異世界創造NOSYUYO トビラ

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10~11章後推奨 番外編 ジムは逃げてくれた

◆BACK-BONE STORY『ジムは逃げてくれた -7-』

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◆BACK-BONE STORY『ジムは逃げてくれた -7-』
 ※これは、10~11章頃に閲覧推奨の、アベル視点の番外編です※

 テーピングで傷をカバーした上になめし皮の服を仕込み、鎖帷子。
 右手に投槍、左腕に丸いガーターを着けただけのかなりの軽装でジムは闘技場に現れた。
 そして首には、相変わらずエメラルドグリーンに輝く首輪。さらに……後ろ首元を覆っているヘルメットのお蔭で見えないが……きっとそこには火傷を冷やすジェルを塗りたくってあるのだろう。

 ふっと、ジムが天を扇いだ。
 違う。

 まっすぐにあたしを睨みつけたのだ。
 それとばっちり目があっちゃってあたしは、思わず目を逸らしてしまう。
 ジムの視線の先があたしであるのにはどうやら、カーラスも気が付いたらしい。
 憎々しげな呟きがあたしの耳にはちゃんと届いた。
「あの野郎……色目なんぞ使いやがって」

 バカ、違うバカ。

 今更バカの勘違いセリフなんかに突っ込む気力も無いから放置するけど。
 そ、結局ダメだったのだ。
 鉄さえ焼き切るヒートエンチャットでも、あの首輪を外せなかった。
 あぁあ、火傷の一つや二つで負けたりはしないと思うけどなぁ。戦う相手は今週初戦だから大した奴じゃぁないけどちょっとだけ、心配になってしまった。
 ……怪我の一つにあたしも関与してるとなると流石にね、負けちゃって殺されちゃったら流石に、夢見が悪いかも。
 大歓声に包まれる闘技場の熱気に紛れ、あたしは右手拳を振り上げる。
「負けるなジムーッ!あんたが今日死んだら流石に夢見が悪いから、死ぬなーッ!」


 *** *** *** *** ***


「実際、どうなんですか?」
 羽ペンの先で自分の額をくすぐりながら、あたしは目の前の数字を……逃避気味に眺めながら言った。
 ベンジャーさんはやや唸るような声を上げる。
「私も気になります、この時期に隣とのトーナメントなどやはり、おかしいですよ。何か意味があるんですよね?」
 カーラスの言葉にあたしは顔を上げた。ベンジャーさんは書類を纏めながら暫く悩んでいたようだけど……それを机の端に置いてから手を組む。
「……まぁこれから私の仕事を引き継ぐ事になる君達にはいずれ、説明しなければいけない事なのだろう。……実は国の方からの要請があってね……トーナメントの規模縮小を持ちかけられているんだ」
「規模縮小?つまり、大大会の規模縮小って事ですか?」
「そう、最近選手が飽和状態でね、開催期間が長すぎるとかで……息が続かないという話がエズの全体会議でも上がっているんだよ。しかし……参加条件を設けるには今回少し、期間が足りない。来年からは全大会へ参加する条件がかなり厳しくなるかもしれないね」
 黒髪に銀髪の混じっているベンジャーさんは、その不思議な色合いの前髪を引っ張りながら苦笑する。
「それで、大手と大手で参加人数を潰しあい?パパ……ぅん。……長もよくそんな条件呑んだわよね?隣もそうだけど」
 仕事をする以上パパの事はちゃんと『長』と呼ばなきゃダメだ。でも、いまだに油断すると間違うあたしです。
「最近外での私闘いでの負傷者が多いですね、剣闘士達も用心している様で、出歩くのを控えている者も少なくない様で商売上がったりだと言う飲み屋のグチも聞いた事があります。……好からぬ噂をお聞きするのですが」
 カーラスが仕事をする時だけ掛けている眼鏡の、ズレを直すように調整しながら真面目な顔をする。
 まぁ、あたしと違ってコイツは頭良いから……仕事自体は良く出来る方だと思う。これであたしにちょっかいさえ出さなければ何という事もない奴なのだけど。
「アベルさんはどうだい、」
「え、あたし?……うーん……最近あんまり外には遊びに行ってないからなぁ」
 カーラスから嫌って程誘われるのを意地で断っていたので……結局自分の部屋に閉じこもりきりだったりな日々が多い。
 ほら、割りと忘れそうになる位無自覚なんだけど……あたしって重度の方向音痴でしょ?
 何故って、あたしはそれ割と無自覚だからなんだけど……闘技場外で道がわからなくなって困った事が多かったので、自然と一人で外を出歩く事などしない事にしている。
 それも鬱憤が溜まる理由の一つだ。
 ああ、コイツさえ居なければ良いのに。あたしは軽くカーラスを一瞥。
「それに比べてあのGMは、バカだな。この前あんなに手ひどくやられた癖に……昨日も外をほっつき歩いてるのを見たぞ」
「……へぇ、そう」
 何が言いたいんだか。あたしはカーラスの言葉を軽く流した。
 ベンジャーさんはなぜかため息を洩らして、組んでいた手を解いて席を立ち上がる。
「冷戦状態が解凍されつつある、のだと思う。実は……エズの闘技場産業も全体的にやや飽和だと噂されていてね。矛先が密かに、我々に向いている流れであるんだ」
「……え?」
 カーラスを伺うと、ちょっと厳しい顔で黙っている所……そういう世論があることはすでに知っている様である。
「なにそれ、どういう事?」
 カーラスは流し目をあたしに送る。青みがかった黒い目に憂いが見て取れた。
「トップクラスは二つも要らない、という奴だろうね。エトオノか、隣のクルエセルか。どちらが上であるのか今だはっきりしていません。……選手を温存している訳ではないけれど……はっきりとした闘争姿勢をとらずにお互い静観していた」
「……ジムが襲われたのって……闘技場戦争の始まり?」
「このタイミングでトーナメントを組む事になってしまった流れが火蓋を切る行為だったのでしょうね。……GM君はその最初のとばっちりを食ったのでしょう。広告性を狙って初戦に彼を持ってきたというのもあるのですが実は……GM君ならアクシデントにも強いだろうなという狙いも、あったりします」
 ベンジャーさんはちょっと済まなさそうに頭を下げた。
 何でかしらないけどあたしの顔色を伺うのよね?あたしは別にアイツに限らず剣闘士の皆とは仲良くやってるわよ?
「確かにねー、アイツ怪我した後もヘラヘラ笑ってたし」
 しかし……どっちかって言うとあたしは、ジムにだけは容赦ない扱いをする事が多い……かもしれない。
「……何時お会いしたんです?」
「え?」
 カーラスの突っ込みにあたしは、内心ちょっと失敗した一言だったかもしれないと慌てて考える。
 ジムが闇討ちされたのは祭日の夜だから……うん大丈夫、休日月曜日に会った事にすればいいんだもん。  月曜日の夜中に会ってる事がバレる程の事じゃなかった。
「ちょっとね、たまたま顔あわせたら傷だらけだったから」
「……それで、初戦を珍しく観戦されたという事ですか」
「何よ、血生臭い闘争に巻き込まれちゃったわけでしょ?ちょっとくらい心配したっていいじゃない」
 この幼稚な態度がウザいというのにコイツは、なんでそれが分からないのかしらね?
「同情ですか、結構ですが。幾ら稼ぎが良いからといってああいう常勝の戦士を抱える事が全体のバランスを崩すのです」
「まぁ確かに……経営側から言えば正論ではあるね。だからそれなりに無茶なトーナメントも任せる訳だけど」
 ベンジャーさんは苦笑して、不機嫌な顔をしていたらしい、あたしを宥める様に笑いかける。
「彼は初戦も問題なく勝ち進みました、しかし怪我が心配です」
 魔法などで治癒力を早める事も出来るが、それにも限度がある。
「予定通りで問題ないでしょう。アイツにはそれくらいが丁度いい」
「確かに、その方がオッズの方も……」

 トーナメントの再考を始めた二人を、あたしはそれをぼんやり聞きながら窓の外を眺めた。

 大大会での優秀者を出す事は、闘技場的には実は諸刃の剣であったりする。
 優秀な戦士が、自由を手にして独立して流出してしまうのだ。闘技場は剣闘士を戦わせ、賭博を行いそれで利益を得ている。掛け金の倍率が偏らないようなトーナメントを組む事が重要だ。
 隷属剣闘士は元は奴隷だ。しかし実力があれば自由を手に入れる事が出来る。支配から抜け出し独立する事もかなわない事ではない。
 でも、強すぎる戦士はそう多くは要らないし、弱すぎるのも困る。
 一つのコマとして、勝率の高い戦士を切り札的に抱えている事は重要なのね。
 ジムは間違いなくエトオノにとって、そういう切り札の一枚になりつつある。でも……他の本当の切り札として温存されている熟練戦士に比べて彼は若すぎるのだ。

 これといった弱点を持たない人間種の、剣闘士としての寿命は三十代までと言われている。もちろん例外はあるけれど基本、三十路に近づくまでに剣闘士は引退するわね。
 なぜかって?子供を持っちゃうからよ。家庭が出来ちゃうのね。
 死と隣り合わせである剣闘士で稼ぐのを止める。完全独立するか、闘技場の保守仕事に就職する事が多い。闘技場運営にも多くのスタッフが必要だ。
 優秀な剣闘士は、指導員として新しい隷属剣闘士を育てる仕事に就く場合もある。
 実際、三十代まで熟練剣闘士として闘い、無事に命を繋ぎとめるような戦士はとても貴重だ。
 また、こういう実践的な能力を買われれ西国などで警備員として働く者も多い。

 熟練戦士であればあるほど、こういう第二の人生についての展望が開けているものだけど……残念ながらジムはあと10年は固く、闘技場で戦うだろう。死ななければ、の話だけど。

 あの闘いバカはもしかしたら一生家庭なんぞ持たず、死ぬ事こそ生きる事とみつけたり~などと戦って人生の幕を閉じる可能性が高い。

 子供の頃、彼が迷い無く言った言葉をあたしは、覚えている。
 戦う為にここにいる、その意味とは何だろう。
 戦う為に生きる?普通は逆よね。
 ここに売られてきた奴隷の子供達は、生き残る為に戦う。束縛された人生から、自由を手に入れる為に戦う。
 それなのにジムは違う。その違いが、アイツを『変』と認識させている。


「怪我を抱えさせたまま……戦わせますか」
 ため息を洩らしてベンジャーさんが呟いた。
「拒否はしないでしょうね、まぁ、出来ないのでしょうけれど」
「無理難題に対し士気が落ちない、という点がGM君のすごい所ですからね」
 なぜそこまでしてこのトーナメントでジムが戦う必要性があるのか?そうね、これも説明しておきましょう。

 まぁ大体分かるとは思うけど……隣、といわれるクルエセル闘技場とエトオノは国営一位を争っている間柄なのね。つまり、ライバルなの。
 表上は穏便に付き合っているけど……正直内面はものすごい闘争心で煮えくり返っているはずよ、お互いにね。
 まさしく冷戦、という言葉の通り。
 隣とトーナメントしたら、負けた方はまず死を覚悟しないといけないでしょう。
 でもね、実は例外が一匹いる。
 それがジムだったりするのだ。

 彼は……敵が多いけど実は味方も多い。
 不思議な事に身内の上位に敵が多く、敵の強い選手や後輩達に圧倒的に人気がある。ああ……まぁ、あの性格だから何も不思議な事じゃぁないのかもしれない。
 この大大会前の不条理な闘いに、ジムはうってつけであったりするのだ。

 まず……大大会にジムは真面目に参加しない。
 なぜかって?戦いたいのはあるのだろうけど好成績を収めるつもりがないみたいなのね。大大会で実績を上げる事、すなわち……敵が居なくなるという事に由来するみたい。彼はあくまで、今も『戦い続ける事』を目的にしている所があって、大大会で好成績を収めて独立しようという意思がない。むしろ、そうなっては困るという雰囲気を隠さない。
 たまに参加しない年もある。
 彼に剣術を指南している監督バックスの入れ知恵に違いない。バックス老も闘い大好きで若い頃はずいぶん物騒な通り名まで持っていたと言うし。戦い続けたいジムに、戦い続けるにはどうするればいいのかを教え込んだのはバックスに違いないだろう。
 引退を大大会で飾ろうとしている戦士達を、こんな前哨戦で消費させるのは戦士達に花を贈りたいエトオノとしては避けたいはずだと思う。
 とにかく……こんな変なトーナメントなんぞ出たくないというのが大半の剣闘士達の本音であるはずだ。
 かといってヘタに実績のない戦士を出せば相手から潰されてしまう。
 だから、逆に大大会に興味を示さない切り札の一枚、ジムはうってつけという訳。

 ……もちろん、それらの条件は相手も同じはずだ。
 お互いに出し合う選手の名簿を開示しなければいけないのだが……隣も負けるつもりは無いらしい。中々ギリギリなラインで絞り込んできている。

 要注意なのは……あ、テリーはクルエセルの登録戦士なのね。
 そう、あの拳闘士のテリー・T。
 未来一緒に旅する事となる戦闘バカ二号。
 これも若くして相当な実力を要するという……クルエセル側の切り札の一人。彼がしっかり出てきているのに、生半可な戦士を出したら全部叩き潰されてしまうだろう。

「大体、これは我々やクルエセルが仕組んでやっている事ではありませんからね。誰が黒幕かははっきりしませんが……GM君を襲った連中の洗い出しも今至急、やっています」
「それはそうよね、だってエトオノにも隣にも不利なトーナメントだもん」
 誰かがこの二大闘技場の冷戦を煽っている。
 今まで無かった事ではない、大大会前だとこういうあくどい事をやり出す連中というのは一つ二つ、出るものだ。
「連中にとってGMの奴が出るのは不都合なのだろう。ならば、何が何でも出てもらわなければね」
「……何で?」
 カーラスが笑みを隠す事なく言った言葉の意味が汲めなかったあたしは首を傾げる。
「GMは相手を殺さない可能性が高い」
「ああ」
 そうよね、ジムはクルエセルの選手と仲がいい。それが輪を掛けてウチの上位選手の反感を買っているんだけど。
 手を打ち合わせ、カーラスは笑った。
「潰しあいをさせたい連中は、GMの選手登録抹消を狙っだのだろうな」
 中途半端にやりやがって、うはははは、好都合だ!というのがまさしくカーラスの顔に書いてある。
 全く、こいつは何でそんなにジムの事を敵視するんだか。
「せいぜい悪い奴とぶつかって死ねばいい」
 という、カーラスがついた悪態の幻聴をあたしは聞いた気がした。
「何か言った?」
「あ、いえ?」
 慌てて首を振ったカーラスの様子からして……どうやら幻聴じゃなくて小さく、聞こえない程度で本当に呟いたのだろう。
 カーラスは知らない事だけど、あたしは貴族種並に耳がいいのよね。
 耳の後ろを掻いてどうするか悩んでから……やっぱり、ガマンするのは良くないし。

 所属剣闘士に死ねばいいとは何事だッ!と、絞め技をキメておいた。


 *** *** *** *** ***


 耳がいいので、割と歓声に飲み込まれて聞こえるはずの無い会話が聞けてしまったりもする。
 戦士達が密かに交わす会話もその一つ。
 器用にも戦いながら会話するのよね。あたしは片肘をついて闘技を観戦しながらそのやり取りを聞いていたので……ちょっとご説明しよう。

 今やってるのはクルエセル、エトオノ、双方にとって一番問題のトーナメント。

 GM、バーサス、テリーの試合。
 双方できればどっちの選手も失いたくないが、ヘタをすればどっちかが死ぬという状況なのであるが……割と、あの二人がすでにどーいう仲であるのか世間は知らないらしい。


「お前、本調子じゃないだろ?」
「あ、やっぱそれってバレるもんかー」
 武器防具破壊という一種特殊な技を使う拳闘士テリーの拳を、硬い鈍器で受け止めたジムは軽く笑った。その瞬間に交わされている言葉をあたしはしっかり聞いていたりする。
 一瞬で距離を取り、鈍器の破壊が一筋縄ではいかないと察したテリーは素早く地面を蹴り、相手の死角に入ろうとする……が、ジムも棍棒を片手にぶら下げて隙無く構えている。
 長い前髪の解れを掻き揚げる仕草をしながらテリー、
「闇討ちで怪我したってのはマジだったんだな」
 棍棒を持つ右手肩をほぐすように左腕で口元を隠しながらジム、
「気にすんなよ、俺ぁそれでも負けるつもりねぇし」
「言ってくれる」
 テリーは好戦的に笑って鉄のナックルを握りこみ両手を構えた。
「そんなデカブツで俺を、捉えられると思うなッ!」
 一方的な拳のラッシュをジムは棍棒を構えて防ぐが……すさまじい音と衝撃の連打はついにジムを吹き飛ばしてしまった。
「うわ、ひでぇ、曲がった」
 ふっとばされつつ、鉄の塊である棍棒がひん曲がった事に対してジムはあくまで楽観的だ。
「おら、立て」
 挑発している事を示すようにテリーは指でジェスチャー。その行動に観客達が沸き上がる。その歓声がテリーの言葉を完全にかき消してしまったけれど……まぁ、大体続きの想像はつくわよね。

 多分、チキンに入ってるんじゃねぇよ、とか何とか挑発的な事を言ったと思われる。

 立ち上がりつつジムが言った言葉がかろうじて聞こえた。
「守り重視だってちゃんとした戦法だぜ?文句あるなら崩して見やがれってんだ」
「言われなくてもッ!」
 再び激しいラッシュ、それを守り一辺倒のジム。
 武器破壊するテリーの強烈な一撃の連打には、アレくらい頑丈なものでないと攻撃を防ぐ事など出来ないのだろう。相手がテリーと知ってジムはあえて鈍器、鉄の棒を武器に選んだようだ。
 だがその手数の通り、素早さも並半端なものではないテリーに、鈍い殴りによる攻撃が当たる可能性は恐ろしく低い。攻撃と防御を緻密に組み立てて相手の避ける範囲を絞り込まない限り難しいだろう。
 ついには金属疲労多過となり……棍棒がみるまに歪む。そして、折れた!
 武器破壊が終わればテリーの本格的なターンとなる。
 だがその一瞬の隙、ジムはそれを狙っていたのかもしれない。

 あたしははっきり見ていた、テリーが勝利を半分確信して笑った先で、ジムが同じような笑みを浮かべていたのを。

 低いどよめきと歓声が会場にうねる。
 棍棒が真っ二つに折れた次の瞬間、テリーがジムから見て左側に吹き飛んだからである。
 観客の殆どがその瞬間、何が起こったのか理解できなかったのだろう。
 あたしでさえ局所的に見ていて危うく見逃す所だった。

「の、野郎……ッ」
 悪態をつきつつ立ち上がる、それでもテリーは笑っているわね。……戦いバカ同士なのね、つまり結局。それで妙に気が合うのだろうと思う。
 ジムは振り上げていた足をゆっくり下ろした。
「ひでぇよ兄さん、普通今ので立つか?」
 折れた棍棒を両手で掴んで構えつつジムが苦笑。
 そう、棍棒を構えつつジムは左足を前に出し、回し蹴りを撃ち出す体制を整えていたのだ。そして相手が油断した一瞬を見逃さず渾身の右ハイキックでテリーの頭を蹴り飛ばした……という訳なのである。
 こっそりブーツの先には鋼のプレートが仕込まれていたのは……こういう事だったのか。
 しかし相手はあのテリーだからさぁ、蹴りの一撃くらいで沈みはしないわけよ。
 左のこめかみあたりから血が流れるのを拭いながらテリーは、再び構えている。歓声がいっそう盛り上がった。
「……っとと、」
 大半のダメージを獣並の反射神経で減らしたはずなのだろうが……血が流れている所ヒットはしたのだろう。三半器官をばっちり揺らされた所為か上手くまっすぐ立てないみたい。
「大丈夫か?」
「へッ、これでアイコだ。存分に戦えるってもんだぜ」
 好戦的に聞いたジムにテリーの応答。

 ああバカっぽ。
 戦いバカの世界はよくわかんないわホント。あたしは肩をすくめた。

「……どうしましたか?」
 そんなあたしの様子を不思議に思ったのかカーラスが振り返る。連中が交わしている言葉を聴けている人などそれ程いないだろう。
 二人がすでに外では飲み仲間、ジムにいたっては相手を兄さん呼ばわりしてそれなりにお互い実力を認め合っている事は……。

 エトオノ上層部だと、誰も知らないのね、結局。

「別に、あれだとジムの負け確定よね、って話」
 別にカーラスを喜ばせるつもりはないのだが……カーラスは嬉しそうに闘技場を見下ろした。
「そうですか?まだ分かりませんよ?」
 などといいつつ目が妙にギラギラしてるわよアンタ。

 ま、問題ない。
 ジムが負けてもテリーが負けても、この戦いはちゃんとお互い握手で終わるから。
 問題無いでしょ。
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