異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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7章  白旗争奪戦   『神を穿つ宿命』

書の1前半 ディグダッグ『掘り進め地底大陸』

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■書の1前半■ ディグダッグ Dig Dug!! 

 流石はシーミリオン国保有の早い船。
 世界最速と名高いエイオール程じゃぁないが、ケレフェッタ沖から珊瑚海を横切り、中央海にひっかからないように氷牙海を回りこむ形で船は進み、3日目の朝。

 朝日が眩しくという、珍しい感覚で目を覚ました。俺は小さな窓の外に空が見えているのを確認する。
 シーミリオン国の船は海中を進むからな、こうやって空がダイレクトに見えるのは珍しいのだ。

 あ、こっちの世界特有の言葉を使っちまったので説明しておこう。『中央海にひっからないように』というのはだな。これはこの世界の常識5本指に入る事なのだが……ファマメント国の北東および、シーミリオン国から南東、そしてシェイディ国から南西にある海の事を中央海もしくは『精霊海』と呼んでいる。この海は、この世界きっての『異界』として恐れられているんだな。
 この異界の先には『中央大陸』っていう伝説の陸地があると言われている。レッドがギガースの居場所の件で言ってた話でも出たよな。

 この世界には大きく総称して8つの海があるが、航海危険度ナンバーワンに君臨し続けているのが精霊海……この中央海域であったりする。田舎者の俺でさえ、その海の異様な伝説は知っている位である。

 この海を進む場合の約束事はたった一つ。
 陸を見失ってはいけない事。

 中央海にあって、陸地を見失ったが最後だ。二度と八精霊大陸には戻って来れなくなると伝えられている。
 実際、見失ったと思われ戻って来れなくなった行方不明の事例がわんさかあり……当然中央海の中央にあると言われている大陸、中央大陸に行って、戻ってきたなどという輩は存在しない。
 存在しないのだ。

 船に限った話じゃない。
 昔、飛竜に乗って中央大陸に挑んだ冒険家が居たらしいがこれも当然そのまま行方知れずだ。

 比喩じゃないのな、マジなのだ。真面目に言って中央海は恐ろしい海で、八精霊大陸を見失ったが最後、全てのモノをすべからく、異界送りにする。
 海中を進むシーミリオン国の船とて例外ではない。中央海に入ってしまったら二度と戻って来れなくなる。そのため珊瑚海を牙海に向け、シェイディ国のある北方大陸を回り込む形の航路を取っている訳だ。


 俺は欠伸を噛み殺しながら甲板に上がり、雲の合間に見える眩しい朝日を仰ぐ。
 黒々とした海、航路通りなら恐らくここは緑深淵……コウリーリスとシェイディの間にある、最も深いと言われる海だろう。

「あら、お早いですね」
 声に驚いて振り返ると、すっかり身支度を整えているユーステル(中身はキリュウ)だ。
 俺は慌てて寝癖をなでつける。
「おはようユース」
 周りに誰も居ないと察して俺は、砕けた感じで軽く手を上げて返答した。ユーステルも笑って穏やかに吹く風に靡く、エメラルドグリーンの海を思い出させる長い髪を海貴族特有の長い耳に引っ掛けながら手摺りに手を置く。そうしてから海を遠く見つめた。
「やっぱり、高速船なんか手配するんじゃなかったなんて……そんな事を言ったら、怒りますか?」
「え?」
「……あっと言う間なんですもの。急ぐ旅だとは承知しているけれど……正直、私も自由に世界を旅して周れたらなぁって、貴方達を見ているとうらやましくなっちゃって」
「……ユース……」
「仕方ないんですよね」
 遠く海のかなたを見つめて、ユーステルは溜め息を漏らした。
「こんな身体になってしまって……、でも私も何かせずには居られなかったんです」
 こんな身体、というのはアレだ。
 ユーステル、可愛いけど男……の身体の中に女の子であるキリュウの精神が居て。
 キリュウ、きりっとしているけど女……の体の中に男であるユーステルの精神がいる、って状態な。
「……どうしてそんな事をしたんだよ」
「彼は余り話したがりませんけれど」
 ユーステルは俺を振り返る。こんなに美少女っぽいのに実は美少年というのが……ああ、実に勿体無いッ!
「……私、ユーステルの力になってやりたかったんです。兄の代わりにでも」
「それが……理由になるのか?」
「……兄は別に王子の事を好きだとか、守ろうとか……そういう感情とか観点は持ち合わせていないように思います。でも……」
 そりゃそうだろうな。
 俺がリュステルだったら、男なんかいくら可愛ったって好きにはならんぞ?ちなみに、男の『好き』というのは言葉で言い現すだけに留まらない事をしっかり抑えておいてくれたまえ。重要だからそこ。
「玉座にも興味ないんだろ?」
「無いでしょう」
「……王にはならないが執着してるって、……王子にか?」
 いよいよもってそれは、アインさんの出番っぽい展開でしょうか?などと考えて置いて、俺は砂を吐きそうです。
「……ナドゥとして、色々接してみてどう思いますか?」
 おっと、そうだった。
 キリュウの兄のリュステルってのはすなわち、あのナドゥのおっさんだってのを、すっかり忘れてた。
 どうも思い描いていたキャラとのギャップがあるんだよな。
「うーん、言っちゃ悪いがありゃ、マッドだな」
「……マッド、狂っている、という意味ですね」
 うっかり英単語を使ってしまったが、こっちの世界だと日本語として通用しているカタカナ語以外は『古代語』扱いになり、一般常識では無く通じない事があり経験値マイナスの対象になるのだが、ユーステルに意味が通じた所セーフだろうか?
 俺は東方人であり、その後遠東方に住んでいた都合、西方よりかは古代語に接する機会は多い、という文化背景になっている。闘技場育ちなので、戦士ヤトが狂っているという意味の『マッド』を知っていてもおかしくはないはずなんだが。
 内心、でも言葉遣いには気を着けような俺、と思いながら首の後ろを掻いた。
「合理主義みたいだけどその分、やらかす事に迷いが無いっつーか……なに考えてるか分からないというか……」
 そういえば、ユーステル(キリュウの外見してる方)も意図が読めないと唸っていたよな。
「常人的な考え方で理解しようとしても出来ないんです」
 そう、らしいな。
「私……兄の事、嫌いにはなれなくて」
 うん?まぁ兄妹ってんならそりゃ、俺は個人的にはお兄ちゃんと呼ばれるシチュエーションは萌えだよ?
 ナドゥの奴がどーなのかは知らんが……思うに、お兄ちゃんと呼ばれるのが嫌などという輩は存在するのであろうか?それって兄および男としてどーよ?などと、ちょっと偏った意見を主張して見る。
「世間から遠く身を置いて、人とは違った嗜好と思考を持っていて……。偏屈で人付き合いが物凄くヘタで、シーミリオン国を救うのだって全然乗り気じゃなかったんですよ?……兄にとってはそんな事、どうでもいいみたいだった」
 海中で生きる事が出来る魔種になる薬を開発したんだってな。それが即ち、国を救った事になってるんだ。

 俺が昔危惧した通り、今やそのノウハウを赤旗ぶっ立てた怪物作り上げるのに生かしてやがる。
 ナドゥ自身に赤旗立ってない理由に納得だ。
 魔王八逆星と呼ばれている、あの規格外の連中。
 ギルを含めて……結局の所アレ、全部ナドゥの『作品』って訳だろ?

「でもそれが、突然魔王討伐に参加するって言い出して、前王と約束した通り玉座を意識してみたり……結局戻ってこなかったけれど代わりに突然、八逆星のギルが現れて国の腐敗した中枢を乗っ取られたり……」
 ユーステル(中身はキリュウ)は目を細める。
「実は、兄さんはあれでちゃんと私達や国の事を考えてくれているのかなって……その変化を嬉しく思っていたんです」

 それが、兄はどこかで生きているから探してくれ、という彼女の突飛なお願いに現れた訳だ。

「でも南国で会って……」
 目を伏せる。
「私の気持ちは揺らぎました」
「酷い事言われたのか」
 ユーステルはふっと辺りをうかがい、誰も居ない事を確かめてから口を開いた。
「身体を取り替えたのは私が兄に代わって責任を取りたかったからです。……ユーステルはたった一人だったから……自分が女王であるという事を隠し通す自信が無いようでしたし。だから私が隣にいて同じ運命を共にするという意味で……交換する事にしたんです。幸いキリュウは、兄と同じくあまり顔を知られていませんでしたし」
「そうだったのか」
 一筋縄では行かない理由だ。

 まずユーステルが王女として認知されていると云う状況、ユーステルに味方が居なくて一人だという状況、および……そんなユーステルを助けなければいけないと思ったキリュウの状況を把握させない事には明かせない。なかなか振れない話だったんだな。
 俺達に気軽に全て話せる事じゃぁなかったんだ。

「……でも、失敗だったかなと後で思ったりもしました。……この状況を、安易に戻せなくなってしまって」
「おいおい、そりゃまた……」
「ナーイアストにお願いしてこうしてもらったのに、ナーイアストに干渉出来なくなりましたからね」
 うへ、なる程、そういう事か。

 ユーステルとキリュウを入れ替える、などという実にコミカルな事をやってのけたのは……神のツール、ホワイトフラグデバイスであった、というオチか。

「結果的には良かった様です」
「良かった?」
「……恐らく、兄を出し抜けました」
「……どういう意味だ?」
 ユーステルはそっと、俺に近付いて肩を寄せた。
 見た目美少女なので、俺はその見た目に騙されてドギマギする。……本当の事など考えるな俺!考えるとへこむんだからッ!
「私が南国に攫われたのには、意味があったみたいです」
「何?」
「余計な事をしたな、と。そう言われました。どう言う意味だろうって考えていました。ずっと、それで私は……兄を無邪気に信奉する事は危険なのかもしれないと気が付いたんです」
「その事は……言ってないんだな」
「はい」
 小さく頷いてユーステルは答えた。
 誰にって?そんくらい分かれよ、外見キリュウの中身ユーステルに、だ。
「気をつけてください、」
 俺は無言で頷いた。
「ユーステルを不安にさせる訳にも行きませんから私は、今しばらくは黙っているつもりです。正直警戒はしますが、結局何を兄が企んでいるのかはさっぱり分からないんです」
 手摺りに置いていた俺の手を、ユーステルはそっと掴んだ。
 相変わらず柔らかい、壊れそうなほど繊細な手。
 ああ、これで実は(以下略)
「ナドゥとして貴方達は私達より多く、彼に関わる事になるでしょう。気をつけてください、八逆星などというものを傘にして……あの人は多分、もっと世間的にはどうでもいい事を画策している可能性があります」
 ふぅむ、じゃぁ俺が真面目に危惧したナドゥの目的についても、ハズレである可能性もあるって事だな。

 世界の仕組みに気が付いて、それを直そうとしているのかと思ったけど……。実の妹の話だと、どうやらリュステル=ナドゥというのはそーいう事をやるような人物ではない様に感じる。

 さてな、見えてる事と感じてる事と、一体全体どっちが『真実』だ?
 演じているのはどちらで、本性はどれなのか。……レッドの例があっただけに俺はちょっと、そこらへん慎重になっている。

「……じゃぁ、無駄じゃなかったのかもな」
「無駄?」
「リュステルがナドゥだって分かったの、早く知らせてやんなきゃとか俺は割と焦ってたりしたんだけどさ。いざ口を開けたら『知ってました』だろ?」
 俺は苦笑して頭を掻いて、そろそろと彼女(いや、実際には彼なんだけど)の重ねられていた手を解く。
「結局の所、俺の行為は無駄だったのかなぁと、ちょっとだけ思ってたのな」
「そんな事はありません」
「ああ、その通り。やっぱり会って話しておいてよかったって思ってる」
 どうしてですか?とも聞けず、当たり前ですとも言えず。
 ユーステル(中身はキリュウ)が困った顔をする。
「危うく騙される所だったんだ」
 俺は風が吹いた海に顔を向ける。
「魔王八逆星はともかく……ナドゥの本性って奴をさ。まんまと、例え憎まれても世界を救うっていう奴らの詭弁にさ、大陸座を亡きものにしようとしている連中の事を、そうなんだって信じそうになってた」
 俺は地平線を睨みつける。
「やっぱりそんな単純な理由じゃありえねぇって事だろ?少なくともナドゥはそれだけに終わらない何か、企んでる節はある訳だ」

 とは言うが、実の所俺には元々迷いなんぞ無い。

 八逆星のやってる事が例え正当であったとしても、俺は連中を許すつもりは無いのだ。俺にはレッドの様に、奴らの思想に引きずられたりしないという自負がある。
 それでもやっぱり、いずれ連中の意見に同意しなくちゃいけない日が来たらどうだろうと、ちょっと恐れていたのは事実だ。
 ユースの言葉は、俺のその小さな迷いを振り切るだけの理由になるだろう。

 だからこれは、彼女……いや彼へのリップサービス。

「奴らとの戦いの前に、会えて良かったよ」
「……ヤト」

 何度も言うようですが、今俺の目の前でちょっと目をウルウルさせているのが
 本当の 美少女 
 ……だったらどんなに良かった事だろう。
 雰囲気的にはひしっと、抱きしめても誰も怒らないむしろ許す、くらいのシチュだと思わねぇ?
 ……出来ねぇけど。
 真実に気にせず抱きしめちゃったら、後で後悔するのは間違いなく俺だと思うし。

 大体……。

 俺は怪しい視線を感じて振り返る。
 船室に続く階段の隅でこっそりこちらを窺っていた、赤い爬虫類の鼻面が慌てて引っ込んだぞ。
 俺のそんな不審な視線につられて振り返ったユースがやや慌てる。
「え?誰ですか?」
「心配ない、ウチの出歯亀ドラゴンだ」
「でば……?」
 うん、ユーステル。
 それは理解しなくていい。



「何か?腐女子センサーでも働いてるのかお前は?」
「あー、割とあるかも」
 認めるなようぉいッ。
 ユーステルが去っていった甲板の上で、昇り行く朝日を見ながら俺とアインは反対側……すなわち西側に回り込んでいる。
 朝日を見てるって事は、方角的に東方大陸の方を俺らは見てたんだな。所が目的地はこっちじゃない。

 案の定、薄暗い雲の垂れ込める西の果てには、僅かだが灰色の陸地が見えた。

「シェイディ国だな」
「ヤトは行った事ある?」
「いや、無いな……お前は……当然無いか」
「うん、多分ね」
「多分って」
 アインは首を伸ばして俺を振り返った。
「あたしがサイバーとして生まれ変わる前に経験があるかもしれないわ」
「でも、そりゃカウントしないだろ?思い出さない事なんだから」
「うん、まぁそうなんだけど」
 くるりと長い首を回し、鼻をひくひくさせて空気を嗅ぎながらアインは言った。
「なんだか懐かしい気がするのよね。錯覚かしら?」
 よくわかんねぇな。嗅覚の世界はお前だけのものだし。俺は手摺りに手を置き体を預けた。
「マツナギは間違いなく、あそこの出身だよな」
「ドキドキしているみたい。……本当は、帰りたくないのかもしれないよ?」
「え?何で」
 俺って鈍いな、そうか。
 そういう可能性もあるよな。
 驚きつつ自分の頭を叩きたい気分になる。何分キャラクターが能天気でありまして、俺には帰りたくない所なんて無いのだ。だから、そういう考え自体浮かばなかったんだろう。

 大体俺には帰る所すらないのだが、それは戦士ヤトにとって別に辛い事じゃぁないのだ。生涯孤独者だろーし……まぁ唯一エズくらいなもんか?イシュタル国のエズに戻って闘技場生活を再開するってのも俺にはアリだ。実績を生かし、指導員的なので雇ってくれる所はあるかもしれない。

「ナギちゃん、部屋に戻ってないのよ」
 そう言ってアインは羽をばたつかせながら甲板をとてとてと歩いて行く。
 暫くしてから、アインは首だけ振り返って小さな手で、静かにというジェチャーを交えた。
 俺はゆっくりアインのいる所まで近付いて見て……ちょっとびっくり。
 上番のロープがしまってある小屋みたいな所に、マツナギが何故だかフル装備で、丸くなって寝ているのを発見したからだ。
「……なんでこんな所に?」
「わかんないけど……ずっと甲板に上がっていたみたい。気が立ってるみたいだから。そっとしておいてあげましょう」
 マツナギの部屋の扉を叩いても無反応だったのは……こんな所に居た所為か。思い出すに、ここ最近輪を掛けて大人しかった気がしてきた。発言もあんまり無かった気がする。
「……まったく」
 俺はしっかり鎧を着込み、武器である曲刀……ようは日本刀だ……と、大きな弓を抱えて眠っているマツナギに頭を掻きつつそっと近付いた。
「ヤト、ダメだって」
 構わず、俺は相手がこちらを見ていない事も承知で言った。
「心配事があるなら遠慮なく言えよ。相談に乗るからな」
 言うだけ言って背を向ける。
「……?」
「あれ、寝たふりだぜ」
 マツナギから離れつつ、俺は笑って頭に乗っかってきたドラゴンの頭を小突いた。
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