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7章 白旗争奪戦 『神を穿つ宿命』
書の6前半 消えない疑惑『それは暮れ行く空の色』
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■書の6前半■ 消えない疑惑 Evening sky colors
描かれた簡素な魔法陣……と思ったけど簡素じゃねぇや。
太い線だと思ったものは、よく見たら記号や文字で埋まってやがる。
広げた正方形の布の上に赤く輝く謎の文字。四方に配した石と同期を計った謎の石に手を翳しているのは……やっぱり女性の魔導師だ。
さっきはフードで顔隠してた黒衣の人だな。
中央には当然とレッド。魔法陣の外に北を女性の黒衣魔導、右手東に水色マントの壮年の魔導師。左手西はナッツだ、魔導書らしい分厚い本を片手にぶつぶつ魔法詠唱している。
「……どうしろって?」
「急ぐらしいな、高位にしては荒削りな魔導を行うハメになっている」
レオパードはそう言って、女魔導師の対角線上すなわち南に座り込んだ。座禅を組むようにして手を中央で組み合わせる。
「両翼は問題無いが、私とロキ……北座を勤める彼女だが……私達ではバランスを取れないのだ。代役を捜している時間もないし……恐らく見つからないだろう」
「……でも、居ないと困るんだろ?一人でも欠けると行使出来ない魔法って事だよな?」
この大掛かりの様子だと……よくは分からんけど。俺は本当に門外漢だからな。
「技術的な事は他の座が行う。北座は傍観の理、お前が北に座れ」
「ええっ?」
「全ての膳立ては高位が行った様だ。それによると、どうしても上位以上が4人必要だ。だが……現状それだけの人材を集められないのは高位も知っていたはず」
ちなみに高位、というのは紫位の魔導師の尊称である。
ようするにレッドの事だ。
黒衣の事は師位と言う。弟子を取る事が出来る位という意味だとか。で、上位というのが黒衣の上の位だったな。
そうか、壮年の東を勤める魔導師が上位か。
ナッツは魔導師ではないが魔法使いである、実力的には上位以上に匹敵するって所だろう。
ちなみにこの上位とか高位とかいう名称は魔導師同士でのみ使える呼称なので、俺を含め他はこの名前で呼ばないし呼べないそうだ。
「我々二人で一人分なんとか、上位の実力は出せよう。だが一人では無理だ。高位は端からお前を当てにしている所がある」
俺は当然黙ってしまった。
頼られるのはいいけど……本当に俺で代役務まるのかよ?
ナッツが詠唱を止めて顔を上げた。
「魔法はロキさんが発動させる。お前は維持すればいいんだ。あの時の魔法防壁と同じと考えればいい」
……迷ってたってしかたねぇ。
レッドを治す為に必要だってんなら俺は、迷う意味の方が見いだせねぇ。
「分かった、やってやる」
ロキという女性魔導師のリードに合わせ、石に……ってこれ、よく見たらオレイアデントから預かった石じゃんか。
デバイスツールを両手を重ねた上にのせてもらう。
同調している黒い石が僅かに宙に浮いている、その状態を維持すりゃいいらしい。魔力を円である魔法陣に供給するって感じだとか。魔法行使できない俺にも分かりやすくしたんだろうな、多分……レッドがそのように。
今奴は、中央に横たわって微動だにしない。目をきっちりと閉じている。
ふっと壁の脇に置かれているテーブルに割れたナーイアストの石が置いてあるのを見付けた。
取り出し手術その後、すぐにこの術式って事だな。
恐らくレッドは、昨日俺が盛られたような薬でもって麻酔が成されているのだろう。
北の座、というらしいこの魔導式に俺を組み込み終わり、レオパードに背を預けるようにしてロキというらしい彼女が座り込んだ。
「では、準備はいいかな」
上位魔導師の声に頷いて返す。
「始めてくれ神官殿」
「では、これより人工死霊の隔離および調伏を執り行います」
死霊調伏か、そりゃ確かに西方神官の役だよな。
とか思っていたら途端に、意識が吸い出されるような強烈な感覚が俺を襲う。
意識した事すらない、これが魔力の流れ?なんだか良く分らないが、何かが俺から流れ出してる感覚に意識が引き摺られる。
「ちょ……ナッツ、これは……」
「意識を落とさなければいいんだヤト、出来るよな?」
あの時の魔法防壁、というのはつまり……魔王連中を壁の中に閉じ込めた時のアレだよな。
潜在魔力というのは、魔法道具を使う時に使用する。魔法を使えない戦士が、魔法の付加されている武具とか道具を使う時に消費しているモノになるだろう。
判りやすく言えばマジックポイントだ。MPは戦士は使わない事が多い。ゲームによってはこのMPを消費して技を出すって事もあるが、その場合はマジックポイントじゃなくてメンタルポイントなどと呼ばれる事が多い気がする。
ともかく、潜在魔力というのはゲームに例えればマジックポイントなのだ。ただしゲームのようにレベルアップと共に増える事は無い。この世界に置いて、潜在魔力は先天的に備わるものでほぼ固定値なんだそうだ。じゃぁ魔法使い連中はどういう理屈で魔法を使っているかというと、コンピューターゲームに例えればターン消費による成功確立の是非に左右されていると言えるだろう。MPは極力使わない、潜在魔力というのはつまり、テーブルトークなどでダイスの出目に加える事ができる、特殊ポイントや経験値の事だ。底上げ用の数値という事である。勿論、行使する全ての魔法に適応出来る訳では無い。
だから、潜在魔力は魔法行使の実力には直接結びつかないんである。
これで大体イメージは掴んでもらえただろうか?つまり俺は、戦士設定にもかかわらずMP数値が異常というキャラクターなのだ。宝の持ち腐れをしている訳である。
とはいえ、魔法道具の行使や相手の魔法の底上げには、場合によっては手を貸せるので……実は魔法使いとの相性が良かったりもする。
しかしMPというものがどんなパワーなのか、戦士には皆目検討が付かない。魔法行使の修行をした事があるわけでもないからな。イメージ的には魔法の発動には『意思の強さ』が反映するので、俺が『魔法を維持する』と頭の中で唱え続ければオッケーであるらしい。
実際、俺は魔王を隔離した時そのように頭の中で唱えていた。
戦いながら常に気を張ってた、蹴り殺されそうになりながらも尚魔法防壁を維持しなければと、吹っ飛びそうになる意識を保つ事に集中していた。
戦いながら出来るんだからこんなの簡単……
……いや、甘かった。
魔法儀式が始まると魔力が吸い出される感覚がさらに強烈になる。
てゆーか、魔力ってのを全く意識してない戦士の俺には意識そのものが引っ張られるような感覚なのな。
要するにだ、強烈な眠気と戦っている感覚なのである。
ヘタをすると意識が遠退いて気絶しそうになる、ものすごい強烈な眠気。
歯を食いしばる、頭を懸命に振って振り払う眠気、姿勢を変える訳にもいかないので頭を振るのが精一杯。舌を噛む、噛みちぎって痛みを意識したら少しはましだろうかという感覚と戦っている。おかげでナッツがどういう儀式を執り行っているとか、観察しているヒマが無い。
むしろその詠唱が眠気を誘うッ!どうして魔法詠唱っていうのはそう単調なのだッ!
そんな意識と戦う中、俺は魔王連中を閉じ込めた時は必至で、むしろ死にそうになっていたからこそ魔法を維持出来ていたのかもしれない。そんな事をぼんやり思う。
極度の緊張があったから意識が高揚して、眠気を吹き飛ばしていたんじゃないのかな。
目の前が霞む。
どれくらいの時間落ちそうになる意識と戦っているのかよく分からない。
赤い、オレンジ色に光るものがゆっくりとレッドの体の中から染み出して中央に集まり巨大に育つのを見ているんだが……それに対して考えるまで、俺の意識が回らない。
すっかり巨大なオレンジ色の玉がレッドの上、魔法陣の上、天井ギリギリの所に浮かんでいる。
ずっとそれを見ているような錯覚がする。
夢か?現なのか?
「隔離が完了……ヤト、もういいよ」
ナッツの優しい声にそれでも、俺は緊張を維持した。
……幻聴に聞こえたのだ。
「切っていい、ヤト。石を手放すんだ」
聞こえている、けど……それが心に届かない。
圧力が消える、吸い出されて強烈に襲いかかってくる眠気が消えて替わりに何とも言えない脱力系の恍惚が俺を覆う。
抑圧されていた脳味噌が、きっとドバドバ脳内麻薬ばらまいてたんだろうな。
ぷつんと緊張の糸が切れて俺は、石を手放すどころか握りこんでその場にへたり込んでいた。息を大きく吸い、それから吐き出す。
腹の底からわき上がる、身震いするような奇妙な恍惚を振り払おうとするんだが……。
魔法陣が光を失い、俺の魔力流失が収まった。
「死霊調伏、」
ナッツが隣で宣言し、魔法を行使したのを俺は見てられなかった。
……疲れた。
というより……何か変な感覚から上手く抜け出せない。逆に気持ち悪くなってきた。
いつまでも感覚が浮ついている。 浮遊しているような、俺が剥離しちまうような……。
「ヤト?」
次には、その声が叱責に変わった。
でもその声が、俺の心に届かないんだ。
ゆっくりと息を吸う。呼吸音が緩やかになり、心音がこれまでにないくらいにゆっくりと俺の中でスローリーに脈打つのを感じる。
俯いた視界の中に、俺の腕を伝う蔦を見ていた。
ぞろぞろと絡みつく黒い影が俺の腕から二の腕へ、手へ、手の中へ……入り込もうとしてはじき飛ぶ。
途端、心臓を直接叩かれたような電撃に撃たれて俺は背後にのけぞっていた。
「……っ!何、だ?」
「……デバイスツールがレッドフラグを弾いた?」
俺の肩に手を置いて、ナッツがいつの間にか目の前にいる。
荒い息をつきながら、俺は辺りを見回してしまう。
薄暗いラボ、足下の布はすっかり力を失って魔法陣も焼けきってしまってボロボロになっていた。
「終わったよ、彼からアーティフィカルゴーストを取り除く術は……終わった」
「……成功、だろうな?」
「勿論。彼が組んだフォーミュラだもの。強引な方法だったけど間違い無い。これで大丈夫」
俺は深くため息を漏らす。
「よかった」
心臓が全力疾走の後のように脈打っている。
それを押さえて俺はようやく立ち上がった。手の中に握りしめている黒い石を……ん?あれ?
「ナッツ!」
レッドの様子を見ようと俺に背を向けた奴に向けて俺は、悲鳴に近い声を上げていた。
「……何っ?」
「い、……石から色が抜けてるぅッ!!」
技術的な事は説明されたけどさっぱり分からん。
魔力の質がどうのこうのとか言われたって、潜在魔力を莫大に持っていると言われてもそれを感じる事すら出来ない俺にはちんぷんかんぷんだ。
「分かるかお前?」
「……さぁ」
アベルもお手上げだ。奴ぁ有能種なので魔法を使えるが、技術的な事には一切触れない。
感性だけで魔法を使うんだな。コントローラー操作は神だが仕組みを全く理解していないのと同じだ。魔法を魔法という訳の分からない力として使っている。
方法とか、理論とか、そういうもので組み立てて分解しながら魔法を考えている魔導師の対極である。
その上アベルは魔法行使の方法がものすごく縛られている。物質を通さないと使えないらしい。
本来魔法付加すなわち、エンチャットというのは本来、上級魔法であるらしいが俺と同系列にバカであるこいつは、技術云々をすっぱ抜いてエンチャット魔法発動能力を高いレベルで備えている。要するに融通が利かんのだな。
能力まで性格の影響を受けなくてもいいと思うんだが、全く。
とにかく、術が無事終わってレッドからバグを取り除く事に成功した。で、その方法について一応と話をされたんだが。
これがさっぱり分からんと。
その術の副作用でオレイアデントの石の力が著しく弱まって、それで漆黒の色が抜け落ちて灰色ににごった結晶体になっちまったらしい。
「元気だなぁ、お前」
テーブルでぐったりしているのは……黒衣魔導師の二人。獣鬼種のレオパードと東方人っぽいショートカット茶髪の女……女の子のロキ。
暗がりでよく見えなかった思っていたよりも若い。殆ど無言で淡々とした雰囲気で、今も黙ってサトーが入れたホットチョコのマグを両手で包んでいる。
「修行が足りんな、二人とも」
「上位だって、息切れ切れだったじゃぁありませんか」
獣鬼種で外見こそ若そうだが、相当歳食ってるらしいレオパードが敬語だ、白髪の交じった珍しく精力的……いや、健康的って言った方がいいのかな?術式で東を務めた男性魔導師がコーヒーを啜る。
ちなみに、俺と交換して貰った奴である。
……案の定、薬入ってたらしい。
まさか上位魔導師と俺がコーヒートレードするとは思わなかったようで、サトーが真っ青な顔してたな。
だが流石は上位魔導師、腐っても上から数えて三番目の大魔導師だ。
さっくりと毒混入を見抜いて、毒消し魔法を行使して平然と飲んでいる。
「ナッツ、お前、あの魔法教えて貰えよ」
「簡単に言うなよ、アダさんは解呪魔法の最先端なんだから。弟子入りもしないで技術だけ貰うだなんて出来るはずないだろ?」
「そういうもんなのか」
「まぁなぁ、一応そういう事になっている。……払うもの払うんなら教えないでもないが?」
この通り、思っていたよりも軽いノリのキャッシュなおじさんで、魔導師にしては珍しく面倒見が良い事で有名なんだとか。……そうか、そう言う奴は珍しいんだなここでは。
当然と今回初めて会う魔導師さんである。水色のマントは上位浅黄の位、名前はアベノ・アダモスとか言うらしい。
……サトーといいなんでまた、ややこしくアベさんが居たりするんだか。アベノというのが呼びにくいからか、セカンドネームの方で認識されているらしい。アダと呼べと言われた。
で、このアダさんの弟子なのがロキ。
レッドを治す、多人数特殊術式の為に駆けつけた魔導師は以上、なんである。
他に弟子とかいるはずなのに。
レブナントブランドとかいう、たいそうな肩書きにも関わらず……。奴の大事に駆けつけてきた魔導師はレオパードとその弟子サトー、アダさんおよびその弟子ロキさんだけという事になる。
「しっかし、レッドの野郎。友人いねぇんだなぁ」
「……そう言う訳ではない」
レオパードが低く呻いた。
ふむ、成る程。奴はここでも色々訳ありって訳だな。
リコレクト。
そう言えば奴は言っていたな。紫という高位を纏う事になったその経緯を呪わしく、自らは卑怯だと。
正しい手段で地位を得なかったと……そして……その嘘を誰も見抜かなかった……と。
真実を暴く者が現れず、レッドは永遠に嘘を付かざるを得なくなったという。
誰も僕を裁けないのです。
紫という地位はそういうもの。
今更それが失敗であったなどと容易には認めない。
僕は永遠に嘘を付いたまま生きなければいけない。
……割と俺は、あの時奴が言った言葉をはっきりとリコレクトする。
あいつは真実を暴いて欲しかったと言った。誰かに、真実を理解して貰いたかった。それなのに口から出るのはいつも嘘。
何が偽りで何が真実なのか。
自分自身で分からなくなって暴走しやがったんだ。
俺は毒の入っていないコーヒーを味わいながらため息を漏らす。
「別に聞きはしねぇぜ。奴にとって辛い事なら……」
「ここまで来たのですから……ついでにお聞きください」
声に一斉に振り返る。
術後眠っていたレッドが起きている。二階で腹を抱えたような格好でゆっくり階段を下りてきやがった。
レオパードが素早く立ち上がろうとしたのを俺は押さえた。黒衣連中も相当疲れているのだ。ナッツも顔には出していないが状況は同じだろう。
俺は?俺は魔力維持しただけで精神的な所消費はない。もしかすれば桁外れという潜在魔力故に平気だという状況なのかもしれない。
よくは分からない、術説明は受けたけどさっぱり分からなかったって、先にも言ったよな?
階段を上がって俺は、無理して起きてきやがったであろうレッドを支えてやった。
「おとなしく寝てろよお前、ナッツ。どーして睡眠薬盛っておかないんだお前」
「いやぁ、まさか起きてくるとは思わなくって……」
顔色が悪い、レッドが苦笑する。
「おちおち寝ていられませんよ、……次があるんですから」
はいはい、次……ね。
俺は無視してレッドに肩を貸しながら階段を降りた。
「無茶はしない方がいい、部屋で少し休んで……」
と言ったナッツの言葉を遮ってアベルが立ち上がる。
「あんたも疲れているんでしょ?技術的な事あたし達に説明したってどうしようもないんだから。とにかく……レッドが無事に元に戻ったって事さえ分かればそれでいいのよ」
全くだ。
アベルの言葉に俺は頷いた。
「とりあえずこの場は解散!明日まで自由行動!」
「だから、そうはいっていられないでしょう?」
「うっさい、大体お前の事情と俺の事情は違うだろう?解決策が見つかったとでも言うのか?」
「……本題はそちらか」
机に座って事を見守っていた、アダモス魔導師が腕を組んだ。
「……よく戻ったなレブナント。もう二度と戻らんのかと思っていた」
「……ご無沙汰しております」
「目的は……達成出来なかったと見える」
「見ての通りですよ」
レッドは苦笑して俺から離れ、テーブルに手をつき体を支えている。
「どうやら……彼はまだピンピンしてるみたいですね。もしかすれば真っ先に慣れない魔法に組み込まれ、倒れているかなとも思いましたが。……ここに置いておくと何かと生きた心地がしないみたいですし。上位、……預かって頂けませんか?」
「ふむ?」
……また俺をモノみたいに扱ってやがるなこいつ……?
「いいですね、ヤト」
一応みたいに同意を引き出すんじゃねぇよ。
「……解呪魔法専門、だってな。俺の事情はお前じゃぁ、お手上げって事か」
「一から調べるとなると少々、手間が掛かるもので」
「分かった、」
俺も一々慣れない環境に躊躇はすまい。
何より俺の事情だ、俺が平気でも他の連中からすれば心配だっていう、その気持ちは汲まないとな。
「アダさん。お世話になります」
背後でサトーが悔しそうに歯がみしたのを……俺は気配だけで感じるぞ。
というか、俺の本音は……。
うはははは、やったね!これで安心してご飯が食えて眠れるってもんだ!
という事なのであるが。いや、……多分。
相手も魔導師の一人だ、何を言い出すか正直おっかない気持ちはある。両手をあげて喜ばずにいよう。多大に平穏を期待しておいて、裏切られてがっかりするのはやだし。
アダさんも了承したようだ。立ち上がって頷く。
「トラブルは……確かに分散した方がよかろう」
「トラブル?」
閉じていた目を開けて、俺を見た後に視線を一巡させた。
「レブナントが戻ったらしいという噂は広まりつつある。それに……君」
視線は……チビドラゴンのアインに向けてるな。
「昔、君を取り逃がした連中が外で、動いているぞ」
「嘘ぉーんッ」
アインが小さな手で首を支えて悲鳴を上げた。
椅子を蹴ってテリーとアベルの近くのテーブル下にすかさず待避する。
「やーん、だからあたしはこの町に戻りたく無かったのにぃ!」
「安心しろ、金積まれてもお前を売り飛ばしたりはしねぇから」
「当たり前でしょ?全力で守ってよね?」
「魔導師連中とまたドンパチか……」
拳を握り込んで……ああ、この格闘バカ。やる気満々ですよ。
「……降りかかる火の粉は払うしかねぇよなぁ?」
「相手は魔導師だよ?……大丈夫か?」
「強敵だ、ここしばらく手応えのある奴とやりあってないからな。丁度いいだろう」
スゲェなお前、魔導師相手にガチで戦おうとする、お前の心意気にカンパイ。
俺は正直パスするぜ。……魔法使いとの相性が俺は極端なのだ。味方であればすこぶる良い、敵だとすこぶる悪いという事になるんである。
「じゃ、アインは任せたぜ」
拳を上げるとテリーが承知したとばかりに軽く打ち返す。
「おう、テメェも気を付けろよ。他にトラブル持ち帰ったら承知しねぇからな?」
「うっせぇな、俺は好きでトラブル呼んでるんじゃねぇぞ?」
「アンタの存在自体がトラブルの種だものね」
言い返せないけど俺だって、好きでこんな体質に生まれた訳じゃねぇやい。
描かれた簡素な魔法陣……と思ったけど簡素じゃねぇや。
太い線だと思ったものは、よく見たら記号や文字で埋まってやがる。
広げた正方形の布の上に赤く輝く謎の文字。四方に配した石と同期を計った謎の石に手を翳しているのは……やっぱり女性の魔導師だ。
さっきはフードで顔隠してた黒衣の人だな。
中央には当然とレッド。魔法陣の外に北を女性の黒衣魔導、右手東に水色マントの壮年の魔導師。左手西はナッツだ、魔導書らしい分厚い本を片手にぶつぶつ魔法詠唱している。
「……どうしろって?」
「急ぐらしいな、高位にしては荒削りな魔導を行うハメになっている」
レオパードはそう言って、女魔導師の対角線上すなわち南に座り込んだ。座禅を組むようにして手を中央で組み合わせる。
「両翼は問題無いが、私とロキ……北座を勤める彼女だが……私達ではバランスを取れないのだ。代役を捜している時間もないし……恐らく見つからないだろう」
「……でも、居ないと困るんだろ?一人でも欠けると行使出来ない魔法って事だよな?」
この大掛かりの様子だと……よくは分からんけど。俺は本当に門外漢だからな。
「技術的な事は他の座が行う。北座は傍観の理、お前が北に座れ」
「ええっ?」
「全ての膳立ては高位が行った様だ。それによると、どうしても上位以上が4人必要だ。だが……現状それだけの人材を集められないのは高位も知っていたはず」
ちなみに高位、というのは紫位の魔導師の尊称である。
ようするにレッドの事だ。
黒衣の事は師位と言う。弟子を取る事が出来る位という意味だとか。で、上位というのが黒衣の上の位だったな。
そうか、壮年の東を勤める魔導師が上位か。
ナッツは魔導師ではないが魔法使いである、実力的には上位以上に匹敵するって所だろう。
ちなみにこの上位とか高位とかいう名称は魔導師同士でのみ使える呼称なので、俺を含め他はこの名前で呼ばないし呼べないそうだ。
「我々二人で一人分なんとか、上位の実力は出せよう。だが一人では無理だ。高位は端からお前を当てにしている所がある」
俺は当然黙ってしまった。
頼られるのはいいけど……本当に俺で代役務まるのかよ?
ナッツが詠唱を止めて顔を上げた。
「魔法はロキさんが発動させる。お前は維持すればいいんだ。あの時の魔法防壁と同じと考えればいい」
……迷ってたってしかたねぇ。
レッドを治す為に必要だってんなら俺は、迷う意味の方が見いだせねぇ。
「分かった、やってやる」
ロキという女性魔導師のリードに合わせ、石に……ってこれ、よく見たらオレイアデントから預かった石じゃんか。
デバイスツールを両手を重ねた上にのせてもらう。
同調している黒い石が僅かに宙に浮いている、その状態を維持すりゃいいらしい。魔力を円である魔法陣に供給するって感じだとか。魔法行使できない俺にも分かりやすくしたんだろうな、多分……レッドがそのように。
今奴は、中央に横たわって微動だにしない。目をきっちりと閉じている。
ふっと壁の脇に置かれているテーブルに割れたナーイアストの石が置いてあるのを見付けた。
取り出し手術その後、すぐにこの術式って事だな。
恐らくレッドは、昨日俺が盛られたような薬でもって麻酔が成されているのだろう。
北の座、というらしいこの魔導式に俺を組み込み終わり、レオパードに背を預けるようにしてロキというらしい彼女が座り込んだ。
「では、準備はいいかな」
上位魔導師の声に頷いて返す。
「始めてくれ神官殿」
「では、これより人工死霊の隔離および調伏を執り行います」
死霊調伏か、そりゃ確かに西方神官の役だよな。
とか思っていたら途端に、意識が吸い出されるような強烈な感覚が俺を襲う。
意識した事すらない、これが魔力の流れ?なんだか良く分らないが、何かが俺から流れ出してる感覚に意識が引き摺られる。
「ちょ……ナッツ、これは……」
「意識を落とさなければいいんだヤト、出来るよな?」
あの時の魔法防壁、というのはつまり……魔王連中を壁の中に閉じ込めた時のアレだよな。
潜在魔力というのは、魔法道具を使う時に使用する。魔法を使えない戦士が、魔法の付加されている武具とか道具を使う時に消費しているモノになるだろう。
判りやすく言えばマジックポイントだ。MPは戦士は使わない事が多い。ゲームによってはこのMPを消費して技を出すって事もあるが、その場合はマジックポイントじゃなくてメンタルポイントなどと呼ばれる事が多い気がする。
ともかく、潜在魔力というのはゲームに例えればマジックポイントなのだ。ただしゲームのようにレベルアップと共に増える事は無い。この世界に置いて、潜在魔力は先天的に備わるものでほぼ固定値なんだそうだ。じゃぁ魔法使い連中はどういう理屈で魔法を使っているかというと、コンピューターゲームに例えればターン消費による成功確立の是非に左右されていると言えるだろう。MPは極力使わない、潜在魔力というのはつまり、テーブルトークなどでダイスの出目に加える事ができる、特殊ポイントや経験値の事だ。底上げ用の数値という事である。勿論、行使する全ての魔法に適応出来る訳では無い。
だから、潜在魔力は魔法行使の実力には直接結びつかないんである。
これで大体イメージは掴んでもらえただろうか?つまり俺は、戦士設定にもかかわらずMP数値が異常というキャラクターなのだ。宝の持ち腐れをしている訳である。
とはいえ、魔法道具の行使や相手の魔法の底上げには、場合によっては手を貸せるので……実は魔法使いとの相性が良かったりもする。
しかしMPというものがどんなパワーなのか、戦士には皆目検討が付かない。魔法行使の修行をした事があるわけでもないからな。イメージ的には魔法の発動には『意思の強さ』が反映するので、俺が『魔法を維持する』と頭の中で唱え続ければオッケーであるらしい。
実際、俺は魔王を隔離した時そのように頭の中で唱えていた。
戦いながら常に気を張ってた、蹴り殺されそうになりながらも尚魔法防壁を維持しなければと、吹っ飛びそうになる意識を保つ事に集中していた。
戦いながら出来るんだからこんなの簡単……
……いや、甘かった。
魔法儀式が始まると魔力が吸い出される感覚がさらに強烈になる。
てゆーか、魔力ってのを全く意識してない戦士の俺には意識そのものが引っ張られるような感覚なのな。
要するにだ、強烈な眠気と戦っている感覚なのである。
ヘタをすると意識が遠退いて気絶しそうになる、ものすごい強烈な眠気。
歯を食いしばる、頭を懸命に振って振り払う眠気、姿勢を変える訳にもいかないので頭を振るのが精一杯。舌を噛む、噛みちぎって痛みを意識したら少しはましだろうかという感覚と戦っている。おかげでナッツがどういう儀式を執り行っているとか、観察しているヒマが無い。
むしろその詠唱が眠気を誘うッ!どうして魔法詠唱っていうのはそう単調なのだッ!
そんな意識と戦う中、俺は魔王連中を閉じ込めた時は必至で、むしろ死にそうになっていたからこそ魔法を維持出来ていたのかもしれない。そんな事をぼんやり思う。
極度の緊張があったから意識が高揚して、眠気を吹き飛ばしていたんじゃないのかな。
目の前が霞む。
どれくらいの時間落ちそうになる意識と戦っているのかよく分からない。
赤い、オレンジ色に光るものがゆっくりとレッドの体の中から染み出して中央に集まり巨大に育つのを見ているんだが……それに対して考えるまで、俺の意識が回らない。
すっかり巨大なオレンジ色の玉がレッドの上、魔法陣の上、天井ギリギリの所に浮かんでいる。
ずっとそれを見ているような錯覚がする。
夢か?現なのか?
「隔離が完了……ヤト、もういいよ」
ナッツの優しい声にそれでも、俺は緊張を維持した。
……幻聴に聞こえたのだ。
「切っていい、ヤト。石を手放すんだ」
聞こえている、けど……それが心に届かない。
圧力が消える、吸い出されて強烈に襲いかかってくる眠気が消えて替わりに何とも言えない脱力系の恍惚が俺を覆う。
抑圧されていた脳味噌が、きっとドバドバ脳内麻薬ばらまいてたんだろうな。
ぷつんと緊張の糸が切れて俺は、石を手放すどころか握りこんでその場にへたり込んでいた。息を大きく吸い、それから吐き出す。
腹の底からわき上がる、身震いするような奇妙な恍惚を振り払おうとするんだが……。
魔法陣が光を失い、俺の魔力流失が収まった。
「死霊調伏、」
ナッツが隣で宣言し、魔法を行使したのを俺は見てられなかった。
……疲れた。
というより……何か変な感覚から上手く抜け出せない。逆に気持ち悪くなってきた。
いつまでも感覚が浮ついている。 浮遊しているような、俺が剥離しちまうような……。
「ヤト?」
次には、その声が叱責に変わった。
でもその声が、俺の心に届かないんだ。
ゆっくりと息を吸う。呼吸音が緩やかになり、心音がこれまでにないくらいにゆっくりと俺の中でスローリーに脈打つのを感じる。
俯いた視界の中に、俺の腕を伝う蔦を見ていた。
ぞろぞろと絡みつく黒い影が俺の腕から二の腕へ、手へ、手の中へ……入り込もうとしてはじき飛ぶ。
途端、心臓を直接叩かれたような電撃に撃たれて俺は背後にのけぞっていた。
「……っ!何、だ?」
「……デバイスツールがレッドフラグを弾いた?」
俺の肩に手を置いて、ナッツがいつの間にか目の前にいる。
荒い息をつきながら、俺は辺りを見回してしまう。
薄暗いラボ、足下の布はすっかり力を失って魔法陣も焼けきってしまってボロボロになっていた。
「終わったよ、彼からアーティフィカルゴーストを取り除く術は……終わった」
「……成功、だろうな?」
「勿論。彼が組んだフォーミュラだもの。強引な方法だったけど間違い無い。これで大丈夫」
俺は深くため息を漏らす。
「よかった」
心臓が全力疾走の後のように脈打っている。
それを押さえて俺はようやく立ち上がった。手の中に握りしめている黒い石を……ん?あれ?
「ナッツ!」
レッドの様子を見ようと俺に背を向けた奴に向けて俺は、悲鳴に近い声を上げていた。
「……何っ?」
「い、……石から色が抜けてるぅッ!!」
技術的な事は説明されたけどさっぱり分からん。
魔力の質がどうのこうのとか言われたって、潜在魔力を莫大に持っていると言われてもそれを感じる事すら出来ない俺にはちんぷんかんぷんだ。
「分かるかお前?」
「……さぁ」
アベルもお手上げだ。奴ぁ有能種なので魔法を使えるが、技術的な事には一切触れない。
感性だけで魔法を使うんだな。コントローラー操作は神だが仕組みを全く理解していないのと同じだ。魔法を魔法という訳の分からない力として使っている。
方法とか、理論とか、そういうもので組み立てて分解しながら魔法を考えている魔導師の対極である。
その上アベルは魔法行使の方法がものすごく縛られている。物質を通さないと使えないらしい。
本来魔法付加すなわち、エンチャットというのは本来、上級魔法であるらしいが俺と同系列にバカであるこいつは、技術云々をすっぱ抜いてエンチャット魔法発動能力を高いレベルで備えている。要するに融通が利かんのだな。
能力まで性格の影響を受けなくてもいいと思うんだが、全く。
とにかく、術が無事終わってレッドからバグを取り除く事に成功した。で、その方法について一応と話をされたんだが。
これがさっぱり分からんと。
その術の副作用でオレイアデントの石の力が著しく弱まって、それで漆黒の色が抜け落ちて灰色ににごった結晶体になっちまったらしい。
「元気だなぁ、お前」
テーブルでぐったりしているのは……黒衣魔導師の二人。獣鬼種のレオパードと東方人っぽいショートカット茶髪の女……女の子のロキ。
暗がりでよく見えなかった思っていたよりも若い。殆ど無言で淡々とした雰囲気で、今も黙ってサトーが入れたホットチョコのマグを両手で包んでいる。
「修行が足りんな、二人とも」
「上位だって、息切れ切れだったじゃぁありませんか」
獣鬼種で外見こそ若そうだが、相当歳食ってるらしいレオパードが敬語だ、白髪の交じった珍しく精力的……いや、健康的って言った方がいいのかな?術式で東を務めた男性魔導師がコーヒーを啜る。
ちなみに、俺と交換して貰った奴である。
……案の定、薬入ってたらしい。
まさか上位魔導師と俺がコーヒートレードするとは思わなかったようで、サトーが真っ青な顔してたな。
だが流石は上位魔導師、腐っても上から数えて三番目の大魔導師だ。
さっくりと毒混入を見抜いて、毒消し魔法を行使して平然と飲んでいる。
「ナッツ、お前、あの魔法教えて貰えよ」
「簡単に言うなよ、アダさんは解呪魔法の最先端なんだから。弟子入りもしないで技術だけ貰うだなんて出来るはずないだろ?」
「そういうもんなのか」
「まぁなぁ、一応そういう事になっている。……払うもの払うんなら教えないでもないが?」
この通り、思っていたよりも軽いノリのキャッシュなおじさんで、魔導師にしては珍しく面倒見が良い事で有名なんだとか。……そうか、そう言う奴は珍しいんだなここでは。
当然と今回初めて会う魔導師さんである。水色のマントは上位浅黄の位、名前はアベノ・アダモスとか言うらしい。
……サトーといいなんでまた、ややこしくアベさんが居たりするんだか。アベノというのが呼びにくいからか、セカンドネームの方で認識されているらしい。アダと呼べと言われた。
で、このアダさんの弟子なのがロキ。
レッドを治す、多人数特殊術式の為に駆けつけた魔導師は以上、なんである。
他に弟子とかいるはずなのに。
レブナントブランドとかいう、たいそうな肩書きにも関わらず……。奴の大事に駆けつけてきた魔導師はレオパードとその弟子サトー、アダさんおよびその弟子ロキさんだけという事になる。
「しっかし、レッドの野郎。友人いねぇんだなぁ」
「……そう言う訳ではない」
レオパードが低く呻いた。
ふむ、成る程。奴はここでも色々訳ありって訳だな。
リコレクト。
そう言えば奴は言っていたな。紫という高位を纏う事になったその経緯を呪わしく、自らは卑怯だと。
正しい手段で地位を得なかったと……そして……その嘘を誰も見抜かなかった……と。
真実を暴く者が現れず、レッドは永遠に嘘を付かざるを得なくなったという。
誰も僕を裁けないのです。
紫という地位はそういうもの。
今更それが失敗であったなどと容易には認めない。
僕は永遠に嘘を付いたまま生きなければいけない。
……割と俺は、あの時奴が言った言葉をはっきりとリコレクトする。
あいつは真実を暴いて欲しかったと言った。誰かに、真実を理解して貰いたかった。それなのに口から出るのはいつも嘘。
何が偽りで何が真実なのか。
自分自身で分からなくなって暴走しやがったんだ。
俺は毒の入っていないコーヒーを味わいながらため息を漏らす。
「別に聞きはしねぇぜ。奴にとって辛い事なら……」
「ここまで来たのですから……ついでにお聞きください」
声に一斉に振り返る。
術後眠っていたレッドが起きている。二階で腹を抱えたような格好でゆっくり階段を下りてきやがった。
レオパードが素早く立ち上がろうとしたのを俺は押さえた。黒衣連中も相当疲れているのだ。ナッツも顔には出していないが状況は同じだろう。
俺は?俺は魔力維持しただけで精神的な所消費はない。もしかすれば桁外れという潜在魔力故に平気だという状況なのかもしれない。
よくは分からない、術説明は受けたけどさっぱり分からなかったって、先にも言ったよな?
階段を上がって俺は、無理して起きてきやがったであろうレッドを支えてやった。
「おとなしく寝てろよお前、ナッツ。どーして睡眠薬盛っておかないんだお前」
「いやぁ、まさか起きてくるとは思わなくって……」
顔色が悪い、レッドが苦笑する。
「おちおち寝ていられませんよ、……次があるんですから」
はいはい、次……ね。
俺は無視してレッドに肩を貸しながら階段を降りた。
「無茶はしない方がいい、部屋で少し休んで……」
と言ったナッツの言葉を遮ってアベルが立ち上がる。
「あんたも疲れているんでしょ?技術的な事あたし達に説明したってどうしようもないんだから。とにかく……レッドが無事に元に戻ったって事さえ分かればそれでいいのよ」
全くだ。
アベルの言葉に俺は頷いた。
「とりあえずこの場は解散!明日まで自由行動!」
「だから、そうはいっていられないでしょう?」
「うっさい、大体お前の事情と俺の事情は違うだろう?解決策が見つかったとでも言うのか?」
「……本題はそちらか」
机に座って事を見守っていた、アダモス魔導師が腕を組んだ。
「……よく戻ったなレブナント。もう二度と戻らんのかと思っていた」
「……ご無沙汰しております」
「目的は……達成出来なかったと見える」
「見ての通りですよ」
レッドは苦笑して俺から離れ、テーブルに手をつき体を支えている。
「どうやら……彼はまだピンピンしてるみたいですね。もしかすれば真っ先に慣れない魔法に組み込まれ、倒れているかなとも思いましたが。……ここに置いておくと何かと生きた心地がしないみたいですし。上位、……預かって頂けませんか?」
「ふむ?」
……また俺をモノみたいに扱ってやがるなこいつ……?
「いいですね、ヤト」
一応みたいに同意を引き出すんじゃねぇよ。
「……解呪魔法専門、だってな。俺の事情はお前じゃぁ、お手上げって事か」
「一から調べるとなると少々、手間が掛かるもので」
「分かった、」
俺も一々慣れない環境に躊躇はすまい。
何より俺の事情だ、俺が平気でも他の連中からすれば心配だっていう、その気持ちは汲まないとな。
「アダさん。お世話になります」
背後でサトーが悔しそうに歯がみしたのを……俺は気配だけで感じるぞ。
というか、俺の本音は……。
うはははは、やったね!これで安心してご飯が食えて眠れるってもんだ!
という事なのであるが。いや、……多分。
相手も魔導師の一人だ、何を言い出すか正直おっかない気持ちはある。両手をあげて喜ばずにいよう。多大に平穏を期待しておいて、裏切られてがっかりするのはやだし。
アダさんも了承したようだ。立ち上がって頷く。
「トラブルは……確かに分散した方がよかろう」
「トラブル?」
閉じていた目を開けて、俺を見た後に視線を一巡させた。
「レブナントが戻ったらしいという噂は広まりつつある。それに……君」
視線は……チビドラゴンのアインに向けてるな。
「昔、君を取り逃がした連中が外で、動いているぞ」
「嘘ぉーんッ」
アインが小さな手で首を支えて悲鳴を上げた。
椅子を蹴ってテリーとアベルの近くのテーブル下にすかさず待避する。
「やーん、だからあたしはこの町に戻りたく無かったのにぃ!」
「安心しろ、金積まれてもお前を売り飛ばしたりはしねぇから」
「当たり前でしょ?全力で守ってよね?」
「魔導師連中とまたドンパチか……」
拳を握り込んで……ああ、この格闘バカ。やる気満々ですよ。
「……降りかかる火の粉は払うしかねぇよなぁ?」
「相手は魔導師だよ?……大丈夫か?」
「強敵だ、ここしばらく手応えのある奴とやりあってないからな。丁度いいだろう」
スゲェなお前、魔導師相手にガチで戦おうとする、お前の心意気にカンパイ。
俺は正直パスするぜ。……魔法使いとの相性が俺は極端なのだ。味方であればすこぶる良い、敵だとすこぶる悪いという事になるんである。
「じゃ、アインは任せたぜ」
拳を上げるとテリーが承知したとばかりに軽く打ち返す。
「おう、テメェも気を付けろよ。他にトラブル持ち帰ったら承知しねぇからな?」
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