異世界創造NOSYUYO トビラ

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12章  望むが侭に   『果たして世界は誰の為』

書の8-上- 生きて、かえりし『人柱、ここに極まれり』

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■書の8上■ 生きて、かえりし Go back to you

「おいおい、ここのドコが安全なトコなんだよ!」
 レッドが開いた転移扉を潜り、あの閉じた谷から脱出した先、爆音が隣で炸裂したのに頭を抱える。
 状況に素直に呆れて俺はそのように叫んでいた。
「準備が出来ナいよりハましダろウ」
 エルドロウ、なぜか苦しそうにしているので俺は、とにあえずナッツの張っている防御壁の内側へ退避。
 よく見ると怪我をしているじゃねぇか!背中に激しい火傷の跡が生々しい。
 そのエルドロウが庇うようにアベルがまだ気絶して倒れている……その処置も半端な状況だ。
「どうしたんだ、何だ?」
「替わりましょう、処置をしてあげてください」
 レッドが飛んでくる火炎の魔法攻撃をシャットアウトし、ナッツはすぐに薬箱を取り出し先にエルドロウの火傷の処置を始める。
「お前の再生光使えばいいだろう」
「分からなンか、ふむ、分からんようだナ」
 エルドロウ、俺が状況を把握しないのにため息を漏らす。
「完全に不意打ち喰らっちゃってね、エルドロウは魔法を封じられちゃったんだよ。僕も巻き込まれる所庇ってくれた。インティの仕業だ」
 あいつもう来たのか!
 俺は立ち上がり、状況を改めて見渡す。
「マツナギとアインは?大丈夫なのか」
「エース爺さんも一緒に付いてきてインティを抑えに掛かってくれてる。とはいえ、押され気味なのかなぁ」
 巨大な火の玉が遠慮無くこっちまで飛んで来ては防御壁に当って爆音を伴い砕け散る。
「テリーは?」
 ナッツがあっちだ、と視線を投げるのでそちらを見ると……弾幕の隙間でテリーが、誰かと戦っているのが見える。
 目を細め、誰なのか確認。
 ……テニーさんだ!
 エルドロウの処置をしながら、ナッツは手早く状況を教えてくれた。
 谷を抜け出し、本来ギルに案内されていた地域に向かおうとしたところ、まずテニーさんが立ちふさがった様だ。これにはテリーがなんとかすると向って行った所、インティが飛んできてあっという間にこの、爆発地獄と化した様である。

 ……しかし肝心のあいつが見当たらないな、目的地はもう少し先と云う事か?
 あいつ、すなわち……ラスボスはどこだ!?
 俺は、辺りを見回しナドゥの姿を探す。

 誰を探しているのか察してエルドロウが俺に答えた。
「もっと奥だ、インティとあの剣士らを『改編』して何やらやっている。……隙を見せルな、……右手に触れヌようニ気を付けろ」
 そういや、いつぞやどこかでインティもナドゥの何かに警戒して……逃げ出したよな。
 白衣のポケットから右手を出した時だ。
 そこから何か特殊能力でも発揮するって事か?……改編?何を『かえる』んだ!?
 インティはエズにいた筈だがそもそもナドゥ並みに神出鬼没だ。ふらりと現れてはふらりと消える。
 魔法使いのようなので空間転移もお手の物なのだろう、だからここに今奴がいるのにそんな疑問には思わないが……俺達に問答無用の攻撃をしてきている状況は理解できない。奴も何かやられたのか?
 行動理念は読めないが、在る力を振るう事を喜ぶ性質ではないのは知っているんだ。

 俺は剣を抜き、エルドロウの忠告に向け了解したと答えて走り出した。

「ヤト!」
「援護しろレッド!」
 炎の玉が追尾して飛んでくるのを転がって避け、一つを剣で切り捨てる。
 インティが多数の火の玉を発生させて遠くから投げつけてくるの状況がようやく見えた。
 マツナギ、アインでインティの魔法攻撃をたたき落とす作業をやっているが、二人だけで対処出来る量じゃない。加勢して来てくれてるのはランドールパーティの竜顔の魔法使い、エース爺さん。
 しかしエース爺さんもエズに残ってたはずなんだけどな。
 わっけわからん。なんでここにいるんだ?
 魔術師だから転位門が使えるとして……なんで『どうして』ここに来ている?

「うぉおい!何やってんだよお前は!」
 なんとかインティに近づこうとするのだが、インティは遠慮無く火の玉のサイズを一回り大きくしてこっちに投げつけてくる。弓形だった軌道が直線になり、心なしか勢いが増しているような……っ!俺は素直に背後に向かって逃げた。
 地面にぶつかって破裂し事も在ろうか爆発する火の玉。
 よく見たらあっちこっち穴だらけだ。
 逃げ損ね爆発に吹っ飛ばされた俺をマツナギが捕まえてくれる。俺を無事地面に下ろした後素早く矢を射る、かなり遠くにいるインティに向け、その矢は間違いなく届くだろう。
 インティ、再び火の玉を大量に生成しようと振り上げていた杖で、急遽炎の壁を作り出し矢を燃やし落とした。
 その隙に前へ、俺は走り出そうとするがすぐにインティは姿勢を立て直し空中に大量の炎の玉を呼び出して隙を空けずに投げつけてくる。乱立する大きな柱のような木々を盾にしながら前進しようとするがなかなか近づけない。
 それを迎え撃つのはエース爺さんのファイヤーボール。前方空間で相殺し、重い音と空気が弾ける衝撃が叩き付けられてくる。けっこうこの衝撃もシャレにならん。というか、あの相殺空間である激しい弾幕を、潜り抜ける自信が無いぞ俺!
 前進を諦めかけた瞬間、俺の背後からもっと強力な炎の柱が照射され、敵味方全ての魔法攻撃を部分的にキレーに吹き飛ばした。
 アインのブレス攻撃、連射は効かないがここぞという時頼りになる攻撃だぜ。
 俺は唯一開いた空間を目がけ走る。やはり炎の弾幕が邪魔で矢を射る事が出来ずにいたマツナギが、背後からインティに向けて矢を射る。
 その腕を信用している、俺に当る事はない。
 走る俺を追い越し、矢がインティに時間差で三本迫るのが辛うじて目視できる。
 インティ、再び短い杖を振り上げる。
 む、戦士の勘がこれ以上前に突っ込むなと警告している。
 弾幕地帯を無事潜り抜け、俺はインティに突っ込むのを諦め横に走り大きな木の影に転がり込んだ。
 激しい炎の壁が翼となって羽ばたき、辺り一帯を焦がし尽くした。

 同じくこの炎の攻撃を回避すべく木の陰に入ろうと、俺の頭上で交差する二人を確認。

「どーなってんだよ!」
「俺が知りてぇ!」
 地面に着地し、別の軸で戦っていたテリーが俺の問いにぶっきらぼうに答える。
 上から振り下ろされ来た剣を俺が、受止めた。
 そしてテリーはその隙に体勢を立て直して剣を振り下ろしてきた者……
 テリーにとっては家庭の都合『兄貴』になるテニーさんに向けて遠慮無く廻し蹴りを見舞う。
 ところがそれをテニーさん、巨大な木の幹を蹴り上げて空中で急転換してヒラリと躱す。
 剣を手に握ったまま地面に転がり後ろに宙返り、見事な体さばきで距離を取る。
 流石はテリーの兄貴だ、見た目に騙されちゃいけねぇ、かなりすばしこい。
「それで本気か?」
 挑発気味な言葉とともに武器を構えなおすテニーさん。
 瞬間俺とテリーは立ち位置を変える。
 これは奴ら兄弟の因縁対決だろう。俺がテリーの立場ならヘタな手出しは望まない所だ。
 そうだ、今度合ったら遠慮無くぶん殴るから手出しすんなって言ってたもんな。
 共同戦線は出来ない事を確認するに軽口を叩く俺。
「遠慮してんのかお前?」
「はっ、無意識って怖ぇな」
 一瞬背中を合わせテリーと別れる。
 インティがエース爺さん達の攻撃に気を取られ俺を見ていない事を確認し、俺は木の陰を飛び出した。
 一応インティに知覚されないように距離を取りながら奥の方へ回り込んでいく。
 そんな俺をテニーさんはどうやら、邪魔したいらしい。
 テリーへの攻撃を止めて俺をロックオンしやがったがそれを、テリーはしっかり仕事を把握して足止め。
 そもそもテニーさん、なんで俺達に攻撃してくるんだ?
 今までドコにいたのか、とか。

 それも、この状況を見ればなーんとなく分かるってもんだな。

 なんとかインティとテニーさんの背後に回り込んだ俺は、巨大な木が乱立する広大な森が途切れたその奥に抜ける事に成功する。
 広がる風景を遠く眺める。大地に裂け目が幾つも入った奇妙な情景が広がっていた。
 ここ、まだ中央大陸だよな?だとするなら……ざっと見渡した所中央大陸って随分と広いんだなというのが分かる。
 地平の限り荒涼とした、裂け目だらけの土地が広がっている。
 その手前、人工的に作られた砦のようなものが……崩れ落ちていた。
 随分古いようだ。すでに殆ど屋根類も残ってなくてレンガ造りの壁や柱が残っているだけ。

 インティの背後に回り込んだ形になるが、インティ、すでに俺に攻撃するのは諦めているらしくこちらに背を向けている。

 いや、こっちに攻撃したら……コッチに被害出るもんな。

 俺は崩れかけた柱とレンガの壁の中に収まる人物を睨み付け、武器を構えた。
 ……どっちだ?
 どっちで呼べばいい。
 そのように俺が迷っているのも知っているように……首の上に収まっている顔が答える。
 蹲るランドールの首の上に、もう一つ首が乗っかっている。

 非常にへんてこなものが砦後の窪地に収まっているのだ。

「君も入れ物に執着する方かね?」
「ナドゥ……!」
 そうだよな、何迷ってるんだ俺。
 ランドールな筈がない。
 この状況は全部、ナドゥ・DSが原因としてあるんだ、あそこに居るのは奴に決まってるだろ!
「流石の君達も、私が、誰なのかは見ただけで判別はつかないようだ。斬るべきか、そうではないのかは瞬時に判断するというのに」
 がっくりと首を折り、ランドールが項垂れている。その上にもう一つ首が……突き出している。その首がナドゥのものだ。
 ……なんなんだ?
 よく見るとようするにランドールの上半身、そっからナドゥが生えている。しかしそれだけで状況は説明出来ない。多いぞ、なんでかわからんが腕が多い。……ランドールに3対、腕がついている。
 一対はランドールのだ、剣を握っていて下げ気味になっている。その下がった肩を引っ張り上げるようにもう一対手がついてて、その上に白衣の袖がくっついている明らかにナドゥの腕がある。
 うっすらと糸のようなものが張り巡らされているのがキラキラと反射して確認出来た。
 その奥に、その、得体の知れない怪物が蹲っているんだ。

 ……俺、シリアさんに殴られるかもしれない。
 とっさにそんな事を考えてしまう。
 いやでも、ランドールとシリアさんは……全ての状況を了承して別れたはずだよな。
 ランドールを元に戻せない、このまま倒すハメになってしまってもシリアさんは、俺を恨まないのかな?いいや、とどめを差してしまったら何はともあれやっぱり恨まれるだろう。
 泣かれるよな、きっと。
 勇者ランドールはどこか遠くに行ってしまったよ、と嘘で誤魔化す事なんか俺には出来ない。
 誤魔化しても何しても、やっぱり泣くと思うなあの人。
 誰であろうと悲しませたくない……そう思った俺は瞬時にそうやって、シリアさんの事を考えてしまってたんだが……要するに、それって逃避だよな。

 俺にはこの状況をどうやったら元に戻せるのか見当が付かねぇ……。

 一瞬目を閉じ、改めてこの怪物を確認して睨み付ける。
「……何しやがった、お前……!」
「見て分からんかね、融合だよ」
「異物混入してんぞ」
「代替に使えるかと思ったが、存外手こずっている。確かにこれは異物かもしれん」
 ナドゥは笑うでもなくしれっと答える。
 ランドールを取り込み融合をしようとしやがっている……?
 反吐が出る、ランドールの意識は?もう無いのか?
「リュステルは分裂を行いたかった訳ではないのだ」
 ずぶり、と中央にある腕が痙攣して内側に少し沈む。融合点らしいところがぶくぶくと泡立ち、得体の知れない液体を漏らしているのを俺は、嫌悪を顕にもう一度睨み付けた。
「彼がやりたかったのは、融合だ」
 ユーステルもといキリュウが予言した通りだ。

 すげぇ、どーでもいい。

「何でそんな事を」
 望んでいるんだと続くべき言葉を遮ってナドゥは言った。
「分裂してしまったからだ」
「意味わかんねぇ、お前が、いや違った。お前ら曰くリュステルが自分の都合でお前らを分裂させたんだろう」
 リュステルは都合あって自分というのを分裂させたらしい。もう一人の自分を作って、そしてそれをさらに分裂させたらしい。
 それが『こいつら』複数形、ナドゥ・DS。
 俺も同じ手段でもって非常に多くに分裂させられた。
 分裂させたいのではなく、本当は融合させたい?どういう意味だそれは。
「分裂する事象を理解するに、分裂させれば理解が得られると考えたのだろう」
「訳がわかんねぇ、お前は、そんなワケの分からん事の為に……!」
「彼らは分裂するはずではなかった」
「……?」
「彼らは一人で生まれるはずだった」
「何の話だ……?」
「どうしても分裂する、理論的には何も間違ってはいない。それでも彼らは、生まれ出るに別々を選ぶ」
 ずるずると、接合点に向かって収縮する様子がキモい。
 思わず嫌悪感でぶった切りたいんけど奴の意味不明の言葉の事実も気になる。
 この周りに漂う糸も怪しいので出来れば不用意に触れたくない。
「別々に?……それを、……融合したい?」
 別々って何だ。
 何が別々だ?ナドゥは何を示して言っている。
 どうやら自分達の事じゃないのは分かったが……。

 瞬間、俺の脳裏にリコレクトしたのはミスト王の言葉だったりする。

 王は言った。
 双子の弟エルークを失ったと理解して……。
 自分達は、別々に生まれ出るべきではなかったと言った。

「……!?いや、……まさか」
「私の望みに迷いはない。ようやく一つになる、そして願いは叶ったのだろう……それを確認している」
 目の前で、ランドールの体の中に潜り込んでいくナドゥの声が泡立つ。
 背中の奥に沈み行くにランドールの体が後ろに傾ぎ、俯いていた奴の顔が苦痛に喘いでいるのをようやく理解する。
 歯を食いしばり、自由の効かない体を駆けめぐっているであろう得体の知れない感覚を必死に耐えている形相だ。
「ランドール!」

 ランドールは我慢の限界を超えたように悲鳴を上げた。
 空間をつんざき、悲痛な叫びに俺は、様々な迷いを捨てて剣を構えて地面を蹴る。

 奴が望んでいる事が何か、受け取っていた。瞬間に迷いはない。迷うのは瞬間を超えたその後。
 起こした行動に理由をこじつける時。
 細い糸を切り開き、得体の知れない液体の飛び散る地面に足をつけ剣を振り下ろしたが……それは剣によって阻まれている。
 ランドールはこちらを見ていない、しかしランドールの腕が、右手に握る奴の剣が俺の攻撃を阻んでいる。落ちていた肩が上がり、剣でしっかり俺の剣を阻んでいやがる。
「私の実験の邪魔するな」
 実験だと?モルモットみたいにランドールを扱うのを許せるか!弄ばれるのは俺だけで十分だ!
「それはお前の、じゃない!」
「私が作ったのだ」
 ナドゥの断言に俺は顔を顰めた。次の瞬間強い力で弾かれ、俺は一旦背後に下がって下段に剣を構え直す。

 ランドールは『王の器』とかいうモノだという。それはファマメント国の見えないところに仕えていた魔導師が作ったものらしいな。
 その魔導師の名前はナドゥ・DSだったとワイズも言っていた。
 リュステルじゃない、すでに分裂した後のナドゥが作ったモノって事だろうと思う。
 ファマメント国にある謎の『王の器』という存在、これはランドールだけに限らない。テリー曰く……ウィン家の次男坊、テリオス・ウィンも同じく『王の器』なのだと自ら暴露した。そうやって自分は意図的に作られた存在だと、テリーはその事実を知ってしまって……自分の家を逃げ出したんだ。
 意図的に作られたモノを恐らく、王の器と呼んでいるのだろうと思うんだが……。
 しかし、テリーには何か不具合があった……らしい。
 だからランドールが作られたと、テリーはその都合までを把握していて、ランドールの側に自分の兄であるテニーさんが控えている事の意味を恐らく……最初っから知っている。
 テリーが、ランドール・パーティとファマメント国のヘルトでブッキンした時にぼやいてたのをリコレクト出来る。
 裏があるじゃねぇか、とか何とか奴はぼやいた。
 その裏とやらの意図をテリーは教えてくれねぇけどな。

 ナドゥは、大魔王ギガースを倒しに行く前からすでに居る。
 その前からリュステルから分離しているんだろう。そうでなければ辻褄が合わない。
 では、大魔王を倒す魔王討伐第一陣に合わせシーミリオン国を旅立った時期国王候補のリュステル・シーサイドはどこでナドゥらに殺されたのだろう?
 思い出すにリュステルは後天的に自分を魔物に変えていると聞いているな。後天的な魔物化の手段、暗黒比混種というのを発生させていると聞いている。
 魔物化、というのは環境を生き抜くために必要とする手段だ。
 誰でもそうなる可能性があり、権利がある。
 そういう自由がこの世界では許されていると、俺は何度も繰り返してきた筈だ。
 俺もまたそうやって暗黒比混種を後天的に発動させて怪物化する可能性を秘めている。どうにも発生条件を揃えているらしいからな。
 そうやって魔物化し、自分の規格を変えた俺がGMだ。
 生きるために行う自らの改変、一人で生きるに欲した力の果てに俺は、ああなってしまう分岐がある。

「これは私が作ったものだ、リュステルが作ろうとして失敗し、分裂させてしまった。だから新たに私が作ったものだ。しかしこの技法では中身が伴わない、分裂はしなかったが一つ足りない。完璧には物足りない」
 完璧なものなど人は作れないのかもしれない、ナドゥはそのように淡々と語り、ランドールの体を操って武器を構える。
「だから私が中を補ってやろう」
「ランドールは入れ物じゃない!」
 ナドゥは少し笑い、明らかに軽蔑して言う。
「思いの外まともに育ち、我が強く成りすぎたのは認めよう」
 奴の我が強い、というのは確かに俺も認める。だが……憎と愛、それを執着としてしか認識出来ないランドールの壊れた仕様は、こいつが人間としての存在をハナから求めていない事に起因するという事実に、ブチ切れそうだ。
「幼稚だと君も思ったろう」
 事実だ、俺はランドールの中身は未成熟でとんでもないものだと何度も思った。
「彼は一人では生きられない。必ず自分に執着するものが必要で、その縁の中にしか存在出来ない。独り立ちなど出来はしない」
「それでも、独立を許せよ!」
 子供は親の所有物じゃねぇんだぞ!?まぁ、俺には両親いないけど。だから誰からも執着されなかったけど。
 俺は子供の時から一人だった訳だけど!
 その孤独と戦うに歪みそうになりかけた訳だけど……!
「ランドールはランドールだ、全部奴のだ!お前のじゃない、誰のでもない、何で奴を巻き込む!」
「君が私の片割れを壊しただろう」
 後悔するぞ、黒く溶け行く赤い旗を付けていたナドゥ・DSがそのように俺に言ったのを思い出している。
「欠けたのだ、だから私も一つ補ったに過ぎない」
 巫山戯んな、そんな理屈知るか!
「俺の所為だってのかよ!」
「それに、彼を補うはずのものを彼は手放してしまった」
「……結局中身を取得出来なかった」
 声がランドールの口からも漏れ出す。やべぇ、完全に乗っ取られつつあるのかよお前!
 ぶん殴れば元に戻るかわからないが、そりゃ殴ってみなけりゃわからんよな!
 壊れた電化製品がそれで直る場合もある。理論的じゃねぇけど。
 再び斬りかかるも剣で阻まれる。それを間髪はじき飛ばし俺は、その隙に蹴りを叩き込もうとしたがランドールの左手が容易く掴みにかかってくる。……警戒すべきは右手だ、左は大丈夫だろうが、今その右手警戒しろよを思い出して接近し過ぎたかもしれないと足を掴まれ投げ飛ばされながら反省した俺だ。
 いかん、ムカつき過ぎて頭に血が上っている、少し冷静になるべきだ。
 弾力性のある糸をぶち破って吹っ飛ばされた。
 これは繭か?絡まる糸を引き剥がしながら、俺は冷静さを取り戻そうと深呼吸。
 立ち上がったランドールが再び項垂れている。 
「ウリッグ、……俺の中身」
 呻いている言葉を聞きつけ、俺は叱責する。
「しっかりしろよランドール!」
 だめ、冷静とか俺には無理。
 何が何でも殴ってやろうと、かかっていく事に決めた。
 右手を警戒?何をしてくるか分からんが、今更何かを恐れて前に進むのを止める俺じゃねぇ!
 すでに破れている繭を払いのけ左の拳で殴りかかっていくがやっぱり奴の左手で掴まれてしまう。
 強い力だ、その怪力でやっぱり投げ飛ばされてしまった。
「未完成、俺は……不完全」
 うわごとのように呟くランドールに、声はまだ届くはずだと呼びかける。
「お前はお前だって、みんなそれを認めただろう!ワイズがお前に言っただろうが!」
 いつぞやワイズは地雷だったよなと思ったけどもはや地雷撤去されてるみたいで反応無し。
「そうですラン様、貴方はこのままでは不完全だ」
 いきなり横から口を出してきたのはテニーさん。近くまで来ている、何してるんだテリー!ちゃんと引きつけておけよ!
 追いかけてきてテリーが殴りかかるもこれを軽々と避けているのが見える。
 手加減している訳じゃない、テニーさんが思いの外出来る人なのだ。
「貴方は全ての頂点に立つべき器、」
「唆してんじゃねぇよ!」
 テニーさん、追撃してくるテリーを見据えて笑い出す。
「全てを投げ捨てて逃げ出した貴様など不要だ!今更戻ってきても遅い!遅いぞ!貴様には渡さん!誰にも渡さない……!」
 ……テニーさん、ちょっと変?
 生真面目な顔が少し右に狂い、引きつった口から笑い声ともうめき声ともつかないものを漏らしながら発作的にテリーに向け罵倒しはじめた。
「お前には背負えん!お前には無理だ!永久に逃げていればいいものを!来るな、来るな、戻ってくるな!」
 言われている事に色々思う事があるのだろう。テリーは自分の家の都合から逃げて来たと俺に、言った。
 苦い顔をしているテリーの蹴りをやっぱり、テニーさん避けてる。避けてばかりだ。
 ……なんで攻撃しない?
 そのように一瞬ボケてたら、どっからともなく火の矢が飛んできて俺はあやうく吹っ飛ばされる所だった。俺の鋭い戦士の勘でなんとか間一髪避ける。 
「あぶねぇ!」
 しかし遠慮無く次の火の矢がコッチ目がけて飛んでくる。
 その場を逃げ出すしかなく身構えるに、横から氷の矢が飛んできて相殺。屈み込むに頭上で爆発して双方砕け散る。
「……レッド!」
「お待たせしました、加勢致します」
「魔法使い相手は辛いね、」
 マツナギ、素早くあたりを飛び回っていたがようやく俺の隣に回り込めたようで素早く木の幹を蹴りながら降りてくる。
 俺は背後にランドールを伺うも、どうにもまだ本調子ではないらしく窪みを出てくる様子がない。

 この隙に状況を改めて確認しよう。

「なんか様子が変だぞ?テニーさん、どうしたんだ?」
「エルドロウに詳しく話を聞いた所、どうやら……ナドゥの切り札はログ改変で間違いなさそうですね」
「……ログ改変?」
 大量に飛んでくる炎を全部氷の盾でシャットアウトし、レッドは眼鏡のブリッジを押し上げた。
「ようするに、記憶操作ですよ」
 マツナギがふっと身を屈めたと思ったら問答無用で俺と、レッドを両脇に抱えて飛びさすった。
 その瞬間俺達が立ってた場所が爆発。
 インティの意識が完全にこっちに向いた。背後にいるナドゥに攻撃を当てないように配慮したのか、攻撃法を変えやがったのか!? と、状況を聞く為に、テリーもテニーさんと距離を取ってこっちに合流してくる。
「あのクソ兄貴、マインドコントロールされてるって事か?」
 切り札奥の手としてはちゃちいなと俺は思うが……いや、この状況を見るにバカに出来ないのか?
 まさかテニーさんがここで現れて、攻撃してくるとは想定してない訳だし。
「そういう次元ではないのでやっかいなのです」
「やれやれ、流石に折れるのぅ」
 ふっと空間転移してエース爺さんもこっちに合流してくる。
「爺さんはどうしてここに?」
「エズに現れたあれを追っかけてきたのじゃが。……ふむ、説明しておらんかったの。儂の目的はそもそもあの少年じゃ」
 エース爺さん、長い鼻先で……木々の間で空中に浮きながら、次の攻撃の準備を整えているインティを差している。
「あれはのぅ、元々は暗黒神殿に奉られてあったご神体なんじゃ」
 暗黒神殿、リコレクト。
 マツナギが巫女さんやってたっていう、シェイディ国の秘密神殿だ。
「ご神体だって?」
 その神殿に昔仕えていたマツナギがやや驚いて聞き返している。エース爺さんはどうにもマツナギと顔見知りだったな。暗黒貴族種ではないのにどうやら暗黒神殿の関係者らしい事は前に漏らしていたと思う。
 エース爺さんの経歴は結構謎だ。その上、死の国の出身でもあるという。
「勿論密神じゃ、お前さんも知りはせんじゃろ。……暗黒神殿に大陸座を名乗る男が迷い込んで来た。それで、まぁ色々あってあれは大陸座の都合で暗黒神殿から持ち出されてしまったんじゃなぁ」
「…………」
 大陸座のノイザーだな。
 ノイザーと関わった末、不幸にも娘を失っているマツナギは黙り込んでしまう。
「ま、その後のドタバタはお前さんも知る通り、その後大陸座も見えなくなった。儂には暗黒貴族種には恩があっての、持ち出されてしまったご神体の行方を捜すに国を出て、手がかりを探すにランドール・ブレイブに参加したという事なんじゃ」
 ご神体ねぇ……あ、俺のおバカな脳が珍しく良い具合に謎のパズルを解明しやがった。

 そもそも暗黒神殿に奉られていたのは何なんだ?と後で聞くに『暗黒神と言ったらあれしかないでしょう、北神イン・テラールですよ』みたいな事を言われたのをリコレクトしたのだ。
 そんで、この前その実物を事も在ろうか拝んでしまった。
 イン・テラールは何故だか……インティにそっくりだったな。
 ご神体とはよく言ったものだぜ。
 ただのそっくりさんなのか、はたまた……何か縁でもあるのかどうか。
 俺はよく分からんがエース爺さんの話に納得するだけの材料はある。北神を奉ったご神体とやらが、北神そっくりの誰かしらであっても違和感はない。

「じゃ、爺さんはあれをどうしたいんだ?暗黒神殿に納め直したい訳か」
 インティが杖を振り、炎の矢を何本も打ち込んできたのをレッドが迎え撃つ。両腕を振り上げその両手に風を呼び、嵐を呼び出して大量の水を生成しさらに、それを氷らせて巨大な壁を打立てては矢の攻撃を阻んだ。
「……そもそも、なんで動いておるんじゃろな」
 エース爺さんのその言葉に俺達はその言葉の意味を探す。
「……え?」
 違和感にようやく気が付く俺。
「儂は触った事はないが……奉られているに人ではなかったと思ったがのぅ、ウラスから聞くにご神体として奉られていたのは滅びの無い人形だったはずなんじゃが」
 ウラス、ってのは俺達が暗黒神殿に入る時に世話になった人だ。マツナギの親父さんらしい、ぶっきらぼうな人だった。
「滅びのない、人形?」
 マツナギ、父からそれらの話は聞いていないようで怪訝な様子で聞き返している。
「人の形をしているが……何というか、そこにあるのは形だけというイメージを受けたな。魂がないのじゃ」
 ……じゃぁ、今まで俺をお兄ちゃんなどと呼んでからかってきた、あいつは何だ?
「存在が破綻しているのでしょう。魔王八逆星として、本来あった姿を変えて彼らは大魔王ギガースに敗れて戻ってきたのです。肉体が無いはずのエルドロウに怪物としての肉体を所有させたのです」
 魂を持たない者が魂を得る事も、あり得るってか。
 でも、そうやって歪に得た心でなぜ、お前は……!
 あいつが俺に囁いた言葉をリコレクトしている。

 なぜ俺であればいいのにとあいつは言ったのだろう。
 自分を壊してくれるものが俺であればいいのに……と。

 今、折角得たであろう感情を殺されてしまったように、エース爺さんが言うように人形のような無表情で魔法を放ってくるインティを俺は見やった。
「ヤト、彼は僕らに任せてください」
 俺がインティをどうにかしたい雰囲気を察してか、レッドが先回りしてくる。
 言いつつ俺に何かを投げ渡してきた。丸くて赤い玉だ。これは……イーフリートのデバイスツール!
 これで何をすればいいのか、これで、一体何が出来るのか。
 把握出来る。デバイスツールは赤い旗を除去出来るものではないし、赤い旗が起している現象を元に戻す事は出来ない。
 しかし、全ての代替として働くデバイスツールを赤い旗の替わりに差込む事は可能だ。
 破綻している存在を、破綻している事さえ受け入れてこの世界に許す事が出来る。

 了解した。

「インティを救え……!」
 俺は、それを約束するとインティに向けて伝えるように言った。だからあいつはここに来たんだ。
 救いを求めてきたんだろう、なら救うべきだ。
 何があいつにとって救いになるのか、それはまだよく分からないけど……。
「……具体的にはどうしますか」
「まず近くに行って話を聞くしかないよなぁ、なんで問答無用で攻撃してくるんだよアイツ」
 結構俺に友好的だったのに。
「言っておきますが、殴っても何しても彼の呪縛は解けませんよ。恐らく彼らはログ改変を受けている」
 やっぱり俺の思考を先読みしてレッドが言う。
 そうだった、ナドゥの切り札は『ログ改変』だとレッド、言ったな。つまりそれは……ナドゥに改編されて、つまりログが書き換えられて……仕様が変わったって事?
「魔法にかかってるんだろ?」
 と聞き直したのはテリー。
「違います、マインドコントロールじゃないと言っているでしょう。ログ改変です。記憶の改ざんです、こちらもそれが出来ない限り、正しく修繕のしようがないのです」
 テリー、隣で拳が鳴るまで握りつぶして……顔を上げた。
「つまり、戻らないんだな」
 誰に向けて戻らない可能性を察したか、分からない俺ではない。
 振り返る。
 俺達の背後に回り込み、動かないランドールおよびナドゥを守るように構えているテニーさんの頭上には……やっぱり、赤い旗がはためいているのだ。
「……記憶を消し去る事は出来ないはずなので、時間はかかるでしょうがもう一度組み立て直す事で元に戻るとは思います。しかし、その作業が出来るのはログの持ち主だけです。魔法によって歪められている事なら元に戻せますがそういうものではない、だから魔法で元に戻すことはできない。魔法で歪める事は出来ますが僕は、それはあまり推奨しませんね」
 記憶を操作できるのは自分自身という事か。
 そう言ってレッド、横目で……ナドゥから侵食されているランドールを伺った。
「ナドゥを説得して元に戻してもらえるならば話は早いのでしょうけどね、どうでしょうか」
 俺は顔を顰め小さく悪態を付いた。
 前言撤回、奴の能力はやっかいだ。
 しかし、そんな都合の良い能力があるならなぜ乱発しないのだ?何か手段を講じられないように使用は最低限に絞っているのか、それとも能力に限界値があるのか?
 何はともあれ、殴っても何しても元に戻らないとするなら、あのおかしいテニーさんを止めるにとりあえずは……暴力沙汰に及んで抑え込むしかないよな。
「テリー、どうすんだ」
「愚問だろ、……手ぇ出したら許さねぇって言ったはずだ」
 そう言ってテリー、マツナギを振り返った。
「ナギ、頼みがある」
「なんだい?」
「……そのカタナを貸せ」
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