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番外編 ハイスコア・ウィドゥ

◆BACK-BONE STORY『ハイスコア・ウィドゥ -1-』

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◆BACK-BONE STORY『ハイスコア・ウィドゥ -1-』

 ※これは、本編終了後閲覧推奨の、マツナギの番外編です※


 絶対面倒だから手を出す事は無いと思っていたゲームを遊ぶ事になるとはね。
 本当の事を言うと、先にどういう『ゲーム』をテストプレイさせるのか教えて欲しかったよ。
 おかげで私は、どちらかと言えば嫌いだった分野のゲームの面白さを知ってしまった。もう、全体的にロールプレイングゲームという分野にしっかり心を奪われてしまっている。
 しかも、それを口に出した途端四方八方からオススメをプレゼンされるという状況だよ。みんなゲームガチ勢だから本当に素人向けで面白いんだろうゲームを、本当に面白そうに語って来るんだ。もう、どうしてくれるのさ。

 大学留年しちゃったら皆の所為だからね?

 有り難いと言って良いのか、残念と言うべきなのかな……私には、古いものから新しいものまで、RPGゲームを遊ぶ時間が在るんだよ。……今はね。

 ゲームも専用機も、求めれば攻略本や設定資料集ムック、サウンドトラックやメディアミックスによる漫画をはじめとするさまざまなコンテンツまで、全部在るよ?って、にこやかな笑みを浮かべて迫って来る、恐るべきゲームガチ勢が周りに居すぎるんだよ。
 これ、とっても大変な事だよね?
 大変なくらい時間を奪われる、罠すぎる。

 昔はさ、そもそも好きなゲームをする時間とお金を捻出するのにも苦労したんだ。

 だから今の状況、つまりバイトしないでゲームをする時間が与えられて、それで逆にお金がもらえるという待遇には、もう何と言って感謝の言葉とすれば良いのかも分からない、夢じゃないのだろうかと疑いたくもなる。

 その問題のゲームは……『夢』でもある訳だけども、ね。

 学費と一部の生活費をバイトで稼ぎながらの……大学生活は苦しかった。
 でもね、以前の私にはその『苦しさ』が必要だったんだ。同時に『苦しさ』から一時だけ解放されるほんの僅かな時間も、必要だったんだよ。

 今は会社から正式に発表になって市場にも出回っている、新型ゲーム機ロニィ。
 そのゲームが発売される前の、テストプレイヤー枠を得られた事は……私にとって、救いと言うより無かった。過去を振り返り、私は『救われた』んだと明確に思う。
 金銭的に恵まれた事、時間的余裕が出来た事、その所為で別の嗜好が生まれて勉学との間で板挟みになる事は、類い稀なる『仕合せ』だって分かっている。

 無理なバイトの掛け持ちはしなくても良くなった、それはテストプレイを終えて、その後も望めばゲーム開発に携わる形の仕事に着けるというありがたい話があって……『ゲームをする』だけで、バイト代に相応する金銭をもらえる事になってしまったからだ。
 その後ゲーム会社に就職出来るなんて話は……テストプレイヤー公募に書いてあったかな?ぶっちゃけて私はその辺り良く分かって居なくて、契約書をやりとりする事務手続きの時にあれこれ説明されて惚けてしまったくらいだよ。
 私はゲーム会社に就職する為に好きなゲームでハイスコアを出し続けた訳じゃない。
 苦しい生活の為に、一時の気分転換として始めたゲーム、それに親和性があっただけなんだ。
 そもそも音楽系の仕事に着きたいから、関連の強い短期大学に無理をして通っているんだよ?

 事務手続きをしてくれたツヅラさんに、ゲーム会社に就職するつもりはないですって、きっぱりと断ったくらいさ。

 でもそれは、後から決めても良い事で天…アルバイト契約でこれをアレするといくらの日当が出ますとリアルな金額で突き付けられちゃうとね……やっぱり、目は眩んじゃうよね……。

 まずね、テストプレイを始める前の面会やら何やらを受けただけで、少額ながらお金が手元に入って来た事に面喰っていたから。


「私、本当にこのお金受け取ってもいいのかな?」
 不安過ぎと即座、私は何か騙されていないだろうかと相談しに行ったからね……何時ものゲームセンターに、何だかんだ私も云うけど結局の所頼りにしてしまっている……照井氏の所へ。
「勿論だろ、俺は知らねぇが人の話だと、面接行くだけで交通費出してくる所も少なくねぇぞ」
 そうなんだね、まぁ……色々人生相談に乗ってもらっている人がそう言うのならそうなのだろう。
「俺の目に狂いはなかった、って事だな」
 この私に大型筐体でのリズムゲームを手解きした彼が……そうやって笑うのに私は、どうにも笑えないでいる。
「幸運だったんだよ」
 そう呟いたのは本心からだよ。
 スコアアタックなんて、そりゃ勿論実力の問題も在るだろうけれどさ、最終的には運だと思っている。
「お前の好きが招いた当然のハイスコアだろう」
 そう云われて……どうしてだろうか。
 なんだろう、多分……嬉しいのかな。涙が出そうになって慌てて目を擦ると、手に握りしめていた僅かな日当が入った茶封筒に落ちて滲む。

 私は……人が周りで騒ぐほどハイスコアには興味が無かった。
 後から知った事だけどね、ゲームにはハイスコアを狙わないと出せない分野と、狙わなくてもスーパープレイをすればハイスコアになる分野があるんだって。私が得意としていたゲームは後者だ。
 日々の鬱憤を晴らすべく、一時の開放感を味わうべくゲームを、どんどん難しいゲームを、クリアし抜く事にだけ一所懸命になってた私は、そうやって叩き出されていたハイスコアというのには無頓着な方だった。

 このゲーム分野でのハイスコアとはすなわち、難しいゲームをミス無くクリア出来るという事。

 私が好きで、当然と叩きだした……ハイスコア。
 
 口の中で反芻するだけ、その意味が理解出来て心が辛い。
「がんばったじゃねぇか」
 こういう時、遠慮なく肩を抱いて褒めてくれる彼が、正直ウザい。
 アンタの所為で私は、涙が止められないじゃないか。



 というわけで、私の番外編をやる事になったよ。
 『トビラ』の中では天空国の神官、カイエン・ナッツの用心棒として雇われているマツナギ、私は……松本芒。
 名前はこれでナギって読むから、マツナギという訳だね。
 件のスコアにもね、無頓着だったからずっとAAAって連打して入れてたんだけどテリーが折角ハイスコアなんだからもっとテメェを主張しろよって煩くってさ。

 そうして名乗り出したのが『マツナギ』だったくらい、安直な名前だね。

 私がどうやってそのゲームで救われたかっていうのを、ちょっと恥ずかしいけど……話して行こうと思うよ。
 レッドさんも言ってた、感情を整理するなら一旦言葉にして、吐き出すのが一番良いって。
 私にはね、整理しなければいけない心の問題が沢山あるんだ。
 それを本当は誰にも言いたくないと思っていたんだけど、そうやって心を閉じて居たら病んでしまった事には自分で気が付いている状況だ。
 そこから助けてくれたテリーについては……ウザイ男だという認識は絶対に変えないとは思うけど、感謝しているのは間違いないよ。

 さてそれで、話をするからには思っていた事を正直に吐き出すべきだとアドバイスを受けた所だからね。

 過去を悔いたり、恥ずかしがっていたら結局過去を閉じているのと同じだもの。そういう些細な傷こそ表に晒して、キレイに治すべきなのですとレッドさんも言ってた。テリーが言うより断然に説得力があるよね、あの人も色々躓いていた事があるって……今は沢山話してくれているもの。

 だから、まずはここから始めないとダメかな。



 私はね、この『ゲーム』を始めた当初は、面白く無いと思っていたんだよ。



 面白く無いのは『私』だ、という事は分かっている。
 けれど時に、自分自身こそがこの世界そのものであるかのように、視野の狭い私はその次世代ゲームを、自分の趣味嗜好には全く合わない、遊ぶ必要のない『ゲーム』だと思っていたよ。
 それをわざわざ、私には合わなかったとか、私は好きじゃないとか、一つクッションを置いて優しく言える程『私』は、気の利いた子供じゃ無かったんだ。
 結構辛辣な方だと自覚している。

 その『ゲーム』は面白く無い。

 そう、ログインする為のエントランスではっきりと思っていた。
 そして、その手続きの煩雑さに堪らずに、キャラクターメイキングを手伝ってくれていたメージンに私は言ったと思うよ。

 これ、全然面白く無いね、って。 


 *** *** ***


 マツナギの番外編については整い次第で更新します。
 日程未定です。
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