8 / 10
第8章
しおりを挟む
「……さて、ロバート君。魔法薬の件は、そういうわけだ。理解してくれたかな?」
マルドゥークは、なおも聖人のごとき微笑みを浮かべてロバートさんに問いかける。
その声には、一片の悪意も感じられない。
だが、その言葉の内容は、悪魔の囁きそのものだ。
三倍の価格、そしてそれは「教育」なのだと。
ロバートさんは、顔面蒼白のまま、かろうじて言葉を絞り出した。
「そ、それでは、マルドゥーク様……今回の、我々への護衛の報酬も……」
「ああ、それなんだがね」
マルドゥークは、待ってましたとばかりに頷く。
「それも、君たちへの指導の一環として、半額にさせていただこうと思う」
「なっ……! なぜです! それでは、あまりにも……!」
さすがのロバートさんも、これには声を荒らげた。
護衛の俺たち――俺とフィーネがいる手前、引き下がれないというのもあるのだろう。
しかしマルドゥークは、そんなロバートさんの悲痛な叫びを、柳に風と受け流す。
「もちろん、これも君たちのためを思ってのことだよ。対価というものを安く感じさせることで、我々魔法使いに対する感謝の念を、より深く君たちの心に刻みつけていただくためだ。素晴らしい教育だろう?」
その顔には、やはりあの、貼り付けたような笑みが浮かんでいる。
こいつ、本気で言ってるのか……?
目の前の人間がどれだけ苦しんでいるか、全く見えていないのか?
それとも、見えていて、それを楽しんでいるのか……?
「それ、どう考えても理不尽だよっ!」
今まで黙って話を聞いていたフィーネが、ついに我慢しきれなくなったように叫んだ。
その手には、いつの間にか取り出した測定器が握られている。
おい、お前、こんな時までデータ取る気か。
マルドゥークの視線が、初めてフィーネに向けられる。
その瞬間、彼の纏う空気が、ほんのわずかだが、冷たく変化したのを俺は感じた。
「……お嬢さん、大人の会話に口を出すものではないよ」
先ほどまでの穏やかな声とは打って変わって、低く、威圧的な声。
笑顔は消え、その顔には冷酷なまでの無表情さが浮かんでいる。
「私はね、善意で、この愚かな商人『ども』を教育してやっているのだ。感謝こそされ、文句を言われる筋合いはない。我々魔法使いにこうして指導してもらえるだけでも、ありがたいと思うべき存在なのだよ。それが理解できないから、いつまで経っても劣等なのだ」
ついに、化けの皮が剥がれた。
「善意」「教育」「指導」「感謝」「劣等種族」。
それらの言葉が、マルドゥークの口から発せられるたびに、俺の腹の底で、マグマのような黒い怒りがふつふつと湧き上がってくるのを感じる。
ロバートさんが、震える声で必死に訴える。
「マルドゥーク様……お約束が、お約束が違います! 我々は、あなた様を信じて、ここまで……!」
その言葉を聞いたマルドゥークは、心底馬鹿にしたように、鼻でフンと笑った。
「約束? 下等種族との口約束に、一体何の意味があるというのだね?」
そして、彼は続けた。
その声は、もはや何の感情も含まない、ただただ冷たい響きを伴って。
「もしこの条件が気に入らないというのなら、君はここで死ねばいい。代わりなどいくらでもいるのだから。そうだろう?」
サイコパス。
その言葉が、俺の脳裏をよぎった。
こいつは、正真正銘のサイコパスだ。
自分以外の人間を、人間だと思っていない。
自分にとって都合のいい道具か、あるいは虫ケラ程度にしか認識していないのだ。
「……いい加減に、しろよ」
俺の口から、自分でも驚くほど低い声が漏れた。
気づけば、俺の右腕が、淡い青白い光を放ち始めていた。
怒りに呼応するかのように、ピキピキと微かな音を立てている。
マルドゥークが、その光に気づき、興味深そうに俺の腕に視線を向けた。
「ほう……その右腕、魔道具の類かな? それとも、まさか魔法のつもりかね?」
その目は、まるで珍しい虫でも観察するかのように、俺の腕を品定めしている。
「どちらにしても、君もまた、私による『指導』が必要なようだね」
マルドゥークは、ゆらりと立ち上がると、その右手を俺に向けた。
「私が、愛をもって、君を正しい道へと導いてやろう。少々痛みを伴うかもしれんが、これも教育だ。慈悲深い私に、感謝したまえよ」
その言葉と共に、マルドゥークの右手から、ボッと音を立てて紅蓮の炎が吹き出した。
炎は瞬く間に勢いを増し、部屋全体を威圧するように燃え盛る。
室温が急激に上昇し、肌がチリチリと焼けるようだ。
これが、こいつの言う「愛の指導」か。
ふざけるな。
俺の中で、何かがブチリと切れる音がした。
もう我慢の限界だった。
「偽善者がッ!!」
俺の絶叫と同時に、右腕の魔砲が、これまで以上の輝きと雄叫びを上げて、その姿を完全に現した。
狙うはただ一人。
目の前の、腐りきった偽善者ただ一人だ。
マルドゥークは、なおも聖人のごとき微笑みを浮かべてロバートさんに問いかける。
その声には、一片の悪意も感じられない。
だが、その言葉の内容は、悪魔の囁きそのものだ。
三倍の価格、そしてそれは「教育」なのだと。
ロバートさんは、顔面蒼白のまま、かろうじて言葉を絞り出した。
「そ、それでは、マルドゥーク様……今回の、我々への護衛の報酬も……」
「ああ、それなんだがね」
マルドゥークは、待ってましたとばかりに頷く。
「それも、君たちへの指導の一環として、半額にさせていただこうと思う」
「なっ……! なぜです! それでは、あまりにも……!」
さすがのロバートさんも、これには声を荒らげた。
護衛の俺たち――俺とフィーネがいる手前、引き下がれないというのもあるのだろう。
しかしマルドゥークは、そんなロバートさんの悲痛な叫びを、柳に風と受け流す。
「もちろん、これも君たちのためを思ってのことだよ。対価というものを安く感じさせることで、我々魔法使いに対する感謝の念を、より深く君たちの心に刻みつけていただくためだ。素晴らしい教育だろう?」
その顔には、やはりあの、貼り付けたような笑みが浮かんでいる。
こいつ、本気で言ってるのか……?
目の前の人間がどれだけ苦しんでいるか、全く見えていないのか?
それとも、見えていて、それを楽しんでいるのか……?
「それ、どう考えても理不尽だよっ!」
今まで黙って話を聞いていたフィーネが、ついに我慢しきれなくなったように叫んだ。
その手には、いつの間にか取り出した測定器が握られている。
おい、お前、こんな時までデータ取る気か。
マルドゥークの視線が、初めてフィーネに向けられる。
その瞬間、彼の纏う空気が、ほんのわずかだが、冷たく変化したのを俺は感じた。
「……お嬢さん、大人の会話に口を出すものではないよ」
先ほどまでの穏やかな声とは打って変わって、低く、威圧的な声。
笑顔は消え、その顔には冷酷なまでの無表情さが浮かんでいる。
「私はね、善意で、この愚かな商人『ども』を教育してやっているのだ。感謝こそされ、文句を言われる筋合いはない。我々魔法使いにこうして指導してもらえるだけでも、ありがたいと思うべき存在なのだよ。それが理解できないから、いつまで経っても劣等なのだ」
ついに、化けの皮が剥がれた。
「善意」「教育」「指導」「感謝」「劣等種族」。
それらの言葉が、マルドゥークの口から発せられるたびに、俺の腹の底で、マグマのような黒い怒りがふつふつと湧き上がってくるのを感じる。
ロバートさんが、震える声で必死に訴える。
「マルドゥーク様……お約束が、お約束が違います! 我々は、あなた様を信じて、ここまで……!」
その言葉を聞いたマルドゥークは、心底馬鹿にしたように、鼻でフンと笑った。
「約束? 下等種族との口約束に、一体何の意味があるというのだね?」
そして、彼は続けた。
その声は、もはや何の感情も含まない、ただただ冷たい響きを伴って。
「もしこの条件が気に入らないというのなら、君はここで死ねばいい。代わりなどいくらでもいるのだから。そうだろう?」
サイコパス。
その言葉が、俺の脳裏をよぎった。
こいつは、正真正銘のサイコパスだ。
自分以外の人間を、人間だと思っていない。
自分にとって都合のいい道具か、あるいは虫ケラ程度にしか認識していないのだ。
「……いい加減に、しろよ」
俺の口から、自分でも驚くほど低い声が漏れた。
気づけば、俺の右腕が、淡い青白い光を放ち始めていた。
怒りに呼応するかのように、ピキピキと微かな音を立てている。
マルドゥークが、その光に気づき、興味深そうに俺の腕に視線を向けた。
「ほう……その右腕、魔道具の類かな? それとも、まさか魔法のつもりかね?」
その目は、まるで珍しい虫でも観察するかのように、俺の腕を品定めしている。
「どちらにしても、君もまた、私による『指導』が必要なようだね」
マルドゥークは、ゆらりと立ち上がると、その右手を俺に向けた。
「私が、愛をもって、君を正しい道へと導いてやろう。少々痛みを伴うかもしれんが、これも教育だ。慈悲深い私に、感謝したまえよ」
その言葉と共に、マルドゥークの右手から、ボッと音を立てて紅蓮の炎が吹き出した。
炎は瞬く間に勢いを増し、部屋全体を威圧するように燃え盛る。
室温が急激に上昇し、肌がチリチリと焼けるようだ。
これが、こいつの言う「愛の指導」か。
ふざけるな。
俺の中で、何かがブチリと切れる音がした。
もう我慢の限界だった。
「偽善者がッ!!」
俺の絶叫と同時に、右腕の魔砲が、これまで以上の輝きと雄叫びを上げて、その姿を完全に現した。
狙うはただ一人。
目の前の、腐りきった偽善者ただ一人だ。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。
日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。
両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日――
「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」
女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。
目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。
作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。
けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。
――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。
誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。
そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。
ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。
癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる