異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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12章  望むが侭に   『果たして世界は誰の為』

エピローグ

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『彼女の異世界創像脳腫瘍トビラ』epilogue 

 東京ゲームショウ。
 名前の通り東京で毎年行われているゲーム開発各社による最大の展示会である。
 ゲームと一口に行ってもさまざまなジャンルはあるが、ここで取り扱われている多くはコンシューマーとアーケード、コンピューター上のアプリケーションゲームの分野に限られる。
 しかしこれでも非常にざっくりとした説明なのだ。
 コンシューマー……家庭用という意味だが、そう一口に行っても多様化されたさまざまな形のハードが存在するし、アーケードと分類されアミューズメントパークやゲームセンター等に設置されるタイプの大型ゲームも同じくである。そして、今は携帯端末で相互通信で遊ぶタイプのゲームも沢山開発されている。

 パーソナルなマイコンピューターの中に隠された、イースターエッグに始まって、ゲーム専用機の時代を経て……多様化する世界に適応したゲームの歴史は、人が思っているよりも深く複雑で、この世界を語れるものはあまり多くはない。
 人は歴史を語らず、その末端においてもたらされた娯楽性だけに興味を示す。
 ゲーム世界に形成されるささやかな仮想世界をひたすらに求め、仮想世界はめまぐるしい進化を果たし……。

 今、新しいトビラをまた開こうとしていた。




 ……なんか、客層がおかしい。

 1日目だからだろうかと思っていたが違う。
 どうにもこれは、このゲームショウに来ている人間の種類がおかしい。
 佐藤凪がそれを明確に把握したのは、午後になってからだった。

 ゲームショウ1日目は関係者向けにセッティングされていて、関係者出ない場合コネが無いと入れない。実は、これでコネが無いわけではない凪は1日目に入った事が何度かある。
 いやむしろ、1日目入るに持てうるコネを最大限に使いチケットを取ろうと毎年あれこれやるわけで、今年はそんな事しなくても1日目から、しかも関係者裏口から入れててしまう待遇を素直に喜ぶ事にした。

 ……遊びじゃないぞ、仕事なんだからと、親友の棗にくぎを刺されても祭りは祭り。
 許された自由時間に自重なく他のひいきブースに入り浸り、一般に先立って先行公開されている遊戯台を試し特別グッズを買い漁っていた。

 で、どうにもおかしいと気がついたのは某有名老舗会社のプレイビューを大型画面で眺めながらコーヒーを飲んでいた時だ。そこで知り合いと会って話をしているに……お前、あれなんだと背後を指さされてようやく凪はおかしな事に気がついたのだった。

 振り返るに、見慣れない妖しい一団がこちらを窺っているではないか。

 ……彼らは、変だ。
 まず、奴らの装備品が変だと凪は思った。
 明らかに『この界隈』の関係者じゃない。
 こんなにお宝があふれている中で、紙袋の一つも持たない手ぶらというのはどういう事だ。
 纏っている雰囲気もおかしい。
 明らかに、このゲームショウという場に合ってない。

 その証拠にまっすぐ、その一団は……どうにも自分を見ているらしいと気がついてこっちに押し寄せてくる。
 凪は慌てて眼をそらすが遅い。
 間違いなく一団が近づいてきている。
 こうなると凪、基本動作的には逃げてしまう。
 その動作をよく知っている凪の友人は逃げに走った凪を素直に見送り、まぁがんばれよと手を振るのだった。


 ところが逃げ場は多くなかった。
 凪は仕方がなく手荷物いっぱいに抱えて自分の担当ブースに戻り、裏口から中の控えに戻る。

「おー?どうした深刻な顔で」
 凪の先輩となる広報部担当の佐々木亮の言葉に、深刻な顔で答える。深刻だ、訳の分からないものは基本的に怖いものである。
「な、なんか変な集団に追い回されまして……」
「もしかしてあれ?」
 能天気に亮が指さすに、凪が担当している新型ハードのブースLONiiの前に怪しい一団が集っている。
 まさしく、早歩きで逃げる自分をやっぱり早歩きに追い回していた一団だ。
「なんスかあれ、なんか変じゃないスか?」
「確かにゲームショウの客じゃないわよね、……多分あれ、アンタへのお客よ」
「え?どういう意味ですか?」


 理由については午後からのLONiiの関係者に向けた説明会で判明する……と、言われてしまった。
 ようするに、来年度にベータ版テストが始まるこの新型ハードについて……ゲームとは違う観点から目をつけてきた研究者達が集まってきているらしい。
 第一次テストプレイヤー代表という立場にある、凪に興味を示しているという事らしいのだ。

 ゲームではなくてプレイヤーに興味を示すというのはどういう意味なのか、凪にはさっぱり見当がつかなかったのだが……。

 遅れて到着した開発者代表の高松雅による説明会が始まるに、理解する事になる。

 要するにLONiiの核となるシステムは本当に人体への影響が皆無なのか。
 連中は、そこに興味があるのだという事に遅れて気が付く事になる。

 そういえばそうだ。
 LONii……慣れていないので凪や開発者達は未だにコードネームである『MFC』と呼んでしまうのだが、これに最初に触れたとき本当に脳への危険性は無いのかと危惧した事を懐かしく思い出す。
 ゲーム世界に限らず、古くからSF小説や映画などのメディアでその危険性が警告されている、LONiiは……俗に言ってしまえば仮想世界へのダイブインが出来るゲームハードである。
 プレイヤーの脳で直接ゲーム情報をやり取りする。
 基礎中の基礎であった、コンピューターゲームに必要だったモニターと、コントローラーという概念を取っ払ってしまった超新型ハードゲームだ。

 本当に脳への影響はないのか。
 ゲームというものに基本的に否定的な反応しか示さない機関はもちろんの事、この画期的なゲームハードの開発成功に群がってきたのは……3割、脳に関する研究者達だという。
 ゲーム関係ないのになんで関係者招致なんかしたんだろうと亮に聞くに……『提供者』の関係で結果報告をする約束は結んでいるから仕方がない、という答えが返ってきた。

 提供者。
 凪は……さっぱりわからない難しい質問攻めにあっている開発者代表の高松と鈴木の様子を少し離れた所に見ながら……画面に映し出されている画像を眺める。
 横文字によって断面図が示されていた。

 わかりやすく簡略化されているが、これは。
 端末LONiiが繋がる根本にあるシステムの縮図だ。
 凪もすでにその正体は知っている。

 それは、空想する脳腫瘍。

 与えられた情報の関連性を理解し、意図を紡ぎ、辻褄を合せる……『システム』。
 もちろん『生きている』人間の脳ではない。
 脳が果たす役割によく似た動きで情報のバイパスは紡ぐが、そこにすでに人間的な意図はなく、脳腫瘍と言った通り生命体としては癌化していて存在として破たんしている。

 LONiiはとある脳研究にて発見された『脳腫瘍』から生まれた。

 切除された脳腫瘍、ようするに悪性腫瘍だ。それが生み出した『システム』と言っても、結局元は人間の脳であるのには変わりない。それが知れると何かと煩いだろうという事で……『MFC』の開発は長らく極秘であったようだ。
 最もゲーム作成プロジェクトとして持ち込まれた時点ですでに、その偶然が作り上げた不思議な脳腫瘍から、仕組みだけを取得した『システム』になっている。
 倫理的な問題はつつがなくクリアしているのだが、それでも噛みついてくる連中はいるなぁと、凪は無遠慮なマスコミの質問を聞き流し苦笑する。
 LONiiは実際に脳に繋がっている訳ではないのだ。
 人工知能、とは少し違う。
 残念ながら……これは知能というべき役割は果たさなかった。
 だからこの不思議な空想をする脳腫瘍の研究者達は、もっと別の方法でこの『システム』を生かす方法を探ったのだろう。
 要するに、金儲けの手段に生かしたのだ。金儲けと言うとなんとなく汚く思うならば言い直すとしよう。

 ビジネスチャンスに生かされたのである。

 そうやって『MFC』プロジェクトは始まり、その先にトビラと呼ぶ世界が開けたのだ。

 奇跡の脳腫瘍の提供者が女性である為に、つけられたコードネームは
『MOONY From SHE』
 彼女の中の夢の世界。
 その頭文字と、古い時代からゲームを引っ張って来た機種の名称を捩って『MFC』。

 いや、奇跡だろうか?

 凪はふっと目をそらして自分の胸につけられた悪趣味なネームプレートを見やる。
 この通りリアル顔は晒すにしかたないとして、一応本名は任意で隠すという話になった。本来開発者として本名が通るのは誇らしいはずなのだが、都合凪は本名よりも仮想現実に置いてある実績の方が高く、今後も主にそっちで評価されていく事になるだろう。
 ……ネームプレートにはヤト・ガザミとある。
 いやぁ、それもどうだろうと凪は恥ずかしく思うのだが、これは上からの命令なんだからしょうがない。
 正直に言えば、この名前の方が『世界的』に言って『有名』なのだから仕方がないのだ。
 本名で理解されにくいならこっちのネームで名乗るしかない。

 空想を広げ異世界を創造するのは奇跡だろうか?

 凪は開発者たちの難しいやり取りを聞き流しながら思う。
 彼女は『それ』を行える唯一のものと言い現すのは間違っているだろう、と。
 人間は空想するもので、きっと誰しもその脳に、自分が主人公になってる異世界を持っていて、そういう世界を創造しているはずだ。
 だからこそ彼女に連なり、彼女の紡ぐイトの元、夢を見る間に。
 誰だって異世界を創造する事は出来る。

 そしてその世界に、この世界とは異なる場所に。

 誰だって、迷い込む資格はあるんじゃないのかな……と彼は、ぼんやりと思っているのだった。





                  おわり
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