……ナニだからな」
 キリュウの手前はっきりとは言えない、その件含めて大体連中は分かってくれた様だ。
 そう、まだレッドは詳しく説明していない。
 俺が『トビラ』を開き、乗っ取られ、魔王として振る舞ってタトラメルツに破壊を齎し……そしてどのようにその展開の『終わり』を迎えたのか、ってのをな。
 ぶっちゃけ俺はその時、殆どログアウトしている。だからこそ『魔王』としてメチャメチャに振る舞ってるんだ。
 ここの所俺は、全部正確にリコレクトする事が出来ない。レッドからフォローしてもらわないと全ての過去は埋まらないんである。
 がしかし、若干把握している所はあったりする。
「ヤトが、ギルに致命的な傷を負わせているんですよ」
「ホントか?」
「俺もびっくりだ~ってか?……実際はびっくりも何も無いんだがな」
 キリュウには聞こえない声で俺は、低く付け足しておく。
「実際にゃ相撃ちでも何でも無い、あの状態じゃ一撃一撃がお互い致命的なだけだろ……ともかく。確かに念願の一発を入れたな。それは思い出せる」
 外見上のキリュウは案の定奇妙な顔をした。
「彼、記憶喪失か何か……ですか?」
「ああ、ちょっとね」
 ナッツは笑って誤魔化したが、誤魔化せたんだろうか?
「それでギルがシーミリオン国から撤退したって事?」
 アインの言葉に、事情はもう少しややこしいでしょうとレッドは顔を上げる。
「ナドゥから時間稼ぎをするように言われていました。僕にもそうする都合があったのであまりに都合の良い展開に、色々と疑って慎重に対応したものですが……どうやら本当に時間を稼ぐ必要があったのかもしれません」
「へぇ、そうなんだ」
「僕らをその……妨害した理由か」
 実際レッドがやらかしていたのはログイン妨害だ。キリュウの手前、ナッツは言葉を濁している。
 レッドは、事も在ろうかプレイヤーキャラからブルーフラグを剥ぎ取ってしまうという荒技を仕掛けた。具体的には現在進行形でレッドを蝕んでいる『アーティフィカル・ゴースト』っていう魔法技術の応用であるらしいな。
「具体的な理由とかも聞いてないの?」
 アベルが腰に手を当て突き放すように言った言葉に、レッドは微笑する。
「僕は色々信用されていませんでしたからねぇ、なぜ時間稼ぎが必要かなんて、説明などされていませんよ。とはいえ、大体の予測はついていましたが」
 例によって邪悪に笑いに切り替えつつレッドは眼鏡を押し上げる。
「本拠地の移動をしたのでしょう」
「そりゃそうだ、タトラメルツの館はコイツがぶっ壊しちまったんだからな」
 テリーが俺を指差して、ああ、言っちゃったなお前。
「そうなんですか?」
 外見上のキリュウから同意を求められ俺は、困って頭を掻いた。
「いや……ここだけの話……ついでに町も三分の一ぶっ壊しちまったから何とも言えないんだけど」
「何はともあれ、警戒されたという事です」
 そんな会話をしている間に船が完全に浮き上がった。空気を維持する膜も破れて、大きな船が崖の下でゆっくりと揺れている。
「シーミリオン国に本拠地の一つがある、……そこを新たな拠点にして、乗り込んで来られては困る事情があるのでしょう。だから手放したのでは?」
「なる、そういう事か」
 ナッツはレッドの言葉に微妙な顔をしていたが、細かい事はいいじゃねぇかとにかく、俺達の行動は奴らを『動かした』事に変わりは無い。
 という事は南国も同じく、だよな?というか南国はアイジャンが死んだんだからもう、奴らの手からは放れているんだろうけれど。
 俺はようやくそれらの事情を飲み込み、海の向こうに向かって中指を立ててやった。
 そして思いっきり鬱憤を晴らすぜ。
「うははははは!ざまーみやがれ!」
 間違いなくこれは勝利だ。
 何もしていない、何も進展していないと思っていたが……俺は実は、シーミリオン国を魔王八逆星の魔の手から救い出していた事になっていたなんてな!
 やったね俺!流石俺!
「その喜び方はどうなのよアンタ」
「うるせぇ、何はともあれこれで二つ、いや三つ、俺達は八逆星から国を救った事になるんじゃねぇ?」
「……実際には僕らと彼ら、どっちが『救う』事になるのかは分かりませんけどね」
 それは言うなよレッド。お前、まだ『俺達』が破壊する側っていう懸念が拭えてねぇのな。それは今現在、赤旗感染してる『俺』にだけ、嫌疑の掛けられてる問題と思うんだけどな?
 何だって俺達が世界ぶっ壊さなきゃいけないんだよ?俺達はこの世界で、偽装を楽しみ仮想に浸って、ただゲームをしていたいだけだってのに。
「ま、いいでしょう。ようやく僕らが何を敵として戦えばいいのか、はっきりと分かって来た訳ですしね」
 八逆星に感染したレッドフラグか、青旗立ててる俺達か。
 世界を破壊に導くと危惧されているのは果たしてどっちか?
 懸念されてる二つがにらみ合ってぶつかり合ってる。いいじゃねぇかそれなら。互いにツブしあってんなら世界には迷惑掛けてねぇ。
 というか、俺は思うんだよ。
 むしろ世界を壊すのは、俺と連中が戦う事なんじゃぁないのか?とかな。……実際タトラメルツがぶっ壊れたのは何故かって。
 俺が、魔王八逆星連中に歯向かった結果なんだし。

 それでも譲れないんだ。
 八逆星がそうとも知らず、赤い旗を世界にばら撒いているのを黙って許しておけない。
 世界の為だと言って、数多くの非道を行う連中に正義があるとは思えない。連中のやり方は間違っている。連中を、許して置けるか。

 足掻きもしないで魔王だなんて安易に名乗りやがる、連中は絶対に倒す。
 そして……奴らが握っている『元凶』を奪還し、この世界から赤い旗のバグを取り除く事。

 それが、俺達の職務だ。
 勇者としての、そして。
 デバッカー兼テストプレイヤーとしての、な。



 そんな決意を胸にして、崖下の船に飛び乗った……実際にはレッドから浮遊魔法で降ろして貰ったんだが。
 それで俺達は……南国で別れて以来の、外見上のユーステル女王と対面する事となった。
「ヤト」
 儚い笑顔だと思う。首都を奪還できたんだからもっと喜んでもいいだろうに。まるで必死に笑っているように見える。
 まるでこれからの展開を悟っているように俺は思えて……軽率な顔は出来なかったり。
「見つけて来たぜ、王様の行方」
 ユーステルとキリュウの事情を分かって無い連中もいるんだろうと思う。なので、俺は安易に彼女が実はキリュウである事は語らない。
 あくまで女王閣下の前として、俺は膝待付いてそう切り出した。
 探して欲しいと頼まれてたんだよな。
 この国の王になるべき人、キリュウの兄で、ユーステルの……ん?
 ユーステルの何だって?

 おいおい、ちょっと、ちょっと待てぇーッ!?

 俺は今更その矛盾に気が付いて慌てた。
「ヤト、貴方、気が付くのが遅いです」
「って、レッド!お前分かってたのかよ!なのになんでそー冷静で居られるッ!?」
「て言うか、ユーステルが暴露してくれた時点でわかる事じゃない」
 と、言ったのはアインだ。
 俺は蒼白になり、どうよお前分かってた?的にアベルを伺ってしまった。
「あー……まぁ、あたしはフツーに男女の立場が逆転してるのかなーと」
 つまり、女王が王で、王が女王って事か?
「でもおかしいだろ?だって、リュステルって間違いなくあれ男だろッ!?」
「てゆーか、誰なのよそれは。アンタどこでリュステル見たって言うの?」
「誰って、察しろよお前ら」
 表情から察するに……分かって無いのは……アベルとマツナギだけか。テリーは察したな、アインはそういうのかなり鋭いから同じく。ナッツは当然分かっていた顔だ。
「誰って、ナドゥのおっさんだよ!あいつがリュステルなんだって!」
「えッ?」
 お前ら、って言うのはアベルとマツナギに向けてだが。
 そんなに意外だったか!?
 あ、いや。
 俺もそれ分かった時内心、かなり驚いたんだけど。
「思うにヤト、彼をおっさんって言うのは失礼じゃないかい?」
「おっさん臭いじゃん、なぁユーステル」
 俺がわざと笑いを取ろうとしている、とでも思ったのか。外見上のユーステルはやや困った笑みを浮かべていた。
「あの……すいません」
 外見上ユーステルは外見上のキリュウと顔を見合わせてから目を閉じて、小さな声で言った。
「すいません、……私もそれ、知ってました……」

「知ってたーッ!?」

 じゃぁ、俺が必死に伝えなきゃと思った気持ちは無駄かッ!?
 ……ああいや、別に合流するのにはそんなに、労力掛けてないんだけどッ。
「どこでだよ?」
 すっかり無礼講な態度になっている俺。女王は苦笑し、そんな俺を窘めるようにまず一礼する。
「それよりまず、私からも感謝の言葉を述べさせてください?」
「あ、」
 それで俺は漸く場所を弁えて汗。
「ありがとうございます。お耳に入れた通り、無事首都を奪還出来まして、魔王八逆星はシーミリオン国から撤退致しました」
「それは、本当によかった」
 今度こそ女王はにっこりと微笑む。
「問題ありませんよ、この船には事情の分かっている部下しか乗せていませんから」
「う、すいません」
 俺が暴走するのは予測済みですか女王陛下……。
「ですから、事情はまたここで説明させていただきます」
「問題ありません、僕らもまた色々事情がありまして……急ぎシェイディ国に行かねばならないのです」
 レッドが言った事は外見上のキリュウには話してある。女王は頷き、なら真っ直ぐシェイディ国にお送りしましょうと言ってくれた。


 いや、まぁ冷静にリコレクトして考えればそうなんだよな。
 外見上のユーステルと、ナドゥのおっさんはすでに南国で顔を合わせている事になる。
 そういえばその時彼女は口を濁したな。
 食事を持ってくるという人物について、知らない人だと言ったけど……本当はそうじゃなかったんだ。
 彼女の面倒を見てたのがナドゥだったってのは、彼女が説明した服装からして想像付く。
 学者風の『知らない人』と言ったが、あれは嘘だったって事だよ。彼女も兄が生きてて嬉しい反面衝撃だったんだろう。本当に魔王側に居て、世界を混乱させている張本人だし。
 ナドゥがリュステルであろう事は、俺やアベル以外の聡い連中は分かってたに違いない。何故外見上のユーステルが口を濁したのか、もうその時点である程度懸念は抱いている訳だ。

「外見が変わってたのかい?」
 外見上のユーステルはふるふると無言で首を振った。
「すいません、嘘を付きました。……知っている顔だったんです。一目見て兄だと……リュステルだと分かりました。でも……」
「名前が違うようだけど」
 ナッツの質問に外見上ユーステルは俯いてしまう。
「やはりリュステルという名前のままでは、魔王は名乗れないと思ったのかもしれません」
「連中が魔王と名乗ってるのは……そう呼ばれているからだぜ。実際ナドゥはそのつもりは無いって言ってた。とすりゃ、名前を変えたのかは別の意味があると思うが」
「恐らく国と無関係、という事にしたかったのでしょう」
 外見上のキリュウが腕を組んでいる。
「首都は……ほぼ無傷でした」
「本当かそりゃ?一度行って俺らが見て回った方がいいんじゃねぇのか?」
 テリーの危惧は、赤旗の感染拡大を予測しての事だろう。確かにタトラメルツではストアによって赤旗モンスターの生産が行われていたし、南国でも数多くの人が怪物になってしまっていた。
 けど……。
「ギルが駐在してたって事はその心配は無いな」
 俺はきっぱりと、俺達が懸念している『赤旗感染』についての問題に『無い』と言いきった。
「何でよ」
「ギルにはホストとしての能力が無いからさ」
 いや、実際には無い訳じゃないんだがな……。あ、ホストって今言っちまったおかげでゲームには無関係な二人、ユーステルとキリュウがちょっと首をかしげたな。うう、また経験値マイナスされたっぽい……。
「なんで断言するんだい?」
「俺が身をもってそれを体験してきました」
 手を上げて、あの痛みをと苦しみを思い出しそうになって俺は笑って答えた。こうなりゃヤケだ。
「どういう意味さ」
「強すぎんだよあいつ、おかげで感染させる前に相手をぶっ壊しちまうんだ……思い出させんな、吐き気がする」
 目の前で溶けていった幼い子供を思い出して俺は、本当に胃が痙攣するような痛みを喚起するんだ。
 くそったれ。
「……ナドゥがシーミリオン国にギルを置いたのは……じゃぁ、わざとか?」
「恐らくそうでしょう」
 ナッツが、ようやく合点が云ったという顔でレッドを伺うと、色々事情がすでに見えているっぽいレッドはその通り、という風に頷いているが……。
 軍師連中の頭の中身がさっぱり分からない俺である。

 外見上のキリュウは目を閉じて言った。
「後宮は……散々足るありさまでしたよ」
「後宮って何ー?」
 などと、アインさん。わざとらしく子供を装って聞き出すのはおよしなさいッ!あんた、絶対分かってるだろうが!
 外見上のキリュウが手を組んで目を伏せる。
「王に仕える……妾の住まいです。……先代王がね……私の父になるんですが」
 というのはつまり、外見上キリュウの中のユーステル王の都合な。
「魔種への転換を図った都合、国を閉ざす事となった背景で……ちょっと、色々ありまして」
「別に、国を治めるのは女王じゃなきゃいけないとか、そういう訳じゃないのな」
「それは違うって言ったじゃないの」
 とユースは頬を膨らませる。あはは、こんなに可愛らしいのに男の子だなんて……ふぅ。
 俺は思わずそれを思い出して溜め息が漏れるぜ。
 どうしてこう、男か女か、判別のつきにくい連中ばっかり周りにいるんだ?レッドもそうだし。
「決まりは在りませんが、……父は女王を仕立てたかったんですよ」
「それは」
「いいんです、秘密にしたままではリュステルが王になる経緯を説明出来ません」
 ユースを抑えて外見上のキリュウは目を開けた。
「私の王は一つ、嘘を付いた」
 またそれかよ。俺は横目でレッドを窺う。レッドはあえてそっぽを向いている。
「この通り、私の外見が少々男らしくないという事で」
 と外見上キリュウは外見上ユーステルを示す。
「私を女性と偽っていたんです。それは、今もそうです」
「今も……って?」
「つまり、国民も現国王は女王だと思っているという事です」
 それは……ご愁傷様です。
 俺は心の中で手を合わせた。
「それって、女性として育てられたって事?」
「いえ、私も王が死んで即位してから事情に気がついた。私は何も知らなかったし、知らされていなかった。自分が女王として認知されているなんて……」
 それはまたややこしい事情だなぁおい。
「で、まさか……ナドゥ事リュステルにもそこらへん、誤解されたままだってのか?」
「……」
 そこで何故か、二人とも黙り込んでしまった。
「おいおい、どうなんだよそこらへん」
 ユーステル『女王』の伴侶となるように定められている本来の王、リュステル。キリュウの兄だ。
 所が、実際ユーステルは女王じゃなくて王で……リュステルはそれでも、王になるために男である王を娶るか?

 すっげぇおかしな話だろうそれは。
 ……腐女子のアインは一人ワクテカしてるみたいだがな……。

「その、あたしの兄はね……物凄く変わった人で……」
 ようやく外見上のユーステル、すなわちキリュウが口を開いた。
「変人って、男を娶るような変人て意味か?」
 とテリーが言ったらアインが小さな手で頭を抱えながら、鼻から火炎の吐息を吐いたぞ?
「もしかしてステキな展開~?」
「どこがステキだ」
 テリーが容赦なくアインにデコぴんを食らわせている。そうだぜアイン、素敵なもんか。ユーステルが不憫だと思わんのかお前は。
「頑固者なんです、融通が利かない人で……何でも自分一人で解決しようとして……実際解決しちゃう人です」
「詭弁家っぽい人だと思ってたけどね」
 とナッツは天井を見上げている。そうだな、俺もレッドみたいな奴だと認識したなぁ。
「……私の父と約束したらしいのです。シーミリオン国を改変する事が出来たら、王女を嫁に貰うって」
「王女じゃなくて王子だったのに?なんで貴方のパパはそんな約束をしたのよ」
「それ位、私の父は切羽詰まっていたと言う事でしょう」
 外見上キリュウ、つまりユーステルが深い溜め息を漏らした。
 あぁ、もう……この二重説明面倒なんですけど?
「早急に、海中に沈む国の為に国民が、海に適応しなければいけない事情があって……つまり私は、その為に人身御供に差し出された様なものなんですよ。それは別に恨みません、そこまで父が追い込まれていたのは今はもう、理解しましたから」
「……」
 えっと、どっちの名前で呼びかければいいのか俺は迷ってしまって沈黙してしまった。
 キリュウか?それとも、ユーステルって呼んでいいんだろうか?
 ややこしい!ややこしいんだよッ!
「リュステルは気が付かなかったのかよ?てゆーか、あのお……」
 おっさんって、つい口にしちゃうんだけどまずかったかと思い直して言葉を止めた。
「ナドゥは、知らなかったのか?まさか……ユーステルが王子なのを知らなかったってのか?だって、ミスト王だって知ってたじゃねぇか?」
「勿論知っていたでしょうね」
「じゃぁなんで」
「理由なんて。ただそうすると言われて約束したからだと思います。分かっていて婚姻などできず、王女を娶って王になら無くてもいいと打算していたのかもしれないし……」
 外見上のユーステルは、まるで兄の意思を探るように幾つかの可能性を呟いている。
「……きっと、そこまでして何とかして欲しいと、頭を下げられた事に折れたんだと思います」
 なぁんだ。
 だったら別に気持ちの悪い展開は無いじゃんか。アインさん、安易に同性愛を持ち込むのは辞めてくださいよもう。
「ですがね、あの人は何が本音になるのかよくわからない」
 外見上のキリュウが頭を抱える。
「別に愛す事も酷い事もしないけど、形式上婚姻は結ばないといけないからと言い出した。それで、それが嫌だったら自分を王にするのは辞めろと……言い出した」
 ……俺はレッドをわざとらしく窺う。
 それってお前のお膳立ての仕方にそっくりじゃねぇ?
 目を逸らしてる所、心当たりはあるようである。
「結局、何だかんだ言ってリュステルは王になる事から逃げ回ってる訳か」
「そういう事です……ね」
「そんなに王職が嫌なんだね」
 マツナギの言葉は物事の核心に刺さり込んだらしい。キリュウ(中身はユーステル王)が顔を顰めた。
「……シーミリオン国の政治は腐っていました。傀儡政権で、その実権を握っていたのが後宮です」
「あらら」
 問題はそっちなのか。
「父は必死でした、私は……私はなぜ女王として取り扱われていたのか後に知ったのです。……後宮に実権を握られていた事実の影には多くの私の兄弟の暗殺が横たわっていた。私は何も、本当に何も知らさずに生きてきた事を知りました。……父は、私の性別を偽ってまで必死に私を守ってくれていた」
 この国の頂きに座る可能所為の在る王子ではなく、継承権が恐らく低いんであろう、王女と扱う事でユーステルを守っていた、という事か。
 様々な事情が絡み合っているんだな……。
 腐ってる政治に足を踏み入れたくない、それはユーステルもそうだしリュステルも同じく。
 だから、こうやってユースとキリュウは気の置ける部下だけを傍に置き、俺達を首都などに案内せず、全ての事情を船の上で説明するハメになってる訳か?
「でも、ギルから後宮がぶっ壊されたって?」
「恐らくそれを画策したのはリュステル……ナドゥでしょう」
 だろうな。
 好色そうなギルをわざと、シーミリオン国に置いて後宮をメチャクチャに……何したんだ?
 ナニか?
 俺は眉間を抑える。
「つまり、後宮がギルから蹂躙された訳か」
「……はい」
 うわ、政治腐敗を招いた元凶とはいえそれはまた、ご愁傷様だ。
 ナドゥもある意味すげぇ方法で腐敗部分切り離しを画策しやがったな?
「どーいう意味~?」
 だからアインさん、わざとらしく子供っぽく聞くのはおよしなさいッ!
 しかたねぇ、口を濁している二人の代わりに俺が説明してやるよッ!

「強すぎるんだよあの野郎、壊しちまうんだ。何をしたって相手をぶっ壊す、破壊魔王とはよく言ったもんだぜ」

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2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

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