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7章~8章間+10章までの 番外編
◆戦え!ボクらのゆうしゃ ランドール◆第六無礼武
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※ これは第9章直前までの某勇者パーティーの番外編です ※
◆第六無礼武◆『vs合成獣使い! あやしい研究所壊滅大作戦』
恐らく、リーリス川を渡ってしまったのは間違いない。
え?何がだって?
僕らが追いかけている巨大な蜘蛛の怪物、そしてそれが連れている謎の少年……だね。
なんだかいろんな事が起こって、僕はすっかり意気消沈している。
ううん、そうじゃない。
ようやく僕が、坊ちゃんの事情に近づいたんだ。事はもう起こっていて、僕はそれをただ知らなかっただけ。
知りたくなかった、とは思いたくない。
でも、知らなければ良かったのにとも正直考えちゃって堪らなくなる。
何も知らないで一人腐っているか、それとも全てを知って対峙するのか。
どちらが良いのか、僕にはそれを上手く選べない。どっちが良いのか分からなくて迷っているから……気が重いんだ。
随分長い間森の中を歩いていたよね。その疲れもあるのかもしれない。
先を急く坊ちゃんを何とか宥めすかして僕らは、今ザイールという町で休憩を取っている。
グランが坊ちゃんを説得してもぎ取った休憩はたったの4日。その間に次の町を目指す準備もしなくちゃいけない。
僕もその短い間に気持ちを切り替えて、この迷いを振り切る決着をつけなくちゃ。
温かい日差しが降り注ぐ小川のほとり、町から離れた宿屋のはずれで僕は甲羅干し。
洗濯物をして、一着モノの全身鎧を脱いでバラして洗って油差して調整中。全身鎧って、本来冒険者向けじゃないんだよ。こんなの装備して歩きまわる奴は多分、普通じゃない。
じゃぁ全身鎧で冒険者という肩書の僕は普通じゃないって?
うん、まぁ……普通じゃないだろうなぁ。
冒険者っていうのは響きはいいけど実際は無職・宿無し・徘徊者だよね。ピンからキリまでいるけど、基本的にはキリの方で全体を評価されちゃう宿命にある。まだ傭兵っていう肩書の方がまともだよ。最も、大きな戦争の無い今の世の中、傭兵需要は非常に少ない。
職を求めて結局、国境を越えてあっちこっち行く羽目になる雇い者は、傭兵という団体であるより冒険者という個人である方が効率が良いんだね。多くても十人前後の非常に小さな、困った事に結束力が強いとは限らない冒険者を結成する事になるんだ。
失せもの探しから重労働、運搬業、討伐依頼や賞金首争奪戦。
勇気と知恵と、腕っ節だけを頼りに自由業で働くのが冒険者だ。
正直僕は冒険者になりたかった訳じゃない。自分の技能を有効に使うならそれでもいいけれど、僕の人格的にはこんないい加減な『職』は正直願い下げだ。
僕、マース・マーズはもともと西方ディアス国の正式な騎士だった。過去形だね、今はそうじゃない。
だから職にあぶれて冒険者やってるわけだけど。
騎士から脱落し、路頭に迷ったのは確かに事実だ。
でも今属している、ランドール坊ちゃんをリーダーに据えたパーティーにテニーさんから招き入れられていなければ……恐らくは『正気』に戻って、僕は大人しく全身鎧を脱いだだろう。
自分が出来る仕事を探し、まっとうに生きたはずだ。コンプレックスの顔とも、なんとか折り合いをつけていたのかもしれない。
うん、ぶっちゃけ冒険者なんてまっとうな職じゃないって今も、思ってます。
さて、その冒険者っていうのは言った通り国境を越えてあっちこっちを行き来する事が多い。
家を持たない、拠点とする地域を持って動く人もいるけれど基本的に宿無しだ。
だから基本的に軽装なんだよね、傭兵稼業なら重鎧もアリなんだけど……冒険者の場合は仕事が戦う事とは限らない。だから重い鎧を着る事はない、管理するヒマが無かったりするし。
だから全身鎧なんて着ている冒険者は普通じゃないんだよ、こんな重いモノを着て森を歩く事も普通じゃないんだから。
でも実際そういう普通じゃない奴が実在するのは、僕が竜鱗鬼種という体力的に有能な種族だからだ。
勿論、竜鱗鬼種は全身鎧を着る事で自身の能力が上昇するという訳ではなく……むしろ足枷以外の何物でもない、冒険者という肩書的には。最初から防御点が高い事を生かし、本来もっと軽装であるべきだろう。
僕の鎧は、西方ディアスのお偉いさんが着ているようなお飾りじゃないよ。
前衛向き、一番先頭で槍を持って突撃する重戦士の鎧だ。もともと属していた北魔槍騎士団が前衛向けの実戦集団であるって事もあるけど、機能的でありながらいしっかりと体を守る、分厚く重い鋼の塊。
定期的にこうやって保守しないと汚れで隙間が詰まって動き辛くなる。
泥にまみれた亜熱帯の森を進む間は騙しだましにしてきたけど……本格的に調整する必要に迫られていたから正直、このお休みはありがたい。
でも、僕から休みたいとは一言も言っていない。
言えないよ、僕の所為で足を引っ張る訳にはいかない。
僕は今すっかり迷って心は弱くなっているけれど……実際自分が弱い事なんて認めたくない。少なくとも体力的な問題で坊ちゃんやテニーさん達に迷惑かけるなんてプライドが許さない。
弱い人はいらないんだ、坊ちゃんならそう言うだろう。
僕が弱音を吐いた途端、なら貴様なんぞウチには要らない、とっとと去れ……とか言われるに決まっている。そんな映像が目に浮かぶ様だよ。
そんな事言われたくない、想像出来るんだよ?そんな風に言われるなんて心外だ。
僕の様に重鎧を着ている訳じゃないけれど、坊ちゃんの疲労だって相当なものだろう。
それなのに休み無く前に進もうとする。負けていられないじゃないか、僕だって男の子だもの。
鎧のメンテナンスさせて、なんて言ったら……間違いなくこう言われる。
『なら、全身鎧なんぞそこに捨て置け』
……そうだね、その通り。
そもそも肌に固い鱗を貼り付けている竜鱗鬼である僕には、物理的な鎧なんて必要じゃないんだ。さっき説明した通り軽装でしかるべき。それでも僕が全身鎧を手放せないのは……単なる僕の弱みから来る問題だ。
自分の醜い容姿に劣等感がある、その引け目からこんな重い鎧をぶら下げている。
僕は、自分の姿を覆い隠す全身鎧が必要で……手放せない。ただそれだけなんだもの。
そこが自分の弱い所と知っていて、なかなか克服できないからこそ意地になって、弱音なんて吐けないんだ。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「マース、悪いけど買い出しに付き合ってくれない?荷物持ちして欲しいの」
人の居ない森の中の小川でこうやって、甲羅干ししているのも劣等感の所為。
だからさ、空気読んでよリオさん。僕は今下着にズボンという限りなく露出の高い、僕にとっては相当にリスクの高い状態なんだから。慌てて肩を抱き振り返っていた。裸を見られた位の羞恥心があるんだからッ!
細い眼をした背の高い東方人のリオは更に、目を細めて笑う。
「何?恥ずかしいの?」
「……付き合うのは悪くないんですけど……鎧が乾くまで待ってもらえません?」
「恥ずかしいんだー」
というより……僕はため息をつく。
「どっちかっていうと……怖いに近いんですけど」
しかし遠慮なくリオさんは僕の近くまで近づいてくる。
「そうかしら?誰がそんな風に貴方を言ったのか知らないけど。私は怖いとは思わないけど」
「違います、怖いのは……僕です」
「怖いって言われるのが怖いんでしょ」
……そうなんだけどさ。
「そうねぇ……いくら田舎町とはいえ魔種との交流に慣れてる訳じゃないものね。確かに好奇の目では見られるのでしょう」
そう言って、そっぽを向いている僕の頭から長いシーツをかぶせてくるリオ。
「いいから来なさい、そうやって一人になって腐っているからいつまでたっても進展がないのよ?」
うう、確かにその通りだからこれ以上言い訳が出来ない。
ここのパーティーの人たちって……みんな強いんだよね。
それは物理的な事に限らなくって、何より精神が強い。
ランドール坊ちゃんに限らず皆とっても強くって……僕は必死に強く振舞うんだけど……やっぱり、一番弱いのかもしれない。
コウリーリス国最南端であるザイールは割と大きな町だ。でもそれはコウリーリス国の町としては大きい、という意味だね。
西方の規模で言ったら全然田舎だ。何より人口密度が低い。
町という集落の中に畑や、所有者のはっきりしない森が含まれている。比較的大きいという意味は、人口密度が低くて人の集落がどこまでもぼんやりと続いている所為だ。結構広い範囲、ここはザイールの町だと人々は口をそろえて言う。
リオが荷物持ちが欲しいと言う訳だ。
たった4日の休息に使っている宿から、必要な道具を補給する買い出しに……相当広い範囲を歩きまわらないといけないらしい。比較的商店は中央に集約しているみたいだけど……その、中央に行くまでの道中が長い。
森から出ると道は、緩やかな坂に伸びている。少しだけきつい坂を上ると眼下に見える黒々とした海。
僕は頭の中で地図を描く。
そうか、あの海の向こうはもうディアス国なんだ。今眼下に広がる真っ黒い色の海は黒竜海。ディアス国首都のあるディアス島を取り巻いている……潮の流れが緩慢な諸島の海。
「ここから見てもまっ黒ですね」
海は黒いものだと子供のころ思い込んでいたなぁ。そうじゃないんだよね。ここの海が特別黒いだけで、他はもっと違う色をしている。それくらいに黒竜海はまっ黒だ。水をくみ上げるとびっくりするよ、水なのに透明じゃない、茶色だったりする。味もエグイって話だ……海水だから塩辛くて飲めるものじゃないけど。
いまいち理屈は分からないんだけど、革製品加工に黒竜海の海水が重宝されているんだって。ディアスは羊毛や革加工品産業が盛んなんだよ。
なだらかに降る丘には、明らかに人工的な樹林が管理されて広がっている。特徴的な幹に細い枝、銀色に光る細い葉っぱは僕にとってはとても親しい植物だ。ディアス国でも多く栽培されているオリーブの樹。黒竜海に面した地域であるなら確かに、気候的にディアスと似通った所があるのかもしれない。
知らなかった、コウリーリスでオリーブが育てられているなんて。
油を搾る作業小屋などもぽつぽつと立っている。
「ディアス国も近いし、植民地化も目論んで産業技術を提供しているんじゃない?」
「植民地化?何それ」
「正直そういう話は得意じゃないけれど……あら」
なだらかな丘を歩く、柵越しにリオさんは作業小屋の一つを覗きこんで僕の方に振り返った。
「フィナル商家の家紋が入ってるわよ、やっぱり予想通りディアスからの技術提供みたいね」
正直僕、ディアス国の人だけどあんまり学はある方じゃないんだよね。
でも、とても短い間だけど多くの政治に精通する頭の良い知識人の人達と、仲良くした事がある。ぶっちゃけて、団長に直談判して所属部署を上げてもらい、その付き合いでの事なのだけど……その時に少しだけ、自分の国の事について色々と教えてもらった。
ディアス国ではお金がないと学校に行けない。だから貧困層は自分の国の事って、結構良く分からなかったりするんだ。
フィナル商家というものについても僕は後から知った。フィナルはディアスにおいて公族に匹敵する大商業大家の事だ。そんなすごい人がいるのもディアス下層の人たちはよく分かってないんだよ。偉い人には偉い人の世界があり、平民下層には上の世界が分からない。まぁ、同時に上の人たちは下の世界の事を理解してないとも言えるけど。
まず、公族と大商家の違いがよく分かってない。正直僕も長らく違いが分かって無かった。
フィナルはディアスに席を置き、世界を広く渡り多くの商業戦略を行っている大金持ちの家の名前で、名前自体は良く聞くんだけど公族ではなくて商人である、って事をその、短い間に知ったんだ。
「じゃぁ植民地化じゃぁないわね、フィナルはそういう活動は反対しているって聞いたことあるわ」
「……植民地化ってだから、何ですか?」
「分からないなら理解しなくていいのよ、あんまり良い事じゃないもの」
こう云う時自分の無学が嫌になるよね。まぁいいや。
ザイールには小さな港があるね。
オリーブ加工品を買い付けに来る商品が行き来するみたいだ。
長い丘の道を降り、ようやく街の中心部に辿りついて僕はびっくりした。ここって本当にコウリーリス国?
行き来する南方人と思われる商人の多さ、そしてコウリーリスの奥地から出て来ているのだろう多くの出稼ぎ人によって中央市場は熱気にあふれている。
「わぁ……すごいですね」
僕はローブもといシーツをしっかりと首元で抑え、自分の姿をすっかり隠すのを忘れずに辺りの様子を見廻す。
「私も驚いたわ。ザイールがこんなに栄えているなんて……南方商人が多いわね……魔王八逆星の起こした混乱と、タトラメルツのいざこざに紛れて、ディアスが押さえつけを緩めたのかもしれないわ。それでここぞとばかりにコウリーリスの物資を直接買い付けに来ているのかも」
簡易食糧や調味料、薬草や消耗品など。リオが想定していたよりも多くの物を、苦労せずに手に入れる事が出来たみたいだ。
時間配分が余ったみたいで、新しく出来たばかりみたいな、小洒落たオープンテラスのカフェにご飯をごちそうになる事になった。
多くの人の熱気にあてられ、なんだか気がついたら自分の顔を隠すのがめんどくさくなっちゃったりしてね。
今はあきらめて顔を隠していたシーツを降ろしている。
大丈夫、誰も僕を珍しがらずに見ない。
南方商人が多く行きかっている事が幸いしているんだろう。南方人は僕より目立った姿の人が多いから。耳が長い人、肌の色が違う人、羽根が生えている人、しっぽがあったり角があったり。
南国は、一番初めに差別の在る世界の中で、魔種との共存を始めた地域だと伝えられるだけあって……本当色々なヒトが住んでいるんだなぁ。
特産なんだろう、絞りたてのフレッシュなオリーブオイルで絡めた唐辛子と大蒜たっぷりの豚肉パスタが運ばれてきて、久しぶりの洒落たご飯にちょっとうれしくなっちゃうよ。この所穀物類のお粥みたいなものばっかり食べてたし。
「ここで美味しいご飯食べたのは。みんなには秘密よ」
「はい、それはいいですけど……」
そういえば、朝からその『みんな』が見当たらなかったな。
僕はもとより外に出たくない人だから留守番を決め込んでいてそれで甲羅干ししていた訳だけどさ。
「黒竜海を挟んでディアス国だけど、西の海峡をはさめば西方大陸。隣は海を挟んでディアスのルドランだけど、昔ルドラン近辺はコウリーリスに属していたって、貴方知ってる?」
「え、そうなんですか?」
おいしいパスタを口に運ぶのに必死な僕は、適当に驚いて反応しておいた。ふぅん、知らなかったけど。それがいったい何だって言うんだろう。
「正確にはルドランとメヘル近辺まで昔タトラメルツで統治していて、タトラメルツは西方国から追い出されてコウリーリス側に属していたわ」
「へぇぇ……そうなんだ」
「で、ね。大昔、そのタトラメルツが西方から追い出されていた頃に。タトラメルツは独自の国境を守るためにあえて、お荷物を抱え込んだと言うわね」
「……お荷物?」
口に運ぼうとした、フォークにまとめたパスタがほどけて落ちる。皿に添えられている大量の、豚肉の塩漬けのかたまりだけがフォークに残った。
「禁忌、人工合成獣研究機関。今は名前も失伝している……すっかり歴史の闇に消えてしまった『お荷物』」
リオさんはテーブルの上で手を組んで、そこに顎を乗せて細い眼をさらに細める。
「どうして4日もお休み取れたと思って?グランが上手い事うちの勇者様の関心を引きよせたのよ」
「……いまいち、よくわかりません」
リオの話は端的で、いったいどのように組み立てればいいのか僕にはさっぱり分からない。
そうこうしているうちにリオが頼んだ分も運ばれて来た。アンチョビとバジルのバージンオリーブ和え。若いシソに似た匂いが堪らない。それと一緒に南から入ってきたのだろう、ディアスではめったに見かけない醗酵させた茶葉のお茶が運ばれてくる。あんまり飲み慣れないものだけど、意外にパスタと合うなぁ。
「ワイズは朝からランドールの御守りよ。ちょっとそこまで……ルドランまで行ってるわ」
「ええッ!?」
どうしてそういう事、言わないで行っちゃうかなぁ。
言わないで留守番になっている僕にだからこそ、リオは事情を教えてくれているんだとは思うけど。
「あれ、じゃぁみんなルドランに行ったんですか?」
「あたしとエースのおじいちゃんと、貴方が留守番すれば他全部ヒノトに乗れるでしょ?ルドランまで行く船がここから出ているとも限らないんだし」
そっか、シリアの操るドラゴン、ヒノトに乗れるのはシリアを含めて大人最大4人だ。坊ちゃんとグランソール・ワイズと、それから当然とテニーさんも着いて行ったんだね。
「……で、何しにいったの?」
リオはお茶を一口飲み、静かにフォークを手に取る。アンチョビを崩しながら少しだけ難しい顔をした。
「ずっと森の中に居たから、ほんの短い間だけど周辺情報を見失っていたわ。そこのところ、なんとか情報の穴を埋めようと、エンスで情報屋とやりとりしたの」
エンスっていうのはここザイールより北にある町だよ。リーリス川が海にそそぐ巨大な扇状地デルタに広がっている集落だ。
「何か、あったんですか?」
僕も思わずフォークを動かす手を止めてしまう。
「ファマメント国とディアス国って、あんまり仲が良くないわけでしょう?だから情報がすぐに伝わってこない。……覚えている?タトラメルツでもう一組、ウチの勇者様とよく似た勢いのパーティーと顔合わせたでしょ」
「ああ……はい。確かヤトさんとかいう人がリーダーになっているとかで、テニーさんの弟さんがいるんでしたっけ」
「どうも何か、やっちゃった気配がするわね」
「……何か?」
やっちゃった?言い方からすると、何か悪い事が起きたのだろうか?
「極めて顔には何も出さないようにしてたけど、テニー。あれでかなり弟さんの事心配しているみたいなのよね。ワイズもそのあたりも察していて一度、タトラメルツの状況について見に行けないかと目論んだ訳」
僕はフォークを置いて身を乗り出してしまう。
「何があったって言うんですか?」
「……コウリーリスに居たんじゃはっきりとした事は分からないわ、でも……タトラメルツで難民が出ているんじゃないかっていう、憶測のある情報が漏れて伝えられて来ているの」
難民……?難民って、つまり住んでいる場所から追い出された人がいるって事だよね?
どうしてだろう。何があったというのだろう。
「海峡超えてルドランまで行けばなんとか、タトラメルツの現状について詳しい情報を得られるはずよ。何しろ、ルドランはもともとタトラメルツが国だった頃に統治されていた地域だしね。それに田舎だけれどディアス国だもの」
そうか、はっきり何が起こっているか分からないから直接それを調べに行ったという事か。
いや、でもさ。
正直、それにうちの坊ちゃん興味示すかな?
僕が躓いた所にリオさん、しっかり気が付いているみたいだ。
笑いながらパスタをフォークにからめ取る。
「ルドランには失われた黒歴史、合成獣研究所跡があるの」
「……はぁ?」
だから、それが絡んでくる理由が僕にはよく分からないんだけど。
頬張ったパスタは多分、とびきりに美味しかったに違いない。細くて殆ど目が見えないリオさんの白眼を僕、初めて見た気がするよ。
「美味しい!これは本当に秘密にしないと、シリアから怒られちゃいそう」
「エース爺さんからも羨ましがられるかもしれませんよ」
「うーん、地酒とか無いかしらね……お土産に何か買っていかないとかしら」
それから再び、もくもくとおいしいパスタをいただいた。少しだけ互いのメニューをトレードしながら、状態の良い食材ついてあれこれと話をする。女の人ってこういう話するの大好きらしいよね。僕はまぁ、食べられるならなんでも良くて出来れば美味しいのがいい、くらいだけど。
おおよそ皿が片付いた頃、リオさんは口を拭きながらつぶやいた。
「繋がりとして言うとすれば……オーン」
僕はその呟きを聞きとめて顔を上げる。
オーンというのはもう地図には載っていない、西方ファマメント国の北方に位置する町で……聞く所ランドールぼっちゃんの故郷だという。比較的近年滅ぼされて無くなってしまった。
その話は割と、西方では有名だろうな……今世界を騒がしている魔王八逆星から殺戮、破壊されて再起不能になってしまった町として。
坊ちゃんはそれを『救えたかもしれない』のだと云う。
具体的にどのような理屈でそう云っているのかは分からない。とにかく、坊ちゃんはオーンを救えなかった事を後悔している。そしてオーンを滅ぼした魔王八逆星の手がかりを探しているんだ。
それが先日まで追いかけていた大蜘蛛に、関連があるみたいだけれど残念ながら逃げられてしまった。
「オーンにも、黒歴史として隠蔽された……合成獣研究所があったと云うわ」
僕は鱗のある顔をを顰めていた。
「でも、オーンは昔からファマメント国の町ですよね?」
「私はね、元々は実はその隠された『合成獣の歴史』をひっかきまわしている研究者なの」
その話は当然と今、初めて聞いた。
「でもその研究、東方魔導都市ランにおいても少々異端みたいなのよね、酷いのよ。散々その研究は止めろって警告されて、最終的に魔導協会を追い出されちゃったのよ」
「ええッ!」
「魔導師に対してそういう仕打ちはないわ」
リオさんは微笑みを酷く鋭いのものに切り替える。細い目をキュッと引き締めて、にやりと笑った。
「そこまでダメって言われたら、逆にひっかき回したくなるじゃない」
ああ、……魔導師ってそういう、捻くれた性格の人が多いって聞くけど……本当みたいだ。
「オーンの町も見て回ったけど、破壊されてしまったからはっきりとした事は分からなかった、でもそれだけ致命的な破壊があると、逆に隠していた『壁』も見事に壊されてしまっている訳よ。オーンには恐らくそれらしい研究機関跡が間違いなく合った。そして、少なからずそれがランドールの追いかけているものと繋がりがある……。私は、その様に考えて一緒に行動しているという訳なのよ」
「……そうだったんですか」
お茶を飲み、僕は引き続きリオさんの話を聞く事になった。
世界の歴史から抹消された禁忌、人工合成術。
それが隠された真意と、かつて世界に分布していた合成獣使いの果たした役割について、リオさんが辿り着いた歴史を聞く事になった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
確かにそれは存在して、存在したという証明を今に残している。
それなのに、それがそこにあったという歴史が抜け落ちているそうだ。
つまりそれは、――誰かの都合で。歴史が隠蔽されたという事だとリオさんはまず、明確に切り出した。
うん、そう順序よく言われると……そう云う事になる気がするね。
「誰が隠したんだろう」
「誰が、というのは難しい事よ。歴史というのは決してたった一人で変えられるものじゃない。変えられる場合もあるけれどそれは特別な場合に限られる。多くの歴史は多くの人の認識によって姿を残し、時に歪みながら後世に伝えられていくの。歴史というものはそういうものだって事をまず、理解してみて。そうすれば誰が、どう言う意図を持って合成獣研究という歴史を隠ぺいしたかという想像が見えてくるわ」
と、言われたけれどなぁ。僕にはうまいこと見えてこないんだけど。
エース爺さん一人残している宿に戻る道中、僕は多く荷物を抱えて歩いている。
肉体労働派なのは自覚しているから荷物は全部持つよって言ったけど、リオは自分が持てる分くらいはって、少し重そうに肩にかけた大きなバックを気にしているな。思ってたより重くて苦労してるのかも。
「合成獣技術は東の方だと『三界接合術』って言われているんだけど、この技術は現在失われていて、過去文献歴史に合成獣使いという記述が残っているのみ、なのよ。歴史を書き残すのは何も西方ディアスのホーリーだけとは限らないわ。でも、一番確実で確かな歴史を『世間に』伝える書物であるのは間違いない。第六期と呼ばれる時代、魔物使いという肩書の人間が多く西方で幅を利かせていた時代に、合成獣使いは魔物使いの一派として唯一、隠ぺいされずに存在が認められているの」
「第六期、西方で多く戦争が起きていた時代だとか伝えられてる……南国の革命前?」
「ええ、恐らくはね」
僕は前にも言った通り、下層民だから学校とかいうのにはお世話になっていないんだ。辛うじて騎士育成学部みたいなところに入った時に文字や簡単な算数を習っただけで……あとは実技、礼儀作法や法律ばっかりだったかな。竜鱗鬼の僕は最初から、北魔槍配属が決まっていたようなものだ。他の騎士候補生と違って北魔槍は実戦実技が優先される。
それでも、その少しの筆記勉強で時代の推移というものを教えてもらった。それをよく覚えている。
短い間にざっと教えられる歴史においても、その『革命』は世界にとって大きなものだったって事だろう。
知らない人の方が多分、世界では少ないかもしれない。魔種であればなおの事。
南方カルケードより起こった、魔種との共和を唱える大革命。
それの前か、後ろかで世界の様子は様変わりしている。とはいっても短期間で劇的な変化があった訳じゃぁないみたいだけれどもね。それでも今、第八期と呼ばれるこの時代までその、南国カルケードで起こった革命の作用は生きている。人と魔物とを隔てていた心の壁が崩れ、今は全ての境界に橋が掛かっているんだから。
ディアス四方騎士の一つが魔種で構成されるだなんて、昔のディアスの人たちから見たら信じられないだろう。それくらいディアスには強い魔種差別が生き残っていたとも聞く。もちろん、今は全て解消しているとは言い難い訳だけどさ。
その話、歴史の推移を騎士養成学校聞いてさ……僕は正直感銘を受けた。
世界を変えようと思って、南国カルケードの偉人は魔種との共和を唱えたのだろうか?絶対的に相容れないものとして魔種が、まかり取っていた時代に……その人は人と魔物とが婚姻する事で融和を示した。それを実行するまでにどれだけの困難があり、そしてその後に困難な道が続いていたのだろう?
そんな事を思い出していたら……少しだけ、頭の悪い僕にも見えてきた。
サンカイセツゴウとかいう合成獣の技法が、その後の世界で廃れていったその理由を……ね。
「魔物使いの一派って事は、つまり……合成獣って魔物を自在に掛け合わせる技術って事かな」
「そうよ、あら、そこから分かって無かったの?」
分かっていなかったというか、上手い事想像が出来て無かっただけだよ。そうか……だから合成技術、合成獣と指定して話が進んでいた訳だ。
「南国革命後って魔物種への人権を認める動きが広まったって事だよね。魔物や魔種って、それまでは生物としても見なされていなかったって本当なのかな?」
「恐らくそうだったのでしょう。歴史の伝える通り、そういう時代があったと考える事は難しくないわ」
なんだか恐ろしい時代のように思える。
今でも等しく扱われない場合があるっていうのに……生物としても認識されないって、どんな時代だろう。
きっと魔物種は人知れず生きる事を強要されていたんだろうなぁ……ああ、だから北方っていう人が住んでない地域に魔物が群れる事態になったんだなぁ。
今現在も北方地方は魔種の占める割合が多いって聞く。それこそ、ディアスの状況とは逆だという話も聞いたことがある。
ディアスで生まれた魔種は、少なからずその話を聞いて……僕も北方に生まれたかった、などと一度は思うものだよ。
「……合成獣使いは、世界の流れに乗れなかったって事なのかな」
リオは荷物を反対側の肩にかけなおしながら頷いた。
「そうね、私は少なくともそうだと思っているわ。どうして消えてしまって、追及する事が禁忌とまでされているかは分からない。でも消えてしまった理由について想像する事は難しくないわ。合成獣という研究分野は、生物……生き物としての存在を認めていなかった魔物というものを道具、部品のように見立てなければ成り立たないものだった。だから、魔種の存在が世界の中で認められていく中、自然と禁忌とされて忌み嫌われ、消えていったんじゃないかと思う」
ともすると……。
僕は多くの荷物を背中に背負い、さらに両肩にもぶら下げさらに両手もふさがっている状況でなんとか角度を変え、隣を歩いているリオを窺う。
どうしてそんなアブない研究をこの人は追っかけているんだろう?
なんて事も聞きたくなるんだよね。単なる秘密を暴きたい興味、それだけなのかな。
……そこまでして合成獣技術を求めるリオには、何かしらの『望み』があるように思うんだ。
それをどうやってリオに聞けばいいんだろう?少し悩んで、結局変に勘ぐってもどうせすぐ見破られちゃうんだろうなとため息を漏らしてしまった。素直に思った事を聞く事にする。
「どうして、そんなものを追っかけているんですか?……必要なんですか、合成術」
「かつては、ね」
リオは視線を僕に向け、少しだけ悪戯っぽく笑う。なんだか無理をしているように思える。
「……荷物、やっぱり僕が持ちましょうか?」
「いいってば。大丈夫、そんなに持たせておいて一人手ぶらなんて、私はそこまで鬼じゃないわよ?」
「でも、大変そうです」
リオは大丈夫よと笑って少しだけ、歩調を速める。
「意地になっているのよ。……残念ながらもう手遅れ」
「リオさん」
「確かに、私は自分の望みがあって三界接合術を必要としたわ。でも今は絶対必要じゃない、ただ魔導師的な執着でイジになって解き明かそうとしているだけよ。別に怪しい事をしたい訳じゃない」
僕は慌ててリオの歩調に合わせ、少しだけ足を速める。
「必要とされるだけ、ただそれだけでここにいるんじゃない。それはあなたもそうでしょう?今はもう、貴方は選んでここに属しているはず。あの無謀な勇者様の力になる事で……必要な真実が見えてくる。そう思っている、違う?」
僕は首を縦に振って同調した。
すっかりずれていたローブというかシーツがずり落ちてしまったけど……道中人もいないのでまぁ、いいや。
手もふさがってて被り直せないし。
「私もそうよ。案外……みんなそうだと思うわ。エース爺さんもね、あれで色々思惑があって一緒に行動しているんだから」
「ふぅん……そうなんですか」
それからはしばらく無言で歩いていた。だけど、オリーブの畑が少なくなって森が近くなり、陽もすっかり傾きかけたころにふいと、リオは言った。
「……私の場合は独占欲かも」
「え?」
「……三界接合術は禁忌で、今だ正しくサルベージされていない」
「サルベージ?」
聞かない言葉を僕は繰り返してしまった。しかし、リオはまるで独り言のように僕の疑問の声を無視して言葉を続ける。
「私は、三界接合術に限りなく近い所にいた……白魔導師。精霊干渉力は持っているけど魔法は使えない、自然科学を極めた未来予知を数多くもたらしたその挙句、たくさんの未来を切り捨てたわ……そう思う。救えた人を、救う努力をしなかった……私はその未来を変えたいと思っているだけ」
前をまっすぐ向いて歩くリオを見つめて、僕は聞いていた。
「三界接合術とかいうのは……リオさんが見た未来を変えるだけの力があるって事ですか?だから、必要とした」
「そう言う事ね。でも……もはや全部後手に回ったの。魔導師協会追い出されてしまったし」
リオはふっと足を止める。
「オーンの、破壊された合成獣研究所跡は近年『使用されていた』形跡があるって聞いたの。だから、私はランドールについて行く事にしたわ。私以上にその研究の真に近づいた者がいるのかもしれない……割と、私はそれが許せないだけかもしれない」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
次の日の夕方には……海峡飛び越えて隣の大陸にある町、ルドランから坊ちゃん達が帰ってきた。
なんだか……坊ちゃん以外無駄に疲れている気がするけど……どうしたんだろ?
「成果の程はどうだったの?」
ドラゴンヒノトから降りて、グランはぐったりと近くの木に寄りかかってしまった。
「いやぁ、酷かったです。タトラメルツの例の研究所跡と噂される土地が魔王八逆星に利用されている、という時点である程度予測はしてたけどさ。どんピシャで」
「やっぱり動いていたの?」
リオの表情が真面目になった。本当は、着いて行きたかったのだろうなぁ……。グランは力なく掌を振る。
「魔王軍生産ラインみたいなもんになっててねぇ、おかげで全部、壊滅させるハメになっちゃって」
それを聞いてリオの表情が呆れに変わった。ついでに言うと、僕も呆れています。
「わー、じゃぁ一日で魔王軍生産ライン、つぶして来たんだぁ」
グラン、否定はしなかった。
「無茶ですよ、無茶しすぎ。ここ最近の坊ちゃんの行動力は異常」
他、ついて行ったシリアとテニーさんもお疲れモードであるようだ。ヒノトも機嫌が悪いようでさっきからしっぽで周りの木をばしんばしん叩いて今にもへし折りそうだ。
「……とりあえず、ご飯は出来てるから。ゆっくり休んで」
「助かります~」
どうやら今日はまともな話が出来なさそうだ、とリオは判断したみたいだね。
しかし、だからって坊ちゃんに向きなおるのもどうかなぁ?正直僕はそう思ってしまったよ。
強い、強いよリオさん。
「どうだったの?何か手掛かりはあった?」
「さぁな、どうにも『同じような気配』がして気にくわなかったから……全部ぶっつぶしてきたが」
しれっと腕を組み、疲れなど感じさせない我らが勇者様はそのようにお答えなさっておりますが……。
本当、この人の強さは底知れない。
何か得体のしれない気配も感じてしまう程、とてつもない器の大きさを感じるよ。
「酷かったな……えらく嫌なものを見てしまった」
しかしテニーさんまでもが今回ばかりはと青い顔をしている。
「どうしたって言うの」
「今まで多く魔王軍と戦ってきたが……あそこまであからさまに魔王軍の正体を見たのは初めてだ」
「……生産工場だったって?どう云う意味よ。魔王軍と言われるあの怪物は、やっぱり三界接合術で人工的に作られた怪物だったって事なの?」
僕はその話を聞いていて……嫌な事を思い出している。
その事実は僕にとっては嫌だった。だから、追及されない限りあえて誰にも言うまいって思っていた。
案外みんな、知っている事だと安易に思っていたんだ。その考えが覆される。
僕は、この前のリーリス川ほとりで遭遇した魔王軍の事を思い出している。
ディアス四方騎士北魔槍の旗を掲げた船から湧きだした、混沌の怪物。
彼らがかつて馴染みのある『匂い』を纏っていた事を僕は思い出していた。
そして、尊敬こそはしてなかったけど……いやまぁあの性格だし……それなりに慕っていた団長が、その原因にもなりうる存在だという事を知ってしまった。
僕だけが知らなかった。
「元、人間って事を言いたいんだと思いますよ」
僕は、顔色優れないテニーさんに代わって口を開く。
おそらく今回の件でシリアもはっきりと知ってしまったのだろう。すっかり顔色が良くない。いつもだとかしましいくらいなのに、静かだ。
「え?どう言う事?」
リオの怪訝な顔に向けて僕は、自分が匂いで理解した事実を伝える。
「……魔王軍っていうあの怪物、元は人なんですよ。よく分からないけれどそれが、あの怪物になってしまうんですよね。そうでしょう?ルドランにはそういう『工場』があったって事じゃないんですか」
テニーさんは無言でうなずいて答えてくれた。項垂れている、ランドール坊ちゃんだけが澄ました顔をしているけれど……ホント、倒すって決めたら相手が誰であろうと迷わない、この余りに一直線な強さは敵わない。
「どこからかき集めて来たのやら、多くの人が旧地下施設に捉われていた。と同時に……多くの魔王軍がそこで作られている様子を目の当たりにしてしまった。時に町や集落を襲い壊滅させている魔王軍の働きには、魔王軍の元となる人の調達が含まれているようだ。異常な破壊行動の裏、死体の少ない襲撃現場にはそういう意味があったわけだな」
「……私が危惧した予測通り、という事なのね」
リオは……もしかすれば魔王軍がそいう理由で、人攫いをしている可能性を知っていたという事か。
そして攫われた人たちが、魔王軍という怪物になっているのではないかという可能性に三界接合という『合成獣技術』という関連から『予測』していたんだね。
そしてだからこそ、魔王八逆星が使っているのかもしれない三界接合術の存在が許せないと言っているのかもしれない。
禁忌である技術を追う事は、見えない、見たくないと目をそらす事じゃなくって……。
今再び不幸の手を伸ばしているかもしれない技術と対峙し、向き合う事なんだ。
「でもなー。どうかなぁー」
木に寄りかかり、疲れていると必死に主張するグランが、厳しい顔をして黙り込んでいるリオさんに言った。
「一応それなりに観察はしてきたけど……あれは本当にソレかなぁ。話を聞くにもっと、三界接合はめんどくさいイメージがあるんだがね。僕は少し違うように思うけど。それより、追っかけている大蜘蛛の方がよっぽど『らしい』と思うよ」
「そうだ、蜘蛛の手がかりなんてほとんど無かったんだ……明後日の朝には予定通り、出発するからな」
思い出したように坊ちゃんが言いきって、グランはずりずりと木の根元までずり落ちる。
「そりゃないですよ坊ちゃん、あれだけ暴れといて……もう2、3日ゆっくりさせてくださいよぅ」
しかしそれに返答はなく、ぼっちゃんはずんずんと宿に向って歩いて行ってしまった。
という事は、グランの訴えはほぼ無視って事だな。
「じゃ、無駄に歩き回らないでいいように僕は明日の内に手がかり探しておきますから」
「すまんな、マース」
テニーさん、こんな時でも労いの言葉を欠かさない。良い人だよなぁ、この人いなかったら絶対このパーティー存続してないと思うもん。
「いいんですよ、留守番はそういう事も含めて命じられていたって思ってましたし。明日は一日ゆっくり休んでください」
◆第六無礼武◆『vs合成獣使い! あやしい研究所壊滅大作戦』
恐らく、リーリス川を渡ってしまったのは間違いない。
え?何がだって?
僕らが追いかけている巨大な蜘蛛の怪物、そしてそれが連れている謎の少年……だね。
なんだかいろんな事が起こって、僕はすっかり意気消沈している。
ううん、そうじゃない。
ようやく僕が、坊ちゃんの事情に近づいたんだ。事はもう起こっていて、僕はそれをただ知らなかっただけ。
知りたくなかった、とは思いたくない。
でも、知らなければ良かったのにとも正直考えちゃって堪らなくなる。
何も知らないで一人腐っているか、それとも全てを知って対峙するのか。
どちらが良いのか、僕にはそれを上手く選べない。どっちが良いのか分からなくて迷っているから……気が重いんだ。
随分長い間森の中を歩いていたよね。その疲れもあるのかもしれない。
先を急く坊ちゃんを何とか宥めすかして僕らは、今ザイールという町で休憩を取っている。
グランが坊ちゃんを説得してもぎ取った休憩はたったの4日。その間に次の町を目指す準備もしなくちゃいけない。
僕もその短い間に気持ちを切り替えて、この迷いを振り切る決着をつけなくちゃ。
温かい日差しが降り注ぐ小川のほとり、町から離れた宿屋のはずれで僕は甲羅干し。
洗濯物をして、一着モノの全身鎧を脱いでバラして洗って油差して調整中。全身鎧って、本来冒険者向けじゃないんだよ。こんなの装備して歩きまわる奴は多分、普通じゃない。
じゃぁ全身鎧で冒険者という肩書の僕は普通じゃないって?
うん、まぁ……普通じゃないだろうなぁ。
冒険者っていうのは響きはいいけど実際は無職・宿無し・徘徊者だよね。ピンからキリまでいるけど、基本的にはキリの方で全体を評価されちゃう宿命にある。まだ傭兵っていう肩書の方がまともだよ。最も、大きな戦争の無い今の世の中、傭兵需要は非常に少ない。
職を求めて結局、国境を越えてあっちこっち行く羽目になる雇い者は、傭兵という団体であるより冒険者という個人である方が効率が良いんだね。多くても十人前後の非常に小さな、困った事に結束力が強いとは限らない冒険者を結成する事になるんだ。
失せもの探しから重労働、運搬業、討伐依頼や賞金首争奪戦。
勇気と知恵と、腕っ節だけを頼りに自由業で働くのが冒険者だ。
正直僕は冒険者になりたかった訳じゃない。自分の技能を有効に使うならそれでもいいけれど、僕の人格的にはこんないい加減な『職』は正直願い下げだ。
僕、マース・マーズはもともと西方ディアス国の正式な騎士だった。過去形だね、今はそうじゃない。
だから職にあぶれて冒険者やってるわけだけど。
騎士から脱落し、路頭に迷ったのは確かに事実だ。
でも今属している、ランドール坊ちゃんをリーダーに据えたパーティーにテニーさんから招き入れられていなければ……恐らくは『正気』に戻って、僕は大人しく全身鎧を脱いだだろう。
自分が出来る仕事を探し、まっとうに生きたはずだ。コンプレックスの顔とも、なんとか折り合いをつけていたのかもしれない。
うん、ぶっちゃけ冒険者なんてまっとうな職じゃないって今も、思ってます。
さて、その冒険者っていうのは言った通り国境を越えてあっちこっちを行き来する事が多い。
家を持たない、拠点とする地域を持って動く人もいるけれど基本的に宿無しだ。
だから基本的に軽装なんだよね、傭兵稼業なら重鎧もアリなんだけど……冒険者の場合は仕事が戦う事とは限らない。だから重い鎧を着る事はない、管理するヒマが無かったりするし。
だから全身鎧なんて着ている冒険者は普通じゃないんだよ、こんな重いモノを着て森を歩く事も普通じゃないんだから。
でも実際そういう普通じゃない奴が実在するのは、僕が竜鱗鬼種という体力的に有能な種族だからだ。
勿論、竜鱗鬼種は全身鎧を着る事で自身の能力が上昇するという訳ではなく……むしろ足枷以外の何物でもない、冒険者という肩書的には。最初から防御点が高い事を生かし、本来もっと軽装であるべきだろう。
僕の鎧は、西方ディアスのお偉いさんが着ているようなお飾りじゃないよ。
前衛向き、一番先頭で槍を持って突撃する重戦士の鎧だ。もともと属していた北魔槍騎士団が前衛向けの実戦集団であるって事もあるけど、機能的でありながらいしっかりと体を守る、分厚く重い鋼の塊。
定期的にこうやって保守しないと汚れで隙間が詰まって動き辛くなる。
泥にまみれた亜熱帯の森を進む間は騙しだましにしてきたけど……本格的に調整する必要に迫られていたから正直、このお休みはありがたい。
でも、僕から休みたいとは一言も言っていない。
言えないよ、僕の所為で足を引っ張る訳にはいかない。
僕は今すっかり迷って心は弱くなっているけれど……実際自分が弱い事なんて認めたくない。少なくとも体力的な問題で坊ちゃんやテニーさん達に迷惑かけるなんてプライドが許さない。
弱い人はいらないんだ、坊ちゃんならそう言うだろう。
僕が弱音を吐いた途端、なら貴様なんぞウチには要らない、とっとと去れ……とか言われるに決まっている。そんな映像が目に浮かぶ様だよ。
そんな事言われたくない、想像出来るんだよ?そんな風に言われるなんて心外だ。
僕の様に重鎧を着ている訳じゃないけれど、坊ちゃんの疲労だって相当なものだろう。
それなのに休み無く前に進もうとする。負けていられないじゃないか、僕だって男の子だもの。
鎧のメンテナンスさせて、なんて言ったら……間違いなくこう言われる。
『なら、全身鎧なんぞそこに捨て置け』
……そうだね、その通り。
そもそも肌に固い鱗を貼り付けている竜鱗鬼である僕には、物理的な鎧なんて必要じゃないんだ。さっき説明した通り軽装でしかるべき。それでも僕が全身鎧を手放せないのは……単なる僕の弱みから来る問題だ。
自分の醜い容姿に劣等感がある、その引け目からこんな重い鎧をぶら下げている。
僕は、自分の姿を覆い隠す全身鎧が必要で……手放せない。ただそれだけなんだもの。
そこが自分の弱い所と知っていて、なかなか克服できないからこそ意地になって、弱音なんて吐けないんだ。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「マース、悪いけど買い出しに付き合ってくれない?荷物持ちして欲しいの」
人の居ない森の中の小川でこうやって、甲羅干ししているのも劣等感の所為。
だからさ、空気読んでよリオさん。僕は今下着にズボンという限りなく露出の高い、僕にとっては相当にリスクの高い状態なんだから。慌てて肩を抱き振り返っていた。裸を見られた位の羞恥心があるんだからッ!
細い眼をした背の高い東方人のリオは更に、目を細めて笑う。
「何?恥ずかしいの?」
「……付き合うのは悪くないんですけど……鎧が乾くまで待ってもらえません?」
「恥ずかしいんだー」
というより……僕はため息をつく。
「どっちかっていうと……怖いに近いんですけど」
しかし遠慮なくリオさんは僕の近くまで近づいてくる。
「そうかしら?誰がそんな風に貴方を言ったのか知らないけど。私は怖いとは思わないけど」
「違います、怖いのは……僕です」
「怖いって言われるのが怖いんでしょ」
……そうなんだけどさ。
「そうねぇ……いくら田舎町とはいえ魔種との交流に慣れてる訳じゃないものね。確かに好奇の目では見られるのでしょう」
そう言って、そっぽを向いている僕の頭から長いシーツをかぶせてくるリオ。
「いいから来なさい、そうやって一人になって腐っているからいつまでたっても進展がないのよ?」
うう、確かにその通りだからこれ以上言い訳が出来ない。
ここのパーティーの人たちって……みんな強いんだよね。
それは物理的な事に限らなくって、何より精神が強い。
ランドール坊ちゃんに限らず皆とっても強くって……僕は必死に強く振舞うんだけど……やっぱり、一番弱いのかもしれない。
コウリーリス国最南端であるザイールは割と大きな町だ。でもそれはコウリーリス国の町としては大きい、という意味だね。
西方の規模で言ったら全然田舎だ。何より人口密度が低い。
町という集落の中に畑や、所有者のはっきりしない森が含まれている。比較的大きいという意味は、人口密度が低くて人の集落がどこまでもぼんやりと続いている所為だ。結構広い範囲、ここはザイールの町だと人々は口をそろえて言う。
リオが荷物持ちが欲しいと言う訳だ。
たった4日の休息に使っている宿から、必要な道具を補給する買い出しに……相当広い範囲を歩きまわらないといけないらしい。比較的商店は中央に集約しているみたいだけど……その、中央に行くまでの道中が長い。
森から出ると道は、緩やかな坂に伸びている。少しだけきつい坂を上ると眼下に見える黒々とした海。
僕は頭の中で地図を描く。
そうか、あの海の向こうはもうディアス国なんだ。今眼下に広がる真っ黒い色の海は黒竜海。ディアス国首都のあるディアス島を取り巻いている……潮の流れが緩慢な諸島の海。
「ここから見てもまっ黒ですね」
海は黒いものだと子供のころ思い込んでいたなぁ。そうじゃないんだよね。ここの海が特別黒いだけで、他はもっと違う色をしている。それくらいに黒竜海はまっ黒だ。水をくみ上げるとびっくりするよ、水なのに透明じゃない、茶色だったりする。味もエグイって話だ……海水だから塩辛くて飲めるものじゃないけど。
いまいち理屈は分からないんだけど、革製品加工に黒竜海の海水が重宝されているんだって。ディアスは羊毛や革加工品産業が盛んなんだよ。
なだらかに降る丘には、明らかに人工的な樹林が管理されて広がっている。特徴的な幹に細い枝、銀色に光る細い葉っぱは僕にとってはとても親しい植物だ。ディアス国でも多く栽培されているオリーブの樹。黒竜海に面した地域であるなら確かに、気候的にディアスと似通った所があるのかもしれない。
知らなかった、コウリーリスでオリーブが育てられているなんて。
油を搾る作業小屋などもぽつぽつと立っている。
「ディアス国も近いし、植民地化も目論んで産業技術を提供しているんじゃない?」
「植民地化?何それ」
「正直そういう話は得意じゃないけれど……あら」
なだらかな丘を歩く、柵越しにリオさんは作業小屋の一つを覗きこんで僕の方に振り返った。
「フィナル商家の家紋が入ってるわよ、やっぱり予想通りディアスからの技術提供みたいね」
正直僕、ディアス国の人だけどあんまり学はある方じゃないんだよね。
でも、とても短い間だけど多くの政治に精通する頭の良い知識人の人達と、仲良くした事がある。ぶっちゃけて、団長に直談判して所属部署を上げてもらい、その付き合いでの事なのだけど……その時に少しだけ、自分の国の事について色々と教えてもらった。
ディアス国ではお金がないと学校に行けない。だから貧困層は自分の国の事って、結構良く分からなかったりするんだ。
フィナル商家というものについても僕は後から知った。フィナルはディアスにおいて公族に匹敵する大商業大家の事だ。そんなすごい人がいるのもディアス下層の人たちはよく分かってないんだよ。偉い人には偉い人の世界があり、平民下層には上の世界が分からない。まぁ、同時に上の人たちは下の世界の事を理解してないとも言えるけど。
まず、公族と大商家の違いがよく分かってない。正直僕も長らく違いが分かって無かった。
フィナルはディアスに席を置き、世界を広く渡り多くの商業戦略を行っている大金持ちの家の名前で、名前自体は良く聞くんだけど公族ではなくて商人である、って事をその、短い間に知ったんだ。
「じゃぁ植民地化じゃぁないわね、フィナルはそういう活動は反対しているって聞いたことあるわ」
「……植民地化ってだから、何ですか?」
「分からないなら理解しなくていいのよ、あんまり良い事じゃないもの」
こう云う時自分の無学が嫌になるよね。まぁいいや。
ザイールには小さな港があるね。
オリーブ加工品を買い付けに来る商品が行き来するみたいだ。
長い丘の道を降り、ようやく街の中心部に辿りついて僕はびっくりした。ここって本当にコウリーリス国?
行き来する南方人と思われる商人の多さ、そしてコウリーリスの奥地から出て来ているのだろう多くの出稼ぎ人によって中央市場は熱気にあふれている。
「わぁ……すごいですね」
僕はローブもといシーツをしっかりと首元で抑え、自分の姿をすっかり隠すのを忘れずに辺りの様子を見廻す。
「私も驚いたわ。ザイールがこんなに栄えているなんて……南方商人が多いわね……魔王八逆星の起こした混乱と、タトラメルツのいざこざに紛れて、ディアスが押さえつけを緩めたのかもしれないわ。それでここぞとばかりにコウリーリスの物資を直接買い付けに来ているのかも」
簡易食糧や調味料、薬草や消耗品など。リオが想定していたよりも多くの物を、苦労せずに手に入れる事が出来たみたいだ。
時間配分が余ったみたいで、新しく出来たばかりみたいな、小洒落たオープンテラスのカフェにご飯をごちそうになる事になった。
多くの人の熱気にあてられ、なんだか気がついたら自分の顔を隠すのがめんどくさくなっちゃったりしてね。
今はあきらめて顔を隠していたシーツを降ろしている。
大丈夫、誰も僕を珍しがらずに見ない。
南方商人が多く行きかっている事が幸いしているんだろう。南方人は僕より目立った姿の人が多いから。耳が長い人、肌の色が違う人、羽根が生えている人、しっぽがあったり角があったり。
南国は、一番初めに差別の在る世界の中で、魔種との共存を始めた地域だと伝えられるだけあって……本当色々なヒトが住んでいるんだなぁ。
特産なんだろう、絞りたてのフレッシュなオリーブオイルで絡めた唐辛子と大蒜たっぷりの豚肉パスタが運ばれてきて、久しぶりの洒落たご飯にちょっとうれしくなっちゃうよ。この所穀物類のお粥みたいなものばっかり食べてたし。
「ここで美味しいご飯食べたのは。みんなには秘密よ」
「はい、それはいいですけど……」
そういえば、朝からその『みんな』が見当たらなかったな。
僕はもとより外に出たくない人だから留守番を決め込んでいてそれで甲羅干ししていた訳だけどさ。
「黒竜海を挟んでディアス国だけど、西の海峡をはさめば西方大陸。隣は海を挟んでディアスのルドランだけど、昔ルドラン近辺はコウリーリスに属していたって、貴方知ってる?」
「え、そうなんですか?」
おいしいパスタを口に運ぶのに必死な僕は、適当に驚いて反応しておいた。ふぅん、知らなかったけど。それがいったい何だって言うんだろう。
「正確にはルドランとメヘル近辺まで昔タトラメルツで統治していて、タトラメルツは西方国から追い出されてコウリーリス側に属していたわ」
「へぇぇ……そうなんだ」
「で、ね。大昔、そのタトラメルツが西方から追い出されていた頃に。タトラメルツは独自の国境を守るためにあえて、お荷物を抱え込んだと言うわね」
「……お荷物?」
口に運ぼうとした、フォークにまとめたパスタがほどけて落ちる。皿に添えられている大量の、豚肉の塩漬けのかたまりだけがフォークに残った。
「禁忌、人工合成獣研究機関。今は名前も失伝している……すっかり歴史の闇に消えてしまった『お荷物』」
リオさんはテーブルの上で手を組んで、そこに顎を乗せて細い眼をさらに細める。
「どうして4日もお休み取れたと思って?グランが上手い事うちの勇者様の関心を引きよせたのよ」
「……いまいち、よくわかりません」
リオの話は端的で、いったいどのように組み立てればいいのか僕にはさっぱり分からない。
そうこうしているうちにリオが頼んだ分も運ばれて来た。アンチョビとバジルのバージンオリーブ和え。若いシソに似た匂いが堪らない。それと一緒に南から入ってきたのだろう、ディアスではめったに見かけない醗酵させた茶葉のお茶が運ばれてくる。あんまり飲み慣れないものだけど、意外にパスタと合うなぁ。
「ワイズは朝からランドールの御守りよ。ちょっとそこまで……ルドランまで行ってるわ」
「ええッ!?」
どうしてそういう事、言わないで行っちゃうかなぁ。
言わないで留守番になっている僕にだからこそ、リオは事情を教えてくれているんだとは思うけど。
「あれ、じゃぁみんなルドランに行ったんですか?」
「あたしとエースのおじいちゃんと、貴方が留守番すれば他全部ヒノトに乗れるでしょ?ルドランまで行く船がここから出ているとも限らないんだし」
そっか、シリアの操るドラゴン、ヒノトに乗れるのはシリアを含めて大人最大4人だ。坊ちゃんとグランソール・ワイズと、それから当然とテニーさんも着いて行ったんだね。
「……で、何しにいったの?」
リオはお茶を一口飲み、静かにフォークを手に取る。アンチョビを崩しながら少しだけ難しい顔をした。
「ずっと森の中に居たから、ほんの短い間だけど周辺情報を見失っていたわ。そこのところ、なんとか情報の穴を埋めようと、エンスで情報屋とやりとりしたの」
エンスっていうのはここザイールより北にある町だよ。リーリス川が海にそそぐ巨大な扇状地デルタに広がっている集落だ。
「何か、あったんですか?」
僕も思わずフォークを動かす手を止めてしまう。
「ファマメント国とディアス国って、あんまり仲が良くないわけでしょう?だから情報がすぐに伝わってこない。……覚えている?タトラメルツでもう一組、ウチの勇者様とよく似た勢いのパーティーと顔合わせたでしょ」
「ああ……はい。確かヤトさんとかいう人がリーダーになっているとかで、テニーさんの弟さんがいるんでしたっけ」
「どうも何か、やっちゃった気配がするわね」
「……何か?」
やっちゃった?言い方からすると、何か悪い事が起きたのだろうか?
「極めて顔には何も出さないようにしてたけど、テニー。あれでかなり弟さんの事心配しているみたいなのよね。ワイズもそのあたりも察していて一度、タトラメルツの状況について見に行けないかと目論んだ訳」
僕はフォークを置いて身を乗り出してしまう。
「何があったって言うんですか?」
「……コウリーリスに居たんじゃはっきりとした事は分からないわ、でも……タトラメルツで難民が出ているんじゃないかっていう、憶測のある情報が漏れて伝えられて来ているの」
難民……?難民って、つまり住んでいる場所から追い出された人がいるって事だよね?
どうしてだろう。何があったというのだろう。
「海峡超えてルドランまで行けばなんとか、タトラメルツの現状について詳しい情報を得られるはずよ。何しろ、ルドランはもともとタトラメルツが国だった頃に統治されていた地域だしね。それに田舎だけれどディアス国だもの」
そうか、はっきり何が起こっているか分からないから直接それを調べに行ったという事か。
いや、でもさ。
正直、それにうちの坊ちゃん興味示すかな?
僕が躓いた所にリオさん、しっかり気が付いているみたいだ。
笑いながらパスタをフォークにからめ取る。
「ルドランには失われた黒歴史、合成獣研究所跡があるの」
「……はぁ?」
だから、それが絡んでくる理由が僕にはよく分からないんだけど。
頬張ったパスタは多分、とびきりに美味しかったに違いない。細くて殆ど目が見えないリオさんの白眼を僕、初めて見た気がするよ。
「美味しい!これは本当に秘密にしないと、シリアから怒られちゃいそう」
「エース爺さんからも羨ましがられるかもしれませんよ」
「うーん、地酒とか無いかしらね……お土産に何か買っていかないとかしら」
それから再び、もくもくとおいしいパスタをいただいた。少しだけ互いのメニューをトレードしながら、状態の良い食材ついてあれこれと話をする。女の人ってこういう話するの大好きらしいよね。僕はまぁ、食べられるならなんでも良くて出来れば美味しいのがいい、くらいだけど。
おおよそ皿が片付いた頃、リオさんは口を拭きながらつぶやいた。
「繋がりとして言うとすれば……オーン」
僕はその呟きを聞きとめて顔を上げる。
オーンというのはもう地図には載っていない、西方ファマメント国の北方に位置する町で……聞く所ランドールぼっちゃんの故郷だという。比較的近年滅ぼされて無くなってしまった。
その話は割と、西方では有名だろうな……今世界を騒がしている魔王八逆星から殺戮、破壊されて再起不能になってしまった町として。
坊ちゃんはそれを『救えたかもしれない』のだと云う。
具体的にどのような理屈でそう云っているのかは分からない。とにかく、坊ちゃんはオーンを救えなかった事を後悔している。そしてオーンを滅ぼした魔王八逆星の手がかりを探しているんだ。
それが先日まで追いかけていた大蜘蛛に、関連があるみたいだけれど残念ながら逃げられてしまった。
「オーンにも、黒歴史として隠蔽された……合成獣研究所があったと云うわ」
僕は鱗のある顔をを顰めていた。
「でも、オーンは昔からファマメント国の町ですよね?」
「私はね、元々は実はその隠された『合成獣の歴史』をひっかきまわしている研究者なの」
その話は当然と今、初めて聞いた。
「でもその研究、東方魔導都市ランにおいても少々異端みたいなのよね、酷いのよ。散々その研究は止めろって警告されて、最終的に魔導協会を追い出されちゃったのよ」
「ええッ!」
「魔導師に対してそういう仕打ちはないわ」
リオさんは微笑みを酷く鋭いのものに切り替える。細い目をキュッと引き締めて、にやりと笑った。
「そこまでダメって言われたら、逆にひっかき回したくなるじゃない」
ああ、……魔導師ってそういう、捻くれた性格の人が多いって聞くけど……本当みたいだ。
「オーンの町も見て回ったけど、破壊されてしまったからはっきりとした事は分からなかった、でもそれだけ致命的な破壊があると、逆に隠していた『壁』も見事に壊されてしまっている訳よ。オーンには恐らくそれらしい研究機関跡が間違いなく合った。そして、少なからずそれがランドールの追いかけているものと繋がりがある……。私は、その様に考えて一緒に行動しているという訳なのよ」
「……そうだったんですか」
お茶を飲み、僕は引き続きリオさんの話を聞く事になった。
世界の歴史から抹消された禁忌、人工合成術。
それが隠された真意と、かつて世界に分布していた合成獣使いの果たした役割について、リオさんが辿り着いた歴史を聞く事になった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
確かにそれは存在して、存在したという証明を今に残している。
それなのに、それがそこにあったという歴史が抜け落ちているそうだ。
つまりそれは、――誰かの都合で。歴史が隠蔽されたという事だとリオさんはまず、明確に切り出した。
うん、そう順序よく言われると……そう云う事になる気がするね。
「誰が隠したんだろう」
「誰が、というのは難しい事よ。歴史というのは決してたった一人で変えられるものじゃない。変えられる場合もあるけれどそれは特別な場合に限られる。多くの歴史は多くの人の認識によって姿を残し、時に歪みながら後世に伝えられていくの。歴史というものはそういうものだって事をまず、理解してみて。そうすれば誰が、どう言う意図を持って合成獣研究という歴史を隠ぺいしたかという想像が見えてくるわ」
と、言われたけれどなぁ。僕にはうまいこと見えてこないんだけど。
エース爺さん一人残している宿に戻る道中、僕は多く荷物を抱えて歩いている。
肉体労働派なのは自覚しているから荷物は全部持つよって言ったけど、リオは自分が持てる分くらいはって、少し重そうに肩にかけた大きなバックを気にしているな。思ってたより重くて苦労してるのかも。
「合成獣技術は東の方だと『三界接合術』って言われているんだけど、この技術は現在失われていて、過去文献歴史に合成獣使いという記述が残っているのみ、なのよ。歴史を書き残すのは何も西方ディアスのホーリーだけとは限らないわ。でも、一番確実で確かな歴史を『世間に』伝える書物であるのは間違いない。第六期と呼ばれる時代、魔物使いという肩書の人間が多く西方で幅を利かせていた時代に、合成獣使いは魔物使いの一派として唯一、隠ぺいされずに存在が認められているの」
「第六期、西方で多く戦争が起きていた時代だとか伝えられてる……南国の革命前?」
「ええ、恐らくはね」
僕は前にも言った通り、下層民だから学校とかいうのにはお世話になっていないんだ。辛うじて騎士育成学部みたいなところに入った時に文字や簡単な算数を習っただけで……あとは実技、礼儀作法や法律ばっかりだったかな。竜鱗鬼の僕は最初から、北魔槍配属が決まっていたようなものだ。他の騎士候補生と違って北魔槍は実戦実技が優先される。
それでも、その少しの筆記勉強で時代の推移というものを教えてもらった。それをよく覚えている。
短い間にざっと教えられる歴史においても、その『革命』は世界にとって大きなものだったって事だろう。
知らない人の方が多分、世界では少ないかもしれない。魔種であればなおの事。
南方カルケードより起こった、魔種との共和を唱える大革命。
それの前か、後ろかで世界の様子は様変わりしている。とはいっても短期間で劇的な変化があった訳じゃぁないみたいだけれどもね。それでも今、第八期と呼ばれるこの時代までその、南国カルケードで起こった革命の作用は生きている。人と魔物とを隔てていた心の壁が崩れ、今は全ての境界に橋が掛かっているんだから。
ディアス四方騎士の一つが魔種で構成されるだなんて、昔のディアスの人たちから見たら信じられないだろう。それくらいディアスには強い魔種差別が生き残っていたとも聞く。もちろん、今は全て解消しているとは言い難い訳だけどさ。
その話、歴史の推移を騎士養成学校聞いてさ……僕は正直感銘を受けた。
世界を変えようと思って、南国カルケードの偉人は魔種との共和を唱えたのだろうか?絶対的に相容れないものとして魔種が、まかり取っていた時代に……その人は人と魔物とが婚姻する事で融和を示した。それを実行するまでにどれだけの困難があり、そしてその後に困難な道が続いていたのだろう?
そんな事を思い出していたら……少しだけ、頭の悪い僕にも見えてきた。
サンカイセツゴウとかいう合成獣の技法が、その後の世界で廃れていったその理由を……ね。
「魔物使いの一派って事は、つまり……合成獣って魔物を自在に掛け合わせる技術って事かな」
「そうよ、あら、そこから分かって無かったの?」
分かっていなかったというか、上手い事想像が出来て無かっただけだよ。そうか……だから合成技術、合成獣と指定して話が進んでいた訳だ。
「南国革命後って魔物種への人権を認める動きが広まったって事だよね。魔物や魔種って、それまでは生物としても見なされていなかったって本当なのかな?」
「恐らくそうだったのでしょう。歴史の伝える通り、そういう時代があったと考える事は難しくないわ」
なんだか恐ろしい時代のように思える。
今でも等しく扱われない場合があるっていうのに……生物としても認識されないって、どんな時代だろう。
きっと魔物種は人知れず生きる事を強要されていたんだろうなぁ……ああ、だから北方っていう人が住んでない地域に魔物が群れる事態になったんだなぁ。
今現在も北方地方は魔種の占める割合が多いって聞く。それこそ、ディアスの状況とは逆だという話も聞いたことがある。
ディアスで生まれた魔種は、少なからずその話を聞いて……僕も北方に生まれたかった、などと一度は思うものだよ。
「……合成獣使いは、世界の流れに乗れなかったって事なのかな」
リオは荷物を反対側の肩にかけなおしながら頷いた。
「そうね、私は少なくともそうだと思っているわ。どうして消えてしまって、追及する事が禁忌とまでされているかは分からない。でも消えてしまった理由について想像する事は難しくないわ。合成獣という研究分野は、生物……生き物としての存在を認めていなかった魔物というものを道具、部品のように見立てなければ成り立たないものだった。だから、魔種の存在が世界の中で認められていく中、自然と禁忌とされて忌み嫌われ、消えていったんじゃないかと思う」
ともすると……。
僕は多くの荷物を背中に背負い、さらに両肩にもぶら下げさらに両手もふさがっている状況でなんとか角度を変え、隣を歩いているリオを窺う。
どうしてそんなアブない研究をこの人は追っかけているんだろう?
なんて事も聞きたくなるんだよね。単なる秘密を暴きたい興味、それだけなのかな。
……そこまでして合成獣技術を求めるリオには、何かしらの『望み』があるように思うんだ。
それをどうやってリオに聞けばいいんだろう?少し悩んで、結局変に勘ぐってもどうせすぐ見破られちゃうんだろうなとため息を漏らしてしまった。素直に思った事を聞く事にする。
「どうして、そんなものを追っかけているんですか?……必要なんですか、合成術」
「かつては、ね」
リオは視線を僕に向け、少しだけ悪戯っぽく笑う。なんだか無理をしているように思える。
「……荷物、やっぱり僕が持ちましょうか?」
「いいってば。大丈夫、そんなに持たせておいて一人手ぶらなんて、私はそこまで鬼じゃないわよ?」
「でも、大変そうです」
リオは大丈夫よと笑って少しだけ、歩調を速める。
「意地になっているのよ。……残念ながらもう手遅れ」
「リオさん」
「確かに、私は自分の望みがあって三界接合術を必要としたわ。でも今は絶対必要じゃない、ただ魔導師的な執着でイジになって解き明かそうとしているだけよ。別に怪しい事をしたい訳じゃない」
僕は慌ててリオの歩調に合わせ、少しだけ足を速める。
「必要とされるだけ、ただそれだけでここにいるんじゃない。それはあなたもそうでしょう?今はもう、貴方は選んでここに属しているはず。あの無謀な勇者様の力になる事で……必要な真実が見えてくる。そう思っている、違う?」
僕は首を縦に振って同調した。
すっかりずれていたローブというかシーツがずり落ちてしまったけど……道中人もいないのでまぁ、いいや。
手もふさがってて被り直せないし。
「私もそうよ。案外……みんなそうだと思うわ。エース爺さんもね、あれで色々思惑があって一緒に行動しているんだから」
「ふぅん……そうなんですか」
それからはしばらく無言で歩いていた。だけど、オリーブの畑が少なくなって森が近くなり、陽もすっかり傾きかけたころにふいと、リオは言った。
「……私の場合は独占欲かも」
「え?」
「……三界接合術は禁忌で、今だ正しくサルベージされていない」
「サルベージ?」
聞かない言葉を僕は繰り返してしまった。しかし、リオはまるで独り言のように僕の疑問の声を無視して言葉を続ける。
「私は、三界接合術に限りなく近い所にいた……白魔導師。精霊干渉力は持っているけど魔法は使えない、自然科学を極めた未来予知を数多くもたらしたその挙句、たくさんの未来を切り捨てたわ……そう思う。救えた人を、救う努力をしなかった……私はその未来を変えたいと思っているだけ」
前をまっすぐ向いて歩くリオを見つめて、僕は聞いていた。
「三界接合術とかいうのは……リオさんが見た未来を変えるだけの力があるって事ですか?だから、必要とした」
「そう言う事ね。でも……もはや全部後手に回ったの。魔導師協会追い出されてしまったし」
リオはふっと足を止める。
「オーンの、破壊された合成獣研究所跡は近年『使用されていた』形跡があるって聞いたの。だから、私はランドールについて行く事にしたわ。私以上にその研究の真に近づいた者がいるのかもしれない……割と、私はそれが許せないだけかもしれない」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
次の日の夕方には……海峡飛び越えて隣の大陸にある町、ルドランから坊ちゃん達が帰ってきた。
なんだか……坊ちゃん以外無駄に疲れている気がするけど……どうしたんだろ?
「成果の程はどうだったの?」
ドラゴンヒノトから降りて、グランはぐったりと近くの木に寄りかかってしまった。
「いやぁ、酷かったです。タトラメルツの例の研究所跡と噂される土地が魔王八逆星に利用されている、という時点である程度予測はしてたけどさ。どんピシャで」
「やっぱり動いていたの?」
リオの表情が真面目になった。本当は、着いて行きたかったのだろうなぁ……。グランは力なく掌を振る。
「魔王軍生産ラインみたいなもんになっててねぇ、おかげで全部、壊滅させるハメになっちゃって」
それを聞いてリオの表情が呆れに変わった。ついでに言うと、僕も呆れています。
「わー、じゃぁ一日で魔王軍生産ライン、つぶして来たんだぁ」
グラン、否定はしなかった。
「無茶ですよ、無茶しすぎ。ここ最近の坊ちゃんの行動力は異常」
他、ついて行ったシリアとテニーさんもお疲れモードであるようだ。ヒノトも機嫌が悪いようでさっきからしっぽで周りの木をばしんばしん叩いて今にもへし折りそうだ。
「……とりあえず、ご飯は出来てるから。ゆっくり休んで」
「助かります~」
どうやら今日はまともな話が出来なさそうだ、とリオは判断したみたいだね。
しかし、だからって坊ちゃんに向きなおるのもどうかなぁ?正直僕はそう思ってしまったよ。
強い、強いよリオさん。
「どうだったの?何か手掛かりはあった?」
「さぁな、どうにも『同じような気配』がして気にくわなかったから……全部ぶっつぶしてきたが」
しれっと腕を組み、疲れなど感じさせない我らが勇者様はそのようにお答えなさっておりますが……。
本当、この人の強さは底知れない。
何か得体のしれない気配も感じてしまう程、とてつもない器の大きさを感じるよ。
「酷かったな……えらく嫌なものを見てしまった」
しかしテニーさんまでもが今回ばかりはと青い顔をしている。
「どうしたって言うの」
「今まで多く魔王軍と戦ってきたが……あそこまであからさまに魔王軍の正体を見たのは初めてだ」
「……生産工場だったって?どう云う意味よ。魔王軍と言われるあの怪物は、やっぱり三界接合術で人工的に作られた怪物だったって事なの?」
僕はその話を聞いていて……嫌な事を思い出している。
その事実は僕にとっては嫌だった。だから、追及されない限りあえて誰にも言うまいって思っていた。
案外みんな、知っている事だと安易に思っていたんだ。その考えが覆される。
僕は、この前のリーリス川ほとりで遭遇した魔王軍の事を思い出している。
ディアス四方騎士北魔槍の旗を掲げた船から湧きだした、混沌の怪物。
彼らがかつて馴染みのある『匂い』を纏っていた事を僕は思い出していた。
そして、尊敬こそはしてなかったけど……いやまぁあの性格だし……それなりに慕っていた団長が、その原因にもなりうる存在だという事を知ってしまった。
僕だけが知らなかった。
「元、人間って事を言いたいんだと思いますよ」
僕は、顔色優れないテニーさんに代わって口を開く。
おそらく今回の件でシリアもはっきりと知ってしまったのだろう。すっかり顔色が良くない。いつもだとかしましいくらいなのに、静かだ。
「え?どう言う事?」
リオの怪訝な顔に向けて僕は、自分が匂いで理解した事実を伝える。
「……魔王軍っていうあの怪物、元は人なんですよ。よく分からないけれどそれが、あの怪物になってしまうんですよね。そうでしょう?ルドランにはそういう『工場』があったって事じゃないんですか」
テニーさんは無言でうなずいて答えてくれた。項垂れている、ランドール坊ちゃんだけが澄ました顔をしているけれど……ホント、倒すって決めたら相手が誰であろうと迷わない、この余りに一直線な強さは敵わない。
「どこからかき集めて来たのやら、多くの人が旧地下施設に捉われていた。と同時に……多くの魔王軍がそこで作られている様子を目の当たりにしてしまった。時に町や集落を襲い壊滅させている魔王軍の働きには、魔王軍の元となる人の調達が含まれているようだ。異常な破壊行動の裏、死体の少ない襲撃現場にはそういう意味があったわけだな」
「……私が危惧した予測通り、という事なのね」
リオは……もしかすれば魔王軍がそいう理由で、人攫いをしている可能性を知っていたという事か。
そして攫われた人たちが、魔王軍という怪物になっているのではないかという可能性に三界接合という『合成獣技術』という関連から『予測』していたんだね。
そしてだからこそ、魔王八逆星が使っているのかもしれない三界接合術の存在が許せないと言っているのかもしれない。
禁忌である技術を追う事は、見えない、見たくないと目をそらす事じゃなくって……。
今再び不幸の手を伸ばしているかもしれない技術と対峙し、向き合う事なんだ。
「でもなー。どうかなぁー」
木に寄りかかり、疲れていると必死に主張するグランが、厳しい顔をして黙り込んでいるリオさんに言った。
「一応それなりに観察はしてきたけど……あれは本当にソレかなぁ。話を聞くにもっと、三界接合はめんどくさいイメージがあるんだがね。僕は少し違うように思うけど。それより、追っかけている大蜘蛛の方がよっぽど『らしい』と思うよ」
「そうだ、蜘蛛の手がかりなんてほとんど無かったんだ……明後日の朝には予定通り、出発するからな」
思い出したように坊ちゃんが言いきって、グランはずりずりと木の根元までずり落ちる。
「そりゃないですよ坊ちゃん、あれだけ暴れといて……もう2、3日ゆっくりさせてくださいよぅ」
しかしそれに返答はなく、ぼっちゃんはずんずんと宿に向って歩いて行ってしまった。
という事は、グランの訴えはほぼ無視って事だな。
「じゃ、無駄に歩き回らないでいいように僕は明日の内に手がかり探しておきますから」
「すまんな、マース」
テニーさん、こんな時でも労いの言葉を欠かさない。良い人だよなぁ、この人いなかったら絶対このパーティー存続してないと思うもん。
「いいんですよ、留守番はそういう事も含めて命じられていたって思ってましたし。明日は一日ゆっくり休んでください」
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