異世界創造NOSYUYO トビラ

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8章  怪奇現象    『ゴーズ・オン・ゴースト』

書の6前半 忘郷『思い出の中で止まっている時間』

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■書の6前半■ 忘郷 Nostalgia to forgot

 魔導都市で魔導師連中の研究結果をぐずぐず待っている場合じゃない。
 行ける所まで行くべきなのだ。行動出来る内は行動すべきである。

 と云う事で、俺達は早速ですが大量の宿題を魔導都市に投げ渡し残し置いて……現在コウリーリスに向かって進んでおります。
 どうもエルドロウが関わった時点で魔導師達の態度が相当に、変化したな。なんか全体的に魔王討伐について動き出したって感じがする。
 今まではそんなんでも無かったのか?と聞かれれば正直そうだと言える。上から命じられて渋々、みたいな連中も多かった。
「あれで、暫く下らない事は忘れて研究を進めてくれるでしょう」
「下らない事、って?」
「例えば、レブナントがどうだとか。話す相手が魔種だとか。そういう事は気にしないで宿題を解く事に必死になるはずです。片づける謎が在る内はそんな事、どうでもよく成る。そういう気質が魔導師にもあります」
 所詮魔導師だって人間ですからね、とレッドは苦笑している。
「上手く行ったと思いますよ、恐らく魔王を討伐した暁には、僕は正式に紫魔導として迎え入れられる事になるでしょうね」
「そう言う割に、嬉しそうじゃねぇなぁ」
「レブナントの名誉を挽回するのはいいですけどね、正直役員なんて面倒なんですよ。……魔導師辞めましょうかねぇ」
「おいおい、レオパードが泣くぞ」
 馬車に揺られ……例によってテリーさんは酔い止め飲んで俺の隣でマグロのごとく横になっております。
 俺達はペランストラメールを南下中である。
 魔導都市ランってのはペランのかなり北方にあるのだが、俺達が次の目的地と定めたのはグランドラインと呼ばれる険しい山稜地帯を挟んでお隣の国、コウリーリスにいる不動の大陸座ドリュアート。
 で、そのついでに俺の故郷であるシエンタによるって段取りだな。道中通るのだ、避けて行く方が遠回りになるくらい。
 何?どうして転移門を使わない?

 もちろん、あれば使うぞ。転移門があれば。

 残念ながら転移門という魔法はどこでもドアとは違うのだ。
 それに近い使い方をしやがる超エキスパートも過去居たには居たそうだが、今はそこまで特出した魔導師は居ないらしく、それに一番近い所に居るのはレッドなんだそうだ。
 転位門はいろんな場所を自由に行き来出来て便利だが、使うにはまず設置しなきゃいけない。
 つまり開通している場所が限られている。魔導師達が行き来する事のない場所に、門を開いておく必要性は無いだろう?開くのも維持するのもそれなりのコストが掛かるんだからな。
 大陸座やドリュアートの研究をしている魔導師が居ない訳ではない。そう云う魔導師はいるが、余り大きな派閥ではないしそう何度も足を運ぶ必要がないから転移門は整備されていない、との事でして。
 便利な機関に一度でも頼っちまうとつい、今後もそれでと言いたくなるが……やっぱり旅はテクが基本である。
 地図を見せて貰って説明を受けるに、実はこの前エルドロウが現れた学士の城という場所は、割とシエンタに近い様だ。とはいえ、それは平面の地図の上での話だ。実際には高く複雑なグランドライン山脈のド真ん中らしくて、そこから山越え谷越してシエンタ方面に山を下る事は、ルート的に無理がありすぎる。
 行き来が恐ろしく難しい、珍しい研究対象の遺跡って事で学士の城には転移門が整備されている。そうするに、壮絶な苦労をして山を越えた魔導師が居たという事だな。

 さて、ペランストラメールには定期移動機関みたいなものも無い。ようするに決まったルートを人や物資を運ぶ為に機能する運搬機構が無いっぽい。
 西方とか南方はこういうの、かなり整備されているらしいが、ペランは自由の国だ。でも自由って乱暴だって、先にやった通り。ダイヤもルートもその時々で都度変化するし適当っていうのも……きっちりとした日本の交通機関に慣れ切った精神を持ち込んでいる俺達にしてみると辟易してしまう。
 俺らは物資を運ぶ行商の、戻り便を何とか捕まえてこれに便乗している。港町のジャヴァスまで行くらしいので、その途中にあるケファースまでお世話になる予定だ。
 行商人はケファースから山道を下ってジャヴァスに運ぶ荷物を請けうそうだが、俺達は峠道を登ってジュリエ方面に行くという按配である。
 ペランストラメールは日本列島みたいに縦に長いからなぁ、隣町ったって道のりは遠い。

 行商人のキャラバンに便乗させてもらって一週間、ようやくケファースの街に着いた所で長いスキップを抜けた。

 三つの大小サイズの違う湖のほとりにある、結構大きな街だ。なんだか景色が懐かしいな……遠東方イシュタルのエズの風景と似ている。あそこも湖があって、その畔に街があるもんな。
 湖の背後に山があるのも同じ。

 昔……間違ってここに来た事あったよな。と、俺は遠い目でリコレクトする。
 ……誰が悪いんだっけなぁ、多分アベルだったと思う。テリーだったか?間違いなく俺じゃぁない。
 エズから魔導都市を目指したところ、数倍以上の期間が掛かったのは、途中寄り道やら足止めやら掛かったのと……登る山間違えて下っちまって行きすぎて……ケファースまで降りちまったのが原因だよな。
 で、素直に引き返せばいいのに折角来たから少し観光しようとか言い出しやがって、嵐の季節とやらに引っかかり……さらに畳み掛けるように訳の分からない事件に巻き込まれ……。
 ふぅ、やめよう。
 奴らとの珍道中をリコレクトするとキリが無い。
 行商団と分かれて、さて。奴らは何と言い出す事やら。
 俺はアベルの顔色をうかがう。テリーは、馬車酔いが酷くで抑えた宿ですでに寝てる。
 大体俺から何を言われるのか察しているのだろう、そっぽを向いている。ついでだから観光、などと言い出さないのは……かつてそのように言い出して色々あった過去を思い出しているからだろう。
「アベちゃん、何か機嫌悪い?」
「別に?なんでもないわよ」
 アインから何か勘ぐられて、さらにそっぽを向いた。
「ええと、物資補給しましたら即発ちますけど。いいんですよね?」
 レッドがそんなアベルに何かあるのかと、多分気を回したんだと思うけど……墓穴掘ったなお前。
「別に、何も無いっていってるでしょ?なんであたしに聞くのよ」
「……ならいいんですけど」


 すぐに発てるように町はずれに宿を取っている、あとは道中消耗品の調達をしないとだな。予定よりは少しだけ、早く着いたんじゃねぇかな。
「武具屋とか、寄ってるヒマは無いかな?」
 そういえば剣が鞘に合ってないのが気になってたんだ、俺はぞろぞろと歩く道中ふっと思い立つ。
「天気の良い内に峠は越えた方が良いよ。僕は予報を見てこよう。ついでに道具屋にも寄ってくる」
 ナッツが今のところ晴れている空を眺めながら言った。
「鞘の調整は一日で終わるかな……とりあえず、応急処置でもいいんだが」
 俺は剣を鞘ごと取り外し、グラグラ鞘の中で遊ぶ剣を布で縛り付けてあるのを示した。
 レッドがいつものように眼鏡のブリッッジを押し上げる。
「ジュリエに結構有名な鍛冶屋がある、と聞いた事があります」
「ホントか?」


 歩いて行くとなると、一つ山を越えるのだって大変だ。目の前に見えるのに、たどり着くまでに結構掛かる。面倒だから道中はスキップ、残念ながらここからジュリエ方面に向けレンタルできる乗り物は無かったので本当に歩きである。
 ここで……トラブル発生。
 正直何も無いとこういうイベントがちょっと嬉しいようで……ちょっとウザい気もしたり。
 どうも山賊が出るらしいなぁ、おかげでジュリエに行く旅人達はなるべく固まって、峠は昼間に越えるようにとの、ペラン政府からの注意の立て札が立っていた。

「………」
「勿論、急ぐんだから夜だろうと峠を越えるよな?」
 テリー、にやにやしながら言うなッ!
「賞金は出ないのかしら」
 アベル、お前なぁ。
「出すでしょう?ついでですから壊滅させておきますか」
 レッドが笑いながら腕を組んでいる。

 あれ、もしかしてお前ら……何も無い道中ヒマしてたりしたか?

 もちろん、避けてもいいのだ。だが……俺達の後ろからジュリエに向かう旅人達の一団が続いて来るのを知っている俺達は……善意からこれを討伐する事を決めた。
 後から来る旅人達に、俺達が山賊団を壊滅させる事を約束して……先に出発だな。
 とはいえ、金目の物といえば装備品くらい、割と腕の立つ場合もある冒険者をわざわざ狙う程盗賊団ってのはバカじゃない。連中が出てくるシチュエーションって奴をまず作らないといけない。

 雨避けのマントを纏い、武器や装備品を布で包んで荷物のように偽装。その分俺達は軽装になるけど……そんくらいのハンデはやらないと盗賊達かわいそうだからな。うん。
 具足なんか付けてるとプロってバレるからこれは外す。篭手類も同じく。レッドも魔導マントは脱いで、普通の雨避けを纏った。
 ワザと夕暮れ時に峠を通りかかるように時間を調整し、やや小走りに通り抜ける。
 もちろん、相手が引っかからないならこっちから探してぶっつぶしに行くがな!
 その探査魔法をナッツは密かに働かせる為……奴は別行動。空から峠越えだ。

 しかしこっちの気配りは無用だった。道中に怪しい荷車が止まっていて……立ち往生している。
 俺達5人――アインは荷物の中に隠れている――は、あえてそれを見なかったふりをして通り抜けようとしたのだが……突然何者かが飛び出してきて俺に追いすがった。
「すいません、荷車が壊れて困っているんです!」
 俺は、飛び出してきた幼い少年にびっくりして立ち止まってしまった。
「荷物を、ジュリエに……運び出すのを……て、手伝って頂けませんか」
 必死の少年の瞳の中に俺は、怯えの色を見いだす。
 薄暗い闇の中、大きな瞳をじっと見て俺は、溜まらず小さな少年の頭に手を置いていた。
「……こんな子供が」
 びくりと驚いて、身を翻そうとした少年の腕を掴む。
「いいぜ、手伝ってやる」
「ヤト」
 アベルから何か言いたげに小突かれたが、俺は笑って手を振った。
「で、何を運ぶって?」
「あの……小麦の、」
「麦ねぇ」
 テリーは壊れた荷車の中に積まれている麻袋を軽く手で叩いてから、片手で一つを軽々と持ち上げて見せる。
「行商人相手に嘘はよくねぇと思うぜ」
 勢いよく地面に叩き付け麻袋を破ると……細かい砂がざらざらと流れ出した。
「奴らは重さで中身くらい察するからな」
 少年が悲鳴を上げて俺の腕をふりほどき、逃げようとしたが勿論、俺は離さなかった。
「うわぁッ!離せ!」
 必死の形相で俺の足を蹴ったりするのをそのままに、俺はため息をついてレッドを振り返る。
「こういうのってアリか?」
 手に武器と工具を構えた、大小様々な子供達が藪から飛び出し、ガキの一人を捕まえている俺を取り囲む。小鬼じゃぁないな、割と身なりがしっかりしている……これは、町の子供だ。
 殆どは棒なのだが……中には鋤やら手斧やら持ってる奴もいる。しかし素人なのは間違いないな。……俺は斧が新品なのを見抜いて目を細めてしまう。
「あるでしょうね、地域的には……ありですよ。でもどうでしょう……何か裏がありそうな気もしますね」
 孤児じゃないのは俺も分かる。
 裏の事情、ねぇ。
「そっか」
 俺は、暴れる子供を離してやった。勢いがついていて、俺は何もしていないがガキは勝手にしりもちをつく。
 子供の盗賊団か。
 こんなんふん縛って金貰おうなんて冗談じゃねぇ。けど放っておいたら……。
「とりあえず、捕まえるか」
 その一言に一斉に逃げようとしたガキどもだったが、時間はたっぷりとあった。レッドが空間遮断魔法を発動させていて、難無く全員御用である。


「なぁんだ、子供の悪戯かぁ」
「どうだろうな。だったら政府で警告は出さないだろ?お前ら何やらかした?」
 テリーは極限に優しい顔で聞いたんだろうが、内心戦いが無かったフラストレーションが漏れだしておりますよ。
 一部ぐずりだした子供の頭を撫でて、アベルが宥める。
 心外そうに顔を歪めたテリーのマントの間から、赤いドラゴンが顔を突き出した。
「もう、子供の扱いがなってないんだから」
 子供達は突然現れた子竜に驚いたようだ。アインはテリーの肩から這い出して、あざといカワイイ・ポーズであっというまに子供達の心をゲッツ!
 流石だアインさん……老若男女をメロメロにする、無条件の愛くるしい動作に俺も一瞬和みそうになった。
「とりあえず……話が出来そうな奴ちょっと来い、」
 俺は、数人年上と思われるガキを連れて……レッドとナッツの所に連れて行った。
「あなた達はジュリエの子供ですね」
「………」
 だんまりだ、俺はしゃがみ込みこっちを見ようとしないガキどもの目線を合わせる。
 やっぱり何か怯えているよな。俺は目を細めた。
「……黒幕、他にいるだろ」
 しかしやっぱり黙っているな。ま、お前らが黙っていても……
 ―――詳しい話はアインさんが他のガキどもとうち解けて聞き出すけど。
 どこから来たの~というアインの謳う様な質問に一斉に、ジュリエ~とか条件反射的に合唱して答えたのが背後で聞こえます。
 あぁ実に和む。
「ナッツ、どう思うよ」
「子供達を統率できる人ってのは、限られるよねぇ……ははは、僕のトコの錆なのかなぁ。……ジュリエにも天使教の宣教師はいるんだけど」
 ナッツが言いたいのは、ようするに子供を統率している人物の可能性として、例えば学校の先生みたいな存在を懸念して苦笑を零しているのだな。天使教の宣教師は無償の学校を開いている事がある。
 俺の故郷、シエンタでもそうだった。
「でもこんな事するような人かな?……まぁ犯人が誰にしろちょっと、懲らしめてやらないとだね」
 笑っているがナッツ、お前怒ってるみたいだな。
「……先生は悪くない!」
 黙っていた、頭の良さそうなそばかす顔の子供がふいと、俺の袖を掴む。
 ナッツさん、割とカマ掛けてわざと話してたんだなと俺、今気が付きました。
「悪いのは……悪いのは……僕らで……」
 途端に何か感極まったのか、がたいの大きな子供と気の強そうな女の子がぐずりだした。一人さっきからそっぽを向いている黒髪の少年がその3人を宥めるように肩を叩き……意を決したように顔を上げる。
 ナッツ、を向いているな。
「お前、天使教の神官なのか?」
「ああ。そうだよ」
「……先生の事、知っているのか」
 本当に知っているのかどうか分からないが、ナッツは迷い無く無言で頷いて肯定して答える。
「正直、天使教同志が君達に盗みを働かせるなんて信じられない。君達の先生というのは、天使教の宣教師事なんだね?」
 無言で、黒髪の少年は頷いた。


 なんだか変な事に巻き込まれちゃったなぁ。
 子供達の歩みに合わせて、峠道から外れた獣道を俺達は歩いている。その途中、子供達のリーダー的な存在らしい年上4人組から大体の事情を聞いた。
 すると、なんとも情けない大人の事情が見えてきて、俺はため息を漏らしちまうぜ。


「ジュリエは昔、一度西方ディアスから占領された事があるんだ。その時に西教が強く入ってね、天使教の宣教師は肩身が狭くなった、的な報告を読んだ事がある」
 割と真面目に神官職はやってたんだなぁナッツ。
 どうにも……ジュリエで、宗教闘争があるらしい。
 とはいえ勢力的には西教の圧勝らしい。天使教は細々と、寺子屋を開いてこぢんまりと活動しているのだという。
 西教は、勉強を教えるような事はしないんだと。
 大人向けに聖典を読む事はあれど、子供達向けに行事は行うが日々学びの小屋は開いていない。
 対し天使教ってのは教義説教の前に、人の教養を深める事を第一として宣教活動しているんだ。俺の故郷のシエンタにも天使教の宣教師が居て、俺もそれを先生と呼んで慕っていた。それはログ・CCした通りだ。
 ジュリエの人に限らず、東方人ってのは割と宗教には無頓着な特徴があるらしい。その辺りは解説するにめんどくさい歴史の推移があるんだが……そもそも東方人ってのは西方人の開拓者が元になっていて、西方の生活になじめなかった人達が開拓して出来たのが東方国、なんだとか。要するに根底に反西方っていう考え方があるとされるが、今はそうでもないんじゃねぇかな?
 しかし西方イコール西教という訳じゃない。開拓と一緒に西教ってのは東方にも根付いていて、割と独自に定着しているんだそうだ。
 さて現在、西教は昔程の勢力が無く、西方においては天使教という別の教義に取って代わられるつつある。天使教は多くの地方に宣教師を送り、少しずつ西教を自分らの教義に染め直す活動を行っている訳だが……。
 そんないきなりやって来て、西教の神シュラードを蹴り飛ばして新しい偶像を立てたって現地人はぶっちゃけて混乱するだけだろう?そこん所天使教はよぉく分かってまして。少しずつゆっくり切り崩す事にしている様だ。
 ナッツ曰く、秘伝のマニュアルが色々とあるんだとか。詳しくは教えてくれませんでしたが。
 とにかく、まず宣教する地域の人々の信頼を勝ち取る事が第一なので、土壌造りとして子供達の面倒を見て彼らに、勉強を教えてあげて知能指数を上げる事にしてるんだとさ。
 ジュリエでは一度西国ディアスが入ったおかげで西教が大きな顔してるんだけど、こっそり天使教の宣教師が子供達相手に無料で学校を開いている。お金のある家の子は、有料のちゃんとした先生のいる学校みたいな所に通えるんだろうけれど……格差ってのはがっちりあるからな。金銭的な問題で勉強出来ない子供ってのはドコにでも居るのだ。
 頭が良くないと割の良い仕事に就く事だって出来ない。大人達は基本的には子供を学校にやりたいと、自身らの無学から思い知るのだが、金が無いからそれが出来ないという。
 そういう悪い、スパイラルが発生する訳だ。そして格差はさらに広がっていく。
 天使教の学校は重宝されていただろう、割と宗教に無頓着な東方人は西教と天使教が『争っている』なんて事情など関係なく、便利で助かるからと子供達を天使教の学校に通わせているのだろう。

 ところがこれが、西教宣教師から見るとおもしろくない。

 いずれその子供達が大きくなった頃、彼らは西の神シュラードに頭を下げず、翼ある神を崇めるのではないかと無駄に心配する訳だ。
 てゆーか、宗教はその前に自由だと思うが?オラほの神が一番だ、という考えを持っている奴らはガチガチで、他人にもその考えを容易く押しつけるのがいただけねぇ。
 そんな俺の考えはともかくだ。
 西教神官達、どうやら天使教宣教師イジメをやっているらしいな。ひいてはその天使教の学校に行ってるのは基本的に貧困層だから、それを良い事に子供達を使って、悪評を立てて。

 ジュリエから、天使教宣教師を追い出そうとしているらしい。

 徹底的に悪者に仕立て上げて追い出すつもりのようだ。
 ガキども曰く、なんでも先生には借金というのがあるらしい。西教神官がそれを肩代わりしているらしく、これが返済出来ないと天使教神官はこの町を出て行く事になるとか。
 事実、その通り天使教神官である『先生』が突然と消えてしまったのだそうだ。何も先生から聞いていない子供らは、驚いた事だろう。
 勿論、子供達はそのように唆されているのだ。
 恐らく……天使教神官は西教神官にとっつかまってどっかに監禁されてるな。先生がいなくなった子供達は必死に先生を捜す訳だが、そこに西教神官がご丁寧にも無い借金話を吹き込んだって所だろう。
 借金というものが払えるなら―――要するにお金があれば先生は戻ってくる、的に騙しる様な雰囲気がガキどもの話を統合するに感じられるな。
 もちろん騙されているのはリーダー格4人は薄々分かっているようである。
 それでも先生を救いたいと思った子供達は、なんとかお金を得ようとして……盗賊団を結成しやがったのだ。その辺りも西教神官どもの入れ知恵なのだがもちろん、そんな簡単に行くはずがないのだ。
 ところがだ、一回目の追いはぎが成功しちまったんだと。
 分かるか?要するに……それは成功するように仕組まれていたんだな。

 子供達に、追いはぎやって稼がせようとしたのもコイツで、西教に違いない事が分かる。

「悪だな、そりゃ」
「ああ、断罪すべし」
 という俺とテリーの拳を固めた一言に、ナッツとレッドはため息を漏らす。
「暴力で解決する問題ではありませんよ」
「殴って改心するなら、僕も宣教師マニュアルに殴れって書くよ」
「じゃぁどうすんだよ」
「とりあえずウチの宣教師を救いだそう。それで一旦ジュリエからは距離を取らせた方が良いね、人員を増やすように上には掛け合う手紙を至急送るよ。ジュリエ担当官の立場は僕が必ず守る」
「……先生をどこかに連れて行っちゃうの?」
 不安そうな子供の声に、ナッツは安心させるように笑う。
「君達は……先生が大好きなんだね」
 すっかりアインをおもちゃにしている、子供達が嬉しそうに大好きと唱和した。

 ああ。俺も、……シエンタの先生の事は大好きだったよ。
 あの人は唯一、孤立した俺の味方だった。
 ……ろくな別れをしなかったんだよな、シエンタを抜け出した後は生きるのに必死で、思い出す事も稀だったけど。
 なんだかすっかり思い出しちまって堪らない。

 俺は苦笑を浮かべて顔を背けてしまった。

 ……先生は変わらず、あの村にいるのだろうか。俺のジジイは健在だろうか、やっぱりもう。死んだかな。
 うわやべぇ、色々思い出してきて切なくなってきた。
 落ち着けヤト、どう足掻いてもシエンタにはこれから行くんだからな。ちゃんと心の準備をしておくんだ。
 例えどんな出会いがあり、別れがあっても。
 何でもないって笑ったお前を思い出せ。何でも無い過去だったろうが。

 ……過去だから笑えたんだよな。
 今になったら、途端やっぱりキツい気がしてきた。もう二度と戻るつもりが無いから、そこから逃げ続けるから俺はシエンタでの出来事を笑い話に出来たのかもしれない。

 逃げない、逃げないぞ。俺は……逃げないんだからッ!

 そんな事グルグル考えていたら、他で話が進んだようだ。

 ジュリエには長く居るつもりはない、本来の予定では通り過ぎるつもりでいたくらいだ。時間が合えば宿を取るか、程度だな。
 もちろん、盗賊団を倒してそいつらをジュリアに突き出し、その手続きがてら一泊。俺はその間に鞘を直す。そして旅の続きというシナリオ修正が入ったわけだけど。そのシナリオがまたしても修正必須になった訳か。
 別に俺ら金欲しい訳じゃないしな。鞘だって、別に急いで直さなきゃいけないモノでもない。
 盗賊団のまねごとをさせられそうになった子供達の為にも、ここは一肌脱いでおくかという話に纏まったようである。


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