異世界転生で【魔法使い】になりたかった俺が【魔砲使い】になった件

暁ノ鳥

文字の大きさ
7 / 10

第7章

しおりを挟む
 俺とフィーネは、商人護衛の依頼で、隣町のベルグラードという都市へ向かう馬車に揺られていた。
 
 窓の外には、のどかな田園風景が広がっている。
 穏やかな日差し、心地よい揺れ。
 うん、たまにはこういうのも悪くない。

 今回の依頼主は、ロバートさんと名乗る恰幅のいい商人だ。
 歳は四十代半ばくらいか。
 人の良さそうな笑顔が印象的な人で、道中も俺たちに色々と親切にしてくれている。
 
「リクさん、フィーネさん、退屈ではありませんかな?  ベルグラードまではまだ半日ほどかかりますが」
「いえ、大丈夫ですよ、ロバートさん。それより、ベルグラードでお会いになるマルドゥーク様というのは、そんなに凄い方なんですか?」
 
 フィーネが、口の周りをクッキーの食べカスだらけにしながら尋ねる。
 行儀悪いな、お前。

 ロバートさんは、その名前を聞いただけで、パッと顔を輝かせた。
 
「ええ、それはもう、素晴らしいお方ですとも!  我々のような平民にも分け隔てなく接してくださり、魔法の素晴らしさを広めるために、魔法教育の普及に尽力されておられるのです。まさに聖人のようなお方ですぞ」

 へえ、魔法教育の普及ねえ。
 あの、クソ選民思想の塊みたいなアルベルト博士とは大違いだな。
 この世界にも、ちゃんとした魔法使いがいるってことか。

「マルドゥーク様はね、魔法使い協会の中でも特にリベラルな思想の持ち主で、魔法は一部の特権階級だけのものではなく、広く民衆に開かれるべきだ、というお考えをお持ちなのよ」
 
 珍しくフィーネが、口をもぐもぐさせながらも真面目な顔で補足する。
 
「へえ、お前も知ってんのか」
「魔法理論研究者として、魔法使い協会の要人の名前くらいはね。まあ、私はアカデミーを飛び出した身だから、直接お会いしたことはないけど。噂では、非常に穏やかで知的な紳士だって話よ」

 ふうん。聖人で紳士ねえ。
 俺の苦手なタイプじゃなきゃいいけど。

 そんなこんなで、馬車に揺られること数時間。
 
 やがて俺たちの目の前に、アルトベルクよりもさらに大きな城壁都市が見えてきた。
 あれがベルグラードか。
 
 ロバートさんの案内で、俺たちは街の中心部にある、ひときわ立派な商館へと通された。

 大理石の床、磨き上げられた調度品、壁には高価そうな絵画。
 いかにも「豪華」という言葉が似合う内装だ。
 応接室に通され、ふかふかのソファに腰を下ろして待つこと数分。
 
「やあ、ロバート君。よく来てくれたね」

 穏やかで、鈴を転がすような心地よい声と共に、一人の男性が部屋に入ってきた。

 年の頃は三十代後半だろうか。
 純白の、汚れ一つないローブを身に纏い、優しげな微笑みを浮かべている。
 プラチナブロンドの髪は肩まで届き、知的な青い瞳は、まるで全てを見透かすかのように澄み切っている。

 この人が、マルドゥーク・ヴェイン。
 ロバートさんが言っていた、聖人のような魔法使いか。
 確かに、第一印象は完璧だ。絵に描いたような、理想の魔法使いって感じ。

「マルドゥーク様!  この度は、お忙しい中お時間をいただき、誠にありがとうございます!」

 ロバートさんが、深々と頭を下げる。
 
「いやいや、気にしないでくれたまえ。君との取引は、私にとっても有益なものだからね」
 
 マルドゥーク氏は、ロバートさんににこやかに応えると、その視線を俺とフィーネに向けた。
 
「そちらの若い方々が、今回の護衛の冒険者だね?  私はマルドゥーク・ヴェイン。魔法教育普及協会の理事を務めている。以後、見知りおきを」
 
 丁寧な自己紹介。
 その物腰は柔らかく、威圧感など微塵も感じさせない。
 
「は、はい!  リクです!」
 「フィーネ・ルメリアよ!」
 
 俺たちが慌てて挨拶すると、マルドゥーク氏は満足そうに頷いた。
 
「うん、元気があってよろしい。魔法の道を歩む若者として、心から応援しているよ」

 その言葉に嘘偽りはないように感じられた。
 少なくとも、今のところは。
 
 簡単な挨拶が済むと、早速商談が始まった。
 
「マルドゥーク様、例の魔法薬ですが、約束通りご用意いただけましたでしょうか?」

 ロバートさんが、少し緊張した面持ちで切り出す。
 どうやら、これが今回の主な目的らしい。
 
「ああ、もちろんだとも。最高品質のものを、君のために特別に取り揃えておいたよ」
 
 マルドゥーク氏は優雅に微笑むと、執事らしき老人に目配せする。
 老人は静かに一礼し、奥の部屋へと消えた。
 すぐに、小さな木箱を盆に乗せて戻ってくる。
 
 木箱の中には、色とりどりの液体が入った小瓶が、丁寧に並べられていた。
 これが魔法薬か。
 
「ただ……一つ、君に伝えなければならないことがあるんだ、ロバート君」

 マルドゥーク氏が、申し訳なさそうな表情で切り出した。
 
「価格なのだがね、先日伝えた額から、少々見直させていただくことになった」
「え……?」
 
 ロバートさんの顔が、みるみる青ざめていく。
 
「具体的には……そうだな、以前の三倍、といったところかな」
「そ、そんな……マルドゥーク様!  当初のお約束では、そのような話は……!」

 ロバートさんが悲痛な声を上げる。
 彼の顔からは、先ほどまでの人の良さそうな笑顔は消え失せ、絶望の色が浮かんでいた。
 
 しかし、マルドゥーク氏の表情は、穏やかな笑顔のまま、全く変わらない。
 
「もちろん、君を困らせたいわけではないのだよ、ロバート君。これはね、君のためを思ってのことなんだ」
「わ、私のため……ですか?」
「そうだよ。魔法薬というのは、非常に貴重で、神聖なものだ。その真の価値を、君たち平民にも正しく理解していただくための、いわば教育の一環なのだよ」
 
 教育……ねえ。
 
「我々魔法使いは、神に選ばれし存在として、魔法の恩恵に浴することのできない、恵まれない境遇の方々を、正しく指導する義務があると考えている。感謝の気持ちというものを、心の底から学んでいただくために、あえて少し厳しく接しているのだよ。全ては、君たちのためなのだから」
 
 その言葉は、どこまでも優しく、穏やかだった。
 だが、俺の腹の底では、何かが急速に冷えていくのを感じていた。

「……それ、おかしいじゃないですか」
 
 気づけば、俺はそう口走っていた。
 
 マルドゥーク氏の青い瞳が、初めて俺を真っ直ぐに捉える。
 その瞳の奥に、ほんの一瞬だけ、氷のような冷たさがよぎったのを、俺は見逃さなかった。
 
「……ほう、君は、まだ世界の真実というものを理解していないようだ」

 マルドゥーク氏は、それでも笑みを崩さずに言った。
 
「我々魔法使いは、神に選ばれた特別な存在なのだよ。そして、神の慈悲によって、我々はその大いなる力の一部を、君たちのような者にも分け与えてさしあげている。我々が君たちを指導してさしあげるのは、それ自体が慈悲深い行いなのだ。わかるかな?」

 その言葉は、もはや説得ではなく、有無を言わせぬ宣告のようだった。

 こいつ、思ってた以上に……ヤバい奴かもしれん。

 俺は、目の前の聖人面の男の、底知れない胡散臭さを感じながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。 【あらすじ】   異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。  それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。  家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。  十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。   だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。  最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。  この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。  そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。  そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。  旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。 ☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。 ☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

処理中です...