異世界創造NOSYUYO トビラ

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10~11章後推奨 番外編 縁を持たない緑国の鬼

◆BACK-BONE STORY『縁を持たない緑国の鬼 -2-』

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◆BACK-BONE STORY『縁を持たない緑国の鬼 -2-』
※ これは、実は隠し事がいっぱいあるナッツ視点の番外編です ※


 魔法という手段は、悪魔が自分たちが戻ってくる為のトビラを開かせる為に残されている、と―――伝わっている。

 この世界ではない所に、閉じ込められる事になった悪魔達は、いずれ『この世界』に戻ってくるためにトビラを残した。
 人の心の中に、魔法という魅力的な力として。
 かくして、人は悪魔の思惑通りに、時にその魅力的な力に取りつかれてトビラを開く。

 『この世界』から追い出され、復讐心を心に抱く悪魔を呼び出してしまう。
 なぜなら悪魔はトビラの向こうから、どんな望みもかなえると囁いているから。


 *** *** *** *** ***


 悪魔召喚についてのこの、お決まりのフレーズ。
 すでにどこかしらで何度も繰り返している事なんだよね、いや、どこだとはあえて言わないけど。

「信仰の無い僕はいずれ、この扉を開けると。そう危惧されてるって事か」
 他人事の様に僕は、天井を仰ぎながら笑う。
 はは、悪魔召喚か。
 そうすれば今の、この僕の立場は確かに変わるだろうねぇ。でも、
「分かっていないなぁ」
「全くです、連中は貴方の事を全く理解してない」
 にやにや笑いながら、緑色の髪の飛びぬけて背の高い男が腕を組む。巨人族……と言われているけど、そういう魔種はあまり認識されていない。だから巨人族っていうのは彼の自称でしかない。事実、魔物差別は少なからずあるファマメント国首都に屋敷を構えて住む事が出来る彼は、ここでは魔物だと認識されてはいなかったりする。

 要するに、こいつだ。
 この男が『テラール』に連なる一つの手がかり。

 とりあえず手っ取り早く結論から入ろうかな。
 彼は、グランソール・ワイズ。
 封印師という肩書きを持つこの天使教幹部は、件の『テラール』と呼ばれていた町に住んでいた人たちの末裔である。その『テラール』の住民を魔物として呼ぶ場合の呼称が『巨人族』だったらしい。
 テラールという町は北西にあったとされ、そこに住んでいた人たちは人種的には北方人(ノーザー)と呼ばれる事が多いものの……実際には北西人(ノーウェイザー)。この北西人っていう言葉自体が今は消滅していると言っていい。
 今現在は殆ど種が西方人と混じってしまって、いなくなってしまった『北西人』。
 北西にあった町テラールは文化的に他との交流を取らず、北西人という特色が割と色濃く最近まで残っていたらしい。……というのは、グランソール・ワイズの話によるのだけれども。
 一見東方人のように見えて背が高く、東方人より色素が薄めというのが北西人の特徴なんだってさ。

 西の人間は俗に白人的な特徴をを持っていて、北方に行くだけこれが少し色素が濃くなって背丈がものすごく高くなる。逆に南の人間は同じく色素は濃くなりつつ背が低くなるっていう、骨格特徴があったそうだ。

 もちろん、今はそういう地域特徴は全くと言っていい程感じられなくなった。

 魔種と混血しきった世の中だ、すっかり平均化している。
 しかし他との混血をせず閉鎖された地域で血脈が循環していた場合、特徴的な部分が色濃く残されたりする。

 テラールというのはその典型的な地域だろう。そしてその特徴が、時に魔種のように特殊な名称を頂いたりする。ワイズ家は血筋を辿れば紛れも無いノーウェイザーで『巨人族』なのだそうだ。まぁ……血族みんな異様な程背が高いとなれば、何か特殊な血じゃぁないかとは思うよね。
 北西人という言葉は受けの良い言葉じゃなかったりするんだ。一般的じゃないし、北西という地方は未だに色々問題を抱えている所も多いし過去に良くない出来事も沢山起きている所だ。巨人族って言葉よりも、西方人にとって北西という方角は物騒に感じるみたいだね。

 ちなみに、この北西っていうのは実際の方角じゃなくて『西大陸の北側』っていう意味でね、実際の方角を差すとすると北西地区っていうのは見事に丑寅、北東だったりするよ。

 話をグランソール・ワイズ本人の事に戻そうか。
 それにしたって緑色の髪はどうなのだろう?やっぱり魔種なんじゃないのかと思うだろう?
 ところがそうじゃない、この男はあえて緑色に自分の髪を染めているんだ。
 そ、天然じゃない。
 なぜ緑色なのか、それにもいろいろ理由があるらしいけどいつも笑いながら誤魔化される。話したくないのなら僕は聞かない主義だ、追及はあまりしたことが無い。
 ともかくワイズは最初っから緑色の髪をしているんじゃないんだ、本当は北西人の特徴の通り赤毛と呼ばれる茶髪だそうだ。

 そして、いつも長い髪の中に隠されている、彼の瞳。
 人の目を見ると、大体何を考えているか分かるとも言うね?それは本当にありだと思う。
 でもこの男はその目を、常に隠す事にしている。
 嫌がらせに覗きこんだりするんだけど、そうすると必死になって逃げるんだね。
 その理由はよくは分からない。
 僕はそれが相手の弱みだと知って、とりあえず今は答えは得ずにおいている。


「で、本当にやるのか?」
「やっていいんでしょうかねぇ?」
「僕には拒否権が無いよ、」
 困った気持ちを込めて僕は肩をすくめる。ワイズは口だけ引き上げて多分、苦笑らしい顔をした。
「これで何個目ですか、せっかくの手段なのに……大人しく引き渡すのは、ひたすら自分の首を絞めているのと同じじゃぁないのかい?」
「それに応じる事でしか僕は、従順である事を連中に示せないからね」
 背中に背負う羽を風が揺らす。

 ここでは常に風が吹く。

 高い山の上に立つ城の一角、僕の部屋として宛がわれている塔の最上階には鉄格子が嵌っている。いや、単なる安全柵かもしれない。
 城のデザインによるそれは人を閉じ込めるには機能せず、幅が広いから潜り抜けられなくもない。
 でも……困った事に僕は有翼人。背中の羽根が引っ掛かるんだ。
 それに……ここは尖塔の一番上。空を飛ばなきゃ逃げられない。
 逃げる為の羽根が僕には備わっている、だけど。

 僕は長らくこの鳥籠に捉われている……のかもしれない。

 そう云う認識が長らく無かったので、僕にはそうだと言い切る事ができなかったりする。
 確かに、勝手にここから飛び立つ事は許されていない。外出したい時は出かけると触れて、仰々しく出かけなきゃいけない。


 これは、僕がハクガイコウと呼ばれていた時のリコレクトでもあるんだ。


 ちなみに、今現在はハクガイコウの代理と云う事になっている。そう、位が落ちたから自由に世界をフラフラしているんだよ。
 マツナギを用心棒に雇って、ヤト達の旅に同行している通り。


 この頃のワイズは何代目かのハクガイコウ担当官だ。要するに僕の直属の部下と言う事で、同時に僕の第一監視者って事になる。
 どっちが偉いかと言えば僕だけど、どっちが強いかと言ったらワイズだろう。
 僕は偉いけど、ワイズを含めた天使教幹部の命令に逆らえないんだ。
 そういうお飾り職が『白磑晧』。

 僕は、そのハクガイコウになる為にここに連れて来られてそのように教育された背景がある。


 こんな事を言うとヤトのようだけど、僕にはそれが辛い過去と言って良いのかが分からない。
 リアルのカトウーナツメから言わせると酷い経歴だと思うんだけど……実際そのように育てられてみると、不思議と自分の状況がどう酷いのかどうかがよく分からなくなるんだね。
 というのも、僕はここで天使教のハクガイコウになるようにと子供の頃から教育されたわけだけど、子供だからこそ現実が分かっていなかったんだ。無邪気だったんだねー。現実が分かったからってグレるような真似は出来ないほど、僕は割と純粋で天然だったんだ。
 自分で自分の性格を裏切れない性格なんだよ、気がついたら無邪気な振りをするようになっていたよ。

 僕は広い箱庭の中で育ち、その中で比較的自由に好きな事を出来た。
 衣食住に困らずむしろ、ぜいたくな生活に慣れてしまってそれが当たり前であるように育ってしまった。その境遇事態がかわいそうだって?それはどう言う意味でだろう?
 少なくとも僕は自分が哀れだとは思わない。
 何も知らずにいる哀れさはあるかもしれないけれど……僕は知っての通り『今は』無知ではない。
 外を自由に飛びまわる事はできないけれど、外の出来事を自由に知る事が出来る。

 やがて成人し、世界の仕組みというものをすっかり理解しても……
 僕は、自分が置かれている境遇が酷い物だとは思えなかった。他の人より圧倒的に恵まれている事を知っていた。それでいてその立場を壊す意味が分からなかった。
 僕は僕を取り囲む世界が安定してさえいれば良いのだからね、全然辛い事じゃぁない。

 東の故郷にいたらこうはいかなかっただろう。
 生活するために働いて、自分を取り囲む世界の安定に向けてあくせくしなきゃいけない。
 そう、僕がリアルでそうしているようにね。

 面倒な事を一切しなくても、安定した世界を約束されているんだ。
 どうして僕がこの鳥籠の外に出たがっていると思う?
 所が、僕らをここに閉じ込めていると自覚のある人たちはそうじゃない、僕が外に出たがっていると信じている。
 外に出したくない癖に、外に出て行ってしまうんではないかという怖れにがんじがらめ。

 小賢しく育ってしまった僕がどんなに、そんな事はしませんよと笑っても信じてくれない。

 思うに、そうやって過去のハクガイコウが逃げ出した事実がいくつかあるのだろう。こういう制度を何時から始めているのかについても僕は、ちゃんと知っているけれど、何人がこの職についたのかははっきりしていない。
 従順に育てるんだけど、ある一定の年齢になるとそれが難しくなる事を……天使教は経験として知っているのかもね。

 でも、多分僕は例外だと自分で思っていた。僕は現在も未来も、ここから自分の意志で出て行く事はないだろうと思っていた。
 出て行けと言われる事が怖い訳でもない、いずれ出て行けと言われる事も僕は知っているから……その時を待っていればいいのだと、実にのんびり構えていたのさ。


「君に信仰が無い事を連中は知っているからねぇ」
 ワイズは笑う。
 確かに、僕の心の中に天使教の神は根付かなかった。多分、残念ながら、かな。でもそれはしかたがないだろう?僕の周りの天使教幹部のほとんどが、その心の中に翼ある神など見出していないのだから。
 今目の前にしているワイズだってそうだ。
 ただ、彼が他の人達よりましな事には、心の中に神が居ない事を隠して必死になって誤魔化したりはしない。
 そういうぶっちゃけた性格が気に入って、長続きしないと言われたハクガイコウ担当官はこの所、ワイズで安定している。

 思うに、ワイズは幹部の中では弾き者になるんだろう。

 この男は僕と同じく巧妙で、相手を欺く事に長けている。だが同じように人を欺いてばかりの幹部の中に置いて、ワイズが嘘をつく事に特化している事に気づく人も多いだろう。
 いつも笑いながら心地の良い事ばかり言うワイズの心の中が、どれだけ黒いかという幻想に取りつかれた幹部も多いはずだ。そもそも天使教の幹部クラスなんて、疑り深い位じゃないとやってけない、魑魅魍魎跋扈の世界だからね。
 封印師、自分の心を封印する術にも長けている。それが上手すぎて逆に人は、それがおかしいと感じる事になるのか。
 誰も、そういう事を彼に言えないようなので、僕はワイズにそう言ってやったよ。
 もちろん、ワイズは自分が他人にどう思われているか、十二分に分かっていたようでニッコリ笑って僕に言い返してきたよ。


 お互い様です、だってさ。


 それ以来、僕らは馬が合ってしまったというわけだ。

「ワイズ、君は魔法も使うわけだろう?封じる事に特化しているとはいえ……」
「ええ、まぁ……封印だってぶっちゃければ『魔法』ですし。そう云う事に特化している血ですからねぇ」
 テラールの名前は持っていないが、テラール出身の人間は魔法素質が高いのだそうだ。
 もちろん、テラール出身の人間なんて自覚している人間の方が稀だ。自分の家位なもんじゃないのとワイズは笑いながら言っていた。
「僕も多分、種族的に魔法を取り扱う事に特化している」
 有翼種ってのは東方に住んでいるもので、れっきとした魔種なワケだし。
「だから、……確かに扉の開き方を知っている訳だけど」
 格子の間から空を見上げて僕はぼやいた。
「……悪魔召喚の扉を開く、なんて本当、簡単なものだ。制約がついてないからある程度魔法を扱える人なら、理論さえ構築できれば悪魔召喚なんて簡単に出来てしまう」
 だから、悪魔召喚をしてはならないという倫理感が欠如していて事故のように開いてしまう事もあるのだ、と聞いている。何故かは分からないが、悪魔召喚の『扉』を前にすると、開けてはならないものだという直感的な抵抗があるんだって。でもそれは、ある程度社会性が育っていないと感じられないものだ、とかいう統計調査が魔導師によってまとめられていてね、それで魔法素質が高い子供が突発的に悪魔召喚してしまう例が少なからずあるらしい。
 今回、僕が悪魔召喚をするのではないか、という天使教の『懸念』が掛けられた所為でね、僕は、悪魔召喚?へぇ、何それ?って感じになったわけだよ。で、詳しい事を知る為に、悪魔について記された魔導師の書籍をいくつか取り寄せて読んでみるハメになったってワケ。

 こういうの、藪をつついて蛇を出す、って云うんだよね。

「本当、その扉の魔法は簡単らしいですねぇ」
「らしいって、君は組み立てた事無いの?」
「物騒ですよ、天使教でも悪魔関係は禁忌でしょうに。大体悪魔なんぞ召喚して願いを叶えた所で、見返りが支払えずに破滅するというのがお約束とも言うでしょ?一応禁忌魔法だから妨害論理が敷いてあって、それが働いて扉を開けられない場合もあると聞きます。一度でも行使したら魔導師なら協会から村八分で更に指名手配が掛って国家からも睨まれる。そんな事やってもいい事なんか何一つないでしょうに」
「だよねぇ?なのにどうして僕がそんな事をするって思うんだろう?」
「全く、不思議ですねぇ」
 惚けるなよ、分かっているくせに。僕はため息を漏らした。
「まぁいいや、開く予定も無いんだし。そんな術は封印してしまえばいい。……大体さ、封印するために僕はその悪魔召喚を一度行わないといけないじゃないか。やってもらいたくないのにやらせてどうするんだろう?」
「はっはっは、全くです。アホですね、アホばっかりです」
「アホらしいと思うなら止めてくれよ、」

 封印師という肩書のワイズは、物事を封じる魔法に特化した魔術師だ。
 すでにいくつもの、僕の魔法を封じている。
 これは本編でも一つあったね、とびきり強力な壁魔法をワイズが封印していたんだけど、彼がそれをヤトに渡してしまってひと悶着あった通り。

 僕は先天的に魔法素質が高い魔術師に該当する。カトウーナツメとしてキャラクターを作成した時に、徹底して補佐的な魔法を取得させた通り、攻撃的な魔法は先天性だから使えるんだけど使わないキャラクターだ。そういう設定を反映すべく、ワイズは……僕の攻撃的な魔法手段を殆ど封じているんだよ。
 いくつかスペシャルとしてものすごい強力な魔法を使える設定になっているんだけど、設定はしたんだけどキャラクターのパラメーター上、気安く行使する事が出来ないんだねー。
 特別な場面に突入し、能力値がクリティカル判定になった時だけ使える。これを普段もどうにか使えるようにするには、経験値を消費して能力値を上げるしかない。最初に貰った莫大な経験値でも不足を起こしてしまった訳だ。ほんの少しの不足分だから、何かマイナスのパラメーターを取って強引に取得してもよかったんだけど……
 メージンと相談し、僕は今後の冒険で経験値を得て、それで正式に能力値を上方修正、冒険の中盤以降からこれらの魔法を使えるようにする事にした。

 要するに、潜在的に魔法技術だけ取得設定にしておいて、実際行使できないという設定を組んだわけだ。

 例の壁魔法は、別に攻撃的な魔法じゃないのになんで封印されていて使えなかったか、というと……そういう事だ。二回目のログインで、ワイズから解放された壁魔法を僕が行使できる様になったのはつまり、二回目ログイン前に経験値を積み上げて行使可能にしたからだ。
 
 僕が何気なく行った設定が……こういう背景を作っている。

 うまい具合につじつまを合わせてきたなぁと思うんだけど。そのつじつまを合わせているのは一体誰なのだろう?
 僕には自覚が無いけれど、やっぱり僕なのだろうか?

 カトウーナツメの感覚でそんな風に不思議に思ってみたりもするね。


 ともかく、ワイズは幹部達が『僕が行使する危険性のある危険な魔法』として認定したモノをを片っ端から封印するはめになっている。
 リコレクトしたら、僕はこれの所為で攻撃的な魔法の殆どを封じられているという『設定』を背負っていた事が分かった。だから防御・回復一辺倒しか使わないって『設定』になっている、という風にね。
 で、このたびは悪魔召喚魔法を封じろ、という話になったらしい。
 悪魔と手を結んでまで、僕はこの塔から逃げ出すと思ってる人がいるらしい。

「なんとかしてくれよ、僕は再三君たちに迷惑はかけないって言っているだろう?」
「うちの家宝を見せろとか言い出したのは、はっきり言って、迷惑だったんですけどね?」
 僕は、そう云われてしまうと辛い。顔をしかめてみせる。
 それで、ワイズが迷惑するだろう事は知っていた。知っていたけれどそれでも、知りたかったんだ。
 おかげで僕にはキツイ行動制限が課せられたね、自分で掘った穴とはいえ少々深く掘りすぎたよ。
 でも言われっぱなしは癪なので棘を相手に突き出しておく。
「何言ってるんだ、その家宝に迷惑しているのは君だろ?」
「はっは、まぁ迷惑はしてますがね」
 ワイズは苦笑して斜に構え、頭を掻いた。
「ぶっちゃけ、どうにかしようと思っているんだがどうだろうねぇ」
 ふっと低い声で尋ねられて僕は振り返った。
「どうにかって?」
「知ってるだろう、ようやくうちのジジイがご臨終して……晴れて僕がワイズ家当主。でも正直こんな事をやるのは性に会わないし、出来れば縁を切ってしまいたいと思っている。所が、あれがある以上簡単には行かない」
「へぇ、幹部を辞めたいんだ」
「がっかりですか?」
「別に、君とは話が合うから色々とやり易かったんだけどね。でも君の自由を僕は、取り上げるわけにはいかないだろう?」
「おかしな話ですなぁ、貴方は常に自由を奪われ続けているのに。本当にそれが本心かい?」
 僕は笑う。心から、当たり前だと相手に笑って答えた。
「僕はハクガイコウ、多くの人がこの偶像の前に垂れ幕を掲げ、現してはいけない神の影を見て、翼ある神の存在を信じているのだろう?」
 おかしな事に天使教は偶像崇拝を禁じているんだね。
 実は、神を描いたものは一切ないんだ。神の御使いとして翼のある聖女を唯一形にしても良い事になっている。要するにハクガイコウとはその翼ある神の使いである聖女を模した職なんだけど……言っとくけど僕は男だ。

 はっきりと聖女の形を現す訳では無いから、性別とか、そんなのはどうだっていいらしい。
 でも形の上での女形だけは保ってもらいたいみたいで長髪を維持している。

 自分で鏡を見ても、女らしい顔をしているようには見えない。ローブを脱いだらがっちりとした男の体格だ。
 もう、長くここにいる事はないだろうと思う。
 僕はもうじきハクガイコウとしてここにいる事が出来なくなる。僕はただ、それを大人しく待っていればいいんだ。
 逃げるのは、その時でいい。いや、別に前のハクガイコウが殺される運命にあるわけではない。

 ファマメント国は魔種の政治介入にいい顔をしないんだけど、有翼族だけは別なんだ。ハクガイコウを降りたら僕はそのままファマメント国神官として生活する事になるだろうと思う。
 要するに天下りだね、力はなくとも元は偉いハクガイコウ。天使教幹部とも顔見知りだし、受け入れたがる神殿は多いんだってさ。
 リアルでお偉い政治家の事を、僕あまり悪く言えない立場だよ。
 双方にとっておいしいんだから止められないよね天下りと、その気持ちが分からないでもない。

「僕の存在にすがり、日々生きている人がいるから。僕がただここにいるだけで安心する人がいるから。僕はその人達の為にここにいるさ」
 叩き込まれたハクガイコウとしての役割。僕はこれを覆す言葉を持っていない。
 いいじゃないか偶像。時には必要だよ。その必要な人柱が僕だって言われている訳だろう?別に苦労する訳じゃなくただ居ればいいんだから楽なもんさ。
 ワイズも、僕がこのように開き直っている事に、これ以上とやかく言うつもりはないようだ。
 彼は僕の立場、僕の考え方をよく知っている。僕がそれで良いと言うならそれで良いのだと云う事、分かっている。
 付かず離れずの距離間が抜群だから、僕らは馬が合っている通りさ。


 しかし、ワイズは『あれ』をどうするつもりなのかな。


 興味あるなぁ、でもどうするんだって聞いたってワイズの事だ。笑って冗談だとか何とか誤魔化すんだろう。
 確かに、僕は『あれ』との対面を望んだね。
 その為にちょっと強権を使ったよ。それが彼に迷惑をかける事は知っていて……そうした。同時に、それが彼に迷惑をかけている事も知っている。

 ヒマだから調べたテラールの説話、その果てに『あれ』を見つけてしまった。

 『あれ』について僕から追及される事にファマメント国は渋い顔をした。

 理由は知っている、ワイズに限らずファマメント国も『あれ』の扱いには困っていたからだ。
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