異世界創造NOSYUYO トビラ

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7章~8章間+10章までの 番外編

◆戦え!ボクらのゆうしゃ ランドール◆第五無礼武

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※ これは第9章直前までの某勇者パーティーの番外編です ※

◆第五無礼武◆『vs北魔槍!国家戦争?そんなの関係ねぇ大作戦』

 最近、夢見が良くないな。理由は大体分かっているんだけど。

 四方を森に囲まれた……高くて雑多な木のわずかな隙間から群青色の星空が見える。
 少し、騒がしくなってきたかな。どこかで鳥の囀りか……もしくは猿の吠える音が木霊する。
 もうすぐ夜が明ける。番の交代にグランを起こさないといけないんだけど……不思議と僕は眠くなくってさ。……交代はしないでこのまま僕が朝まで起きていよう。

 いつも被りっぱなしの兜を脱いでいる。おかげで、森の間を抜けてくる僅かな風が涼しくて気持ちがいい。
 環境的にこう、少しじめっとした位が僕には丁度良いんだよね。人間から派生した竜鱗鬼種はどうしてそういう派生をしたものか、爬虫類の特徴を持ち合わせている。おかげで寒さに弱くってね。西方ファマメントの北の方って雪も降るんだよ?信じられないよ。冷たい鎧なんか着ていたら途端に動けなくなるんだから。
 僕は生まれも育ちも南東、実際には『西方』と今も言い張っている、ディアス国。

 僕はディアス国で生まれたけど、正直その国に対して良い思い出はない。
 結局追い出されてしまった通りだしね。でも……僕は生れた土地を嫌いだとは思いたくなかったんだ。必死に、好きになろうとがんばったんだよ。国に忠誠を誓う騎士になったのだってその延長線上の話だ。

 その、あまり良い思い出の無いディアスでの事を最近よく思い出すんだ。
 追いだされたのはほんの最近だけど、その最近がとっても新鮮でさ。知らなかった事や、信じられない事が毎日起こって……それよりも過去の事なんか思い出しているヒマはなかった。
 なんでかって?だって、僕の隣人が凄い人なんだもの。ええと、いろいろな意味で。
 一概に何が凄いのかは僕も断言できない。だけど……退屈しないのは確か、かな。

 僕はもともと西方騎士団に所属していた竜鱗鬼種の重騎士、マース・マーズ。
 いろいろあって、今はランドールという『自称勇者』に同行している。
 このランドール坊ちゃんの御一行が凄いんだよ、何と言うか……変な人ばっかりなんだ。それを聞いたらみんな怒るだろうから心の中に秘めるだけにするけど。
 西方ファマメント国の有名な公族のテニー・ウィンさん。天使教の偉い人らしいグランソール・ワイズ。北方シェイディから来た竜顔の魔術師エース・ソード爺さん。東方から来た知恵袋で占い師のリオ・イグズスツインさん。平原貴族種のちょっとだけお金にがめつい美人のシリアと、その飼竜ヒノト。そして、何故かテニーさんが平服している……謎の勇者ランドール事、坊ちゃん。持ち上げておかないと無言で殴るからね、おっかない人だけどでも何でかな、嫌いにはなれない。不思議な人だ。
 僕含めて7人+1匹は今、とあるモンスターを追いかけて東方コウリーリスの森の中にいる。

 ファマメント国との国境も近い近辺でね、ちょっと変な事件があって。
 でもどうやら坊ちゃんはその、事件の方はどうでもいいらしい。
 事件を起こしていたと思われる、謎の大蜘蛛を追いかけている。どうも互いに顔見知り見たいなんだよね。でも、蜘蛛と顔見知りってのも何だかなぁ。そもそもいくら大きくたって蜘蛛は普通、喋らないだろう?
 しかし不思議な事にその蜘蛛、人の言葉を喋るんだよ。器官的に蜘蛛は言葉なんか喋れないはずなんだけど、どこからか声が聞こえるんだ。
 あれはいったい何なのか。
 誰もくわしい話はしてくれない。坊ちゃんにも聞いてみたけど……滅ぼすべき敵という認識以外に何を知る必要がある?的な事を言われて一蹴されちゃった。……ホントに蹴らないでよもう。

 今必死にその後を探知して追いかけているんだけどねぇ、行く先は深い森だもの。これが上手く進めない。ドラゴンに乗って上空からという手もあるけどその場合、全員乗れない。それに空からだと、森をジグザグに移動しているらしい相手の手がかりがつかみにくいんだ。
 で実際、どうやって探しているかって?……非常に言いにくいんだけど、匂い探知なんだよね。
 爬虫類の特徴を持つ竜鱗鬼種は、これで色々な能力持ってるんだよ。一部は爬虫類関係ないんじゃないってのもある。人間より有能であるのは魔物種の特権だよね、差別のある国では酷い扱いを受ける、その見返りみたいなもんかな。
 ディアス国において魔種はあまり良い扱いを受けていないからね。でも僕はその中でとりわけ優秀で、その優秀さを買われて騎士に入団する事が出来たんだよ。
 暗視能力、鋭敏な特殊聴覚、熱探査能力、そして超嗅覚。さらに竜鱗鬼種として備わる頑丈な肉体。鱗におおわれた固い皮膚だね。
 寒さにだけは弱いんだけど。

 だからって……どうして僕が犬みたいなまねをしなきゃいけないんだろう。

 でもそう言えば、ディアス国の騎士団に属している時も僕は匂い探知能力が高いっていうので重宝されていたりしたんだった。

 匂い。

 僕を憂鬱にさせるのは多分、それだ。ついでに過去の事を思い出してしまうのもきっと、匂いの所為。
 眠れない夜の終わりに、僕は……思い出す事も忘れていた過去を思い出していた。


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 呼ばれていると同僚に言われて僕はため息をついた。またどうせ何時もの……。
「あ、ここにいたのか。ごめん、いつものだ」
 ……ほらね。
 直々に僕を探しに来てくれた、この人が一番僕をこき使ったよね。断れない僕も悪いのだろうけど。
 そもそも、断れないだろう?だって、この人は団長……要するにエラい人なんだもの。

 黒髪の好青年、僕と年齢はさほど変わらないんじゃないかとも思うんだけど、噂を聞くにずっと前から団長を務めている……年齢および経歴不詳の謎の人だ。滅多に仮面を外さないらしいんだけど、その割に宿舎では無防備な格好をしている。
 北方騎士の一団長を務めながら、その顔を知られていない。北魔槍の鉄仮面が顔として認識されている気配すらある。
 その仮面の下の顔は、実はあまり知られてはいけない、というのもあるらしい。
 僕の属していた騎士団は全員魔種で構成されている、だから彼はあまり表に出ない事になっているらしい。
 その所為で団長は常に顔を隠さなきゃいけない立場にあるとか、そんな風にも聞いていた。
 騎士ったってピンからキリまで居る、僕は間違いなくキリの方だったんだけど……色々能力があったもんで団長からもすぐに顔……というか鎧を覚えられちゃって。僕、すでにこの時から顔にコンプレックスあって常に鉄仮面だからさ。北魔槍騎士団はそういう都合、武装に多少の個性が認められている。他の騎士団だと同一規格の装備で整えられている事が多い。

 僕が属していたディアス国の騎士団。
 北魔槍の騎士は……所属する者が殆ど魔種混血で、誰もが一つや二つ脛に傷を持っている。だから、僕のそういうどこでも鉄仮面を脱がない態度をけしからんと怒る人はいなかった。大抵僕の顔を見れば事情は察してくれたものさ。

「いつもすまないな」
 僕は匂いを嗅ぐ為に地面を這いまわって、団長の隠されてしまったブーツを探している。
 しばらくして宿舎の裏手の森の中、僕はどっかから投げ捨てられたと思われるブーツの片割れを見つけ出した。
「これですよね?」
「ああ、それだ!」
 素直に喜んでいる顔が無邪気だ。その前に浮かべるべき顔があるだろうに。この能天気さがどうも憎めないんだよね。でも逆にこういう態度が気に入らない人も多いみたいで……このように、実に悪質ないたずらというかむしろ『イジメ』を受けているんだ、この団長さん。
 部下からもだよ?大丈夫なのかこの騎士団。
 それでも団長なんですかッ?と思わず叱責してしまったのは最初の3回まで。
 その後は、もう何も言わずに隠されたり捨てられたりする彼の失われた持ち物を探し出す事にしている。
「ありがとう、本当にいつも助かっている」
 最近この陰湿なイジメが酷くなった気がする。思うに、僕が見つけちゃうからいけないのかな。
 というかその前に。

 失せたモノよりも、そういう悪質な事をする犯人を捜そうよ団長!

 僕はこのくだらない出動の多さに、ついにそのように提案する事になった。
 するとこの天然団長、何って言ったと思う?

「んー、でも相手はそのうちバカらしいって飽きて来て、止めると思うんだ」

 ……相手がバカらしいと思って止めるまで、僕は貴方の無くしたモノを探すのに床を這いまわらないといけないんだろうか。
 何というか、悪意はないんだよねこの人。ものすっごく純粋で、ようするにものすごく天然って事なんだけどさ。
 一方を思いやると一方に迷惑掛けるって事、言われるまで気が付かないんだ。
 頭の回転が僕よりも致命的に悪い。
 僕は、そうと気が付くに長い時間を費やしてしまった。やっぱり僕もちょっと、団長と同類かもしれない。
 何しろ団長なんだもの、普段接する機会が多い訳でもないし、本来あまり口が聞けるような人でもない。
 一応団長はディアス国の公族あつかいだしさ。対して僕は、最下層の名ばかりの騎士、要するに平民なんだもの。

「あの……いいですか」
「何だい?」
「僕はやっぱり犯人は特定すべきで、その人にはもう止めてって言うべきだと思います」
「……そうかな」
「そういうとこ、びしっと言ってやらないからいつまでたっても団長はバカにされるんだと思いますよ?」
「ああ……うん。それはそうだろうけど。……しかたないだろう、俺だって好きで団長やってるわけじゃないし。かといって誰かに席を譲れる訳じゃない。君だってこんな上司は嫌だと思っているんだろう?でも嫌だからってそれを口に出したとして、態度に現したとしても……手段は様々だ。このいたずらだってそうだ」
 この人、超が付くほど天然だけど、それに比例して単純に頭が足りてないという訳ではないみたいだった。
「どうあがいても状況は変わらないだろう?俺が団長で、俺が君達の長だっていう現状は、さ。それとも、他の団長みたいにエラそうに威張って部下を気分で怒鳴り散らすような上司の方がいいのかい?……俺は……俺相応の立場を貫いているだけだ。それでもふさわしくないのは知っている」
 その上……超が付くほどお人好し。ついでに、超、後ろ向き。
「ねぇ、団長」
「ん?何だい?」
「僕はあんまりこういう事好きじゃないんですけど。毎度毎度呼び出して貰うのも、こんなはずれの宿舎まで団長直々にご足労願うのも何だから提案しますね。僕今第7部隊歩兵重騎士に在籍していますけど、差支えなければ貴方の盾役として第1部隊騎兵に昇格させてもらえません?」


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 あまりない、他人から顔をじかに触られた気配に僕は飛び起きた。
「お、起きたね。ダメだろう、ちゃんと交代で起こしてくれなきゃ」
「……グラン!」
 あれ?僕、寝てた?
「ご、ごめんなさい!なんだかあんまり眠くないなって思って、そのまま朝まで……」
「気遣いはありがたいねぇ、でもどうせ僕は朝早く起きる癖があるんだよ。いつも通り起きちゃって、ちょっとびっくりしちゃったじゃないか」
 すっかり夜は明けている。とはいえ、まだ早朝だ。
「もうしばらく休んだらいいよ、いくら丈夫ったって森の中歩き通しは流石に疲れるだろう?」
「いや、いいんです。なんか……夢見が悪くて」
 夢?僕、何か……夢を見ていた?
 気分が悪い、何かずっと引っかかっている。

 匂い。

 ああ、そうだ。
 夢見が悪いはずだ。……僕が気付けなかった事、それを無意識に夢が必死に訴えていたんだ。
 唐突に起こされた所為か、僕は反芻していた記憶と気がかりを今一つにつなげ、確信を得た。
 おかげですっかり目が覚めてしまう。
 僕は思わず顔を顰めていたのかもしれない。ワイズが僕の裸の顔を覗き込んでくる。
 そういえば、仮面を被っていないんだった。普段仮面で表情を隠しているからかな、とても顔に出てしまっているみたい。
「……どうした?」
「いや、何でも」
 僕は、慌てて何時もの鉄仮面を被って言葉を濁していた。


 僕は……気が付いたんだ。

 だから坊ちゃんが探している蜘蛛の探査方法について、ちょっと方法を変えてみたら不思議と効率が上がってしまった。つまり、それは『当たり』だって事だよね。
「どうした、今日は絶好調だな?」
「いやぁ、近いのかなぁ」
 テニーさんから労われながら僕は、匂いを探りながらやはり地面にはいつくばっている。
「近いか」
 ランドールが小さく呟き、剣の柄をぎゅっと強く握りしめているのを僕は、下から見上げる。

 坊ちゃんの執着はあの、大蜘蛛の方みたいだよね。あの大蜘蛛が庇って連れて行ってしまった、謎の少年の方はどうでもいいように思える、僕は今それに安堵していた。

 僕は方法を変えたんだ。
 大蜘蛛を追えと命じられ、残されていた糸の匂いを追いかけていたんだけど……僕はこっそり方法を変えた。
 おそらくあの、謎の少年は今も蜘蛛と一緒に行動している。そして僕は、今その少年の方の匂いを追う方にやり方を変えてみたんである。

 忘れる事はない、何度も何度もその匂いを追いかけていた。だから、蜘蛛の匂いを追うよりも容易い。

 跡を必死に追いながら……当然と一つの疑問が湧いて、僕は今その考えを何度も繰り返して考えている。
 どうして団長と少年は同じ匂いをしているのかな?

 何故?


 匂いの道がはっきりと分かっても、今進んでいるのは道無き森。数百メートル進むのだって大変だ。
 一回坊ちゃんがキレて、ヒノトに向って『焼き払え!』と命令したけど。
 何とかグランとテニーさんが止めたみたいだ。

 そりゃねぇ、それで山火事なんか起こしたら逆に、僕ら逃げられないよ?

 方向の効率は上がっても、進行速度事態はそんなに速くならない訳なんだけど……ようやく相手の動向ってものが掴めてきた。
 僕らはリュースト方面からコウリーリスに入った訳だけど……どうも相手はそこからコウリーリス大陸に渡って南下している。
 丁度、西と東の境界のデルタ地帯にあるエンスっていう割と大きな町を外側に迂回するようにしているんだ。
 何故そう云う進路を取っているのか、理由がいくつ考えられる。
 エンスはコウリーリスの森を縦横無尽に走っている巨大なリーリス川が海に注いでいる、巨大な湿地帯だ。
 そもそもコウリーリスという国の名前はこの川の名前からきているんだよ。ちなみに蛇の名前だそうだ。僕はそれ以上の詳細は知らない。
 そのエンスを迂回すると、何本にも分岐しているリーリス川を何度も渡る事になる。
 そう、こっちの匂い探査を消すために相手は川を渡っている、とも取れる。その通り、一度川を挟むと匂いが途切れちゃって続きを探すのが大変なんだよ。途中から追いかけて来ているの察してるみたいで、明らかに川を遡ったり、時に下ったりして振り切ろうとしてるし。
「このまま南下するとメヘル領に入りますな、やり辛くなりますぞ」
 地図に情報を書き込み、今後の敵の進路を予測する会議にて、エース爺さんが腕を組んで同意を引きだそうとしている。
「どう云う事?」
 メヘル……どっかで聞いたような。
「ディアス国領土に入るって事だよ」
 グランから言われ思い出した、そうだった、ディアスの北側にある町の名前がメヘルだった。穀倉地帯の一つだけど、隣にリューストの悪名高い例の山脈があるからファマメント国からも介入される事が無い……安全な田舎町だよ。何も起こる事がない、でも辺境のド田舎人を厄介払いするのに使われる町の一つだ。そんな都合、割と没落貴族が多い地区でもある。
「動き辛くなるのは相手も同じだと思いたいけど……正直、ディアス国は今、何を抱えているのかよく分からないものね」
 何を考えているのか分かりにくい、というのは元ディアス国に居た僕も賛同するな。
「だがその前にリーリス川の主流を渡れると思うか?」
「エンスなら渡し船はあるとして……大蜘蛛ですからねぇ。このまま川を渡れずに……東に進路を取ってもらえば逆に、追跡も容易んだけど」
 グランはふいと僕に顔を向けた。
「蜘蛛って泳げるもんかな?」
「そんなん僕に聞かないでくださいよ」
「何にせよ、主流を渡られると困るな。……それまでに追い付けると思うか?」
「近いんだろう?」
 坊ちゃんから強い確認の言葉を投げられ、僕は困って仮面の上から頭を掻く。
「はぁ、多分」
 確かに、匂いは強くなってきているから距離は縮めているという事は確実だ。
「……いっそ、待ち伏せますか?」
「リーリス川主流でか」



 ヒノトを使って、僕らはリーリス川の主流域岸で大蜘蛛が現われるのを待つ事にした。距離的に考えればすでに蜘蛛達が川に出ている事もありうる。
 ヒノトは大きなドラゴンなんだけど、人間は3人、がんばれば4人乗っけるのが限度なんだ。それからシリアの言う事しか聞かないからシリアは乗ってなきゃいけない。最低二回は往復しないと全員運べない。
 グランとリオ、空を飛ぶエース爺さんと一緒に第一便でリーリス川主流を目指す。
 上空から森を見渡すと気が遠くなるね。どこまも続く緑色の絨毯に、この中をもぞもぞ進んでいたのかと思うとバカらしい事をしていると思ってしまう。
 その緑の森をたまに割いて流れている、陽を反射してくる水辺がリーリス川だ。迂曲していくつもの支流のあるこの川は、よくよく流れを変える為に所々に三日月型の池沼を残している。と、眩しく反射するものが薄く、低いところをたなびく雲の隙間から見えた。
「あれが主流?」
「そうだよ、流石のあの規模は……自力で渡るのは無理だろうからねぇ」
 成るほど、いまいち話している事の事態がよく見えなかったけどこれでようやく納得した。
 リーリス川主流というのはまるで、海みたいに物凄く川幅が広いんだね。空から見ても対岸がほとんど見えない、こんなに広い川を見たのは始めてだ。そうか、これだと確かに大蜘蛛はよっぽど泳ぎがうまくない限り対岸には渡れない。
 ヒノトから川岸に降ろされて、僕はすぐにも大蜘蛛が川に到達しているかどうかを調べる事にしよう。

 特定は……難しくないな。僕はすぐにも蜘蛛の、というよりもあの少年の匂いがする川岸を特定出来た。

 僕とグランとリオさん、それから自力で飛んできたエース爺さんの4人で、ぼっちゃんが到着するまで今後の状況を打ち合わせる。次のヒノトが着きしだい、即座出発する為だ。今まで主に僕の嗅覚で後を追いかけてきたけど、もちろん探査の方法はそれだけじゃない。雑多な森の中では僕の方法が一番都合がよかっただけだ。
 グランは封印術しか使えないけど、その代り劣化させることなく大蜘蛛の情報……匂いに限らず様々な事を保持する事が出来る。エース爺さんは魔法が得意だし、リオさんはあまり強力ではないとはいえ理力による占いで相手の動向を探る事が出来る。
 ここからどこに向かったのか、それぞれに探査能力を最大にして探ってみた。
 残念ながら……川岸で道が途切れちゃっているんだよね。

 流石にこれだけ大量の水が流れていると、匂いを嗅ぎ取るのが難しい。空中にも僅かに手がかりは残るんだけど、川の流れに伴う空気の流れにあっという間に拡散してしまってる。それでも僅かに手かがりはないだろうかと川の流れに沿って吹く風を浴びて、僕は……強烈な気配をかぎ取った。
 でもこれは……探しものじゃない。
 分かる、一緒に混じっている匂いで、これは『団長』の方だと僕はすぐに悟った。
 と同時にまさか、僕はいつしか、団長の匂いを察知してここまで来ちゃったんだろうかと密かに、青くなっていたり。

 川岸で固まっている僕の肩をグランが叩き、僕は驚いて振り返る。
「どうした、固まって」
「あああ、いやッ!なんか懐かしい匂いがしたもんで……」
「懐かしい?」
「……あの、どうもこの近辺にディアス四方騎士団が来てるみたいです。その匂いを感じちゃって」
 とりあえず嘘じゃないし。するとグラン、ちょっと顔色を変えたような気がする。
「こんなド地方に何の用事だろうねぇ……リオ、そっちはどうだ」
 リオは濁った川に手を入れて精霊干渉中。その背後では瞑想して魔法探査しているエース爺さんがいる。しかし何も探知できないらしく首を振って立ち上がった。
「……どうにも、川には足を入れていないわね、どうやって川を渡ったのかしら」
「って事は船だね、マースが四方騎士の気配を嗅ぎ取ったらしい」
「ど、どうして四方騎士の船で逃げたって分かるんだい?」
 グランは天を仰いた。そして僕の質問を無視してリオを振り返る。
「リオ、どうなると思う?」
「どうなるもこうなるも、結果だけ求められるわけでしょ?そうしたら、今手かがりになるのはその四方騎士しか無いじゃない」
「だよねぇ」
 だよねぇ、って。嫌な予感がするぞ。ようやくグランは僕に振り返る。
「で、どっちにいるのかな、その騎士団。こんな処までに徒歩では来ないでしょ、間違いなく船を使っているはずだね」
 う、そう言われれば……確かにそうだろう。
 近くにいるけど、徒歩ではありえない。この匂いの具合からして間違いなく船だ。
「とりあえず話を聞けそうなのは今、そいつらだけでしょ?」
 って事は……騎士団の跡を追跡して、団長達まで案内しなきゃいけないんだね……はぁ。


 坊ちゃんはさぁ、経過とか別にどうでもいいんだよね。
 結果が全てなんだよ。何がどうなってこういう現状があるっていう順序とか理屈とか必要としないんだね。
 それだけ部下を信用するって事で、それだけ全部部下任せって事でもある。
 上司として良いのだろうか、それとも最悪なんだろうか?
 僕は、ランドール坊ちゃんと正反対と言えそうな上司を知っているだけに、なんとも言えなくなってしまう。


 そこに案内しろと言われて、嫌だとは言えない。
 正直言えば嫌だよ、僕は……あそこから追い出されてしまった身、騎士には戻れないんだ。顔を合わすのでさえ本当は嫌だ。
 でも坊ちゃんがさっさとそいつらを追えって言う。テニーさんもそれを僕に望んでいる。
「あの、グラン」
「分かっている、会いたくないって言うんでしょ」
 笑いながら見透かされて、僕は黙ってしまった。
「幸い、坊ちゃんは『経過』というものを必要としない、相手にも等しく必要とさせない」
 何を言うのか、僕は顔を上げる。
「もちろん、案内するだけでいいよ。全員で行く必要はない、正直僕は遠慮するし」
 グランは、こっそり苦笑する。
「ヘタに説明しようもんなら国家問題に発展しちゃうよ、北魔槍騎士団にケンカ売りに行くんだぞ?こう言う時のウチの勇者様でしょ」


 野暮だから、ケンカ売ったら国家戦争が勃発するかもしれないという事は……

 あえて、坊ちゃんには言わなかったみたいだ。

 つまりそれって、ケンカ売っちゃうの確定って事?


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 ディアスの紋章がばっちり入っている大きな船を、僕らは遠くに見守っている。
 リーリス川主流は結構、流れが複雑なんだって。それでディアス国所属の川船は比較的川岸近くを航行している。それで匂いが強く感じられたんだね。
 ちなみに、留守番は僕とグランとテニーさん。
 ああ、ダメだ。テニーさんここに残っちゃったら、不測事態が起きても誰も止めなないし、そもそもあのメンツだと止められないのでは?
「……大丈夫かなぁ」
「マース、それ5回目だよ」
「心配じゃないんですか?テニーさん」
 グランの突っ込みを無視して、黙って様子をうかがっているテニーさんに話を振った。この人はファマメント国公族、ウィン家として顔が割れているのでやっぱり、こう云う場合は表に出れないのかな?
「……ワイズ、説明はしていないのか」
「してませんよ、なるべく巻き込みたくはないでしょう?」
 意味ありげな会話に僕は仮面の下で怪訝な顔をした。
「リオさんもそうだけど、どうして僕に詳しい事情を教えてくれないんです?」
「リオはともかく、詳しい事情を知りたがるのがお前さんだけだからな、こっちは説明していいものかと迷っているのさ」
 グランはそのように容易く詭弁的に言い返してきた。
「……それって、つまり。巻き込みたくないって意味で?」
「……」
 テニーさんもグランソール・ワイズもだんまりだ。ひどいや、僕は……僕だってランドールパーティーなのに。
「信用されていないなんて、心外ですよ」
「ワイズ、説明してやれ」
 テニーさんが額を抑える。グランは……なぜか口元を笑わせて僕を振り返った。
「覚悟はいいかいマース」
「覚悟なんてとっくに出来てます!」
「もう二度と、あそこには戻れないぞ」
 長い前髪で見えないけど、グランの視線の先にはあのディアスの船があるんだろう。
「戻れないから僕は路頭に迷ったんですよ?そんなの、二度も言わせないでくださいよ」
 そりゃ本当はさ、ディアス国から捨てられた事実は受け入れ難い事だよ?

 戻っておいでと団長が言ってくれるなら、僕は……。

 ゆるんだ気持ちを振り払う。出来ないんだ、僕はあそこには戻れない。その決意を察したようにグランが、囁く様に僕に告げた。
「……北魔槍は魔王軍の巣窟だ、団長からしてそうだからね」
「……はい?」
 思っていた事と、繋がるはずの無い単語がグランソール・ワイズの口から出てきて僕は惚けてしまった。
「だから、ディアスは魔王に侵食されつつあって相当にヤバい状態なの」
 ……ちょっと待って。
「じゃ、じゃぁどうして僕は……」
 追いだされた?
 ちょっと待ってよ。

 それじゃぁてんで、逆じゃないか!

「何なら今から真相を聞きに行くかい?」
 グランが船を親指で差し、僕に苦笑を投げる。
「いるんだろう、あそこに団長がいるのは分かっているんでしょ?……君が聞きたいならたぶん、今なら。答えてくれるかもしれない」
「どうし……」
 と、巨大な川船が視界の端で揺れだしたのを見て言葉を止める。

 爆音。

 船の側面が吹き飛び、火の手が上がる。

「ええええッ!?」
 本当にケンカ売ったのランドール坊ちゃんー!?
 慌てて立ち上がってしまった僕に合わせ、グランとテニーさんも立ち上がる。
「やっぱり、こうなったなぁ」
 白々しく言うわないでよグラン、絶対あんたけしかけたでしょうに!
「……はぁ、白を切らずに、大人しく本当の事を言えばこんな事にはならないのに」
「言えんだろ、立場がある」
「だからこそこうなるってねー……とりあえず北魔槍は黒ってのは分かってる事として、今後これをダシにディアスが何か言ってるくかどうか、それを見てもうちょっと事情が掴めるんじゃない?」
 僕は茫然としていて、2人の会話に頭がついていかない。
「珍しく惚けた事を言うな、ワイズ」
「あー……じゃぁ逆か。黒である事をダシにしてディアスが口実を得ようとしている」
「マースを引き取る手前、すでに必要な情報は洗ってある。そこはお前が心配する所じゃない」
「流石は腐ってもウィン家、抜け目ないねぇ」
 僕は、何時の間にやら止めていた息が苦しくなり、深く息を吸い込んで、叫んでいた。
「わーッ!船、燃えてる!燃えてるー!坊ちゃんは?」
「心配無用だよ、あれで死ぬようなタマじゃないから」
 そ、それは確かにそうだけど!
 団長は?
 ……団長が黒?魔王軍?団長からして?

 何だって?

 僕は駆け出していた。
 傾いて沈みつつある、船に向って藪を超え、崖を下り降り川岸に飛び降りる。

 目の前で再び船が火を吹いて大きく傾いた。途端、黒いものが噴き出す。
 窓の狭い仮面を持ち上げて、僕は走りながら空を窺った。
 黒いものが……沈みそうな船を旋回している。近づくにつれ、船からやはり黒いものが逃げ出すように湧きだすのが見えた。

 覚えている、フェリアで嫌って程蹴散らした。あれは黒い混沌の怪物、魔王軍と呼ばれているものだ。

 どうしてそれがディアスの紋章を掲げている船から出てくるんだ。その旗や紋章は今、湧きだした怪物から破壊されつつあるけれど。証拠隠滅?一部の怪物が川岸を駆けている僕に気が付いて、襲いかかってくる。

 僕は……この時程自分の能力を呪った事はない。
 実際、幾度かこの鋭敏な感覚を疎ましいと思った。
 でも何も知らなかったから……何も知らないままで居れたらよかたったと、そんな思いに陥った。

 魔王軍がこちらを敵とみなし、遠慮なく襲いかかってくる事に僕は覚悟を決める。抜刀し、空から襲いかかってきた怪物を切り捨てる。
 走るのは止めない、確かめられるなら……。
 この目で、この耳で。すべての真実を知ろうと思った。

 魔王軍はなかなかしぶといんだ、動物や魔物はある程度怪我を負わせれば不利と悟って逃げ出すものが多いのに、そういう事態には絶対ならず、体が動く限りの抵抗をしてくる。
 理性は恐らく、もうほとんどないんだろうな。
 それが……今は救いの様に思う。遠慮なく僕に襲いかかってくるんだもの、理性なんてそんなもの……あるはずがない。
 追いすがってくる魔王軍に止めを刺し、すでに『知っている』姿を保っていない、かつての朋友を屠る。僕には分かる、だって匂いが同じだ。形も精神も違うけど、匂いだけは変わらないなんてひどいよ。
 いっそ悪臭でも放って、元の姿と完全にかけ離れた姿をしていればいいのに。

 火を吹いた船からシリア達がヒノトを使い、岸に降りたのが見える。いつの間にかヒノトも参戦している。僕に群がっていた怪物を、船から脱出して来たエース爺さんが追っ払ってくれた。
「どうした、急に出てきおって。会いたくないのではないのか」
「会いたくなんかないですよ、でも!」
「この状況は知らなんだ、そういった所か」
 爺さんも知ってたんだ。知っていた、北魔槍騎士団が魔王軍に浸食されているのに?それを知らないのは僕だけなのか?
 仮面をかぶっているから表情などは隠している。なのに僕のそんな疑問や苦悩など、誰も察しないと思うのに。不思議とエース爺さんは全部お見通しなんだ。心読魔法でも使っているのかな?
「ちなみに、ランドールぼっちゃんとシリアはこの状況を、今知った形じゃ」
「……北方騎士が魔王軍だって事?」
「ま、団長が魔王じゃぁ部下が魔王軍は当たり前よな」

 再び爆音、すでに傾いて沈みつつある船の甲板が吹っ飛び、炎をともす幌の掛かった支柱がメキメキと音を立てて倒れ始める。その勢いで、柱に上がっていた火が一瞬強く燃え上がり、反動で掻き消えた。
 船は、襲撃を受けてから岸に向けていたようで随分近くまで迫ってきている。

 橋のように岸を渡す支柱の上に黒い騎士が表れて僕は思わず、顔を上げていた。
「……だ……」
 呼んでしまいそうになり慌てて、その言葉を僕は飲み込む。
 呼べないんだ。僕はもう北魔槍騎士団には属していない、無関係じゃないか。
 覚悟をしろと言われた、もう二度と戻れない、その覚悟をしているんだ。それは本当の事で……。

 だからこそ、あの人を僕はもう、団長と呼ぶ事は出来ない。

 なら何って呼びかければいいんだろう?

 そのように迷っている間に、見知った人物が黒い騎士を追いかけて支柱の上に現れる。
 赤と白の鎧に青いマントの、今の僕の主。ランドール坊ちゃんが剣を抜き放ち振りかざし、黒騎士を追いかけている。少しの間支柱を駆け下り、一気に黒い騎士が岸に飛び降りた。
「……アービス、さん」
 呼び辛くって、僕は小さく呟くようにその名前を呼んだんだけどな。どうやら僕だって気が付いたみたいに、黒い騎士がこちらを振り返った。
「ああ、久しぶりだなマース」
 何時もの緊張感の無い声に脱力しそうになった。
 変わりない、状況は余りにもおかしな事になっているのに。
 互いに鉄仮面で、互いの表情など見えはしないのに。でも、互いにどんな顔をしているのか大体分かるものなのかな。
 彼は多分。仮面の下で苦笑しているんだろう。いつもそうだった、何が起きても困った顔で笑って誤魔化すんだ。
 そして僕はその度に、仮面の下で苦い顔をしているんだ。
 今もそう。
「そんな顔をするな。こうなる事は大体、分かっていた」
 僕がどんな顔をしているのかも見ずに、アービス団長は沈む船から脱出して来たランドール坊ちゃんの方に振り返って、行ってしまった。僕に背を向け、言葉だけを投げる。
「君はいい奴だったから、こっちにいてもらいたくなかったんだよ」
「そんなの、理由になってませんよ!」

 アービス団長と坊ちゃんが切り結ぶ、その様子に半歩踏み出した僕の横を火の球が薙ぎ払った。
 背後から襲いかかってきていた怪物をエース爺さんが吹き飛ばしてくれたのだ。
「ぼけっとしているな若いの、奴と話をしたくば邪魔者を一掃してからにせい」
 再び襲いかかってきた怪物を切り捨てて僕は、こんな事になるなら。

 会いたくないなどと言わず、最初から坊ちゃんについて行けば良かったと思った。

 でも、そんなの……無理だよね。数時間前までこんな事になるなんて夢にも思っていなかったもの。
 僕らが追いかけている大蜘蛛が四方騎士が絡んでくる事態を僕は、全く予測できなかった。関連性があるなんてこれっぽっちも考えられなかったんだから。

 おかしいな。
 無心に、かつては同胞だった――今は怪物になってしまった元北魔槍騎士を切り捨てながら僕は、被せられた罪の事を思っている。
 僕は――かつて、魔王関連者だと濡れ衣を着せられて国を追い出されたんだよ。その、からくりを考えていた。
 ぼうっとした、無防備な僕の感覚が雑多な音を拾う。
 坊ちゃんとアービス団長が話している会話が遠くにありながら、耳に入って来てしまった。
 曰く『あのバケ蜘蛛をどこにやった?』
 曰く『積み荷の中身は知らない事になっている』
 互いに噛み合っていない、会話の端に違う音を拾う。
 鋭く振りかえった先、すでに殆ど沈もうとする船の上にまだ誰かが居るのに気が付く。
 ……とりあえず僕らのパーティの誰かじゃない。なら、誰だ?
 敵を切り捨て、仮面のフェイズガードを刎ね上げて目を見開く。白衣の男がこちらを見て間違いなく、『余計な事を』と呟いたのが僕には……見えた。


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 すっかり沈んだ船の残骸が打ち寄せている。
 川岸に、黒い怪物が折り重なっているのを……僕はぼんやりと見ていた。

「ちょっとワイズ、傍観してないでさっさと応援に来なさいよ」
「そうじゃ、おかげで取り逃したと云う事にするぞ?」
「あ、それは勘弁してくださいッ」

 ようやく駆け付けたグランとテニーさんに、僕は……とりあえず修羅場は終わったんだと察して構えていた剣を地面に突き刺し、静かに頭を下げていた。

 さくさくと砂を踏み、隣にグランが立った気配を感じる。
「……話は出来たかい?」
「全く……意味が分かりません」
 率直な感想を述べて答えてみた。
 突然突きつけられた事実に対し、理由が……理解出来ない。
 血に濡れている鎧の肩に構わずグランは手を置いて小さく言った。
「ウチでやってくつもりなら理解なんて二の次だよ、僕だって今だに分からない事が沢山あるんだ。……でも、いずれ少しずつ分かるようになる。事実が見えてきて、整理できるようになるだろう。どうするマース?」
 何をどうするのかと聞かれているか、僕はそれは理解できた。
「……冗談じゃない。行きますよ、着いて行きます。当然です、本当の事が分かるまで……投げ出したりなんか出来ません」
「うん、その心意気だ」

 ざばんと、川岸から立ちあがったのは……そんな僕らの勇者ランドール。
「くそッ!逃げられた!」
「ああんラン様、びしょぬれだわ!火を起こさないとッ!」
 ぼうっととして居た所為かいまいち状況を把握してないんだけど……どうも、あの沈む寸前の船の舳先にいた白衣の男が、どうやら転移魔法を使ったというのは分かる。

 で、どうしてラン坊ちゃんが川から現れるんだ?

 見渡した。
 そういえば、アービス団長が見当たらない。エース爺さんも『取り逃がした』って言ってたっけ。

 そうか、逃げたんだ。白衣の男が開いた転移門にアービス団長も飛びこんだのかな。で、それを追いかけてランドール坊ちゃんも飛び込んだんだけど、入り損ねて……川の中へって所か。

 僕は坊ちゃんとは逆に川に向って、遠慮なくその中へ飛び込んでいた。
「おー?どうしたマース」
「ついに壊れたかの」
 僕、耳良いんだから、聞こえてるんだから。
「違いますッ、鎧の穢れを落とすだけです!」
 あと、少し頭を冷やそう。
 そう思っただけ。
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