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10~11章後推奨 番外編 縁を持たない緑国の鬼

◆BACK-BONE STORY『縁を持たない緑国の鬼 -1-』

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◆BACK-BONE STORY『縁を持たない緑国の鬼-1-』
 ※ これは、実は隠し事がいっぱいあるナッツ視点の番外編です ※
 ※推奨時期はありませんが、最初に読むと本編がーンーじれったい※


 さて、どこから話せばいいのだろう。
 なにから……思い出して語ればいいのか考えながら……僕は両手の指をからませる。
 間違く無く言える事には、これは昔話だという事かな。

 これから、ちょっとだけ昔のお話をしよう。

 正直に言ってヤトが語る冒険の書、すなわち本編というものと関係があるかどうかは僕には分からない。
 全てはヤトが認識する世界の姿にかかっている。
 僕が思い出せる一つの昔話まで、彼の注意が向けば関係があるのだろうし気が付かないようであればその時は……。
 無関係なひとつの、ただの説話になってしまうんじゃないかな。
 でも少しだけ創造力の豊かな君なら、僕がこれから語る昔話がどうやって本編とやらに関わりを持って行くのか。……分かっちゃうかもしれないね。
 でもそれでもいい、そうやって物語を読む事が出来る人の為に、僕はこっそりここで一つの昔話を語ろうと思う。


 さて……今回の視点は有翼族の青年をトビラの中でやっている僕、ナッツだ。
 リアルでの本名カトウーナツメ、リアルの方のヤトと腐れ縁になっている……友人だね。
 はたから見たらどう見えるのだろう?想像するのは勝手だけど、本当の事は分からないよね。でも僕は、どう思われているかと云う事にはあまり興味が無いんだ。
 ヤトはそうじゃないみたいだけど。
 そういう臆病な彼の性格を僕は……俺は、本当によく理解してしまっている。
 もう容易く突き放す事が出来ない位面倒みている自覚はあるよ、俺には。そんなんだからこっちの世界でもあっちの世界でも『損』と思われちゃう性格をしているんだろう。

 でも、変えようったって変えられない事はもう分かっている。

 ヤトが人見知りをなかなか克服できないのと同じで、俺もやっぱり面倒見が良い自分の性格を今更、変えられるとは思っていない。

 本当は全て投げ出せたらなと思う。
 全ての関係を投げだせたらと思う。だけど……俺にはそれが出来ない。そうやって全てを投げだした所で、本当の意味で自分自身を変える自信が無いからだ。

 全て投げ出して、新しく自分を始めた所で俺というキャラクターが新しく別に変わる訳じゃない。

 ほら、ここでの出来事を見れば一目瞭然だろう?
 異世界で別の人格を作っても俺は俺。

 とにかく人の世話ばかりやいて、本当の気持ちなど何一つ口に出せない。

 そういう『キャラクター』から脱出できない。出来ないと諦めている、するつもりもない。
 だから俺は、自分のキャラを変えるつもりは無いよ。
 変えられないから。それを、知っているから。知ってしまったばかりに、もうガチガチに固まっていて動けないから。

 俺は知っている、俺はヤトよりも自分が『酷い』状態だって事。
 どう酷いかなんてわざわざ説明はしないよ?でもね、ふらふらしているヤトの方がまだ改善の余地があると俺は思っている。だから……だから、なのかな。
 まだなんとかなると思う彼についてはつい、何かと世話焼いてしまって、すべてに対して諦めて欲しくないと思うのかもしれない。

 俺の……僕の事はもういいだろう。

 普段前に出ない、僕がどういうキャラクターなのかこれで大凡おわかりいただけたと思う。

 僕は周りの世界が『怖いもの』だと云う事を知っている。
 恐怖しない為に、自分の心を偽る作法を完全に身につけている。
 知っている、知っていて開き直って、受け止める余裕がある。

 もう自分を変えないと決めた分、揺らがなくてもいいからね。

 だから、揺らいでいる人を支えてやるんだ。ほころびそうになる関係を保全する為に心を砕く。
 それは何より僕の周りの世界の安定の為でもある。
 そう……全て、自分の為だよ。


 さて。
 そんな僕はこの異世界、トビラの中でどういうバックボーン……背景を持つにいたったと思う?

 有翼族、真っ白ではないけれど白っぽい羽を持っていて……大神官。
 個人的にはもう少し濃い茶色の羽根がよかったんだけど、なぜかキャラクター作成する時、経験値を振り分けていくたびに色彩が抜けていくんだよ。
 どうしてだろうってメージンに聞いてみたら例の『経験値の上昇にともなう背景の重量増加』に関係する事らしい。
 ようするに、これから行く異世界の都合の姿に僕の仮想が変化させられてしまっているらしい。
 選んだ種族によってはこうやって自動的な修正が入ってしまうみたいだね。

 世界に入ってしばらくは、思い出すコマンド『リコレクト』を禁止されていたから忘れていたけど……解禁されてすぐに僕は、このあまりにもリアルな異世界の成り立ちを考えていた。
 リアルのカトウーナツメとして、時にカイエン・ナッツの思考や思いも交えながら。

 じんわりと思いだすんだ、カイエン・ナッツがこの世界で何を考えているのか。
 そしてその考え方に、僕もいつしか同調して同じように世界を見ている。
 ナッツというキャラクターはこの世界の中に、最初からいた訳ではないのだろう。このキャラクターは間違いなく僕が、俺であるカトウーナツメがこの世界に創造したものなんだ。後から作られたモノに『世界』は辻褄を合わせる。仮想と同調する方法は、そんな単純な様で理屈の見えない技で齎されている訳だけど……その仕組みさえ分かってしまえば『俺』は、何の疑問も感じる必要が無い。
 システムとしてそうだ、と云うのならそれで納得が出来る事だよ。
 もっとも、ナッツの意見も『俺』と同じというワケではないんだけれどね。


 さて、僕、カイエン・ナッツは西方ファマメント国の神官だ。
 ファマメント国では天使教という、西国に古くからある『西教』というものを異端として弾圧し、取って替わろうとする新興勢力の神官をやっている。
 え?天使教の神官の癖にそういう捻くれた考え方でいいのかって?
 いいんだよ。
 僕には、人が思う程の信仰は無いんだから。そんなの良く分かる事だろう?僕は誰かを支える為に存在したのであって、僕が天使教によって支えられているのではない。
 僕は拝む方ではなく拝まれる方。偶像なんだ、高く積み上げた経験値は、僕にそういう背景を背負わせた。
 人よりもいくばか長生きの有翼族である僕は、ずいぶんと幼い頃に東方の故郷から『偶像』として西方へ連れて行かれたらしい。この白っぽい羽が有用だと見出されたのだね。
 任意で神官をやっているんじゃないんだよ。
 その僕の背負う背景に、僕は笑ってしまいたくなる。

 任意でこの役割を担っているんじゃない、だなんて。

 でも誰も、僕が笑う理由は分からないだろう。
 僕はいつでも本心を心の底に仕舞い込み、誰にも分からないように鍵を掛けているからね。

 もちろん、僕がそうやって僕の意志に関係なく神官をやっている事なんて、誰も知らない。
 ……いや、知っている人も少しは居るか。
 ほんの一握り、人の心の中を覗き込む事が好きな連中は、僕の本性に気が付いているだろう。でも……だから何だ。
 相手がどう思っていようが僕にはそんな事は関係ない、興味が無い。
 見える世界に向けて、どのように感じるのかは自由だ。僕はそう思う。身を置く宗教団体みたいに色々と物事を一方的に決めつけ、押しつける事は好きじゃない。だから僕はそう云う事はしない。幸いな事に、今の天使教は昔ほど西教を弾圧はしていないから、攻撃的な側面もあまりないし。
 従順な振りをして反抗心満々の僕は、政府と同義語である天使教幹部達から『黙っている』事を望まれていた。

 残念ながら僕は、彼らに軽口をたたく事は出来ても反抗そのものは出来なかった。

 心を偽り、従順している事しか僕には出来ない。僕はそういう風に出来ている……らしい。



 全く、夢の世界はどうしてこうもしっかりと『俺』の心の奥底の、重くて滅多に引き上げる事の無い事を事も無げに組み込んでくるのだろう。
 関心すらするよ。

 僕は。
 苦笑しながら自分の重いのであろう背景をリコレクトする。
 きっとこの世界が『夢』だからだ。
 夢だから、普段現実でしっかり鍵をかけて、表に出ないようにしている事が暴かれている。

 もしかすると、この昔話を語る事は僕にとって辛い事かもしれない。
 語る事に、実はすべて裏があるのだと勘繰る人がいるなら、その人に僕の本心が暴かれてしまうからね。

 それでもどうして僕はこの昔話をするのかって?
 それは僕はヤト程、本心を暴かれる事に恐れの感情は抱いていからだと言える。本心が暴かれる事、本性が見破られる事はぶっちゃけ辛いけれど、心の底から忌まわしいとは思って居ないんだ。むしろ……喜びを見出しているのかもしれない。
 本当は伝えたい事がある、だけど言えない。本当は暴いて欲しいけれど自分からはどうしても言えない。
 だから僕はこうやって昔話を語るのだと思うよ。
 比較的その辺りの理屈はレッドに似ているのはちゃんと知っている、でも僕は彼よりももっと口が固い方だと思うね。
 僕は彼ほど、自分を投げ打ってでも叶えたい望みなんてものはない。
 大事なのは僕だ、他人じゃない。
 そういう根本にある酷い性根を直せない事も、もはや知っている。

 僕が本音を語れば、僕の周りの世界が壊れる。
 そうなる事を知っている。
 だから何も言えない、世界が平穏にある事が僕にとって一番に大切であるのだから。
 

 *** *** *** *** ***


 昔々、大昔。
 人は魔法という手段を持っていなかった。

 ……ん?どんだけ昔かって?
 だから、僕は昔話をするって言ったじゃないか。

 リアルだとそうじゃないんだよね。
 今はもう『魔法』と呼ばれる手段が無くなりつつある。
 リアル世界にに魔法なんてあったのかって?
 その事については『簡単な事』じゃないからここでは説明しないけど……というか魔法と一口に言ったって、こっちとあっちじゃ定義が違うだろう?そこから説明なんかしないよ、とにかく魔法って言葉が存在する以上、現実世界には魔法っていう手段が存在していた事があるんだよ。具体的にどんな事なのかは各自で考えて欲しいな。

 こっちの事情、すなわち異世界、仮想世界トビラ……八精霊大陸。
 ここでは魔法というのは現在進行形で使う事が出来る一つの『手段』だ。世界に触れる手段の一つ。

 リアリ、ようするに現実世界では、全ての理屈は科学で証明が出来るって言うね。科学的に証明が出来ない事は事実じゃないとまで言われる場合がある。まだまだ、科学で証明できない事が数多く残されているのに、いずれは全部科学で片が付く、風潮的にはそんな感じだろう?
 全てはトリック、仕掛けの中にあるのだと人は、すっかり信じている。

 その仕掛けの事をこっち、八精霊大陸では『理力』というもので説明し、理力方程式として説明しているんだ。
 こっちとあっちの違いの重大な違いは、こっちでは全てが仕掛けでは片付かないという事だ。ある意味、こっちの方が潔いと思えるのはなんでだろうねぇ。
 八精霊大陸世界には、時に理屈を違えても良い、という不思議な約束事がある。
 つまり、仕掛けの中に収まらない事もある、という『仕掛け』があるんだ。

 それがジーンウイントの呟きと呼ばれる理力。
 魔法という手段が生まれた理由である『仕掛け』だ。

 とはいえ、遥か昔、世界とやらが始まった『最初』から魔法って手段があったわけじゃないんだな。
 ジーンウイントの理力は最初からあったわけだけど、そこから魔法が生まれた事はまた別なんだ。
 大昔の事だからそれが、本当の事なのかどうかは分からない。だけど、伝承によると魔法という手段を作ったのは『悪魔』という事になっている。
 いろいろ研究が進み、悪魔というのは精霊と人間の間の力を持つ者の事を指す事が分かってきたらしい。特に『悪魔』と今日まで忌み嫌われているのは、『空』もしくは『時』の属性を持つハーフだ。『空の悪魔』と『時間の悪魔』……彼らの争いで使われた力が『魔法』だったと云われている。
 この世界にある『仕掛け』を、心によって曲げる事で齎す手段。
 悪魔はその後、この世界『八精霊大陸』から追い出されてしまう。はっきりとした事は今も分からないけれど……彼らを放っておくとこの世界を壊すから、というのが有力な説で、今も信じられている説でもあるかな。

 悪魔という存在は、世界の破壊者としてこの世界から追い出されたのだそうだ。

 追い出される間際、悪魔達はこの『手段』を人の心の中に隠し残したと伝えられている。それが魔力と今日呼ばれる、先天的に生物が備える魔法素質なんだとか。

 でも、実はこの魔法素質が備わる理由にはもう一つ説がある。

 圧倒的にマイナー説なので、東方の魔導師達も知っているかどうかはかなり微妙だ。

 とある一派に語り継がれる、奇妙な説話をまずはお話しよう。
 全てはそこから始まる昔話なのだから。



 この説話は西方の、どちらかというと北方に伝わる事だ。僕が属する天使教というものは、ファマメント国で生まれて今日に至る。
 しかし西方の歴史を紐解くと、ファマメント国はそれほど古い歴史を持つ国じゃぁない。というよりも他に古い歴史を持つ町や国が沢山あるから比べればまだまだ新しい国だよね、って話。
 昔から西方は『人間の大地』と呼ばれ、人が国を作って栄えて滅ぶ一連の『歴史』が最も古く横たわっている所だ。長らく西方の中央にあったのは、今は南東に衰退したディアス国だった。
 もともとディアスは西方大陸の中央に鎮座していた大きな国だ。それに対してファマメント国は今も首都にしている北西にあるスター山脈を中心とした『余り物』の地で、弾き者として細々と暮らすという不遇から生まれたんだそうだ。
 公族による支配政治を廃止し、辛い境遇の部族が民主主義によって国を主張した。
 ま、今は殆ど民主主義は形ばかりになっているけどね。
 とにかく一般的な『西方』と呼ばれる歴史とちょっと違うんだね、ファマメントに伝わる歴史は。

 特に北西部は北との境界が常に曖昧で、西方には伝わらない奇妙な伝承が数多くある。

 今から語るのはその、西方にあまり伝わらなかった北西の説話の一つ。

 北西と言って、一般的に歴史に詳しい人が思い浮かべる舞台はミストラーンだろう。
 今は沈んでしまったシーミリオン国に属しているけれど……本来ミストラーンは西方に属していた地域だ。
 この辺りにはトライアンという王国が昔あったそうだけど、今はかつてトライアンが支配していた地域を『トライアン地方』と呼ぶだけになっている。ミストラーンはその、トライアンに属していた、最も波乱万丈な歴史を辿る事になる北方境界を担った町だ。
 ちなみに、ミストラーンはファマメント国よりも断然に歴史が古いんだ。ファマメントはトライアン王国からはじき出された人達が作った国だから起りとしては全然、近世新興国家だよ。

 ミストラーンは北方境界の様々な説話が集中している為に色々と有名なのだけど……知られていないだけで本当は西と北の堺になっている町は他にもあるんだ。

 その一つに、西方では存在が認められていないんだけど――テラールという町があったそうだ。

 名前が悪いんだろうね、北方位神イン・テラールと同じ名前だから存在を認められていない。
 僕が紐解いた古書にはそのように書いてあった。ボロボロの古書の段階でもはや推測で語られている伝説の町というワケだ。
 テラールはトライアン王国の北の端、その後ファマメント国の北の果てにある町だと云う。
 当然だが今は存在しない、形跡も無いし遺構を探そうとした人も居ない。地理的に鑑みて、天変地異で北方大陸が沈んだ時に、海中に没したと思われる。
 そのテラールは名前の通り、テラールという名前を持っている一族が住んでいた町だ。
 つまり、北神賢者の出身地って事でもあるだろう。
 それが西方で認められていない。
 西方の歴史書ホーリーにおいて、テラールは北方に住むとされている、人間嫌いの邪悪な一族として語られているにすぎない。出身地が具体的にどこか、という事は分からない、とされている。

 確かに、テラールの名を持つ北方方位神は、無慈悲の代名詞として今も広く使われているけど……でも、どうかな。
 僕はその語られる事実を鵜呑みにして、テラール一族を嫌う事が出来ない。
 どうしてだろうかと考えたら、きっとそう呼ばれる理由があるはずなのに、すっかり理由が見えなくなっている、だからだろう。
 嫌われるに、そうなった説話の一つもあればいいのに、人嫌いの邪悪な一族だから、で片づけられているのが納得いかない。歴史的な順番を正しく鑑みるに、イン・テラールの数々の悪行は、彼が人嫌いの邪悪な一族故に、という前置きで起きた事になっている、嫌われた理由の説話じゃない。すでに嫌われているが故の所業ばかりだ。勿論、世間一般的には『歴史』なんてどーでもよい扱いされてるものだからね、都合の良い方向に解釈されるだけだよ。
 理由もなく、与えられる価値観だけを信じる事が僕には出来なかった。
 だから、と云うわけではないのだけど……興味本位で色々調べたみたんだ。
 かつてその町が属していただろうトライアン王国は、今はファマメント国に吸収合併されている。それで幸い、トライアン国が持っていた古い書物なんかが今も、ファマメント国の地下書庫に埃を被せて保管されていたんだ。
 僕はそれを自由に閲覧できる立場にあるのだからね。

 この古書を、昔全部燃やしてしまおうとした、って話もあったそうだ。

 トライアン王国では多分に漏れず西教の影響力が強かったから、西教に傾いた書物などファマメント国には必要が無い、とかいう理由からだろう。
 しかしそうすると、トライアン王国から独立しその後この地を制圧したファマメント国っていう『歴史を証明する書物』も消える可能性がある訳だろう?その様に、この古書に価値を見出した一部が必死に破棄から守ったんだとか。
 ところがその膨大な資料は『大切なもの』という形骸化によってその後、放置される事になったようだ。
 解読が間に合わなかったんだろうな。西教を弾圧し天使教を広める活動の方が忙しくって、ファマメント国はあまり自国の過去を振り返る時間が無いんだ。歴史を紐解く部署に、あまり予算を貰えてないのは今もそうだからね。

 でもそれは、悪い事じゃない気もする。

 西教のあるディアス国は、逆にこの『過去を振り返る事』ばかりしている国なんだ。
 過去にばかり目が行って、未来に足が向かないのがディアス国の特徴ならば……ファマメント国もそれに準ずる必要はないだろう。
 歴史なんて、ヒマになった時に、暇な人が追及すればいい。

 そう、僕みたいなお飾りの人間がヒマだからと紐解いておけばいいんだよ。 

 膨大な資料の中から、テラールに関係のある書物を探し出すのは簡単だった。
 一つの思いつきから、するすると芋の蔓を引くように事実が掘り出されてくる。
 多分、昔この書物を整理した人が僕と同じ疑問を持って、資料はある程度見やすいように纏めてくれていたからかもしれない。

 そうして僕は最終的に、ファマメント国家がトライアン王国から引き継いだ『負の遺産』にまでたどり着いてしまった。
 おかげで僕は『黙っていろ』に加えて『行動するな』という制約まで食らう事になっちゃったんだ。


 これから僕が過去を思い出し、昔話として話すのはその『行動するな』の制約を食らった頃のお話。


 具体的に今から何年前であるのかを明かす事は控えよう、それを言ってしまうと勘の良い君には色々と先が見えてしまうかもしれない。
 ただ一つ言える事には、先に言ったように僕はこの世界で有翼族だ。人間よりは少しばかり寿命が長いという事……それだけをヒントとして残しておく。

 
 これから始まる昔話は『魔法』から始まる一つの説話。
 その物語を僕が語るからこそ、僕が陥った状況を語る事が出来ると思うから。
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