異世界創造NOSYUYO トビラ

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8章  怪奇現象    『ゴーズ・オン・ゴースト』

書の2前半 時間の王『一つ余計な世界の仕組み』

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■書の2前半■ 時間の王 BALDANDERS

 残念ながら?いや、別に残念じゃねぇ。ご愁傷様だ。
 9人目と呼ばれる開発者は、自宅に帰る途中のタクシーの中で亡くなったんだそうだ。
 過労とか持病とか突然死じゃなくて、乗ったタクシーで交通事故に巻き込まれて、亡くなったとの事。
 一応帰宅中という事で労災認定されたとか。
 電車が終わってたからタクシーで帰ったその道中の出来事。労働基準法的にいろいろ引っかかってあれこれ言われ、そんでもって……悪い事なのだが会社は、最初これを上手く誤魔化そうとしたらしい。
 所がまぁ、この事故を何らかの形で拗らせてだな、極秘にしていた新型ゲーム開発に携わっていた9人目の彼の事があれこれ詮索されて、何らかの形で『公に出る』事の方を問題視したらしい。そこで事実を認めて問題をなるべく簡潔に、波を立てないように終わらせる事を最終的には選んだとの事だ。
 それで労災が認定されたという訳だな。
 これは密かにニュースになっていたらしい。ナッツが、そういえばそう云うゲーム会社の開発者が交通事故で死んだって事、数年前に確かにあったって覚えている、とか言ってる。奴はゲーム開発という同じ様な仕事に携わっているから、そういうニュースには敏感だったのだろう。
 今俺達がテストプレイしている、MFC開発は超極秘だった――。何か悪い事をして、マスコミに変に嗅ぎ付けらる事を恐れる位には秘密裡に開発されていたゲーム、か。
 確かにゲームの概念色々ひっくり返すモノではあるから、ギリギリまで隠しておきたいというのもわかる。しかし、もしかするとそれ以上の何か、ヤバい理由でもあるのだろうか?
 とにかく、ゲーム会社のそれなりに重要な開発者が交通事故死して、それに向けて労災認定が下りたという事実が業界に、ひっそりと流れたのだろう。
 事故が起きた時間帯を考えると、そういう判決が出るのはこの業界珍しいんじゃないとかナッツが言っている。
 おいこら、どんだけブラックなんだゲーム業界。

 MFCの開発についての詳細を全面的に表に出さない、その為に労災認定が降りた―――。
 意味の深読みが必要だ、実はそこに重要な人員が減った、以上のややこしい問題がぶら下がっているのだ。
 まず、会社的には色々と被弾してダメージを受けているいう事。
 朝早い飲食店とか、病院とかなら就労時間の限定から公共機関が動いていない時間帯の移動も分かるが、ゲーム開発だからな?ヘタすれば、どんだけ働かせてんだっていうツッコミを受けるだろう。終電後だからタクシーを使ったって事は、就労時間の規定がフレックスでゆるゆるでもない限りそういう発想になっちまうだろ。
 恐らく、本当にその9人目は夜中まで仕事をしていてたのだろう。
 本当は会社は隠そうとしたが、隠そうとした事がバレるよりは非常識な時間まで拘束してしまった非を会社は受け入れる事にしたという事である。多分……ログインしてたんじゃねぇかな、トビラに。要するに寝てないとログインできない訳だから、そういう事情で変な時間に帰るハメになったのではと俺は勘ぐるね。

 だが、その開発者が具体的にどういう事をしていたのか。それを公にしなかった。
 寝てる間に遊ぶゲーム開発してたから、と本当の事情を、そのゲーム開発を極秘にしていた都合出来なかったのではないかと思うのだ。
 その事故から発覚した異常な就労時間対応策として会社は、色々な法整備に追われた事だろう。
 一人の社員が何をしていたのかを隠す為だけに、だ。

 MFCの開発はその不慮の事故によって、会社にとって大きな荷物になってしまったのも事実だという。
 開発中止の話も出たと高松さんは言っている。
 上層役員とかから、そこまでして開発を極秘にする必要が有るのかとか、秘密にしなければならないほどリスクがあるものを抱えておくのはどうか、とか言われたんだろうか?

 そんな中、MFCは綱渡りの開発を続けて漸くテストプレイまでこぎつけたんだな。
 俺の想像通り、常務理事の方から開発を止めろという圧力もあったとかばっちり高松さん、暴露してくれたよ。あっさり労災を認めた事で捻くれて干渉してくる記者も居たらしい。
 俗な連中は何かとナニかに関連付けたがるもんだ。そういう大人げない事を書く連中が居る事は知っている。

 交通事故、しかも乗ったタクシーも巻き込まれた……居眠り運転トラックによる死亡事故とはいえ……その死んだ会社員が秘密裏に作っていたのが異世界乱入ゲームの開発中なんて聞いたら、何が何でも関連付けて下世話に想像したくもなるだろう。その気持ちは分からないでもない。

 俗に、異世界転生とかトリップとかは、トラックにはねられないと話が始まらん事が多い訳だし。


「けど、本当にその亡くなった人のデータが一人歩きして……」
「一番やってはいけないミスだなぁ」
 高松さんは笑っているが、実際笑い事じゃぁないよな?
 死んだスタッフは志を共にする仲間……みたいなもんだろう?
「思うに、それが一番最初に行った……異世界における投影キャラクターの消去作業なのだよ。強制的にキャラクターを消去、つまり殺すプログラムのテストを兼ねて行った訳だが、要するにその最初の一回目を失敗していたと云う事だ。今バグとして発現してくれて助かっているんだよ、発現していなかったら今後ずっと、後になってから発現していたかもしれない。茂木が原因になっているとはいえ、茂木がプログラムのミスを教えてくれているようなものだ」
 高松さんは少し寂しそうに笑い手を組んだ。
「ありがとうと感謝して良いのか、何とも奇妙な気分さ」
 その人は茂木さん、というらしい。亡くなった9人目の開発者。
 ちょっと詳しい話を聞くと……さっきから何か厳しい表情を崩さないからそういうツンキャラなのかと思っていた……眼鏡じゃないがコンタクトの女性開発者、斉藤さんの直属部下だったんだそうだ。
 色々複雑な思いがあるんだろうな、それでさっきからその感情を隠せずに、つんけんとした顔をしているようだ。
「その人のキャラクターが……」
「何しろ白旗権限を持ったままなのだよ。望むままに世界を歪ませる力を持たせてしまった。そうやって発現したバグだ」
 えーと、どういう事かって?
 ようするに、大陸座という守護者を置いた事自体が引き金になっているって事だな。

 やっぱり……と言ったら何だが。
 世界を壊す要因を作ったのは、世界を創造した側だったという事態になりつつある。

「どうすれば、その……幽霊を消去できるんですか」
「バグの発生は分っている訳だろう、そしてそれを完全に消し去るには世界のリセットしかないという事態になっている事は……前に説明した通りだ。9人目、茂木のアイコンである『バルトアンデルト』にこれ以上力を与える訳にはいかない、我々が干渉した所で、もはや時間の大陸座を消す事は出来んのだ。そのように余りにも『世界』が固まり過ぎている」
 高松さんは頭を掻いて、隣の鈴木さんを窺いながら苦笑する。思うに、そうやって鈴木さんの反対側に座っている斉藤さんから顔を背けているようにも見えるな。
「茂木はもうログインしないが……茂木の仮想人格はそのまま残そうか、という話もあったのだ。茂木の仮想人格がトビラの中に現れる事はもう、無いのだからね。そのまま残してもそれまでだったんだが……」
 結局キャラクター・キル・アクションを試す為に、トビラの中で殺す事にしてしまった……あ、いやこの言い方は正しくは無いか。殺すというよりは消去という方法を試して失敗した様だ、中途半端に残ってしまっていたと来ている。
「大陸座という存在そのものを開発者権限で消去する事は本当に、出来ないのでしょうか?」
「それがねぇ、過去に遡って歴史を書き換えるって事が可能であれば出来るんだけど。それに厳重なプロテクトを掛けているから出来なくて困っているのだよ」
 山田さんが腰を浮かせて専門的な所を説明し出した。

 よく分らん、専門用語満載でまくし立てられたが要するに、過去に遡って物事に干渉し、パラドックスを起こす事も可能っちゃぁ可能なのだが……その場合世界を保守する事が難しくなる。

 イコール、俺達が存在した未来が全部消える事になるから結局リセットと同じだ……という事らしい。

 ならば消えないように小細工すればいいかというと、それが恐ろしく難しいのだと山田さんは力説した。
 というのも、あまりにも高い経験値を背負って8人と9人の外部世界投影キャラクターがトビラの世界に関わってしまってあの現状があるからだ、とか。
 ……どうあがいてもパラドックスを解消出来ないって事だよな、つまり。
 過去に干渉したら現在が無くなる。
 全く新しい世界が未来に出来るだけだ。守りたかった世界は結局消える。

 世界がリアルであるために、そのあたり上手く辻褄合わせが出来んらしい。世界に騙されるのはありでも、世界を騙す事は出来ないと云う事かな。
 ううん俺、上手い事言った。

「じゃぁ、中から改変するのは……出来るのか?」
「それが出来るというのがトビラの凄い所なんだよ」
 山田さん、穏和な人だと思っていたけどなんかヒートアップしてきました。
「要するに今の『僕ら』の立場は理力干渉なんだ。ところがトビラの中だと魔法干渉が可能になる。つまり、理を曲げてもたらす事が可能になんだ。時間干渉さえ、簡単ではないが『中から』なら出来る。パラドックスを解消した過去への干渉すら出来てしまうんだ……まぁ……本当に大変な作業ではあるけれど」
「じゃぁ今まで通り、中から赤旗を消去して行くしかないんだね」
 と、ナッツ。
「でも……どうやって中からその、大陸座というのを消去すりゃいいんだ。出来ないんじゃねぇのか?オレイアデントとやらは『見えなくなるだけ』だとか言ってなかったか」
 テリーの言葉に俺は首を傾げた。そんな事言ってたっけ?悪いが俺はよく覚えてない。
「それでいい、開発者レイヤーに待避させる事が出来ればいいんだ。バグの根本がはっきりしたからはっきりと解決策を言える。……大陸座を消去したまえ。そのようにトビラの中からアプローチすればいい」
「ええっ?」
 まて、流石にそれはどうかと俺も思う。

 知っている、そもそもトビラの中の赤旗魔王連中は『そういう事』を目指していなかったか?
 って事は、結局世界を保守しようとしているのが魔王連中で、それと争っている勇者ってどうよ?という事にならないか?
 立場がまるきり逆転しちまう。

「大陸座からデバイスを取り上げ、開発者レイヤーに待避させるんだ。茂木も含めてだ、全員を『見えざる、触れ得ざる』レイヤーに待避させる事が出来れば、レイヤーすなわち階層ごと大陸座を消去できるはずだ。世界に干渉を起こさずに消去できる。ホワイトフラグ権限を世界から一括消去すれば……バグを消せる可能性がかなり高い。少なくとも根本は消えるだろう。末端がその後どうなるかはこれからシミュレートするが……まず、世界に置いてある白旗を全部、別階層に待避させるんだ」
「でも、その残されたデバイスはどうすりゃいいんですか」
 白旗権限を別のレイヤー、曰く『開発者レイヤー』とか云うモノに移動させるには、持っているデバイスツールを手放してもらうしかない様だ。デバイスツールを持っている限り白旗は世界に干渉しうる存在である。今現在トビラの中における白旗は、そういう設定になっている。
 ともすれば、ツールを手放させれば白旗キャラは見えなくなる、本来の大陸座らしく『存在しなくなる』わけだが……それが持っていた力としての『デバイスツール』は世界に取り残される事になりゃしねぇか?
「バグで壊れた部分の修復に当てればいい、君達が中で早速そのように使った通りだ」
 ああ、レッドのバグを治したアレか。そこはログアウト直前だったから割と覚えている。
 そういえば、あの後石の色が薄れてしまったのを俺は奇跡的に思い出していた。重大な事の一つに、デバイスにはいかなる旗も立たないってのがあるな。ホワイトフラグのキャラクターから力を『デバイス』として受け取ったら、その力は有限になってしまう様に制限を掛けたのだろう。デバイスは白旗のツールすなわち道具な訳だが、その存在自体は白旗ではなく、道具であるからこそ消耗品としてのカテゴライズが通ったのかもしれない。
 デバイスツールの受け取りは、レッドフラグの消去に使うというよりは……そうやって『消耗品』にしてだな、情報量として考えれば『使う事』で世界に均し、値を返すという意味合いが強いのかもしれない。


 次のログインは予定通り、次の金曜日の夜に始まる事が正式に決まった。
 そして続ける冒険で、とりあえず赤旗の根本をやっつける事に集中するって方向性でまとまったな。
 細かい赤旗の処理はついで行うとか。

 やっぱりあれかな、今後は魔王八逆星とも連携していかなきゃいけないもんだろうか?
 魔王連中が言葉通り、そしてカオスの言う通り。
 世界を守る側であるならば、だけど。

 なるほど、だからカオスは俺達に手を貸したんだと今、納得出来る。奴は悪魔で、世界を破壊する側だとか云うらしいじゃねぇか。俺はその辺りよく覚えてないからアレだけど。
 魔王はむしろ保守する側だと、『真の世界の破壊者』である悪魔属性の奴は気が付いていたんじゃぁなかろうか?


 俺は、そんな事を考えに今夜もトビラのエントンランスに向かう。
 そしてそこで、体験した冒険をリコレクトする。
 正直それを考えているのは楽だ。

 現実での、俺自身の事を考えずに済むもんな。




 あくびをかましながらバイトに勤しむ、俺の日常。
 今しばらくはバイトを続ける。いずれ辞めるとは話してあるが、都合の良い時まで働いていて良いと言われていた。

 要するに、俺なんて居ても居なくても同じって事じゃねぇのか?同じ事を繰り返し思って一人で凹む。
 そんないつもの繰り返し。

 朝一番に運び込まれてきた荷物をひたすら、陳列する仕事を黙々とこなしていると……視界の端っこに見たくない人影を見てしまった。
 作業帽を目深く被って……俺は別のフロアに移動。


 昼が過ぎて仕事が終わる、俺は……珍しくすぐに帰らずに職員休憩所で缶コーヒーを手の中で回していた。
「おぅ、珍しいなハヤトぅ、どうした?」
 俺は大体真っ先に家に帰るからな、こうやって居残ってる事は確かに珍しい。正社員の俺の上司にあたるおっさんが、俺の隣にどっかりと座り込んで来た。
「聞いてるぞ、ようやくフリーター脱出だってな」
「……いや、まだわかんないですけど」
 お世話になりました、とは素直に言えなかった。今暫くこの生活は続く訳だし。
「そっかぁ、俺は応援してるぜ。例え上が辞めさせてくれなくってもその時は俺が、お前をちゃんと蹴り出してやるからな」
 笑いながら、上司は自販機から濃い茶系飲料を買って行ってしまった。

 ……どういう意味だそれは。

 俺は上司の言葉の意味に頭を抱えて、どう捉えて良いものかと天井を仰いでしまう。その途端、ポケットの中で携帯がバイブレード。例によって音は切ってある。
 着信だ、俺は舌打ちして……端末を開いてみてやっぱりなと思い、そのままぱちんを二つ折りの携帯端末を閉じた。
 要するに無視を決め込んだのである。
 その後もしつこく3度着信、一度メールが来てようやく鳴り止む。しつこいんだよ!

 そんなこんなで三十分以上は時間、つぶしたな。

 そろそろいいだろう、俺も腹減ってきたし……。
 そう思って腰を上げた所だ。

「どうもすみません、」
「いやいやぁ、奴も隅におけねぇなぁ」
 げげ、上司ィ!
 どうして職員通路に一般人を上げるかなぁ!
「ちょっと、携帯鳴ってるの分らない訳ないわよね?」
 しまった、時間を確認するためにばっちり携帯端末をを開いている俺。
「無視するんじゃないわよ、ほら!」
 強引に腕を引っ張られ……俺は、俺の仕事上がりを待ち構えていた……阿部瑠に引きずられるように……バイト先を後にするのであった。


 想定外だ、よもや職場まで上がり込むほどコイツは厚顔無恥だとは……!


 ぐわ、こっ恥ずかしいッ!
 多分本当は誰も見ていないのだろうけれど、俺は見られて笑われている気がして堪らない。
 必死に阿部瑠の手を振り払っていた。その行動の方がむしろ目を引くって事分ってない。
 案の定今、俺は墓穴を掘ってます。
「……何よ、掴んでないとあんたすぐ逃げるじゃない」
「うるせぇ、逃げないとは保証しねぇが……」
 気が付いたら最寄りの地下鉄。
「何だよ、」
「何って、昨日言ったでしょ?」
「……はぁ?」
 何か……言われたか?やべぇ、マジでよく覚えてねぇ。
「新作、詰ってるって言ってたじゃない」
 あ……思い出してしまった。
 出来れば思い出したく無かったが……人というのはどうしてこう、思い出したくない事もオートで引っ張ってくるんだろう。
 一昨日の……ログアウト後に俺がばっくれた理由を……早速テリーの野郎が吹聴しまわりやがってな。それで俺が今、新作の某アクションゲームをやっているのが阿部瑠に知れてしまったのだ。
 ええとどういう流れだったのかよく覚えていないが……何か弾みで流石に最終ステージが近づくと難しくて、とかぼやいてしまったんだな。

 ならあたしが手伝ってあげようか?

 などと言われてそれに俺は……。ええと――

 勝手にしろ、と……答えたと思う。

 いやまて?どうしてそれが今この状況に結びつくのだ。
 分らん、分らんぞ?さっぱり分らん!

 理不尽な思いに悶々としつつ、気が付いたら降りるべき駅で無意識にちゃんと降りている。当然と……背後に阿部瑠もついて来やがる。
 迷惑なんだが、俺には彼女を追っ払う上手い言葉が思いつかない。
 結局そのまま阿部瑠は俺の部屋まで来てしまった。道中何かしら話しかけられていたんだが、俺はそれの殆どをあー、とかうん、とかいうので受け流してまともに聞いていなかったり。
 まぁ、いつもの事だ。
 俺と奴はゲームな話題だけは合致するが、それ以外は見事に空回りする。要するに、阿部瑠から振られていた話は俺が興味のない部類、すなわちゲーム関係無い話だったから、流して殆ど記憶に残してないのだな。
 ……なに?それは全面的に俺が悪い?
 まぁなぁ……ゲーム以外に興味なしという俺が悪い事は分かっているんだが。それ以外にぶっちゃけて興味が働かないんだからしかたねぇだろう?
「で、どうなの?おもしろい?」
「あぁ、結局やりこんでるとジワジワ来やがるもんだよな」
 阿部瑠、部屋を前にしてようやくゲームの話を振りやがった。どーしてこう、女ってのはどうでもいいような話題で無駄に盛り上がれるんだろうな?
 俺は鍵を取り出し……流石に俺が外出する時は鍵は掛けるよ、いくら何でも……鍵を開けて……ん?あれ?
 なんか、鍵が掛ってなかった気配がした……が。
 阿部瑠に知られると余計な事言われるし、うざかったので俺は今部屋の鍵を開けた振りをして……どうやら鍵をかけ忘れていたらしい扉を開ける。

 で、……俺は自分の部屋だというのに入るのをためらい、呆然と立ちつくしていた。

「……何?」
 俺は、阿部瑠の疑問を無視して携帯を取り出す。
「……警察って何番だ?」
「泥棒?」
「誰が泥棒だボケ」
 そう言って、またしても 俺 の 部 屋 から現れました。テリー事、照井タテマツ。
「……あっれー、どうして照井君、中にいるの?」
 俺が疑問を口にする前に阿部瑠が聞いていた。そう、俺……割と無口。というより……口べた。
「いやな、ナツメから合い鍵を」
「えっ!なっつんには合い鍵渡してるんだ?」
「……」
 何と弁解して良いものか。
 俺は頭を押さえてその場にうずくまってしまった。


 ……何だ?何が起こっているんだ?
 俺の部屋をすでに奴ら、我が物顔で占拠し始めているような気がするが……俺の気の所為だろうか?
 そういや昼飯買い損ねたとかそんなん考える間も無かった俺だが、すでにテリーの野郎弁当3つ持参済み。
「遅ぇぞお前ら、ナツメから合い鍵預かっててよかったぜ」
「だからって、フツー人ん家に勝手に上がるか?」
「だからどーしてなっつんに合い鍵渡してるの?」
「だから、それはコイツが……」
「だーッ!」
 お前ら自分の言いたい事ばっかり言いやがって、俺はブチ切れて立ち上がった。……気が付いたら落ち着いて座っていたよ俺。
「人ん家を勝手に会合場所にすんじゃねぇ!」
「何よ、何時も勝手に上がれって言うじゃない」
「そうだ、ナツメや他の連中は良くてどうして俺はダメなんだ?」
 ああいえばこう言う、くそッ、反論出来る程俺は強くねぇんだよ!そうやってなし崩し的にたむろする奴らが増えていくんだという事はよーく解っているのだが……昼間くらいは俺の自由にさせろよ貴様ら!
 いくらなんでも昼間から上がり込むような友人は俺にはいねぇ!ナッツは仕事があるから当然と、逃兎も鈴もコピさんも……とにかく、昼は俺の唯一のフリータイムだというのに!
 俺は無言で……おもむろにモニタースイッチを入れてゲームを起動させ……三つの弁当が入った包みを勝手に掴み上げて台所に向かう。

 あーもう、いいよ。くそッ!

「……鍵をよく無くすらしいぜ」
 テリーの言葉が聞こえてきて、それに阿部瑠は何ソレと大げさに驚いている。
「しょっちゅう無くして部屋に入れない、という事をやらかすらしい。それでナツメが合い鍵預かってるんだと」
「なぁんだ、だからコイツ、基本的に施錠しない癖があるのね」
 テリーのため息が聞こえる。
「らしいな、ナツメも呆れてたぜ。しかし何道草食ってたんだ?予定の時間より随分遅いご帰宅じゃぁねぇか?」
「しょうがないでしょ、アイツなかなか出てこないんだもん。あたしの呼び出しも無視してたのよ無視、サイアク。待ち構えているの知ってて出てこないのよ?仕方がないから中に入って引っ張ってきたのよ」
「全く……お前、どこまで人に迷惑掛けてんだよ」

 ちょー待て、それ、俺に言ってんのか貴様?

「……言いがかりだ……」
 しかし強く言い返せない俺は、小さく反応の呟きを漏らし……黙って弁当屋の弁当をレンジで暖めて、茶を入れるべく湯を沸かす為、電気ポットに水を注いでいるのであった。
 そういえば、ちゃんと三つあるんだな……って事はいつの間にか昨日、俺ん家に集まる話になってたって事か……?

 全然そーいう事、屋主の俺が把握してないんだけど?


 ちょっと遅い昼食の後、早速某アクションゲームを阿部瑠に投げ渡し、俺はそれを眺めているテリーに聞いた。
「……で、お前は。今度は何の用事だ」
「何って、オマエの更生するって言っただろ?」
 何だそれ、憶えているような気もするが……オボエテマセンね。
 うん、忘れた事にしておこう。
「なにそれ」
「なにそれって」
 お互い何故か笑った後で……あまりにも手際よく、俺は奴から腕を取られて上半身を固められていた。
 何かもう、何が起こったのかよく分からんうちに、だ。
「ぐぁたたたたたッ!」
「その貴様のチキンな性根を叩き直してやるって言ってるんだよ!把握したか?」
「は、離せマジでシャレにならんイテェちょッ!」
「ねぇヤトー、この分岐どっちに行った方が良いの?」
「阿部瑠、貴様……空気読めーっ!」
「把握したと言え、このチキン野郎」
「ねぇ、どっちよー?」


 もうやだ俺、こいつら大嫌い!


 結局暴力的にテリー先生と呼ぶ事まで了承させられ……そうになってその押しの弱さが渇ーッとか言われ……正座させられてなんだかよく分からん話を延々と聞かされた。
「ダメだなこれは、出張じゃ埒があかねぇ。……こんな事もあろうかと持ってきた」
 嫌な予感がギュンギュンにします。
 ……ポケットにねじ込まれていた紙の皺を伸ばし、テリーはそれを俺の前の床に置く。
「よく読んだ後に名前を書き、はんこを押しやがれ」
「……照井道場、入門……承諾書……?」
 俺は、それを取り上げて……。
 無言で破って丸めてゴミ箱に入れた。
 殴られる覚悟だったが、おそるおそる伺うとなぜかテリー、ちょっと驚いている。
「おぉ……やれば出来るじゃねぇか」

 もはや、何で褒められているのかもよくわからねぇ……。

 そんな下らないやりとりをやっているうちに流石はコントローラーの鬼。某魔界ビレッジを一日でクリアしてしまう阿部瑠である。
 俺が引っかかっていた箇所など軽々越え、数時間後にはモニターにスタッフロールが流れていた。

 それで、ようやくこの場はお開きかと期待した俺であったが……正座させられて痺れた足を引きずって、今度は行きつけのゲームセンターに向かっている。

 あれ?何故?どうしてこんな流れになっているんだ?

 テリーから腕を掴まれ引きずられつつ……もはや俺は展開について行けない。
「格闘ゲームも鬼と聞くからな、手合わせしてぇとは思ってたんだ」
「最近は足が遠退いていたからなぁ……どうだろう?」
「女に全力を出す程俺は小さくねぇぜ?」
「あら……女だって甘く見ないで欲しいわね」
 よく分からない会話だ……どうして、俺がソレに付き合わねば為らないのだろう……。

 助けて、ナッツさん助けてー!

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沢野 りお
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なんということもない普通の家族が「勇者召喚」で異世界に召喚されてしまった。 兄、橘葵二十八歳。一流商社のバリバリエリートのちメンタルに負担を受け退職後、一家の主夫として家事に精を出す独身。 姉、橘桜二十五歳。出版社に勤める美女。儚げで庇護欲をそそる美女。芸能人並みの美貌を持つオタク。あと家事が苦手で手料理は食べたら危険なレベル。 私、橘菊華二十一歳。どこにでいもいる普通の女子大生。趣味は手芸。 そして……最近、橘一家に加わった男の子、右近小次郎七歳。両親が事故に亡くなったあと、親戚をたらい回しにされ虐げられていた不憫な子。 我が家の末っ子として引き取った血の繋がらないこの子が、「勇者」らしい。 逃げました。 姉が「これはダメな勇者召喚」と断じたため、俗物丸出しのおっさん(国王)と吊り上がった細目のおばさん(王妃)の手から逃げ……られないよねぇ? お城の中で武器を持った騎士に追い詰められて万事休すの橘一家を助けたのは、この世界の神さまだった! 神さまは自分の落ち度で異世界召喚が行われたことは謝ってくれたけど、チート能力はくれなかった。ケチ。 兄には「生活魔法」が、姉には「治癒魔法」が、小次郎は「勇者」としてのチート能力が備わっているけど子どもだから鍛えないと使えない。 私には……「手芸創作」って、なにこれ? ダ神さまにもわからない能力をもらい、安住の地を求めて異世界を旅することになった橘一家。 兄の料理の腕におばさん軍団から優しくしてもらったり、姉の外見でおっさんたちから優遇してもらったり、小次郎がうっかりワイバーン討伐しちゃったり。 え? 私の「手芸創作」ってそんなことができちゃうの? そんな橘一家のドタバタ異世界道中記です。 ※更新は不定期です ※「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています ※ゆるい設定でなんちゃって世界観で書いております。

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