異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

文字の大きさ
216 / 366
本編後推奨あとがきとオマケの章

番外短編1『平和を守りたい魔王八逆星の説話』

しおりを挟む
 □ ■01 主人公のオマケがみたい □から分岐しました

番外編1『平和を守りたい魔王八逆星の説話』

 俺はここにいてもよいのだろうか。
 風が吹き抜けて木々のざわめきの音を聞くたびに……不安に駆られる。

 どうしようもない気持ちに……思考も、手足の動きも完全に止まって……胸に渦巻く不思議な感覚が何であるのか確かめるように振り返り、無心に遠くを眺めていた。

 リーフの奴、また手を休めている。

 陰口に慌てて我に返る。

 隣の畑のおじさんが俺を、怪訝な目で窺っているのと目が合ってお互いにそらした。


 ……俺はここにいてもよいのだろうか。
 問いかける者が誰なのか分からないこの、不気味な疑問は膨れ上がる一方だ。


 それである日、我慢が出来なくなって俺はそれを口に出した。
 行き倒れていた俺を拾い、自分が誰なのかも忘れ去って途方にくれている俺の面倒を見てくれてる。優しい老夫婦にだ。
 小さな畑にしがみつくように暮らしている。
 一方的な聞く話を聞くに、娘と息子がいたそうだ。しかし娘は隣町に嫁いで行ってそのまま都会に出てしまって疎遠になり、息子もまた田舎暮らしを嫌って出て行ってそれっきり。
 音信不通でさびしくて、さびしくて……と、老夫婦は遠慮なく俺に告げて……。
 たぶん、俺を家族たちの代替えとしてそばに置いている。
 その雰囲気はすぐに悟った。

 嫌だと思ったわけじゃない。
 俺は自分がどこの誰なのか本当に、本当に分からなくて途方に暮れているから。
 だけど……何か、心のどこかで。

 腑に落ちない感覚が後を引く。

 自分が何者なのか分からないというのが一番の不安なんだと思う。
 全ての不安はきっとそこから出ているんじゃないだろうかと思うけど、考えても、考えても俺は自分が何者なのかを思い出せない。

 仕方がないので一心不乱に畑の作業をするしかない。
 体を動かして気を紛らわせないと堪らなくなる。頭の中がからっぽで、あまりにも何もなくて……。
 どうにかなってしまいそうだ。


 喉の渇きより、飢えよりも強烈な喪失感に立っているのも座っているのも許せなくなる。


 俺は、ここに居てはその、堪らない不安を払拭できない気がしていた。
 だから……お世話になっているのは感謝しているけれど。


 ここから出ていこうと思うんだ。



 老婦人は必死に俺を止めようとした。
 俺の気持ちを理解はしてくれたけど、それでもあの手この手で俺を手放すことを嫌がった。
 季節が悪いから夏になってからにすればいいとか、貯えが少ないから収穫が終わってからにした方がいいとか。
 俺を気遣う言葉のようで、その底には俺を手放したくないという気持ちがあるのがよくわかる。

 老夫婦の気持ちは……分からないでもない。
 寂しいって事なんだよな。
 娘も息子も戻ってこないから……寂しいから俺にここにいて欲しいというんだ。
 この地方に一人というわけじゃない、村人は他にもいる、一人じゃない、夫婦なんだし寂しい事はないだろうと最初は思っていたけど、二人の一方的な話を聞いているにそういう問題じゃないのだ、という事は俺にも理解できた。

 お隣の家族と仲が悪いわけじゃないらしいが、隣の畑の持ち主は俺をよく思っていないように思う。
 気が付くとじっと、睨みつけられている事がある。
 それで、どうにも老夫婦家族とお隣の関係が最近ぎくしゃくしているのが俺にも分かる。

 老夫婦曰く、隣も息子二人とも家を出て行ったから寂しくて、あんたがウチにいるのを嫉妬しているんだわと言っていた。


 じゃぁ、悪いのは俺だよな。


 俺がいるからこの、小さな村の小さな世界の、小さな平和が崩れたんだ。
 そう思えて罪悪感は募るばかり。



 穏便に説き伏せるのは諦める事にした。俺は……無言で老夫婦の家を出る事に決めた。
 で、こっそりと家を出る準備を進めている。


 ここにいちゃいけない。
 俺には……たぶん、俺がいるべき場所がある……ぼんやりとそう思えてきた。


 風が吹き抜けて森がざわめくに、俺は呼ばれているように感じる。
 吹き抜ける風の青臭いにおいが……ひどく懐かしく。森の奥へ、奥へと誘う。 



 あとは出て行くだけ。そのタイミングを図っていたある日。
 険悪になってしまった隣の畑の爺さんが俺を、じっと見ているのに気がついた。
 手に何か持っていて、それを眺めて……わざとらしく見比べているように見える。
 なんだかいつもと違う。
 俺に向けている視線がいつもより……キツいもののように感じる。

 これは……悪意だ、直観的に感じて逃げるなら今だと悟り。

 俺はその夜には小さな村を出て行く事になった。



 決断が遅かったかもしれない。
 行くあてもなく森をさまように、誰かが追いかけてきているような気がして俺は必死に逃げている。
 逃げているようで、こうやって突き進む森の奥に……何か目的があるような錯覚も覚えて、前に進むに迷いはなかった。

 呼んでいる。
 俺は誰かに呼ばれている。

 しかし2日と歩かないうちに俺は道に迷い、前に進めなくなった。
 深い渓谷が突然目の前に開け、今来た道を戻る必要に迫られてしまう。
 地理も把握せず森を歩く危険を、深い渓谷を前に今更悟り途方に暮れててしまった。
 ……いったい俺は何がしたいんだ。

「やっと追いつきましたね」
 森の奥深く、夕暮れ時に突然聞こえた人の声に座り込んでいたところ飛び上った。
「探しましたよ」
 紫色のローブを纏う男に、俺は思い当たる事は何もない。
 お前は誰だと問うに、貴方を探す者ですと男は答えた。

 お前が探す俺とは何だ。

 自分で問いかけておいて意味不明と把握する俺の問いに、男は笑いながらメガネのブリッジを押し上げる。
 そして恭しく一礼し、跪く。
「あなたが否定しても貴方はこの世界に君臨する王なのですよ。あなたは、この世界の平和をささやかに祈る魔王八逆星」

 おいでなさい、呼びかけられてなぜだか男に対する警戒心が解けた。
 たまらない懐かしさにひかれ、俺は……気がつけば男の手を取っていた。


 魔法によるらしいトビラをくぐり、たどり着いたそこには……大きな木。
 吸い寄せられる。
 そうだ、これだ。

 俺はこいつに呼ばれていた。

 ゆっくりと幹に触れて、肌を寄せ、忘れていたことを思い出す。

 俺は代替えだ。
 でも代替えである事なんか容易く認めたくはなかった。

 逃げたんだ。何かのはずみで逃げ出して……行き倒れた。

 そうやって散らばる代替えの俺達に向けてこいつは、全部受け入れてやるから戻って来いと呼んでいる。

 ここだ、ここが俺に許された唯一の居場所なんだと俺も事実を受け入れる。
 硬いはずの木の幹に、緩やかに俺は埋まりゆく。伸ばされてくる蔦に絡まれ深く、深く、深く。




「……結構残ってるもんなんだな」
「僕も想定外な事でしたね」
 紫色のローブの男がため息を漏らす。
「結局赤い旗の存在を世界は許したし、僕らも容認しているのです。貴方もそうやって魔王八逆星というシステムを維持している限り……赤い旗はこの世界に存在する事になる」
 そうだろうなと、肯定して苦笑する。
「こうやってここに連れてこれる数など限られています。討伐されたという報告もちらほらあるようですよ」
「そりゃ、しゃーねぇだろう」

 ため息交じりにそう答えるも、そうも言ってられないんですよと魔導師は言う。

「貴方が根本的に抱えている問題は大きい。討伐しようとして返り討ちにあって甚大な被害を受けた地域も少なくないのです」
「その為にいまだ俺は魔王八逆星なんだろ?俺の顔がお尋ね者になってんだろうが」
「……そうですが、出来ればその状況を撤回したいと思っているんですよ僕は」
「俺の為にやる必要はないさ」

 世界の安定の為に、例えて、玉座に座る。
 王ってのはエラくねぇ。国の安定の為に捧げられる生贄だ。
 南国カルケードの王を見ていて俺は、そんな事を昔思った。その通りなんだ。

「俺はどこまでも消費される方。……ささやかな平和があるために」


 それでいい。
 本当はこんな役職くそくらえだと思ってたけど、でも拒否してもどーにもならないなら俺は全ての状況を受け入れるしかないよなぁ。そんな風に色々悟って、俺は……自分で選んでここに腰かけている。

 ささやかに願う平和を守りたい、俺は魔王八逆星。
 俺がここに座る事で平穏が守られるなら俺は、ここにいよう。



            END

 *** *** *** 分岐 *** *** ***

 ■03 主人公のオマケモア    →おまけ03へ
 □02 主人公もういい イラネ  →おまけ02へ
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

追放された荷物持ちですが、実は滅んだ竜族の末裔でした~のんびり暮らしたいのに、なぜかそうならない~

ソラリアル
ファンタジー
目が覚めたら、俺は孤児だった。 家族も、家も、居場所もない。 そんな俺を拾ってくれたのは、優しいSランク冒険者のパーティだった。 「荷物持ちでもいい、仲間になれ」 その言葉を信じて、俺は必死についていった。 だけど、自分には何もできないと思っていた。 それでも少しでも役に立ちたくて、夜な夜な一人で力を磨いた。 だけどある日、彼らは言った。 『ここからは危険だ。荷物持ちは、もう必要ない』 それは、俺の身を案じた「優しさ」からの判断だった。 俺も分かっていた。 だから、黙ってそれを受け入れ、静かにパーティを離れた。 「もう誰にも必要とされなくてもいい。一人で、穏やかに生きていこう」 そう思っていた。そのはずだった。 ――だけど。 ダンジョンの地下で出会った古代竜の魂と、 “様々な縁”が重なり、騒がしくなった。 「最強を目指すべくして生まれた存在」 「君と一緒に行かせてくれ。」 「……オリオンを辞めさせた、本当の理由を知っている」 穏やかなスローライフ生活を望んだはずなのに、 世界はまた、勝手に動き出してしまったらしい―― ◇小説家になろう・カクヨムでも同時連載中です◇

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

完 弱虫のたたかい方 (番外編更新済み!!)

水鳥楓椛
恋愛
「お姉様、コレちょーだい」  無邪気な笑顔でオネガイする天使の皮を被った義妹のラテに、大好きなお人形も、ぬいぐるみも、おもちゃも、ドレスも、アクセサリーも、何もかもを譲って来た。  ラテの後ろでモカのことを蛇のような視線で睨みつける継母カプチーノの手前、譲らないなんていう選択肢なんて存在しなかった。  だからこそ、モカは今日も微笑んだ言う。 「———えぇ、いいわよ」 たとえ彼女が持っているものが愛しの婚約者であったとしても———、

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

処理中です...