異世界創造NOSYUYO トビラ

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8章  怪奇現象    『ゴーズ・オン・ゴースト』

書の1後半 9人目『不慮の事故があったとさ』

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■書の1後半■ 9人目 Ninth Element 

 とりあえず、俺は自分の部屋に戻って来ていた。
 手に、トビラに入る為のキーの入ったメモリスティックを握り締めて……いつもの、決してキレイとは言えない自分の巣を眺める。

 まだ朝で、夢の記憶をいくつか覚えている所為かな。
 積み上げられている白い箱に、俺は手の中のメモリを躊躇無く差し込んでいた。
 これから寝てログを確認しようって訳じゃねぇけど。何と無くメモリをそこらへんに投げ置く気にならなかったのだ。


 新聞なんぞは勿論取ってないぞ。テレビだって殆ど見ない、ひたすらゲームしている俺に俗世界もとい実世界での出来事など無関心も良い所だ。

 だが、どんなに俗世と関係を絶っていても乱暴に強引かつ強制的にダイレクトメールは投げ込まれてくる。
 郵便受けに溢れていやがった荷物をぶちまけ、その中に今日発売のゲームパッケージが紛れているのを見付け乱暴に封を切る。その袋に纏めてダイレクトメールを詰め込みゴミ箱へ。
 本当は紙とビニールは分けないといけないんだけど。
 頭では分っているんだけどそう云う事はなかなか、細かく実行出来ない。……思ってるならしろってか。ちっ、面倒なんだよ面倒。そういうのは生ゴミと分けて埋め立てにポイだ!

 あ、地球に優しい皆さんは俺の真似はしないでください。
 ちゃぁんと各自治体が定めた分類法に乗っ取りゴミを分別して指定の日に、指定の場所に出しましょうね!お兄さんからのお願いだ!説得力無いとか言うな!

 大体無駄なダイレクトメールを大量に作って投げ込む事を、まず業者が止めろって話だ。どこにこんなもんを好き好んで目を通す奴がいるんだ?訳わかんねぇ事に金使いやがって。

  さって……そんな俗世界の話はもういいだろう。とりあえず、新作ゲームだ。デモを見て……どんなもんかレビューくれって某から言われてるんだった。そーいうアルバイトがあるんだが、俺がやっているのはサクラじゃなくてガチのレビューを書く方だぞ。面白いか、面白くないかを自分の尺度で評価する。つけた星の数に関わらず、良いレビューだと判断されれば『正規』のアルバイトとしてちゃんと収入が貰えたりする奴である。ゲーマーの俺には有り難い小遣い稼ぎだ。
 はっきり言えばこのアクションゲーム、俺は前作でがっかり来たもんでちょっと敬遠気味なんだがな。でも実際やってみなきゃ今回の出来上がりは分らん。
 PCも立ち上げつつ、レビュー投稿用のホームへアクセス。早速上がっているレビューを眺めつつ、やっぱり出来はイマイチなのかなぁとか思いつつデモを見る。

 暫くアクションに慣れる事に費やし、いくつかのステージをクリアした頃腹が減ってきた。

 あっという間に昼飯時になろうとしている。
 普段は朝飯をろくに食わずバイトに出かけ、昼過ぎにはじめて飯にありつく、という生活をしている俺であるが……朝しっかり某社の定食平らげたにもかかわらず、いつもの時間にまた腹が鳴る事に呆れた。
 ゲームしているだけでも腹ってなぁ、減るもんだな。

 仕方がないのでいつものコンボ、お湯を沸かしてストックしているカップラーメンで誤魔化す事にするか。お湯の沸く僅かの間、火から目を離すのは悪いのは知っているが俺は家を出る。
 アパートの角に立っている自動販売機から缶コーヒーを買ってくる為だ、数分で行き来出来る所に自販機があるのでかなり、重宝している。ありがとうアパート管理会社。
 往復数分と掛らないが、火を付けっぱなしというのが危険だという認識はある。
 階段を素早く降りて、アパートとアパートの隙間に設置された自販機コーナーの角を曲がる。素早く携帯端末から料金を支払って落ちてきた缶コーヒーを拾い上げ、俺は急いで二階へ続く階段を駆け上がったのだが……。
 驚いて階段を踏み抜き転ぶ所だった。
「お、何してんだお前」
「それは、俺のセリフだッ!」
 今まさしく開けっ放しであった俺の部屋の扉を開き、中に入ろうとしていた……テリーと遭遇したのである。
 なんという神掛かったすれ違いだろう、俺が自販機のある角に曲がった瞬間、こいつは通りから現れて俺の部屋の前に立ったというのか!いや……そんな事に関心している場合じゃなかった!

 ああ?火ぃ掛けっぱなしもアレだが戸を開けっ放しも物騒だって?そうだな、今回ものすごくそれが不用心だと俺も思った!
 俺の罵倒を気にせず、先にテリーが部屋の中に入ってしまったので慌てて、俺は立ち止まっていた廊下を蹴って自分の部屋に遅れて入る。
「勝手に中に入るんじゃねぇっ!」
「なんだこの音、あ、火ぃ掛けてんのかお前」
「だから、人の家に勝手に上がるなぁッ!」


 差し出された見慣れた弁当の包み紙を突き出され、俺はただでさえ相手を罵る言葉を探して迷っていた口を閉じてしまった。
「……何?」
「昼、どうせこれからカップラーメンとかいう所だろう。ナギん所から弁当せしめてきた」
「ナギ?」
 一瞬誰って思いそうになって慌てて思い出す。そうだ、音ゲー専な背の高い彼女、マツナギの事だな。
 彼女の家が弁当屋、な訳無いよな。これ全国チェーンのアレだもん。
 バイトでもしてんだろうなと俺は勝手に納得し、日替わり弁当らしいものを素直に受け取った。
 すっかり冷たいぞこれ……。
「電子レンジはどこだ?」
 貴様もここで食う気か!俺はうなだれ……食い物を貰っちまった手前もう、強い事が言えずに仕方なく突っ掛けを脱いでぐちゃぐちゃな台所に大股に急いだ。俺、主なのにまだ部屋に上がってなかったのだ。
「そっち座ってろ、あ、何ならやってろ」
「何だ?ゲームか」
「当たり前だろ、俺ん家だぜ?」
 恥はない、俺がゲームをしていない事の方が稀であろう。
「青いハリネズミじゃねぇか。へぇ、これってアクションゲームだったんだなぁ」
 知らなかったのか、……知らんか。
 同じメーカーの格闘ゲームには興味あるんだろうけど、メーカーキャラクターはジャンルが違えば興味無しという、割と潔い性格だったなこいつは。

 俺は電子レンジで弁当を温め直しつつテリーを伺った。
 ……奴は腕を組んで黙って待っている。
 だから、ゲームでもして待ってろって言ったのに。こいつ、意地でも格闘ゲームしかしないつもりか。

「勝手にやって良いって言ってんだから、お前少しは他のジャンルも触れば?」
「操作性が分らん」
「あのな、お前一々インストを見るようなキャラか?とりあず新作出たら問答無用でコイン入れて触るだろ?電気代しか掛らん家庭用に何を遠慮するんだ?」
 俺が言いたい事は分ったらしい、テリーは腕を解いてコントローラーを握る。
「大体、こういうコンシューマージョイスティック自体に慣れてないんだが……」
「勝手に触ってろ、文句は言わん」
 格闘ゲームというのには必殺技のコマンド表とかがある。だが、一からの新作よりは続編の改訂版というのが昨今は多いのだ。系統としてどういう操作性のキャラクターだとか、その場合のコマンドだとか。そういうのは割と洗練されてしまっていて決まった型みたいなのが出来ていたりする。
 だから、インスト……この場合はインストラクション・カードとかコマンド表の事なんだけど……そういうのを先に熟読してから台に座るよりは実際にゲームを始めて、自分でいろんなコマンドを試したりキャンセルが掛るかどうかとか、技の繋がりとか硬直などを体感した方がはっきり言って、技の類は覚えられる。人それぞれかもしれん、多く格闘ゲームを触って来ている人にとっては、かもしれない。
 もちろん、全部覚えてからゲームする奴もいるだろうけど、テリーはそういうタイプでは無いだろう。

 案の定だがコントローラーを握ってのアクションゲームは上手くはないなぁ、最初なんてジャンプして第一ザコに自らダイブして死ぬ系のタコ死を繰り返している。
 当たり前だな、俺だって数時間前まではこういう状態だったよ。
 勝手にやってろと言って、戻ってきた頃にはステージクリアしてるような奴は稀だ。
 その、稀な奴が実は阿部瑠だったりするが。
 ……あいつはコントロール操作だけは恐ろしく覚えが早い。
 一度超難関と名高い某魔な世界の村なアクションゲームをやらせたら、あっさり一日で攻略されてしまった事がある。……世の中にはすげぇ奴ってのはいるもんだなと、俺は正直そう思ったもんだ。
 最も、その時は色々なアイテムの出現場所を俺が覚えていて、それを助言しながらだったから攻略が早かったんだろうけど。逆にそのアイテムの場所とかを覚えるのが奴は苦手で、もの凄く遅い。攻略本を見ろと言いたい所だが、奴は攻略本オンチだ。当然と地図もまともに見れないのは当たり前だな。
「ほらよ、……マツナギはどこの弁当屋で働いてるんだ?」
 俺は温めなおした弁当を渡しながら一応、興味があって聞いた。
「ああ、俺ん家の近くの」
 俺は箸を割りつつ首を脱力して前に折っていた。
 テリーん家がどこなのかは知らんが、地域的にどこらへんに住んでいるだろうという事は知っている。それは俺の家から駅を一度乗り換えないと来れない程に、遠くだ。
「バカか貴様、買ってほっかほかな内に食わんでどうするよ。ここに来る途中にもあるだろうが」
「いいじゃねぇかそんなの、レンジあるんだから」
 ああ、もう会話が面倒だ。
「で、何の用事だよ」
 とか聞いておいて。
 俺は何を言われるのか大体予想、ついたりするけどな。
「何って、お前がまた真っ先に逃げやがるから」
「違う、用事があったから先に帰っただけだ」

 この新作ゲームやって、レビュー上げないといけないんだ。

「ならそう言って切り上げろ、いきなりいなくなるんじゃねぇ」
「い……言い出せないっぽい気配で」
 どうも、ログアウト後に朝ごはんを食べ、即解散とならずに……そのままヒマだったらお茶しようとかいう話に纏まりつつあったのだな。今、まだログイン明けの昼なんだぜ?
 朝一解散の後、どうもそういう話が進みやがって……例によってアインが、お姉さん奢るわ~と、メージンを逆ナンしだしてだな……。
 俺は正直、その場にこれ以上居たいとは思わなかった。
 特に何ってわけじゃないけれど……。人見知りって奴か。
 疲れている訳でもないし仕事があるわけでもないんだが、何か居辛くて。
 話すべき事も無い、そもそもおしゃべり自体が好きじゃない。どーしようもないヘタレだと?勝手に言ってろっ!

 奴らについて行けそうにないなと思ったんだ。
 どうも、途中でたまんなくなって離脱しちまう気がして。巻き込まれる前に距離を置こうって何時もの俺の癖が出てしまった。
 どうせ、明日もまた会うだろう?有給仕事で。

 色々思うけどそれを口には出せない。で、さっさと逃げる。
 俺は、そういう奴なのだ。
 自分が言った言葉に相手がどう思うのか、その反応が多分怖いんだろう。だから、何も言えなくなる。何も言わずにその場を逃げるのだ。後に、どう言われているのか気になる癖にな。気になるけど、聞かなければ無関係だと自分に言い聞かせて俺は逃げるのだ。

「ホントにお前、チキンだよな」
 うるさい、そんな事ぁ俺自身が一番分ってる。
「お前が勝手にばっくれやがった所為でお開きになったぜ」
「……」
 それはつまり、俺の所為だと言いたいのか。
 ……ああ、どうせ俺はそういう空気の読めない奴だよ。
「ま、ぶっちゃけ俺も引き続きは勘弁だよなぁと思っていたし。ナギもバイトだったみたいだし、メージンもアインから攫われずに済んで安堵したんじゃねぇ?嫌だと思ってそれを嫌だと言えないのは、別のてめぇに限った話じゃねぇからな。その点、行動ではっきり示しちまうなんて、割と思い切った事をするじゃねぇか」
 なんだそれ。
 そんな評価、された事がなかったので俺は口に運ぼうとしていたちくわの揚げ物を箸に持ったまま、テリーの様子を注視してしまう。
 何事もないかのようにご飯を開け、蓋に付いたご飯粒をもったいないとか摘んでやがる。
「明日、ちゃんと来いよ」
「……結局、それが言いたかったのかよ」
「何なら迎えに来るぞ?」
「冗談言え、仕事だ。例のトビラの異常事態についての説明なんだろ?心配せんでも行くわい」
 電話とかメールを使わないところがこの男のウザい所だ。
 直接来られたら、着信拒否もメールなんか見てねぇと嘘も付けないだろうが。
「ホントか?ナツメが心配してたぜ?」
「面倒見るのが嫌なんなら、突き放せばいいのに」
 俺、凄い幼稚な事を口走っているのは自分で分っている。
 本当はそうしてもらいたくないのに、どうして口から出る言葉はいつも、気持ちに反した嘘ばかりなのか。
 嘘を付きたくないとは、思わない。嘘ついちゃいけないとは俺は、思っていない。
 割と俺は現実で嘘吐きだ。
 仮想で嘘吐きのレッドの事を強く、非難出来ないのはこういう俺がここにいるからだ。
 そして……あっちのレッドがこっちの俺によく似ているから好きになれそうにないのだと……俺はため息を漏らして天上を見上げてしまった。
「どうした?」
「……いや」
 どうして俺は、奴が女だって気が付いたんだっけな。
 すっかり記憶が曖昧になって覚えてない。……仕方ない、今晩はそこの場面をリコレクトしておくか。




 思い出している。
 白い砂に破壊された世界で対峙した事。
 この砂の世界は、俺がもたらした事。

 いつしか関心が自分に向いていた。レッドの事を探りに潜ってきたはずなのに。
 自分というか、自分がやっているキャラクターに関心が行ってしまって、俺は全員にログ・CCを渡した俺自身の過去を振り返っている。

 戦士ヤトの、重くないと思っている過去の事。

 どうして俺は平気そうに振る舞うのだろう。
 観客的に見てそう思う。奴は平気な様子を演じて振る舞っているだけだと思う。
 心の底では、傷つけられた心を痛いと感じているのに。その痛みを忘れたふりをして、何故笑って何でもないんだと振る舞うんだ。
 そんな風に笑ったら、誰もがその笑みに騙されて……誰も救いの手を差し出してくれなくなるんだ。
 痛かったら痛いと言わなくちゃ、助けて欲しい時に誰もその言葉を信じてくれなくなる。
 レッドがその良い例だとまで分っておいてなんで『お前』は笑って誤魔化す。

 ……でもな、俺でもそう気が付くって事は意外と、周りはみんな奴が嘘を付いてる事は承知しているのかもしれない。
 辛い癖に笑っている事をみんな分っていて、一人それを誤魔化しているんだと俺は勘違いしているだけかもしれない。


 人間と付き合う事は面倒だ。
 声を掛けたら振り返って来る。気持ちを伝えたら、思っても見ない事を言われて俺は、それをどうしても良くない方へ、良くない方へと捕らえて一人でへこむ。
 ならいっそ関わり合う事を止めればいい。
 そうやって俺は引きこもって、全てから逃げ出してばかりだ。
 仮想世界ではあんなに力強く『嘘』を付けているのに。
 ようするに、嘘を付いても良い世界だから俺は堂々と嘘を付くのだな。だが現実ではそうではない。本当の事を言っても、嘘だとしても。
 等しく責任って奴が発生して……とにかく面倒くさい。

 なら、人間止めちまえと暗く笑う。
 仮想の俺が、そうやって人間止めようとしてる。違う、成り行きそうなっちまっただけだと思いつつも……どこかで仮想は、現実を裏付けているように錯覚して卑屈になってしまう。
 その後、弁当を食ってテリーはあっさりと帰って行った。本当に、俺に一言忠告したかっただけかよ。メールとか電話とか使わない所がなんというか、面倒な奴だ。……最も、俺が着信拒否などをする可能性を鑑みれば直接会って話すのが一番確実だとでも思ったのかも知れんが。
 大変余計なお世話って奴だ!全く……。





「揃ったようだね」
 実はこうやって、全員と顔を合わせたのは今回が初めてだな。
 最後にちょっと遅れて会場に入ってきたのはマツナギだ。テリーが先に連絡取って、電車に乗り遅れたとかでちょっと遅くなる事は受け取っている。
 俺はちゃんと自分の足でここに来たぜ。

 テストプレイしている某ゲーム会社の会議室だ。

 ……眼鏡比率、高ッ!

 見回してみて俺はそんな事を思った。眼鏡じゃないのは俺とテリーとマツナギと、亮ねえさんと……名前がよく分らないもう一人、女性の人。ナッツは今回手元の資料を読む為にメガネ持参。
 他全員メガネかよッ!阿部瑠の奴もコンタクトじゃなくて珍しくメガネで来た。
「このように改めて、紹介するのは初めてになると思う。我々は君達を知っているが君達はそうではないだろう。紹介しよう、MFCトビラの開発責任者すなわち……君達より先にテストプレイを行った……ホワイトフラグ権限のオリジナルだ」

 ようするに大陸座のキャラクターの元になった人、って事だな。

 ええと……ナーイアストが田中さんで、オレイアデントが小野さん。それから恐らくファマメントが……ああ、あのメガネじゃないあの人が斉藤さんだな。だとすると、斉藤さんはコンタクト愛用者だからやっぱり眼鏡の人か。それからイーフリートが例の謎の訛りがある伊藤さんだと言われているな。

 ついでだからMFC開発チームの皆さんについても一言俺から説明するか。

 チーフだという、開発者チームの代表者らしい高松さん。
 俗に言う美形と言いたくなる、きっちりしたスーツの鈴木さんに、分厚いメガネの穏和そうな人は山田さん。
 明らかにテンションが低く、陰鬱そうな顔で俯いているのが小野さんだな。
 眼鏡じゃないがコンタクトの、明らかにやり手って感じの女性が斉藤さん、落ち着き無い若い脳内姐さんが佐々木さん。
 訛りがあるのが伊藤さんで、おっとりとしたゲーム開発に無縁そうなおばさんが田中さんである。

 ひいふうみ……数えて8人。成る程、トビラの中の大陸座の数と一致する。

 どれがどの大陸座に人格渡しているのか、というのを説明されるのかと思ったがそれではなく、高松さんが一通りゲーム開発の状態や広告戦略なんかの話をしたあとに切り出したのは……こういう事だった。 


「本来、トビラの仮想世界は『八精霊大陸』という名称じゃぁなかったんだよ。数字的に8つにこだわる必要はなかったのに」
「ああ、時間の精霊がいるとかなんとか。本来開発は9人体制だったんですね」
 トビラの中で上手くリコレクト出来ない事を、こっちの世界の俺が引き上げられるはずもない。ナッツの相づちに、へぇそうなんだと聞き流すしか俺には出来んな。
「大体、我々開発者が9人だとかいう情報を入れた訳でもないのにね」
 斉藤さんが少し笑いながら付け加えた。
「どういう事でしょう」
「あの世界が……どういう風に創造されたのか、興味はない?」
 斉藤さんが手を組んで聞いてきた事に俺達は顔を見合わせた。
 プログラムでイチから人が組み上げた……訳はないよな。工学系を少しかじっている俺には、あの余りにリアルな世界を今あるプログラムでもって、人の手で、一から全て組み立てられているとは思えない。
 何かしら自動生成プログラムを作って、勝手に出来たとか言うんだろうか。
 しかしだとすると……俺達がその世界の中にキャラクターを作って入り込み、経験値を背負って重い背景を世界に差し込む事が出来ない気がする。
 今でもコンピューターは柔軟とは言い難く、ガチガチに固いものだ。出来あがった世界に後から何かを差し込むなんて、そんなお手軽に対応出来るとは思えない。
 しかし世界を自動生成する過程、時間を過去に巻き戻す事はできない……というルールがその、八精霊大陸には働いているしなぁ。俺達が世界に入り込む前から俺達がこれから設定するキャラクターを予測して器を用意しておけるってんなら話は別だが。
 俺達は選ばれたんじゃぁないのだ、ちゃんと自分でこのテストプレイをする権利を勝ち取ってここに来た。唯一選ばれた立場であるメージンはトビラの中に仮想人格は作っていない。

 謎だ。

 どうやってあれだけリアルな世界を、誰が、どのようにして組み立てているのだろう。
 突然異世界からやってきたキャラクターを受け入れる皿を、どうやって世界に辻褄合わせて作れるんだ?

「時間を……無視できるのは人間だけだ」
 ぼそりと小野さんが呟いた。
 噂では昼と夜で人格が違うんではないかという位、性格が豹変するらしい。元々朝のテンションが低かったらしいが、トビラの中に二つ人格を作って操作した関係でその状態がより顕著になってしまったらしい。二重人格癖が進行しお医者さんのお世話になるまでになったとか。
 おかげで、二つアカウントを取る事をトビラは徹底的に禁止している。全員がそういう精神異常を起こすと云う訳では無いだろう、小野さんの元々の状況が特殊だっただけだ、って事で医者からもお墨付きは貰ったようだがリスクには変わりがないもんな。そうしてすなわち……死んだら生き返らないという約束が出来たというワケか。
 これ、トビラの中でも説明されているらしいが俺はすっかり覚えておりませんデシタ。
「9人目の開発者がいるのではないのですか?」
「過去形だよ、9人目はすでに開発には携わっていない。世界を彩る事に貢献していない事になっている……異世界の設定と同じくにね」
「そのように設定したんじゃぁないって事?」
「そうなんだ、何というのかな……。トビラはその様にこちらの都合を不思議と感じ取って世界を作っている」
「人工知能とか?」
「そんな凄いものが開発出来ているなら、ゲーム開発なんて止めていると思うよ」
 じゃぁ何だ?
「トビラは、トビラだよ」
 高松さんは何故かため息を漏らしてそう答えた。
「いずれこの事実もメディアに公開しなければいけない。秘密にしておいても、今君達が疑問に思う通り仕掛けは何だと暴きたくなるのが人の心だ。企業秘密として全てに口を閉じる、という案も社内にはあるくらいだよ。実際上は秘密にしろと言っている、もしかすればこの技術が悪用されるのではないかと危惧しているようだ」
 そりゃ、ここまでリアルな異世界を作り、それを夢として見るだなんて。
 明らかにこれまでのゲーム世界を変えてしまう娯楽だ、ヒットを飛ばせば二番煎じが出るだろう。
 ……でもその仕組み自体を公開しないという事は、その市場を独占する事になる。独占するなと反発する事も大いに考えられるだろう。
「何かヤバい技術でも入ってるのか?」
「要するに使い方次第という事だよ。数世代前からS社のゲームハードは高スペックの演算処理システムとして軍用への転用が可能と示唆されているし、スカラー並列演算システムとしての運用がなされて久しい。トビラも同じで……ただの『遊び』として留まるなら何も危険な事など無い。遊びを越えて使おうとすれば……」
 高松さんは黙ってしまった。
「いや、遊び以外にどう使うというのだろう。使う事が問題なのではない、トビラの場合は存在自体が問題なのかもしれないな」
 投げていた視線を上げて、高松さんは俺達を見回した。
「最終的に公開する事にはなるだろう。間違いなく君達に真っ先に公開して、そして……どういう反応をするのか。我々はそれを見たかったのだ。君達がどのように対応するかを見て、市場に公開するかどうかを決めようと思っている。これは、そういうプロジェクトなのだから」
 ところがだ、と高松さんはちょっと笑って肩をすくめた。
「それどころじゃないバグが見つかって大わらわ、という具合なのだね。おかげで全てを説明するタイミングが計れずに困っているよ」
「その、具体的な不具合の原因が……分ったのですね」
「ああ、大筋でね。アカウントが消去し切れていない……ようするに死に対するプログラムミスだ」
 むぅ、微妙にトビラの中における俺の問題に直結するんだな。
「幽霊が、出ていますね」
 鈴木さんが高松さんの隣で眼鏡のブリッジを押し上げた。
「本来存在してはならない者がトビラの中を彷徨っている……はっきり申し上げます」
 鈴木さんは、となりで高松さんがため息を漏らしたのを聞いてから言った。
「トビラ開発中、9人目であった開発者はすでに、開発とは関係のない交通事故に巻き込まれ不幸にも亡くなっています。我々はそれに伴い、当然9人目の開発者としてトビラの中に想定していたホワイトフラグを消去しました。その、消去プログラムにミスがあった模様です」

 これが、開発中の事故だとかだったら……マンガやアニメかゲームなんだがなぁ。
 残念ながらそういう事ではないようだ。
 高松さんは困った顔で消し込みが甘かった様だと笑いながら……ため息を漏らした。

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