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7章 白旗争奪戦 『神を穿つ宿命』
書の1後半 ディグダッグ『掘り進め地底大陸』
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■書の1後半■ ディグダッグ Dig Dug!!
昔からそうらしいが、シェイディ国って入国厳しいらしい。
つい最近までパス……つまり通行証明なるモノを作らないと入国できないって程だったとも言うが……でも。
それって、リコレクトするにマツナギから聞いた話なんだよなぁ。
実は、彼女と話す時は色々気をつけないといけない事があったりする。それはたまーに……リアル事情が遠慮なく混ざる、などという事じゃなくってだな……大体それは俺も任意でやってるお遊びだから。
ええとそうじゃなくて……彼女、俺達のパーティーの中で飛びぬけて年上なのな。すげぇ、長生きしてんだよ。
だから彼女の言う『最近』つーのは、軽~く百年前だったりする事がある。
よって、その通行証制度が何時まで続いていたのかは正直、人間の俺にははっきりとした所分からん。
貴族種と人間てのはもうなんかこう、生きてる次元が違うんだよな。当然と文化的にもモノの考え方にも大きな差がありすぎる。それこそ、人間から見れば貴族種は長生きだし美人だし能力高いしで思わず敬いたくなるを通り越して羨ましかったりするとかで……。
貴族種と人間の仲ってのは二分すんのな。
尊敬、尊重して敬うか、妬んで憎んで距離を置くか……両極端どっちかの対応になるそうだ。
遠東方エズの闘技場では貴族種の登録選手なんて居ないぜ。理由は指で数える程にある。
貴族種の奴隷が皆無な事、選手生命が短くローテーションの早い環境に長生きの選手は向かない事、貴族種は元来戦いを好まない和平の種族である事、他もろもろ。
割と俺、エズでの暮らしが長かったからさ。貴族種って珍しかったりする。好きか嫌いか極端な差が出るというが間違いなく、俺……貴族種大好きだな。
第一にスタイルいいし、美人だし、乳デカイし。
……ん?別に貴族種関係ねぇとか言うなそこ。
「俺、シェイディ国初めてだけど」
そう言って自主的に挙手してみた。すると、我も我もで手が上がる訳だ。
「船嫌いの俺が用も無く島国に、わざわざ行くと思うのか?」
とはテリーの談。
「経験浅いですから~10歳児ですから~」
「誰に聞いてるのよアンタは」
というのはアインとアベルな。
「まぁ、僕は一応行った事になるのかなぁ」
ナッツは腕を組んで、なぜか自分の事なのに頭を傾げている。俺はマツナギ除いてもう一人、挙手してないレッドを振り返った。
「お前は?」
「勿論、あります」
何故勿論なのかは俺には分からんが。……なんで勿論なんだ?
そんな疑問が俺の顔に書いてあったとでも言うのか。
「色々と保守する仕事の関係で、シェイディ国と東国のランは転移門で繋がっているのです。何なら、シェイディ国の用事が済んだ後に魔導都市にでも行きますか?」
良い顔をしない人が大半なのになぜかナッツだけそりゃぁいい、的に相槌を打ったな。ちなみに俺には……リコレクトすると良い思い出が無いっぽいです。
「ナッツ、何でお前は嬉しそうなんだよ」
「え?だって、大陸座の居場所とか調べるのに一番適しているじゃないか。というか、他に手掛かりが無いんだし、魔導都市に行って見たらどうだろうって提案しようか迷ってたくらいだよ」
魔導都市ランというのはまぁ、いろいろあるんだが何だ。知識の坩堝だ。
知識という知識が集う街である。なので、ナッツの提案は最もなんだが……。
「凄い所だと聞くね、一度行ってみたいと思っていたよ」
唯一立場中立のマツナギは魔導都市も初体験か。そっか、本当にシェイディ国からまともに出た事が無かったんだったな。
そんなマツナギに、実は一番嫌な顔をしたであろう……とは言うがドラゴンに表情は無いので俺達の単なる推測なのだが……アインが喚いた。
「凄い所って言うより酷い所よ?魔導都市に行く?あたしは反対!断固反対~ッ!」
「鳥篭にでも入れて黙っていればただのチビドラゴンで通ると思うけどな?」
「あたしを籠に入れるのぅッ!?」
テリーの至極楽観的な言葉に怒った様だな。アインは鼻から軽く火を吹き出しながらテリーの頭を羽で叩いている。
「そんなの酷いわ、それが嫌なのに!」
「じゃぁ、首輪でもつけてペットとして」
「でなきゃ、黙ーって人形か剥製のフリでも……」
「ムリーッ絶対ムリー!」
ついには癇癪起こしてアインは会議室として使わせてもらっている、昼過ぎで人の居ない食堂の低い天井を飛び回った。
「断固反対!断固拒否!」
「……こりゃ、行けそうに無いな」
「いい提案だと思ったんですけどねぇ」
確かに、行きたいくないというアインの気持ちに同調する俺達であるが、レッドやナッツが提案した事も悪くない。というか、それがベストだよな?間違いなく。
「うーん、絶対拒否はアインだけか?」
一応テリーとアベルに向かって聞いてみた。
「ナッツの主張も確かに分かる」
テリーは首の後ろを掻きながらアインとは目を合わせないようにしている。対しアベルは何故か威張り気味に腕を組んで断言。
「進路についてはあたし、口出しする権利無いもん」
そうだな壮絶方向音痴。それだけは良く分かっているんだなお前。
今後このように、じっくりと作戦会議する時間が取れるとも限らない。というか、アインみたいな『行きたくない』という頑なにふんばる奴が現れると時間を食うんだな、説得に。
俺達はシェイディ国で他に何か急ぎの用事が入らない限り、次に東国ペランストラメールの魔導都市ランで情報収集する事になんとか、決めた。
アインを納得するのにあの手この手で宥めすかして○時間……面倒だからスキップ。
脱線は何時もの事だが、そういえば俺、聞く事があったから『シェイディ国行った事あるか?』で話を振ったんだよな。
ようやく話が戻って来てスキップ終了。
「通行証って今も必要なのか?」
「何世代前の話をしているんです」
例によって眼鏡のブリッジをつっと上げて、レッドから鼻で笑われた様です。
ぬぅ、しかしマツナギを悪くは言えない。ソースの出所がテリーとかナッツやレッドだったらまだしも、マツナギだったので俺は黙ってその屈辱を耐えた。
「というより、よく通行証制度があったの知ってたね?」
ナッツさん、何ですか?それはまた際どいポイントからの俺虐めですね?
「……どうせ俺ぁ世間知らずですよ……」
「僕は誉めたよ?」
「誉め殺しって言うんだそれは」
そんなつもりは無いってか。でも一応その俺の気持ちを察したらしく苦笑している。天然具合はリアルキャラから強化されてねぇかお前?
「確かに、前期においてシェイディ国は軽い鎖国制度を布いていました。そうせざるを得ない事情があったのです。ですが、今はその問題は完全に解決していますので煩わしい手続きは不要です」
「何か準備がいるなら焦らんでも、こいつらが何か言うだろ?」
確かにそりゃぁそうだ。知識量底辺の俺が心配する事じゃなかったよ、畜生。
「今日の夕方にはミストルーンディに着くようです。実は、すぐに首都への移動に入れるように段取りを済ませようと思ったんですけどね、良い地図が手に入らなかったんですよ」
「すまないね、まさか戻ってくるとは思わなかったからさ……地図は手放してしまった」
マツナギはやや苦笑している。その笑みが、どこかぎこちない気がするのは俺だけだろうか?
彼女が部屋ではなく、何故か甲板で休んでいる事情もいまだ良く分からない。
彼女が話そうとしないからな。無理に話せ、とも言えないしだからと言って、誰彼構わず彼女の状態を言いふらすのもなんだ。
俺はアインにもマツナギの状態の事は他言するなと止めている。
「テリーさんは相変わらず具合悪そうですから」
というレッドの言葉にテリーはすまないとややうなだれている。
「ミストルーンディで一泊しましょう。そこで地図を得てから詳しい話をお聞きしようと思います」
マツナギはその提案に無言で頷いた。
うーむ、どうしたものかな。
俺は他の連中に迷いを悟られないように気をつけながらちらりと、マツナギを眺める。
間違いなく彼女、何か抱えてるよな?
シェイディ国は彼女の出身国で……そう、経験値の上昇に伴なう『背景の重さ』について、彼女はまだ何もそれらしい事を語っていない。
解散となった所で、俺はアインに目配せした。
割と気配りの出来る奴であるアインは俺が何を考えているのか、承知しているらしい。アクションを起こす気配を察知してアイコンタクト返し。
「上陸準備だね、羽の手入れしなくちゃ」
ナッツの独り言にテリーは羽持ちは大変だなぁと返しつつ、酔い止め薬の副作用で欠伸をかましている。
「レッド、時間になったら起こしてくんねぇ?」
「まだ寝るんですか?」
「しかたねぇだろ、眠いんだから」
船室へ戻る一同の後ろを付いていくアベルを見送って、俺とアインは上番へ続く方の扉から外に出た。
アベルは方向音痴だ。
同行者が居ない限り、ヘタに動き回る事は出来ない。
「マツナギ!」
そして、気配もなくいつの間にやら甲板へ上がろうとしている彼女を俺は引き止める。
驚くかと思ったけれど、彼女はゆっくり足を止めて振り返った。
「ああ、どうしたんだい?」
しかし何事もない様に彼女が笑うので俺は……足を止めてしまった。
何故かって?
俺には、彼女の笑みの意味が分かってしまったからだ。
無言で俺の頭を突付くドラゴンに、慌てて正気に戻る。
そうだ、いかん!こんな所で足を止めるな戦士ヤト!お前は今サトウハヤトじゃない。
相手の『拒絶』に戸惑うな。
何事も無かったかのように俺をその場に置き、マツナギは階段を登り切ってしまっていた。慌てて駆け足で俺は軋む階段を駆け上がる。
その勢いで、彼女の手を掴んでいた俺。
「……待てよ」
ああでも俺、ちょっと待って。その後になんて続ければいいんだろうッ!?勢いでこうなっちゃうのは戦士なヤトの悪い癖だよなぁ。
無言で背中を向けているマツナギの、反応待ちをしてしまう。
「……大丈夫だよ」
こちらを振り返りもせず、そう言った彼女の言葉に。
俺は騙されて。
途端緩めた手をするりと振り払い、マツナギは行ってしまった。
ドラゴンから突付かれている。全くだ、俺……何してんだろ。離してしまった手をまじまじと見つめる。
「大丈夫って、言ったな」
「バッカねぇ、そんなのダイジョブじゃないに決まってるじゃないの!」
「そ、そんなもんか?」
「そうよ、見た目全然大丈夫じゃないのにダイジョウブって言うのが男で、見た目普通でダイジョウブ言って男をはぐらかすのが女の子なのッ」
俺は奇妙な顔で某、恋愛シミュレーションゲームにおける感情値の変化チャートを必死に思い出している。いやいや、ちょっと待てアイン。
「でもそれは、ゲームな話だろッ?」
「リアルだって似たようなもんよ!多分!」
力いっぱい多分って言わないでくださいアインさんッ!説得力なしだ!
俺はうなだれて少し苦笑して……ふっと聞いてしまった。魔が差したんだと思いねぇ。
「なー、これリアルの話だけど、お前……彼氏いる?」
「えッ、何?それってリアル告白?いやん、ホモ同人女がリアル男を好きなるはずないじゃないッ」
などと、頬を赤らめながら(推定)言うセリフかそれ?
「つまり居ないんだな、彼氏」
「ダメッ☆ 男と男じゃなきゃあたし嫌」
アインさん……。
俺は何故か涙が出そうになるんだけど何でかなぁッ?それでもそんな彼女に容易く嫌悪感を抱かなくなった俺自身にも泣ける。
「じゃぁ俺がマツナギを追いかけるのはどうなんだ?」
「いいのよ、ヤトはいいの!テリーだったら邪魔するけどヤトだったら許すのッ」
「はぁ?何で」
「それは、言えないッ」
と、言って小さな手まで首を伸ばして頬を抑える仕草のチビドラゴン。……見た目可愛いんだが……その脳内妄想がどんな具合なのか恐ろしい……。
俺はふっと真面目な顔でそんなチビドラゴンを見やる。
「こっちの告白はアッチで適応しないのかな?」
「お互いここの展開をリコレクト出来ればいいけどねー?でも、夢で片付くでしょ?」
アインはぺちりと俺の額を羽で叩いた。
「トビラの出来事は現実に持ち帰らない。もとい、持ち帰れなのよ?それはリアルでがんばりなさい」
「その言葉、俺、絶対リコレクトしてやるからな」
「問題はハヤト君次第よね」
俺は額を抑えて溜め息を漏らした。
サトウハヤトは俺であるというのに、リアルでは俺、こんなに強気に話す自信が無いんだよなぁ……トホホ。
「いや待て、ならお前も混同させるんじゃねぇ。こっちの世界に来てまでどうしてお前は腐女子思考なんだ?」
「そういう趣味じゃないあたしなんて、アタシじゃないわよ?」
こ、小首を傾げて可愛らしく言わないでくださいよッ!くそう、言ってるセリフの内容のヒドさに俺は、再びがっくり項垂れる。
つまり、こっちの世界でも腐れ思考するキャラクタだって事だなアインは。
「くそぅ、ここでまともな女の子はやっぱり、やっぱりマツナギだけなんだーッ」
と言いつつマツナギを追いかける俺。
「アベちゃんはー?」
「ばかやろう、あれは論外だ!女じゃねぇッ」
「こっちでもそこまで言わなくたって」
「おぁッ?何スかそれは、こっちだったら上手く行くとでもっ?」
「……行ってないんだ」
う、誘導尋問されたのか?
気が付いたら俺、頭に血が昇っててマトモな思考が出来てない。俺の頭に首を任せるようにチビドラゴンがしがみついた。
ぬ、小さな手で頭を軽く叩かれるというか、撫でられている気がする……。
「がんばれヤトッ。お姉さんは応援しているわッ」
「何スかそれ、どういう意味スかーッ!?」
と、俺は危うくマツナギの隣を通り過ぎるところでした。慌てて立ち止まり、マツナギが海を眺めている手摺りの隣に強引に落ち着いて焦る気持ちを色々と整理する。
「……どうしたんだ?」
「いやー、色々あってだなー!」
言いつつ頭からドラゴンをひき剥がし、嫌がるのをお構いなしに頭をグリグリとしてやったり。
「さっきも言っただろう、あたしの事は心配ないよ」
「いや、そうは言ってられん。溜め込んで暴走した奴を見ているだけあって俺は、放ってはおけん」
とは、もちろんレッドの事だ。しかし勿論、レッドの行動が『暴走』だと知らない二人は何の事かと首をかしげた。
「ぶっちゃけるとだな、俺アインに猛アタック掛けてるんだけど見事に振られまくってて……」
マツナギ、明らかに飽きれた顔になった。
「だって、それドラゴンだよ?」
「……知ってます」
人間が竜に求愛ってのがどれだけ滑稽か位は俺だって分かってますよええ。
いくら頭が良いったって、生物分類的には隔たりが大きすぎる。人間が貴族種と恋愛するのだって社会的には大問題だってのにな。
リアル世界と違って、多種多様な種族ひしめくこのトビラの世界では、割と同種間恋愛がスタンダードなのだ。
勿論、種族を超えた恋愛がタブーという訳ではない。しかし生物的な子孫繁栄の観点から言うと優位な生物……この場合多く魔種だな……の方が遺伝能力高いのな。
例えて人間と貴族種が結ばれたとしよう。すると、圧倒的な優位遺伝である貴族種の特徴が人間を凌駕する。生まれてくる半貴族ははっきり言って殆ど貴族種である。人間的な特徴なんてものは、無いに等しいと言っていい。
……俺が何を言いたいのか、と言うとだなぁ。
人間は、大人しく人間を好きになるという事だ。
幾ら美形だからってホイホイと貴族種に惚れちまう事はめったに無い。反応が二分すると言ったよな?嫌うか、恐れ敬うかの二択だ。同等な存在だとは思わんのだよ。種族が違うのに同等の立場になれる事は非常に稀だったりする。
よって、俺とマツナギの立場はその稀な部類になる訳だな。というよりは何でもかんでも対等に接して惚れちまう様な俺が稀なんだろうけど。
「このチビドラゴンから散々な言われ様をして傷心してる訳ですよー」
隣でふっと、マツナギが笑った気がする。この場合はいいのだ。俺は彼女に笑ってもらいたかっただけだから。
「あたしに慰めてもらいたいのかい?」
「本気で落ち込んでたらな。そん時はお願いする」
俺は苦笑してアインをようやく開放してやった。
「……何を抱えてるか知らんが……。本当に大丈夫なのか、お前」
心配しているんだ、という事を訴えるのにいつでも笑いながらじゃダメな事くらい知っている。俺は真面目に聞いた。
「……心配掛けてしまったね。でも……大丈夫だよ」
「……」
「ヤトは自分の過去を語る事が出来る?」
「んぁ?……まぁ、そんなに重いとは思ってねぇし。大体知ってる奴もちらほら居やがるしなぁ」
「そうかな。……それでも言い辛い事はあるんじゃないのかい?」
「別に、辛かねぇよ」
苦笑が出た。何だ、この苦笑い。
自分の表情ながらちょっと戸惑う。
「それと同じだよ」
マツナギは笑って俺を振り返った。
結局の所俺は……その笑みに騙されてはぐらかされてしまったのだった。
船は昼過ぎにはシェイディ国の玄関であるミストルーンディに到着し、個別に話をする間が無くなっちまった。
ユースとキリュウに挨拶して、今後連絡を取る方法とかもちゃんと聞いてな。
町に出たら地図込み買い出し組と情報収集組と、宿確保組で別行動になりまたしてもッ。
……俺はアベルとアインを押し付けられてしまった。
確かに俺は買い物や情報収集には向きませんよ!アベルとアイン同じく。とまぁ、文句言ってもいかたないのでお互い不機嫌な感じで宿の手配をすませた。
情報収集はナッツの仕事で他は買い物だ。レッドとナッツは俺に『探査の糸』という相手の居場所を探る魔法を付けて出かけていったな。
つまり、俺は宿で待機してろという訳だよ。俺を目印に帰ってくるんだからな。
ちえ、アベルにつけてあれば俺は一人でぶらぶら出来るのに、これじゃぁ宿屋でアベルと留守番してろってのと同意だぜ?
「明日からは地下かぁ、どんな所だろう」
「んー、さぁな」
正直、リコレクトしてみたけどあんまり情報降りてこない。アベルも聞いてくるんだから状況は俺と同じだろう。
要するに、シェイディ国についての知識が俺らにはマトモに無いという事だ。
「地下ってんだし……そうだなぁ」
地底大陸って事じゃねぇのかな?……大地の下に穴掘って、魔導師達の技術力で意地されている所っていうイメージなんだがどうしても、俺の想像力は人工陽に照らされた……宇宙コロニーみたいな感じになってしまう。うう、乏しいなぁ想像力。どうしてもすでにある某イメージが先行しやがる。
「ナッツが言うにはあんまり居心地はよくないって」
「ふ、ふーん」
いつの間にやらナッツとそんな会話をしていたのだな、とは一瞬思ったが慌てて平静を装う俺だ。
「何でも、今だに土地が足りないとかで……拡大工事が続いていて掘り進めているらしいわよ」
俺の脳裏にはナチュラルに某老舗ゲーム本舗のアレが地底人目がけてボコボコ穴を掘るパズルゲームを連想し思い浮かべてしまっていた。地底大陸というネタはよくあるのだが。掘り進むっつーとどうしてもな。
おかげでなんか広大な、古代生物が闊歩するような広々としたイメージから一気にスケールが縮む。
「って事は、案外狭かったりするのか?」
広大な地下大陸、っていうのを想像ていたりもした俺だ。天井が見えないくらい高くてここは本当に地下なのか?と疑うみたいな。
でもどうやら、そういう雰囲気じゃ無さそうだな。
「うん、狭苦しいってナッツは言ってた」
何でまた奴の名前を連呼しやがるんだコイツ。
……あれ?もしかして……俺への当て付けか?いやいやまさかなぁ。リアル-サトウハヤトならちょっと疑い入る所だが戦士なヤトは軽く、一瞬思った事を受け流して。
マツナギの件で色々考えていた事を口に出す。
「なぁお前、」
俺はソファを独り占めして寝そべっているアベルを振り返る。宿、大部屋しか取れなかったのだ今回。てゆーか冒険者一向って本来部屋を分けれる程金持ちじゃねぇんだよな。
「何?」
「ナッツって何で俺らについて来てるんだ?」
「はぁ?」
アベルはあきれた声を上げてこちらを振り返った。話題につられて、寝ていたアインも起き上がる。
「割とどうでもいい事だと思ってたんだよ、俺はさ」
「何が?主語抜いて話さないでよ」
「うん……その、重いっていうそれぞれの過去が、だな」
途端アベルも気まずそうに口を閉じた。
だから俺はあえて主語を抜いたんだからな?まぁ、レッドと違ってそんな俺の心遣いなど理解する奴じゃねぇよなお前は。
「今回レッドの話を聞くはめになって、そんでこれからマツナギの出身地に行くだろ?……彼女、絶対平気じゃないと思うな。何かあるんだと思う」
「まぁ、あるでしょうねぇ。出身地となればさ」
アベルは他人事のように呟いてソファから起き上がった。
「それで他の連中のも含めて考えて見て思ったんだよ。俺は人の都合に物凄く無関心だったな、って。マツナギは本来ナッツが雇ったという傭兵だったよな?」
はい、これ本邦初公開だったと思います。
俺がどれだけ人の都合に無頓着だったのかよく分かっただろう。マツナギがナッツの付き人であるのは知っていたが、それを意識した事が殆ど俺には無かった。
ついで、どうしてナッツが俺らと一緒に行動しているのか……実はちゃんと知らないのな。
傭兵であるマツナギとどうやって出会ったんだっけ?という事をリコレクトしていたらふっと、その事を俺は今更ながら思い出したりする。
「確か……バランスの悪いパーティーだね、とか言って強引についてきたわよね?」
「そうなんだよ。回復役に僕を連れて行かないか?みたいな成りゆきだったんだよな?そうやってメンツが二人増えた事に難色示したのって誰もいないんだよ。だから自然と仲間になってた感じで」
俺は腕を組んだ。
「……ナッツならマツナギの事もあるいは、知っていたりするのか……?」
昔からそうらしいが、シェイディ国って入国厳しいらしい。
つい最近までパス……つまり通行証明なるモノを作らないと入国できないって程だったとも言うが……でも。
それって、リコレクトするにマツナギから聞いた話なんだよなぁ。
実は、彼女と話す時は色々気をつけないといけない事があったりする。それはたまーに……リアル事情が遠慮なく混ざる、などという事じゃなくってだな……大体それは俺も任意でやってるお遊びだから。
ええとそうじゃなくて……彼女、俺達のパーティーの中で飛びぬけて年上なのな。すげぇ、長生きしてんだよ。
だから彼女の言う『最近』つーのは、軽~く百年前だったりする事がある。
よって、その通行証制度が何時まで続いていたのかは正直、人間の俺にははっきりとした所分からん。
貴族種と人間てのはもうなんかこう、生きてる次元が違うんだよな。当然と文化的にもモノの考え方にも大きな差がありすぎる。それこそ、人間から見れば貴族種は長生きだし美人だし能力高いしで思わず敬いたくなるを通り越して羨ましかったりするとかで……。
貴族種と人間の仲ってのは二分すんのな。
尊敬、尊重して敬うか、妬んで憎んで距離を置くか……両極端どっちかの対応になるそうだ。
遠東方エズの闘技場では貴族種の登録選手なんて居ないぜ。理由は指で数える程にある。
貴族種の奴隷が皆無な事、選手生命が短くローテーションの早い環境に長生きの選手は向かない事、貴族種は元来戦いを好まない和平の種族である事、他もろもろ。
割と俺、エズでの暮らしが長かったからさ。貴族種って珍しかったりする。好きか嫌いか極端な差が出るというが間違いなく、俺……貴族種大好きだな。
第一にスタイルいいし、美人だし、乳デカイし。
……ん?別に貴族種関係ねぇとか言うなそこ。
「俺、シェイディ国初めてだけど」
そう言って自主的に挙手してみた。すると、我も我もで手が上がる訳だ。
「船嫌いの俺が用も無く島国に、わざわざ行くと思うのか?」
とはテリーの談。
「経験浅いですから~10歳児ですから~」
「誰に聞いてるのよアンタは」
というのはアインとアベルな。
「まぁ、僕は一応行った事になるのかなぁ」
ナッツは腕を組んで、なぜか自分の事なのに頭を傾げている。俺はマツナギ除いてもう一人、挙手してないレッドを振り返った。
「お前は?」
「勿論、あります」
何故勿論なのかは俺には分からんが。……なんで勿論なんだ?
そんな疑問が俺の顔に書いてあったとでも言うのか。
「色々と保守する仕事の関係で、シェイディ国と東国のランは転移門で繋がっているのです。何なら、シェイディ国の用事が済んだ後に魔導都市にでも行きますか?」
良い顔をしない人が大半なのになぜかナッツだけそりゃぁいい、的に相槌を打ったな。ちなみに俺には……リコレクトすると良い思い出が無いっぽいです。
「ナッツ、何でお前は嬉しそうなんだよ」
「え?だって、大陸座の居場所とか調べるのに一番適しているじゃないか。というか、他に手掛かりが無いんだし、魔導都市に行って見たらどうだろうって提案しようか迷ってたくらいだよ」
魔導都市ランというのはまぁ、いろいろあるんだが何だ。知識の坩堝だ。
知識という知識が集う街である。なので、ナッツの提案は最もなんだが……。
「凄い所だと聞くね、一度行ってみたいと思っていたよ」
唯一立場中立のマツナギは魔導都市も初体験か。そっか、本当にシェイディ国からまともに出た事が無かったんだったな。
そんなマツナギに、実は一番嫌な顔をしたであろう……とは言うがドラゴンに表情は無いので俺達の単なる推測なのだが……アインが喚いた。
「凄い所って言うより酷い所よ?魔導都市に行く?あたしは反対!断固反対~ッ!」
「鳥篭にでも入れて黙っていればただのチビドラゴンで通ると思うけどな?」
「あたしを籠に入れるのぅッ!?」
テリーの至極楽観的な言葉に怒った様だな。アインは鼻から軽く火を吹き出しながらテリーの頭を羽で叩いている。
「そんなの酷いわ、それが嫌なのに!」
「じゃぁ、首輪でもつけてペットとして」
「でなきゃ、黙ーって人形か剥製のフリでも……」
「ムリーッ絶対ムリー!」
ついには癇癪起こしてアインは会議室として使わせてもらっている、昼過ぎで人の居ない食堂の低い天井を飛び回った。
「断固反対!断固拒否!」
「……こりゃ、行けそうに無いな」
「いい提案だと思ったんですけどねぇ」
確かに、行きたいくないというアインの気持ちに同調する俺達であるが、レッドやナッツが提案した事も悪くない。というか、それがベストだよな?間違いなく。
「うーん、絶対拒否はアインだけか?」
一応テリーとアベルに向かって聞いてみた。
「ナッツの主張も確かに分かる」
テリーは首の後ろを掻きながらアインとは目を合わせないようにしている。対しアベルは何故か威張り気味に腕を組んで断言。
「進路についてはあたし、口出しする権利無いもん」
そうだな壮絶方向音痴。それだけは良く分かっているんだなお前。
今後このように、じっくりと作戦会議する時間が取れるとも限らない。というか、アインみたいな『行きたくない』という頑なにふんばる奴が現れると時間を食うんだな、説得に。
俺達はシェイディ国で他に何か急ぎの用事が入らない限り、次に東国ペランストラメールの魔導都市ランで情報収集する事になんとか、決めた。
アインを納得するのにあの手この手で宥めすかして○時間……面倒だからスキップ。
脱線は何時もの事だが、そういえば俺、聞く事があったから『シェイディ国行った事あるか?』で話を振ったんだよな。
ようやく話が戻って来てスキップ終了。
「通行証って今も必要なのか?」
「何世代前の話をしているんです」
例によって眼鏡のブリッジをつっと上げて、レッドから鼻で笑われた様です。
ぬぅ、しかしマツナギを悪くは言えない。ソースの出所がテリーとかナッツやレッドだったらまだしも、マツナギだったので俺は黙ってその屈辱を耐えた。
「というより、よく通行証制度があったの知ってたね?」
ナッツさん、何ですか?それはまた際どいポイントからの俺虐めですね?
「……どうせ俺ぁ世間知らずですよ……」
「僕は誉めたよ?」
「誉め殺しって言うんだそれは」
そんなつもりは無いってか。でも一応その俺の気持ちを察したらしく苦笑している。天然具合はリアルキャラから強化されてねぇかお前?
「確かに、前期においてシェイディ国は軽い鎖国制度を布いていました。そうせざるを得ない事情があったのです。ですが、今はその問題は完全に解決していますので煩わしい手続きは不要です」
「何か準備がいるなら焦らんでも、こいつらが何か言うだろ?」
確かにそりゃぁそうだ。知識量底辺の俺が心配する事じゃなかったよ、畜生。
「今日の夕方にはミストルーンディに着くようです。実は、すぐに首都への移動に入れるように段取りを済ませようと思ったんですけどね、良い地図が手に入らなかったんですよ」
「すまないね、まさか戻ってくるとは思わなかったからさ……地図は手放してしまった」
マツナギはやや苦笑している。その笑みが、どこかぎこちない気がするのは俺だけだろうか?
彼女が部屋ではなく、何故か甲板で休んでいる事情もいまだ良く分からない。
彼女が話そうとしないからな。無理に話せ、とも言えないしだからと言って、誰彼構わず彼女の状態を言いふらすのもなんだ。
俺はアインにもマツナギの状態の事は他言するなと止めている。
「テリーさんは相変わらず具合悪そうですから」
というレッドの言葉にテリーはすまないとややうなだれている。
「ミストルーンディで一泊しましょう。そこで地図を得てから詳しい話をお聞きしようと思います」
マツナギはその提案に無言で頷いた。
うーむ、どうしたものかな。
俺は他の連中に迷いを悟られないように気をつけながらちらりと、マツナギを眺める。
間違いなく彼女、何か抱えてるよな?
シェイディ国は彼女の出身国で……そう、経験値の上昇に伴なう『背景の重さ』について、彼女はまだ何もそれらしい事を語っていない。
解散となった所で、俺はアインに目配せした。
割と気配りの出来る奴であるアインは俺が何を考えているのか、承知しているらしい。アクションを起こす気配を察知してアイコンタクト返し。
「上陸準備だね、羽の手入れしなくちゃ」
ナッツの独り言にテリーは羽持ちは大変だなぁと返しつつ、酔い止め薬の副作用で欠伸をかましている。
「レッド、時間になったら起こしてくんねぇ?」
「まだ寝るんですか?」
「しかたねぇだろ、眠いんだから」
船室へ戻る一同の後ろを付いていくアベルを見送って、俺とアインは上番へ続く方の扉から外に出た。
アベルは方向音痴だ。
同行者が居ない限り、ヘタに動き回る事は出来ない。
「マツナギ!」
そして、気配もなくいつの間にやら甲板へ上がろうとしている彼女を俺は引き止める。
驚くかと思ったけれど、彼女はゆっくり足を止めて振り返った。
「ああ、どうしたんだい?」
しかし何事もない様に彼女が笑うので俺は……足を止めてしまった。
何故かって?
俺には、彼女の笑みの意味が分かってしまったからだ。
無言で俺の頭を突付くドラゴンに、慌てて正気に戻る。
そうだ、いかん!こんな所で足を止めるな戦士ヤト!お前は今サトウハヤトじゃない。
相手の『拒絶』に戸惑うな。
何事も無かったかのように俺をその場に置き、マツナギは階段を登り切ってしまっていた。慌てて駆け足で俺は軋む階段を駆け上がる。
その勢いで、彼女の手を掴んでいた俺。
「……待てよ」
ああでも俺、ちょっと待って。その後になんて続ければいいんだろうッ!?勢いでこうなっちゃうのは戦士なヤトの悪い癖だよなぁ。
無言で背中を向けているマツナギの、反応待ちをしてしまう。
「……大丈夫だよ」
こちらを振り返りもせず、そう言った彼女の言葉に。
俺は騙されて。
途端緩めた手をするりと振り払い、マツナギは行ってしまった。
ドラゴンから突付かれている。全くだ、俺……何してんだろ。離してしまった手をまじまじと見つめる。
「大丈夫って、言ったな」
「バッカねぇ、そんなのダイジョブじゃないに決まってるじゃないの!」
「そ、そんなもんか?」
「そうよ、見た目全然大丈夫じゃないのにダイジョウブって言うのが男で、見た目普通でダイジョウブ言って男をはぐらかすのが女の子なのッ」
俺は奇妙な顔で某、恋愛シミュレーションゲームにおける感情値の変化チャートを必死に思い出している。いやいや、ちょっと待てアイン。
「でもそれは、ゲームな話だろッ?」
「リアルだって似たようなもんよ!多分!」
力いっぱい多分って言わないでくださいアインさんッ!説得力なしだ!
俺はうなだれて少し苦笑して……ふっと聞いてしまった。魔が差したんだと思いねぇ。
「なー、これリアルの話だけど、お前……彼氏いる?」
「えッ、何?それってリアル告白?いやん、ホモ同人女がリアル男を好きなるはずないじゃないッ」
などと、頬を赤らめながら(推定)言うセリフかそれ?
「つまり居ないんだな、彼氏」
「ダメッ☆ 男と男じゃなきゃあたし嫌」
アインさん……。
俺は何故か涙が出そうになるんだけど何でかなぁッ?それでもそんな彼女に容易く嫌悪感を抱かなくなった俺自身にも泣ける。
「じゃぁ俺がマツナギを追いかけるのはどうなんだ?」
「いいのよ、ヤトはいいの!テリーだったら邪魔するけどヤトだったら許すのッ」
「はぁ?何で」
「それは、言えないッ」
と、言って小さな手まで首を伸ばして頬を抑える仕草のチビドラゴン。……見た目可愛いんだが……その脳内妄想がどんな具合なのか恐ろしい……。
俺はふっと真面目な顔でそんなチビドラゴンを見やる。
「こっちの告白はアッチで適応しないのかな?」
「お互いここの展開をリコレクト出来ればいいけどねー?でも、夢で片付くでしょ?」
アインはぺちりと俺の額を羽で叩いた。
「トビラの出来事は現実に持ち帰らない。もとい、持ち帰れなのよ?それはリアルでがんばりなさい」
「その言葉、俺、絶対リコレクトしてやるからな」
「問題はハヤト君次第よね」
俺は額を抑えて溜め息を漏らした。
サトウハヤトは俺であるというのに、リアルでは俺、こんなに強気に話す自信が無いんだよなぁ……トホホ。
「いや待て、ならお前も混同させるんじゃねぇ。こっちの世界に来てまでどうしてお前は腐女子思考なんだ?」
「そういう趣味じゃないあたしなんて、アタシじゃないわよ?」
こ、小首を傾げて可愛らしく言わないでくださいよッ!くそう、言ってるセリフの内容のヒドさに俺は、再びがっくり項垂れる。
つまり、こっちの世界でも腐れ思考するキャラクタだって事だなアインは。
「くそぅ、ここでまともな女の子はやっぱり、やっぱりマツナギだけなんだーッ」
と言いつつマツナギを追いかける俺。
「アベちゃんはー?」
「ばかやろう、あれは論外だ!女じゃねぇッ」
「こっちでもそこまで言わなくたって」
「おぁッ?何スかそれは、こっちだったら上手く行くとでもっ?」
「……行ってないんだ」
う、誘導尋問されたのか?
気が付いたら俺、頭に血が昇っててマトモな思考が出来てない。俺の頭に首を任せるようにチビドラゴンがしがみついた。
ぬ、小さな手で頭を軽く叩かれるというか、撫でられている気がする……。
「がんばれヤトッ。お姉さんは応援しているわッ」
「何スかそれ、どういう意味スかーッ!?」
と、俺は危うくマツナギの隣を通り過ぎるところでした。慌てて立ち止まり、マツナギが海を眺めている手摺りの隣に強引に落ち着いて焦る気持ちを色々と整理する。
「……どうしたんだ?」
「いやー、色々あってだなー!」
言いつつ頭からドラゴンをひき剥がし、嫌がるのをお構いなしに頭をグリグリとしてやったり。
「さっきも言っただろう、あたしの事は心配ないよ」
「いや、そうは言ってられん。溜め込んで暴走した奴を見ているだけあって俺は、放ってはおけん」
とは、もちろんレッドの事だ。しかし勿論、レッドの行動が『暴走』だと知らない二人は何の事かと首をかしげた。
「ぶっちゃけるとだな、俺アインに猛アタック掛けてるんだけど見事に振られまくってて……」
マツナギ、明らかに飽きれた顔になった。
「だって、それドラゴンだよ?」
「……知ってます」
人間が竜に求愛ってのがどれだけ滑稽か位は俺だって分かってますよええ。
いくら頭が良いったって、生物分類的には隔たりが大きすぎる。人間が貴族種と恋愛するのだって社会的には大問題だってのにな。
リアル世界と違って、多種多様な種族ひしめくこのトビラの世界では、割と同種間恋愛がスタンダードなのだ。
勿論、種族を超えた恋愛がタブーという訳ではない。しかし生物的な子孫繁栄の観点から言うと優位な生物……この場合多く魔種だな……の方が遺伝能力高いのな。
例えて人間と貴族種が結ばれたとしよう。すると、圧倒的な優位遺伝である貴族種の特徴が人間を凌駕する。生まれてくる半貴族ははっきり言って殆ど貴族種である。人間的な特徴なんてものは、無いに等しいと言っていい。
……俺が何を言いたいのか、と言うとだなぁ。
人間は、大人しく人間を好きになるという事だ。
幾ら美形だからってホイホイと貴族種に惚れちまう事はめったに無い。反応が二分すると言ったよな?嫌うか、恐れ敬うかの二択だ。同等な存在だとは思わんのだよ。種族が違うのに同等の立場になれる事は非常に稀だったりする。
よって、俺とマツナギの立場はその稀な部類になる訳だな。というよりは何でもかんでも対等に接して惚れちまう様な俺が稀なんだろうけど。
「このチビドラゴンから散々な言われ様をして傷心してる訳ですよー」
隣でふっと、マツナギが笑った気がする。この場合はいいのだ。俺は彼女に笑ってもらいたかっただけだから。
「あたしに慰めてもらいたいのかい?」
「本気で落ち込んでたらな。そん時はお願いする」
俺は苦笑してアインをようやく開放してやった。
「……何を抱えてるか知らんが……。本当に大丈夫なのか、お前」
心配しているんだ、という事を訴えるのにいつでも笑いながらじゃダメな事くらい知っている。俺は真面目に聞いた。
「……心配掛けてしまったね。でも……大丈夫だよ」
「……」
「ヤトは自分の過去を語る事が出来る?」
「んぁ?……まぁ、そんなに重いとは思ってねぇし。大体知ってる奴もちらほら居やがるしなぁ」
「そうかな。……それでも言い辛い事はあるんじゃないのかい?」
「別に、辛かねぇよ」
苦笑が出た。何だ、この苦笑い。
自分の表情ながらちょっと戸惑う。
「それと同じだよ」
マツナギは笑って俺を振り返った。
結局の所俺は……その笑みに騙されてはぐらかされてしまったのだった。
船は昼過ぎにはシェイディ国の玄関であるミストルーンディに到着し、個別に話をする間が無くなっちまった。
ユースとキリュウに挨拶して、今後連絡を取る方法とかもちゃんと聞いてな。
町に出たら地図込み買い出し組と情報収集組と、宿確保組で別行動になりまたしてもッ。
……俺はアベルとアインを押し付けられてしまった。
確かに俺は買い物や情報収集には向きませんよ!アベルとアイン同じく。とまぁ、文句言ってもいかたないのでお互い不機嫌な感じで宿の手配をすませた。
情報収集はナッツの仕事で他は買い物だ。レッドとナッツは俺に『探査の糸』という相手の居場所を探る魔法を付けて出かけていったな。
つまり、俺は宿で待機してろという訳だよ。俺を目印に帰ってくるんだからな。
ちえ、アベルにつけてあれば俺は一人でぶらぶら出来るのに、これじゃぁ宿屋でアベルと留守番してろってのと同意だぜ?
「明日からは地下かぁ、どんな所だろう」
「んー、さぁな」
正直、リコレクトしてみたけどあんまり情報降りてこない。アベルも聞いてくるんだから状況は俺と同じだろう。
要するに、シェイディ国についての知識が俺らにはマトモに無いという事だ。
「地下ってんだし……そうだなぁ」
地底大陸って事じゃねぇのかな?……大地の下に穴掘って、魔導師達の技術力で意地されている所っていうイメージなんだがどうしても、俺の想像力は人工陽に照らされた……宇宙コロニーみたいな感じになってしまう。うう、乏しいなぁ想像力。どうしてもすでにある某イメージが先行しやがる。
「ナッツが言うにはあんまり居心地はよくないって」
「ふ、ふーん」
いつの間にやらナッツとそんな会話をしていたのだな、とは一瞬思ったが慌てて平静を装う俺だ。
「何でも、今だに土地が足りないとかで……拡大工事が続いていて掘り進めているらしいわよ」
俺の脳裏にはナチュラルに某老舗ゲーム本舗のアレが地底人目がけてボコボコ穴を掘るパズルゲームを連想し思い浮かべてしまっていた。地底大陸というネタはよくあるのだが。掘り進むっつーとどうしてもな。
おかげでなんか広大な、古代生物が闊歩するような広々としたイメージから一気にスケールが縮む。
「って事は、案外狭かったりするのか?」
広大な地下大陸、っていうのを想像ていたりもした俺だ。天井が見えないくらい高くてここは本当に地下なのか?と疑うみたいな。
でもどうやら、そういう雰囲気じゃ無さそうだな。
「うん、狭苦しいってナッツは言ってた」
何でまた奴の名前を連呼しやがるんだコイツ。
……あれ?もしかして……俺への当て付けか?いやいやまさかなぁ。リアル-サトウハヤトならちょっと疑い入る所だが戦士なヤトは軽く、一瞬思った事を受け流して。
マツナギの件で色々考えていた事を口に出す。
「なぁお前、」
俺はソファを独り占めして寝そべっているアベルを振り返る。宿、大部屋しか取れなかったのだ今回。てゆーか冒険者一向って本来部屋を分けれる程金持ちじゃねぇんだよな。
「何?」
「ナッツって何で俺らについて来てるんだ?」
「はぁ?」
アベルはあきれた声を上げてこちらを振り返った。話題につられて、寝ていたアインも起き上がる。
「割とどうでもいい事だと思ってたんだよ、俺はさ」
「何が?主語抜いて話さないでよ」
「うん……その、重いっていうそれぞれの過去が、だな」
途端アベルも気まずそうに口を閉じた。
だから俺はあえて主語を抜いたんだからな?まぁ、レッドと違ってそんな俺の心遣いなど理解する奴じゃねぇよなお前は。
「今回レッドの話を聞くはめになって、そんでこれからマツナギの出身地に行くだろ?……彼女、絶対平気じゃないと思うな。何かあるんだと思う」
「まぁ、あるでしょうねぇ。出身地となればさ」
アベルは他人事のように呟いてソファから起き上がった。
「それで他の連中のも含めて考えて見て思ったんだよ。俺は人の都合に物凄く無関心だったな、って。マツナギは本来ナッツが雇ったという傭兵だったよな?」
はい、これ本邦初公開だったと思います。
俺がどれだけ人の都合に無頓着だったのかよく分かっただろう。マツナギがナッツの付き人であるのは知っていたが、それを意識した事が殆ど俺には無かった。
ついで、どうしてナッツが俺らと一緒に行動しているのか……実はちゃんと知らないのな。
傭兵であるマツナギとどうやって出会ったんだっけ?という事をリコレクトしていたらふっと、その事を俺は今更ながら思い出したりする。
「確か……バランスの悪いパーティーだね、とか言って強引についてきたわよね?」
「そうなんだよ。回復役に僕を連れて行かないか?みたいな成りゆきだったんだよな?そうやってメンツが二人増えた事に難色示したのって誰もいないんだよ。だから自然と仲間になってた感じで」
俺は腕を組んだ。
「……ナッツならマツナギの事もあるいは、知っていたりするのか……?」
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