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10~11章後推奨 番外編 縁を持たない緑国の鬼
◆BACK-BONE STORY『縁を持たない緑国の鬼 -4-』
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◆BACK-BONE STORY『縁を持たない緑国の鬼 -4-』
※ これは、実は隠し事がいっぱいあるナッツ視点の番外編です ※
テラールの説話はこう、語る。
昔、人は魔法と云う『手段』を持たなかった。
しかし、世界を破壊しようとする悪魔と争うには、悪魔が用いる『手段』が必要だった。
争うに、力を求めた。同じ土俵で戦う為に、同じ手段を得る事にした。
そこで『世界』である精霊は、魔法を使える人間をこの世界に作った……。
魔法使い、これがテラール一族というわけだ。
しかしその魔法を使える一族というのが、実は一つじゃなかった。
実際には二つ作られていて……それが、今の世界のトビラを開けるか否かという魔法使いの違いに現れている。
開けられない方が圧倒的に少ない。二つの内、一つは栄えて人に混じり、悪魔の思惑通りにトビラを開く可能性を押し広げたが今一つはひっそりと閉じて、世界から消え入ろうとしている。
テラールの説話はこう、語る。
世界を守るために魔法を使う者が、世界に住まう人と上手く馴染めなかった事を語る。
その為に愚かにも、人と魔法使いが争う事となった事を語る。
その為に、人間の大陸である西と魔の大陸である北との間に溝が出来て、境があるのだ……と。
面白い事が書いてある。
一般的に悪魔召喚は世界を滅ぼす事で、そのトビラを開く事は良くない事だとされている。
だけどテラールの説話ではそうじゃないんだ。
トビラは、世界を変える為に必要な『流れ』を作る為、都合、開かれるものなのだそうだ。
世界を変えていく為に、二つあった魔法使いの片方がその方法を人に残したと、テラールの説話は語る。
誰でも扉を開く事が出来るように、魔法使いの祖が『魔法素質』を人の中に残した事になっている。
今は……悪魔が残した、と言われているのにね。
でも注意書きがあるね、魔法使いは当時悪魔と同じ手段を用いるとして悪魔と等しく迫害されていた……と。
要するに、当時唯一だった魔法使いが悪魔と同義語になっていれば、結局この説話と、現在の一般論は同じ事を言っている可能性があるという事だ。テラールの説話で語られている事は、悪魔と等しい何者かが、悪魔の使う手段を人が誰でも使えるようにした……という捉え方もできなくはない。
とすると、テラールの説話の中にも真実が数パーセント混じっているのではないかなと僕は思うのだ。
この書が、誰かがいたずらに考えた空想だとは思えなかった。
しかし本当の事など何一つ分らない。何しろ昔話だ、まだ人が魔法と言う手段を持っていない頃の説話とされている。僕は、この書の語る査証の為に皿に沢山の事を知ろうと古書を読みふけった。
ワイズ家に管理されて残されている家宝、テラールの姫は……そんな大昔に悪魔と等しいと言われて迫害されたであろう魔法使いなのだろう。何世紀も滅ばずに存在するというのだから、そういう事になると思う。
要するに、それは正真正銘のテラールが一族。
西方ではこれらが何って伝えられるって僕は言ったっけ?
人間と争うことになる過程、人間を滅ぼそうとする邪悪な思想を持ったと言われている……とか、説明したはずだ。
これはワイズ曰く本当だという。
なぜ本当だと言えると聞き返したら、ワイズは笑いながら答えた。
僕は人間が好きになれない、連中は愚鈍だと思うと答えた。
具体的に人間って指さされているのは、この場合西方人の事だろう。
要するにワイズは、公族とか神官とかそういう役職を第一とする人間社会に嫌気がさしているようだ。早いところ逃げ出して自由になりたいと願っている。
そして、自分の家系はそういう思想になりがちだと云う事を説いた上で力説していたな。実際父親がそうだったと言っていた、兄弟も等しくだ。
家からみんな逃げ出して……『自由になって』……グランソールだけ取り残される形になっている。
テラールの姫を外に出してはいけない。
彼女は先天的な魔法使い、テラールの説話が真実ならば彼女はたやすく人に対して悪意を抱き、圧倒的な魔法で破壊をもたらすだろう。
彼女は、人に新しい流れ、変化を生み出す為に扉を開くべく、魔法と云う手段を与えた方の魔法使いじゃないんだよ。
テラールの一族は扉を開く事が出来ないんだ。今に魔法を伝えた魔法使いと違い、人に交わらなかった。それは、つまり迫害された方の魔法使いである可能性を語っているのだろう。
ついには人と争って、北方に閉じた。
テラールの名前を持つ、北方方位神、イン・テラールにも話が繋がっていくのかもしれない。
でも、一応そのテラールの血は人間に混じって今も続いてる訳だろう?それが、ワイズの一族なワケじゃないか。あるいは、トライアン王国時代にはワイズと同じ一族はもっとたくさん居たのかもしれない。それが滅びたか、あるいはグランソール・ワイズがそうしたいと願う様に広く、自由に世界に拡散していってテラール一族だとは見え辛くなっているだけなのかもしれない。
ワイズ家だけがそうできないでいるのだろう、テラールの姫という遺産を引き継いでしまったからね。
これは数世紀、歳も取らない滅びない、謎の存在だ。
誰にも彼女を滅ぼす事など出来ないと言われている。
ワイズ家の中でも多くの人がそれを試み、失敗したという話が伝わっているとか。
だから滅ばずの姫などと呼ばれているのだ。
可哀そうな姫。
何も知らされず、何一つ自由に出来ず、閉じ込められている小鳥。
その籠が世界のすべてだと信じて疑わない、囀る事しか出来ない。
光もまともに知らず、闇の色さえ知らない。
僕は彼女に会ってみたいと思い、無理を言って彼女に会った。
ろくに言葉も話せないと言われる。暗い石牢に閉じ込められている彼女が、世界の外に行きたいなどと願う事が無い様にとの配慮だろう。
毎日一度の決まった食事と水を与えられるのは、姫が苦しい思いに暴れださない為の儀式だそうだ。テラールの書物にはその作法も色々と書いてあったんだ。
それが、夢物語にしてはやけに生々しくってね。何か偶像を祀っているにしては具体的すぎるな、と思って引っかかったんだよ。でも……どうも信じられない。
まさか、そんなものが本当にいるとは思っていなかったんだよ。
だから、いるんだと知って堪らなくなったんだ……僕は。
彼女はそんな環境に永遠と置かれていて、本当にそこから出たいという願いを抱かないものだろうか?
僕は彼女という存在を知り、初めて……自分の処遇を振り返ったんだ。
*** *** *** *** ***
「こんにちわ、テラールの姫」
ワイズから話し掛けるなよと言われたけれど、僕はその約束をたやすく破った。
それは僕が守るべき制約ではなかったからだ。
僕に課せられている制約は、僕がハクガイコウとしてあるために与えられている法だ。これを守る限り僕はハクガイコウ、だから僕はそれを守るのだ。
でも、秘宝にに話しかけるなというのはハクガイコウとしてある僕を縛る法じゃない。……詭弁的だって?だから僕はワイズから魔導師向きだと言われるのかな?
だいたい、その時ワイズはまだ『法』を僕に課す支天祭祀に正式に受諾していないしね。
言葉など、きっと知らないのだろうと思った。
所がその僕の予想を裏切って、姫は笑いながら僕の言葉に返す。
「あら、お世話係りが変わったのかしら?ダメよ、話しかけたりなんかしちゃ」
くすくすと笑う幼さの残る声に、僕ははっとして自分の口を押さえていた。
「話しかけちゃだめって言われているでしょ?バレたら即刻解雇されちゃうんだから」
……僕は、僕がどう思われているのかは興味が無い。
この宣言はこれで、三度目になるかな。
でも繰り返す。
僕は他人からどう思われているかなんて事には興味が無い。どう思おうが、思われようがそれは他人の自由だ。僕には関係が無い。
でも……興味が無いという事は、あえてその事を想像せずに、知らないふりをする事に似ている。
僕は……きっと周りから哀れだと思われている事だろう。
天使教に飼われた哀れな偶像、そこにいる事だけを望まれた、誰かを支えるのが自分の役目だと信じ切っているかわいそうな有翼族だと思われているんだろう。
彼女は僕と同じだ、だから……僕が彼女に抱く感情はそのまま、僕が普段受けている感情なのだと唐突に気が付いた。
……出来るなら知りたく無かったのに。
知らないふりをしていたかった事だったんだ。
哀れだと勝手に想像していた、でも彼女は僕と同じで自分の事を、哀れだなんて思っていない。
言葉も知らないのだろうと思ったけどそうじゃない、何世紀も生きている彼女は多くの人から哀れだと同情され、その思いに反発するように自分の立場は何でもないのだと振舞っている。
多くの世話係が約束を破り、姫との逢瀬を楽しんだ事だろう。
そして姫の前を去っていく。戻って来る事は、無い。
姫は僕が思っている以上に世界を知っていて、知っているけれど現状に満足した振りをして自分の立場に甘んじている。
「僕は世話係じゃぁないんだ……ちょっとした興味本位で、君に会ってみたいと思ってね」
興味があって見に来たなんて、きっと彼女は怒るだろう。
そうだ、怒ってみろ。
怒らせたらワイズは困るのだろうけれど、僕はよく僕の世話係の管理官を困らせた様に、彼女を試してみたくなってたまらなくなっていた。
「あら、珍しい」
しかし僕のそんな悪意に気が付いてか、それとも気が付いていないのか。くすくす笑って、暗がりの中にいるであろう姫は楽しそうに僕との会話を続けるべく言葉を紡ぐ。
「ここ数世紀無かった事よ、うれしいわ」
正直、恥ずかしくなった。
僕の彼女に対する興味は結局野次馬か、ただ見てみたい。珍しいから会ってみたい。そんなものか。
数世紀前、僕と同じ事をしたという人がどんな気持ちでここに立っていただろうかと想像したくなり、そんな事してどうするのだと途端に馬鹿らしくなる。
「僕の名前は……ナッツ。よかったらあなたの名前を聞かせてもらえませんか」
それでも僕は彼女に挑み続ける。
それは、僕自身に挑むと同じ事であるから。
「名前、名前ねぇ……ちょっと待ってね。流石にそれは長らく聞かれた事が無いの。そうね……私にも名前はあるわよね」
僕をじらしているのではなく、彼女は本当に自分の名前を思い出すのに苦労して……僕がお忘れでしたら構わないのですと答えたにもかかわらずちょっとだけ意地になって、名前を懸命に思いだそうとした。
結局……彼女は思い出せずに、苦笑気味に好きなように呼んでいいわよと言っていた。
確か私の名前はワから始まって……ああ、何だったかしら?
必至に自分の名前を思い出そうと悩む彼女に、僕は……なかなか口を開けずに迷っていた。
貴方は、ここから出たいと思う事はないのでしょうか?
……僕の口から、告げたい言葉が出てこない。
そう訊ねたいのに言葉が、僕の口から出ない。
結局僕はそこで口を噤んだ。
そして想像で満足する。
きっと彼女は笑いながら答えるだろう、僕が口にするだろう答えと同じような事を……笑いながら。
だって、そうするしかないのよ?
私はここから出れないの。出たらみんなが迷惑するのよ。
興味が無いわ、私は世界に興味無いの。私の事を誰が何って思っているのかも興味が無いの。
だって。
想像の中で、暗がりの中の彼女が笑う。
何も知らずにいれば私の世界はいつまでも平和よ?
*** *** *** *** ***
ワイズ家の『家宝』、生ける秘宝。テラールの魔法使い、名前を忘れてしまった滅ばずの姫。
強引に会いに行き、許されたごく短い逢瀬。
それから何度も彼女に会いに行くことが許されるなら、ついに聞く事の出来なかった彼女の気持ちを僕は、聞きだしていただろう。
ところがワイズ家のこの秘宝、ファマメント政府にも所持する事は認知されていて、いつの頃からか密かに危険なものとして監視されていたらしい。天使教祭祀の家系として、トライアン時代から今も家名を残すことが許されているのは、その抱え持つ荷物の困難さを理解しての事なのだろう。せめて手の届くところに、管理できる範囲に置くべきだと判断されたんだろうな。
とはいえ、テラールに関連するモノだという事はすっかり情報的に欠落しているみたいだけどね。どういう経緯でワイズ家がそんなものを持っているのか、もはやグランソール・ワイズも知らない事だという。
そして、いつしか政府から危険視されている事について、元家主のガルガンチュアからして知らなかったのだろう。
おかげで自分の『立場』が分かった事は助かりましたよと、ワイズはそんな事を僕に厭味ったらしく言って来たものだ。
それで僕は、彼女に会った事を危険視されて『行動するな』の制限を貰ってしまった。
当然もう二度と彼女に会いに行く事は出来ない。そして僕は、自らに課せられている約束を破ってまで外に出たいとは思っていない。
出来ないのだ、僕は課せられている約束に寄りかかって生きている。もう彼女に会う事は出来ないのだと諦めた。
それからしばらくしてグランソール・ワイズはガルガンチュアの跡を継いで天使教神官、支天祭祀の一人となって僕の前に現れた。
どうも例の家宝の騒動で厄介払いされて、結局の所ハクガイコウの世話役に飛ばされたんだとか。
周りの評価はともかく、ワイズはその処遇が嬉しかったみたいだけどね。彼曰く『面倒』な仕事をするよか、我儘に育てられているハクガイコウの世話の方がよっぽど良いそうだ。
これはどうやら本心みたいだね。酷い事言うよ。
人嫌い、僕の場合はそこまではいかないのだけど。
俗世界を忌避する者同士確かに、馬があってしまった事は認めるけどさ。
そうやってワイズがやってきて、僕があっさり姫と再び会う事をあきらめている事を知って、彼は少々驚いていた。
僕が想像していた通り、彼は僕が滅ばずの姫に同類の念を抱いていて、そうやって執着しているのだろうと思っていたようだ。
確かに僕と姫の立場はよく似ている、でも彼女は彼女。僕は僕。
似ている者同士仲良くしたい、そんな感情に流されれば多くの人に迷惑がかかる事を僕は弁えている。
世界の平和を愛する僕としては、そんな事で平穏を壊してしまうのは何よりいただけない事だ。
じゃぁ逆に、テラール姫はどうだろう?
さぁね、分からない。彼女は彼女だ、僕じゃぁ無い。
とにかくそういう風に切り捨てて、考えないようにしないといけない。
そうしなければ執着して、いつまでも彼女の事を忘れられなくなってしまう。
ずいぶんと捻くれてらっしゃるという噂は本当ですねと、ワイズから笑われたな。
なるほど、僕はそのように思われている訳か。
……誰も僕の機嫌を気にして、その心の声など表に出さない。
もちろん僕はそんなの関係ないと思っているけれど。
たまに言葉の端に含ませて、困らせてたであろう僕の、言葉の棘。
ワイズは薔薇の花との接し方をよく知っている。必死に棘を除いたり、刺されないように武装するよりもてっとり早い護身法がある事を彼は心得ていた。
自分も同じく棘を持てばいいんだ。
すっかり相手の棘に絡まって、僕はワイズに無遠慮になっていった。いや、もともと傍若無人なんだけどね。それでも一応世界保全に問題が無い範囲のわがままにしてたかもしれない。
でもある日、僕は世界に波を立てるような質問を彼に投げてしまったようだ。
……君の家の家宝はその後どうしている?
彼女は僕に会ってそれで、何か変わった事はあったかい?
君の家の家宝、迷惑しているみたいだけどどうするつもりだいと僕が尋ねた言葉の中には、そういう意味が含まれていた。ワイズはその家の名前の通り賢くそれをかぎ取ったと見る。
どうにかしようと思っている。
籠の外に出そうと思います……が……さてはてハクガイコウ、貴方はどう思われますか?
もしかして、当時の事根に持ってやり返されているのかな?そんな風にも思う。
ともすれば、このワイズという男は世間で思われている程得体の知れない存在ではなく、思いっきり人間臭い事もするのだなとやや笑いたくもなる。
僕は正直少し気になると答えてやった。でも、介入するような事は一切しないと答えた訳だ。
ワイズはその一言を言わせたかったのかもしれない。
そのようにも今は、思う。
*** *** *** *** ***
どうして僕が封印師なのか知ってますか?
ワイズは、僕に共犯者である事を望んだようだ。
こっちが望んでいないのに以来逐一密かな計画を僕に漏らすようになったのは、すなわちそう言う事だって事に、気が付かない僕じゃぁない。
聞きたくないと耳をふさぐ訳にもいかなかった。僕はすべてに無関心を装い、聞き流すスタイルを貫いている。
反応してしまったら負けだ。
テラールの姫に僕が心の底から同情し、何もしないと明言したにもかかわらず本当は『そうじゃない』事を認める事になる。
ワイズは巧妙に僕の足を縛り、自分の計画が無事に完遂されるために僕を共犯者に選んだ。
僕はしかたなくテラールの説話を再び紐解く。
……最後に語られる、テラールの一族が辿り着いた境地についての話。
人を忌避し、全てを憎む宿命にあるというその一族はいずれ、その憎しみを自らにも向けるだろうと言われている。
なぜなら、今やテラールの血の中には半分、憎むべき人の血が流れている。いずれ自らの中に流れる血に対しても憎悪を抱き、彼らは自らで自らを滅ぼすだろうと彼ら自身が予言した。
そしてその予言の通り、テラール一族は自分の一族から殺戮者を出してそれによって滅んだ事になっている。
昔、北と西の境界が深かった頃、八精霊大陸の歴史で言うと第五期から第六期の話で……北方から人間という人間を滅ぼし去った殺人鬼の説話が確かに西の歴史書ホーリーにも残っているね。
しかしホーリーには、それがテラールだという事は書いてなかったように思ったけど……ああ、そうか。
思い出した、そういえば同一とはされていないけれどこういう説話もあったな。
北方で人間を尽く狩った……殺戮を行った者は北神イン・テラールだという説話だ。
ホーリーが伝える所の時代のズレがあるから別の話だと説かれている。
西に人が栄え魔を退けるならば、北は魔の為に栄え人を退けよう、とかいう理屈で人間を殺戮する事を、かの北神イン・テラールが唱えその通り……北方大陸で人間は問答無用に殺される時代があったのだとか。
勿論『語られている』事で、実際にそうなったと言う実証があるわけではない。繰り返すけれど過去の歴史というのはそういうものだ。
本当にそのような一族が居たのだろうかと、夢物語を読み終えた様に僕はテラールの説話を閉じた。
ナッツとしての意識か、カトウーナツメとしての意識か。多分、どっちもかな。
僕はこの世界であまりにも滑らかに、長く積み上げられてきた世界の設定を『思い出す』事が出来る。歴史や知識を無駄に理解しているというキャラクターをカトウーナツメが望んだからだ。
そして僕はそのキャラクターにすっかり入り込んで、世界の移り変わりに思いを馳せる。
テラールの説話はどっちにしろ、昔話すぎてリアリティアが無い。本当にそんな事あったのかと疑いの気持ちがまず真っ先に働いてしまう。
たとえ滅ばずの姫という有り得ないような存在があって、それと話を交わした経験があったとしても。
本当にそれがテラールなのか?
この、昔々から始まる『物語』に出てくる存在とイコールなのか。
正直、信じられないというのが素直な感想だよ。
※ これは、実は隠し事がいっぱいあるナッツ視点の番外編です ※
テラールの説話はこう、語る。
昔、人は魔法と云う『手段』を持たなかった。
しかし、世界を破壊しようとする悪魔と争うには、悪魔が用いる『手段』が必要だった。
争うに、力を求めた。同じ土俵で戦う為に、同じ手段を得る事にした。
そこで『世界』である精霊は、魔法を使える人間をこの世界に作った……。
魔法使い、これがテラール一族というわけだ。
しかしその魔法を使える一族というのが、実は一つじゃなかった。
実際には二つ作られていて……それが、今の世界のトビラを開けるか否かという魔法使いの違いに現れている。
開けられない方が圧倒的に少ない。二つの内、一つは栄えて人に混じり、悪魔の思惑通りにトビラを開く可能性を押し広げたが今一つはひっそりと閉じて、世界から消え入ろうとしている。
テラールの説話はこう、語る。
世界を守るために魔法を使う者が、世界に住まう人と上手く馴染めなかった事を語る。
その為に愚かにも、人と魔法使いが争う事となった事を語る。
その為に、人間の大陸である西と魔の大陸である北との間に溝が出来て、境があるのだ……と。
面白い事が書いてある。
一般的に悪魔召喚は世界を滅ぼす事で、そのトビラを開く事は良くない事だとされている。
だけどテラールの説話ではそうじゃないんだ。
トビラは、世界を変える為に必要な『流れ』を作る為、都合、開かれるものなのだそうだ。
世界を変えていく為に、二つあった魔法使いの片方がその方法を人に残したと、テラールの説話は語る。
誰でも扉を開く事が出来るように、魔法使いの祖が『魔法素質』を人の中に残した事になっている。
今は……悪魔が残した、と言われているのにね。
でも注意書きがあるね、魔法使いは当時悪魔と同じ手段を用いるとして悪魔と等しく迫害されていた……と。
要するに、当時唯一だった魔法使いが悪魔と同義語になっていれば、結局この説話と、現在の一般論は同じ事を言っている可能性があるという事だ。テラールの説話で語られている事は、悪魔と等しい何者かが、悪魔の使う手段を人が誰でも使えるようにした……という捉え方もできなくはない。
とすると、テラールの説話の中にも真実が数パーセント混じっているのではないかなと僕は思うのだ。
この書が、誰かがいたずらに考えた空想だとは思えなかった。
しかし本当の事など何一つ分らない。何しろ昔話だ、まだ人が魔法と言う手段を持っていない頃の説話とされている。僕は、この書の語る査証の為に皿に沢山の事を知ろうと古書を読みふけった。
ワイズ家に管理されて残されている家宝、テラールの姫は……そんな大昔に悪魔と等しいと言われて迫害されたであろう魔法使いなのだろう。何世紀も滅ばずに存在するというのだから、そういう事になると思う。
要するに、それは正真正銘のテラールが一族。
西方ではこれらが何って伝えられるって僕は言ったっけ?
人間と争うことになる過程、人間を滅ぼそうとする邪悪な思想を持ったと言われている……とか、説明したはずだ。
これはワイズ曰く本当だという。
なぜ本当だと言えると聞き返したら、ワイズは笑いながら答えた。
僕は人間が好きになれない、連中は愚鈍だと思うと答えた。
具体的に人間って指さされているのは、この場合西方人の事だろう。
要するにワイズは、公族とか神官とかそういう役職を第一とする人間社会に嫌気がさしているようだ。早いところ逃げ出して自由になりたいと願っている。
そして、自分の家系はそういう思想になりがちだと云う事を説いた上で力説していたな。実際父親がそうだったと言っていた、兄弟も等しくだ。
家からみんな逃げ出して……『自由になって』……グランソールだけ取り残される形になっている。
テラールの姫を外に出してはいけない。
彼女は先天的な魔法使い、テラールの説話が真実ならば彼女はたやすく人に対して悪意を抱き、圧倒的な魔法で破壊をもたらすだろう。
彼女は、人に新しい流れ、変化を生み出す為に扉を開くべく、魔法と云う手段を与えた方の魔法使いじゃないんだよ。
テラールの一族は扉を開く事が出来ないんだ。今に魔法を伝えた魔法使いと違い、人に交わらなかった。それは、つまり迫害された方の魔法使いである可能性を語っているのだろう。
ついには人と争って、北方に閉じた。
テラールの名前を持つ、北方方位神、イン・テラールにも話が繋がっていくのかもしれない。
でも、一応そのテラールの血は人間に混じって今も続いてる訳だろう?それが、ワイズの一族なワケじゃないか。あるいは、トライアン王国時代にはワイズと同じ一族はもっとたくさん居たのかもしれない。それが滅びたか、あるいはグランソール・ワイズがそうしたいと願う様に広く、自由に世界に拡散していってテラール一族だとは見え辛くなっているだけなのかもしれない。
ワイズ家だけがそうできないでいるのだろう、テラールの姫という遺産を引き継いでしまったからね。
これは数世紀、歳も取らない滅びない、謎の存在だ。
誰にも彼女を滅ぼす事など出来ないと言われている。
ワイズ家の中でも多くの人がそれを試み、失敗したという話が伝わっているとか。
だから滅ばずの姫などと呼ばれているのだ。
可哀そうな姫。
何も知らされず、何一つ自由に出来ず、閉じ込められている小鳥。
その籠が世界のすべてだと信じて疑わない、囀る事しか出来ない。
光もまともに知らず、闇の色さえ知らない。
僕は彼女に会ってみたいと思い、無理を言って彼女に会った。
ろくに言葉も話せないと言われる。暗い石牢に閉じ込められている彼女が、世界の外に行きたいなどと願う事が無い様にとの配慮だろう。
毎日一度の決まった食事と水を与えられるのは、姫が苦しい思いに暴れださない為の儀式だそうだ。テラールの書物にはその作法も色々と書いてあったんだ。
それが、夢物語にしてはやけに生々しくってね。何か偶像を祀っているにしては具体的すぎるな、と思って引っかかったんだよ。でも……どうも信じられない。
まさか、そんなものが本当にいるとは思っていなかったんだよ。
だから、いるんだと知って堪らなくなったんだ……僕は。
彼女はそんな環境に永遠と置かれていて、本当にそこから出たいという願いを抱かないものだろうか?
僕は彼女という存在を知り、初めて……自分の処遇を振り返ったんだ。
*** *** *** *** ***
「こんにちわ、テラールの姫」
ワイズから話し掛けるなよと言われたけれど、僕はその約束をたやすく破った。
それは僕が守るべき制約ではなかったからだ。
僕に課せられている制約は、僕がハクガイコウとしてあるために与えられている法だ。これを守る限り僕はハクガイコウ、だから僕はそれを守るのだ。
でも、秘宝にに話しかけるなというのはハクガイコウとしてある僕を縛る法じゃない。……詭弁的だって?だから僕はワイズから魔導師向きだと言われるのかな?
だいたい、その時ワイズはまだ『法』を僕に課す支天祭祀に正式に受諾していないしね。
言葉など、きっと知らないのだろうと思った。
所がその僕の予想を裏切って、姫は笑いながら僕の言葉に返す。
「あら、お世話係りが変わったのかしら?ダメよ、話しかけたりなんかしちゃ」
くすくすと笑う幼さの残る声に、僕ははっとして自分の口を押さえていた。
「話しかけちゃだめって言われているでしょ?バレたら即刻解雇されちゃうんだから」
……僕は、僕がどう思われているのかは興味が無い。
この宣言はこれで、三度目になるかな。
でも繰り返す。
僕は他人からどう思われているかなんて事には興味が無い。どう思おうが、思われようがそれは他人の自由だ。僕には関係が無い。
でも……興味が無いという事は、あえてその事を想像せずに、知らないふりをする事に似ている。
僕は……きっと周りから哀れだと思われている事だろう。
天使教に飼われた哀れな偶像、そこにいる事だけを望まれた、誰かを支えるのが自分の役目だと信じ切っているかわいそうな有翼族だと思われているんだろう。
彼女は僕と同じだ、だから……僕が彼女に抱く感情はそのまま、僕が普段受けている感情なのだと唐突に気が付いた。
……出来るなら知りたく無かったのに。
知らないふりをしていたかった事だったんだ。
哀れだと勝手に想像していた、でも彼女は僕と同じで自分の事を、哀れだなんて思っていない。
言葉も知らないのだろうと思ったけどそうじゃない、何世紀も生きている彼女は多くの人から哀れだと同情され、その思いに反発するように自分の立場は何でもないのだと振舞っている。
多くの世話係が約束を破り、姫との逢瀬を楽しんだ事だろう。
そして姫の前を去っていく。戻って来る事は、無い。
姫は僕が思っている以上に世界を知っていて、知っているけれど現状に満足した振りをして自分の立場に甘んじている。
「僕は世話係じゃぁないんだ……ちょっとした興味本位で、君に会ってみたいと思ってね」
興味があって見に来たなんて、きっと彼女は怒るだろう。
そうだ、怒ってみろ。
怒らせたらワイズは困るのだろうけれど、僕はよく僕の世話係の管理官を困らせた様に、彼女を試してみたくなってたまらなくなっていた。
「あら、珍しい」
しかし僕のそんな悪意に気が付いてか、それとも気が付いていないのか。くすくす笑って、暗がりの中にいるであろう姫は楽しそうに僕との会話を続けるべく言葉を紡ぐ。
「ここ数世紀無かった事よ、うれしいわ」
正直、恥ずかしくなった。
僕の彼女に対する興味は結局野次馬か、ただ見てみたい。珍しいから会ってみたい。そんなものか。
数世紀前、僕と同じ事をしたという人がどんな気持ちでここに立っていただろうかと想像したくなり、そんな事してどうするのだと途端に馬鹿らしくなる。
「僕の名前は……ナッツ。よかったらあなたの名前を聞かせてもらえませんか」
それでも僕は彼女に挑み続ける。
それは、僕自身に挑むと同じ事であるから。
「名前、名前ねぇ……ちょっと待ってね。流石にそれは長らく聞かれた事が無いの。そうね……私にも名前はあるわよね」
僕をじらしているのではなく、彼女は本当に自分の名前を思い出すのに苦労して……僕がお忘れでしたら構わないのですと答えたにもかかわらずちょっとだけ意地になって、名前を懸命に思いだそうとした。
結局……彼女は思い出せずに、苦笑気味に好きなように呼んでいいわよと言っていた。
確か私の名前はワから始まって……ああ、何だったかしら?
必至に自分の名前を思い出そうと悩む彼女に、僕は……なかなか口を開けずに迷っていた。
貴方は、ここから出たいと思う事はないのでしょうか?
……僕の口から、告げたい言葉が出てこない。
そう訊ねたいのに言葉が、僕の口から出ない。
結局僕はそこで口を噤んだ。
そして想像で満足する。
きっと彼女は笑いながら答えるだろう、僕が口にするだろう答えと同じような事を……笑いながら。
だって、そうするしかないのよ?
私はここから出れないの。出たらみんなが迷惑するのよ。
興味が無いわ、私は世界に興味無いの。私の事を誰が何って思っているのかも興味が無いの。
だって。
想像の中で、暗がりの中の彼女が笑う。
何も知らずにいれば私の世界はいつまでも平和よ?
*** *** *** *** ***
ワイズ家の『家宝』、生ける秘宝。テラールの魔法使い、名前を忘れてしまった滅ばずの姫。
強引に会いに行き、許されたごく短い逢瀬。
それから何度も彼女に会いに行くことが許されるなら、ついに聞く事の出来なかった彼女の気持ちを僕は、聞きだしていただろう。
ところがワイズ家のこの秘宝、ファマメント政府にも所持する事は認知されていて、いつの頃からか密かに危険なものとして監視されていたらしい。天使教祭祀の家系として、トライアン時代から今も家名を残すことが許されているのは、その抱え持つ荷物の困難さを理解しての事なのだろう。せめて手の届くところに、管理できる範囲に置くべきだと判断されたんだろうな。
とはいえ、テラールに関連するモノだという事はすっかり情報的に欠落しているみたいだけどね。どういう経緯でワイズ家がそんなものを持っているのか、もはやグランソール・ワイズも知らない事だという。
そして、いつしか政府から危険視されている事について、元家主のガルガンチュアからして知らなかったのだろう。
おかげで自分の『立場』が分かった事は助かりましたよと、ワイズはそんな事を僕に厭味ったらしく言って来たものだ。
それで僕は、彼女に会った事を危険視されて『行動するな』の制限を貰ってしまった。
当然もう二度と彼女に会いに行く事は出来ない。そして僕は、自らに課せられている約束を破ってまで外に出たいとは思っていない。
出来ないのだ、僕は課せられている約束に寄りかかって生きている。もう彼女に会う事は出来ないのだと諦めた。
それからしばらくしてグランソール・ワイズはガルガンチュアの跡を継いで天使教神官、支天祭祀の一人となって僕の前に現れた。
どうも例の家宝の騒動で厄介払いされて、結局の所ハクガイコウの世話役に飛ばされたんだとか。
周りの評価はともかく、ワイズはその処遇が嬉しかったみたいだけどね。彼曰く『面倒』な仕事をするよか、我儘に育てられているハクガイコウの世話の方がよっぽど良いそうだ。
これはどうやら本心みたいだね。酷い事言うよ。
人嫌い、僕の場合はそこまではいかないのだけど。
俗世界を忌避する者同士確かに、馬があってしまった事は認めるけどさ。
そうやってワイズがやってきて、僕があっさり姫と再び会う事をあきらめている事を知って、彼は少々驚いていた。
僕が想像していた通り、彼は僕が滅ばずの姫に同類の念を抱いていて、そうやって執着しているのだろうと思っていたようだ。
確かに僕と姫の立場はよく似ている、でも彼女は彼女。僕は僕。
似ている者同士仲良くしたい、そんな感情に流されれば多くの人に迷惑がかかる事を僕は弁えている。
世界の平和を愛する僕としては、そんな事で平穏を壊してしまうのは何よりいただけない事だ。
じゃぁ逆に、テラール姫はどうだろう?
さぁね、分からない。彼女は彼女だ、僕じゃぁ無い。
とにかくそういう風に切り捨てて、考えないようにしないといけない。
そうしなければ執着して、いつまでも彼女の事を忘れられなくなってしまう。
ずいぶんと捻くれてらっしゃるという噂は本当ですねと、ワイズから笑われたな。
なるほど、僕はそのように思われている訳か。
……誰も僕の機嫌を気にして、その心の声など表に出さない。
もちろん僕はそんなの関係ないと思っているけれど。
たまに言葉の端に含ませて、困らせてたであろう僕の、言葉の棘。
ワイズは薔薇の花との接し方をよく知っている。必死に棘を除いたり、刺されないように武装するよりもてっとり早い護身法がある事を彼は心得ていた。
自分も同じく棘を持てばいいんだ。
すっかり相手の棘に絡まって、僕はワイズに無遠慮になっていった。いや、もともと傍若無人なんだけどね。それでも一応世界保全に問題が無い範囲のわがままにしてたかもしれない。
でもある日、僕は世界に波を立てるような質問を彼に投げてしまったようだ。
……君の家の家宝はその後どうしている?
彼女は僕に会ってそれで、何か変わった事はあったかい?
君の家の家宝、迷惑しているみたいだけどどうするつもりだいと僕が尋ねた言葉の中には、そういう意味が含まれていた。ワイズはその家の名前の通り賢くそれをかぎ取ったと見る。
どうにかしようと思っている。
籠の外に出そうと思います……が……さてはてハクガイコウ、貴方はどう思われますか?
もしかして、当時の事根に持ってやり返されているのかな?そんな風にも思う。
ともすれば、このワイズという男は世間で思われている程得体の知れない存在ではなく、思いっきり人間臭い事もするのだなとやや笑いたくもなる。
僕は正直少し気になると答えてやった。でも、介入するような事は一切しないと答えた訳だ。
ワイズはその一言を言わせたかったのかもしれない。
そのようにも今は、思う。
*** *** *** *** ***
どうして僕が封印師なのか知ってますか?
ワイズは、僕に共犯者である事を望んだようだ。
こっちが望んでいないのに以来逐一密かな計画を僕に漏らすようになったのは、すなわちそう言う事だって事に、気が付かない僕じゃぁない。
聞きたくないと耳をふさぐ訳にもいかなかった。僕はすべてに無関心を装い、聞き流すスタイルを貫いている。
反応してしまったら負けだ。
テラールの姫に僕が心の底から同情し、何もしないと明言したにもかかわらず本当は『そうじゃない』事を認める事になる。
ワイズは巧妙に僕の足を縛り、自分の計画が無事に完遂されるために僕を共犯者に選んだ。
僕はしかたなくテラールの説話を再び紐解く。
……最後に語られる、テラールの一族が辿り着いた境地についての話。
人を忌避し、全てを憎む宿命にあるというその一族はいずれ、その憎しみを自らにも向けるだろうと言われている。
なぜなら、今やテラールの血の中には半分、憎むべき人の血が流れている。いずれ自らの中に流れる血に対しても憎悪を抱き、彼らは自らで自らを滅ぼすだろうと彼ら自身が予言した。
そしてその予言の通り、テラール一族は自分の一族から殺戮者を出してそれによって滅んだ事になっている。
昔、北と西の境界が深かった頃、八精霊大陸の歴史で言うと第五期から第六期の話で……北方から人間という人間を滅ぼし去った殺人鬼の説話が確かに西の歴史書ホーリーにも残っているね。
しかしホーリーには、それがテラールだという事は書いてなかったように思ったけど……ああ、そうか。
思い出した、そういえば同一とはされていないけれどこういう説話もあったな。
北方で人間を尽く狩った……殺戮を行った者は北神イン・テラールだという説話だ。
ホーリーが伝える所の時代のズレがあるから別の話だと説かれている。
西に人が栄え魔を退けるならば、北は魔の為に栄え人を退けよう、とかいう理屈で人間を殺戮する事を、かの北神イン・テラールが唱えその通り……北方大陸で人間は問答無用に殺される時代があったのだとか。
勿論『語られている』事で、実際にそうなったと言う実証があるわけではない。繰り返すけれど過去の歴史というのはそういうものだ。
本当にそのような一族が居たのだろうかと、夢物語を読み終えた様に僕はテラールの説話を閉じた。
ナッツとしての意識か、カトウーナツメとしての意識か。多分、どっちもかな。
僕はこの世界であまりにも滑らかに、長く積み上げられてきた世界の設定を『思い出す』事が出来る。歴史や知識を無駄に理解しているというキャラクターをカトウーナツメが望んだからだ。
そして僕はそのキャラクターにすっかり入り込んで、世界の移り変わりに思いを馳せる。
テラールの説話はどっちにしろ、昔話すぎてリアリティアが無い。本当にそんな事あったのかと疑いの気持ちがまず真っ先に働いてしまう。
たとえ滅ばずの姫という有り得ないような存在があって、それと話を交わした経験があったとしても。
本当にそれがテラールなのか?
この、昔々から始まる『物語』に出てくる存在とイコールなのか。
正直、信じられないというのが素直な感想だよ。
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