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キレイの軍団 下
しおりを挟む森を抜け、目的地の街を眺めた。
高い城壁の前は草も疎らな土が剥きだした平地が広がっている。
森も、随分この辺りは荒廃しているな、戦争よろしくあの城壁の町と、その町を『取り戻そう』とした連中との小競り合いが繰り広げられていたからだと聞いている。
いい具合に風が吹き、乾いて荒れ果てた大地を舐めていった。
条件は、良い。最高のシチュエーションって奴だな。
俺は傷だらけの体を晒す様に胸を開け、槍を担いですぐ後ろに立っているデートの相手を振り返り見る。
「そういうワケで、俺の能力って奴をこれから存分に見せてやるよ」
「……お前の体臭に、人を従えてしまう能力がある、というヤツか」
腕を組み、ちょっとだけ複雑な顔をしたジャンもまた城壁の町を見ている。
「いやぁ、良い物件じゃねぇか。ダレだよあんな強固に囲い作りやった奴。最の高じゃん。俺様にとって最高の狩場じゃん。いいねぇ、今後そういう風に使っても良いって云われたから出来るだけ城壁はこれ以上崩さない方向で頼むぜぇ」
「……」
「あ、それとも何か?お前確かもともとはあそこの壁守だったらしいから、やっぱりちょっと躊躇してる、みたいな?」
その言葉にジャンは小さく吐息を吐く。
「まさか、イースターがそもそも鬼種類が築いた町だったとは知らなかったな。いや、だが建物の一部の作りに違和感は感じていたんだ、全体的にこう、入り口や扉が小さくて」
俺は背が高い方ではないが、それでも随分天井が低い場所が多いと思っていたものだとか、何やらぶつぶつ呟いている。
「元々魔王の庭と関連のある所らしいぜ、どんどん開拓と称して乗り込んで来る西方の連中から、ここいらに昔から住んでる連中が身を護る城が欲しいってんで作られた所だってな」
「フリードもそんな事を言っていたな。それを、いつしか人が奪い取って拠点にしたもの……か。正直に言えば複雑だ、今は小競り合いは止めているらしいが」
「茶番が必要なくなったからな、戦ってますよーっていう姿勢を打ち出してこれ以上西の連中が森の方に乗り出してくるのを牽制してたわけだろ?けどその茶番に付き合ってくれてた連中を奴ら、事も在ろうか自分らで殺しちまいやがった」
思わず嗤ってしまう俺をジャンは一瞥し、少し視線を地面に落とす。
「それが彼らにとっては正しい事だった。私も、それに加担していた訳だが正直戸惑いがあったのは……」
「おん?てっきりこの町を滅ぼすのか!?止めろ、俺が止める!とかいう修羅場も期待した俺様なんだがそういうのは、無いのな?」
「私はもうあの町の壁守ではないし、そうであった時の私の上役であるレベッカも居ない」
ドライだねぇ、俺は笑ってこの異常な絶対正義の青年の美しい横顔をしばらく眺めた。
「あの時、襲撃してきた魔物の群は明らかに組織立っていたな。しかし彼らは物資の強奪が目的だと聞いていたからそれは良くない事と認識していた。しかしふたを開ければ強奪したのは我々の国の方だという。更に、折り合いを付ける為に彼らに物資の横流しを許し、城壁防衛線を創作して定期的に小競り合いを繰り返す。私が、国からイースターに派遣されたのは、状況がどうにも怪しいと睨んでの事だったのかもしれない」
「へぇ、じゃぁアンタ……ファマメント国に所属してたって事か?」
ジャンの言う国とはどこか、ちょっと知りたかったからもしかして天空国なのかとカマを掛けてみたが。
「……あの町で起きた事で、正義の剣であるべき私は少し、自分の存在に迷ってしまった。国にあっては許されない事だ」
どうやら、間違いないみたいだなぁ。まぁ、ファマメント国は広ぇからな、クニが知れたところでドコ出身かというのを絞り込むのは難しい。それはおいおいして行こうじぇねぇか。
「ふぅん、よくわかんねぇえど」
「お前は、今からイースターに攻め込んであの城を、本来の持ち主に戻すというのだろう?」
「そういう風に言い含められてついて来た訳かよ。まぁ、そういう事にもなるだろうが……」
俺が見て欲しいのはそういう事じゃねぇんだけどなぁ、もしかして、良く理解してないんじゃなかろうか?
「私は、あの城壁の町を守れなかった。あそこで私が戦う相手は襲い来る魔物ではなく、もしかすれば歪ながらも秩序を守っていたレベッカの方だったのかもしれない……結局どっちなのか今もわからないし、真実というのを知るのが辛いな。結局国がどちらを守るべく私という剣を投げ入れたのか、どちらを信じても、どうにも私の心は揺らいでしまう」
だから、私は少し祖国、ファマメントと距離を取る事にした。
そんで、暇を願って魔王の庭とやらを攻略する事を願い出たってワケか?しかも、見た所こいつそういう権力っぽいのに従順そうな所があるよな?国の為の正義の剣、そうであるべき自分、とかよ。このイカれた危ねぇ奴を、恐らくは天空国でも扱いに困ってたんだろうぜ?俺ぁそう思うが、そういう事はもっとジャンが物事の裏って奴を理解出来るようになってから暴露してやった方が良さそうだな、ケケケ、俺って意地悪。
「んじゃま、いっちょ俺の大好きなフルコースをお見舞いするぜ?言っとくけど結構ヒドい事になるがそこんところ、分かっているのか?」
「あの町は瓦解するという事だろう?」
お兄さんお兄さん、『がかい』って意味を分かってますかねこのお兄さん?俺は親切に、分かり易く言い直してやる事にした。
「ええと、人が沢山死にます」
「私がこの、広場で殺した魔物の数と比べたらどちらが多いだろうな?」
おお、そういう切り返しをするか。
うーん、ここは態のいい処刑場だったんだよな、ってもそれを説明するのも面倒だ。
そもそもここは拠点奪還を目的に、規約を守れなかったり面倒と判断された魔物や部隊が投入されて殺させていた所らしーのだが。どうやってそういう事を実現させていたのかはフリードの仕事だから俺は良く分からん。
壁守にめちゃくちゃ強い奴が居るってんで、たき付けられて送りつけられた奴らも沢山居たと聞いている。いずれこの場は、良い土壌になると俺の上司のクソビッチがめちゃくちゃ目を付けてやがるぜ。あの死霊使いが欲しいってんだ、相当の数ここで死んでるって事だろう?
めちゃくちゃ強い壁守ってのはようするに、このジャンの事だった訳だな。
いやはやこいつはここで、どんだけの命を無造作に奪ったものか。それらに比べれば町を一つ殲滅に追い込むことなど些末な事だってか?
かなりぶっ飛んでいるという評価の俺様であるが、そういう考え方もどうかと首をかしげてしまうぞ。ほんと、面白い奴だよ。
やっぱり、何が起きるのかちゃんと解って無いのかもしれんな……後から、状況に気が付いて俺に斬りかかって来る修羅場はまだ、期待できるぞ。うんうん、それはそれでいい。実に楽しい。
「じゃ、行くか。陽が間も無く真上だ、俺の残ってる数少ない部下がすでにあの町の中に入っててな、俺の匂いの元をぶちまける算段だ。真昼頃には仕込みが終わる事になってる」
俺は匂い袋と呼ぶには残念なモノの一つを指先で釣るして見せた。
「その、酷い匂いのモノは何だ?」
「臭ぇだろ、流石にな、本来の悪臭が俺の悪癖を上回ってやがるよな。けどこれが一番量産型だから仕方ねぇだろ」
明らかに怪訝な顔をしたジャンに、成る程こういう下品なモノの方が訴えるものは大きいのだなと俺は一つ学んだね。
「え、じゃぁやっぱりそれって」
「そうだ俺様の偉大なる『聖遺物』だ、ケケケ。それ以外にどうやったらこの悪臭を放てると思ってやがる」
笑って、槍を構えて走り出す。
「じゃ、行くぜ!あ、別に後ろで見てるだけでも全然構わねぇからな」
*** *** ***
何もないだだっ広い平地に飛び出して来た俺を、城壁の門を守る奴らは当然警戒するように動いた。
こちらの門は森の方角を向いてる、本来閉じている筈だが、魔物の襲撃が止み壁守が不要となって殆ど去ってしまった今、色々と気が緩んでやがるのか真昼間は開け放ってやがるんだよなぁ。
噂によると、城に残った僅かな壁守の連中が血気盛んで一種、挑発行為として開けてある、とか。
実際どんなもんか、衛兵を難なく撃ち退けて町に入ろうとした俺に、狭い通路を駆け付けて来る奴らがいる。
「侵入者か!」「魔物の襲撃か?」
おっと、噂は本当か。この狭い通路でヤろうってか?この、森から吹きつける風が町の中へと抜けていく、この狭い空間でか?
「え、ジャン様!?」
壁守どもが剣を抜いたまま、俺の後ろをついて来たジャンを見て驚いて、多々良を踏んだのも一瞬の事。
俺の匂いがこの狭い通路に、すでに行き届いたはずだ。俺は望んでいるぞ、散々な殺戮と狂乱を望んでいるんだ。
「ジャン、様ァァア!」
次の瞬間には嬌声を上げて狭い空間も気にせず武器を振りかざし、踊り掛かって来る。俺はそれらを槍で突き倒す、顔は見ていてすでにハズレとみなしたから致命傷を与えた。しかし俺の『悪癖』がキッチリとキマっている為、自分の傷にお構いなくめちゃくちゃに暴れまわっているな。それに止めを刺しつつ、狭い通路を抜けてしまおうとした……が、ジャンが何故か健気にも俺の手伝いをしていて、かつての同僚らの首を綺麗に刎ね飛ばし武器を持つ腕を切り落としているのを発見して思わず足が止まった。
「え、何してんのオタク」
「え?」
「ダメじゃんそんなキレイに殺しちゃったら、いいですかジャン君、殺すのは最後!ちゃんと吟味してから最後に殺さなきゃ!いいかぁジャンー、こいつらにとって痛いのは今や、最高のご褒美なんだから」
武器を持つ腕ごと切り落とされた壁守が、涙と涎を垂らしながらのたうち回っているのを俺は、槍の尻で示す。その動作がどうにも痛みに応じたものでは無い事にジャンも薄っすら気づき、怪訝な顔をしている。
「ほら、ジャン様ジャン様ァって求めてるんだから与えてやれよぉ。傷口を抉ってやれぇ、死なない程度に甚振って欲しくてたまんねぇって腰をくねらせてんだろうがァ」
しかしジャンは迷いなく、かつての同僚の首を刎ね飛ばして……終わらせてやったな。ま、そういう達し方もアリか。いつまでも悶えてるのも俺はイイと思うがなぁ。
俺は、城壁を管理する連中に命じて門を閉じさせた。ほかの門も全て締め切る様に伝令を飛ばせば当然と従う。俺の能力は、そういうものだ。
突然の乱入者にも何の疑問も無く、命令された事に素直に従う連中をジャンは少し驚いた様子で見送っている。
あまり広くは無い、城壁の町の中にゆうゆうと入り込むともはやそこらじゅうでおっ始まってやがる。俺様にとっては実に見慣れた風景だ。
男女関係無く縺れ合うように肉塊が蠢いているのを、見廻っては欲しいものを選んで手招きして引きはがす。もっと戦うハメになるのだと思っていたのか、ジャンは剣を抜き身で握ったまま俺の後を多分、あまり意味も分からないまま付いて来るな。
俺はここに狩りに来たのだ。
俺を取り巻く群体を探しに来た。大好きな、キレイな奴らを狩りに来た。
吟味はじっくりするとして、とりあえず目ぼしいのは全部貰って行くとしよう。あとはフルコースだ、俺の大好きなフルコースを存分に味わって貰う。
すでに事が終わり、俺の悪癖が通用しないごく一部のマトモな連中と、マトモでは無くなった連中の小競り合いが始まっている。その喧噪にジャンは気を取られているが、何構う事ぁ無ぇと俺が無視するのでジャンも余計な事はせずに居る様だ。
どうにも、奴の絶対正義には何ら触れないらしい。
真昼間に公道のあっちこっちでコトが起きていて、その一部が暴徒化して殺し合いになっている状況に手出しが出来ない。まぁ、どっちを守り、どっちを倒すべきなのかが全く分からないからだろう。弱者も強者も無い、大人も子供も何も関係性が無く起きている双方の掴みあいだ。
俺の悪癖は、捉えたモノをオレに変えてしまう。
ヤりたい事がしたくて、痛いのがキモちよくて、そういうのをむさぼる事を邪魔する奴らが許せない。そういう風に精神を単純構造に変えてしまうんだとよ。俺が望めばもっと事は複雑にできるが、しかし俺が望んでなくとも俺の体臭を食らっちまったらそこに連中の拒否権は存在しないし、俺もこいつは要らないと拒否する事が出来ない。
ともすれば全部欲しいと望むのは結構危険だ。
別に欲しくない奴も問答無用で俺に押しかけてくるからな。俺は、この自分の能力的なものが理解出来なかった昔、そうやって色々と酷い目に合ったのだ。今は自分の能力の事を理解したからある程度の操作は出来るようになったが、かつての経験から何でもかんでも全部欲しいと願う事だけは止めている。そいつは、よっぽど俺の悪癖たる香りが届きにくい強敵が出た時だけ使う事にしている。
例えば、今状況を理解できていないらしいながらも素直に俺について来ているジャンに向けて、とかな。
さてそれで、俺の御眼鏡に叶って付いて来る事を許された一団に向けて、そういう集団がある事をようやく把握した様にジャンが惚けた事を聞く。
「彼らは、何だ?」
俺の後ろをぞろぞろと、しかし何故かニコニコと微笑んだまま付いて来る集団である。
「何って、俺の軍隊予備軍だよ。しろーとも混じってるからこれから森に帰ったら色々仕込むけど、どうにも向かなかったらフリードのヤツんトコに下げ渡してやるよ」
「……お前のその、能力の所為で従ってるのか?」
「俺にも選択権ってのがあるだろ?本当はここの連中ほとんど全員俺に付いてくるんだろうぜ?けどそれじゃぁ有象無象も良い所だ、だからある程度俺の趣味で選んでるんだ。悪いか?」
その問いかけに、ジャンは本気で悩み、末に言った。
「いや……悪いと言う事は無いだろうな……」
あらかたの狩りを終え、俺は城壁の上に登る階段に足を掛ける。その間も俺のこの能力の善悪について、ジャンは色々と頭を悩ませている様だ。
「お前の意思に関係無く、お前は人を従えてしまうのか」
だから、そう言ってるだろうがこのお兄さんは。やっぱりちゃんと理解してやがらねぇし。
「俺の匂いが届く奴に限られるけどな。だからこういう窮屈な服をしてんだよ、俺の匂いがダダ漏れだとフリードの部隊に支障が出る、とかでよォ」
城壁に登り、門を悉く閉じられたせいで俺の甘い体臭に支配された町を見下ろす。
「よぉし俺様に選ばれたお前らァ!今日からお前らは俺様の軍隊予備軍だ!」
その様に呼びかければ、にこにこ笑ってついて来た連中、顔が整ってるなと俺が判断した連中は一斉に答えてくれる。
「はい喜んで!悦んで従いますレギオン様!」
ジャンは、やっぱり目を見張ってこの状況を見ている。少し考えてから、言った。
「私が森に連れて行った兵たちも、こうなっていた可能性があるのか?」
「あ?ああ、お前が森に来た時か。うんにゃ、あの時は無ぇな」
「……何故だ?」
「俺がお前らの殺気に応えていたからな。最初から穏やかに懐柔するつもりならこうなってたかもしれないが、殺気プンプンで殴り込まれてそれを防衛するのも俺の軍隊の仕事だ。殴り込まれたら殴り返すのが仕事なんだから、あの時は殴り返せっていう俺の防衛反応が先に働いてる」
ただし、自分と他人の境界がブチ消えているのだ。誰が誰を返り討ちにするのかを見失った奴らは手当たり次第に殺し合いをするハメになるだろう。
「人の意識を従えてしまうのに、お前の意図は……無いのか。防衛反応としてそうなってしまうというのなら、やはりその力に屈した事が一番の敗因だな」
いやあ、本ッ気でそう思ってるんだな、お前。
ちゃんとおさらいしておくか。
「俺の体臭は魔物には届かねぇんだよ、ジャン……お前にも届かねぇよな」
「……私が魔物に近い、とでも言いたいのか」
「そういう自覚は無ぇのか?西方出身と聞いて逆に俺はどうしたものかと思ったぜ」
西国の連中は比較的、混血は少なく俺の悪癖が通用する人間が多いと聞いている。天空国なんて西国と同義語みたいなものだ。
「ま、ともあれ仕上げと行こうぜ?」
合図を送り、閉じていた門を開ける。しかし森を向いている一部だけだ。外に集まって来ていた鬼種の一団が、門が開いた事を合図にしていたように雪崩れ込み、房事に忙しい連中の殺戮を始めた。その殺気に呼応するように、武器を取り戦いを始める者も居るがもはや正気じゃぁねぇんだろう。敵も味方も無く、武器を振るう様は正しく阿鼻叫喚の地獄絵図。
俺の大好きなフルコースだ。
「成る程……あのように、私が率いていた者達は最終的には気がふれて同士討ちを始めたと云いう事だな」
「納得してくれたか?」
「ふむ、本当にそういう事にも成りうるのだな……」
相も変わらず他人事みたいに言いやがる、それで、お前さんは変わらず俺を罵倒はしてくれねぇのか。やっぱりお前の仕業だーとか、よくも仲間をとち狂わせてくれやがったなーとか。
「色々考えてみたが」
と、ジャンの言葉に俺は何事だろうかとちょっとワクワクしてしまう。しかし、彼は至極真面目な顔で云うのだ。
「やはり私は魔物ではないぞ、どう考えても人間だ。父母も、遡って祖先にも魔種が居たという話は聞いた事が無い。これで血筋ははっきりとしている方だ、間違いない」
そうしたうえできっぱりと言う。
「だから、お前の能力が魔物にだけ無効だというのは正しくないのだ。現に、私には効かない」
「た、確かにそりゃそうだろう、が……」
「お前の能力は一種の魔法的なモノで、抵抗力が無ければそもそも通じないはずだ。効いてしまうと云う事はそれだけ弱いと云う事で、効いてしまう者が殆どだという事もそれだけお前の力が強いという事で説明は出来る」
まぁ、出来るだろうな。……こいつ、どんだけ自分が正しいと思ってやがるんだと俺は、ちょっと唖然としたが忘れてたぜ、こいつの肩書が『絶対正義』だった事を。
「イースターは、屈したと云う事だろう。壁守という仕組みを失い、私も留まる理由が無くなった。一時の、囲われた平和を享受するに正しい歴史を葬った。本来の持ち主から奪い取った城であるなら、奪い返される危機感を持つべきだったな」
お前、そういう理屈で真面目にこの、惨状を受け入れられちまうんだ?
結構酷い事をしてるっていう自覚がこの俺様にもあるっていうのに、こいつの感情は一体どうなってやがるんだ?機械仕掛けか?
ああそうか、こいつ他人に感情移入とか出来ないタイプか。他人がどうなっても何も感じないのだろう、俺は違うぞ?俺は容易に他人と自分の境界が揺らぐからな。他人の感情って奴にこれですんげぇ敏感なんだ。見ず知らずの奴が恐怖しているのが分かる、だから恐怖なんて取っ払ってパッパラパーとハッピーな感情を送り込んでやるんだ。
俺はそういう恐怖とか、負に属するの感情が嫌いだ。だから痛いのは必然的に快楽に変換してしまうし、本当は何がしたいのか良く分かっているから抑制なんぞしてねぇでさっさとそいつを開放して、何も恐れず、好き勝手にヤれるようにしてやるんだ。
今、目の前で繰り広げられている殺戮を何とも思わず、いや……これが今は正しいと判断したって事か、ジャンは。
やれやれ、これじゃぁ意見の相違でケンカにもなりそうにねぇな……ちょっとどころじゃなく、期待してたってのにフリードのヤツ、かなりジャンについて把握してやがる。
かつて守護した町、イースターを攻略するのにジャンを連れて行ってもどうせ何も起きないんだって分かってやがったな。絶対正義を掲げるこいつには、自分が守った町はもはや過去の事で関連性など何も感じていない。そしてその今に、正しくない事がるのなら簡単に、見捨てることが出来てしまいやがるんだ。
正しく無ければ手を出すが、正しいとするなら何が起きたってどうだっていい。こいつはとんでもねぇ正義感の持ち主じゃねぇか。
揺るがない正義とやらは実に、か弱い者にとって希望の無いものって事になるよな。
とすると、これから俺が庭で行う調教にも何ら悪意を見出すことは無いのだろう。俺の力に負けたものが、その後どうなろうがどうだっていいのだ。……いや?
助けを求められていえばどうだろうな、その時は求めに応じて答えただろう。
俺の呼びかけにハイヨロコンデ!と心から微笑んで答える連中には、もはや歓び以外は無い事をジャンは理解してしまっている。そこに少しでも疑問があるなら俺に剣を向けたんだろうが……。
それが無い限りは恐らく何もしないな、こいつは。
はぁ、俺はついため息を漏らした。俺は、なんていう奴にベタ惚れしてんだろうな。
それでもやっぱりこのトンチキだが美しい青年を手に入れたいという願いは消えそうにない。
いや、ますますこのまま、俺に染まる事無くそのままに、俺のモノになったらどんなに素晴らしい事だろうかと夢想してしまう。
「じゃ、帰るか。あとは本来の住人らがどーにかするだろ。事の次第をクソビッチに報告してやらんとだし、フリードから手紙も預かってる事だしな」
終
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